とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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閑話 水着披露会

閑話 水着披露会

 

 

 

撮影スタジオ

 

 

 

波の音。

 

眩しい太陽。

 

陽炎の向こうに見える砂浜からは磯の香りが満ちている。

 

綿飴みたいな白い雲が彼方の紺碧の背景をゆっくりと移動している。

 

そして、不思議なくらいに海は蒼かった。

 

だが、これらすべては幻想だ。

 

本物ではない。

 

この学園都市の最新技術を使って、自由に背景を変える事ができ、何と質感まで再現できるという。

 

女子とは違い、男子が水着を選ぶのにそれほど時間をかける訳でもないし、ただ履けば、準備万端だ。

 

医務室に連れてかれる前に復活した当麻は、更衣室に入ってすぐ適当に手に取ったトランクスタイプの海パンを履いてこのスタジオへやってきた。

 

が、とかく、女性の買い物が長い。

 

これは常識であり、特に買い物が大好きな若い女の子は、『外』とは2、30年先を行っている学園都市でも変わりなく、水着選びに時間がかかるのは仕方がないことだ。

 

なので、水着に着替えたらやる事がなくなり、担当者の方から、暇なら先にスタジオに入ってみないかと誘われたのだ。

 

そして、入ってみれば、水着に合わせた背景として、海岸線が広がり、わぁー、すげー、と保護者としてきたという本来の目的を忘れて、スタジオ内をあちこちペタペタと触りながら巡る。

 

しかも、この撮影スタジオの凄い所は背景だけでなく、どの角度からでもシャッターチャンスを逃さない自動撮影機能まで備わっている。

 

つまり、カメラマンが必要なく、モデルはカメラの視線を気にせず常に自然体で入れると言う訳だ。

 

今も、傍から見れば当麻が1人でスタジオをうろついているように見えるが、撮影は始まっているのだ。

 

と、そこで思う。

 

 

(カメラマンもいねーって事は、詩歌達の水着姿を直に見れるのは俺だけなのか?)

 

 

何だろう。

 

おかしい。

 

おかしいぞ!

 

基本オプションに不幸が備わっている当麻さんにこんな事態はおかしいぞ!!

 

女の子達からは、妹を介して当麻がモデルメンバーに混じるのを快諾してくれたから、変態痴漢野郎と言われる事はまずない。

 

でも、相撲取り10人が密集した部屋の中に1人押し込められたら、嫌だけど、すっごく嫌だけど、まあこれが当麻さんですよ、と納得できる。

 

しかし、南国の浜辺で、美少女達10人をたった1人の男が侍らしている(ように見える)なんて、|当麻さん(自分)じゃない。

 

だって、この前、学園都市の『外』の海に行った時も結局、<御使堕し>とかいう中身と外側があべこべになるへんてこな事件に巻き込まれて、今も脳裏にこびり付いているあの青髪ピアスの水着姿(中身はインデックス)は、悪夢としか言いようがない。

 

 

(はっ、まさか! 局地的に<御使堕し>が起きて、今からやってくるのはビキニを着たむさ苦しい男共なんて事に……)

 

 

と、その時――――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「お兄様」

 

 

振り向くとそこには、常盤台水泳部の1年生、湾内絹保と泡浮万彬がもじもじしながら立っていた。

 

2人とも当麻が先輩である詩歌の兄だと知ったら、最初は驚いたが、その後、『お兄様』と何とも背中がこそばゆくなるような呼ばれ方をされるようになった。

 

しかし、こういう想像通りのお嬢様がいて安心した。

 

詩歌の知り合いの常盤台生はビリビリやメラメラといった荒っぽい子ばっかりで、妹の通っている学校は、お嬢様養成所ではなく、実は傭兵養成所なのかもしれないと心配していたがどうやら杞憂のようだ。

 

にしても、眩しい。

 

確か、橙色と黄色と緑色の穏やかな3色を組み合わせたビキニを着た湾内に青を主体とした落ち着いた原色のワンピースを着た泡浮。

 

 

「どう、でしょうか?」

 

 

女子校通いで男が苦手なのか慣れてないのか、おずおずと聞いてくる2人に、当麻はなるべくフレンドリーを心掛けるよう笑みを作って、

 

