生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
「......ヴァレンシュタインさんに、ティオナさん、ウィリディスさんじゃないですか」
少し驚いた表情で、ベルはそちらを向いた。
方角からして、十階層。
恐らくもっと下の階層に行っていたのだろう三人の身体には傷があり、かなりの激戦だったことを容易に想像させた。
「ベル、こんなところで......お昼?」
アイズは広げられているお弁当を見ると、小首を傾げていた。
「......えぇ、そうなんですよ。時間的にも頃合いだと思いまして」
ベルは食べていたサンドイッチを見せながら、そう言った。
「......ベル・クラネル」
すると、アイズの後ろで苦虫を潰したかのような声をあげたのはレフィーヤ・ウィリディスだった。
レフィーヤはベルを仇のように睨み付けていた。
「あははは、完全に嫌われちゃったみたいですね」
ベルは苦笑しながらそう言うと、ふともう一人に気付いた。
アイズの後ろにいたアマゾネスの少女、ティオナだ。
《豊穣の女主人》で初めて会ったときはかなり明るく賑やかな人だとは思っていたが、今回はどうやら様子がおかしい。
「白うさぎ君♡ 元気にしてた?」
何故だか知らないが、頬を上気させており、言葉の一つ一つに熱が籠っているようにも感じた。
良く見ればその目も、トロンと今にでも溶けてしまいそうな、そんな感じであった。
「え、えぇ、まあ。それなりに。ティオナさんも元気にしてました?」
「うん! すごく元気だよ♡」
そう言って、持っていた両端に丸い刃が付いた武器《
はっきり言ってかなり危ないから止めた方がいいと言いたいベルであったが、あまりに嬉しそうな顔をしているので、言うに言えなかった。
「ねぇ、白うさぎ君。これからベル君って、呼んでもいい?」
ティオナはベルの隣に座り込むと、腕を絡めるようにして取り、甘えるような声でそう言った。
「それは構いませんけど、というかそっちの方が僕としても良いですけど。......少し近くないですかね」
実際、少しどころではなく、完全に密着しており、隙間が全く無い。
ティオナは軽装で、ほぼ衣服と変わらない。
故に控え目ではあるが、胸の感触がベルの腕へダイレクトに伝わるのであった。
「ううん。全然近くなんかないよ。......これでも
最後の部分は小声ではあったが、ベルにも聞き取ることが出来た。
これで遠いのなら、一体何が近いという概念なのか、ベルには分からない。
「えへへ、ぎゅーってしちゃうね♡」
そう言うと、ティオナは自分の顔をベルの肩に預けるようにして、もたれ掛かかると、組んでいた腕を更に絡ませてくっついた。
「ティオナ、凄い......」
「ははは破廉恥です......! そ、そんな、お、男に......」
それを見ていたアイズは只単純に凄いというのと、驚きというので、表情は変わっていた。
レフィーヤは顔を紅潮させながら、その光景を見まいと手で隠してはいるが、その指の隙間からチラチラと覗いているのはバレバレであった。
「むっ......破廉恥なんて酷いなぁ。ていうか、レフィーヤ。あの時のお礼は言ったの?」
失礼じゃないのと、ティオナはレフィーヤへ言った。
「うっ......分かってますよ......」
レフィーヤは露骨に嫌そうな顔をすると、ベルの一歩前へ出て、視線を泳がせながら唸る。
その後ろでは、アイズが頑張れと無表情ながら応援していた。
「あ、あの......! え、えっと......! その、あ、あの時は......あ、ありがとう、ございました!」
アイズの応援の効果もあったのか、かなり継ぎ接ぎではあったものの、言いたいことは言えたようで、ふぅと一安心するレフィーヤ。
まあ、かなり早口で聞き取りづらかったのだが。
「あ、はい。どういたいしまして。いやぁ、良かったです。エリクサーって薬が無かったらどうなってたことやら」
あの時ばかりはあの男に感謝せざるを得なかったと、ベルは思っていた。
実際、エリクサーをベルが貰っていなかったらレフィーヤは間違いなくあの世へと逝ってしまっていただろう。
ふと、ベルへ向けられている視線がおかしいことに気付く。
レフィーヤの表情が青くなっているのだ。
アイズとティオナは、そういえばと言っているようなそんな表情だ。
「顔色が悪いですよ。ウィリディスさん? ......どうしたんですかね? ティオナさん」
