オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか?   作:シフシフ

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もうすぐ終わるぞ戦争遊戯!次回で決着かな?

という訳で32話です。


32話「大丈夫ですよ。ほら、この通り」

猿師は死に体となっている冒険者達を治療していた。廊下は死体かと見間違えてしまうのではと思う程には息が浅い者達が倒れ伏していたのだ、その者達のものと思われる手足と共に。

 

 

(これは・・・ひどいですね。まぁ、自業自得の一言に尽きるのですが。)

 

「大丈夫でごザルか?・・・少し、失礼するでごザルよ」

「ぅ・・・うぅ・・・・・・」

「大丈夫、死にはしないでごザル」

 

患部に適切な治療を施し、冒険者が持っていたポーションを振りかける。じゅくじゅくと嫌な音を立て傷口が修復されていく。下級ポーションに見られる効用だ。

 

(・・・・・・エロスは、万能薬を用意しなかったようですね)

 

猿師はそう判断し、少しだけ目の前の患者を憐れむ。安物のポーションでは傷口しか塞げない。つまり失った手足は生えてこない。そして、1度治ってしまえば、万能薬で再生させることも不可能。しかし、だからと言って治療を施さなくては出血で死ぬ。さらに「殺さない」事が条件であるから、死なせる訳にもいかない。

 

(この惨状を見るに、妖夢殿は怒り狂っていると見えますね)

 

猿師はほっと一息ついた。なぜなら手足を失った者は全体の4割程で済んでいるからだ、猿師本人が戦った相手は何も出来ずに神経系を麻痺させられ地に伏せているか、爆音で気絶している。

もちろん妖夢も全員の手足を奪った訳では無い、中には腹をぶち抜かれるだけで済んだ者もいる。

 

(はぁ・・・隠れていればいいものを・・・なぜ立ち向かうのか・・・いえ、この者達が邪な思い・・・「どさくさに紛れて触れるかも」とか考えていたのだとは思いますが・・・あぁ、なるほど、触ろうとした者達が手足を失ったのやもしれないですね)

 

急に助ける気が失せ始めた猿師だが、医者として見捨てるわけにもいかないし、主神から死なせないように言われている。心を鬼にして治療を進める。

 

すると後ろの方から足音が。

 

(怪我人たちに殆ど見向きもせずこちらに走って来ている事を考えれば、恐らくは全員が合流したのでしょう。)

 

「お猿さーーーーん!どーこですかーー!」

 

高く、幼さの残る声。それが妖夢のものであると瞬時に理解し、立ち上がり、笑みを浮かべ視界に入るのを待つ。

 

「あっ、妖夢殿、ほら、あそこ!」

「みょん?どこです?・・・あ!いました!」

「おお、本当だ」

 

3人が姿を現した。

 

(ふむ・・・妖夢殿は煤けているだけ、命殿は顔に酷い傷を、桜花殿は浅いが無数の傷。・・・敵はなかなかに強大なようですね)

 

「おー、お揃いで、どうかしたでごザルか?」

 

「どうしたもこうしたも・・・・・・・・・それは?」

 

妖夢が猿師の足元、治療が施され気絶した冒険者を見る。その目は物を見るように無感動で、ちょっと気になったから聞いてみた程度の思いなのだろう。

 

「これは冒険者にごザルな、怪我をしていたので治療をしていたのでごザルよ。なにせ殺さぬ事が条件でござろう?」

 

桜花と命が頷き、しかし、妖夢は首を傾げる。

 

「出血多量で死んでしまった場合・・・私が殺した事になるのですか?」

 

妖夢を除く3人がガクッとなる。

 

「え、ええそうでごザルな。なぜなら出血多量の原因は妖夢殿になるでごザルから」

 

すると妖夢は少し青ざめアワアワし始める。

 

「さ、逆刃刀にして全身の骨を砕く方針にしておけば・・・」

(そ、それはそれで面倒臭いですよ。治療時間が伸びる・・・。)

 

「今更感が凄いな・・・全く」

「しかし逆刃刀・・・その考えはありませんでした。流石ですね妖夢殿!」

「命殿・・・」

「っとそんな事はどうでもいい、千草が地下にいる可能性があるんだ。猿師さんも来ますか?」

 

(あ、どうでもいいんだ。)

 

猿師は考えるまでもなく即答した。

 