 

「ああ、うん。流石、水泳部だな。其々の色がイメージにぴったりで、似合ってんぞ」

 

 

スタイルも中学生にしては中々、とまでは言わなかった。

 

そんな事を言えば、男が苦手な子達を、男嫌いな子達にランクアップさせてしまうかもしれない。

 

 

「ありがとうございます。お兄様も似合ってますよ」

 

 

「はい。とても大きくて逞しいお身体で素敵です」

 

 

何だろうな……

 

ちょっと丁寧な対応で肩が凝るかもしれないが、こう素直で純粋な良い子って、会話をするだけでほっこりと心が洗われていくような……

 

褒めたつもりだが、お返しとばかりに湾内と泡浮に褒められて、逆に当麻が相好を崩してしまう。

 

と、

 

 

「お兄さーん!」

 

 

元気な呼び声。

 

顔を向けるとそこには佐天を筆頭に、初春と固法の姿が。

 

 

(うっ、こちらも眩しい)

 

 

「どうです? 似合いますか?」

 

 

「ああ、よく似合ってるぞ」

 

 

元気一杯に駆け寄ってくる佐天の水着は鮮やかな白のビキニに明るい碧色のパレオを掛け合わせたもの。

 

パレオは腰に巻くだけでオシャレで、下半身をカバーするのにも役立つと言われているようだが、佐天のスタイルは中学1年生にしてはかなり良く、本当に小学校から上がったばかりなのかと疑えるほど。

 

 

「あはは、男の人に見られるのって、ちょっと恥ずかしいですね」

 

 

一方、初春の方は、年相応に幼児体型というべきか、周りと比べれば凹凸はなだらかで子供っぽい。

 

でも、頭に付いた花畑と合わせたのか、オレンジ色の花がいくつもプリントされた黄色の可愛らしいワンピースに良く似合っている。

 

 

「そんな事ないって、初春。さっきも湾内さんや泡浮さん達に褒めてもらったじゃん」

 

 

「そうですよ、本当、良くお似合いで」

 

 

「さっきも言いましたけど、ビキニは目線が上下に分かれますが、ワンピースは体のラインが出ますから、細い方しか似合わないんですよ」

 

 

3人に励まされ、勇気付いたのか初春は当麻と視線を合わし、

 

 

「皆の言う通り、初春さん。良く似合ってて、可愛いぞ」

 

 

ぱあぁっ、と花が咲いたように初春は微笑み、

 

 

「えへへ。お兄さんにそう言われると嬉しいです。ありがとうございます」

 

 

と、そこで初春の頭をポンポンと撫でながら後ろから固法美偉が、

 

 

「あら、良かったわね、初春。それで私の方はどうかしら、上条君?」

 

 

ボン! キュ! ボーン! と表現すべきだろうか。

 

さっきはジャージ姿だったので良く分からなかったが、流石今回、選ばれた女性モデルの中で唯一の高校生だ。

 

中学生とは、いや、高校生と比べても圧巻なスタイル。

 

危うく鼻血が出そうになったくらいだ。

 

白と黒の細かな水玉模様のビキニで、腰にフリルがついていて、その胸元が大きく開けられ豊かな胸が強調されている。

 

その知的なイメージからは想像できない艶めかしさだ。

 

ただ、水着のカラーリングのせいか『ホルスタイン』という単語が浮かんでしまったのだが。

 

 

「に、似合ってます。でも、ピッチピチ過ぎて青少年の当麻さんにはとても刺激的なのでございますよ~」

 

 

「そう、ありがとう。でも、これ以上のサイズがなくてね。それからあなたの妹さんの方が私よりももっと凄いわよ」

 

 

「そうですよ、お兄さん! 固法先輩も凄いですけど、詩歌さんはもっと凄いです!」

 

 

鼻息を吹かせながら、空中に何かを揉むように両手を動かす佐天。

 

ゴクリッ、と思わず、喉を鳴らしてしまうが、すぐに両頬を叩いて気を入れ直す。

 

が、そこへ追い討ちをかけるように1つの影が、

 

 

「お待たせしました、お義兄様」

 

 

「ぶほっっ!?!?!?」

 

 

あまりの衝撃的光景に、鼻血は飛びださなかったものの、その代わりに思い切りせき込んだ。

 

 

「大人し目のデザインしかなくて、いま一つなんですが……ま、既製品の水着ですと、精々こんなもんですし、今日は殿方の目もありますし、このくらいがちょうどいいかしら」

 

 

本人は不満そうだが、黒子の水着は目のやり場が困るほどのほとんど裸も同然のヒモビキニ。

 

これで抑えたというなら本気はどれくらいなんだよ!

