オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか? 作:シフシフ
東方ヴォーカルを聞きながらバトルフィールドをやっていたら滅茶苦茶キルされたぜ・・・足音が聞こえん(当り前)
今回の話しは要らなかったかなー、と思うのですが15話です。
気を付けて、刀は急に、止まれない。妖夢、心の1句。
・・・いやー、まさかベル君が飛び出てくるとは・・・、捕まえてギルドに叩きだそうと思って逆刃にして無かったらベル君ゆっくり饅頭になる所だったぜ。桜花と千草も殆ど同時に反応していたけど、武器を振るのは俺が圧倒的に速かった、多分2人は誰なのかを確認しようとしたんだろう。ごめんねベル君。あ、ちなみに千草はリボンを頭の横に結んでいる。・・・前髪は下ろしている、恥ずかしいらしい。
「ナイスだ妖夢!千草、縄だ縄!」
「う、うん!待ってね今出すから!」
うん、まぁ今回はベル君が悪いよね?あんなん警戒するに決まってるじゃんよ、まぁ謝ろうとしてくれてたみたいだけど。・・・てか、この時期だと・・・リリも居る筈だよな?・・・どこだ?まさかベル君を置いて逃げるなんてことは・・・あ、有り得そうだ、まだ改心してないだろ確か。とりあえず近くにいるなら出てきてもらうか。俺は意識を研ぎ澄ます。耳を澄まし、呼吸を止める。
小さな、本当に小さな足音を捉えた。そこか!
「そこです!」
全力で走り、横道を壁を蹴って曲がり、リリの前に躍り出る。この間1秒くらい!
「ひっ・・・・・・!」
顔を真っ青にしながらリリが固まる。・・・?何で固まって・・・あ、勢い余って刀を首筋に押し当ててたのか、悪い悪い。・・・でも、リリの事を全く知らなかったら普通にこうしてるんだろうなー。そう言えば俺って原作知識が無ければリリの事を知ってる筈ないよな・・・なら合わせるか。
「何者ですか?兎さん・・・ベル・クラネルさんのお仲間ですか?・・・もし、貴女がベル・クラネルさんを利用し、私達に不意打ちをしようとしていたのなら・・・その首、ここに置いていって貰います。」
更にその顔を青くするリリ、フッふっふ、なかなかカッコ良く無かったか?兎さんって言ったところを除けばなかなか良かったよね?あ、そう言えば今正に利用するだけ利用しよう、みたいな感じで行動してるんだっけリリは。なるほど、図星だったからより青くなってるのね。
「わ、私は・・・リリルカ・アーデです・・・べ、ベル様のサポーターとしてここにいます・・・その、冒険者様を罠にかけようとか思っていなくてですね、中層に向かうと声が聞こえたので道を譲ろうと・・・ですが途中から冒険者様方が警戒し始めたのでベル様が謝りに行こうとしたのです。」
リリの頬を1滴の汗が伝う、ごめんなリリ、一応初対面なんだよ、俺が出会ったリリはパルゥムなんだ。・・・まぁ、リリの話しを信じたい、と言うか信じてるが、初対面の俺は警戒するだろう、きっと。
「それが真実であると言う証拠は?」
首に添えられた刀がカチャリと音を立てる。
「・・・ベル様に、聞いていただければ良いかと・・・」
うんまぁこれくらいかな?ごめんなー、本当はやりたくなかったんだよ?ホントだよ?初対面でリリ呼びは可笑しいだろうしリリルカって呼ぼう、リリって呼んでくださいって言われたら呼ばせてもらおうか。
「それもそうですね、すみませんでした。リリルカ」
俺が刀をしまうと、安心したのかその場にへたり込むリリルカ、・・・何か俺が悪いみたいじゃないか・・・知っていてやってるから俺も悪いのはわかるけど。
それにしてもバックパック・・・てかそのデカイリュックサック凄いな、主に見た目が。・・・あの中入ってみたいなー。って、早く2人の誤解を解かなくては。リリルカ、少し失礼するぞ。
