転生少女さやか(!?)☆マギカ    作:ナガン

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第十回MMDが開催されるので明日はお休み。


17話 七転び八起

 

 

――さやか魔女化から約30分前――

 

見滝原東公園

 

 

 

「さやかちゃん……どこ……?」

 

学校にさやかちゃんは来なかった。電話したけど繋がらない。

家に電話して、帰っていないことを知ってからずっと探した。

だけど、手掛かりさえ見つからない。

 

『君も僕のことを恨んでいるのかな?』

 

何時の間にいたんだろう、電柱の影にいたキュゥべえが話しかけてきた。

 

「あなたを恨んで、さやかちゃんをもとに戻してくれるなら」

『無理だ。それは僕の力の及ぶことじゃない。』

 

疲れた体を休めるため、ベンチに座る。

 

「いつか言ってたよね。わたしが凄い魔法少女になれるって話。あれは、本当なの?」

『凄いなんて言うのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ。恐らくこの世界で最強の』

「だったら……なんでさやかちゃんと契約したの?」

『さやかは彼女の願いを遂げた。その点についてはまどかは何の関係もない。』

 

何を言っているの?

 

「あなたがそうさせたんでしょ!! それのどこがさやかちゃんの願いなの!?」

 

思わず、感情のまま怒鳴りつけた。

 

 さやか様(・)を陥れたくせに!!

 

そう思って、直後、とても恥ずかしくなった。

夢の中で、神様がさやかちゃんで、それを現実と混同するなんて、どうかしている。

 

 今はキュゥべえとの会話に集中しないと。

 

『彼女の場合は特別だよ。さやかと契約するのは僕達の総意で、あのままだと合意なしでの強制契約もあり得た』

 

曲がりなりにもさやかの願いの1つをかなえてあげたからいいじゃないか、と喋るキュゥべえに愕然とする。

 

「じゃあ、さやかちゃんは遅かれ早かれ、こうなってたの?」

『そうなっていたのは確実だね』

 

さやかちゃんが、何億というキュゥべえに追いかけ回される。

 

 必死で逃げてたけど、やがてキュゥべえに取り押さえられて…

 

かぶりを振る。

 

 認めない!! そんなのわたしが許さない!! わたしが……

 わたしなら……なんとかできる?

 

 

そんな甘美な餌が、目の前に現れる。

 

「わたしが……わたしが願えば、さやかちゃんをもとに戻せる?」

『君が力を開放すれば奇跡を起こすどころか、宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう。何故君一人だけがそれほど素質を備えているのか、理由は未だにわからない』

「さやかちゃんの力を無くすことだって?」

 

香りが、見た目が、全てに引き付けられていく。

 

『その程度、造作もないだろうね』

 

キュゥべえの瞳がわたしを射止める。

 

『その願いは魂を差し出すのに足るものかい?』

 

言わないと

 

「うん、わたし、さやかちゃんのためなら……」

 

 言えばわたしは……

 

「魔法少女に……」

 

――なって……どうするの?――

 

喉まで出かかっていた言葉が、寸前で止まる。

 

 それは、さやかちゃんがさせたくなかったことじゃなかったの?

 今までしてきたことをこれは無駄にするんじゃないの?

 さやかちゃんは、本当に力を失うことを望んでいるの?

 

そう考えを巡らせていた時、フッ、と視界が白くなって……

 

 ~~わたくしは今からこの身をあなたに捧げます~~

 ~~よし! あたしと一緒に、ここを守ろう!!~~

 

 え? なんで? 夢の中でも見たことがないのに。

 

全く見たことがない記憶がリフレインした。

 

 でも……

 

『どうしたんだい?』

 

 

 これは、只の逃げなんだ。

 ただの自己満足

 今まで培ってきたことを無下にする程の価値なんて、ない。

 

 これだけは、はっきりとわかる。

 

気が付けば、さっきの誘いの周りに、幾重もの罠がはっきりと見てとれた。

 

「わたしは、魔法少女にはならな ドッ 「い……?」」

 

瞬きもしてなかったはずなのに、コマが変わったようにキュゥべえが蜂の巣になった。

余りに突然のことで、声も出ない。

音もなく倒れるキュゥべえ。

 

カツン

 

そしてなにかが地面に落ちる音にひかれて振り返ると、足元に銃の薬英とピストルを落としたほむらちゃんが、怒った顔をしてわたしを睨む。

 

「ひ、酷いよほむらちゃん。何も殺さなくて「あなたは……」も……」

 

こっちに迫ってきて、わたしの肩を掴むほむらちゃん。

 

「いつも自分を犠牲にしてばかり……役に立たないとか、意味がないとか、自分を粗末にしないで!」

 

ついには泣き出す始末だった。

 

「あなたがいなくなったら悲しむ人がいる。その人達のことも少しは考えて……」

「ほ、ほむらちゃ……」

 

