転生少女さやか(!?)☆マギカ    作:ナガン

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11話 邂逅と衝突

 

 

 

崩れ落ちるマミ(偽)を冷めた目で見下す。勿論首を切り落としたりはしない。ちゃんと繋がっている。

 

あたしはただ、こいつの首を切るビジョンを頭の中に流してやっただけ。殺気との相乗効果で、ほぼ実際にはねられた時と、同じようなリアルさを体験をしているはず。現在彼女の

 

服に広がっている、黄色いしみがそれを物語っている。

 

「あたしの怒りはまだ収まってないんだけど、今日はこのくらいにしておいてあげる。だけど次はこのくらいじゃすまさない」

 

頭を踏みつけてまどかのもとに向かう。

腕の矢は貫通していて、血がだらだらと出ている。抜こうとした跡がないのは幸いだった。

 

傷ついたまどかを見ていると、またマミ(偽)への怒りが、再び燃え上がり始めた。

 

腕、折っとけばよかったな

 

「もう大丈夫だよ、まどか」

「さやか……ちゃん」

「少し痛むよ、力抜いて楽にして」

 

後ろの部分を握って、一気に引き抜く。

 

「ッ!!」

「よし、抜けた」

 

すぐさま治癒魔法をかける。

 

「あの人は……?」

「あそこでのびてる」

「そう……」

「……ごめんね、守るって言っときながら、怪我させちゃった」

 

あたしの謝罪にぽかんとするまどか

 

「……フフッ、さやかちゃんのそんな顔見るの初めてかも」

「! 人が謝っているのにそんなこと言わないでよ」

 

傷がほぼ塞がりかけたから、最後に服の穴を直す。

 

「はい、終わったよ」

「わっ、すごい。全然痛くない」

 

腕をぐるぐる回して、感触を確かめるまどか

 

 これでまどかは一先ず大丈夫

 

 後は……

 

「……降りてきなよ。あんた達だげ逃げようったって、そうはいかないよ」

 

その直後、へぶう!! と悲鳴が後ろからあがる。

 

あたしが振り替えると、槍を油断なく構えた赤髪ストーカーが、穂先をこっちに向け、その後ろで緑のロリが先端が球状になっている杖を両手で握っていた。

 

腹に靴の跡がついているマミ(偽)が、気絶しなおしているのはご愛嬌。

 

「ふぅん、あんた達仲間じゃないんだ」

「てめぇ、アタシとやるってのか?」

「戦う理由はないけど、昨日のことでボコりたい理由はあるね」

「はっ! 一人ぐらい倒したぐらいで、いい気になってんじゃねえぞ」

 

こいつはマミ(偽)とは違って、小賢しくはない感じがする。純粋に強い、ていうオーラがある。

後ろのロリはそうじゃないけど。多分後衛のサポートタイプ。

 

「確かに、あんたをボコるのは骨が折れそうだしね。じゃあ、さっさと帰ってよ。あたしはこれからまた魔女退治に行かないといけないし。」

「させると思ってんの?」

「あんた上から見ていたんでしょ? なら、ここはどうするべきかは……、わかって然るべきだよね」

「ハン! 十分わかってるさ。天狗になってる正義バカに、お灸を据えなきゃいけないことぐらいわな」

 

 正義バカ、ねえ……

 

「一つ勘違いしているようだけど、あたしは正義バカでもなんでもない。守りたいから守る。救いたいから救う、自分勝手な奴だよ。」

 

全てを救うことは、神でさえ不可能なんだから

 

 

そう言うと赤髪ストーカーはポカンとして、どこか困惑したような視線を向ける。

否定してこないのを見ると、なにか思うところがあるようで……

 

酷く身勝手な信念だと自分でも思う。でもあたしだって散々悩んだ挙げ句、神奈子に相談して、出した結論。その時あきれられたのはいい思い出だ。

守りたいから守る、それで充分じゃないか。あんたはそんなことで、うじうじ悩ん、で結局何もしないつもりかい?ってね

 

 