「うーんとね。原因はベル君が違うファミリアのレフィーヤにエリクサーを何の躊躇いもなく使ったことかなぁ。......あと、私のことはティオナで良いよ♡ ていうか、そっちで呼んで欲しいなぁ♡」
隣で密着しているティオナに聞くと、耳元で囁くように言ってくる。
後半はかなり猫撫で声で、ベルは頭がジリジリと熱された気がした。
「えっと、それで良いと言うのなら......というか、それが何で問題なんですかね」
ベルからしてみれば、エリクサーが何れ程価値のあるものかは分からない。
故に疑問符を投げ掛けてしまう。
あの時は結局エリクサーと聞いて何故あんなに驚いていたのかを聞きそびれてしまったのだった。
「うんとね。エリクサーってすごい回復薬でね、普通に買うと一つ500000ヴァリスくらいするんだよ」
「ゴホッ!?」
その金額を聞いた瞬間、ベルは思い切り噴き出してしまった。
その隣ではティオナが大丈夫と、心配そうに背中を擦っていた。
ベルは大丈夫ですと、全く大丈夫ではない体で言うと、頭の中ではそれだけあれば一体どれくらい贅沢が出来るのかを計算するのに集中していた。
「まさか、知らないで使ってたの?」
ティオナは少し呆れた表情でそう言った。
アイズは、そういえば、昔ちょっとした怪我でリヴェリアがエリクサーを持ってきてたなと思い出していた。
「いやぁ、あははは」
ベルは只曖昧に笑っていた。
これは本当にきちんと勉強しないと駄目だなと、またエイナに教わることが増えてしまった。
「......こんな知識の無い男に助けられたなんて!」
レフィーヤは身体をプルプルと震わせながら、ベルへの怒りとそんな男に助けられた自分への怒りを抑えるのに精一杯だった。
「......成る程、だから驚いてたんですか」
ベルは改めて納得したように頷いていた。
それだけの金額なら躊躇う気持ちもあるのかもしれないと。
「いやぁ、もしウィリディスさん以外にも怪我してたらヤバかったですね」
流石にもう一個用意するのは貯金を切り崩さなきゃいけないしと、ベルは言った。
すると、その言葉に対して三人は呆気に取られたような顔をしていた。
「ベル君? そんな反応なの......?」
ティオナがベルへそう聞いた。
「はい? ああ、そうですね、貯金を下ろしに行ってる時間なんて無いですもんね」
「違います!! そういう問題ではなくて、どうして使うのを躊躇わないのかってことです!!」
レフィーヤが声を荒げて、ベルへ言った。
ベルの言葉から察するに自腹を切ってでも助けるつもりなのは察することが出来た。
「え、躊躇うって......逆にどうして躊躇うんですか?」
ベルは本当に意味が分からないという表情でそう聞き返した。
「だって! 私と貴方はファミリアも違いますし、別に仲が良いわけでもない。貴方に助けられる理由なんてないじゃないですか!?」
レフィーヤは先程よりも更に感情を昂らせてそう言った。
冒険者はいつ死んでもおかしくない。
それこそ昨日笑っていた友人が目の前で重傷を負い死んでしまうことだって有り得るのだ。
それを考えれば、全くの他人のためにエリクサーを使うよりも、友人が死にそうになってしまった時の為に残しておいた方がよっぽど良いのだ。
もし、使って友人がその状態になったときにエリクサーが無かったら深い絶望に叩きつけられるだろう。
「理由って......ウィリディスさん、貴方はそれを本気で言っているんですか?」
ベルは呆れた表情でレフィーヤを見た。
「ウィリディスさん、一つ質問しますけど。もし、この場で子供が迷子になって泣いていたらどうしますか?」
「そんなの助けるに決まって......!」
「どうしてですか?」
ベルの声がダンジョンに響いた。
「どうしてって......それは子供が可哀想だから......」
「ほら、そういうのです。理由なんて簡単に出来るでしょう?」
そう笑顔を浮かべ、言うベル。
レフィーヤは呆気に取られるも、すぐに切り返した。
「それとこれとは別問題で......!」
「......うーん、だからですね」
少し面倒くさいなと、ベルはレフィーヤに対して思っていた。
ベルはそんな彼女のために、唸りながら適切な表現を見出だそうと、頭を捻った。
「あれです、ウィリディスさんを助けたかったからでは駄目ですか?」
結局のところ、ベルには適切な表現が思い付かず、言った言葉は酷く気障なものだった。
ベルにとってみれば、迷子になっている子供を助けるのも、エリクサーという破格の値段の回復薬を使わなくては対処出来ない傷を負ったレフィーヤを助けるの、どちらも同じであるのだ。