「え?ええ?!何ですか!?」
よっこいしょういちっと、意外と軽いな、まだ余り潜ってないのか?・・・ええい暴れるな!持ちづらいだろ。
「暴れないでください。持ちづらいです。」
「持たないでくださいよ!?」
「腰を抜かしてる様に見えますが?」
「ッ!リリは大丈夫です・・・下ろしてください。」
「下ろしますよ?ベル・クラネルさんの所についたら」
「・・・もう勝手にしてください・・・」
勝ったぜ。
ベル様が走っていく、憎い冒険者達の元へ。止めるために手を伸ばしたが振り払われてしまった。
「すみません!妖夢さ――」
一瞬ベル様の声が聞こえると同時にドサッという何か重い物が地面に崩れ落ちる音が聞こえた。殺られた、そう思った。彼は十分稼いでくれた、なら速くここからずらかろう、急いでは駄目だ、追いつかれる。静かに、ゆっくり・・・。
「そこです!」
声が聞こえ振り返る――否、振り返る間もなかった。首に冷たい何かが当たる。
「ひっ・・・・・・!」
息が詰まる、こうして武器で脅された事など1度や2度ではない、もはや慣れたとすら言っていいかもしれない。首筋に押し当てられた刀など怖くは無いのだ、目、その目が私を恐怖させる。どんな刃よりも鋭い光を放つ目。
「何者ですか?兎さん・・・ベル・クラネルさんのお仲間ですか?・・・もし、貴女がベル・クラネルさんを利用し、私達に不意打ちをしようとしていたのなら・・・その首、ここに置いていって貰います。」
そう言ってニヤリと口の端を上げる。そうか、斬り落とされたのだ、私などどうでもいい、そう言っている。彼女の中では既に私の首が落とされるのは決定事項に違いない。ただ、自身が無実である事は証明したかった、無視されても構わない、聞いているなら答えてやる。震える声を振り絞り、ことの経緯を説明する。
「わ、私は・・・リリルカ・アーデです・・・べ、ベル様のサポーターとしてここにいます・・・その、冒険者様を罠にかけようとか思っていなくてですね、中層に向かうと声が聞こえたので道を譲ろうと・・・ですが途中から冒険者様方が警戒し始めたのでベル様が謝りに行こうとしたのです。」
汚らわしい冒険者め、お前達さえ居なければ私は・・・そう思ってしまう。・・・なのに、何故この後に及んで生きたいと願ってしまうのだろう、何故今になってベル様の顔が脳裏にチラつくのだろう・・・アイツも他と同じ筈なのに・・・。嫌な汗が頬を伝う。
「それが真実であると言う証拠は?」
ニヤリとした笑みを消し、眼光がより鋭利になった。ここだ、ここで全てが決まる。だが私が何を言った所で信じはしないだろう、ならばどうとでもなれ、次の私はもっと良い私の筈だから。私は思考を投げ出した。
「・・・ベル様に、聞いていただければ良いかと・・・」
思考を投げ出し、出て来た言葉はそれだった。
「それもそうですね、すみませんでした。リリルカ」
先程までの鋭さはどこへ行ったと言うのだろう、目の前に居るのはただの美少女だった。首や心臓を貫くかのような殺意は消え、武器はしまわれた。突如足元がおぼつかなくなる、安心して力が抜けてしまったのだろう。
少しの間お互いに無言になる、不思議そうに私のバックを眺める少女、彼女がヨウムだろうか?だとしたらベル様に言っておこう、豊穣の女主人の他にヨウムなる冒険者の元にも連れて行かないでくれと。
しばらくしてハッとなった少女は急に私を抱き上げた。
「え?ええ?!何ですか!?」
思わず声が出る、バックを眺めていた事から、中身を盗んで行くかも、と予想していたのに・・・まさか私ごとだなんて予想外だった。必死に抵抗を試みるものの、その
