が、これからやろうというヤル気をそがれたのも事実……
「くあっ!!」
ガキン!
折れた軍刀を放り、新たな軍刀を投影する。
魂の主導権争いが始まってはや半日
最初は弾幕で牽制もしていた。
けど、ただの妖力の無駄遣いとわかってから、今は剣の創造と強化、瞬動だけしか使ってない。
出来れば、早めに終わらせたいなあ、と期待していたけど、状況は最悪。攻撃さえ儘ならない。
「何であれがあっちにあるのよ、ほんと面倒だ、よ!」
敵――というかあたしなんだけど――は刀を無造作に振りかぶる。
左肩からの袈裟斬り。分かりきった、簡単にいなせるコース。
だけど、直感のままに振り返って軍刀を構える。
刃に罅が入る、嫌な音を発しながら、刃と刃がぶつかる。
そのすきに迫る魔女のあたし。
縦に斬っているのに、横に移動する刃をかわして、魔女を斬り伏せようとする。
でも、振るった刃は、届かない。
あたしの軍刀と魔女が持つ双剣のリーチはほぼ一緒。あっちが届いて、こっちが届かないなんてことは、あり得ないはず。
なのにそれが起こる。
――時空間を司る程度の能力――
それがあたしの能力
敵対してわかる、そのチート加減
バキン
再び刀が折れる。
二合、たった二合で今度は砕け散った。
別に雑に作ったわけでもないのに、この有り様。
――蒼穹双刃――
それが、あたしの愛刀で、今現在、あっちが構えている双剣。
状況を整理すると、
敵 能力使用可 チート武器装備
あたし 能力使用不可
凡庸装備
攻撃はまともに通らないし、刀は直ぐに砕ける。相手の攻撃は360度全方位から。
これなんて無理ゲー?
幸いなことは、時が止まった中でも動けることぐらい
こりゃ死んだかな……
そう愚痴りつつも、再び泣きたくなるような死地に身を投じた。
◆ ◆ ◆
「はあ?」
アタシが聞いたそれは、あまりにも無茶苦茶なものだった。
「つまり、あんたが言いたいのは、その……蒼穹双刃だったか? は凄い業物で、」
さやが相槌を打つ
「時空間を司る程度の能力? を持っているんだな?」
「そゆこと、ちなみに、蒼穹双刃は時が止まった中でも関係なく切れるから」
ポク ポク ポク
チーン
……無理だ。勝てねえ
「でも、能力は使えないっぽいよ。ほむほむの話を聞くと。使えたら多分目を合わせた瞬間死んでると思うし」
「ほむら、よ」
諦めないんだな、ほむら
ちなみにゆまは時間も時間だったからアタシの膝で寝息を立てている。
「……他になんか注意するところは?」
「そうだね、杏子はあんま関係ないかもしれないけど、遠距離戦は生半可な攻撃じゃ掠りもしない。弾幕ごっこ、ていうものがあってさ。ルールとかは省略するけど、要は圧倒的な数の弾幕を掻い潜って、一発入れた方が勝ち、な試合みたいなものでね。さやかはそれを結構な数こなしてるの」
ルナティックも安定クリアできるから、とさやは言う。
るなてぃっく、てなんだ?
「つまり、私と巴マミは足手まといにしかならない、と言いたいのね」
「いや、そうじゃなくて、あたしが言ってるのはあくまでサシの時。しっかりと連携を組めば、遠距離攻撃もちゃんとあたるよ。どのみち火力は杏子任せだけどね。」
「なあ、本気のさやかに勝ったやつって、いるのか?」
「えーと……負けたことなら結構あるけど、全力戦闘なら軍神に一回、月に攻め込んだ時に一回、後は鬼に一回負けたぐらい」
「全力で戦った回数は?」
「50ぐらい」
きゅ、九割四分…
少し前に戻って、過去のアタシを全力で止めたくなる。
確かに救いたいさ。でもこれ無理だろ。聞いてねえぞ。
ワルプルギスと戦った方がぜってえ勝率高い。
ゆま後衛に回してどうこうなる問題じゃないぞこれ。
「いや、魔女が本気のさやかと同じ強さなわけないじゃん」
頭を抱えているところに、そうさやが声をかける。
「でも、苦戦は必至、よね」
「それはまあ……さやかのがんばり次第だよ。もしかしたら、主導権争いが激しくて、身動きがとれない、なんてこともあるし」
さやが希望的予測を述べるけど、焼け石に水なんだよ。
「そうなるよう祈っとくよ。で、あんたはアタシの後ろで待機してるのか?」
「いや、あたしは戦いが終わるまで、結界の外で待機してる。杏子のお荷物にはならないよ」
さて、あたしは眠るね。とベッドに横になるさや
「あ、おい……って、もうねてやがる。」
揺すってみたり、声をかけてみるが起きる気配さえしない。最低限の生命維持に留めて、魔力の消費を抑えているらしい。
「なあ、てめえは来ないのか?」
