時間の無駄ではありません。
頑張って書きます。
新生アインクラッドの二十二層に、キリトとアスナが所有している森林に囲まれたログハウスがある。本来は二人の家なのだが、今ではすっかりいつものメンバーの憩いの場となっているようだ。
今回は俺もそのいつものメンバーの一人として加わることになり、本日キリトとアスナに家へ招かれた。
「と、言うわけで宜しくたのむよ。みんな」
俺が自己紹介する前に、キリトはSAO事件の生き残り組みであるリズベット、シリカ、クライン、そしてシノンとリーファの前で、インプ領での事件について一通り説明してくれた。
キリトとアスナは、俺に出会ったきっかけについてはあまり具体的に話さず、ログインしたての際たまたま出会い、基本的な操作や戦闘について教えてあげたことがきっかけだった、ということにしておいてもらった。
人前に立つことに慣れていない俺は、器用に自己紹介ができるわけでもなく「トウカだ。宜しくたのむ」と一言の挨拶と、軽い会釈を済ませる。
今に至るまでどう自己紹介すべきか悩んでいたのだが、結局聞かれた質問に答えるスタンスでいこうという結論にたどりついた。
「トウカはまだALOを始めてまだ二日目だから、みんな色々教えてあげてね!」
アスナが改めて俺を紹介してくれると、キリトの胸ポケットから小さな少女の妖精が飛び出し、
「私はユイといいます!パパとママの子供です!」
――と、挨拶をしてくれたので、俺は「あぁ、宜しくユイちゃん」と返して小さな握手を交わす。
本来であればキリトとアスナに子供がいるという時点で他人から見れば驚くべき事態なのだろうが、俺は本で彼らの成り行きを把握していたので、まったく動じず対応することができた。
その後にクラインが俺の前に歩み寄り、手を差し伸べながら「俺はクラインってんだ。トウカの旦那、宜しくな!」と握手を求めてきたので俺はそれに応じた。
「あぁ、宜しく。でも旦那はどうかな、俺はクラインさんより年下だと思うよ」
「みずくせぇなぁ、クラインでいいって!」
クラインが気さくに話してくれると、リズベットが俺の顔をまじまじと見ながら「私はリズでいいわ。でも私よりは年上よね?」と質問してきたので「あぁ、宜しくリズ。今年で二十歳かな」と返す。
するとリーファが苦笑いしつつ、俺の見た目について痛いところをついてきた。
「私はリーファです。それにしてもトウカ……さんはインプ、ですよね? ではあまり見かけない姿というか……」
「あ、あぁ、トウカでいいよ。俺も困ってるんだ。ランダムに決まるにしてもベースは短髪巨漢なはずなのに、どうして俺だけ長髪で華奢なんだろう……」
「防具もサイズが合ってない……よね。普通サイズ関係なしにフィットするようにできているはずなのに……」
「で、でも、その方が怖くなくていいと思いますっ……インプの人って圧迫感ありますし、話し辛いところがありますよね……あ、私はシリカといいます!これから宜しくお願いしますね、トウカさん!」
頭をぽりぽりとかいて困っている様子を見たシリカは、慰めにも似たフォローを入れる。
「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう、シリカ」
すると、シノンは俺の武器に興味があるらしく、じぃっと装備を凝視しながら無表情で話しかけてきた。
「私はシノン、宜しく。とりあえず防具は新調したほうがいいと思う、トウカは両手剣で戦っていくつもりなの?」
「宜しくシノン。防具に関して早い内にそうするつもりだ。武器は――……あぁ、そうだった。今回紹介してもらったのはリズベットに頼みたいことがあったからなんだ」
「へ? あたし?」
リズベットは自分に指を挿し、ポカンと面食らったとする表情を見せる。
「あぁ、これなんだが」
俺はメニュー画面を開いて属性結晶をアイテム化させてリズベットに見せた。すると――
