wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

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 第十六話になります。
 前編と後編に分けて書かせていただきます。




16

 四月十五日。水曜日。

 俺は央都アルンへと続く入り口付近に来ている。俺自身何か用事があってここにいるわけではないのだが、ユウキに今日の十時にここに来るよう指示されたのだ。

 何をするのか、寧ろ何かされるのか。内容は一切伝えられてないし、一日時間を空けといてほしいとまで言われた。

 破天荒な彼女の事だ、命に直結しそうな出来事が起きなければいいのだが……。

 

「とぉーかぁー!!」

 

 声のする方へ視線を向けると遠方から、見慣れた服装と笑顔で、長い髪を揺らしながら手を振り、こちらの方へ軽快へ走ってくる女の子が見えた。

 今日の晴天に負けないほどの、眩しい笑顔に答えるように手を振り返すと、俺の反応に気づいたその子はより一層目を輝かせながら「とぉーっ」と無邪気な声を上げつつ俺の元へと飛び込むように体を預ける。

 予想外の出来事に一瞬体がよろけてしまった。が、彼女をなんとか受け止めることができたので、飛び込んできた女の子に向かって「おいおい、危ないぞ」と注意を促した。

 

「へーきへーき! トウカなら受け止めてくれるでしょ?」

「んー……重かったしなぁ……」

「あーひどーい!」

 

 ぽかぽかと叩いてくるユウキに圧され、「冗談だって」と弁明するのだが、ユウキは俺の意地悪な返答に「もー!」と暫く顔を膨らませていた。そんなやりとりが少々続いて、俺は改めて何故ここに呼んだのかという疑問を彼女に投げかけた。

 

「それで、今日はどうした?」

「へ?」

「いや、俺に何か用事があるんだろう?」

「よーじ……?」

「お……おいおい……」

 

――何か用があって呼んだんじゃないのか……?

 

 ユウキは腕を組み、しかめっ面でなにやら考えごとをしていたのだが、数秒もしないうちに苦笑いで一つの結論を出した。

 

「トウカと遊びたかっただけ……かな?」

「そ、そうか……」

「だめ……かな?」

 

 ユウキは俺から目線を逸らさず、上目でまじまじと見つめてくる。そんな表情を見て、何故か俺はなんとなく気が落ち着かない感じになってしまった。

 自分でもよくわからないが、胸の奥から湧き出てくるような隔靴掻痒にも似た気持ちを抑えきれず、ユウキの質問につい曖昧な返答をしてしまった。

 

「あ……いや……別に駄目なんてことは……」

「だーよねー! ほら、いこいこー!」

「あ、ちょ、おい!」

 

 ユウキはからかうような素振りで俺の手首を掴むと「はやくはやくー!」とぐいぐいと引っ張る。

 俺はなされるがまま彼女に誘導され、アルンの中心街へと向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――これは……凄いな……」

「でしょー、ボクも久しぶりに来たよー」

 

 初めて中心街へ来たが、それは仰天するような光景だった。

 そこはたくさんの群集で溢れかえっていた。

 外食店の入り口に並べられた席にはインプとサラマンダーが肩を組みながら酒を飲み交わし、スプリガンとウンディーネが睦み合いながら手を繋いで歩いている。巨漢なレプラコーンが自分で製作したのであろう武器を声高らかに宣伝していたり、プーカが街灯際で複数人と美しい音楽を奏でていた。

 《央都アルン》は種族も人種も関係なく多種多様な交流ができる。また、中心街においては様々な店が展開されているためか初心者や上級者問わず利用する人は多いようだ。ギルドの打ち上げ、パーティの勧誘、装備の新調、素材の売買、ここ中心街でできないことはないだろうと思われるほど栄えていた。

 

――さすが《央都》と言われるだけのことはあるな……

 

 暫くそんな光景に釘付けにされてしまったが、ユウキは平然としながら周囲を見回していた。すると、何かを見つけた様子で「あ、みっけ!」と嬉しそうにその見つけた方向を指差し、走り出した。

 

「ほら、トウカこっちこっちー!」

「おいおい、どこに行くつもりだ」

「いーからいーから !早くしないとおいてくよー!」

「やれやれ……」

 

 人ごみでユウキを見失わないよう彼女から目を離さず早足でついていくと、ユウキが立っていた先にあるのは小さな移動販売店のようなお店だった。

 随分と小さな店だな思い、俺は店頭に飾られていた英語で書かれている看板をつい読み上げた。

 

