生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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お気に入りが1000を越えているのに驚きの作者です。
あと、ランキングに載って驚きの作者です。
...計算通りです(白目)。



#3

「そういえば、ベル。君はどこのファミリアに所属しているの?」

 ヴァリスを数えているヘファイストスがふと、思い付いたようにそう言った。

「ははは、実は僕、冒険者じゃないので...普通にアルバイト生活ですよ」

 そう笑いながら答えるベル。

 しかし、その返答に対してヘファイストスの表情は石のように固まってしまっていた。

「えっと、どうしました...?」

 ヘファイストスはヴァリスを数えていた手を止めて、額に手を当てて、片手を此方にむけながらこう言った。

「...あぁ、ちょっと待って。...今、頭の中を整理しているから。えっと、もう一回言ってくれる?」

「だから、僕は冒険者じゃありませんって」

 実際問題、さっきのを聞き逃していることなどはありえないとは思うがベルは律儀に答えた。

 恐らく、ヘファイストスがわざと聞いているのだと、そう思って。

「それならこの角はどうやって手に入れたの? まさか、他の冒険者から盗んだってとかは...」

 ヘファイストスは先程ベルに対して「分かってはいたけど、見た目に反して結構強いのね」、そう言った。

 見た目に反して、その部分の所はベルにとっては要らないところではあるが、それでもヘファイストスが、超越存在(デウス・デア)が、神がそれを認めたのだ。

 彼の実力を。

 しかし、聞いてみれば、ファミリアに属していないとベルは言った。

 まさか、実力を量り損ねたとは思えなかった。

 本来、地上の人々は神と契約し、ファミリアに属することでその恩恵を受けることができる。

 恩恵を受けているのと受けていないのとでは、その力に天と地の差がある。

 恩恵を受けたばかりの冒険初心者でも、一階層のゴブリンをいきなり倒せるようになるくらいだ。

 尚且つ、戦ってステイタスやレベルを上げることで遥か高みに登る事さえ可能だ。

 超人の如き力を発揮できるのだ。

 それなのにこの少年は、その恩恵を受けずにミノタウロスを倒したとでもいうのだろうか。

 更に言えば、ベルは『見た目に反して』のところには反応したが、『強いのね』のところには反応していなかった。

 素の反応だとすれば、ベル自身強いということを否定はしていないということになる。

 この時点で一体どちらなのかは、ヘファイストスには判断出来ない。

「盗んだなんて酷いですね...バイト先で貰ったんですよ。よく分からないからやるよって。それで、調べてみたらミノタウロスの角だったんで、ここに来たんですよ」

 ベルはそう言って、手を横に振りながら(・・・・・・・・・)、それを否定した。

「確かにそこら辺の人達よりかは腕っぷしはあるとは思いますけど、それでもミノタウロスなんて倒せませんよ」

 それこそ殺されちゃいますよ、そう言いきるベル。

「...そうね。確かに嘘はついてない(・・・・・・・・・)みたいね。悪かったわ。疑ってしまって...」

 ベルを見て、違和感はある(・・・・・・)が、嘘をついてないことを確信したヘファイストスは、そう言って、頭を下げた。

「ちょっ、止めて下さい! 神様にって言うか、女性に

頭を下げさせてしまうなんて、逆にこっちが悪いというか...」

 ベルは焦りながらもすぐさまヘファイストスの頭を上げさせた。

 周りの視線が殺到してしまう前に。

「...君はもしかしてあれなの? フェミニストとかだっりするの?」

 少し呆れたようにヘファイストスは聞いてくる。

「...じいちゃんに昔から女性は大切にしろって教わってきましたからね」

「随分と良いお祖父様じゃない」

 そう言ってヘファイストスが褒めると、まるで自分の事のように喜び、顔を輝かせるベル。

 お祖父様のことを随分と慕っているみたいと、ヘファイストスは感心していた。

「はい、だからさっきのだって、『女に対して"誤ってはいい"が、決して"謝らせてはいけない"』っていう教えをですね...」

「...やっぱり、君のお祖父様は悪い人だよ」

「どうしてですか!?」

 急に評価を逆転させたヘファイストスに対して、驚くベル。

「いや、その言葉...字面というか、多分意味合いが違うんだろうけど、うーん...」

