転生少女さやか(!?)☆マギカ    作:ナガン

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32話 最後の幕

 

『こちらは三滝原市役所です。現在、市全域に避難指示が発令されて…』

 

遠くから、市の車が避難を促している放送が聞こえる。

 

「いよいよね…」

「ああ、いよいよだな……」

「うん」

「絶対勝つよ。ほむらちゃん」

「ええ。必ず」

 

15時27分

 

ワルプルギスの夜、襲来

 

 

 

 

 

「きた……」

 

激しく打ち付ける風と共に、部屋の壁を越えて微かに笑い声が聞こえる。未だにこの体を蝕む鈍痛と共鳴して体に染み渡るような、不快な愉快に笑う声。

 

今すぐ出ていって、一刀両断したいぐらい。

 

試しに体を起こす。ここまでは順調。立ち上がる。力のかけ方がバラバラで立てない。思い通りに四肢が動かない。

 

 

 だめ、か……

 

 

諦めて布団に戻る。

 

 あたしにできるのは、信じて待つことだけ、か……

 

しかし、不安だ。だって出かける前にマミが言ったのが、

 

「美樹さんにはお世話になったわね。これが終わって落ち着いたら一回「言わせるかァ!!」まごふ!!」

 

全く、狙ってたのかは知らないけどフラグは立てないで欲しい。

 

ドゴオオオン!!!!

 

その時、地を揺るがす大爆発が起きた。

ビルの隙間どころか上からも火柱が確認できる。軍のお偉いさんの首が飛んだ瞬間を思わず幻視してしまう程だった。君達の人生に幸あれ

 

 

 や、やり過ぎ……警察絶対怪しむだろ。というかホントにフラグ回収しちゃったとかはやめてよね。

 

 

 

 

 

 明らかにオーバーキルだと思うけど……まさか殺れてないとかないよね?

 

回りのビルに赤く照らされている炎を見て、一抹の不安がよぎる。

 

 神奈子達に増援を……駄目か。生物の目を欺けない可能性が高い。魔女の時の介入だって、かなり無理を聞かせたらしい。それに今は計画の最終調整に入っているはず。余裕も

 

なにも無い。

 

 

 ………

 

 

 ああもう!! だからいやなんだよ。信じて待つだけって。気をまぎらわすことも出来ないし、嫌なことばっか考てしまう。特に今回は円が絡んでいるから猶更。

 

「なんで信じて待てないのさ……」

 

今の円達なら向かうところ敵なしな筈なのに。この胸騒ぎはなんなんだよ。

 

 

――そんなに不安なら、"あたし"がいくよ。

 

 

その時、胸が一際波打った。

 

 

 

 

 

RPG、迫撃砲連発、タンクローリーを激突させ、地対空砲で吹き飛ばして、円状に並べたM4爆薬の中心に追いやり、爆破。これだけやったのにもかかわらず、ワルプルギスは健在

 

だった。

 

始めの先制攻撃をものともしなかったワルプルギス。

だけど今、その形はみるみる内に崩れていっていた。

 

「フィロ・フィナーレ!!」

 

巴マミが放つ弾丸が容赦なく歯車を貫通する。

ティロ・フィナーレとは違い、これは貫通させることに重きを置いているとは彼女の談だ。しかも、今まではなっている弾丸全てがほぼ同じところに着弾している。なんという射

 

撃スキルだろう。そのため、ワルプルギスの歯車が不協和音を奏で始めていた。

 

 

私達は囮班と射撃班の二つに分かれた。

杏子と円(私は反対した)がおとり、残り射撃班に。

 

ゆまの役目は巴マミのソウルジェムの浄化。

 

私? 私の役目は……

 

「暁美さん気付かれたわ」

 

マミの報告に二人の手を繋いで時を止め、移動することで答える。

 

これが私の役目。

 

さっきの場所から離れ、またワルプルギスをマミが狙撃する。

杏子と円は私達の居場所がバレないように前衛で撹乱。

これが私達の基本戦略。

 

ティロ・フィナーレは撃たない。

ティロ・フィナーレはマミが放つ攻撃の中で一番威力が高いが、その分溜めがいる。それに魔力の消費量もでかい。

それに対して、これは溜めが必要なく連射が可能。威力は劣るけど、魔力パフォーマンスもよく、貫通力は高いので十分効果も期待できる。

 

 

フィロ・フィナーレでワルプルギスを弱らせてからのティロ・フィナーレでフィニッシュ。

 

これが一番効率的。

 

「どこ狙って攻撃してんだぁ!?そんなんじゃあたるものもあたんねえぞ!!」

「ほーらほらこっちだよ~」

 