「いえ、拙者は治療を進めるでごザルよ。でなくてはドクターの名が泣くでごザル。その前にまずは3人を治療するでごザルよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下、そこへ行くには隠し扉を通らなくては成らず、通路を通るには罠を回避しなくてはならない。罠、と一言に言ってしまうとどんなものかわからないだろう、槍が壁から飛び出たり、曲がり角から矢が飛んできたりと、原始的だが効果的な物が沢山ある。毒霧を出すと言う案も出たが、地下でそれを行うなどとんでもないと却下されている。

 

そして、地下では盛大に酒盛りが行われていた。以前に記した通り、エロス・ファミリア等では変態、変人の地位が高い。故に地下に隠れつつ酒をお腹いっぱい飲んでいるのだ。

 

「ガーーーーっハッハッハ!」「ぶっハハハハ!そうだ!そのとーりだ!」「んでよぉ・・・それでよぉ」「はぁ!?すげぇなそれ」「デュフフw」「やったーー!俺の勝ちだぜ!」

 

此処が見つかるわけがない。巧妙に隠された扉に、罠だらけな通路。本来ならば牢獄として使われていた地下の大半を埋め立てたのだ。完璧な隠蔽と思われた。

 

「おい!てめぇ!そろそろ確認の時間だろぅ?言ってこいや!」

「チッ・・・・・・わかったよ・・・」

「あぁ?なんだその口の聞き方はよぉ!」

「ぐへへ、まぁ落ち着けよ。おい、俺もついて行くからな。」

「・・・・・・さっさと行くぞ。・・・酒、俺の残しとけよ!」

「ハッ!ならなくならねぇうちにサッサと戻ってくるんだな!」

 

酒を飲み大声で笑っていた髭面の男が体格の良い男に荒々しく言葉を吐きつける。髭面は冒険者歴3年。体格の良い男は冒険者歴15年、そして、エロス・ファミリアが設立されたのは十五年前。一対一なら勝てるだろう、しかし、ここで逆らえば集団リンチに会い死ぬだけだ。

悔しそうに力強く拳を握りしめる。思わず舌打ちをする。激昂する髭面だったが、太った男に宥められおとなしくなった。

 

通路を移動した彼らはわざわざ鋼で作られた一室にたどり着く。

 

「おい、開けろ。」

 

太った男が指図する。男は渋々といった風にその無駄に厚い扉を押し開く。

 

中には檻の中で気絶する少女が。周りには槍や鞭が立て掛けてあり、とてもじゃないが趣味が良いとは言えない。

 

「まだ・・・・・・寝てるな。行くぞ―――おい、早く行こうぜ」

 

素早く済ませよう。そう思った男は大した検査もなく、踵を返すが、太った男は

 

「まぁちょっと待てよ、本当に寝てるのか確かめてみようぜ」

 

と醜悪な笑みを浮かべ部屋に残る事を選ぶ。

 

「あぁ?知らねぇよオラぁガキに興味はねぇ。酒が無くなる、テメエに付き合う理由なんざ本当はねぇんだ、先に行ってるぜ(下衆が・・・!)」

「へへっおうよ」

 

今ならコイツを殺せる。そう思った男だったが。悔しそうにその場を後にする。・・・暫く通路を進んだ時だ、不意に、騒がしい声が一段と大きくなった。

 

通路を駆け抜け、男が見たものは―――視界いっぱいに広がる槍の矛先だった。

 

 

 

 

 

 

ど、・・・・・・どうも・・・俺です・・・妖夢です。通路を先行したら死にかけました、どうしてくれるんだ、いやまぁダメージは負ってないけどね。しかし、流石はハルプ。死にかけた後ハルプを先行させた。意識を移さなければただの人形みたいなものだし、それをちょっと念じて操って通路を進ませたんだ。そしたらあるわあるわ罠の数々。目の前で自分の姿した奴が串刺しにされていく様を見るのはもうごめんです。さらに死ぬ度に霊力払って人形にしてるからね、戦闘開始から20分位かな?もう霊力が半分近く減っちゃったよ。

 

「大丈夫か?」

 

通路から罠が無くなって暫く進むと、桜花が心配そうにこちらを見て、聞いてくる、顔色に出ていたかな?