どうしてほむらちゃんはここまでわたしにつくしてくれるのか。心当たりなんて無く、ただ戸惑うばかり。

 

瞬間、ノイズが走った。

 

「え……?」

 

 これって……

 

~~「まどか!! まどかぁ!!」

~~「ごめんなさい。さやか、様。天国で見守って、いま、す…………」~~

 

いつか夢に見たあの光景がフラッシュバックする。

 

 ああ、この状況。夢のと全く逆だ。

 

 

ふと時計を見ると、大分時間が過ぎていた。

 

 

「ごめん、わたしさやかちゃんを探さないと……」

「待って、美樹さやかはもう……」

「ごめんね」

 

戸惑いはどこかに消え、続きを聞かない内にほむらちゃんから離れる。

 

どっちの続きも、聞きたくなかった/覚悟がなかった。

 

――――――――――――

 

 

 

 どうなってやかる

 

双剣を持ったさやかとアタシが抱えているさやかを見比べる。

 

「美樹さん……の偽物よね」

 

マミが臨戦態勢をとりながら確認する。

 

確かにあっちのさやかはもう大人と言える体型をしている。髪も腰まである髪をアタシと同じようにポニーテールにまとめている。

 

 だけど、さやかの偽物、なのか?

 あれは、さやかだったものじゃないのか?

 

出てきた考えを振り払う。

 

「てめえ、さやかに何しやがった!!」

 

そして叫ぶ。

 

アタシの予感が外れてくれるのを願って、

 

「……」

 

さやか(?)は何も言わない。

ただアタシ達をその光のない目に写しているだけ。

 

「てめえいい加減に……」

 

なんか言え、と言おうとした時には、さやか(?)はアタシの目の前にいた。

 

「ッ!!」

 

咄嗟に後ろに跳ぶ。

直後さやかの体を抱き抱えていた左腕から血がふきでる。

後一瞬、遅れていたら死んでいた。

冷や汗がでる。

 

「撤退するぞ!!」

 

さやかを抱えたままじゃろくに戦えない。

とにかくさやかをどこか安全なところに。

 

「佐倉さん!! 上!!」

 

首に殺気

 

弾かれるように横に転がる。

 

アタシがいたところにさやか(?)双剣を降り下ろした

 

「この!!」

 

マミがマスケット銃でさやか(?)を撃つ。

 

だけど銃弾はさやかを掠めるに留まった。

 

 全部見切ったのか!?

 

そのままマミに接近し、刃を振るう。

マミは呆然として動けていない。

 

 マズイ!!

 

そのまま刃はマミの首に吸い込まれて……

 

キイン!!

 

飛んできた銃弾に軌道を変えられた。

 

刃はマミの首を掠める程度に終わる。

銃弾がさらにさやかに撃ち込まれる。

さやかがバックステップで避けたところにスモークグレネードが撃ち込まれ、辺りが煙で覆われる。

そしてゴーグルのようなものを着けたほむらが目の前に現れた。

 

「逃げなさい!!」

 

そう言い残して煙の中に消えるほむら。

途端に聞こえてくる銃声。

 

「くっそ、いくぞ!!」

 

舌打ちしてさやかを肩に担ぎ、マミの手を引いて走り出す。

 

「え、ちょっ…」

「話は後だ!! 今は退くぞ!!」

 

さやかの体がだんだんと冷たくなるのを感じながら、アタシ達は結界から脱出した。

 

 

「あの美樹さんは何者なの?」

 

あたりが元の景色に戻っていく中、マミが重い雰囲気の中尋ねてくる。

 

「あいつは……」

「かつて美樹さやかだったものよ」

 

後ろから返答が帰ってくる。

振り返ると所々服が斬られているが、しっかりと二本足で立っているほむらがいた。

 

「嘘……よね?」

「あなた達も見とどけたでしょう。それよりも、」

 

ほむらがマミに視線を向ける。

 

「どうしてあなたが生きているのかしら、巴マミ? あなたはお菓子の魔女に殺されたはずよ」

「知らないわよそんなの……それよりなんで美樹さんが魔女になるのよ!? 嘘よ……私を惑わす嘘に決まって「アタシが見届けた」ッ!?」

 

二人の会話を遮る。

 

「さやかがマミを生き返らせたことと、魔女になること……どっちも見届けた」

 

重い静寂が流れる。

 

「まどかのところに……行ってくる」

 

アタシはさやかを抱え直し、歩き出した。

 

――――――――――――

 

 

 

ほむらちゃんと半ば逃げるようにして別れた後、わたしはさやかちゃんを探し続けた。

端から見たら、不審者極まりない姿だったかもしれない。

そして気がついたら、宛もなく線路の上を歩いていた。

 

カンカンカン

 

踏切の音が鳴り響く。

ふと、前に視線を向けると4人の人がこっちに向かっているのが見えた。

暗くてよく見えないけど、髪の色は赤と金色と緑と黒色と…青色

 

 さやかちゃん…!?

