転生少女さやか(!?)☆マギカ    作:ナガン

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改めて読み返すといろいろ変な所多過ぎぃ


14話 二人の決意

 

 

「もう○○○様ったら。朝が弱いんですから。」

 

 ああ、またこの夢。

 

わたしが巫女として仕えている夢だ。

 

「起きてください○○○様。もう天照大野神はカンカンしてますよ。」

「うるっさいなあ。だるいんだよ・・・。昨日は一日中神様モードだったんだから。」

「あなたが神様でしょうが!!」

 

夢の中では、どうやら神様が見て触れる存在らしくて。

わたしの巫女としての仕事は、神様の家政婦さんといった方がしっくりくる。

 

「ふぁ~。おはよう、'まどか'。」

 

 また、神様の顔は見れなかった。

 

 

 

 

 

「……」

 

だるい

 

仁美に今日は休むとメールしてから、あたしはずっと布団にくるまって、ソウルジェムをながめている。

昨日より土台が黒に近付いているそれは、相も変わらずきれいに光っている。

 

 

大体、予想はつく。

結晶が濁りきると魔女になる。だけどあたしは土台の部分。おそらく生物にとってだって、これははじめてのケースのはず。

だけどあの生物には分からなくても、あたしにはわかる。

 

先祖返り

 

元々あたしは妖怪(その前は人間だったけど…)だった。それがたまたま人間の体に入って人の魂の形に無理矢理なっていただけ。

最初魂と体はフィードバックしあっていて、繋がりは強固なものだった。けど生物と契約して、その繋がりは一気に弱くなる。

結果、魂は安定を求めて、妖怪のものへと変化していっている。

体が違和感を感じるのもそのせい。妖怪の魂で人間の体を動かす。半人半妖では起こらない、この矛盾。

おそらく違和感だけですんでいるのは完全に妖怪の魂に変化してないから。これから体は、ますます動かしにくくなる。そしていずれは……

 

ぐっと体を抱き締める。

 

自覚してから、違和感がますます酷くなった体がいやになる。

 

生物と一緒の意見なのはかなり癪に障るけど、種族が違っても相手と意思伝達できたらあたしはそれでいい(拒絶されるのはごめんだけど)。けれど、このままだといずれは、あたしは壊れた糸人形の様に動かなくなる。そうなれば、何も出来ない。

 

『よお、何ふさぎこんでんだ?』

 

どうするべきか、と考えを巡らせていると、念話で話かけられる。

 

ノロノロと窓をあけて見渡すと、下に紙袋を抱えた杏子とリンゴをかじっているゆまがいた。

 

『ちょっと面貸しな。話したいことがある』

 

――――――――――――――――――――――――

 

ドカッ ドオン

 

今の音は古びれた教会の扉を杏子が蹴り破ったものです。あたしは関係ないよ。

 

そのまま台座のところまで我が物顔で歩いていく杏子。

 

「少し長い話になる」

 

と杏子は抱えていた紙袋から、リンゴを一個取り出す。

 

「食うかい?」

 

杏子はそれを投げて寄越す。

 

「もちろん」

 

 ふむ、なかなかいいりんごだ。

 

りんごにかぶり付く

 

 うん、今日も秋田県は平和だね。

 

ゆまにもりんごを手渡し、同じくりんごをかじる杏子が口を開く。

 

「ここは、アタシの親父の教会なんだ」

 

 遺品とも言える教会にこの扱い……冥界で親父さん泣いてると思うよ。

 

「親父はさ……新聞で人が殺された記事を見ては、どうしてこの世の中はこうなんだって泣くような優しい人だった。教会を破門にされながらも、親父は教えを広めようとした。だけど皆親父を異端児扱いして聞かなかった。聞こうともしなかった。おかけでアタシ達家族は食い物にも困る始末さ……。

アタシは悔しかった。少しでもいいから、親父の話を聞いて欲しかった。だからアタシは契約したのさ。親父の話を聞いてくれます様にって。

次の日から、ここには人がわんさか集まった。親父は嬉々として教えを話したよ。そしてアタシは魔女狩りに明け暮れた。表では親父が、そして裏からはアタシが世界を救う。そんな気分でいた」

 

杏子がそこで拳を握る。

 