 

「大丈夫ですよ。ほら、この通り」

 

両腕でガッツポーズを取ると、そうか、と桜花は小さく笑い前を向く。そしてその視線の先には扉。そして奥からは大きな笑い声が響いている。・・・・・・千草に変な事をしていたらコロス、ゼッタイニコロス。・・・タケも許してくれる筈だ。

 

扉に張り付いた俺達は目配せをする。・・・わかった、半霊を使って偵察だな。半霊を透明化させ、壁を通過する。視界を半霊と共有すると、そこには元気に酒盛りをするクソ豚共の姿が・・・、ふむ、可笑しいな、オークの方が可愛く見えてきたんだが・・・。

 

「敵対勢力36人、構成・・・歩兵30、砲兵(魔法使い)が3、弓兵が3。・・・・・・・・・行けます。」

 

俺の声に2人が頷く。

 

「魔法は使用しますか・・・?」

 

通路に俺の声が反響し、みょんに・・・妙に緊張が高まる。実は気分はゲームによくあるナレーターだったりする。ああいう落ち着いた声があると緊張と同時に集中力が高まるよね。

 

「いや、いい。まだ魔力は温存しておこう。」

 

了解だよ桜花。俺は命と頷き、刀に手を掛けた。半霊を移動させる、豚達から見えない位置、机の真下に移動させ、ハルプモードに変更。意識を半分移し待機する。

 

桜花がカウントする。

 

 

 

1!

 

『ぜぇええええろおおおおおお!』

中からの大声と共にドアを桜花が蹴破り命と俺が突入する。縮地を用いて動揺している敵の間を駆け抜ける。その際ハルプも同じように駆け抜けていた。

 

癖で血払いをした後くるりと回してさやに収める。するとドサドサと豚共が倒れていく。逆刃刀で頭をぶん殴ったのです。

 

「て!てきしゅうだーーーー!」「な!?なんでだ!ここは安全なんじゃなかったのかよ!?」「くっそ!ここで3日間飲んで食ってりゃ終わるんじゃなかったのか!?」

 

・・・・・・なんだコイツら・・・、流石に呆れて言葉も出ねぇわ。命の話だとあのボンバー・・・ダリルだっけ?がヒントくれたらしいけど。もしかしてコイツら代わりにぶっ殺して的な意味だったのかね?

 

「はぁあ!」

「ぐうあああ!」

 

桜花と命の連携に何も出来ずに豚共が倒れていく。豚肉は好きだがコイツらをさばいて食べる気にはならないな。っとおらよ!

 

「なに!?ぐへっ!?」

 

後ろから近づいていた奴の頭に刀を振り下ろす。哀れ、頭がかち割れることはなく気絶した。

 

そんなこんなでワイワイやっていたら途中で桜花が

 

「こっちに道が続いてるぞ!行ってくる!」

 

と言って行ってしまった。むむむ、敵を引き付けておけば良いのですな?

 

「行きますよ命!」と桜花の入っていった通路を背に立ちふさがり、唯一の出口・・・俺達の入ってきた場所にハルプが待ち構える。

 

「ひぃいい・・・あ、でも真剣な目も可愛い・・・」「それな」「禿同」「あ、見ろよ、ちょっと赤くなってんぞ」

「か、かわええ」「(結婚しよ)」「(ファミチキください)」

 

・・・・・・こ、こいつらの精神力は一体どこから来てるんだ・・・。そして最後の奴は何してんだよ。

 

「お、おい!出口も塞がれてるぞ!」「なん・・・だと!?」

 

へへへ、驚くがいいわ。部屋の隅でガタガタと震えながら命乞いでもするんだな、まぁ無駄だけどね、殺さないし。

 

「これは・・・・・・まさか・・・」「あぁ・・・・・・まさかだ」「「「「逆監禁プrアベシッ!」」」」

 

フー!フー!お、思わず弾幕を放っちまった。魔力で放ったから丸薬で回復は出来るけどこんな安い挑発に乗ってしまうなんて・・・。ま、まぁ俺とハルプの2倍か弾幕だったからもう動ける奴居ないみたいだけど。

 

あぁ、SAN値が削られるなぁ。取り敢えず桜花を追いかけるぞ。

 

「ひゃっ!?妖夢殿何を・・・!」

 

俺は命を抱き上げる。所謂お姫様抱っこです。そんでもって全力で縮地を使い桜花に追い付こうと頑張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路を走る。妖夢は言った、「千草は桜花が助けてください。」ってな。なら、期待に応えなきゃならない。なんで俺が、と言うのはわからないが、家族として、団長としての俺の顔を立ててくれているんだと言うのは理解している。敵は全くと言っていいほど居なかった。通路の入口付近に居た1人くらいだ。走っていると扉が見えてくる。あそこか・・・!