身体のどこにそんな力があるんだと言いたくなる様な力だ、レベル2と言う推測は当たっていたらしい。
その後も「持ちずらい」と言われたり、持つなよ、と言うツッコミを「腰が抜けている様に見えたから」とお前がやったんだろと言いたくなる様なセリフを吐きやがりましたので、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれと抵抗を止めたのだった。抵抗を止めた時凄いドヤ顔をされたのが気に食わなかった。
水中から浮き上がる様に意識が戻る。
「・・・様・・・ベル様!起きて下さい!速くしないとリリの首が危ないんです!」
リリの・・・首が?何を言っているのだろう・・・確か僕は妖夢さんの誤解を解こうと・・・。ベルはそこまで思い出し、別の可能性に気が付く。もしかしてモンスターに襲われているのでは、なぜなら記憶は横道から飛び出した所で終わっているからだ、ここがダンジョンならモンスター襲われる可能性は非常に高い。
「リリ!?大丈夫!?」
「ひゃい!?だ、大丈夫です・・・」
驚くリリを自分の背後に回し、周囲を見渡す。そしてこちらから一歩離れた位置で妖夢達がこちらを見ており、モンスターの死体がいくつか増えている事に気がついた。
「ち、違うんです!妖夢さん達の邪魔をするつもりは無くて!罠とかそういうのじゃないんです!?」
顔を真っ青にしながら慌てたように一気に話すベル、それに妖夢は苦笑する。
「ええ、わかっていますよ。リリルカに聞きましたから。ベル・クラネルさんは恩を仇で返す人では無いと思いますし」
ベルは「は、はい・・・すみませんでした」と謝り、自らの未熟さを恥じる、あんなに一瞬でやられてしまうなんて・・・あの人にはまだまだ遠いな、ベルが若干頬を染め俯いていると腕を組み静観していた桜花が口を開く。
「解せないな」
「え?」
解せない、つまりは自分の潔白は証明出来ていないのだろうか、ベルは不安になり桜花を見上げるが、それに対し桜花は困ったように笑った。
「はは、いや違う。お前の事じゃない・・・いや、お前の事か?まさか妖夢がフルネームで、しかもさん付けする人物が居るとはな・・・」
「え?え?」
「みょん?ベル・クラネルさんの呼び方は案外適当ですよ?兎さんって呼ぶ時もありますし」
「え?えぇ・・・」
誤解が解けたことは嬉しいが色々と悲しいベルだった。
最近・・・命とダンジョンに潜っていない・・・あ、俺です。最近は修行やダンジョン潜りでプライベートな時間が無いぜ、命との会話がご飯の時と寝る時ぐらいしか無くなってしまっている。寝る時は俺、命、千草で川の字に寝ているんだが・・・どうやら最近命はこっそり1人で特訓をしている様だ。何でもタケミカヅチにダンジョン内での使用を制限された魔法・・・フツノミタマだったか?それの詠唱を練習しているらしい。
・・・詠唱文の暗記とか結構キツイよねー、そう言えば俺の魔法の【西行妖】とか1回も使ったこと無いなー。どんな魔法何だろうね、・・・・・・即死魔法とか?いや、死にたくなる魔法?なんだそれ(笑)
こうしちゃ居られねぇ!俺も魔法の特訓だ!ただし西行妖テメェは駄目だ、何が起こるかわからん以上街中では使えない、怖くて使えない。
庭先に出た俺は魔法を唱え、楼観剣を呼び出す事にした。きちんと魔力を使って発動だ。
「【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】来いっ楼観剣!」ドヤァ
もう一度言おう、斬れない物などあんまり無い!あんまり!・・・恥ずかしいわっ!詠唱にそれを入れるんじゃないよ、詠唱にそれ入れたら言いたくなくても言わなきゃいけなくなるだろが!恥ずかしくて街中で使った時めっちゃ小さい声で唱えたからね?
