転生少女さやか(!?)☆マギカ    作:ナガン

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15話 一人の離別

 

とある工場を見渡せる鉄塔に、私はアイスを頬張っている杏子とその隣でゆまが立っていた。

夜の電気が輝いている工場の一角に魔女の結界が形成されていて、その中で美樹さやかが戦っている。

 

「……行かないの?」

「何で行く必要があるんだ?あいつが負けるはずないだろ」

「いえ、何となく行きたそうにしていたから」

「……」

 

美樹さやかは触手を切り裂き、魔女に肉薄しようとしているが、思うように近付けていない。

 

キレが悪い

 

 あの密会の時の動きとはまるで比べ物にならないわね。魔力を使うのをかなり控えている……? それも恐れているぐらいに。今日学校を休んでいたけど、何かあったのかしら……。

 

「あのバカ……」

 

見てられないとばかりに、ゆまを抱えて鉄塔から降りて、彼女のもとへ向かう杏子。

何だかんだ言って杏子はさやかのことを気にかけている。今日も確か、彼女と話をしてきたと言っていた。

 

「……私もゆっくりと話をしたいわね」

 

まどかのことについては、魔女退治に連れていってうるのは遺憾だけど、キュゥべえと接触させないという点においては、何も言うことがない。

左手の痣を撫でる。

それに、まどかの家に設置されている、あのトラップ群を抜けてまどかと接触するのは、ほぼ不可能だ。

私が確認するだけで、10匹は罠の餌食となった。

 

閑話休題

 

 美樹さやかの様子の変化の原因について、一回確認する必要があるわね。

 それになにより、何故時を止めた世界で自由に動けたのか……、それを確かめないと。

 

 

 

 

 やっぱやめといたら良かった……。

 

魔女への遠い道のりを眺めて、あたしは後悔していた。

 

杏子と別れた後、今日もまどかと一緒に魔女退治を始めた。

終始まどかの心配そうな視線が背中に突き刺さっていたけど、気付かない振りをした。

そんなこんなで魔女を見つけたはいいものの、体が動かしづらいわけで、簡単には倒せない。

荒く息をして、体に酸素を行き渡らせる。

 

魔女はここから50メートルといったところで、祈る姿勢のままある。

 

魔力は使えない。

魔力は穢れを生んで、魂の妖怪化が進み、体が動かなくなるから。

だから走って、道中せまりくる触手を切り裂きながら魔女のもとまで到達しないといけない。

息を整えて、一気に走り出す。

触手が四方八方から迫る。

 

まず最初に迫る2時方向の触手二本を切り落とし、その勢いで後ろのも切り裂く。

しゃがんで触手をかわし、それを斬り伏せた……はずだった。

 

だけどあたしの腕は構えたまま、動いてない。

 

 ついに……!?

 

ここぞとばかりに迫る触手に捕らえられ、万力の力で締め上げられる。

 

「が……この……」

 

 魔女の分際でぇ……!

 

とその時、締め上げていた触手が急にその力をゆるめる。

そして、誰かに抱えられた。

 

「たく、見てらんねーぜ。どうしちまったんだよ」

 

杏子は魔女から距離をとる。

 

 おかげで、また50メートル地点に逆戻り……

 

なんでか、無性に腹が立つ。

 

「ここで見てな。アタシがやる」

 

誰かが治癒魔法をかけた気がする。

 

 ……ああうるさい、なんで邪魔をするの?

 

「……邪魔を、するな」

 

杏子の襟を後ろからひっつかみ、まどかの方へ投げ飛ばす。

 

 ただあたしは、あいつを殺したい/食べたいだけなのに……

 

瞬動を使い、今度は上から攻める。

 

 なに考えて出し惜しみしてたんだっけ?

 ……まあいいや、思い出せないなら些事だったんだろう。

 

迫りくる触手を虚空瞬動でよける。

 

うざったい

 

「……邪魔」

 

そして魔女に肉薄し、胴体を横に両断。

 

 こんなのにあたしは手間取っていたの……?

 

触手があたしに巻き付いて魔女から離そうとするけど、そんなものではあたしは微動だにできないよ。

そのまま一本触手を、食いちぎった。

 

そんなあたしはあたしじゃない。

 

ニヤァ

 

口が裂けるほどの弧を描く。

 

嗤う/刺す

 

 そうだ、あたしは妖怪!!

 

嗤う/斬る

 

 こんな、感情を知らないやつらに作られた出来損ないに、負けるはずが、ない!!

 

嗤う/咀嚼

 

 人間?あはは、なにそれ?そんなの止めてしまえば……

 

「「さやか(ちゃん)!!」」

 

あらんかぎりの大声をまどかと杏子があげる。

意識を一気に引き戻される錯覚を覚えて、意識を外に向けると、魔女はもう消えていた。

続いて、ゆっくりと自分の体を確める。

左腕は骨が飛び出していて、右足も同じように重傷。胴体も触手で何回も刺されたようで、見るも無惨な状態。唯一ましなのは、魔女の返り血をモロに浴びている首から上ぐらい。

 

 なんじゃこれ。痛覚遮断してなかったら発狂もんじゃん。松田さんも真っ青だよこれ。

 

取り敢えず全部の傷に魔力をこめる。

傷はみるみるうちにふさがっていった。

 

「さやか……あんた」

 

 振り替えると杏子とまどかとゆま/獲物三匹、が美味しそうにあたしを……

 

それを認識した瞬間、ナイフで左手を刺した。

もちろん痛覚遮断なんてしない。

 

「っ……」

 

左手から伝わる痛みが、正気に戻してくれる。

 

 一体何をあたしは考えてる!? 本来なら助けてくれた杏子達に礼を言うべきじゃないの!?