「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」
周囲の態度が一変し、キリトやアスナも含めて部屋にいる全員が飛び上がるような勢いの悲鳴をあげ、俺はみんなの表情と声につい体がビクッと反応してしまった。
「お、おいトウカ……これ、どこで……」
キリトは口をぱくぱくさせながら質問してきたので、俺は何を今更と首を傾げながら答えた。
「なにって……属性結晶らしいけど……」
――あれ、そういえば……
「言ってなかったっけ……?」
「聞いてませんが!?」
「私も初耳なんだけど!?」
キリトとアスナが困惑と若干怒りも混じったような表情で俺を怒鳴った。
その表情を見て俺は道具屋の老人を思い出し、まさか家から叩き出されるんじゃないだろうかとヒヤヒヤしたが、事情を説明をしたらなんとか納得してもらえた。
その話をみんな興味津々に聞いていたので、俺がこれってそんなに凄いのかと聞いたらリズベットの目がお金のような形になりつつ如何にこれが価値あるものなのかを説いてきた。
「あ、あんたねぇ!! この素材がどれだけの金額で売れるか知ってんの!?」
こいつ、鍛冶屋の風上にもおけない。
「あぁ、数千万ユルドとかなんとか――
「私によこしなさいよ!!」
先に本音が出てるじゃねーか
「リ、リズさんっ駄目ですよー!」
「シリカ!こんだけ大金があればいくらでも武器が強化できるのよ!?」
「あっ……あぅ……それは、そーですけど……」
何言いくるめようとしてんだ。しかも負けそうになるなよシリカ。
「と、とりあえず売る売らないは置いといてだな、リズの腕を見込んで頼みたいんだが……この素材で武器を生産することは可能か?」
リズベットは「腕を見込んで」という言葉で正気にもどり、オホンと一つ咳払いをした後、腕を組んで暫く考え込んでいた。
このリズベットという女性はSAO事件の被害者の一人でもある。
攻略組みではないとはいえ、上級者が使用する武器の製作やメンテナンス等の管理をするほどの腕前の持ち主だ。
俺はもし彼女が製作できないと言えばあげるつもりだったのだが、予想していた答えとは違っていた。
「……作る武器によるわね。何を作ってほしいの?」
「そうだな……」
気は進まないが仕方ない。気乗りしない気持ちを抑え、作成してほしい武器を言おうとした瞬間――
「弓……とかいいと思うのだけれど……」
シノンが視線を逸らしつつポツリと呟く。
確かに候補にはなかった。それも面白いかもしれない。
「俺は片手剣が一番だと思うけどな」
キリトはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら俺の考えを妨げるように呟くと、リズべット、シリカ、クラインの目つきが変わり、そこから予想だにしない展開が起きた。
キリトに続くようにリズベットが「メイスだって強いんですけど!?」と言えば、
シリカが「短剣だって負けてないと思います!!」と対抗するように訴え、
クラインは「刀は男の嗜みだぜ!!」と負け時と尊重する。
リーファとアスナはまぁまぁみんなと宥めてくれていたが、自分の使っている武器の素晴らしさを理解してもらいたいがためか、当分の間みんなの熱は収まらなかった。
全員VRMMOを長く経験しているせいか、譲れないものがあるのだろう。
俺は暫く傍観していたが、結局トウカはどれがいいの!?と声を揃えて迫られたので、俺は気迫に押されつつも、
「え、えーと……刀……かな」
と、答えた直後。クラインは歓喜の雄たけびをあげつつ、全力疾走しながら俺に抱きつこうとしてくる。それを両手で頭を押さえ、なんとか制止する。
「おぉぉぉおおぉぉトウカー! トウカ! カタナ!! トウカタナぁぁぁ!!」
うん、こいつめんどくさい。
「と、とりあえずだな。リズ、作れるか?」
リズは舌打ちをした後、「うーん、そうねぇ」と暫く考えこんでいた。これで駄目ならば諦めるかと心変わりしていたのだが、リズは思っていたよりも早く結論を出してくれた。