癖になっている髪を掻き揚げる動作をしながら、ほむらは答える。
「今回、私は足手まといにしかならないわ。時間停止はあの魔女には効かず、他の使える魔法は身体強化ぐらい。銃も彼女にあてるのはほぼ不可能だわ」
「アタシもあいつに攻撃をくらわせることはほぼ出来ないぞ」
牽制してくれる味方が一人ぐらいはいてほしい。
「……」
だんまりかよ……
「はあ、マミのやつに期待すっかな」
これでマミも来なかったら………どうすっかなあ……
「……」
鹿目さんと2人で、暗い寂しい夜道を歩く。
鹿目さんはさっきからずっと黙っている。
どんよりとした夜空を見上げる。
考えるのは、これからのこと。
私は最早人間ではなくて、魔女を滅ぼし、そして自身もいずれは魔女になり、キュゥべえの目的の為に、ただ使われる存在。
魔法少女のことについては、一回考察したことがある。ちょうど、特大の威力を持つ一撃を放てるようになった時に。
出た結論は余りにも残酷で……
思わず紙をビリビリに破いた。
どうして、あの時キュゥべえに真相を聞かなかったんだろう。
ぐるぐると後悔の念が渦巻く。どうして、あの時の結果を受け止めなかったのだろう。
事故にあった時、魔法少女にならずに死んでいたらよかった。
キュゥべえなんかに耳をかさなかったらよかった。
黒く、濁った感情が私に染み込んでいく。
そもそも、美樹さんが頼んでもないのに、私を生き返らせたから、今私はこうして悩んでいる。
その上、美樹さんは……
「マミさん」
振り返ると、鹿目さんが決意した表情でこう言った。
「わたし、杏子ちゃんについて行こうと思います」
「え……?」
マミさんが驚きの表情でこっちを見る。
「それで、さやかちゃんを呼び戻します」
「でも、あなたが行っても足手まといになるだけよ?」
確かに、そうかもしれない。けれど…
ふるふると首を横にふる。
「そんなことはないはずです。思い出してください。さやちゃんの言葉を」
――あなたの声がエールとなって、届くかもしれないよ――
「うぬぼれかもしれないですけど、あの言葉は、わたしにもやってほしいことがあるんだ、って言っているような気がするんです。
わたしは今まで、さやかちゃんに守られてばかりで、挙げ句の果てに、さやかちゃんがさせまいとしていた、契約をしてしまうところでした」
あの時のわたしは、ただ自分の罪から逃れたかった。
さやかちゃんが一番させたくなかったことで、事にケリをつけようとした。
「たださやかちゃんと一緒に戦うことが、ただ一つの支える方法だと思っていました」
魔女退治をしているさやかちゃんの後ろで、ずっと、力になりたい、守られてばかりは嫌だ、という感情が渦巻いていた。
「けれどそれは勘違いで、わたしはただそばにいるだけで、さやかちゃんを支えることが出来ていたんです」
今思えば、さやかちゃんが家にAQBTを仕掛けて、血生臭い魔女退治に連れていってまで、魔法少女にさせたくなかったのは、わたしがさやかちゃんにとって、安息の場所だったから。
その場所に戻りたいから、さやかちゃんは今も頑張って戦っている。
本当はわたしも一緒に日常を守りたい。でも、できない。ならばせめて、安息の地を整えて置こう。
「そしてそれは、わたしにとっても同じです。さやかちゃんは、わたしの安息の場所。だから、それを守るためにわたしはいきます」
約束を反故にするのか、って脅したほうがいいですかね?、と少し茶目っ気を出して尋ねる。
「……死ぬかもしれないわよ」
「それでも、わたしはさやかちゃんの親友だから」
マミさんとわたしの視線が交錯した。
眩しい
鹿目さんを見て、そう感じた。
それに比べて、私は……
さやかさんだって、今も戦っている。一番辛い思いをしている。
それなのに私は、美樹さんに悪態をついていた。
生き返らせてもらったのに、それを無下にしようとした。
なんて、浅ましい人間なんだろう。
これじゃあ本当に先輩失格だなあ
ため息をつく。
あの時、守るって決めたんじゃなかったの?
それをほっぽり投げて、家でベッドの上で蹲っているの?
「わかったわ、私も鹿目さんについて行く」
否、よ。絶対に否!!
「え? あの、心の整理は……」
「まだ全然ついてないわ。けど、それは後で存分にできる。今はカッコいい後輩を守らないとね」
か、カッコいい……ですか、と微妙な顔をする鹿目さん。
さて、ホテルに戻りましょうか。
佐倉さんも、援護ぐらいは欲しいはず。
守りたいものの為に、私は戦う。
そして、勝ち取ろう。
ハッピーエンドを。