生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
#11 プロローグ
迷宮都市オラリオ。
その街の外れには、かなり老朽化した教会があった。
「ここに正座するんだ!」
「何でですか...」
その教会の中の一室、そこにはベッドが置かれており、二人の男女が腰を下ろしていた。
まるで、情事の後のような状況ではあったが、一切そんなことはなかった。
「いいから! 早く!」
「分かりましたから、そんなに動かないで下さい。ベッドが軋みます」
白髪の少年は、言われるがままにベッドの上に正座した。
目の前には、黒髪ツインテールの少女いや、女神が座っている。
「取り敢えず、これを見たまえ」
その女神は仏頂面で、明らかに機嫌が悪そうに、羊皮紙を渡してきた。
「これって、僕のステイタスですよね。これがどうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ!」
この女神は何をそんなに憤っているのだろうか、少年は羊皮紙の中身を覗いた。
ベル・クラネル
Lv:1
力:A 876 耐久:I 0 器用:S 974 敏捷:S 961 魔力:I 0
《魔法》【】
《スキル》【 】
少年ベル・クラネルは改めて自身のステイタスを確認したが、これを見たから何なのだというわけで、目の前の女神様の意図は掴めなかった。
「これを見て、何か思うことはないのかい...?」
「いや、別に。強いて言うなら最初より上がったなとは...」
「その最初が、一週間前だとしてもを言ってるのかい!?」
女神ヘスティアは、ベッドにボスッと手を置くと、鼻と鼻が付くのではと思うくらいに顔を近付けてきた。
ベルが食人花を殺戮して、今日で丁度一週間が経過しようとしていた。
一部の壊れた街並みもまだ全然復旧出来ていない状況だ。
ベルはあの後、シルが生きているのを確認し、一安心したのであったが、追いかけてきたエイナとヘスティアに滅茶苦茶怒られたのは言うまでもない。
戦いが終わった瞬間、いきなり走り出して行ったのだ、それは当然であった。
ちなみにベルが助けた少女は無事に両親と再会することが出来た。
その際に、「お兄ちゃん、ありがと!」と頬にキスをされてしまったベルであったが、それで女性陣から更に冷たい目線を喰らったのは言うまでもない。
「割りとダンジョンにも潜ってますし、妥当じゃないんですかね...」
「そんなわけないだろ!」
適当に返答したのがバレたのか、バレてないのか、ヘスティアは案の定ツインテールを逆立たせて声をあげた。
「それに、この変な上がり方は一体何なんだい?」
変な上がり方、つまりはベルのステイタスで耐久が上昇していないことを言っているのだろう。
魔力は魔法を使わなければそもそも上がらないので、ここでは省かれるが。
「いや、ステイタスって、それに関することを何度もやらなきゃいけないんですよね?」
例え、力だった場合はとにかく重いものを振るったり、敏捷だったら速く動いたりと、根気強くやっていかなければならない。
そして、耐久は攻撃を受けることで、上昇するステイタスだ。
「当たらなければ、どうということもないでしょう?」
「そんな馬鹿なことあってたまるもんかい!」
馬鹿なことと言われ、ベルは少しだけしょぼんとしてしまうが、仕方がないだろう、本当のことなのだから。
「...というかベル君は、どれくらい潜ってるんだい? 低階層を往復したところで、流石にここまで伸びないと思うんだけど」
「15階層ですね」
「■○□△◎$♪¢~!!」
最早、言葉ではない何か叫んでいるヘスティアを目の前に、ベルは軽く引いていた。
「まあ、もっと行けそうでしたけど、何か区切りが良かったので...」
「ダンジョンに潜るのを、区切りが良いからとかで考えるな~!」
ゼーハーと肩を揺らして、荒く息をするヘスティア。
顔もその影響か、真っ赤になっていた。
「ヘスティア様。怒るのは身体に良くないですよ。深呼吸しましょう?」
「誰のせいでこうなってると思ってるんだ!」
まあ、自分のせいなのだろうとベルは納得した。
わざと分かってないふりをしていたのかもしれない。
確かにこんなペースで上がれば、冒険者は皆レベルがとんでもないことになっているはずだ。
故に、ベルは
「大体、そんなのハーフエルフ君が黙ってないだろ!」
あのエイナのことだ。
間違いなくヘスティアの比ではないくらいに怒るだろう。
もしくは卒倒してしまうかもしれないが。
「はい、それはもう尋常じゃないくらいに怒られました。すごく怖かったです」
未だにあの時の恐怖を忘れられないベルは、肩が震えていた。
ハーフエルフ、つまりはエルフなのに、あの時はまるで鬼のようだった。
一瞬だが、死を覚悟してしまった。
そんな姿を見たヘスティアは、流石に可哀想だなと、ベルの頭を撫でていた。
悪くない、寧ろ良いとベルは内心今の状況を喜んでいた。
「...ところで、ヘスティア様。あなたは僕に隠し事してないですよね」
「うぇ! い、いきなりどうしたんだい、ベル君!?」
タイミングは今しかないとベルはぶっこんだ。
ヘスティアの反応から察し、これは黒だなと、ベルは確信し、今度はこちらの番だと、行動した。
「ステイタス欄のスキルのところ、わざと消してるような跡があったんですけど、あれ何ですかね?」
グイッとベルはヘスティアの顔に、先程と同じくらい近付けてそう言った。
「べ、ベル君! 顔が近いよ、顔が!」
ヘスティアは顔を赤くしてパニクっていた。
先程、同じ事を自分にやって来たのに何を言っているんだと、ベルは思わなくもなかったが。
