ここであたしの手札を確認しておこう。自分の強さの確認は重要だ。自分にできることの限界が分かる。言い換えれば引き際を見極められる。
・魔法少女に変身すると若干テンションが上がる。
これは少ししたら慣れてなくなるからあまり意味がないはず
・魔力が使えるようになった
これで誰が魔法少女なのか一目でわかるようになる。
近くにいればソウルジェムが反応するから。
で、だ……、特筆すべきなのはこれ。
・霊力が使えなくなった
どういうことなんじゃああぁぁぁぁぁ!! これじゃプラスを帳消しにして尚あまりあるよ!!
しかも原因、理由がさっばりわからない。魔法少女っていう存在が魔力しか使えないって誰が決めた!!
――『なんだ……つまらないね……』――
昨日あの後の生物の落胆したような言葉には誰でもキレるよね。
まどかのところに行くまでずっと生物を擦りきれるまで地面に擦り付けながら走って行ったね。全然イライラは収まらなかったけどさ!
取り敢えず生物を見かけたら流れるような条件反射で蹴り飛ばすレベルまでなにかが昇華したよ!!
札? ただの紙になりましたけど?
――――――――――――――――――――――――
「……というわけであたしは魔法少女になるしかなかった」
次の日、まどかに昨日のことの顛末を話した。勿論、魔法少女の秘密とかは話してない。
「……そんな、そんなのただの脅迫じゃない」
信じられないと言う風に尋ねるまどか。
「いいマスコットぶって契約を差し迫る……、新手の詐欺だよ、絶対。そもそもあいつの目的もわかってない」
「それじゃあずっとマミさんとキュゥべえは私達を騙していたの?」
「マミさんは何も知らなかったと思う。むしろ被害者」
「ひどい……」
「あいつからしてみれば、不都合なことは話さなかったけれど同意したのはあたし達。だから騙してなんかいない。むしろなぜあたし達が怒るか理解できてないって感じなんじゃない?
」
「そんな……」
「まどか。これからまどかは多分、いや絶対生物は執拗に現れて契約をさせようとするはず。キュウべえは魔法少女の最大の秘密を隠してる。一応まどかの家にはAQBTをたくさん仕
掛けておいたから大丈夫だと思うけど、それがわかるまで絶対耳を貸しちゃダメ。わかった」
さらっとまどかの家に不法侵入しましたよとカミングアウトする。
「何真顔でとんでもないこと言ってるのさやかちゃん!? はっ!! AQBTってもしかして対QB用トラップ(anti QB trap)の略称!?」
しかしさすがまどかと言うべきか、ボケはしっかり回収する。
「大丈夫だって、見えないから。」
「そういう問題じゃないよ!!」
えー、と不満をもらす。
確かに自分家にいきなりたくさんの罠を仕掛けましたよと言われれば、誰だって嫌だろう。
けど、状況が状況なだけに我慢してもらいたい。
「まあいくらあたしだってまどかを四六時中監視して生物との接触を阻止できない。つーかそんな転校生のようなストーカーまがいのことはしたくない。」
「わたしだっていやだよ!! え? わたしほむらちゃんにストークされてるの!?」
もう何も信じられないとまどかは頭を抱え始めた。
無視して本題にはいる。
「そこでまどか……あたしと一緒に魔女退治に着いてくる?」
「えっ……」
まどかは予想外の言葉にきょとんとしている。
「あたしは魔法少女。だからここら一帯の魔女は倒さないといけない。だからと言ってまどかから目を離すのも駄目」
ここで一旦区切る。
「でも、これはまどかに危険が及ぶ。もしかしたら死ぬかもしれない。断ってもいい。それならそれで別の案を考えるから」
するとまどかはフフッと笑った。
「死なせるきなんてさらさらないんでしょ。それにひとりぼっちは寂しいしね。いいよ、さやかちゃん。一緒に着いていってあげるよ」
今度が自分がきょとんとしてしまった。
「フフッ」
自然と笑いがこみ上げてくる。
あたし達はしばらく笑いあった。