「く、れーぷ……?」

「やっぱ遊ぶなら食べ歩きだよねー!」

「お前本当に甘いもの好きだな……」

「えへへー」

 

 「いらっしゃいませ!」と元気の良い挨拶をしてきた店員に俺は「どうも」と軽い会釈で返す。

 ユウキは既に決まっている様子で迷うことなく注文をする。

 

「バナナチョコ生クリームと、イチゴチョコチップくださーい!」

「畏まりました。少々お待ち下さい」

 

 あ、こいつ勝手に注文しやがった。

 どうせ食べるなら食べたいものを頼みたかったのだが……。

 

「ユウキ、俺がそれをたべ――」

「てやんでーい!!」

「おぶ――ッ」

 

 ずしりと肝臓をえぐるように拳が、俺の腹部へとめりこむ。

 腹パンをされた。理不尽すぎるほどの勢いで。

 

「四の五の言わず食べるの! 絶対に美味しいから!」

「わ、わかった。わかったから俺のリバーをえぐるのはやめてくれ……」

 

 アスナの次に怖い。

 クレープを焼く香ばしい匂いがたちこめてくると、ユウキは嬉しそうにクレープが出来上がるのを眺める。俺は彼女に殴られ、もとい抉られた腹部をさすりつつクレープが出来上がるまでユウキを警戒するように眺めていた。

 暫くすると「おまたせ致しました」と店員からの一声がかかり、ユウキは「どうもありがとー!」と二つのクレープ受け取ると、片方のクレープを差し出して、

 

「ほら、食べてみて!」

「さっきので胃が……」

「てやんで――ッ」

「うそうそ! いただきます!」

 

 再び握り拳を構えようするユウキからクレープを受け取り、少し距離をとりつつクレープを食べてみる。

 ……イチゴの芳醇な香り生地の甘さが口に広がるを感じる。過去に何度かクレープを食べてきたことはあるが、感動するほどのものではなかった。しかし、このクレープはどこか違う。ただ純粋にお世辞ではない言葉が自然と口に出てしまった。

 

「……美味い」

「ほらねー!」

 

 この味に共感してくれると思っていたのか、ユウキはドヤ顔にも似た表情で俺を見る。まるで崇めろといわんばかりの顔だ。

 

「何か言うことあるんじゃないのカナー?」

「……あぁ、美味しいよ。ありがとなユウキ」

「わかればいいのだよートウカくーん」

 

 心なしかユウキの鼻が三十センチほど伸びているように感じる。

 

――まったく、お前には負けるよ……。

 

 そんな負け惜しみにも似た感情を抱きつつ、俺とユウキはクレープを頬張りながら再び歩き出し、次にどこに行くのかをユウキに尋ねる。

 

「それで、次はどこに行くんだ?」

「うんほへ、ほーふやはんひいほーはな」

「何言ってるのかさっぱりわからん」

 

 ユウキは口周りがクリームだらけのままクレープを呑み込むと、口も拭わずにそのまま会話を続ける。

 

「防具屋さんに行こうかなって」

「お前の防具強そうに見えるけどな」

「ボクじゃないよ、きーみーのー!」

「俺のか?」

 

――まぁ変えたいと思っていたし、丁度いいか。いつまでもこんな不恰好な装備でいるわけにもいかなし、動き辛いままだしな……って口汚いなコイツ。

 

「ほら、もう少し落ち着いて食べろって」

「むー……っ……」

 

 ユウキの口を軽く拭くと、目を閉じて受け入れるユウキにパチンと軽くデコピンして「終わったぞ」とからかってみる。するとユウキは「あいたー!」とおでこを抑えて少し涙目になりつつもジト目を俺に向けた。

 

「さっきのお返しだ」

「うぅーっ……トウカのそーゆーとこ嫌い!」

「それは怖いな。次から気をつけるよ」

「ほんとにほんとに嫌いになるからねー!」

「はは、悪かったって。ほら、ひとくちやるから」

「……えっ」

 

 俺は「ほら」とユウキの口元へクレープを差し出すのだが、ユウキはモジモジしながら、「あの……その……」と何やら落ち着かない様子でクレープと俺をチラチラ見るだけで食べる気配がない。

 疑問に感じた俺は「どうした? 食べないのか」と尋ねるとユウキは気まずそうに答えた。

 