まどかたちが使い魔を蹴散らし、ワルプルギスの注意を引く。

ワルプルギスが放つ攻撃も彼女たちは危なげなく避けていく。

言い忘れていたけれど、まどかによる強化はしっかり皆にかけてある。

 

『杏子、まどか。北に300メートル移動したわ』

『了解』

 

杏子はワルプルギスの周りを南へ移動する。

 

 

勝てる。私達は今、あのワルプルギスを手玉にとっている。一人の時用に練っていたあの先制攻撃は全く功をなさなかった。もし、彼女たちがいなかったら、私はまたこの世界を

 

切り捨てていた羽目になっていたところだろう。だけど、それはどこまで行っても"もしも"の話だ。私達の現実こそ、この光景だ。

 

 

そして、その時は来る。

 

マミの弾丸が歯車の一つを撃ち落とした。

ワルプルギスが初めて笑い声ではない声を上げる。

さらに、杏子達の周りにいた使い魔も消失する。

 

『佐倉さん今!!』

『わかってる!!』

 

マミはティロ・フィナーレを撃つ準備をする。まどかは封印陣でワルプルギスの動きを縛り、杏子の方も巨大な多節槍がワルプルギスを狙う。

 

ボロボロになったところが惜しげもなくさらされている。ここに直撃させれば…!

 

この上無く最高のチャンス。全てはこの時の為。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

それを私達は、ものにした。

 

 

 

 

名前

 

それは区別するための印。

 

名前

 

それは誰もがもっているもの。

 

名前

 

それは、存在を確立させるための呪。

 

 

 

 

名前を決めて

 

あたしが?

 

そう。あんたが一番適任でしょ?

 

なんで?

 

産まれてくる赤ん坊は親に名前をつけてもらうのが普通でしょ。

 

それもそうか。じゃあ……あんたの名前は

 

 

 

時を支配する妖怪、美樹から産まれた存在。

 

時音、みき

 

 

……音はどこから?

 

音楽は好きな方なの。

 

 

 

 

『やったの……?』

 

ワルプルギスは派手に吹き飛んで豪快に土煙を上げた。

 

『それは失敗フラグだ』

『でも、佐倉さんと私の最高の攻撃よ。倒れないはずが『どんだけフラグ立てたいんだよいい加減にしろ』』

 

マミの言う通り、これで終わって欲しいのはわたしとて同じ。

 

「杏子の言う通りよ。あれで倒れたなら、私の先制攻撃で倒れていた」

 

けれど、現実は往々にして上手くいかない。私の願望をワルプルギスは何回も打ち砕いてきた。

 

――アハハハハハハハ

 

この、嘲笑と共に。

 

ワルプルギスがその姿を宙に晒す。その姿は、しかし、ボロボロ。

歯車は欠け、スカートも半分は無い。そして、逆さまでは無くなっていた。

 

その時、ワルプルギスが笑うのを止め、初めて雄叫びらしき声を上げた。

 

 

 

 

第二ラウンド開始の、ゴングがなった。

 

『全員何かにつかまって!!』

 

まどかの警告と同時に、ゴウ!!と、ワルプルギスから環状に広がる"風"

 

だけども風速は今までの比ではなかった。

 

ズバッ

 

飛ばされていたビルがかまいたちで真っ二つになる。

 

「な……」

 

驚く間もなく、私達は吹き飛ばされた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

……

 

……成る程そうきたか

 

成る程じゃないよ!! なんでこんな姿なの!?

普通はさあ、あんたの色違い的な格好とかが相場でしょ!?

 

それはまあ……しょうがなかったんじゃない? 多分名前とか性質につられたっぽいし。

つーか、なんでそこまで怒るの? けっこー可愛いよあんた。

 

武器がさあ……指揮棒ならまだわかるよ。

まあこれ、仕込み刀なんだけど……

でも!! 外見が!! なんで!! ネギなんだああああああ!!??

 

ごめん、なんか名前の響きと「歌」の組み合わせで真っ先に浮かんだのがあんたの容姿でさ……。ネギは必需品だよねって思って……

 

 

あたしは!! あんたの!! 容姿が何百倍も良かった!!

 

 

 

エー……まあ気持ちはわかるよ。恩義を感じているのもわかるし、ゾッコンになるのもまあ理解できる。でもやっぱ個性は大事だとさやかちゃんは思う。

つーかそれは冗談だよね?

 

うるさいうるさいうるさい!! そういう意味で行ったんじゃないんだからね!! もういいよ! 取り敢えず杏子達の援護に行ってくるから!!

 

怪我だけはすんなよ~

 

……させたくないなら早く追ってこい!