今日は1日中フリーだ、最近はダンジョンに通いつめていたし少しは休め、そう言われたのでこうして真昼間から修行しています。暇だわー・・・あ、そう言えばミアハ・ファミリアとかどうなったのかな?見に行ってみようかな?・・・ふむ、ならば適当に手土産でも買っていくか。
という訳でミアハ・ファミリアに来た、自分のお気に入りのいちごケーキを片手に。どういう訳か猿・・・猿師と純鈴も一緒だ。
「さぁ、行くでごザルよ!いい返事が聴けるといいでごザルな〜」
「そうね、でもお父さん焦ったらダメよ?」
2人の会話を聞きながら俺は扉を開ける。来店を知らせる鈴が鳴り、カウンターに座っていたナァーザは耳をピクッと動かした後こちらを向いた。
「妖夢・・・と猿師さん、と誰?」
可愛らしく首を傾げながら純鈴を見るナァーザ、俺がことの経緯を説明し、納得したのかお茶を出すために奥に入っていった。
ここから先は拙者に任せるでごザルよ、と猿師が言ったので俺は早速ケーキを頂くことにした。ま、俺のお小遣いで買ったやつだから誰も文句は言うまい。・・・で純鈴?そんなにチラチラ見てないで食べたいなら食べたいと言いなさいな。
「純鈴?食べてもいいですよ?」
「本当?ありがとうね」
その後も話は続き、どうやら依頼を受けてくれるらしい。それと、次いでにデュアル・ポーションを作りたいとナァーザが言ったので、俺が行く!という前に猿が口を開く。
「そうでごザルか!拙者もそのデュアル・ポーション手伝うでごザルよ、いや〜新薬が生まれるのでござろう?これでまた救われる命が増えると言うもの、さぁ善は急げ、でごザル!」
〜少女卵強奪中〜
「えっと誰が行くんですか?」
「頑張って」「ファイトでごザルよ」「気をつけるのだぞ」
「ですよね、知ってました。・・・この肉団子の入った鞄を持って走り続ければいいんですよね?」
「うん」「そうでごザル」「そうだ」
「・・・斬っちゃだめですか?」
「生態系が壊われる」「弱体化しているからこそ、安いコストで売れるのでござろう?弱体化していなければ奴らはレベル4相当でごザル」
「そう、ですよね」
「「ギャオオオオオオオオオオオオオ!」」
「みょおおおおおおおおおおおん!」
「ゴーゴーゴー!」「前進前進前進!」「確保ぉ!」
「「ギャオオオオオオオオオオオオオ!!」」
「「みょおおおおおおおおおおおん!?」」
「撤退撤退!」「もういいぞ妖夢よ!」「秘技!煙幕の術!」
「こほっゲホッ!お猿さん!タイミングが速いですっ!?」
「も、申し訳ないでごザルよ!やっぱり20年のブランクは大きいでごサルな〜」
「しみじみしてる場合じゃない、速く逃げるよ・・・」
〜少女卵強奪完了〜
・・・はぁ、丸一日使ったぜ・・・、疲れた。あの後、猿師、純鈴、ナァーザ、ミアハの4人は早速デュアル・ポーションの作成、研究、意見の交換をするためにミアハ・ファミリアに向かった。もう夜で、真っ暗だ。今夜の夕食当番は桜花だったか・・・桜花の料理は繊細さは無いものの、豪快な男料理って感じで食べごたえがある。猿師の作る栄養食よりは絶対に美味しいだろう。
「速く帰らなくては・・・」
はぁ、オラリオから出るための手続きが結構長かった、予想より遥かに長かった。近道するかー、タケって心配すると変に行動力が高くなるからなー。俺が横道に曲がり、小走りで急いでいると、ふと視線を感じた。
それも真後ろから。―敵?それともロリコン神か?
ゆっくりと振り返る。そこには筋肉質の大男が―――。
ええぇ・・・「〇イトリクス」ってお前だったのか・・・オッタル。・・・イケメン度が増すと同時にストーカーロリコン疑惑が浮上したぞ。俺は一応刀を意識しつつ声をかける、まぁ、意識した所で反応する前にやられると思うけど。
「これはオッタルさん、私に何か御用ですか?」
俺がそう言うとオッタルは若干疲れた様な雰囲気を出しながら近づいてくる。
「・・・魂魄妖夢、余り夜遅くに出歩くな。」
お前は俺の母親か、・・・まさかそれだけではあるまい?
「それだけでは無いのでしょう?」
「あぁ、これを渡したくてな」
そう言ってオッタルは一つの本を俺に渡してくる。・・・なになに、『コボルトでも分かる魔法習得術』?・・・え?あの〜これって・・・え?なんで俺に?ベル君は貰ったの?あ、ベル君はゴブリンでもわかる方か、いやそうじゃなくてだな、つまりは俺ってフレイヤに狙われてるの?厄介だなぁ。
「これは・・・・・・・・・私は狙われている、と。なるほど、厄介ですね」
勝手に口から飛び出た言葉にオッタルは僅かに驚いた様な気がするが、まぁいい。何故これを俺に渡したのか、それが重要だ。俺はベル君と違って魔法は既に持ってる、しかも二つ。何故今になって渡しに来たのだろうか?スロットは確かにあと一つ空いているが。
「何故これを?魔法はすでに持っています。」
俺の言葉にオッタルは無言で答える。いや、何ですか?何が言いたいんだよ。そう思ったら口を開いた。あ、考えてたのか。
「強くなれ、魂魄妖夢。お前にはその義務があり、それを成す力がある。・・・これは俺からの個人的な贈り物だ。」
え?・・・個人的な贈り物?あれ・・・
「え?!えっと、こんな高い物受け取れませんよ!!」
そうだそうだ!受け取ったら後が怖いだろ!負けないぞ、その誘惑には負けないぞ!
