生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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きらきらきらきら、煌めいて♪


#40

「......これは」

 ベルは目の前に広がる光景に驚きを隠すことが出来なかった。

 この場(・・・)に足を踏み入れて僅か。

 ベルの挙動は一時の停止を起こしていた。

「......ここって、本当にダンジョンなの?」

 ダンジョン。

 それを微塵も思わせない程に、今ベルが見ている光景はいつも見ているダンジョンの風景とはかけ離れている。

 森があり、湖があり、空がある。

 そして、その空からは直視してしまえば、眩しいばかりの光があった。

 ダンジョン内には勿論、光______太陽という概念は存在はしない。

 太陽の光とは地上に降り注ぐものであるのは、世界一般の常識であり必然である。

 それなのに、この空間には昼夜という概念が存在しているのだろうか。

 いや、もしかしたらずっとこのままを維持するのかもしれないと、ベルは一考する。

「......《迷宮の楽園》。リリは初めて来ましたけど、噂通りの場所ですね」

 隣にいるリリルカも、同じように驚きを隠せないようでいた。

 被っているフードの中からは、丸い目をさらに丸くした様子が窺える。

「ここにも久し振りに来たな。最近はずっと工房に籠ってたし......」

 ヴェルフは何度も訪れているため大して驚いた様子はなく、只ここまでの道のりを思い出して「疲れた」と心にもないことを呟いている。

 Lv:5の冒険者が高々18階層までの道を進むだけで、疲れることはありえなかった。

「......ところで、水浴びをしたいんだけどそういう施設ってあるのかな?」

 髪に触れると微かな血の臭いと、ベタつきを感じ、ベルはそう言った。

 リリルカがくれた水筒の水量では十分とは言えず、洗い足りなかったのだ。

 故に早くさっぱりしたいというのが、今のベルの願望であった。

「すみません。もっと持ってくれば良かったですね......」

 リリルカは申し訳なさそうな表情を浮かべると、顔を俯かせる。

 しょぼんとしているせいか、何時もよりさらに小柄に見えた。

「もう、何でリリルカが謝るのさ。......僕さ、あの時言ったよね。ありがとうって......」

「え、あ、あの......」

 ベルはフードを捲ると、リリルカの頭_______()を重点的に攻めるように左手で撫で始めた。

 触り心地の良いその感触は頭よりも更に撫でるのを加速させる。

 これは、リリルカがいい加減謝り過ぎるので、お仕置きの意味を込めての行為だった。

 只問題なのは。

 

 

「ふぁぁ......んっ......あっ......っん......」

 

 

 これがお仕置きになっているかは、本人の受け止め方次第だろう。

 というか、感じ過ぎではないだろうか。

 見た目に似合わず、艶やかな声を出すリリルカに、やはり女性なんだなと改めてベルは思っていた。

 まあ、歳はリリルカの方が上なのでそういう時期(・・・・・・)はとうに過ぎているはずなのだが。

 ベルからしてみれば、リリルカは女性ではあるが妹的な部分の方が強い。

 それを考えると、ベルは妙な気分(・・・・)にもなった。

「......いや、まあ。もう何も言わねーけどよ」

 というか言えねーわと、その光景を見ていたヴェルフはやれやれと首を振ると両手をあげて背を向けた。

 ヴェルフ曰くは、ベルのお楽しみの邪魔はしたくないし、リリルカの馬に蹴られて地獄に落ちたくもないらしい。

 実は難儀なのは自分かもしれないと、ヴェルフは思い始めていた。

「リリルカ? 謝るのは......まあ良いけどさ。謝り過ぎるの駄目なんだよ?」

 ベルはリリルカの敏感なその場所を愛撫するようにして、撫でていた。

 リリルカにとって、そこは弱点なのだろう。

 ベルの手が何度も何度もリリルカのそこを行き来する度に、彼女は喘ぎ、震え、顔を上気させた。

「分かった?」

 彼女の瞳はうるうると潤んでおり、遂には涙が溢れた。

「............ひゃ、い......」

 やっとの思いで紡いだその言葉は呂律が回っていなかった。

 口の端からは、ツウと唾液が流れている。

「んんっ......あっっっ.........あ________」

 リリルカの身体が何かに呼応するようにビクンと跳ねた。

「あっ」

 