「だ、だって……ほら……ボク……食べたら……か、かんせつきす……とかになっちゃうじゃん……?」

「あ――す、すまん!」

 

 俺は慌ててユウキの口元に差出した手を引っ込めるのだが、ユウキは俺の手をぐっと掴み「やっぱり食べる!」と言いだして俺の返事を聞く前にクレープに齧り付く。

 急な出来事に俺は言葉詰まらせた。

 

「お……おい……」

「えへへ、おいしーね」

 

 ユウキは照れ笑いをしつつも頬はほんのりと紅潮し、まるで悪戯が見つかった少女のように顔を赤く染めていた。

 俺はそんなユウキを見て、再び落ち着かない気分に陥り、はがゆさに負けてつい視線を逸らしてしまった。

 ……もやもやした感情はいったいどこから湧き出してくるのか。俺は自問自答するように考えてしまうが、今までこんな気分になったことなどない俺には結局結論を出すことができなかった。

 時折ユウキを直視することができなくなる。

 恥ずかしいという感情にも似たこの気持ちはなんなのか。気まずい気分を払拭することが出来ずにいた俺は、暫く話しかけることが出来ず、結局目的地までユウキと会話をすることが出来なかった。

 

「あ、ここだよー!」

「――あ、あぁ。ここか」

 

 ユウキの一声で我に返り、眼前にある店をよく見てみると、それはインプ領で見た防具店よりも何倍も煌びやかな店構えだった。

 店頭のショーケースには高級感溢れる宝石がちりばめられた女性向けの装備や、銀色に輝く頑丈そうな防具が一式飾られていたりなど、見るからに高そうな商品ばかりが展示されていた。明らかに初心者の俺が来るような場所ではないのが見てわかる。

 

「お、おい。ここ大丈夫か……」

「だいじょーぶだいじょーぶ!ほら、いこいこー!」

 

 ユウキに引っ張られるように店内に入ると、綺麗な成りをしているシルフ族の店員に「いらっしゃいませ」と歓迎される。

 店内はゆったりと商品が眺めるできるように設定されているのだろうか、落ち着いたジャズ風な音楽が流れており、他の客が店員から商品の案内を受けているのがわかった。

 どうやら利用している人はそれなりにいるようで、店員が見るかぎり女性しかいない。案内を受けている男性客の表情が緩んでいるのも頷けるほどの美人が接客しているところから察するに、人気がある店なのは間違いないようだ。

 

「あら、ユウキさんいらっしゃい」

「えっへへ。今日はボクじゃなくて、この人の防具見繕ってほしいんだけど、いいかな?」

「えぇ、もちろんいいわよ」

 

 どうやら店員さんとユウキは知り合いらしい。

 自己紹介を済まし、店員から話を聞いてみると、スリーピングナイツのメンバーも利用しているお店らしく、初心者から上級者まで強さ問わず価格もピンキリで提供しているところが売りらしい。中心街で展開しているお店なだけあってそれなりに有名でもあるようだ。

 

「さて、トウカさんはどのような防具をお探しですか?」

「とは言ってもな……かたっくるしいのは苦手なんだ。できるだけ身軽なのがいいんだが……」

「でしたら、ユウキさんと同じように軽装の方がいいですね……こちらはどうでしょう?」

 

 店員から差し出されたのは胸部と間接部分がプレートで覆われた軽装甲の装備だった。防具のステータスを確認すると、確かに今つけている防具よりもかなり軽く、丈夫で動きやすそうなのだが、なんとなく装甲部分が動き辛そうに感じてしまった俺は、もう少し注文を狭めてよりわかりやすく伝わるように申し入れてみた。

 

「すまないが、装甲部分がない防具っていうのはあるのか?」

「ありますが……それは魔法系であったり、遠距離系という形になりますので近接系のトウカ様に合うような耐性効果はありません……一部のレア装備で存在致しますが、ボスドロップ限定がほとんどです。私どもが扱っている装備では……」

「あぁ、耐性効果とかは求めていないんだ。一応見せてもらってもいいかな?」

「え、えぇ、でしたらこちらです」

 

 店員に案内されるがままについていくと、ユウキが肘で俺のわき腹をつつきながらコソコソと話しかけてきた。

 

