「逆行出来ないって…どういうことよ」
お前はもうやり直すことはできない、そういわれたほむらは今日で一番口が震えていた。
「次あたり、あんたの魂はバラバラになって消滅する。原因はさっきの話が絡んでくるけど、魂の融合が諸悪の根源。
この世界に自分と同じ人間がいないように、平行世界の自分も完全に同じじゃない」
「どうしてだ? 自分なんだろ?」
「平行世界はifの世界。この世界とは絶対何かが違う世界。いくら自分とは言っても、ひとかけらでも違うところは存在する。
ほむらを例にとると、まず逆行した時点で魔法少女であることと人間であることが違うし、例え逆行した時点で融合される側も魔法少女だったとしても、願いが全く異なるよね。
そんな状態で融合したら、必ずどこかは不具合が生じる。
繰り返せば、当然ほつれは増えていって、いつの日かその不具合に耐えられなくなって、ボン!!ってわけ」
「確証はあるのかしら?」
「い~や、ない。そもそもこういう事例は経験したことないし。
でも、昔魂喰らってそのまま取り込む奴と戦ったことあるけど、一気に10個ぐらいの魂をイッキして昇天したというアホな結末だった」
「魂喰らいって…」
手が変化して大きな口になり、そこから体ごと魂を喰らい、そこで一言。
もっぐもぐ~!!
それがマミの想像だった。なんてすばらし……
「マミ、喰らうものが激しく違うし全然すばらしくもなんともない。むしろ狂気に染まってた」
「……でもそれは暁美さんとのケースとはあまり関連性がないわよ? そこから推測したなら無理があるんじゃないの?」
マミはさっきまでの妄想を振り払う。顔に出さなかったのは意地だろう。
「忘れているようだけど、これは紫、妖怪の大賢者の言葉。今のはあくまであたしの体験談。無理があるのは当然だよ」
「……信憑性はあるのかしら?」
「紫はその能力の特性から、モノとモノの境界を見ることに長けてる。
紫から見たらほむらはつぎはぎだらけに見えたんじゃない? まるで決壊寸前のダムのように。
それにあいつの博識なめちゃだめだよ。エントロピーを凌駕する方法なんてとっくに考え付いてるだろうし。
あいつを言い負かす奴がいたらお目にかかりたいよ。
加えて、紫はシリアスな時には不必要に場を混乱させない」
「さやかちゃんって、あの胡散臭い奴と仲いいのか? よく知ってるようだけど」
「何回もコケにされてるから、ね……」
「把握」
「……」
ほむらは今度こそ黙り込んだ。
否定したい
今まで美樹さやかが言ったことを、嘘だ、何も証拠がない、と切って捨てて、信じないことだってできる。
でも、出来ない。心当たりが有りすぎる。
色々な記憶が混ざりあっているのを、実感してしまった。
病室の部屋番号は?
201 205 302 109
どれなの?
自分の携帯の番号は?
090-4863-0926
090-1624-2031
080-3524-5429
なんで?
携帯を手に取って震える指をおさえて番号を確認する。
080-6539-5472
「あ…」
もしかしたら、逆行する時の馴れない気色悪さはそうじゃなくて、魂の危険信号だった?
。
気がついたら、部屋を飛び出していた。
わからない
私は、本当に"暁美ほむら"?
わからない
今の私は、契約した時の私?
ワカラナイわからない解らない……
◆
「暁美さん!!」 「ほむら!!」
やっぱ耐えられなかったか……
説明下手くそだなあ
「……言い方まずった?」
「……淡々とした口調がキュゥべえを彷彿させたな」
「……少なくとも、こんな時に話すことではなかったわ」
杏子のはちょっとショックだったけど、
マミ、それは重々承知してるよ。
ま、最後まで横槍を入れなかったあたりマミ達もわかってくれてた……はずだよね?
マミ意外にノリノリだったし、溜まってた鬱憤を便乗して発散した訳じゃないよね?
