11月26日の時点で、おかげさまでUAが1000回を突破しました。お気に入りも20件になり、本当に嬉しく思います。
正直なところニ話ぐらいなところで挫折しかけてました。二次創作とはいえこんなに見ていただけるなんて夢のようです。
今後も頑張りますので宜しくお願いします。
※2015/11/29 追記※
閲覧者の方から、類似のジャンルで主人公とほぼ同じ名前を使用している方がいるというご指摘をただきました。
そのため、今更で大変申し訳ないのですが混乱を避けるためとして、主人公の名前を変更したいと思います。大変申し訳ありません。
今後主人公の名前を「霧ヶ峰 刀霞」(きりがみね とうか)という名前で作成していきたいと思います。この名前は類似のジャンルで使用されていないと思うので、様子を見つつ
修正していきたいと思います。
今後とも宜しくお願い致します。
ここがまだ夢の中なんじゃないかと思っていた。
そんな片隅にあった小さな予感は、目の前の彼女を見た瞬間一瞬で吹き飛ぶことにななる。髪色は違えど本で、挿絵で、小島で俺は何度も見たことがある。見間違う事などはありえない。
頭の整理が追いつかず、彼女を呆然と直視することしかできず、口に含んでいた飴玉の存在すら忘れやがてぽろりと地に落ちる。
「あ……あの……貴方は……」
混乱が混乱を招き、俺の脳を困惑させるばかりで彼女の言葉など耳に入らない。
――とにかく落ち着け、ここで慌てても意味がない。とにかく逃げよう。本来ここの世界に存在すべきではない俺が、彼女と接触するべきではない。それが原因でアスナに何かよくないことが起きたらキリトにも申し訳がたたない。
「あ、あぁそうだそうだ! 俺この後手術があるもので。申し訳ないが部屋に戻らなければ! いやぁすっかり忘れていた。と、とにかく明日奈さんが探している少女は病室に戻りましたよ。それでは俺はこれで、し、失礼します」
もっとマシな嘘をつけないのか。とはいえ、不器用なりにも用件は伝えることができた、一刻も早く立ち去らなければ。
頭の整理がつかないままそそくさと歩を早めるも、すれ違いざまにギュッと服の袖をつかまれ、歩みを強引に制止される。
「おうッ!?」
驚きのあまり心臓に氷水を注がれたような感覚に襲われる。俺の計画では拝み手を突き出して申し訳なさそうな演技を交えれば去れるはずだったのが、そんなものなどおかまいなしと言わんばかりに明日奈は取り乱した表情で先ほどの失言に対しての疑問を俺にぶつけてきた。
「ま、待って下さい! どうして私の名前を知っているんですか!?」
「――――あっ」
言葉が出てこない。
金魚のように口をパクパクさせるが、それでも出てこない。
――何とかしなければ何とかしなければ……!!
「あ、あぁ、だからほらその。なんというか――そ、そうそう! 貴方の探しているあの少女に教えてもらってね!」
我ながらナイスないい訳だ。これなら逃げ切れるだろう。自分でも中々いい誤魔化しができたのことを理由にすぅっと胸の高鳴りが引いてゆく。――しかし、それが引き金となってしまった。
自分の発言した言葉の意味。車椅子の少女。目の前にいる明日奈という女性。
明日奈がこの病院にいて、あの子を探している理由。そして倉橋という医者の存在。
夢なんかじゃない。そして、現実世界でもない。ここは、今いる場所は――
冷静になった瞬間、過去の記憶が一気にフラッシュバックし、幾枚の層となって重なり合わさる。やがてそれが一つの答えとなって――
「あ……」
アスナのか細い声が俺を我に返らせる。そして彼女の悲しげな目つきを見て、自分が無意識に涙を流していることに気づいた。
「あ、あれ……?」
自分でもなぜ涙を流しているのかわからい。拭っても拭っても流れてくる無意識の涙に動揺した俺は逃げ去るように「すまない」と一言謝罪を告げ、エレベーターに駆け込んだ。
*
足取りが重たい。病室までの道のりが遠く感じる。
あの車椅子の少女が木綿季だということはわかった。無事に病状も回復しているようだし、元気そうでなによりだ。
それだけで本当に嬉しかった。が、それと同時に背徳感にも駆られていた。
彼女の気持ちと覚悟を裏切ってしまった事実が、どうしても忘れることができない。結果として木綿季は生き延びることはできたが、家族のいない彼女は一人で生きていくことになる。
――いや、明日奈たちがきっと支えてくれる。他力本願で申し訳ないが、とにかくバレてしまう前に早くここから出て行こう。
それにユウキやアスナたちに何を言われるのかはわからない。少なからず覚悟はできているが自分からわざわざ出向く必要はないし、接触する必要もない。なにより極力関わらないほうが彼女のためにも、俺のためにもいいはずだ。
早く立ち直って、幸せな人生を歩んでほしい。俺ができるのはそう祈ることだけだ。
自身にそう言い聞かせ、やがて自分の病室へ戻ると、全てを放り投げてしまいたくなるようにどさっとベットへ倒れこむ。
――そういえば夕方に倉橋先生が検診に来るんだっけ……。
それが終わったら退院しよう。確かこの病院は横浜だから、時間はかかるけど二日も歩けば家に帰られる。