 

_______ああ、これはやり過ぎた。

 

 

 リリルカの表情は、最早他人に見られるのは不味い感じになっている。

 ヴェルフはそれを察して後ろを向いたのだろうか。

「......ヴェルフ。確認だけど水浴びできるところ知らないかな?」

「......ダンジョン()やる(・・)のは、頂けねえけど、あっちの方、真っ直ぐ行くと人気のない小さな湖があるぞ。まあ、あと馬鹿高いけど宿泊施設もあるな。そっちの方が良いと思うぞ、俺は」

「うーん......只水浴びしたいって言っただけなんだけどなぁ......ヴェルフは僕を何だと思ってるんだい?」

「いや、やっぱスゲーな、旦那って思ってるぜ」

 微妙に答えになってないその回答にベルは溜め息を吐く。

 それではまるで色情魔(インプ)ではないかと、ヴェルフを睨んだ。

「......でも、そうだな。確かに水浴びはした方がいい。......大分汚れちまった(・・・・・・)だろうし」

 ベルの睨みも軽く受け流すヴェルフ。

 彼は一瞬だけ完全に動きの停止したリリルカを見た。

 ......ヴェルフは何も言えなかった。

「さっきも言ったけどよ、あっちに人気のない小さな湖がある。そこ行ってこいよ」

 ついでにリリ助も連れて、そう言うとヴェルフは逆方向へ歩き出した。

「どこ行くの?」

「ああ、『リヴィラの街』に行ってくる。此方に真っ直ぐ歩けばすぐに着く。俺はそこら辺ぶらついてくるわ」

 それに旦那なら護衛も必要なさそうだしな、そう言うとヴェルフはその『リヴィラの街』とやらへ行ってしまった。

 そこがもしかしたら噂の物価超高店が並ぶ場所なのかもしれないと、ベルは予想しながらも、リリルカの方を見た。

「......歩ける?」

「......ごめん、なさい」

「......うん、今回ばかりは本当に僕がごめんなさい」

 何だか微妙な空気が流れ、淀む。

 ベルは顔を真っ赤にして俯くリリルカの手を引きつつ、ゆっくりと湖へ向かった。

 本当に本当にゆっくりと。

 

 

 

 

 

 湖で三十分程水浴びをすると、真っ直ぐと逆方向へベル達は歩いた。

 無論ではあるが、別々に入ったのは言うまでもない。

 流石にこれ以上、リリルカに精神的ダメージを与えるわけにはいかなかった。

「ここがそれか......」

 着いたのは、先程ヴェルフが言っていた『リヴィラの街』。

 見た目は商店を主とした"普通"の街であるのだが、それがダンジョン内に存在することで、逆に特異性を出していた。

「本当に"街"なんだね。リリルカも初めてなんだよね」

「......はい、リリも初めてです」

 フードを深く被り、顔を俯かせたリリルカはベルの言葉に肯定した。

 先程のような醜態を晒すのは、これで二度目のリリルカ。

 まあ、一度目に関して彼女の記憶に残っているかは不明なのであるが。

 何れ思い出すかもしれないと、ベルは考えていたが、思い出したら思い出したで恥ずかしいことになるのは間違いない。

 故にベルは、取り合えずは先程の話を蒸し返さないように心掛けるようにしていた。

「......うわ、本当に高いね。これで売れるんならぼろ儲けだよね」

 店頭に並んだ品物の値段を見ると、小声で隣を歩くリリルカへそう言った。

 砥石が10000ヴァリスという、頭のおかしい金額が目に入ったからだ。

 それを見たリリルカも、案の定目を丸くして驚いていた。

 もし、そんな価格で売れるのならベルの場合、地上で砥石を買ってここで売却すれば小金持ち程度にはなれるだろうと、リリルカは画策していたが、そんなことをするとは考えられなかったので、飲み込んだ。