 恐らく、"ヤってしまうのはいいが、それなら責任を取れ"とれとか、そういう意味合いなのだろうと、ヘファイストスは神の理解力で判断した。

 邪推とか、そういう風に思われるかもしれないが、そうとしかヘファイストスは聞こえなかった。

 決してヘファイストスはむっつりではない。

 目の前の少年は捉え方が違うらしい。

 というか、一体子供に何を教えているのか、ただの好色翁ではないか、憤慨するヘファイストスであった。

「うん、取り敢えずベルにはまだ早いことね」

「えー何ですか、それー」

 ベルは見るからにテンションが下がっていた。

 相当慕っているだろう、そう思うと、少しだけ可愛そうになってくるヘファイストス。

 二重の意味で。

「いいから! ...はい、これ。一応数えてちょうだいね」

 いつの間にか、勘定を終えていたヘファイストスは、そう言ってミノタウロスの角の買い取り料金である12000ヴァリスを、差し出した。

「ありがとうございます!」

 そう言って、ベルは一応確認をする。

 彼女のことだから、ちょろまかすことなど絶対にあり得ないとは思うが、それは形式上の行為であった。

「ねぇ、ベル。君は...」

 大金を前にして、目を輝かせているベルに微笑ましいものを感じつつ、ヘファイストスは声をかけようとした。

「はい? 何でしょう?」

「...ううん、何でもないわ。...取り敢えず、無茶はしないようにね」

 ヘファイストスは一瞬何かを考えるも、すぐに呑み込んでそう言った。

「...あ、はい、気をつけます。って言ってもそんなことないとは思いますけどね」

 ハハハと笑いつつ、ベルはヴァリスを皮袋に入れて、腰のベルトにくくりつけた。

「...そうね、またここに来なさい。武器を買いに来るとか、そういう理由が無くても。今度はお茶でもご馳走するわ」

「えっと...はい、分かりました」

 すると、突然のヘファイストスのお誘いにベルは驚くも、それに対しすぐに頷いた。

「...神様にお茶に誘われるなんて、光栄ですね」

「そう、光栄なことなんだから、ちゃんと顔出しなさいよ」

 ヘファイストスが冗談めかして言うと、ベルはプッと吹き出した。

 その反応に少し安心しつつ、ベルの額にデコピンをする。

「痛っ!? いきなり何するんですか...」

「そうやって、私のことを笑うからよ」

 ヘファイストスは少し微笑みながらそう言うと、ベルは素直に謝った。

 と言っても、かなり軽いものではあったが。

「それにしても、今日は額に集中砲火だなぁ」

「どういうことよ...」

「知り合いにも同じように額を突つかれたりしたから、そうだなって思いまして」

 ヘファイストスはその知り合いのことは全く知らないが、この少年ならそういうことをやられてもおかしくはないと、失礼ながら思ってしまっていた。

「あ、そろそろ行きますね。長居するのもお邪魔だと思いますし」

「別に気にしなくても、そう人は来ないんだけどね」

 実際、ヘファイストスの武具に手を出せる輩など、そう多くはない。

 一部の大規模ファミリアや、金持ちの連中くらいだ。

 故に、工房を兼ね備えたこの店にベル以外の人は居ない。

「いやー実はちょっとというか、かなりお腹が減ってましてね。今もお腹が鳴らないように頑張ってるんですよね」

 そう後頭部を掻きながら、少し照れたようにベルは言った。

 不覚にも照れたベルを可愛いなと、ヘファイストスは思ってしまったが、それは完全に我が子を見る母の感情であった。

「あら、そうなの。それなら、そのお腹が鳴らないようにするのが、先決ね」

「あ、それならこの後一緒にどうですか? 凄い美味しいお店知ってますよ」

 先程、長居すると邪魔になるから、と言った人物とは思えないほどに真逆のことを言うベル。

「...そうね。それは今度にしましょう」

 それに対し、完全に苦笑いでヘファイストスは応えた。

「ははは、楽しみにしてますね」

 ベルはニコニコと嬉しそうにしながらそう言った。

「はぁ...はいはい、私も楽しみよ」

 それに対して、ヘファイストスは溜め息をつくも、口元は笑っていた。

「じゃあ、今度こそ、行きますね」

「お腹減りすぎて、変なもの拾って食べないのよ」

 いくら何でも食べませんよ、とベルは苦笑して背を向けて歩き出した。

「ほんと、何なのよ、あの子は...」

 最初、ヘファイストスは彼のことは気弱そうな普通の子供に見えたのだが、実際のところは掴み所がない、どこか物事を達観しているようで、そう思っていれば、やはり子供のような。

 一体どちらが本当の彼なのか?