 

当麻以外の子達も、あはは、と乾いた笑みを浮かべて呆れている。

 

 

「何つーか……個性的だな」

 

 

とりあえず、落ち着こうと当麻は深呼吸するが、それを許さないかのように

 

 

「お兄様。こちらをご覧くださいませ」

 

 

「ぶはっ!?!?!?」

 

 

2度目の噴射。

 

 

「この婚后光子が表現するテーマはズバリ、セクシーアンドエキゾチック……これがオーディエンスが求める究極の水着モデルですわ」

 

 

大きくおへその開いた真っ赤なワンピース。

 

婚后の抜群のスタイルの良さをより引き立てられ、年下ながらセクシーに見える。

 

そして、その肢体に絡みついているラブリーなリボンが付けられたニシキヘビ――エカテリーナちゃんは、まさにエキゾチック………を表現しているようにも見える。

 

 

「あー、なるほど。セクシーでエキゾチックだな、うん」

 

 

黒子も揃って、全力は全力なのだろうけど。

 

力を入れる方向が斜め上過ぎる!

 

 

「いやでもなあ、パフォーマンスが全力で振り切り過ぎていたというか、ちょっとシュール過ぎると言うか、何とも評論し辛いというか。でも、熱意だけは伝わって来たぞ」

 

 

常盤台って、一体どんな所なんだよ! 本当は芸人養成所なのか!? と激しく気になるが、とりあえず、曖昧な笑みを浮かべつつ首肯する。

 

 

「貴重な殿方からのご意見。ありがとうございます、お兄様。ほら、エカテリーナちゃんもお礼をしなさい」

 

 

しかし、荒事に慣れているとはいえ一般人たる上条当麻にとって、大蛇はちょっと……

 

 

 

閑話休題

 

 

 

目の保養にはなるのかもしれないが、青少年の上条当麻にとって、女の子の水着を前に平常心を保つだけでも一苦労なのに、色々ツッコミ所満載のが連発されて、精神的許容量が限界に近くなっている。

 

凝視するのは論外だし、女子高校生もいるが年下の女子中学生達に変な事を言わなかったのは褒めてやりたい。

 

ここまで耐えているとは流石、普段から肉体面から精神面まで色々と鍛えられているだけの事はある。

 

当麻は周囲の景色へ顔を向けて、する必要のない体操までして、さりげなく、彼女達に背中を向け、その艶姿から視線を外す。

 

 

「それにしても、お兄さんの身体って、結構すごいですね……」

 

 

「流石、詩歌様のお兄様であるお方でありますわね……。これぞ、益荒男というべきものなのでございましょうか?」

 

 

……何だか、皆から視られているような気がする。

 

男性経験の少ない箱入りお嬢様にとっては、男の裸なんて珍しいものなのだろうか?

 

それにしては、突き刺さる視線の量が多いような……

 

まあ、何にしてもこんなにも彼女達に受け入れられたのは、詩歌のおかげか。

 

詩歌の兄であるというアドバンテージは、謂わば水戸黄門の印籠みたいな効力である。

 

だからこそ、変態な妄想を爆発させて、妹の評判を落とす訳にはいかないのだが。

 

 

(よし、ちっと気合を入れっか)

 

 

グッ、と準備体操が終わったら、気合を入れると共に全身の筋肉に力を入れて、身体をより引き締める。

 

と、

 

 

「あ、御坂さーん! インデックスさーん!」

 

 

佐天が大きく腕を振る。

 

すると、2人の少女がこちらに歩み寄って来て、

 

 