「もし守るのを、拒絶されたらどうすんだ?」

「そうだね……相手側の理由に正当性があるなら、引き下がる"かも"知れないけど、それ以外は聞いてやんない。」

「それはもうただのエゴだろ。」

「エゴで結構。元々人(神)はエゴの塊だからね。それに、エゴにならないと、この先やっていけないし。」

 

きっぱりと言い放った。

 

この問答自体、何回も経験してる。こんなんで揺れていたら前途多難どころじゃないしね。

 

「……クッ、アッハハハハハハハ!!」

 

そいつは抱腹して思いっきり笑い始めた。滑稽だと言わんばかりに。

 

「ハハハハハハ…………ェ……」

「キョウコ?」

「超うぜえぇ!!!」

 

次の瞬間、そいつは切りかかってきた。

 

「っとぉ、あたしなんか地雷踏んだ?」

 

鍔迫り合いに持っていくと、そいつの顔がようやく見れて、

 

「てめえは……やれ正義だの、人助けだの言ってる奴よりも、うざいんだよ!!」

 

その表情は、怒り。

 

まどかに飛び火しないように結界を張る。

 

「余裕かましてんじゃねえ!!」

 

それも気に食わなかったのか、さらに槍に力を込めてくる。

 

「……っ」

 

耐えきれず、剣筋を反らして受け流す。

赤髪の攻撃は終わるわけがなく、そのあとも怒涛の乱舞が続く。

それをあたしは華麗に、受け流せて……いない。

 

使い魔の時は鉄パイプだからと、思っていた。

マミさんとの時は、マミさんが作ったからだと思っていた。

黒鍵を投げたとき、ようやくまあまあではだめだと思い出した。

 

そもそも、上の三つは必要なかった。

 

 

刹那の瞬発力というやつを。

 

 

体が重い。剣が重い。相手の剣速が早く感じる。体の動きがとイメージについて行かない。

やっぱり、人間の体は妖怪、神様とのそもそもんぼスペックが違った。

PCで例えるなら、神様が最新型のピッカピカのPC、人間が二世代前のオンボロPC。

 

 

刹那の攻防でこの差がモロに出てきた。

 

イメージではもう剣は槍の進行ルートにあるはずなのに、現実はまだなもどかしさ。

 

 くっそ!! どんだけ腑抜けてたんだあたしは!!

 

「チャラチャラ踊ってんじゃねえウスノロ。槍のさびにしてやる!!」

「いやだ、ね!!」

 

赤髪が槍を横に振るう。それを見切って、槍の間合い内に入る。

 

 このままだと、じり貧。だったら短期決戦で!

 

そいつは返す刀で槍を戻すけど、あたしはすでに槍の刃の内側。無視する!!

槍を右手の剣で防いで、左手で刺して止め。

 

 

その算段だった。

 

 

ガシャン

 

その音を聞いた時には、鎖が体に巻き付いていた。

 

 多節槍!?

 

「そらぁ!!」

 

気づいた時にはもう遅く、槍にグルグル巻きにされて力任せに投げられる。

 

「ぐあ!」

 

背中を強打。なんとか足をついて、そのまま倒れこむのは耐える。

 

 

視界の端に、拳が見えた。

 

 

 ドゴン!!

 

ぷは、と息を吐く。

後先考えずに思いっきり顔を反らしたことが功を奏して、拳は横の壁に突き刺さっていた。

 

反撃に左手で刀を振るうけど、大きく後ろに跳ばれて回避された。

 

 

 

赤髪が着地する間に、息を整える。

 

 らしくない。らしくなさすぎる。判断ミスが多すぎる。

 

問題を抱えたまま戦うのはあまりにもナンセンス。

 

 

剣が重い?

 

 なら捨てろ

 

体が重い? 頭が回らない?

 

 なら強化しろ。霊力も操れたなら、できない道理はない。

 

 

 

「はあああああ!!」

 

敵は着地し、すぐにこっちに跳びかかってきた。

両手の剣を放ってやる。

 

そいつが剣に意識を向けたその一瞬のうちに、瞬動で目の前に移動。

 

「なっ!?」

 

ぎりぎりという風に反応して、槍で反撃する敵。

 

 そうするしかないよねえ……!