 

「なにしてるの!?」

「おい!!」

 

 まどか/獲物が駆け寄って……

 

「くるな!!」

 

顔を右手で覆い視界を塞いで、左手でまどかを制止させる。

 

ヤバイ

 

妖怪の本能がシャレにならないぐらい強くなってる。

 

 ここから離れないと……

 

「……杏子、まどかを頼むね」

「あ、おい……」

「追いかけるな!!」

 

 お願いだから……追いかけてこないで

 

 

 

 

 

触手に何度も刺されながら、嗤い、魔女を切り裂き、突き刺し、そして喰らうさやかちゃんの後ろ姿。

何度も大声を出して呼んでも、まるで聞こえていないとばかりに、振る舞うさやかちゃん。

もういつものさやかちゃんじゃなくなった。

足元が崩れるような感覚に陥る。

 

「もうやめて……やめてよう…………」

 

認めたくない。

 

理不尽を許可しない心がふつふつと膨れ上がる。

 

また、いつものように喋りたい。

 

日常への渇望が溢れる。

 

 こんなの、絶対おかしいよ!!

 

それは無意識に出た言葉。僅かな可能性にすがったもの。

 

「「さやか!!/さやかちゃん!!」」

 

人生で一番大きいだろう声を、あの時出した。

杏子ちゃんも見るに堪えかねていたらしく、声が一緒のタイミングで出たのは、偶然としか言えなかった。

 

はっと攻撃を止めて、自分の体を確認するさやかちゃん。

 

 よかった

 

安堵の心に身を任せて、へたりこむ。

 

だけど、さやかちゃんが私達を見た瞬間、

 

ナイフで左手を刺した。

 

「おい!!」

「何してるの!!」

 

なんで自分を傷つけるのかわからなかった。

 

「くるな!!」

 

たがら私が近付くのを拒んだ理由も、わからなかった。

 

「杏子、まどかを頼むね」

 

 止めて、置いてかないで。

 

気付けばわたしは、さやかちゃんを追いかけようとしていた。

 

 きっと……さっきのは聞き違いだったんだよ。絶対そうに…

 

「追いかけるな!!」

 

今度こそ、拒まれた。

がくり、と勝手に膝が地面に着く。

 

 どうして…こうなったの…?

 

ここ最近の記憶を掘り返す。

 

 そもそもの発端は私がキュゥべえに呼ばれて助けに行ったから……だから……。

 つまり……全部私の…………。

 

「ごめんなさい……」

 

自然とそれが口からこぼれる。

私は近くによって来た杏子ちゃんにすがり付く。

 

「あ、おい」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「ちょ!? お前一旦落ち着け!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ……」

 

パチン

 

乾いた音が響く。

 

少し後に、それが私がはたかれた音だと気付く。

 

「……いい加減にしろよ。アタシに謝ってもどうこうなるもんじゃねえんだ。」

「だって……」

「だってもくそもねえ!! アタシだって、追いかけたかったさ!! でもな!! 頼まれたんだよ!! あいつに!!」

 

それにな!! と今までの仕返しのように杏子ちゃんは言う。

 

「あいつがてめえをほったらかしにするわけねえだろ!! 長い付き合いのてめえなら、そのくらいわかるだろうが!!」

 

はっ、と顔を上げる。

 

――あたくし、美樹さやかは全力であなたを守りましょう――

 

そうだった。さやかちゃんは守れない約束はしないんだ。

……だったらきっとすぐに帰ってくる。

 

ごしごしと涙を拭う。

 

そうだよね、さやかちゃん。

 

 

 

 

「はあ……」

 

まどかの後ろ姿を見ながらため息をつく。

 

 柄じゃねぇってのに……

 

「……」

 

ジトーっとこっちを見つめるゆまと目が合う。

目が座っていて、妙に迫力があった。

 

「な、なんだよ。」

「(……女たらし)」

「? 今なんて言った?」

「なんでもないの!」

 

プイっと顔を背けるゆま。

 

 ……なんだこの寂寥感は

 

これもあいつが変なこと頼むからだ。絶対そうだ。そう愚痴りつつ、さやかのことを考える。

あいつがアタシ達のそばを離れざるを得ない理由。

今日の教会での会話、さっきの戦闘。左手を刺した時、あいつのあの顔。

おおかた、また思考が戦闘の時の危険な方、多分アタシ達を殺すとか、そこら辺へと流れて行きそうになった。

だが、あいつは前世が神って言っていたが、それじゃ理由にならない。

アタシ達はあいつにたてついたわけじゃないからだ。

 

ちらりと先日のさやかの姿が浮かぶ。

 

「まさかあいつ……」

「杏子」

 

いつの間にかほむらが横に立っていた。

 

「美樹さやかだけど……鹿目まどかだけではなく、グリーフシードまで置いたままにして行くなんて……、いくらなんでもおかしくない?」

「は?」

 

ほむらの視線の方向にアタシも目を向けると、確かにグリーフシードが落ちていた。

 

「あいつ……」

 

何やってんだ、とそれを拾う。

 

 そこまで切羽つまっていたってことか?

 

本来ならあいつのだけど、依頼料としてもらっておくか。

鉄塔からこっちに行く時もけっこう急いでいたしな。

 

ソウルジェムを取り出す。

 

「ん?」

 

 穢れが、ない?

 

いろいろな角度から見ても濁っている感じはしない。土台も濁っているわけでもない。

 

「どうかしたの?」

「……いや、なんでもねぇ」

 

ソウルジェムをしまう。

 

「なあ」

「なにかしら」

「あいつがまどかのそばの離れないといけない理由はわかんねぇけど……」

 

だけど……

 

「かならず帰ってくるよな……?」

 

神だったんだろ。

 

交わした約束は守るんなら、絶対帰ってきやがれ。

 


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