 まだ会って間もない彼女ではそれを判断することは出来なかった。

「あ、そうだ...」

 すると、ベルは突然、その歩みを止めて振り返った。

 

 

「______その目、早く治るといいな(・・・・・・)。」

 そう言い放ったベルは、果たしてどちらなのだろうか。

 ヘファイストスはその眼帯を抑え、唖然としつつも、やはり何も分かることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃませにゃーって!! ベル坊にゃー!!」

「その呼び方は止めて下さいって何度も言ってるんですけどね...」

 店の扉を開けて、第一声は猫人の女性の騒がしい声だった。

 お昼、と言ってももう既に夜になっていた。

 あの後、ベルは店へ向かう途中で、バイトの先輩に出くわし、そのまま仕事を手伝うはめになってしまったのだ。

 勿論、昼食とバイト代はきちんと出たので、何も文句はなかったが。

 強いて言うならば、奢ってもらった昼食が美味しくなかったことだろうか。

「ベル坊はベル坊にゃ。てか、何しに来たにゃ」

「いや、どう考えても、ご飯を食べに来る以外ないと思うんですけど...」

「何にゃ! その馬鹿にした態度は! 失礼にゃろうが!」

「はぁぁ...すいませ____」

「ほら、さっさと席着けにゃ。そこは邪魔ににゃるにゃ」

「...あなたのその客に対しての、態度もどうなんですかね...!」

 何とも理不尽というか、自由奔放というか。

 前々からこの猫人(キャットピープル)マジでファッキューとか、一回くらいぶん殴っても誰も文句は言わないなとか、割りとベルは思っていた。

 初めて会った時から、ベルに対して当たりが強いというか、失礼というか、うざいというか。

 ベルも余り顔には出さないのようにしてはいるが限度だってあるのだ。

 まあ、決して実行はしないが。

 女性に対して、基本的には優しくするのが、ベルのモットーだったが、なぜかこの猫人に限っては、こんな感じであった。

「はぁぁ...」

 そんな、行き場のない気持ちが渦巻く中、溜め息をつきながら着いた席は、カウンターの端の席で、ベルは来る度にいつもそこに座っていた。

「決まったら呼べにゃ」

 そう言って、別の所へオーダーを取りに行ってしまった。

「...申し訳ありません。クラネルさん」

 すると、横から申し訳なさそうな声で謝ってくる女性の声がする。

「あ、リューさん! そんな気にしないでください。てか、謝らないでくださいよ」

 ベルはそう言って、頭を上げさせた。

 今日は女性に頭を下げさせてしまう日だなと、ベルは自身の不幸を呪っていた。

「いいえ。あの子には後程、徹底して、身の程を教えますので、お任せください」

 少し怖いことを言うこの女性はリュー・リオン。

 この酒場《豊穣の女主人》の従業員の一人である。

 金髪と長い耳が特徴の美女エルフだ。

 あと、さっきの猫はアーニャ・フローメル。

 お馬鹿猫、以上だ。

「ははは...ほどほどにお願いしますね」

 そう、苦笑しながらベルは答えた。

 リューのほどほどとは、翌日アーニャがガクブル状態になる程度のものだ。

 まあ、その更に翌日にはすっかり元通りなので、意味はないのだが。

 しかし、そういう自分を貫き通そうとするところが良いところかもしれない。

 ベル自身、彼女のことは好きな方であり、決して嫌いではない。

 見た目は可愛いので、ベル的にはそれだけでプラスポイントだった。

 それに現に彼女は、この店では結構人気だったりする。

「あ、そうだ。麻婆豆腐をお願いします」

 ベルは早速というか、まあ、ここに来たときに頼むいつものメニューを頼んだ。

 かしこまりました、とリューが一礼して、オーダーを告げに向かった。

 それから約数分、目の前にドッと麻婆豆腐(例によって特盛)が置かれた。

「はいよ。麻婆豆腐お待ち!」

 置いたのは、ここの女主人であるミア・グランドだ。

 ドワーフの女性で、ベルを上回る身長と倍の恰幅さを誇り、神をも恐れぬその肝っ玉ぷりと豪快さを持つ歴戦の女主人だ。

 故に彼女に逆らおうとする者はこの店では出ない。

 もし、ここで彼女の怒りに触れるようなことをすれば、どうなるかは分かるだろう。

 しかし、ここで働いている店員からは母のように慕われていた。

 まあ、節々にお金を使わせようとしてくるのは止めて欲しいと、ベルは常々思っていたが。

「いただきます」

 ベルは両手を合わせ、そう言うと、レンゲで掬い、口に入れた。

 

 

________美味しい。

 

 

 やはり、この店の麻婆豆腐は最高だと、ベルは思った。

 口に含んだ瞬間に、焼ける舌、次に口内、そして喉、食道、そして胃を焼けば、まるで焼け石を食べているかのようだった。

 

 

________だが、それがいい。

 

 辛くない麻婆豆腐など、麻婆豆腐と言えるのだろうか?