――あれ、でも待てよ。ここってSAOの現実世界だよな……いくら日本に俺の家ってあるって言っても、ここにはあると限らないよな……仮に二日かけて無事に自分の住所に着いたとして、家がなかったらなんの意味もないじゃないか。
他に行く当てなどない。後は実家だがあるとは限らないし、あそこには極力帰りたくない。
最終的な結論に至ったのはベッドから倒れこんでから、二時間後の日も暮れかけの頃になってからだった。
「――よし。どうせ残り少ない限られた命だ。せっかくだしSAOの世界を観光してみるか」
我ながら良い案だ。実際に行ってみたい所がいくつかある。俺はさっそく私服に着替え倉橋先生が来るのを待つ。
そして待つこと十分。時刻にして17時15分頃。コンコンと軽快なノックが聞こえると共に扉が開く。倉橋先生は俺の姿を見るないなや、私服姿に驚いた。
「おや、もう良いのですか?」
「ええ、おかげさまで、すっかり良くなりました。ありがとうございます」
「それはなによりです」
ニッコリと微笑む倉橋先生の表情に合わせ自身も笑顔で返す。しかし、ここで俺は肝心なことを今まで忘れていたことに気づき、恐る恐る尋ねる。
「そういえば、入院費や診察費の事ですが……」
「あぁ、それは結構ですよ。私が勝手にやったことですし、紺野さんのお相手をしていただいた恩もありますから」
「あれは俺が彼女を無理やり連れまわしただけですよ?」
「あはは、紺野さんから聞きましたよ。お菓子を買っていただいたようで。それに屋上に行きたいと言い出したのはボクの方なんだとも言っていました。紺野さんは刀霞さんにとても感謝していましたよ」
その言葉を聞いて、少し報われた。彼女が喜んでくれると俺も嬉しい。そんな気持ちでいっぱいだった。
「……すいません。色々お世話になりました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。では、最後に検診しますので、上だけ脱いで背中をこちらに」
「はい。お願いします」
俺は上着を脱ぎ、先生の方へ背中を向ける。ひんやりと補聴器の冷たさが背中に伝わる。
素人の俺にでも背中越しに伝わる丁寧であり、そして優しい触診。本当に倉橋先生に感謝してもしきれない。誰かもわからない倒れていた人間わざわざ病室の1室を使わせていただいた上、無償で検診もしてくれた。木綿季の主治医がこの人で本当に良かったと思えた。
「あれ?」
とたん、倉橋先生が俺の背中に触れながらも疑問符を口にする。
俺は緊張のあまり、一瞬顔が強張り、蒼ざめた。
――もしかしてバレたか……?
エイズやHIVという病気に関して詳しいことはわからないが、凄腕の医師ともなると触診をするだけで患者のどこが悪いのか、どんな病気にかかっているのかが即座に把握できると聞いたことがある。
まして彼は木綿季の主治医だ。そういう類の病気にも詳しいはず。さすがの俺でも専門分野に長けている人に言い訳できる根性もなければ言い逃れなども思い浮かばない。
しかし、倉橋医師からの言葉は予感していたものとは違っていた。
「刀霞さん、随分体が熱っぽいですね。どこか体に違和感を感じますか?」
熱っぽい? 別に本当に風邪引いてるわけではないが……。
「いえ、特に具合は悪くないです。調子はいいと思います」
「そうですか……うーん、どうでしょう。念のため後一日だけ様子を見てみませんか?」
健康を気遣うならそれも必要なのだろうが、いくら無償とはいえ、これ以上迷惑かけるわけには行かない。それにここにいたらいつまたアスナたちに出くわすかわからない。俺を気遣っての提案なのだろう。しかし、
「それはさすがに悪いです。いつまでもご厄介になるわけにはいきませんし、この後行かなければいけない所があるので……」
「そうですか……わかりました。でしたら、退院する前に紺野さんに顔を見せてあげていただけませんか? 彼女も喜ぶと思いますよ」
先生の言葉を聞くと同時に、強い緊張感が大きな波となってこみ上げる。緊張でじっとりと手に汗を感じる。
それだけは絶対にできない。
「……すいません。それはまた、次の機会に」
「そうですか、それは残念です……紺野さんが彼女以外であんな楽しそうな表情で話しているのは初めてみましたから……」
きっと明日奈のことだろう。ここで余計なことを言わないように気をつけなければならない。話しがこじれて引き止められてしまう可能性もある。
俺は彼女とは一体誰の事かとさも知らない素振りを装い、悟られないよう慎重に話しを進めた。
「そうなんですか。その、紺野さんにとってその彼女はとても大切な方なんでしょうね……」
「そうですね。ああ、そういえばもうすぐお礼に来ると思いますよ」
「お、教えたんですか!? 俺がここの病室にいることを!?」
俺は驚きのあまり椅子から飛び上がる。
「え、えぇ。彼女も貴方のことを知りたがっていたようですし、何よりお礼を言いたいと仰ってたので」
体中からいっぺんに汗が流れ落ちていくような感覚に囚われ、いたずらがばれた子供のように心臓がバクバクと脈打つ。
――なんてこった……早くこの病院出なければ。彼女が来る前に!