 

扉は微妙に開いている。このままの勢いで蹴り開くぞ・・・!

 

俺の蹴りで扉は勢いよく開いた。そして、中には折れた槍を手に檻の中にいる千草、そして怒りを顕に槍を持った太った男。やる事は決まった、このままの勢いで・・・蹴り飛ばすッ!!

 

「ふがぁ!?」

 

蹴り飛ばした相手を警戒しつつ、千草の前に立つ。まずは安心させてやらなきゃな。ずっと寂しい思いをしていたろうに。

 

「千草――――助けに来たぞ」

 

「ぇ・・・ぉ・・・桜花・・・なの?」

 

千草が驚いているのが声音でわかる。そして、怯えているのも。

 

「ぐっ・・・糞が・・・!アイツらは何をやっていたんだ、役立たず共が・・・!」

 

コイツが、千草をこんな目に合わせたのか・・・。ゆらゆらと怒りが魔力になって体から発せられる。実はずっとストレスが溜まってたんだ、エン・プーサの魔法はうざったくて、千草が攫われたってのに3日も待たされて・・・・・・!あぁ、許せないさ、妖夢の気持ちが痛いほどわかる、こんな奴らに、千草は、妖夢は、命は渡せねぇ!

 

「【剣の上にて胡座をかけ――】」

 

俺は、魔法を唱える。冷静に考えるならこんな所で切り札を切るべきじゃない、でも、それでもコイツだけは許せない。

 

「ひっ!!・・・ま、まて、話せばわかる。それに俺は命じられていただけで・・・本当だ!信じてくれぇ!?」

 

目の前の何かがなんか言っているが、そんなことはどうでもいい。俺のストレスを発散する為にちょっと協力してもらうだけだ。

 

【――眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】―――――武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)ッ!!」

 

放たれた魔力は雷となり、俺の体や、武器を覆う。部屋がバチバチと青白い光を放つ雷によって照らさせる。

 

「ひっ!ひぃぃい!?」

 

両腕で顔を隠し、怯える男。俺は、そいつに槍を軽く突き刺した。

 

「あばばばばばばばざばばばばばばば!?!?!」

 

感電しのたうち回る男を蹴り飛ばし、気絶した事を確認する。魔法を解除し、千草に向き直る。

 

「ぁ、あの、桜花・・・!なんだよね?」

「あぁ、・・・千草、無事でよかった。」

「ぅぅう、桜花ぁ!」

「うおっ!?・・・はは、こりゃ参った」

 

飛びついてきた千草を受け止める。魔法を解除しておいて良かった。それと同時に妖夢が命を抱えて飛び込んできた。

 

「妖夢ちゃん!?」

 

千草が顔を真っ赤にして俺から飛び退いた。・・・少しだけ傷ついたぞ、千草が最近俺を避けるなぁと思ってたが・・・今回ので昔みたいに戻ると思ってたんだけどな。やはり難しいな女の子って・・・。

 

「おお!千草!お久しぶりです!会いたかったですよ!千草成分を補充しなくては!」「ふぎゅっ!?」

「ふえ!?」

 

妖夢が抱き抱えていた命を喜びのあまり放り投げ、命が面白い声で呻く。そして妖夢が千草に抱きついた。まるで姉妹・・・いや、姉妹だな。

 

「ふふふ、良かったみんな揃って・・・ですよね桜花殿」

「あぁ、そうだな。命は投げられたし良かったな、うん。」

「そんな!?」

 

全員が笑う。あぁ・・・良かった。本当に。

 

だが、まだ終わってない。

 

「妖夢、千草に弓を」

「はい!ええっと半霊から取り出して・・・はいどうぞ!」

 

絶対に半霊に入る大きさじゃないが、和弓が半霊から取り出される。まぁ容量を超えるとハリネズミみたいになるけど。

 

「ありがとう妖夢ちゃん、私も頑張る!」

「はいっ!」

 