「今しかなかったと言うしかない。けど、謝らないとなあ」
さてと、今この状況で一番適任なのは……
まあ、まどかしかいないよね……
明朝だけど我慢して貰おう、と携帯を手に取ろうとするけど届かない。
「マミさ~ん。まどかに連絡して~」
「こんな時間に?鹿目さん絶対寝てるわよ」
「そんな四の五の言ってる暇はない。ほむらはまどか命なんだから、一番適任なの」
「……てめえらもうちょい緊張感もてよな。とりあえずアタシはほむら探してくる」
と杏子も部屋から出ていく。
「連絡ついたわ。すぐいくだって」
「そう。」
おもむろに体を起こそうとする。
だけど、身体中を駆け抜ける激痛と何故か全く腕に入らない力のせいで、再び布団に逆戻り。
ままならないなあ
乱れた布団を直し、熟睡中のゆまの頭を撫でる。
「まだ……収まらないの?」
「そうみたい。あ?あ、神奈子の話がうそだったら良いのになあ」
「世界はこんなはずじゃないことでいっぱいよ」
何だろう、あってるようで何かが違う気がする。
「さて、私も暁美さんを探しに行ってくるわ」
「ん。わかった。まどかが来たらそう伝えとくよ」
バタンと扉が閉まり、シーンと部屋が静かになる。
今度こそ、絶対に、寝てやる!!
……あ、まどかくるかもしんないんだった。
やることない。暇だ。
「……はあ」
ため息一つ。
時刻は真夜中、それなのにわたしの目はパッチリ開いて眠気をはねのける。
原因はもちろん、さやか様のこと。
今日はもう帰れと言われたけど、巫女であるわたしの役目はさやか様の介護なわけで。でも、14年分のまどかの部分すぐ消えるわけではなくて、パパやママたちも同じくらい大
事で、心配させたくなかったから、さやか様の説得もあってこうして帰ってきた。
ママはこんな遅くに帰ってきても、何も言わずにあたたく迎え入れてくれた。いつもと同じようにご飯を作り、わたしを待っていてくれた。だけど今、こうして床についてから、
さやか様について悶々として寝付けない有様さった。
こんな無為な時間を過ごすなら、やっぱりさやか様のところに居座ればよかったかも……
『入っていいかい?』
よし、いまから行こう。すぐ行こう。
『さっき、ほかの個体がやられたけど、どうやってやられたか教えてくれないかな?』
「い・や」
ああもう、どうして気づかなかったんだろう。QBがここに来れるのを。さやか様のうっかりめ。
「あなたみたいな、人間をどうでもいい存在として扱うけだものに言うことは何もない」
インキュベーターの要求を冷たく突っぱねる。
『それなら君は、家畜を犠牲にすることに引け目を感じるかい? 彼らは人間の糧となることを前提に、生存競争から保護され繁殖できている。君たちだって理想的な共栄関係に
あるじゃないか』
この言葉に、少し頭に来た。
「私達はあなたと同じだって言いたいの?」
『そうさ。信じられないなら見せてあげようか』
そう言って、キュゥべえは机によじ登ってわたしの目を覗き込む。
『僕たちインキュベーターと人類が歩んできた歴史を』
悲惨
その一言に尽きた。
ある少女は自国の発展を祈り、未来予知で国を盛り上げたが、弟の私利私欲によって自害した。
ある少女は自国の勝利を願い、勇猛果敢に戦ったが、魔女として火にかけられた。
たくさんの少女たちが希望を抱き、戦い、そして絶望していった。キュゥべえが話している事なんてまるで聞こえない。わたしの中で、数えきれないくらいの少女の嘆き、苦しみ
、怒り絶望の声が渦巻いて、わたしを犯す。悲鳴さえも上げられない苦しみ。気を許せば、自我が崩壊してしまいそうだった。
『祈りから始まり、呪いで終わる。これが今まで魔法少女が繰り返してきたサイクルだ』
「……みんな。あなたを信じてた。なのにあなたは……!!!」
『彼女たちを裏切ったのは僕らじゃない。彼女たち自身の祈りだよ。どんな願いも、条理にそぐわないものである限り必ず何らかの歪みをもたらす。やがてそこからゆがみが生じ
るのは当然の摂理だ。それを裏切りだというなら、そもそも願い事をする方が間違いなのさ』
「ふっ、ざけるな!!願いをかなえる張本人が何を言う!!」
気づけば、声を荒げてつかみかかっていた。今思えば、あの言い回しも納得がいく。なんでも叶えてやるといわれて、条理にそぐう、控えめな願いをする人間がどこにいるだろう
か。人は欲深い。まして、だまされた経験もなく、好奇心にあふれているわたしぐらいの少女だ。確実に無茶な願いにするに違いない。
『僕たちは一回も彼女たちに願いを強制はしてないよ。それはすべて彼女らの意思さ。でも、愚かとは言わないよ。 そうやって過去に流されたすべての涙を礎にして、今の君た
ちの暮らしは成り立っているんだから』
ああ正論だね。確かにそうだよね。どれもこれも正しいよ。欲張った願いは身を滅ぼすし、わたしたちは過去を踏み台にしてここにいる。だけど限りなく詭弁だ。
詭弁、なのに……!