「受け取ってくれないのか?ふむ・・・それでは無駄な出費になってしまうな。俺はお前の為にと思って買ったのだが」
・・・こ、コイツ・・・確かに勿体無いけど、同じファミリアの人に渡せばいいじゃんか。あー、でもなぁ、前は助けてもらったし無碍にもできないし・・・でもフレイヤに追いかけられるのは嫌だし・・・ぐぬぬ。こ、ここは取り敢えず話を逸らして考える時間を稼ごう。
「・・・何故オッタルさんは私を守るのですか?」
その質問にオッタルは思案する様に目を逸らす。
「確たる証拠など無いが・・・フレイヤ様より命じられた時、俺がお前を守るのは命じられたからだと思っていた。だが、お前を見守り、近付く不審な輩を止めている内に何かが変わったのだろう。」
オッタルは少しの間目を閉じ、話し始めると共に目を開く。
「俺は常にお前を守る事は出来ない。そして困難は常に付きまとう、お前の行動、性格を考えればこれからも厄介事に巻き込まれるのだろう。」
オッタルはその言葉と共に魔道書を差し出す。
「冒険をしろ、魂魄妖夢。危険を犯せ、死中に飛び込め、でなければお前は強くはなれん。お前は―――俺と同類だ。」
真剣な表情でそう言い切ったオッタルに、俺はどうする事も出来ずポカンとしていた。何も言うことが出来なかった。
何が変わったんだよ、母性でも目覚めたか?・・・まぁいい、取り敢えず魔道書は要らないと言わなきゃ・・・ん?なんか重い・・・え?なにこれ、ふむふむ『コボルトでも分かる魔法習得術』?
ハッとして辺りを見回す、思考が停止していた時間はほんの僅か、しかしオッタルの姿は無い、思考が停止している間に手に持たせ、そして帰ったのだろう、全速力で。
んー、あの野郎め・・・まぁ仕方ない、俺の為に買ってくれたのなら読んでやろう。あんなに頼まれたから読むんだからな?ホントは読むつもりは無かったんだからな?仕方なく、そう仕方なくなんだ。・・・つってもこの場で読んだら誰に何をされるかわかったものじゃない、家に帰ってからにしよう。
夜は深く、街は眠る。明かりは月の光のみ、薄暗い世界の中で俺はそっと本を開く。ドキがムネムネでパルプモードなのに手汗が出そうだ。体は既に就寝中。ベル君と違って値段知ってるからな〜、ゴクリと唾を飲み込み、文字を目で追う。
『魔法は先天系と後天系の二つに大別することが出来る。先天系とは言わずもがな対象の素質、種族の根底に関わるものを指す。古よりの魔法種族はその潜在的長所から修行・儀式による魔法の早期習得が見込め、属性に偏りがある分、総じて強力かつ規模の高い効果が多い』
文字の間に数式の様な何かが走っている、恐らく詠唱式だと思う。読んでいるうちに頭に叩き込まれているのだろう。
『後天系は『神の恩恵』を媒介にして芽吹く可能性、自己実現である。規則性は皆無、無限の岐路がそこにはある。【経験値】に依るところが大きい』
なるほど、後天系がヒューマンとかでエルフとかが先天系なのか、・・・確かにリヴェリアなら恩恵無しでアホみたいな強力な魔法撃ちそうだなぁ。
『魔法とは興味である。後天系に限って言えばこの要素は重要だ。何事に関心を抱き、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか。引き鉄は常に己の中に介在する。『神の恩恵』は常に己の心を白日のもとに抉り出す』
己を白日にねぇ・・・最早己なんて見失いかけているが・・・ちゃんと発動するよね?・・・あ、どうなるんだろ?妖夢の顔が出てくるのかな、それとも「俺」?自分の顔なんてこれっぽっちも覚えていないが。
『欲するなら問え。欲するなら砕け。欲するなら刮目せよ。虚偽を許さない醜悪な鏡はここに用意した』
見た事の無い複雑怪奇な記号群が現れ、それを認識した途端、俺の意識は強引に引きずり込まれた。
ページをめくる。そうすれば【落書き】が現れる。
―おお、・・・ん?何も始まらないぞ?