「ですが、仕方ありませんよね。地上とダンジョンでは危険度に大きく差があります。需要と供給というやつですかね」

 なるほどと、リリルカの言葉に相槌を打つベル。

 戦争が勃発している国と平和な国がある。

 そうした場合、当たり前に武器商人は戦争が勃発している国へと売り込みにいくだろう。

 武器は使っていくうちに消耗してしまう。

 新しい武器は常に必要となってくる。

 逆に言えば平和な国に、武器の類いの需要は少ないからだ。

 まあ、自衛の為にも持っておいた方がいいのかもしれないが、それはそれで要らないものを持っていても維持費で倒れてしまえば元も子もないのだが、今は関係ない。

 とにかく、それと同じように武器を研ぐ砥石の需要は、地上とダンジョンではかなりの差異があるのだ。

 しかし、それに関してはベルも分かっていたことではあるので、相槌は半ば"流れ"で打った物ではあるのだが。

 今のリリルカを無下に扱うことは出来なかった。

「ところで、ヴェルフはどこいるんだろうね。この辺ぶらついてるとは言ってたけど......」

 そう大きくない街ではあるのだが、初めて来た分地理にも疎いため、探すのは大変かもしれない。

 そう思ったベルは軽く溜め息を吐く。

「......全く。ベル様のお手を煩わせるなんて。......やはり《没落貴族(カースス・ノビリス)》は」

 ベルの溜め息に気付いたリリルカは、ヴェルフに対し悪態を吐く。

 後半ぼそりと呟いたその言葉は、ベルにも聞こえていたが意味はよく分からなかった。

 只分かったのは、あまり良い意味で言われたことではないということだ。

 まあ、別に何も言う必要はない(・・・・・・・・・)だろうが。

「取り合えず、色々と回ってみようか。まあ、買えるものはないだろうけどね」

 ほら行くよ、ベルはそう続けると、リリルカの手を引いて歩き出した。

「は、はい! ベル様......!」

 リリルカは頬を紅潮させ、目を輝かせると嬉々として手を引かれて行った。

 その姿は兄に手を引かれる妹のようにも、はたまた主人とペットのようなそんな関係にも見えなくもなかった。

 まあ、後者の方が近いだろうが、そんなこと、今のリリルカには関係のない話であった。

 

 

 

 

 

「______やあ、歓迎するよ。クラネル君」

 そして、現在。

 ベルはロキ・ファミリアがキャンプしている森の中、正確には天幕の中にいた。

「久し振りだな。息災だったか?」

「ガハハハハッ! 話しは聞いているぞ! 今話題の《ビッグ・ルー

キー》よ!」

 そこには、ロキ・ファミリア団長である《勇者》フィン・ディムナと副団長である《九魔姫》リヴェリア・リヨス・アールヴ、老兵《重傑》ガレス・ランドロックが立っている。

 皆、歴戦の強者で相対するだけで飲み込まれるような風格を感じ取れた。

「あははは......皆さん、お久し振りです」

 そんな中、ベルは首に手を当てながら苦笑して返した。

 当たり前だろう。

 歓迎するよとは言ってはいるが、半ば強制的に連れて来られたようなものなのだから。

 ここまでの経緯としては簡単である。

 

 

 

街をリリルカとぶらりしながらヴェルフを捜索。

しかし、中々見つからない。

時間も時間だろうし、ご飯にしよう。

食料、少ししかない。

買って食べよう。

しかし、高すぎる。

とても困る。

そうだ、自分で作ればいいじゃないか。

食料のありそうな森や湖のある方へ向かう。

するとティオナに遭遇し、連行される。←ここ重要。

ロキ・ファミリアのキャンプ地に招かれる。

フィンに呼び出しを喰らう。←今ここ。

 

 

 