 否、そんなものは麻婆豆腐などとは認めない。

 それは麻婆豆腐の姿を模した偽物にすぎない。

 それを考えれば、この店の出す、麻婆豆腐は紛れもない本物だ。

 いい仕事をすると、ベルは作った人物、ミアに心の中で、称賛を送った。

 声に出さないのは、仕事の邪魔になるからだと思ったからであった。

「しかし、繁盛してるなぁ」

 この店はかなりの人気店で、色々なファミリアが御用達にしているほどだ。

 その中でも大規模ファミリアがいるとかいないとか。

 しかし、ベルにはファミリアに関しての知識はあまり無いので、『~ファミリア』と、言われても、それが有名なファミリアだと判断することが出来なかった。

「やっと来てくれたんですね...」

 すると、横から少し不機嫌そうな声がする。

「あ、シルさん」

 お盆で口元を隠しながらジト目でこちらを睨んできたのは、ここの従業員である、ヒューマンの女性、シル・フローヴァであった。

 もちろん、美少女だ。

「あ、じゃないですよ。また来るって言って、三日も経ってるじゃないですかぁ」

「いや、あの時はたまたま、家計簿の計算で余ってしまったお金があったからというか...てか、"も"って..."しか"の間違いじゃないですか?」

「私にとっては、とても長い時間だったんです!」

 シルは更にムッとした表情で睨んできた。

 流石、男を勘違いさせることにおいて、彼女の右に出るものいないなと、ベルは思った。

 何故かは知らないが、こういう"あざとい"言動を彼女は取るのである。

 恐らく、これにやられた男性客は少なくないだろう。

 女は魔性とは、彼の祖父の言葉ではあるが、それを実感してしまった。

「...やっぱり、それ頼むんですね」

 そう言うと、シルは呆れた目で、食べている麻婆豆腐を指差した。

「とっても美味しいじゃないですか」

「それをこの店で頼むのは、ベルさんと教会の神父さんくらいですよ...」

 やるな、その神父とベルは親近感を感じていた。

 実際、周りにはこの美味しさを理解してくれる人がいないので、ベルにはそれが嬉しかったのである。

 前にこれを頼んだ勇者が居たのだが、口に入れた瞬間に奇声をあげながらダウンしていたのはこの店の伝説の一つだったりする。

「シルさんもどうですか?」

 そう言って、レンゲをシルの方へ向けるベル。

「...くっ、その麻婆豆腐じゃなければ、遠慮なく行っていたのに!」

 何故か悔しそうにして断るシルに、ベルはクエスチョンを浮かべた。

「シル、その辺にしておかないと雷が落ちますよ」

 その声がして、背後を見れば、お盆の上に何か飲み物を乗せたリューが立っていた。

「えっ...?」

「シル、男といちゃつくのはいいけど、やるなら、仕事片付けてからにしなぁ!」

 その直後、シルに落ちる雷。

 発生源はもちろんミアである。

「ごめんなさい!...あっ、ベルさん。またゆっくり話しましょうね?」

 そう言ってあざとくベルにウィンクすると、軽く手を振りながら駆け足で仕事へ戻るシル。

 取り敢えず、ベルは苦笑いしながら手を振り返した。

「ったく...おい、坊主。うちの娘を誑すってなら、相応の覚悟ってのが必要なんだけどねぇ...」

「ちょっと待ってください! 何でそうなるんですか!?」

 どうして、この状況でそんな風に見えたのか。

 ベルは甚だ疑問だった。

 じいちゃんじゃあるまいし、なんて考えていた。

 しかし、ミアはそれに答えることもなく、忙しくなった厨房へ戻っていく。