「とうま、とうま、待たせちゃってごめんね」

 

 

インデックス。

 

その白銀の如き艶やかな長髪、エメラルドにも勝る瞳の輝き、そして、普段、修道服に隠れて中々拝めることができない透き通るようなシミ一つ無い真っ白な肌はどこか日本人には無い外国人特有の気品というのが窺い見え、インデックス自身の天性の明るさとうまく調和している。

 

この中で最も幼児体型なのかもしれないが、そのフリルを多用した少女らしいワンピースと良く似合っている。

 

そして、なにより、

 

 

「良かった。また、<御使堕し>みたいにならなくて良かった」

 

 

ほっ、と見惚れると言うよりは安堵してしまう。

 

あの出来事は当麻にとってみればトラウマ級だ。

 

ついでに、キワモノが続けてきたので安心したせいもあるが

 

 

「? 何言ってるの、とうま」

 

 

「あ、いや、何でもねーよ、インデックス。それよりも、まあ似合ってて可愛いぞ」

 

 

うん、とインデックスは大きく頷く。

 

会心の笑みだ。

 

あの海へ旅行にいった時、当麻がこちらの水着姿を視界に避けるように逃げていたからちょっと不安だったのだが、どうやら受け入れられたようなのでこちらも内心でほっ、と息を吐く。

 

どうやらお互い海の一件を克服したようだ。

 

と、

 

 

「ちょっと、もう何でコイツがいるのよ。本当、詩歌さんったら、もう……」

 

 

いつもの強気はどこに行ってしまったのやら。

 

身体を縮込ませたり、両の手をもじもじさせたり、しきりに深呼吸したり、と。

 

滅茶苦茶恥ずかしいのにそれでも無理に割り切って来られるとこちらも照れてしまうというか、居た堪れない気持ちになってしまうというか。

 

何となくこちらも緊張してしまうようなぎこちなく雰囲気を纏いながら、ちょっと遅れて歩み寄って来たのは御坂美琴。

 

彼女はこちらと視線を合わせぬようにツン、とそっぽを向きながら

 

 

「ど、どう……?」

 

 

ほんの一瞬だが、当麻はその場で硬直。

 

気まずさもあったのだが、それだけではない。

 

いつもとはまた違うその、側面にしばし、気を取られてしまったからだ。

 

決してスタイルが良い訳ではないが、それでも当麻は、ああ綺麗だな、と素直に思った。

 

違和感――ではなく、ただ気付かなかっただけなのだろう。

 

細い手足も、薄い胸も、滑らかな腰も、そして赤く頬を染めている表情が、いつも突っかかって来る彼女が、本当に美少女であるという事実を突きつけてくる。

 

だが、いつまで経っても反応のない当麻に焦れたのか、それとも言葉足らずで質問の意図が分からなかったのか、と美琴はようやく目を合わせて、

 

 

「~~~~ッ! 私の水着はどうだって聞いてんのよ!」

 

 

「ああ、悪い悪い。何つーか、あまりにも恥ずかしがっているようだから、こっちまで戸惑っちまってな。でも、綺麗だぞ、御坂」

 

 

今、美琴が来ているのは競泳水着だが、その余計な飾りが無いシンプルなデザインは、彼女のスレンダーなプロポーションを更に引き立たせている。

 

が、

 

 

「ッ!?!?」

 

 

ズドン、と。

 

青白い高圧電流の電撃の槍が放たれる。

 

いきなりの事で油断していた当麻だが、間一髪でその右手で打ち消す事ができた。

 

 

「っぶねーっ!? いきなり何すんだよ、ビリビリ!?」

 

 

「うっさい! 皆がいる前で変な事を言うんじゃないわよ!」

 

 

「ええー!? 感想言えっつったのはそっちじゃねーか! 何ですかこの理不尽!?」

 

 

一発だけで気が済んだのか、それとも、周囲の目を気にしたのか。

 

それ以上攻撃してくるという事はなかったが、電撃の槍を片手であしらった当麻と、そして、美琴の意外な反応に妙な空気が流れ始めたような…

 

 

「なるほど」

 

 

「ふむふむ」

 

 

佐天と初春が何故か仕切りに頷き合っている。

 