「そこまで言われたら守るしかないじゃない。わかりました。あたくし、美樹さやかは全力であなたを守りましょう」
まどかの前でひざまずく
「(うう……さやかちゃん妙にノリノリだ……。)えっと……慎んで承ります?」
……うん、さすが。ここぞという時に締まらない。それがまどかクオリティー
膝についたもの払って立ち上がる。
うん。なんかすごく空気が微妙だあ♪
「取り敢えず今日は行くところがあるから明日からよろしく。」
最後に締まらないと何か後味が……だね♪
勉強になったよ。ハハッ
――――――――――――
夕方
「京介、昨日容態が急変したって聞いたけど大丈夫?」
あたしは京介のもとを訪れる。その道中白い生物がいたので近くの公園のトイレに流しておいた。
「大丈夫……みたいだよ。僕は意識がなかったからわからなくてね。気が付いたら足が動くようになっていた、ぐらいの感じしかないからね。むしろ僕の掛かり付けの医者が倒れたみた
いで、そっちの方が心配だよ」
「ま、これで足も動くようになったし、結果オーライだね」
その後もありふれた話で時間を潰す。学校のこととか、CDのこと、とにかく色んなことを話した。
「……っと、そろそろかな」
「? なにがだい? さやか」
「フフッまあそれはついてからのお楽しみってことで」
あたしは京介の載った車イスを押して屋上に向かう。
エレベーターが開くと屋上に京介の両親、そして治療に携わった人達が拍手で迎えた。
「これって……」
京介が呆然としていると、お父さんがバイオリンケースを持ってやって来た。京介に秘密にしてたささやかな退院パーティーだ。
「つまり、そういうこと。それじゃ一番いい演奏、聞かせてよね」
そう言ってあたしも観客の列に並ぶ。
練習もなにもしてないのに、と戸惑っていたがやがてバイオリンを肩に乗せる。
演奏が始まった。
やはり練習してないからか上手とは言えないけれど、そこに乗せた感謝の思いはしっかりと伝わってくる。
気持ちいい…
演奏が終わると同時におこる拍手。京介があたしの方を見る。
「最高の演奏だったよ」
それに笑って答えた。
京介が両親や出席していた人達に囲まれ、各々から様々な賛辞が飛び交う。
ホント、いままで聞いた演奏のなかで一番最高だった。
そして最高に幸せになる……筈だったのになあ…………。
振り替える。視線の先には展望ビルから望遠鏡でこっちを見ているどっかのだれかさん。
さっきからじろじろ見てきて正直まじでうっとうしい。
思いきり殺気を乗せて睨みたいところだけど、ここはあえて不敵に笑ってやる。
バレバレだよ、トーシロー
――――――――――――――――――――――――
「!!」
バッと、望遠鏡から目を離す
観察していた新米の魔法少女。そいつはあそこにいる人全員があいつから意識を外した瞬間に、こっちを向いて、嗤ってきやがった。
気付いてやがった……
『どうしたんだい?』
別の望遠鏡に乗っているキュゥべえが尋ねる。
「今、テメーの言う新しい魔法少女と目があった」
『何を言っているんだい?ここから病院まで1キロ以上あるんだよ』
「あいつこっちを見て笑いやがった。どうやら最初から気付かれてたみたいだ」
それに振り向きざまにあいつが言った言葉……
――バレバレだよ、トーシロー――
ギリッと歯を鳴らす。
トーシローだと、ふざけやがって!!
こっちに気付いたのは感知系の魔法に特化しているからに決まってる。
『それよりも本当に彼女と事を構えるつもりかい?』
「ここまでこけにされて黙っているわけにはいかないっしょ」
そこに緑色の髪の少女、ゆまがやって来る。
「キョウコ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫さ」
心配そうな表情のゆまに優しく笑いかけ、不安を和らげる。
けど……もし、あいつが感知系の魔法に特化してなかっとしたら……
アタシは……勝てるのか?
そんな胸騒ぎがいつまでも消えなかった。