 

思わず、ほくそ笑む。

 

もう一回瞬動をかましてやると、いとも簡単にがら空きの背中に回り込めた。

 

遠慮なく、左でレバーに掌底を叩き込む。

そのまま左手を下げながら、右足でそいつの足を掬い上げ、手を組んで、腹に思いきり叩き込む。

 

「ラストぉ!」

 

最後に右足の顔面叩き付け。

 

「……へえ」

 

右足はこいつの拳と同様、コンクリを砕くだけにとどまった。

 

 並みの奴ならこれで死んでるけど、やっぱりあたしの目に狂いはなかった。

 

「でも残念」

「!?」

 

右足が淡く輝く。このまま、魔力を暴発させる、そういう算段だった。

 

ちりり、と頭にがかゆくなって、ダメだ、と何故か思った。

 

 

だけど、もう遅かった。

 

 

 

  爆発

 

 

「った……」

 

 むう、足がヒリヒリするのは仕方がないとしても、粉塵で見えなくなるのは誤算だった。

 まあ、あそこから爆風を回避できるのはちょっと厳しいし、突っ込んでくることはないはず。

 

 それにしても、何? さっきの感情は。

 

なにか、取り返しのつかないことをあたしはしてしまったと、猛烈に公開している自分がいた。

 

 

予想通り、煙が晴れて向こうが見通せるようになるまでの間、あいつが突進してくることもなく、姿も見えなかった。その間に、そんな後悔は片隅に置いておく。

 

 あ、やば、まどかいたんだった。殺しちゃった……?

 

代わりにあたしの結界が見えて、まどかが同伴していたことを思い出し、顔が青くなる。

死んでないこと祈りつつ、赤髪の姿を探す。

 

「キョーコ!!!」

「お?」

 

だけど、最初にそいつを見つけたのは同伴していた緑の少女だった。

しかし、振り向いても少女の姿は見えなくて、もう一度キョウコ、だった?の方を向けば、しゃがみこんでいる少女がいた。

 

「キョーコ!! キョーコ!!! 嘘だよね!! 死んじゃだめ!!」

 

キョウコは…………まあ首あたりを中心に筆舌に尽くしがたい有様だということだけ言っておく。

ぼろぼろと顔を涙で汚していく少女。必死に回復魔法をかけて、その服が返り血で汚れていく。

 

 ……あ~あ……

 

「なんだよ。もう」

 

さっきの後悔が再びぶり返してきて、それとはべつの後悔も感じていた。

 

つかつかと少女に歩み寄って、黙って治癒魔法を掛ける。驚いてこっちを見る少女に目で続けろと指図する。

 

放置してもよかったけど、それではダメな気がした。

別に、こいつを生き長らせて世界がどうにかなるわけでもないし、何よりさっき言ったのだ。自分勝手な奴だと。

 

 だから別にいいだろう。

 

忘れてはいけないが、思い出したくない過去を思い出させてくれたこいつらを殺さないことぐらい。

 

「う……」

 

表面的な傷が治ってきたところで、キョウコの意識が回復した。

 

「キョウコォ!!」

「ゆま……。そうだ、確かあたしは……」

「あんまり動かないでくれる? 動くと傷が開くよ」

 

キョウコが動くまえに警告して、行動を制する。

 

「お前……!!」

「あんたさ、キレるのは人の勝手だけど、あんまりこんな小さい子泣かすもんじゃないよ」

「うるせえ! っ……」

 

無理に動こうとして、痛みにうずくまるキョウコ。首筋に手を抑えるが、その隙間から赤い糸が垂れる。

すぐに少女がまた治癒魔法をかけ始める。

 

「正義だの、人助けだの言ってる奴よりも、うざい。ね……。傲慢とか、非常識とかは言われたことあるけど、そんなこと、生まれて初めて言われたよ」

「……」

「別にそれはいい。当たり前っちゃ、当たり前だもん。けど、あえて言わせてもらう。あんた、どうしてあたしを殺したかったの?」

 

キョウコは黙ったまま。

 

 え? 何その態度? 仮にも傷なおしてやったんだけど?ここはしみじみと話し始めるところでしょ? (違います)

 

