生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
「おいおい、マジかよ......」
赤髪の青年、ヴェルフ・クロッゾは目の前の光景を見て漠然とそう呟いていた。
辺りに飛び散るは鮮血を彷彿とさせる紅の液体。
それに染まっていない所が無い程に、この地下空間は"赤かった"。
「_____10時間。まあ、持った方か......」
ヴェルフは首に手を当てながらそう呟くと、息を吐いて
「しっかし。折角、空気を読んで退散してやったのに。これじゃあ______」
______期待外れにも程があるよな。
「グオォォォォォォ!!!」
燃え盛る炎に包まれ、超高温と化した鋼の如く、魔人は猛っている。
いや、実際に魔人は爆炎を身に纏っており、近くに転がっている武器がその熱で融解していた。
ヴェルフというオラリオ最高峰の鍛冶師が造り出した武装は威力、耐久何れを取っても同じく最高峰の代物だ。
対物理衝撃、対高熱、対凍結、対雷電、対魔力等、全てに於いて高い耐久性を誇り、それこそ破壊出来る者は
そんな彼の武装が融解してしまう程の超高熱の炎が地下にはまるで
「おーい、大丈夫かー? って、聞こえる筈もないか......」
ヴェルフが呼び掛けたのは燃え滾る魔人のすぐ足下だった。
そこにはその灼熱の業火にて、既に黒炭と化した、
いや、微かにまだ形を保っている分、それが元々何だったのかは誰であろうとすぐに分かることであった。
「......おっかしいなぁ。旦那の実力ならこいつを御することくらい、簡単では無いにしろ出来た筈なんだがなぁ」
読み違ったか、そうヴェルフは消え入るような声で呟くと、後頭部を掻いていた。
過大評価をしていたのだろうか。
ヴェルフの心眼に叶う存在等、彼が歩んできた人生の中でも片手で数えられる程にしかいない。
黒炭_____ベル・クラネルはその数えられる程にしかいない存在の中でも一際異彩を放つ逸材であった。
彼になら自身の造る最強の魔剣を使うのに相応しい。
そう、確信していた。
しかし、その結果が目の前の惨状である。
「あーあ。どうすっかなかぁ。俺じゃこいつをどうすることも出来ないし、かと言って放って置いたら、洒落にならないくらいやばいし......」
自身の仕出かしてしまったことの重大さを本当に理解しているのかと云わんばかりの適当な言葉だった。
実際、ヴェルフの言う通り、この魔人はやばい。
もし、この地下から目の前の魔人が地上へ解き放たれれば、少なくとも三日でオラリオは壊滅してしまうだろう。
いくら第一線級の高位冒険者がこの魔人に挑んだとしても、瞬殺されるのが落ちであるだろうし、そもそも近付いた時点で武具が使用不能になる時点でお手上げだろう。
遠距離攻撃も届く前に消滅してしまうだろうし、魔法攻撃も唯一効きそうな水系統の魔法も余りの高温で蒸発してしまうのが落ちだ。
神々が
「仕方ねぇ。
ヴェルフはそう呟くと、首を抑えながらグリグリと回した。
燃え盛る紅蓮の業火を目前に、熱いとひたすらに当たり前の事を呟く。
まさか生涯最初にして最後、最強の"魔剣"を造り出したと思ったらそれを封印する為に最期を迎えるとはヴェルフは思っていなかった。
「まあ、それも仕方のねぇことか」
仕方の無いこと。
たった一振りの"魔剣"で、世界の中心と言えるこの大都市を滅亡させるわけにはいかないのである。
自分以外はどうでもいいという領域には流石に達していないヴェルフは、自己犠牲によるこの解決方法に
「時間が
瞬間、ヴェルフの眼前の血炎が爆発した。
「グオォォォォォォォ!!!!!」
続く絶叫は少年を焼殺した筈の魔人のそれであった。
地獄の底から響く怪物の咆哮の如く、この地下空間を震わせる。
ヴェルフは咄嗟に腕で顔を覆い、その爆炎と衝撃波から身を守ったものの、その右腕は酷く焼け爛れてしまっている。
「......ハハッ。マジかよ」
大火傷をしているのにも関わらず、ヴェルフの意識の矛先は一切そちらに向いていない。
只、見据えるは燃え盛る紅蓮の業火、その足下の物体に向けられている。
「......訂正させて貰うぜ。やっぱ旦那は最高だ!!」
そこに転がっていた黒炭は既に存在しない。
あるのは、純粋な
「......あぁ、糞っ。最悪な気分だよ、本当に......!」
咆哮を上げる魔人を見上げるようにして、少年は苛立たしげにそう言いながら立ち上がる。
魔人の身体からは常に超高温の炎が放たれており、近付くもの全てを焼き尽くす筈だ。
その筈なのに、少年はそれに影響されることもなく、只そこに立っているのだ。
「
______調子に乗ってるんじゃねえよ、只の"魔剣"風情が。
そう吐き捨てた。
ガジガジと後頭部を掻きながら、彼は不機嫌そうな表情を浮かべている。