「結論から言えば、可能よ。でも確実に作れるわけじゃないわ。失敗する可能性もあるし、仮にそうなれば素材も失うことになるわよ」
「別に構わないさ。どうせ君以外に作れる人はいないだろうから、全て任せるよ」
「あんまり期待されてもね…でもトウカって始めて二日よね?作れたとしても相当熟練度が必要な武器ができるはずよ。さすがに装備できないと思うのだけれど……今刀のスキルっていくつまで上げているのよ?」
本で強力な武器を装備するには、必要な数値までスキルを上げる必要があることは知っていたのだが、何分ちょっとした説明しか書かれていなかったので全てを把握しているわけではなかった俺は、「俺の武器スキルはどこから確認できるんだ?」とリズに聞き、「あんたそんなことも知らないの?ここを押して、こうスライドさせて、こうするのよ」とメニュー画面から自分のステータスの見方を教えてもらう。
しかし、リズがどれどれと俺のステータス画面を覗いて確認するやいなや、「ちょっと……なによこれ!!」と耳元で驚いた声をあげられ、耳鳴りが頭に響いた。
「な……なんだよ」
「……これ、みんな見てみてよ! トウカ……あんたまさか……」
全員が不思議そうな顔で俺のステータス画面を除き見ると、クラインが「嘘だろ……」と言ったりキリトが「トウカ、お前…」と全員が驚いた表情に変化した。
俺はいったい何なんだと思いつつ、自分のステータス画面を見てみると、両手剣のスキルが5と表記されていることが確認できた。
なんだ、別に普通じゃないかと思って画面下へ目を向けると刀剣のスキル数値が『980』と表記されているのが目に飛び込んだ。
「え?」
つい言葉が漏れる。自分でも何故この数値が出ているのかまったく理解できていなかった。
「もしかして……チート……?」
リーファがその言葉口にすると同時にみんなが一斉にリーファの方へ視線が向いた。
俺は自分のしてきたことを必死振り返ってみたが、どうもそんな事をした記憶がない。
チートを使用した覚えはまったくないが、この矛盾から察するに俺はどこかで何かをしたのかと自分を疑ってしまい、高鳴る胸の鼓動をつい片手で抑えてしまう。すると、
「大丈夫です、トウカさんのIDには改変された痕跡や形跡が見当たりません。純粋なアカウントだと思います」
ユイが庇うように俺の潔白を証明してくれた。
ユイ曰く、俺のアカウントから情報インターフェースを探し出し、プログラムの改変をした痕跡や形跡がないか調べてくれたらしい。結果、何もしていないことが分かり、俺への誤解は無事に解かれた。
その後、キリトやアスナが、そもそもトウカはチートをするような人ではないと説得してくれたので、みんなには信じてもらえたのだが、何故刀剣スキルだけ異常な数値を叩き出しているのかは全員で考察しても結論に至らなかったので、この一件はユイに任せることにした。
試しにクラインからそれなりの強さを兼ね備えた刀剣を持たせてくれたのだが、何の制限もなく装備できた。
しかし――
「と……トウカよう……手が……」
「え……?」
クラインの言葉の気づき、自分の手をふと見ると、カタカタと震えていた。
――そうか……ゲームとはいえ、やはり……
「すまない、大丈夫だ。ありがとう」
俺は周りに悟られないよう震える手を押さえ、刀をクラインへ返した。
とにかく装備することが確認できたので、改めてリズに武器を作ってもらえないかとお願いをしたのだが、しかし武器を製作しようにも鉱石が足りないとリズは言う。
必要な素材に関しては、手元にあるもので足りるらしいのだが、刀剣のベースとなる鉱石がないのと言うのだ。
リズ曰く、氷の属性結晶を生かすためには、ヨツンヘイムの最南端に位置するゲルマンの洞窟というところにある『シヴァ鉱石』というアイテムが必要らしい。
ヨツンヘイムとは、アルヴヘイムに2025年年初めの大型アップデート時に実装されていた広大な地下世界、且つ最難関フィールドである。