とりあえず、このままだと嫌な予感がしたので、話題は変えようかと口を開く。

 

 

「あー、それで、詩歌のヤツはどうしたんだ? アイツが遅刻してくるなんてあんまり考えられないんだが」

 

 

すると、渋々と言った感じで美琴が、

 

 

「………詩歌さんに合うサイズの水着が結局見つからなかったのよ」

 

 

「ええ。私のこれと同じようなサイズでもちょっと無理だったみたいで。今、業者の方から大人用のを用意させてもらってるわ」

 

 

「なっ!?」

 

 

何という衝撃的な事実。

 

この中でも最もプロポーションが良いダイナマイトボディを持つ固法でさえもギリギリ収まったというのに、あの妹はそれを上回るとでもいうのか!

 

そして………

 

 

「皆さーん、当麻さーん、お待たせしましたー」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

颯爽と靡く長い髪は艶やかで、すらりと伸び、程良く肉付きのある脚線美は美麗で、同時に彼女の普段は押し込められているその豊か過ぎる胸がリズミカルに上下する。

 

窮屈な思いを、この解放された時に、思う存分に発散するかのように。

 

いつものあの大きめの服を着ていても、胸の形がしっかりと浮かんでいたのだ。

 

その大きさはスタイル抜群の固法を超えるサイズで、なのに、引っ込む所は思いっきり引っ込んでいる。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

妹の姿はハッキリ言って美しかった。

 

豊満な乳房を辛うじて隠している彼女のイメージカラーでもある梔子色のビキニの水着も、太陽の日差しを受けて煌めく長い髪の毛も、当麻の知る上条詩歌であって、当麻の知る上条詩歌ではない。

 

 

「? どうかしましたか?」

 

 

キョトンとする詩歌。

 

細身なのに、その胸元はたっぷりと発育していた。

 

まさに別格のLevel5。

 

しかも、詩歌は華奢で小柄で、あの若々し過ぎる母、詩菜の血を引いているからかかなりの童顔なので、それがより一層際立たせる。

 

その自然と人を引き付ける笑みは、あどけなさそうに見えるのだが、大胆な水着で露わになったその美しい肢体には男の目を一目で釘付けにする色香が漂っている。

 

相反する魅力は魔的であり、蠱惑的であり、背徳的にも似た劣情を誘発させている。

 

女性であってもその美貌に圧倒され(約一名が鼻血をぶっ放しながら倒れた)、必然的に視線は、その深い谷間に吸い寄せられて……

 

 

「あー、うん。お兄ちゃんは上に羽織るものを着て欲しいと思うんだが……」

 

 

当麻は動揺を悟られないように、慎重に言葉を選ぶ。

 

が、

 

 

「……ぁ////」

 

 

やばい。

 

詩歌に自分の見ていたものを勘付かれた。

 

照れたのか赤くなって、ぷいとそっぽを向いてしまった。

 

でも、その横顔は照れくさそうに微笑んでいる。

 

……何だろう、その仕草にもグッとくるものがあるな……

 

 

(うおおおおぉおぉおおぉぉっ!! 一体何を考えてんだよ、この俺はああぁああっ!!)

 

 

いきなり顔面を殴りつける当麻。

 

危なかった。

 

危うく土御門と同じ世界に行く所だった。

 

 

「ふふふ」

 

 

クスクスと肩を揺すらせる詩歌。

 

その度に、フルフルと揺れる胸に思わず目が行ってしまう。

 

本当にあれは目の毒過ぎる。

 

ただでさえ理性が吹っ飛びそうな反則的な状況なのに、当麻はその胸の感触を知っている。

 

あのどこまでも柔らかく、吸い付くような肌触りで男を夢中にさせる感触を―――

 

でも、『今度こそ』と兄の矜持に懸けて当麻は必死に堪えた。

 

しかし、……コイツの胸ちょっとエロ過ぎやしないか? と考えてしまうのはどうしようもなくて。

 

 

「ダメですよ、当麻さん。今日は水着のモデルなんですから。隠したら意味がないじゃないですか。それにわざわざ用意してもらったんですから、今更になって断るのは」

 

 

「そうは言ってもな……」

 

 

このままだと水着のモデルではなく、グラビア撮影になりそうなのだが。

 

 

「それよりもどうですか? 水着のご感想は?」

 

 

今更になってそれを聞いてくるのかよ!