「おい、さっきっからチラチラ此方を見やがって。一々苛つくんだよ」
彼は突っ立っているヴェルフの方をジロリと睨みつけた。
当たり前だろう。
誰だって顔の周りを蝿が飛んでいたら鬱陶しいにも程がある。
それと同じことだった。
「......ハハッ、旦那。飽きねえよな、本当によぉ」
ネタに尽きないなとヴェルフは只々笑っている。
灼熱の地獄と化したこの空間で、それは全くもって不釣り合いだった。
この空間に居るだけで全身の水分を持っていかれてしまうのに、それを促進させるようなことをしてしまっている。
しかし、ヴェルフは笑わずにはいられなかったのだ。
「チッ......うっせえな、イカレ野郎かよ。......おい、お前。何か得物、
「ああ、駄目だぜ旦那。そいつは武具の類いを融解しちまう。今ここにある武器であれに耐えられるのは_____いや、違うな。......この世界には存在しねぇんだよ」
現状、あの炎に対抗出来る武具は何処にも存在しない。
もし存在するのならばそれこそ
最早あの"魔剣"は人類の領域を遥かに凌駕していた。
「......お前、使えねぇな。それでも
「悪いな。あれが俺の最高傑作だからよ。逆にあれより強い武器があったら、それこそ俺は鍛冶師として終わってるよ」
悪びれもせずにそう言うヴェルフに、少年は何も言えなくなってしまう。
こういう
「......てか、あれ。どう考えても失敗作だろ? 先ずもって見てくれからして武器じゃねえ」
「_______旦那。見た目で判断しちゃいけねえって、教わらなかったのかよ? あれは正真正銘、真に"魔剣"だ。失敗作でもねえし、そこらの鉄屑と一緒にすんじゃねえよ、馬鹿野郎が」
ヴェルフはうって変わってその顔に激情の色を露にした。
琴線に掛かってしまったらしい。
地雷とも言うが。
鍛冶師にとってデリケートな問題であるのだろう。
自身が造り出した最高傑作を失敗作と断定されてしまえば、当たり前のこととも言えるが。
「......冗談だよ。それぐらいでキレんじゃねえよ。分かるに決まってんだろ。これが本物の"魔剣"であることぐらい」
だから職人気質の奴は苦手なんだよと、少年は呟く。
どうやら彼なりの
「ならいいけどよ。それよりだ。あいつを早くどうにかしてくれよ。このままだとオラリオが壊滅しちまうぞ」
炎上都市オラリオとか洒落にならないからなと、ヴェルフは軽口を叩いた。
本当に洒落になっていなかった。
「......あぁ、もう。考えるのも面倒だな。あれを御するのが目的だったがもう止めだ。
目の前では未だに苦しんでいる魔人が、咆哮をあげている。
彼が顕れた際に
「おいおい、殺すって。そりゃあいくら旦那でも無理だろ。さっきの
先程、少年は魔人の業火に焼かれて、無機物と化した。
魔人が姿を変えた後、恐ろしいまでの粘りを見せたが、その過程で身体欠損し続け、最後は簡単に燃やされた。
その間、少年は魔人に一切のダメージを与えられずにいた。
故にそれを知るヴェルフはそう判断したのだ。
「それにだ。ああは言ったが、魔剣は俺達と違って
殺す、即ち生きているものを終わらせる行為を指す。
それが適用されるのは文字通り、比喩抜きで生きている存在だけだ。
それ以外の存在には絶対に適用されないことなのだ。
それなのにこの少年はそれを殺すと言った。
何を言っているんだと、
「馬鹿野郎。お前は何も分かっちゃいない」
少年はそう言うと、灼熱の業火をものともせずに魔人へと一歩一歩近付いていく。
「万物には遍く綻びが存在する。人間は言うに及ばず、モンスターにも空気にも精神にも時空にもだ。例外は無い」
少年の両眼が紅から蒼へと変色する。
既に掛けてあった眼鏡は灰と化しているため、外すという動作も要らない。
彼が視ている世界に、ある概念が色濃く現出し始める。
「始まりと終わりがあるように、それは万物にも適用される」
開闢と終焉。
彼が司るのは、否応無しにも後者であった。
「_______俺にはこの世界全ての"死"が視えている。だからさ......」
彼は、
全てを終わらせる
それが彼であり、彼である証明のようなものだった。
故に、彼はその腕を振り降ろす。
「_______生きているのなら、神様だって殺してみせる」
全て終わらせる圧倒的な"死"の一撃が、
クー・フーリンオルタトゲトゲ格好いい。
メイヴビッチ可愛い。
ナイチンゲールクレイジークレイジー。
ラーマ爆発しろ。
エジソン、ビジュアル自分的には滅茶苦茶好き。
エレナUFO可愛い。
李書文っていうか中国拳法強すぎ。
インド勢怖い。
そして、セイバーディルムッドは何処へ?
後、その他諸々凄かった第5章でしたね!
次の章が来る前にクーちゃんを絶対に当ててやる(フラグ)