今までのあらましを千草にカクカクシカジカと話した。さて、強敵との戦闘だが・・・戦う必要は無い。勝利条件は千草を救うこと。この砦から逃げ出せは俺達の勝ちだ、既に勝ちは確定したも同然、奴らは最奥に居て、俺達は地下、すぐに逃げられる。

 

「さて!あとはキュクロ達を倒すだけですよ!私たちに手を出した事を後悔させてやりましょう!」

 

・・・この調子だと戦うんだろうなぁ。なら俺が誰か引き受けなきゃな、相性的はキュクロだが、妖夢が戦いたそうだし、エン・プーサかなぁ・・・やだなぁあの魔法・・・いや待て、俺の雷なら・・・良し。

 

「・・・わかった、妖夢の意見を採用しよう。俺がエン・プーサを受け持つから妖夢はキュクロとダリルをハルプを使って受け止めてくれ。千草は援護、命は遊撃だ!」

 

「「「はいっ!」」」『おいちょっと待って猿はどうするんだ?』「「「あっ」」」

 

あ、・・・忘れてた。・・・ふむ、猿師さんなら誰か頼めるか・・・?妖夢の負担を減らせるならそれに越したことはないが・・・。

 

「そうでごザルなぁ〜、あのダリルと言う男なら拙者と相性が良いでごザルな」

「そうか、なら猿師さんにはダリルをたの・・・・・・たの・・・・・・」

「「「「『ファッ!?』」」」」

 

いいいいつの間に隣に!?さすが忍者の直系。恐ろしい。そういうスキルを持ってるのか?すごい驚いたんだが・・・。

 

「お、ぉぉ・・・驚きました。・・・あっ、そうだ正面戦闘ならフル装備の方がいいんじゃないです?この装束だと防御力低いですし」

「そうだな、ならとってこれるか?」

『おう、行ってくるぜ』

「頼んだハルプ。」

『へへへ、任せときなよっ!』

 

妖夢の目から光が消えた、ハルプに意識を殆ど移したようだ。会話は聞いていると思うからこのまま作戦会議だな。

 

「じゃあ、猿師さん。なんでダリルを受け持つと?」

 

「ふむ、それは簡単な話でごザル。奴が火を使うなら、それを利用するまで。・・・ふっふっふ、薬品は火にあてると凄いです・・・ごザルよ?」

 

「(今口調が・・・)」「(怒ってるのかな)」「(え、そうなのですか?)」

 

「ふふは!それで、戦法としては、ひたすら逃げつつ奴の火の粉に引火させるだけでごザル。そうすれば勝てるでごザろう。あぁ、合図をするので息を止めるでごザルよ?死ぬかもしれないでごザルから。」

 

こわっ、と誰もが思ったと思う。悪の科学者って感じだ。すごい下衆顔を浮かべている。

 

『とってきたぜ!』

「「「速っ!?」」」

 

「え、ええと・・・そうだな、解散!各自装備を整えよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砦三階、最奥と呼ばれたそこに、3人の人影が、1人は正面の扉を凝視し、大剣を床に突き立ており、1人は暇そうに槍の手入れを。もう1人はブツブツと何事かを呟きながらどうしようと頭を抱えていた。

 

「はぁ・・・・・・早く来ねぇかなぁ・・・ったくそう思わねぇか?魔鉄淫獣?」

 

ダリルがエン・プーサへ話しかける。

 

「ひうぅ、そ、その名前はやめてくださいよぉ・・・!」

 

エン・プーサが両腕を使って顔を隠す。先程までは「あらお兄さん?顔が怖いわよ?」と強気だったというのに。

 

「あぁ?さっきまでの威勢はどこに行きやがったよ」

 

そこをダリルが突くと

 

「へうぅ!やめ、やめてこないで!怖いですぅ」

 

と、両腕を顔の前でブンブン振って無駄な抵抗を試みる。

 

「いや俺動いてねぇからな、キュクロはどう思う

よ?」

 

ダリルはエン・プーサにツッコミを入れ、今度はキュクロに聞いてみる。

 

「向かってくるだろうな、最大限の装備、最大限の警戒と共に。」

 

ただ真面目に、しかめっ面でそう答える。それにダリルは少し嬉しくなったようだ。

 

「へぇ・・・!逃げねぇってか、あの嬢ちゃん達はよ」

 