「ちょ、ちょっとトウカ。何考えてんのさ」

「何ってー……なんだ?」

「トウカって近接でしょ?物理耐性ないとすぐやられちゃうよ?」

「お前だって軽装だろう」

「ボクはトウカより強いからいいの」

「お前……それはハッキリ言い過ぎだ……」

 

 店員から「お待たせ致しました。こちらです」と案内された先を見てみるとそこは近接とは違い、かなり身軽そうな装備が綺麗に展示されていた。

 装備一つ一つ確認していくと、耐性効果一覧には火炎ダメージ減少、氷耐性、麻痺軽減であったりと、確かに近接とは無縁の効果がほとんどだった。

 

「やっぱり物理耐性はないか……」

「そりゃそーだよ。鉱石使ってない防具しかないからねー」

「だよなぁ……。――お、これ……」

 

 諦めムードになりつつ歩きながら流すように商品を見ていくと、俺は一つの装備に目が止まった。

 

「これは……着流し……か?」

「へ? 着流しって?」

 

 ユウキは見たこともない装備と聞いたこともない単語に興味心身な様子で店員に尋ねた。すると店員は同じ装備を取り出してユウキにしっかり理解してもらえるようにと服を広げて説明を始める。

 

「着流しというのは、男子が和服を着る際に袴を穿かない様のことです。 またその着こなしかたとも言えます。 古くは羽織を略したもののみを特に着流しと称し、袴をつけなくとも羽織を着ていれば礼装にかなうとされていたのですが、現在では羽織の有無にかかわらず袴を着けない様を指すことが多いですね」

「えっと……つまり……?」

「ま、昔の私服と言ったところだな」

「なるほどぉ!」

 

 俺の一言で理解してしまったユウキを見た店員が「どうせ私の説明なんて……」とシクシクと泣き出してしまい、ユウキは「あっあっ、ごめんねー!」と慌てて慰める様子を尻目に、俺はこの服をよく着ていたことを思い出す。

 

――昔はよく着付けされたっけな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じーちゃんじーちゃん! 僕、一人で着れるようになったよ!」

「おお、そうか。頑張ったな。えらいぞ刀霞」

 

 刀霞はくしゃくしゃの帯をズルズルと引きずりながら、祖父の元へ駆け寄る。

 祖父はとても着こなせてはいない刀霞の姿を見ても、決して怒ることはせず、褒め称えて優しく彼の頭を撫でた。

 

「そうだのぉ、もう少しだけ帯を締められるようになれれば、120点だな!」

「うん!僕頑張るよ!見ててね!!」

 

 刀霞は一生懸命帯を腰に巻き、見えない背中に手を回しながら必死に結ぼうと試みるのだが、体が回るばかりでまったく結ぶことができず、仕舞いには帯で足を滑らせて、頭から転んでしまう。刀霞は無言で起き上がるが、痛さに堪えかね鼻をすすりながら涙を流がす。が、そんな姿を見た祖父がそっと刀霞の服を掃い、あやすように背中を摩った。

 

「これこれ、大丈夫か。もうちょっとだぞ。ここを、こうして、こうすると……」

 

 祖父は刀霞の手を取り、帯をできるだけゆっくり、丁寧に教えながら巻かせてみると、きちっと背中で結び目が整い、綺麗な着流しの姿が刀霞の眼前にある鏡に写し出された。

 

「で、できた! できたよ!」

 

 刀霞は祖父に抱きついて歓喜する。祖父も優しく受け入れ「よくやった。150点だのぉ」と喜びを共に分かち合った。

 刀霞にとって、褒められることは唯一の喜びだった。父に叱られ、母に期待されず、兄弟にも見放された刀霞の唯一の拠り所が祖父ただ一人だけ。

 それでも刀霞は嬉しかった。自分が努力した結果認めてくれたことによって報われた、大切な大切な思い出でもある。

 そんな祖父が認めてくれた着流し。様々な辛い過去を思い出した刀霞であったが、その思い出だけは例外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――久しぶりに、着てみるか。

 

「よし、これを貰おう」

 

 トウカの反応に、店員は驚いてその装備がいかに戦闘に不向きなのかを説く。

 

「これは、その……。戦闘用ではなくファッションのようなものでして……非戦闘地域や中立域の都心内……つまり安全地域で着るような私服的なものです。耐性効果どころか防御力自体ありませんよ?」

「いいんだ。これがほしい」

「さ、左様でございますか……」

 