「でもそれは長くは続かなかった。ある日カラクリが親父にバレちまってさ。それから親父は壊れちまった。親父はアタシを人を誑かす魔女と呼んで蔑み、酒に溺れた。そして…アタシだけを残して心中したのさ。だからアタシはその時心に誓ったんだ。この力は自分の為だけに使う……てね」

 

ゆまは驚き、そして全部理解した表情を浮かべた。

 

 

そこで杏子は改めてあたしを見る。

 

「あたしは、他人の事情も知らずに勝手に願いを叶えて、それで全員を不幸にした。あんたは自分の為に救うって言ったけど、そういう人達もあんたの都合で助けるのか?」

 

 わかってるよ。そのぐらい

 

「あんたもわかってんだろ? ただすり替えてるだけだってさ。無理してるようにしか見えないんだよ。あんたは充分すぎるぐらいの対価を払って、今も払い続けている。だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ。自業自得の人生を歩めばいい」

「はあ……前にも言ったけどあたしは救いたいから救うの。自分勝手なの。自分の為に他人を助けることが殆どなの。それに、実際問題他人のことを顧みる暇なんてないよ。そうしないと、雁字搦めで動けなくなる」

 

釣り銭なんて、その人によって変わるもんだし。

 

「それは、あんたが勘違いしてるだけさ。助けた人に拒絶される辛さを、助けられなかった辛さを、あんたはわかってないだけだ」

 

ブチッ

 

気付いたら、あたしは杏子に掴みかかっていた。

 

「ぐっ!? てめっ、何しやが「奢るなよ、小娘」!?」

 

纏う雰囲気を神のそれにする。神力が無くてもこのぐらいはできる。

 

「たかが14年生き抜いた程度の人生観で、余が意志を推し量るなど、片腹痛い。人間である以上限界がある?違うな、4000年、余が見てきた人間達は限界なぞ何度でも乗り越えた。それこそ、我ら神の恩恵が必要なくなるほどに」

 

あたしの視線が固まっている杏子の目を射抜く。

 

「余はかつて1000をも越える人間を守護してきた。50にも満たない人間を守るなぞ、造作もないわ」

「神は絶対の存在。故に果たせぬ契りは交わさぬ」

 

ここで神モードは終了

 

重苦しい空気から解放されて、杏子は気分を落ち着かせようとしている。

ゆまなんて変身して涙目で杏子にすがり付いていた。

 

 なんか地味にくる

 

「い、今のはいったい……」

「折角だから、そこら辺も含めて、あたしも自分の過去でも喋りますかね」

 

特別だよ、と台座への階段に座りこむ。

 

「あたしはね、前世の記憶ってやつを引き継いでいるんだ」

 

空気は凍らなかった。流石にさっきのあれが効いている。

 

「あたしは前世では始め妖怪、この世界で言うと人間の魔女って感じかな、まあそれだったんだけどね…。人を殺せない、おかしな妖怪だった」

 

妖怪は人を食らう。

体ではわかっていたけれど、そのまた前世が人間だったあたしは、人間は同族という意識が強くて、どうしても理性がそれを邪魔した。

 

「その時は何とかして力は衰えさせなかった。けど、他の妖怪が人を食らうのをどうしても許せなくて……殺した」

 

縄張りだと言って追い払った時もあったけど、それでも殺した数の方が多い。

笑ってしまう。同族なのは妖怪だったはずなのに。

 

「それでいつの間にか人間にこの地域を守護する存在と認識されちゃってね…、やがてそこから信仰が生まれて、あたしは神になった」

「ちょっとまて、何でそうなるんだ?」

「妖怪は人の恐怖心、所謂負の感情から生まれるから、人の認識の仕方に左右されやすいの。それこそ、人がそいつを神様だと思えば、そうなるぐらいに」

 

裏を返せば、それだけ人の感情は強いってこと。あの生物が目をつけるのも頷ける。

 

「そこからは神様として、人々に貢献した。雨を降らせたり、穀物を実らせたり、妖怪を退けたり、ご利益を与えたりした」

 

柄にもなく頑張った。それだけ、人に認められて、大手を振って歩けるようになったのが嬉しかったから。

 

「そんな時だったかな……」

 

あれは雨が降る秋のことだった。

 

「いつもの様に妖怪が侵入して来てきて、退治に出かけた。けどそれは囮で、あたしはそれにまんまとひっかかった」

 