キュクロは頷き、しかし、と自分の考えを述べた。

 

「・・・逃げたとしても、それは彼女達の勝利。自分から送れる最大の敬意と賞賛を述べ、そして罰を受けるのみ。」

 

「ハッハッハ!アンタに送られても嬢ちゃんは喜ばんだろうさ!」

 

キュクロが真面目に答えたと言うのにダリルは笑う、ウェアウルフの彼だ、そこら辺はヒューマンとの考え方が少し異なるのだろう。

 

「あぁ、そうだろう。その通りだ。・・・だが・・・聞こえたのだ、あの時確かにな。」

 

「聞こえた?何がだよ」

 

「叫びだ、心の叫び。剣を介して伝わるものは多い。」

 

キュクロの言う聞こえた物、それは心の叫び、失われる記憶、奪われた家族。その怒りは、全ては剣に乗って揺らめいている。

 

「ハハハハ!そいつは愉快だな!んで?どんなもんだのさ」

 

ダリルがまるで信じていないのか再び笑いながら話を促す。エン・プーサはガタガタ震えながらも内容自体は気になるのか耳を傾けている。

 

「怒り、憎しみ、悲しみ、不安、疑問、混乱。全てが入り混じったような混沌。・・・・・・詳しくはわからぬ、難問を解くにはこの頭では無理であろうよ」

 

エン・プーサが悲鳴を上げながら床に転がった。

 

「へぇ・・・そうかよ。ま、暇つぶしにはなったわ、俺も小難しい事は苦手なんでね」

 

そんなエン・プーサを横目に見ながらダリルは少しだけ表情を濁らせた。

 

「ひっ!!来ます来ます!来ちゃいますよ!どうしましょう!なんだかさっきより増えてるんですけど!」

 

床に転がっていたからだろうか、エン・プーサが複数の足音を聞き取った。

 

「あたりめぇだろ、あっちは誘拐されたヤツを助け出して全戦力で来てんだからよ」

 

ダリルは悲鳴を冷静に受け流しやれやれと肩を上げる。

 

「ふえぇぇ、もうダメだぁ・・・おしまいだァ・・・キュクロさぁん助けてぇ!」

 

キュクロに助けを求めるエン・プーサ、しかし、キュクロの返答は真面目なもの、しかし、その隻眼は優しげにエン・プーサを見る。

 

「自分は主に命じられた、故に、此処で戦う。・・・・・・・・・お前達の主神はお前達に・・・「死ね」と命じたか?」

 

しかし、その表情はすぐさま凍ったようにしかめっ面に戻った。2人はそれに当てられたように凍りつく。「死ね」果たしてそれは命令なのだろうか?戦争に兵を出すのは確かに「死ね」と命令する事だ。しかし、これは戦争遊戯、あくまで遊戯なのだ、死ななくてはならない理由がキュクロにある訳もない、そして何より、キュクロの主神は愛の神、ならばなぜ愛するファミリアの団員に死ねと命じるのだろうか。

 

「・・・・・・いや、言われちゃいねえよ。」

「い、言われてないです・・・うぅ」

 

二人の神は聡明でも無いが確かな愛を注いでいた、必ず帰ってこいとそう言われ送り出されたのだから。

 

「・・・ならば立ち去れ。自分は、お前達の死を甘んじて見過ごせる程の賢者では無いのでな。」

 

キュクロが遠い目で何処かを見つめる。その虚ろな片目は一体「いつ」を見つめているのだろうか。それは苦しくも順風満帆な日々を送っていたファミリア設立当初か、エロスに救われたその瞬間か、その両方か。

 

「・・・・・・な、なら!キュクロさんは死んでも!自分が死んでもいいって言うんですか!?」

「よせ魔鉄淫獣・・・」

「キュクロさん!」

 

エン・プーサが必死になって止めようとする、しかしダリルがその腕を掴み止めさせる。男の矜持、それを邪魔する事は出来ないのだ。

 

「・・・・・・死に様こそが生き様と、自分はそう信じている。」

 

キュクロは呟く。ぇ、と小さくエン・プーサの声が響いた。

 

「死を直面した時、人の奥底の物が垣間見得るだろう。・・・ならば、自分のそれは、一体どの様な物なのだろうと思ってな・・・。

自分は忠義の戦士、忠に生き、忠に死ぬのだと。・・・あぁ、昔ならば一遍の迷いなく、そう言いきれたのだろう。」

 