 

……りょーかい

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

マミ視点

 

 

 

『佐倉さん!! っ杏子!! 答えなさい!』

『キョウコ! 返事して!』

 

キュゥべえから聞いたことがある。ワルプルギスが正位置についてからが本番だと。

 

正しくその通りだった。

 

 

私と暁美さんとゆまちゃんは私のリボンで難を逃れたけど、大分飛ばされて、おまけに佐倉さんから応答がない。(鹿目さんは逆に起こしてくれた)

 

「ワルプルギスは?」

 

暁美さんの言葉に釣られてワルプルギスの夜の姿を探すと、私達のことは無視して、市街地に侵攻しようとしていた。

 

『援護! 誰か援護を!!』

 

 いけない!!

 

佐倉さんの安否が気になるけど、鹿目さんの悲鳴のような支援要請に、泣く泣く中断して迎撃に向かう。向かおうとした。

 

「上よ!!」

 

上を向く。

 

 目の前に……黒い私?

 

そこから、景色が変わった。

私を模したワルプルギスの使い魔が何もない、いえ、直前まで私がいたところに砲撃を行っていた。勿論こんな事ができるのは一人しかいない。

 

「助かったわ暁美さん」

「話は後。来るわ」

 

――キャハハ――

 

――アハハ――

 

――キャッキャッ――

 

空からもう二体、暁美さんと美樹さんを模した使い魔が降りてきた。

 

コピーした?でもそれだと、美樹さんの姿の使い魔がいる理由にならない。

 

『援護して』

 

と、何を思ったのか暁美さんがいきなり単身突撃を行った。

それも美樹さんに向かって。

 

 ちょ!? なんでよりによって……知らないわよ!!

 

悪態を心の中でつきつつ、援護射撃で使い魔を足止めする。そして暁美さんが美樹さんである使い魔と交錯して…

 

呆気なく使い魔は消えた。

 

 ……え?

 

「やっぱり、思った通り」

「どういうこと?」

 

私の側に後退した暁美さんに説明を求める。

 

「やつらは確かにコピーよ。だけど、私達をもとにしてはいないわ」

「どういうこと?」

「少なくとも、強さが一緒なんてベタなことはおこりえないということよ」

 

成る程

 

「……分担して各個撃破」

「賢明ね。付け加えるなら成るべく早く。具体的には1分ってとこかしら。(10秒で終わらせろ)」

「十分よ」

 

軽口を叩きながらも、臨戦態勢に入り、銃を構える。

その直後、

 

「いや、10秒で終わるさ」

 

二人の佐倉さんが使い魔を槍でがんじがらめにして取り押さえ、それぞれに三人の佐倉さんが襲いかかった。

使い魔は為す術なく塵に変える。

 

「キョウコ!」

 

ゆまちゃんの顔がパッと明るくなる。

 

 それよりもさっきの技はもしかしてロッソ・ファンダズマ!?

 でも確か幻影魔法だっだはず……ダメージは与えられないのにどうして?

 

「無事か?」

「ええ。見たところあなたも大丈夫そうね」

「まあな。しっかし、あのヤローまさかこんな隠し玉持ってるとはね」

「それはあなたもよ佐倉さん。ロッソファンダズマは只の幻影だったはずなのに、どうやったのよ」

「さてね。久しぶりに使えるようになったら実体を持つようになってただけさ」

 

実体、赤だから……

 

「ロッソ・「勝手に技名命名すんな。」もう……」

「だめー」

「三人とも、そんなことしている場合ではないわ。急がないと取り返しのつかないことになる」

 

はあ……、少しの休憩も許してくれないのね。ワルプルギスは。

 

「やべ…もうあんなところにいやがる。はえ~な~」

「ワルプルギスに追い付いたら、市街地に侵攻させないことを第一に行動しましょう。市街地のビルが凶器にな「それには及ばないよ」」

 

誰? と声を上げた時には景色が一変していた。

 

「魔女の結界!?」

「こんなときに……!!」

 

『ほむらちゃん!? 何が起こったの!? 教えて!!』

 

焦る鹿目さんと暁美さんとは対照的に、佐倉さんは冷静だった。

 

「いや…。どうやら魔女は味方らしい」

「え?」

 

佐倉さんが指さす方を見ると、ワルプルギスも結界に閉じ込められていた。

 

 確かに、あり得ない。魔女がほかの魔女を取り込むなんてことは。でも、それだけでは……

 

不意に、後ろに気配を感じた。

 

 

「どーも。さやかの魔女の時音みきって言います。以後よろしく♪」

 

 

件の魔女らしき人物はそう自己紹介した。

 


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