しかしいつまで経っても原作の様な変化は訪れず、声が聞こえてくることも無い。
『・・・・・・・・・』
顔も身体も真っ黒に塗り潰された幼稚園児の落書きの様な何かは話さない、否、話せないのだろう。
――おーい!あのー?始めないんすかー?白日に晒し出してないやん。
『うおおおおおぉぉぉ!弾けとべぇ!?』パリーン
―うおぅ!?
空間に突如ヒビが入り、駄神飛び込んでくる。
『やーやー、HELLOハロー。いやー、やっとこさyouに教えたい事を思い出して・・・・・・どういう状況だい?』
―俺が聞きたい。魔道書に取り込まれて自分の知らない自分を見せられると思っていたらそんな事は無かった、うん、それだけ。
『あー・・・ご愁傷さま?』
―・・・怒るぞ?俺今でも怒ってるからな?記憶の事とか体の事とか。
『ハハハ。さて、どうやらそこの真っ黒黒助は自己表現が出来ない様子じゃぁないか。どうだろうか、ここは俺っちに任せるってのは?』
―やだ。嫌な予感しかしねぇ、絶てぇにお前に頼むと碌でもない魔法掴まされるわ。じゃが丸君召喚魔法とかな。
『おおぉ!イィじゃないかじゃが丸君召喚魔法www!あれだねぇ、アイズヴァレンシュタインを餌付けできるねぇ!』
―いらんがな。・・・まぁ、終らせないとここから出られそうに無いし・・・致し方が無い。
『酷い言い草だねぇ、こんなにも素晴らしい神様が見てやろうと言っているのにwww』
―何処がだよ!書類ミスで麗しい少年をころがしてるんですけど?!しかも転生体もミスったろ!?女だよ女!なんでだよ!男にしてくれよぉ!
『まぁまぁそんなに怒るなってwww・・・いい思いもしたろ?ドュフフwww』
―うるせぇ!!さっさと始めるぞ!
『あいあいー、・・・ん?「駄神でもわかるグリモア講座」?ほー凄いものもあったもんだぁ・・・じゃあここにあるとおりに進めるよー・・・・・・チミにとって魔法って何だい?』
―え?えー、魔法か、俺にとっての魔法・・・そうだなぁ・・・強くなる為の力・・・かな。
『強くなる為の力・・・かな(イケボ)www』
―笑うなぁ!お前が言えって言ったんじゃんかよぉ〜!このバァカ!
『クフフwww・・・君にとって魔法って?』
―無視ぃ!?え、ええと、何かを成す為の原動力。
『其方にとって魔法はどんなもの?』
―ねぇさっきから遊んでるよね?呼び方で遊んでるよね?・・・魔法は救済。不可能を可能にする力。
『魔法に何を求める?』
―力だ、誰かを助ける力。速さがなくては間に合わない、強さが無ければ立ち向かえない、だから力が欲しい。
『それだけか?』
―あぁ、それだけだ。生憎と英雄の一撃は腐るほど持ち歩いてるものでね。俺は自分を、自分の大切な人々を忘れてしまった。・・・自分を守る価値などない・・・ならば他人を守ろう、友人を守ろう、新たに得た家族を守ろう、自分の全てを掛けてでも。それを行う力には価値がある。故に欲する。
『・・・もしもそれを成すだけの力が既にあるとしても?』
―勿論、少しでも可能性はあった方がいいからな。
『・・・成程。やはり・・・お前は愚か者だ』
―あぁそうさ、だが――
『
次回!戦闘回と言ったな・・・あれは嘘だ(真顔)
【魔道書】
説明文は原作のまんまです。・・・一体どうして駄神が現れたのだ?答え、指が滑った。
【天切】
千草が妖夢のために選んだ刀。掘り出し物という程でもないが妖夢にあった物が選ばれている。
切れ味より耐久性を優先させた打刀である。
3万ヴァリス。
【新しい魔法】
・・・一体どんな魔法なんだ。