キュゥべえの言っていることがまた一つの真理だということを理解しているわたしがいて、反論の余地が見つけられない。それが悔しくて、腹いせに乱暴にキュゥべえを投げつけ
た。
「ずっとあの子たちを見守ってきて、あなたは何も感じなかったの?みんながどんなにつらかったか、わかってあげようとしなかったの?」
『それが理解できたなら、わざわざこんな星にまで来なくて済んだんだけどね?』
こいつは困ったように首をかしげて、詰まることなくこう答えた。
はっきりした。こいつらにとって、さっきわたしにみせたデータなんて、予想以上に容量を食う映像にしか過ぎないのだ。
「でていけ、ここは貴様が息を吸える場所ではない」
脅しをかけたら、さすがに身の危険を感じたのかあっさりとキュゥべえは引き下がっていった。
形だけベットに横たわっていたが、悔しさで眠れそうになかった。もっとも、霊力を久しぶりに使ったせいか、30分もしない内に眠ったけど。
その日の夢は、キュゥべえに傀儡にされるという最悪の夢だった。
そして明朝、なぜか体の節々が痛む中、ほむらちゃんを探すようさやか様に言われた(たたき起こされた)。
言われるがままあちこち探す。そして。見つけた。ほむらちゃんは公園のブランコにソウルジェム片手に項垂れていた。すごく取り乱しているみたいで、あんなほむらちゃんを見
たのは初めて。
「ほ、ほむらちゃ~ん。どうしたの~」
気を取り直して、そう声をかけながら近付いて見たけど、全然反応してくれない。さやか様の時と同じだ……。今度は軽く揺らしてみる。
「はっ!! ……ま、まどか?」
反応してくれた。
「どうしたのほむらちゃん?」
ソウルジェムはかなり黒くなっていて、それだけショックなことがあったんだろうなってわかる。
「……う……」
すると、ほむらちゃんがぽろぽろと涙を落とし始めた。って……
「まどか~!!」
ええ!? あのほむらちゃんがわたしに泣きついたぁ!?
ホント何があったの!? 誰か教えてよ!!
その時のわたしは、さっきの悔しさを忘れるぐらいびっくりしていた。
――――――――――――――――――――――――
「それで私、自分が何なのかも全然わかんなくなっちゃって……気が付いたら飛び出してて……」
ひとしきり落ち着いた後、ほむらちゃんは全てを話してくれた。今までの行動の理由、ほむらちゃんの願い、etc…… 今まで歩いてきた修羅の道をすべて。わたしなんかよりも
ずっと険しく、辛い記憶を。
でも、それよりもホントほむらちゃんどうしこうなったんだろう。いつものクールビューティーの欠片も見当たらないんだけど。すっごい驚いちゃった。これで三編みでメガネか
けてたら完璧だよ。
メガネほむほむ様様だよ。
……はっ!! いけないいけない
「ほむらちゃん……」
「ごめんね、わけわかんないよね。気持ち悪いよね……」
「ううん。そんなことない。ほむらちゃんはわたしの為だけを思って行動してくれたんでしょ。皆や、他でもないわたしに後ろ指を指されながら。それって普通の人じゃまずでき
ないよ。なんの取り柄……今はあるけど、わたしよりずっと強いよ」
「まどか……」
深刻に話さず、残酷な現実とか関係なく、ごく普通の、例えば恋ばなの相談をするように接する。
「それに、ほむらちゃん言ったよね。あなたがいなくなったら悲しむ人がいる…その人達のことも少しは考えて…、て」
"わたし"がどんな人だったかはわからないけど、"わたし"に惹かれたのは事実。
だからわたしはわたしらしくする。
"わたし"とわたしは、鹿目まどかだから。
「ほむらちゃんがいなくなれば、わたしは悲しむよ?」
ほむらちゃん
思い出せるはずだよ。
ここまでしてこれた理由を。
あの後、私が落ち着いたのを確認して、まどかは家に帰っていった。
まどかのおかげで思い出せた。
私の願いの原初の理由。
私は、あの笑顔をまた見たくて祈ったんだって。
またまどかに救われたってことよ。
魂が融合したからってそんなの関係なかった。だって、暁美ほむらだから。
まどかを救う
今ではこれが、最後に残った道しるべ。
そろそろ、まどかを見殺しにしてきたのもたえられなくなってきた。もう逆行できないとわかっても関係無い。
今回で終わらせればいい。
全てに、終止符を。
ほむらの立ち直りが早い? ごめん、こうするしかなかった