そこに大きな差は無い。
「な、何を突然言ってるんですか! 貴方は!」
顔を真っ赤にしたレフィーヤは、そう言って声をあげた。
「......じゃあ、何なら納得してくれるんですか」
疲れたようにベルはそう言うと、眼鏡の鼻の部分をクイッと動かす。
「そ、それは......その......」
レフィーヤもレフィーヤでその辺りは何も考えて無かったのか、口ごもってしまっていた。
「もう、レフィーヤもいいじゃん。ベル君がそう言ってるんだから」
見兼ねたティオナが間に入り緩衝材となって、この場を納めてくれた。
レフィーヤはまたうーんと唸ると、分かりましたと言って納得していた。
助かったと、ベルは安心し、隣にいるティオナを見る。
すると、視線があってしまい、ティオナは笑顔を浮かべた。
「......ベル君、お疲れ様。レフィーヤも少し頑固だから。別に悪い子じゃないんだよ」
「......それは分かってますよ。只嫌われちゃったなって」
それはそうかもねとティオナは苦笑して答えると、またベルの方を向いた。
「......ねぇ、ベル君。もし、私がレフィーヤと同じ目に遭ってたら助けてくれる?」
上目遣いと甘い声で言ってくるティオナをベルはとても魅力的に感じていた。
「......そんなの助けるに決まってますよ。って、ティオナも同じことを言わせるんですか?」
彼女から放たれる色香を振り払うようにして、そう言った。
すると、ティオナは嬉しそうな顔で、それならいいんだとベルの言葉を受け取った。
「ねぇ、ベル。そう言えば、そこにいる子は誰なの?」
ふと、黙っていたアイズがそう口に出した。
そこにいる子、そう言われベルはアイズの差す方向、つまりは自身の目の前を見る。
リリルカ・アーデ、現在のベルのサポーターである。
すっかり空気と一体化しているらしく、俯いてピクリとも動きもしなかった。
「あぁ、すいません。彼女はリリルカ・アーデ。僕のサポーターをしてくれているんですよ。リリルカ、彼女達はロキ・ファミリアの人達で、僕の友人(?) かなぁ。隣に座っているがティオナ・ヒリュテ、そこの方がレフィーヤ・ウィリディスさん、そちらの方はアイズ・ヴァレンシュタインさんだよ」
僕の友人(?)発言に隣にいたティオナが不満そうな顔をして、腕に込める力を強くする。
ミシミシと骨が軋むが、前回と違い、冒険者になったので、耐久力も本当に微量ではあるが向上していたので、痛みは多少軽減されていた。
「は、初めまして......リリルカ・アーデです。どうぞよろしくお願いいたします」
おどおどとリリルカは挨拶をすると、軽く頭を下げ、一礼する。
「よろしくね!」
「......よろしく」
「よろしくお願いします」
ロキ・ファミリアの三人もそれに対して、差異はあるがフレンドリーにそう返した。
「ふーん、ベル君女の子のサポーターを雇ったんだ~」
ティオナの少し含んだような言い方にベルは首を傾げるが、そうですよと肯定した。
「どうです、可愛いでしょう?」
ベルはそう言うと、ティオナがムッとした表情に変化した。
「ベル君、可愛いからその子を選んだの?」
「さあ、どうでしょう?」
曖昧にベルは微笑んだ。
初めて出会った当初、ベルは可愛い女の子は好きだと言った。
つまりはこれは是ということになるのかと、ティオナは悩ませていた。
「あの......アーデさん、どうなされましたか? ご気分でも悪いんですか?」
ふと、先程からフードを深く被り俯いているリリルカの様子がおかしく思ったのか、レフィーヤは心配そうに隣に座った。
レフィーヤは基本的にある一定の人物と、男性との接触が無ければとても優しい性格の女の子だ。
故に目の前で同じ女の子の様子がおかしかったら心配してしまうのは当然のことだった。
「......大丈夫です。特に何もしてませんから」
しかし、リリルカは心配するレフィーヤを尻目に、大丈夫だと返すだけだった。
「......ごめんなさい、ちょっと失礼しますね」
レフィーヤはそう言って、リリルカのフードに手を掛けて優しく外した。
「アーデさん!? どうしたんですか!」
正確には泣き腫らした痕がリリルカの顔に残っていた。
しかし、リリルカはひたすら何でもないと返すだけで意味のある回答は無かった。
「ちょっと、ベル・クラネル! なんでアーデさんは泣いているんですか!?」
レフィーヤはリリルカを抱き締めるようにして、ベルを睨んだ。