 一体何だったなんだろうか。

「...お疲れさまです。クラネルさん」

 そう慰めるようにして、横からスッと飲み物を置くリュー。

「えっ...別に僕、頼んでないですよ?」

 頼んだのは麻婆豆腐だけだったはずだ。

「これは先程アーニャが失礼した分です。勿論、アーニャの自腹ですので」

 表情を変えずにそう言うリュー。

 ふと、当のアーニャを見れば、給仕する脚がガタガタ震えていた。

 一体、彼女に何があったのか?

 ベルは深く考えないことにした。

「それなら、有り難く戴かせてもらいます」

 あの猫人の懐からなら、あまり良心の呵責もなかったため、本来なら断る筈の施しもベルは受けることにした。

 寧ろ、ザマァとかそんなことを考えていそうだ。

「では、私もご一緒させて頂きます」

 そして、流れるようにリューはベルの隣の席に座ると、もう一つの飲み物を自分の前に置いた。

「あれ? リューさん、休憩ですか?」

「はい、ミアお母さんから、休めと言われたので」

 そうだったんですかと、相槌を打つと、ベルは飲み物のグラスを持つとリューに向けた。

「乾杯しましょう?」

「はい、喜んで」

 乾杯、二人でそう言うと、チンッとグラスとグラスの衝突音が響いた。

「...美味しいですね、このお酒。果実酒みたいですけど」

 飲んでみれば、フルーティーな薫りが鼻腔を突き抜けていく。

 味わいも、少し酸味はあるが、強くなくとても飲みやすいものだった。

「はい、ミアお母さんの取って置きです。普通に頼むと少々高いので、ぜひこの際に味わってください」

 ご馳走様です、とベルは内心でアーニャに言った。

「てか、これ麻婆豆腐に合いますね」

 酒が入ってから、ベルの麻婆豆腐を掬う速度が上昇している。

 リュー曰く、ミアが自身の料理に合う最高の酒を見つけた結果がこれらしい。

 他にも、この料理にはこの酒など、バラエティにも優れており、流石としか言い様がなかった。

「本当、美味しそうに食べますね」

「だって、美味しいですし」

 その後、適当な他愛のない話をしながら時間が経過していく。

 その途中で、休憩に入ったシルが、自身の酒を持って乱入してきたりと色々あったのだが、それもまだ平和だったと、ベルは改めて思った。

「ぶはっ!?」

「大丈夫ですか!?」

「クラネルさん。布巾です。お使い下さい」

 突如、吹き出したベルを心配する二人。

 ベルは大丈夫だと言ってリューから布巾を受け取った。

 ベルが見てしまったのは、店の入り口だ。

 結構な人数で入ってきている声がしたので、思わず見てしまったのだ。

 すぐに見たことを後悔するベル。

 何故ならば_______

 

 

 

「よーし! 今日は飲むでぇ!」

 

「いつも飲んでいるだろうが...」

 

「ガハハッ! 負けていられんなぁ! 醸造酒(エール)を貰えるか!」

 

「ははは...あまり羽目を外しすぎないようにね」

 

「苦笑いする団長も素敵です!」

 

「ティオネってば、相変わらずだなー」

 

「チッ...うっせぇな」

 

「あ、アイズさん。一緒の席に座りましょう」

 

「うん、いいよ」

 

 

 

 その集団の中に、今日ダンジョンで出会った美少女、アイズ・ヴァレンシュタインが居たのだから。

 

 

 


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