「ヘスティア様。どういうことなんですかね。ねー」
ベルはヘスティアの目を逃さないと言わんばかりにジッと見詰めた。
「ぼ、ボクは何も知らないよ! ベル君の勘違いじゃないかな!」
必死にベルから目をそらして、誤魔化そうとするヘスティア。
もう完全にバレているのだから、言ってしまった方が楽なのに、ベルはそう思っていた。
「ふーん、そうですか。それなら...」
ベルはそう言うと、ヘスティアへ近付けていた顔を離した。
ヘスティアは解放された、そう思い、少しだけ安堵していた。
_______のは一瞬だった。
ヘスティアはベルに肩を掴まれると、そのまま押し倒されてしまったのだ。
「べべべべべベル君!!?」
突然の出来事に、ヘスティアは先程よりもパニック状態に陥っていた。
「いや、ヘスティア様がどうしても言ってくれないなら僕にも考えがありましてね...」
ベルの両手はヘスティアの顔のすぐ側に置かれており、見下ろす形になっていた。
つまり、完全ロックオン状態である。
「力付くで聞き出そうかなと思いまして」
まあ、身も心も解き放てば、ヘスティア様も喋ってくれますよね、そう言うとベルはジッとヘスティアを見詰めた。
先程よりも更にだ。
「ままままま待ってくれ! べ、ベル君! ま、まだ心のじゅ、準備が...!」
「はぁ...準備とか、そんなこと言える余裕があるのならさっさと喋っちゃって下さいよ...」
ヘスティアは、「余裕なんてないよ! どこからそんなことが言えるんだよ!」と心の中で思っていたが、ベルには通じない。
「...まあ、良いです。ヘスティア様が僕に教えてくれないのは何か理由があってのことでしょうし」
ベルはそう言うと、ヘスティアからどいた。
ヘスティアは、顔を赤くしたまま、起き上がると、ジト目でベルを睨んでいた。
「ヘスティア様、謝りますから、そんなに睨まないで下さいよ」
元々
「君は酷いよね! というかファミリアに入ってから何時もからかわれてるような気がするんだけど気のせいだよね!」
ごめんなさい、わざとです等とは言えないベルであった。
何というか、ついやってしまうのだ。
からかったときの反応も面白可愛いし、何より見た目が美少女なので、ベルにとっては最高であった。
「全く...! ボクじゃなかったら許されないことなんだから気をつけるんだよ!」
こんな風に甘い神様はきっといないだろう。
ぷんぷんと怒りながらも、最後にはこうやって許してくれるのだ。
「ありがとうございます、ヘスティア様。大好きです」
「ふぇあっ!!?」
だから、ついやってしまうのである。
「ギルド登録に引っ越しも終わったな...」
ヘスティアを性懲りもなくからかってまた怒られたベルはどうにか機嫌を復活させ、終わっていなかった持ってきた荷物を出す作業を終了させていた。
ベルはファミリアとして同じ所に住んだ方がいいのか、ヘスティアにどこに住んでいるのか尋ねたら、外れの教会で一人暮らししていると言われ、説教したのは記憶に新しい。
女性の一人暮らしは危険が多い。
ヘスティアは神様と言えど大半の力を失っている。
そんな状態で、一人であんな場所に住んでいるなどと言われたら、怒るのも当然だ。
故にベルはすぐに今住んでいるアパートメントの契約を解除したのだ。
そして、家具などは全て自分で運ぶことにより、引っ越し運賃を
節制を心掛けているベルにとっては、それは由々しき事態であったのだ。
まあ、運ぶのに丸一日掛かってしまったが、別に良いだろうと割りきっていたベルであった。
「...来た。エイナさーん! こっちでーす!」
ベルが居たのはバベル近くの広場、そこの噴水前だ。
服装もいつも以上に気合いを入れていた。
「ごめんね、少し遅くなっちゃって...」
「いえ、時間的には約束の時間よりまだ早いですし、早く来たのはこっちですから」
駆け足で此方に来たのはエイナ・チュール。
現在、ベル専属の冒険アドバイザーを担当しているハーフエルフの美女だ。
「服、とってもお似合いですよ」
「あ、ありがとう...ベル君も、その...かっこいいよ」
エイナの着てきた気合いの入っている服装を褒めると、エイナは顔を赤くしてぼそぼそっとそう言った。
「眼鏡、今日は外してるんですね」
「...ベル君こそ、眼鏡かけてるんだね」
お互いよく知っているのは今日とは真逆の姿なのだ。
『そっちも良いですね(良いと思うよ)』
思わず笑ってしまうベルとエイナ。
まさか、言うことが被るとは思ってもいなかった。
一頻り笑うと、二人は顔を見合わせて、手を差し出した。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん、時間も勿体無いしね」
二人は手を繋ぐと、歩き出した。
目指すは、バベル内部の鍛冶エリア、ヘファイストス・ファミリアの店だ。
「主神様。最近、茶にでも嵌まっておるのか?」
「えぇ。最近、弟みたいな子が出来て、ここに結構来るようになったからお茶くらい美味しいのをって思ってね」
「主神様、それはタヂマバナ・ファミリアの最高級和菓子ではないか?」
「その子が、前に"アンコ"っていう甘味を食べて美味しかったって言ったから用意したのよ」
「主神様、その赤い石の腕飾り、よく似合っておるの」
「あら、ありがとう。これ、あの子が手作りで作ってくれたものらしくてね、世界に一つしかないのよ」
「主神様...」
「どうしたのよ、そんな顔して」
「何でもない...」
その頃、ヘファイストス・ファミリアの某店では、そんな会話が繰り広げられていたらしい。
どうせ、やることの無い作者は頑張りました...