それはもう鋭い鋭い眼光で。
「......実はですね、
「お説教って......アーデさん、それは本当なんですか?」
レフィーヤは抱き締めているリリルカの顔を伺うようにそう確かめた。
「......はい、本当です。リリが
リリルカはそう言うと、また俯いてしまった。
「ベル・クラネル。一体何があったんですか?」
こんなになる説教もとい原因はと、レフィーヤは再度ベルの方を向いて訪ねた。
「それは、すいません。リリルカのためにも言うことは出来ません」
ベルは申し訳なさそうにそう言うと、目を横に伏せた。
「アーデさんのためって......! ベル・クラネ______」
「はいはい、レフィーヤ。熱くなりすぎだよ。ていうか、ベル君目の敵にし過ぎ」
また二人を止めたのはティオナであった。
ティオナは流石にと、ベルの腕からは既に離れており、仲裁するべく間に入った。
「レフィーヤもお説教させられた理由を他の人に聞かれたくなんかないでしょ? 無理矢理聞くのは良くないよ?」
ティオナにそう言われ、レフィーヤは口ごもり、またベルをキッと睨んだ。
「こらっ! ......もう、ごめんね、ベル君」
「あ、いえ、大丈夫です。こっちが全部悪いので......」
ベルはそう言うと、また曖昧に笑う。
もう既に二人の女の子に嫌われてしまったなと、ベルは少しだけ自己嫌悪に陥る。
「......ティオナがリヴェリアみたい」
アイズは驚いた表情で、ティオナを見ていた。
いつもの知っているティオナは、あの十日程前の事件ですっかり身を潜めてしまったのか、大人の余裕のようなものが、溢れていた。
「でも、ティオナ。初めて会ったときとは印象が違いますね。何かこう、大人っぽくなったっていうか_______」
「もう! そんなこと言っても何も出ないよー!」
照れたようにバンバンベルの背中を叩いてくるティオナ。
やはり、本質的には何も変わっていないようだと、ベルとアイズの思いはシンクロしていた。
但し、ベルの背中には断続的にかなりの痛みが発生していたが。
「アーデさん、大丈夫です。もう泣かないでいいですよ」
レフィーヤはリリルカを抱き締めながら姉のような表情で、安心させるようにそう言った。
リリルカもレフィーヤへ抱き締められると安心感を得るように身を任せていた。
「......レフィーヤもお姉さんしてる」
今日二度目の身内の代わりぶりに、アイズはまた驚いていた。
何だろうか、ベルに関わったことで、身内がどんどん変わってきているとアイズは思っていた。
現にファミリア内でも 、アイズが知る限り様子が変わった人は
「あ、アイズさん! や、止めてくださいよ! 別にそんなんじゃ......」
顔を真っ赤にしてレフィーヤはそう言うが、満更でもないのか少し嬉しそうな顔をしていた。
「......お姉さま」
「はうっ......!」
どうやら二人は本当に仲良くなったみたいだ。
うん、良いことだとベルは頷いていたが、その二人が自身のことを嫌っていると考えると少しだけ悲しくなってしまった。
「ん? どうしたのベル君?」
「......いえ、只、
「あ、レフィーヤ? 確かにそうかもしれないねぇ」
ティオナは納得したようにそう言ってレフィーヤの方を見たが、ベルはそれに対しては苦笑することで返答した。
「あ、そうだ。皆さん、お腹減ってませんか? サンドイッチならたくさんあるので良かったら一緒に_______」
ベルは折角だからと、ロキ・ファミリアの三人にそう提案しようとした時だった。
「ブモォォォォォォ!!」
響き渡る咆哮。
感じるは大きな気配。
大きく揺れ動く地面。
その場にいた全員はその音源を一斉に見た。
「あれって......」
「まさか......」
「うん......」
「ひっ......!」
「久し振りだなぁ......」
上からティオナ、レフィーヤ、アイズ、リリルカ、ベルの順番だ。
眼前に迫るそのモンスターを見て、皆はそれぞれの反応をしていた。
「ブモォォォォォォ!!!」
ミノタウロス。
本来なら15階層に出現する大型モンスターで、現階層には出現はしない。
並の冒険者、つまりはLv:1の冒険者や、並のLv:2の冒険者程度なら一瞬で殺されてしまう程の力を持っている。
しかも数は一体ではない。
視認出来る限り、数は十数体。
もし、この場にいるのが駆け出しの冒険者だったのなら死を覚悟するだろう。
しかし、今ここにいる面子はどうだろうか?