ダンジョンへ入るには央都アルンから東西南北に何キロも離れた階段ダンジョンまで移動し、最後に守護邪神ボスを倒してようやく入れる。
また《氷の国》とも知られており、フィールドは広く直径30km、天蓋までの高さは500mある。常に雪が吹き荒れ、湖や建物は凍り付いている。また地下世界であるため日光、月光を翅に浴びて回復することが出来ないため「ルグルー回廊」同様、飛行は不可能である。ただし完全な暗闇というわけではなく、天蓋を覆う氷柱群が仄かに放つ燐光によって照らされており、雪景色に照らされる風景は実に綺麗なもの。
フィールドは広大で森林、切り立った崖や城、等が散在し、中央の天蓋にはアルブヘイムを貫いて世界樹の根が垂れ下がり、逆4角錐の氷のダンジョンを抱えている。また、根っこの真下、ヨツンヘイムの中央には差し渡し約1.5Kmはあろうかという底なしの大穴、通称《
またこのフィールドを「最難関」たらしめるのが《邪神級モンスター》と呼ばれる異形の巨人のモンスターで、
簡潔に言うと一人で行くのは不可能だ。全員で行こうにも当分みんなの予定が合わないためPTで行く場合、等分先の話になってしまうらしい。
だが、リズベットは一つだけ方法があると言う。むふふと不敵な笑みを浮かべながら、何やらアイテム画面から一つの飲み薬のようなものを取り出して意気揚々と語った。
「ふふん。私が愛用してるハイドポーション!これがあれば私とトウカだけで採りにいけるわ!」
「はいど……ポーション?」
俺は本でも知らない初めて聞くアイテムの名に首を傾げた。
「これは最近実装されたアイテムでね、このポーションを飲めば一定時間透明状態になって敵との戦闘を避けることができるってわけよ!ただし、武器を装備していないことと、PTメンバー二人以内が使用条件だけどねー」
「つまり、それを飲んで洞窟に入り、シヴァ鉱石だけを採取して帰るってことか」
「そゆことー」
まぁ、戦闘がないなら安心か。
「わかった、なら明日暇ならさっそく頼んでもいいか?」
「えぇいいわよ。属性結晶から作る武器なんて私も初めてだからワクワクするわね」
というわけで、翌日の夜にリズと俺だけで採取することになった。
話も無事まとまり、暫く雑談をしていたのだが、改めてリーファから「チートなんて言ってごめんなさい」と謝罪をしてきたので、「俺のほうこそ不安にさせて申し訳ない」と謝り、お互いの今後の関係に傷つけることなく事なきを得た。
時間も経つにつれてシリカから「そろそろ寝ますね」とログアウトし、じゃあ俺もそろそろと、それに続くようにクラインやキリトとアスナ、リーファとリズベットが落ちていった。
俺もそろそろ落ちるかとログアウトしようとした時、
「トウカ、ちょっといい?」
シノンに止められる。
「ん?」
「貴方、さっき……クラインの刀を持ったとき……手、震えてたわよね……」
――あぁ……そうか、彼女も……
「……言いたいことは分かってる。君と同じさ、シノン」
「え……?」
「いや、なんでもない。お休み、また明日な」
そう言い残し、刀霞はログアウトしていった。
――私と同じ……?
シノンは異様な不安が次第に増長し脈拍が速まるのを感じる。
彼女の過去を知っている者は、キリトとアスナとリズしかいない。三人とも許可なしに誰かに話す事などありえないことはシノン自身十分に理解している。
シノンは不安な気持ちが片付かないままであったが、首を左右に振り、あまり深く考えないようにしようと心を鎮め、一人静かにログアウトするのだった。
今回も閲覧していただき、ありがとうございます。
今回はちょっと短めになってしまいました。
物語としてはあんまり進展はしていないです。
みんなと打ち解ける展開を楽しんでいただけたら嬉しいです。
コメントしていただいた方、ありがとうございました。
またしていただけると失禁します。
※ヨツンヘイムの説明に関してはwikiを引用しております。ご注意下さい。