 

駆け寄って確かめる。

よかった、杏子ちゃん達が見つけてくれたんだ。

安堵と喜びに顔が綻ぶ。

だけど、近づいて表情が見えるようになった時に、違和感を覚えた。

 

 なんで、なんでみんなそんなに暗い顔してるの? さやかちゃんが見つかったんだよ? 杏子ちゃんは寝ているさやかちゃんを抱えているだけなんでしょ?

 

「ねえ。さやかちゃんは寝ているだけだよね? ちょっと疲れているだけだよね?」

 

そこで初めて、魔法少女になってから、ずっとはめていた指輪がないことに気が付く。

 

「そ、ソウルジェムは? ソウルジェムはどうしたの?」

「彼女のソウルジェムはグリーフシードに変化した後、魔女を生んで消滅したわ」

 

最後の望みの糸が、切れた。

 

「嘘……だよね」

 

ほむらちゃんはソウルジェムを手のひらに出して最後の秘密を告げた。

 

「本当よ。ソウルジェムが完全に濁りきった時、グリーフシードと化して、私達は魔女に生まれ変わる」

 

違う、絶対違う。

 

「それが魔法少女の逃れられない運命(最後)」

 

さやかちゃんが死ぬなんて

 

震える手を頬に添える。

そこにぬくもりはなくて、ただわたしの手を冷やすだけだった。

 

 もう、動かない。

 さやかちゃんとは、もう話せないし、笑いあえない。

 

「……ごめんなさい」

 

涙が溢れる。

 

何がいけなかったんだろう

 

 キュゥべえのせい?

 違う

 

「わたしが……わたしが!! キュゥべえを助けなかったら…!!」

 

全部わたしのせいだ。

キュゥべえさえ助けなかったら、さやかちゃんは巻き込まれることも無かった…。

キュゥべえに目をつけられることも無かった。

 

思考が負のスパイラルに陥っていく。

ぐるぐる回って、落ちていく。

 

 ああ、さやか様もこんな気持ちだったのだろう。

 なんて、ばかだったんだ。

 

そんな時だった。

 

ポケットの中の携帯がメールの着信音を鳴らす。

 

 あり得ない。

 

負のスパイラルなんて、宇宙のはてまで吹っ飛ばしてしまうぐらいの衝撃が走る。

 

 だって、この着信音は……

 

 

 

 

 

 

 いい加減にしろ。なんでそんな風に淡々と事実を告げられる。

 

 

さやかの体を地面に置いた後、ほむらの胸ぐらを掴み上げる。

 

「てめぇは……何様のつもりだ。事情通ですって自慢したいのか……」

 

ほむらは目を伏せるだけで何も答えない。

 

「なんでそんな風に答えられるんだ!!」

 

さやかにすがり付いて泣いているまどかを見やる。

 

「こいつは……さやかの親友なんだぞ……」

 

 

 

 

「キュゥべえは……私達を騙していたのね……」

 

不意にマミが口を開く。

 

「いいえ、ただ言わなかっただけよ」

「……同じことじゃない」

 

マミが膝をついて崩れ落ちる。

 

「おい!!」

 

とっさにマミの体を支える。

 

「……どうして?」

「え?」

「どうして美樹さんは私を生き返らせたの? こんな話を聞かされるなら、いっそそのままにしておいてくれればよかったのに……」

 

マミのソウルジェムが黒く濁っていく。

 

「ッ!! 駄目だ!! 絶望するな!! テメーを魔女にさせる為にさやかはお前を生き返らせたわけじゃねーだろ!!」

「その美樹さんはもう死んだのよ!!魔女になって…」

 

続きを着信が遮る。

 

その音楽は、やけにアタシ達の耳に響いた。

 

ピタッとまどかが動きを止め、急いで携帯を取り出す。その手は覚束なく、震えていた。

そして、携帯の画面を暫くまどかが見つめて、

 

 

叫んだ。

 

 

「ほむらちゃん!! 魔力を流して!!」

「お、おい…」

「誰でもいいからさやかちゃんの体に魔力を流して!!お願い!!」

 

ほむらにすがり付くまどか。その様子は最後の希望にすがり付いているようだった。

 

「ま、待ってまどか。いきなりどうしたの?」

 

ほむらはものすごくうろたえている。

さっきのカリスマ溢れるクールさはどこへやら。

 

「今、さやかちゃんからメールが来て、体に魔力を流してって……」

 

 何!?

 

携帯を拾って画面を見る。

本文にはこう書かれていた。

 

――体に魔力を流すよう杏子あたりに頼んで――

 

 あいつ……!

 

言われた通りに手を握り、魔力を流していく。

すると、さやかを中心とした魔方陣が展開されて……

 

………ハッ

 

さやかが、目を開き、息をし始めた。

 


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