俺は慌てふためいたように着替えをすませる。今はシャツが裏表逆とかはどうでもいい。一秒でも早くここから離れなければ。
「すいません! 急用を思い出したので、これで失礼したいと思います! 倉橋先生、なにからなにまで本当にありがとうございました! いつかお礼はかならず!!」
「え? えぇ、刀霞さんもお元気で」
倉橋先生はあっけにとられた表情でポカンとしていたが、今は誤解を解いてる暇はない。一刻も早くここからでようと俺は病室の扉を開けた。
しかし、時既に遅く――
「「あっ」」
扉を開けた先に、明日奈が直立していた。
お互いに一瞬驚き、しばらく放心状態になってしまうが二度も同じ手は通用しない。今度は俺が先に先手をうってでた。
「ハジメマシテ」
短い声で挨拶し、片手で拝み手を作りながら今初めて会ったかのような、よそよそしい態度ながらも必死で繕い彼女の脇をすり抜ける。
「あ、ちょっと!」
今度は袖ではなく、腕を掴まれた。
「に、逃げないで下さい! 貴方に聞きたいことがあるんです!」
「俺は君の質問に答えられることなんて何もないぞ!」
必死で腕を解こうとするが、さすが元SAOの生き残り。維持の強さも半端ではなかった。倉橋先生も混乱していたが、「まぁまぁ落ち着いて下さい」と二人を仲裁しようとしていた。
しかし俺たちはお構いなしに掴んだ腕を離せ離すまいと抵抗を続ける。
「ならせめてお礼をさせて下さい!」
「結構だ。俺が勝手にやったことだからお礼を言われても困る!」
「じゃあどうして私の名前を知ってるんですか!」
「さっきも言ったろう! 木綿季に教えてもらったんだって!」
「どうして木綿季の名前を知ってるんですか!」
「あっ」
ああ、またやってしまった。
「そ、それはだな。直接教えてもらったというか……」
「嘘です。木綿季はさっき貴方のことを話してました。自分の名前を伝えそびれたことも……」
「…………」
それ以上嘘をつくことができなかった。何を言っても彼女は引き止めるだろう。それにどうも逃げられる雰囲気ではない。既に倉橋先生も目の色が変わり、俺が彼女の名前を知っていたことに興味をもってしまった。
「私も気になりますね、刀霞さん。主治医としてお話を聞かせていただきたい」
もはや何を言っても逃げられないのだろう。どうせこんなこと話したところでて信じてもらえるわけがないが、俺は敢えて一つ条件を提示する。
「……条件がある。絶対に本人には言わないでほしい。それができないなら俺は脅されても喋らない」
明日奈や倉橋先生がそんなことをする人ではないのは重々承知していた。だが、あえて口にしたのは覚悟を知ってほしかった。それほど誰かに言いたくないことなのだと。
両者は俺の真剣な表情と意志に躊躇しつつも、約束しますと返事をしてくれたので、三人は一旦俺の病室へと戻り、鍵を閉め、二人を椅子にかけせさせた。
「今から言う話に関しては信じようが信じまいが、どちらでも構いません。ですが、嘘を言っているわけではないことを、どうかわかって下さい」
そうして俺は必要なことだけを、必要な分だけ話した。
自分はここの世界の人間ではないこと。
そして恐らく元の世界には戻れないこと。
ユウキを助けたくてこの世界にきたこと。
そして――
木綿季の病気を自身の体内へ取り込んだこと。
『刀霞にとって、木綿季とはどういう存在なのか』
『木綿季を助けた本当の理由』
これらは敢えて言わなかった。前者も後者も俺の個人的な事情と我侭でしかなかったから言うのが後ろめたくて、とてもではないが伝えられない。
無言でただ聞いていたアスナも倉橋先生も終始信じられないという表情だった。当然だろう。違う世界から来たなんて正気の沙汰じゃない。頭がおかしいと思われも仕方がない。
しかし、ALOに来た際の服装が同じものであることや、俺が現れたのとほぼ同時刻に実際に木綿季のウイルスが消滅したこと。そして何かしらの検査を受ければと俺の中にユウキと同じ同じウイルスが出てくるはずだということを話すと、にわかには信じ難いと倉橋先生は目を丸くした。