 ユウキが「今つけてる防具より弱くなっちゃうよ!?」と訴えかけきたが、俺は「これがいいんだ」と言い、考えを改めることはしなかった。

 

 お金を支払い店を出てると、ユウキが「早く装備してみて!」と急かしてきた。

 トウカも少し乗り気だったため、さっそくアイテム欄から選択して装備をすると今着ている装備が一瞬にして消え、綺麗な黒い生地がふわりとトウカの体にピッタリと収まる。現実世界とは違い、確認ボタンひとつで勝手に着付けできてしまったが、トウカは着流しを身に着けた瞬間一気に体が軽くなるような感覚を覚えた。それもそのはず、防御力が皆無のため重さもない。それ故に今までにはなかった開放感が彼を包み、肩の荷が下りたようなすっきりとした気分になった。

 二人は歩きながら改めて服の具合や着こなしを確認する。

 

「懐かしいなー。この感じ」

「わぁ……なんだかお侍さんみたい」

「妖精には似つかわしくない姿だな……変か?」

「う、ううん!凄く似合ってる!」

「はは、ありがとな」

 

 言葉をつまらせてしまったユウキに、トウカは一つの懸念を抱く。

 

――どうやら気を使わせてしまったか……悪いことをしたな……。よく考えてみればこんな妖精の世界で和服なんてのもおかしな話だ。さすがに世界観壊すようなことをするのはまずかったかな……これは趣味として着ることにしよう。

 

 そんな考えを察したのか、ユウキは暫くの間、トウカの顔をじぃーっと見つめると、やがてポツリと呟いた。

 

「トウカ……今嘘だなって思ったでしょ……?」

 

 一瞬、どきりとトウカの体が反応する。

 

「いや、いやいや。そんなことないさ。嬉しいよ」

「……ホントだもん!」

「あぁ、わかってるよ。嬉しいと思ってる」

「……じゃあそれ、今からずっと着てくれる?」

「それは……」

「ほらね、ボク嘘ついてないもん! いいなって思ったもん!」

 

 ユウキはトウカの進行方向を防ぐように立ちはだかると、声が怒りに震えるのを抑えきれない様子で彼に訴えた。

 口調には怒気が混じり、息遣いが荒々しくなる。

 

「あ、あのなユウキ……そこまで気を使ってくれなくても変なら変って――」

「変って思ってないよ! トウカはかっこいいもん! ちゃんと似合ってるもん!!」

「ユウ、キ……?」

「ボクにいつも優しくしてくれて……ボクのこといつも大事にしてくれる人に嘘なんてつかないよ!!」

「お、おい……少し落ち着い――」

「落ち着いてるよ!! ボクだって……ボクだって……!!」

 

 

「――――ッ……トウカのばか! ばかばかばかー!!」

 

 トウカの困惑した表情にハッと我に返ったユウキは彼を罵った後、大きく羽を広げ、勢いよくどこかへ飛び去ってしまった。

 

「ユウキ……」

 

 どうして彼女はあんなにも怒りを顕にしていたのか。

 トウカは不穏な表情を抑えきれず、片手で頭をおさえ必死に思い出す。彼女の言葉、彼女の表情、彼女の気持ちを――。

 

『ボク……刀霞ともっと仲良くなりたい……』

 

「――馬鹿か俺は……!」

 

 飛び去ったユウキを直ぐに引きとめることができなかった自分の無責任さに対し、咎めるように自分の顔を強く殴りつける。

 そして羽を広げると、彼女を追いかけるべく、トウカは地面を強く蹴った。

 




 今回も閲覧していただき、ありがとうございます。
 ようやく投稿できました。遅くなってしまい申し訳ありません。
 今週はアニメの最終話が多かったので見入ってしまいました。はい、言い訳ですごめんなさい。
 当分ユウキ成分を含んだ話を進めていこうと思います。個人的に興奮したいので。
 コメントしていただいた方、ありがとうございました。
いつもありがとうございます。メリクリのメッセージもいただいて嬉しかったです。
 また、修正すべき点も含めてコメントしていただけると嬉しいです。結婚してください。
 評価もしていただけると助かります。
 年末までに次話が投稿できたらいいなと思います。
 一点だけ告知があります。
 過去の話を改めて振り返ってみると、明らかに表現がおかしい点をいくつか発見しましたので、予告なく修正を重ねていきたいと思います。話の内容自体は変化しませんので、そこだけご了承下さい。
 今後も宜しくお願い致します。


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