次の日の夕方
「さて、第一回魔女殲滅作戦の、始まり始まり~」
「なんか作戦名が若干怖くなってるよ!?」
今日、学校で転校生はこちらを一瞥するだけで、特にアクションを起こしてこなかったから、いいんだろうということで、予定通り魔女退治を開始する。
手始めに繁華街の方でまどかと一緒に索敵をしばらくしたけど、なかなか反応がない。
「見つからないね」
「逆に見つかり過ぎても困るんじゃない?。こういうのは見つからないのに限るもんでしょ」
一旦立ち止まる。
「……東の方から、ちょっと反応があるね……」
昨日のことが脳裏をよぎる。
……あいつも来るんだろうなあ、勝ち気そうだったし……、新米に馬鹿にされたから、絶対くるはず
まどかに気づかれないようにため息をつく。
自分が巻いた種とは言え、どうにも面倒なことになりそう……
――――――――――――
「ここか」
路地裏の一区画
ソウルジェムが強く輝いていて、すぐそばに魔女がいることを物語っている。
「あたしから離れない……、いや近すぎても困るから、着かず離れずのところにいて」
「分かりにくい指示ありがとうだよ」
まどか最近対処に慣れてきてない……? 会った当時はあんなに純粋だったのに……
やがて、一歩踏み出すごとに景色が歪みはじめる。
そこにはカートに乗った、クレヨンで描いたような魔女、ではなくて使い魔かな? の方がいた。前のとは違ってリアル感がない。
魔女って強く成る程リアルになるの? とそんな疑問を考えつつ、戦闘態勢に入る。
「さ~て、いくよ~」
手始めに一本黒鍵を投影。
概念? なにそれ? 魔女に効くの?
と同時に魔女が縦横無尽に走り始める。
黒鍵を魔女に投げつける。投げた黒鍵はちゃんと狙い通りのところに突き刺さった。
ブランクを心配してたけど、杞憂だったかな?
続いて両手に三本ずつ。
魔女に向かって、あるいは進行方向の先に、追い詰めるように投げる。
即座にまた黒鍵をトレース・オン
「止め」
身動きが取れなくなったところに、止めの黒鍵を投げる。
黒鍵は魔女に真っ直ぐ向かって……
「ちょっと、あなた何してるのかしら?」
カキン! カキン!
何者かによって弾かれた。
そいつは地面に降り立つ。昨日の赤髮ストーカーではなく、金髪をツインテールにまとめていて、どこかマミを彷彿させる。手にはボウガンが握られていた。
昨日の奴じゃない…? とすると、仲間…?
頭をかきながらため息をはく。
「ここで出てきちゃう? もうちょっと後にしてよ」
これ幸いと逃げ出しでゆく魔女
「逃げちゃうよ!!」
だけど残念だったね
ザクッ
上から降ってきた黒鍵に魔女が貫かれる。
逃がすわけないじゃん
「シュート」
手で銃の形を作って、魔女を撃つ仕草をすると、黒鍵が爆発。
魔女は跡形も無く消滅した。
保険は掛けとくもんだよ。
「なっ!?」
マミ(偽)は後ろを見て、目を見開いている。
「言ったでしょ。もうちょっと後にしなよって」
不適な笑みを浮かべてやる。
それが癪にさわったらしい、隠しているようだけど、目が怒っている。
「あなた……いつから気づいてたのかしら?」
「うーん、魔女があらわれたぐらい、かな。それで、なんで止めたの?」
「……見てわからなかったかしら? あれ魔女じゃなくて使い魔よ。グリーフシードを持っているはずがないじゃない」
「……それで?」
「だからあれが4、5人殺して魔女に成るまで待ちなさい、と言っているのよ。」
へえ……
こいつマミと似ているくせに、考えが正反対なんだ。
「あんたとは違って、あたしはそういう人見たらほっとけない性格なの。あんたの考えには賛同できない。」
マミ(偽)はやれやれと言った風に肩を竦める。
「あなた、正義の味方にでもなったつもりなの?」
だったらお笑い草ね、と嘲笑を浮かべるマミ(偽)
「確か……以前ここにいた巴マミ、と言ったかしら。彼女がその典型よ。馬鹿よね、見返りなんて返ってくるはずがないのに。見ず知らずの他人を助けることなんてするから、無駄死にするのよ」
イラッ
あたしは無造作に一歩踏み出す。
マミ(偽)はさらに笑みを深くする。
「別にあんたがマミに似ていようが思考が真逆とかどうでもいい。だけどね、それであんたがマミを侮辱していいことにはならない」
「あなた、彼女の後輩か何か?仕方ないじゃない、馬鹿なものは馬鹿なのだから」
目の前で立ち止まって無表情に見据える。相も変わらずこいつは笑顔のまま。
「警告だ。さっさとここから出ていけ薄情者。。さもないと……!?」
バックステップ
一瞬遅れて、上から矢が地面に刺さる。
「へぇ、やるじゃない」
とマミ(偽)は続けて、3本の矢を放つ。
それを一本は避け、残りは黒鍵で叩き落とす。
マミ(偽)は笑ったまま、表情を変えない。
「キャア!!」
まどかの悲鳴が路地裏に響いた。振り向くと、まどかの腕に矢が貫通しているのが目に入る。
「ほら、避けるとあなたの大切な親友がどんどん傷ついて行くわよ。」
こいつ。初めからまどかを狙ってたのか!!
再び矢を放つ音
あたしはそれを……、振り返らずに掴み取る。
「な!?」
「守るって言っておきながらこれかよ……。全く何やってるんだろあたし……」
決めた、もうこいつ半殺し決定。
「オーケーオーケー、そこまでするのならもう手加減なんてしない、してやらない」
結界を展開し、閉じ込めて、思いきり殺気を込めて睨む。
マミ(偽)は先程とはうって変わって、顔は面白いように青白くなった。呼吸も荒い。
今頃気づいたようだ。自分が怒らせたのは、狐ではなく、竜だと言うことを。
懐からナイフを取りだし、逆手の少し前傾姿勢で構える。
「おいで、とんでもない馬鹿女」
ようこそ、このすばらしき惨殺空間へ
こんな、こんなことがあっていいのか
今までどんな敵も、この手で屠ってきた。相手の弱点を突き、なぶり殺す。魔法少女に対しては特に。それで全て上手くことは運べた。今回だって彼女のことは調べ尽くした。
何も変わったところのない、ただの一般人
それが私の答え。
親友を引き連れてこの場に現れた時は、馬鹿だ、と嘲笑さえした。
親友を人質にとりさえすれば、私の勝ち。
途中まではよかった。裏をかかれて、使い魔を倒されたが問題はない。私が負けるはずがない、と過信してしまっていた。
思えば、その時一旦退けばよかった。
ジャリッ
靴を滑らす音で、我に帰る。
5m先にはナイフを構える、件の少女。
顔はうつむいて影になっているのに、二つの蒼い瞳が光って、あたしをとらえ続けている。
「あ…」
殺される
為す術も無く殺される
嫌だ、死にたくない
怖い、逃げたい、怖い、死にたくない、嫌だ怖い逃げたい死にたくない怖い怖い逃げたい死にたくない怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「死ね」
その冷酷無比な言葉で、恐怖が一気に限界を越えた。
「い……いやあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
がむしゃらに矢を乱射する。
消えろ
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろきえろキエロ!!!!
でも、彼女はいつの間にか私の目の前にいて……
容赦なく私の首をはねた。
暗転