「……どうして、そこまでしてまでユウキを助けてくれるんですか?」
「――助けられるきっかけがあったから助けただけです。それに、俺は俺自身の人生に興味がありませんから」
そんな言葉を聞いた倉橋先生は、目を細めて悲しそうな表情を見せ、
「刀霞さん。どんな人生にも必ず意味があります。興味がなかったとしても、生きていればかならず理由やきっかけに出会えるはずです。だからそのようなことは言わないで下さい……」
「それは……」
倉橋先生の言葉に、俺は少しばかり憤りを覚えた。別に彼の言っている言葉が詭弁だと思っているわけではない。至極正論なことで何も間違ってはいない。
だが、それは他人の人生を見通した意見でなどではなく、所詮は極論にしかすぎないと俺は感じた。
「彼女が……木綿季が言っていました。意味なんてなくても生きていいんだと。俺もまた同じように意味があったとしても生きる必要はないと自身に対する答えを持っています。だから、自分の人生に何を見出すかは本人の考え方次第でいいと、俺は思うんです」
「刀霞さん……それではあなたが――」
「俺は満足していますよ。救える命を救うことができて。彼女には悪いことをしてしまったかもしれませんが……」
「――と、言うと……?」
「いえ、なんでもありません」
それ以上は言えない。救えて満足している反面、後悔もしていたから。誰かにそれを言ってしまったら恨まれてもいいという覚悟が嘘だと言われるような気がしてならない。この小さな後悔は自身への罪だ。誰かに語ることなく死ぬまで背負い続けよう。それが俺なりに考えたユウキへの償いなのだから。
アスナも倉橋先生も悲愴な顔つきをしていた。当たり前だ。近いうちに死ぬはずの男に「助けてくれてありがとう」なんて言える状況でもない。まぁ、そもそもお礼なんて言われたいがためにしたことではないので、まったく気にしてはいないが。
そして暫く長い沈黙が続き、やがて倉橋医師が静かに口を開いた。
「これからどうするおつもりですか……?」
「せっかくだからここを観光しようと思います」
その言葉を聞いて、アスナが床を蹴るように椅子から立ち上がる。
「で、でも…そんなことをしたら体が……!」
「だからこそさ。ベッドの上で寝てたっていずれ死ぬんだ。なら自分が生きているうちにやりたいことをやるだけさ」
明日奈は俯いたままでそれ以上は何も言わなかった。そう、この意思はかつての木綿季と同じもの。自分の死を受け入れ、自分のやりたいことをやる。俺は自分が死ぬことに関してはすっぱりと割り切れていたため、自然と恐怖は感じなかった。
「そうだ、すっかり忘れてた。明日奈さん」
「は、はい」
俺は自分のポケットを弄って、ぽとりと明日奈の手のひらにそれを落とす。
「……これは……」
「一つ余ってしまったので、木綿季に渡してあげて下さい」
あの時買った、残りの飴玉。あの子が木綿季と知らなくても、どうせ渡すつもりだった。でもまぁ、結果的にあの子がユウキで良かった、最後の最後で彼女の笑顔が見られて。
飴を渡すと、明日奈はボロボロと涙を流した。
――余計なことをしてしまった。もういこう。これ以上いたら迷惑しかかからない。
「それでは失礼します。本当にお世話になりました」
「――刀霞さん」
「はい?」
倉橋先生の一言が俺の去り際を引き止めた。
正直なところ心の中では、今さら引き止めないでほしいと呟いていたのだがこの直後、倉橋先生の提案から、俺の人生が大きく一変する。
この時俺は、木綿季と再び巡り合うことになるなんて思いもしなかった。
感想からのご指摘により、内容を一部修正しました。
ストーリー自体は変えていませんので少しでも読みやすくなっていればいいのですが……
ぶっちゃけ何も変わってない気がします。何が変わったのか自分でもわかりません。またなにか発覚次第修正を重ねていきたいと思います。
ご指摘ありがとうございました。今後も宜しくお願い致します。