 

 

「ああ、うん、えっと、な……」

 

 

今までは詩歌によって鍛えられたその強健な精神構造のおかげで良い感じにやり過ごせてきたのに、ここにきて……

 

 

「水着は、まあ、良いんだが。それよりも恥じらいをだな」

 

 

「恥じらい、ですか……」

 

 

「ん?」

 

 

「なるほど、やはり男というのは女の子の素直になれない恥じらいにときめくものなのですね」

 

 

「はい?」

 

 

「流石、当麻さんです。妹であってもロマンの追求には妥協なしといった所です」

 

 

「え、何!? 何だか予想外の方向に曲解されている!?」

 

 

「でも、ご安心を。この夏休み、いざという時の為に『ツンデレ』というのをマスターしましたから!」

 

 

「何一つ安心できる要素がねーよッ!? つーか、そのハイスペックな頭脳を一体何に使ってんだよ、この妹は!?」

 

 

だが、当麻がその幻想(ボケ)をブチ殺す前に、詩歌は、脇を締めて身体を抱くようにその大きな胸を隠そうとし(逆に引き締められてボリュームが強調されている体勢になっている)、そして、恥ずかしそうに顔を朱にして、視線を斜め下へ逸らすと、

 

 

 

 

 

「あんまり……見ないでよ、お兄ちゃん////」

 

 

 

 

 

気弱で、消え入りそうな声。

 

しかし、当麻の耳には確かに届いた。

 

 

「ブッ―――――!!!」

 

 

反射的に、右手で鼻を覆い隠す。

 

右手に、生温かい感触。

 

<幻想殺し>で消えないそれは、幻想(ゆめ)ではなく、現実である事の証で、ポタリポタリと真っ赤な液体が漏れるのを止める事ができない。

 

そして、

 

 

「……とうま、鼻血」

 

 

「なっ……!? い、インデックス? いきなり何を言ってんだよ。ははは……」

 

 

「アンタってヤツは、本当に……」

 

 

「み、御坂さん? そのビリビリはとっても危ないので、仕舞って頂けると嬉しいのですけど……」

 

 

怖い。

 

超睨んできている。

 

何という重い重圧だ。

 

思わず、鼻血も引っ込むほど頭が冷える。

 

 

「まあまあ、落ち着いてください」

 

 

ぎゅっ、と2人の背後から詩歌が抱きしめる。

 

ぐぐぐ……、とインデックスと美琴はご立腹だが、それでも首輪で繋ぎ止められたように詩歌のハグを振り解く事ができず、その場から動けない。

 

そんな2人の様子に詩歌は苦笑し、そして、

 

 

「今はそれよりも、黒子さんの方をどうにかしないといけませんしね」

 

 

あ、とこの場にいた全員が、砂浜で真っ赤な花を咲かせている黒子に視線を集中させる。

 

 

「ぐへへ~……大お姉様~……すてき(ハート) すてきですわ~(ハート) 黒子は黒子はもう……」

 

 

何だか駄目ぽかった。

 

白井黒子、出血多量の為、医務室へ。

 

 

 

つづく

 

 

 

設定

 

 

 

固法美偉 身長163cm 体重50kg スリーサイズ85・60・81。

 

初春飾利 身長153cm 体重43kg スリーサイズ75・58・76。

 

佐天涙子 身長160cm 体重46kg スリーサイズ79・58・80。

 

御坂美琴 身長161cm 体重45kg スリーサイズ78・56・79。

 

婚后光子 身長163cm 体重48kg スリーサイズ84・59.83。

 

湾内絹保 身長161cm 体重46kg スリーサイズ80・57・78。

 

泡浮万彬 身長162cm 体重45kg スリーサイズ85・55・79。

 

白井黒子 身長152cm バストAA

 

インデックス 身長148cm バストAA

 

上条詩歌 身長161cm 体重47kg スリーサイズ90・55・88。

 

上条当麻 身長168cm


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