「取り合えず、あれを片付けないといけないねー」
「......私は右側をやる」
「では、私は皆さんの援護を。......リリルカさん、私の後ろに隠れていてくださいね」
「は、はいっ......!」
「本当、ミノタウロスに縁でもあるのかな......まあ、食事を邪魔されたのだから容赦はしませんが」
最大最強と呼ばれるロキ・ファミリアの主力メンバーで、その内Lv:5が二人、Lv:3が一人。
もう一人は、ヘスティア・ファミリアに加入してまだ十日程しか経っていないが、先のメンバーが苦戦したモンスターを一人で圧倒したLv:1の冒険者。
はっきり言って、死を覚悟するのは、ミノタウロス達の方だった。
「それじゃあ、一瞬で終わらせましょうか」
「了解、ベル君。すぐに蹴散らしてあげる!」
「うん......分かった。殲滅する」
「貴方に指揮られるのは本当に嫌なんですが、まあ、いいです......了解しました」
「......わ、私は皆さんの倒されたモンスターのアイテム回収をしますね!」
ここに即席ではあるが、パーティが結成された。
そして、それと同時に、ミノタウロス達の全滅が確定された瞬間でもあった。
「何のようかしら、ヘルメス。旅はもういいの?」
「いやー、少し子供達の様子を見にね」
バベル最上階、女神フレイヤの部屋に、小さな羽の装飾がついた帽子を被った金髪の青年がいた。
名をヘルメス。
神々の伝令者とも呼ばれ、多方面において優れた能力を発揮する神の一柱である。
「様子を見に、ねぇ。貴方、あの子の面倒を見てたのよね? その役目は私が引き継ぐからもういいわよ」
「面倒見てたって言っても雇い主と雇われみたいなものだしね。それに、僕はあの子の歩む道を観察したいだけなんだ。少し細工をしてあげただけで、これ以上は何かをする気はないから、安心して君が
そう含んだ笑みを浮かべてフレイヤを窺うヘルメス。
そんなヘルメスに対して、フレイヤは酷く苛立ちを感じていた。
「その下賤な眼で私を見ないでくれるかしら。不愉快なんだけれど」
「これは、厳しいねぇ。傷付くなぁ」
そんなこと全く思ってないような態度で、ヘルメスは言う。
「......それで、ここに来たようは何かしら? さっさと用件を言って私の目の前から消えなさい」
フレイヤは殺気すら籠っている視線をヘルメスへ叩き込んだ。
「はいはい、さっさと言いますよ。これを渡しに来たんだ」
そう言ってヘルメスは一冊の本を取り出して放り投げた。
放物線を描きながら飛んでいく本。
しかし、それはフレイヤの眼前で止められた。
「......」
知らぬ間にそこに立っていたのは、屈強な男であった。
オッタル。
フレイヤ・ファミリア首領にして、《猛者》の二つ名を持つ、名実共に世界最強の冒険者である。
「ふぅん。これは......」
フレイヤはオッタルから手渡された本を受け取り、それをパラパラと捲ると、口角を少し上げた。
「......面白いわね。礼を言うわ、ヘルメス」
「女性は怖いなぁ。さっきと反応が違い過ぎ......」
ヘルメスはやだやだと言って、背中を預けていた壁から離れ、出口へと向かい始めた。
「......そう言えば、貴方の経営しているあの店、何て言ったかしら?」
ふと、フレイヤはヘルメスへそう投げ掛けた。
取るに足らない世間話のような意味のないものである。
フレイヤからの珍しい問い掛けに、ヘルメスは少し驚きながらも、こう答えた。
「オラリオ市内だったら何処へでも、運送屋《タラリア》って言うんだ。良かったらご贔屓に、どうぞ?」
ヘルメスはそう言って、ニカッと笑った。
残念! 修羅場が起きる程、好感度は上がっていませんでした。
好感度を数値で表すと、ティオナは120くらいですね(基準値不明)
あと、レフィ×リリという新ジャンル開拓!?
アニメのリリが可愛すぎて死ねる。