燃える社、そして血に濡れて、冷たくなって倒れている、あたしに仕えていた巫女。

 

「何とかあたしの巫女が応戦してくれたけど社は全壊で、巫女も相討ち」

 

あんたの言う通り、助けられなかった辛さは半端無かったよ。

 

「社を建て直して、新しい巫女が来て、相変わらずご利益を求める人々。あたしにはそれが耐えられなかった」

 

人はいつか必ず死ぬのにね……。それを目の当たりにして、認めたくなかった。

 

「だからあたしはあたしがいなくても、村の人が妖怪を退けられるようにした後、逃げるように旅に出た」

 

 あの時、巫女や村人達には悪いことしたなあ。

 

「そこから色々あったけど、今は割愛するね。それで、旅をしている内に、とある神様と出会った。その事を打ち明けてみたんだけど、なんて言ったと思う?」

 

あの呆れた声は絶対忘れられない。

 

――あんた馬鹿だねぇ、そんなことでうじうじ悩んでいたのかい――

 

「もしかして……」

「他人の為に頑張れないなら、自分の為にしてしまえ。とっても単純な答え。」

 

わかってる。こんなに簡単に解決するもんじゃないことぐらい。

 

 

それが、救うことを義務付けられた神の使命への、自己防衛なことも。

 

 

だから、とあたしは立ち上がる。

 

「あたしの意志はただの夢見る女の子のようなものじゃない。今更あんたの過去を聞かされたぐらいじゃ、揺らがない。」

「……関係ないじゃねえか。だったら、尚更……」

「どうもこの生き方があたしにはぴったりでね」

 

歪んだあたしにはお似合いな生き方。

それでも、この生き方も悪くはないと思っている。

 

「今のあんたは人間だ。神の義務に縛られる必要なんてないだろ……」

「くどい、あたしはこれからも自業自得で人を助ける。それは変わらない」

 

ピシャリと、誘惑をはね除けた。

 

「はあ、わかったよ。あんたはとてつもない馬鹿だよ。ほんとに」

 

と再びリンゴをかじりだす。

 

「でも、まああんたの強さの秘密がわかったからよしとしますかね。」

 

あーあ、なんか恥ずかし、と杏子はそっぽを向く。

 

「ち・な・み・に・あんたもあたしの守りたい人に入っているから」

「ブフ!?」

 

いきなりの守りたい宣言に狼狽える杏子。タイミングもバッチリだったようでリンゴを喉につまらせている。若干顔も赤い。

 

 杏子、この名前も、懐かしく感じた。だからあの時、ゆまに手を貸した。

 

「ゆまは?」

「今更言う必要もないでしょ?バッチリ保護対象です。可愛いなあもう」

「なっ、てめっそういうこと面と向かって言うなよな」

「そうじゃないと、こんな黄色い救急車呼ばれるような話はしないし。だから……」

 

落ちていた木材を拾う。

 

あたしと杏子の影がステンドグラスまで伸びている。

あたしの影から黒い煙が出て来て、人間の上半身の形をとり、杏子の影に剣を突き立てるという、何とも不吉な絵を作り出していた。

 

ガシャン

 

「こんな未来も、あたしは許さない」

 

木片を投げつけて、黒い煙を木っ端微塵にしてやった。

 

「杏子もまどかもマミさんもゆまも、絶対死なせない」

 

 死なせて、やるもんか

 

 

 

 

教会から遠ざかるさやかの背中を見つめながら、リンゴをかじる。

 

「キョウコ……」

「なんだ」

「変な人だね」

「そうだな」

 

守ってやる、って言われた時は恥ずかしかったけど…まああれだ、嬉しかった。

 

「でも、優しいね」

「……そうだな」

 

 4000年…か

 

 あいつはずっと悩んでたんだろうな……

 

「他人じゃなく、自分の為……」

 

 身勝手……だな

 

あいつは、決して強くないんだ。神というポストを無理矢理与えられた、歪な存在。

折れて、折れて……それでも他の生き方を見つけられなかった、哀れな奴。

 

 そう言えば……解りづらかったけど、なんかあいつ、動きがぎこちなかったんだよな。

 

 なんか……すげーいやな予感がする。

 

「キョウコ?」

「なんでもない」

 

 ………アタシも身勝手に、二人ぐらいは、守れるよな?

 


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