キュクロは目を固く瞑り、大剣の柄を握りしめる。それは不甲斐ない自分を責めるものであり、自分への怒りの表れだった。

 

「・・・自分は、貫けるだろうか。自らの生き様と定めたこの道を。あの者達を見て、自分の心は僅かに揺すられた、揺すられてしまった。疑問を持ってしまったのだ、忠義とは・・・盲目的に絶対な信頼を寄せ、有無を言わずに従う事なのか・・・とな。だから気づいた、主を正さず、いや、正そうとせずこうなってしまったのは他でもない俺のせいなのだと。」

 

握り締められた剣の柄から血が垂れている。どれだけ強く握りしめているのだろうか、それが過去への悔しさの現れだった。

 

「だから、俺達を巻き込みたくねぇってか?」

 

キュクロの内心をしっかりと理解したダリルはニヤケ顔でそう問いかける。

 

「あぁ」

 

キュクロは閉じていた隻眼を開き頷いた。あぁ、どうか逃げてくれ、俺と共に戦う等と言わないでくれ。失った目の奥が疼く。しかし、キュクロの願いは届かない。

 

「はっ!やなこった!俺は俺の道を行く、勘違いすんじゃねぇぞ??今回はたまたま道が一緒なだけだ。あの世まで一緒はゴメンだぜ」

「そ、そうですよ!私も戦いは嫌いですし苦手ですが!皆さんが見ているんです!がんばりますっ!」

 

1人は自らの欲望のため、キュクロの提案を蹴った。1人はその優しさ故にキュクロと共に戦うと残った。キュクロは床を見つめる。

 

「・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・やはり、ままならぬな・・・」

 

その呟きが2人に届く事はなかった、扉が開き、妖夢達が入ってきたからだ。

 

覚悟は出来ていた。何時か死ぬのなら主の為に。

 

「いざ―――――この命を捧げん・・・・・・!」

 

小さく・・・・・・嘆いた。







誤字脱字があったら報告お願いします!

ハルプ『それじゃあ次回予告をやってくぜ!』

(`・ω・´)(U ^ω^)「わー、パチパチ(棒)」

ハルプ『次回!決意を決めたキュクロ達の前に現れた妖夢一行!放てキュクロの邪気眼!危ない!石化したら負けちゃうぞっ!勝つんだ妖夢!勝つんだ俺!』

U・д・U「なぁ、もう帰っていいか?」
(´・ω・`)「俺も帰っていいだろうか、あくまで魂魄妖夢の護衛役なのでな、スキルに構っている暇はない」

ハルプ『ガビーーん!!・・・・・・ぐすん、寂しくなんかないやい!とりあえず次回も楽しみにしててくれよな!』


【キャラ紹介】

名前:カシマ・桜花

【ステイタス】
レベル2
力B
耐久A
器用B
敏捷B
魔力C
発展アビリティ
狩人G
スキル

『剣座不動』
・耐久上昇、耐久ステイタスに成長補正。
・敵の標的にされやすくなる。

『勇往邁進(ゆうおうまいしん)』
・自身の鼓舞。
・決断する勇気を得る。


『雷神眷属』
・雷の魔法に適性を得る。
・雷属性に対する耐性を得る
・雷の起動を読む事が出来る。

魔法
『武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)』
【剣の上にて胡座をかけ、眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】
・武器、肉体に雷属性を付与。
・耐久、敏捷、筋力に補正。
・肉体に雷ダメージ
・雷の解放(任意)。

【備考】

幼い時から妖夢と共に育ち、武芸を学んだ兄妹の様な存在。高ステイタスなのは妖夢との訓練の賜物。情に厚いが、必要な時は冷徹な判断を下せるタイプ。妖夢達を妹の様に可愛がっている。

【戦闘力】

高いステイタスと高い技量で相手を圧倒するまさにタケミカヅチファミリアの代表者、最も得意な武器は槍と素手である、これは妖夢に対抗する為に必死に練習したからであり、槍なら妖夢を圧倒できる程の技量を持つ。パワーファイターであるものの、ステイタスに振り回されることは無い。なおタケミカヅチファミリアの団員は全員ステイタスに振り回される事は無い。パーティーで行動する際は団長としてしっかりと采配をとる。


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