「あんたが言うのと、あたしが言うの、どっちがいい?」

「わかってんのかよ!?」

「確信はしてないけどね。キレる前はちゃんと出方をはかっていた。それと攻撃している間の姿が子供の駄々っ子みたいだった。そっから考えると……?」

 

いたずらっぽい笑みを浮かべてやると、キョウコはたじろいだ。どうやら同じ答えにたどり着いて、自分のことであると自覚したようで。

 

「……ああそうだよ。てめえが思ってる通りだよ。キレたのは、アタシが全否定されたと思ったからだよ」

 

とうとう観念したのか、キョウコはしぶしぶ話始めた。

 

「アタシは、魔法は自分のためだけに使う。そう決めていた。他人の都合なんか知ったこっちゃねえし、振り回されるのもごめんだったから。

だけどお前は、同じことを掲げておいて、全く逆のことをするって言いやがった。

あたしはこれでも、昔は正義の魔法少女なんてものにあこがれていたんだよ。だけどさ、現実を思い知らされて、挫折して、やめたんだよ。

てめえが言ったことがアタシの今までを否定した気がした。てめえの言ったことがアタシとおなじくせして綺麗事だったからだよ。嫉妬だよ。

それに、マミと同じようなことしといて、卑屈な物言いに腹が立っただけさ。」

 

 綺麗事、か……

 

「正義の魔法少女よりは汚いのは事実じゃん」

「同じだろ。見方を少し穿って言い方を変えただけにしか聞こえねえよ」

「いや、違うよ。っつーか、あんたマミさんと知り合い?」

「ただの腐れ縁だ」

 

 結局、あたしもすべてを救えるわけがない。誰もが笑いあえる世界はあり得ない。これがこの世の道理。

 

「……けど、綺麗事に執着してもいいじゃん」

 

それを言い残して、キョウコ達に背を向ける。理由も聞いたし、ここにとどまる理由はない。

 

 ならば、せめて、あたしの手の届く範囲のみんなは笑いあって欲しい。

 

「まどか、帰ろ」

「え……でも……」

「いいから」

 

まどかは心配そうに杏子の方を見ている。

 

 

「アタシは大丈夫だから、早く行きな。そろそろ帰らねえとヤバイんじゃねえの?」

 

杏子とロリも立ち上がって、あたしとは反対の方向に去っていった 。

 

 ていうかまどか、マミ(偽)は放置なんだね、やっぱ怒るか……

 

――――――――――――

 

「明日は上条のところに見舞いに行くから、ちょっと魔女探索は早めに切り上げるね」

 

まどかと携帯で、明日のことを話す。

 

『うん、わかった……』

 

歯切れが悪い声が耳に届く。

 

「何かあったの?」

『えっいや、なんでもないよ!』

「ならいいけど……」

 

会話が途切れ、静寂が訪れる。

やがてまどかが意を決したように口を開く。

 

『さやかちゃん。ほむらちゃんのことなん<バヒューン!!>だけど!?』

 

 どうやらAQBTが作動した様で……

 

『今なんかものすごい勢いで飛んでいったよ! あれキュゥべえだよね!? 大丈夫なの!?』

 

 ははは、勿論

 

「大丈夫だ、問題ない」

『それ全然大丈夫じゃないよ!!』

 

カーテンを開けると、遥か遠くから飛来する白い物体が見えた。

 

そして窓にぶつかる前に電線に引っ掛かり、バチッと白い閃光とともに爆散した。

 

と同時に付近は暗闇に包まれる。

 

『……ねぇ、いまの音ってもしかして』

「いや、偶然だよ」

『やり過ぎだよ!!』

「後悔はしてるけど反省はしてないよ……、っと母さんが呼んでるからまたね」

『あっ、ちょっと……』

 

電話を切る。不意に指輪に目が行った。

 

 そういや濁りとるの忘れてた。取らないと

 

グリーフシードを取り出してソウルジェムに近付ける。

 

「あり?」

 

 濁りがなくなってる? どうして?

 

「さやか~、なにやってるの。ライト探すの手伝って」

「あ、は~い」

 

母さんに呼ばれて思考を中断する。

些細な事だと思ってて、暗かったから、気づけなかった。わずかだけど、土台の部分が黒ずんでいたことに……

 

 


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