 大雑把ではあるが、これで大体合っている。

 いや、全く着いていけないんだけどとベルは内心そう考えていた。

 ティオナと出会った時はまるで嵐のような勢いで、気付いたらロキ・ファミリアのキャンプ地に移動していたくらいだ。

 ちなみにではあるが。

 ティオナに会った瞬間、熱い抱擁(割りと洒落になっていない)がベルを襲った。

 リリルカが唖然として、固まる程には吹き飛んだのだろう。

 恐らく10M以上は飛ばされたような気がする。

 冒険者になっていなければ危なかったかもしれないと軽く冷や汗を掻いたのは秘密だ。

 その後、ティオナは後ろに居たであろうティオネに拳骨を貰っていたが。

 涙目で何するのと訴えるティオナであったが、ティオネのその形相を見てすぐに謝っていた。

 流石にあれは怖いよなと思ったのも秘密である。

 中層程度のモンスターならビビって逃げ出すかもしれないなんて言えないからだ。

 まあ、その後。

 何やかんやで今の状況であるのだが。

「そういえば、ティオナから大分熱い歓迎を受けたみたいだけど、大丈夫かい?」

「ええ、まあ。でも、不意打ちの抱擁(タックル)は出来れば今後控えて貰いたいですけど」

 未だにひりひりする背中に手を当て、ベルはそう返した。

「あんなティオナを見たのは初めてだぞ。まあ、似たようなものなら既に見てはいるのだがな」

 リヴェリアはそう言うと、視線をフィンに移し笑う。

 フィンは参ったなと頭に手を当てて、笑っていた。

 どうやら、フィンとは同じ待遇らしい。

 だから視線が同情的だったのかと、ベルは納得した。

「アマゾネスは強いものに惚れると聞くが、あのじゃじゃ馬が惚れ込むくらいだ。お主はどうなんだろうな、《光を掲げる者》?」

 ガレスは腕を組みながら、視線をベルへと向けた。

 その表情はからかい半分興味半分と言ったところか。

 これは面倒だなと、ベルは悪態をつきかけてしまった。

「止めてくださいよ。それにその二つ名、今でも僕には過ぎた名前だと思ってますし......それなら僕も《重傑》って呼んじゃいますよ?」

「ガハハハハッ! それは儂も勘弁だな! では、ベルよ。儂のことはガレスで頼むぞ!」

 豪快に笑い飛ばすガレス。

 それを見ていたリヴェリアは頭を抱え溜め息を吐いた。

 ロキの時も思ったが、彼女はやはりファミリアの母親もしくは長女ポジションなのだろう。

 出なければこんな苦労に満ちた表情は浮かべないはずだ。

「すまないな、騒がしくて。......前も言った気がするな」

「ええ。確かあの時は《豊穣の女主人》でしたね。皆さん大集合で」

 懐かしむように話すベルであったが、一ヶ月以上も経っていれば仕方のないことかもしれない。

 特にフィンとガレスはその間に会っていないため、尚更それを感じられた。

「そうだったな。......そうだ、私もリヴェリアで構わない。名字で呼ばれるのは少しな......」

 そう言うリヴェリアの表現は、何か事情があることを読み取れた。

 別段、彼女の事情に関われる程、仲が良いというわけでもないので、ベルは素直にその言葉に従った。

「そうだ。それよりも呼び出した理由って何ですか? 僕、実はかなりお腹減ってるんですよ。それに仲間も探しにいかないといけないですし......」

 ベルはさっさと本題に入ろうと、中央に座すフィンへそう言った。

「そうなんだ。それは悪いことをしたね。なら食事はうちでご馳走するし、人探しに関しても手伝えることがあれば力を貸すよ。君には借りがあるしね」

 にこやかにそう言うフィンに、ベルは警戒の念と疑問を抱く。

 借りというのは、レフィーヤを助けたことだろうが、それを抜きにしてフィンからは別の思惑を感じる。

 恐らくフィンは自分と同じタイプの人間であると、ベルは推測した。

 そして、それはフィンも同じようで両者の間には互いを見定めるような視線が交差していた。

「で、まあ。君を呼んだ理由なんだけどね。何、簡単な話だよ」

 そう前置きすると、フィンは何気ない口調でこう言った。

 

 

 

_______ロキ・ファミリアに改宗する気はないかい?

 

 

 

 フィンのその言葉に、天幕の中は静寂に包まれることとなった。




まだ生きていますよ(しつこい)

前話のあとがき? 何のことですかね(すっとぼけ)

ちなみにリリがこんな風なのにはちゃんと理由がありますよ(主にベルに)
言っておかないと、淫乱犬耳小人になってしまいますからね!



まあ、そんなことより!
作者が水着アルトリアと水着マリー呼んだ件について。

あれ、おかしいな。
これ以上作者から現実世界での運気を持っていかないで!
まあ、超可愛いからどうでもいいかという結論に至りましたがね!(命の危機)

あと、前書きに書いたマリーのボイスが可愛すぎて何回も聞いているのは作者だけではないはず......

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