とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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第3章
絶対能力者編 宝探し


絶対能力者編 宝探し

 

 

 

とある研究所

 

 

 

幼い美琴の前に、一人の少年が必死に、たった1歩でも前に進もうともがいていた。

 

 

「あの子、足を怪我してるの?」

 

 

転んでも何度も立ち上がり、歩こうとすることを諦めない少年の姿に美琴は目が奪われてしまう。

 

 

「いや、彼は筋ジストロフィーという病気なんだ」

 

 

横にいた研究者が、美琴の問いに答える。

 

 

「きん…じす?」

 

 

研究者が言う聞きなれない単語に、美琴は首を傾げてしまう。

 

 

「筋力が徐々に低下していく病気だよ。彼は理不尽な病を背負って生を受けた。だから、あのように努力して病気と闘っているんだ」

 

 

筋ジストロフィー、進行性筋ジストロフィー症。

 

筋肉が次第に変性・委縮していく遺伝性の疾患。多くは幼児期に発病し、肩や上腕、腰などの筋の変性・委縮が緩やかに進んでいき、やがて、動く事もままならなくなる。

 

 

「しかし、たとえどんなに努力しても、筋力の低下は止まらない。現在の医学に根本的な治療法は無く。やがて、立ち上がることもできなくなり、最後は自力での呼吸も心臓の活動さえも困難に……」

 

 

研究者は自身の無力さを嘆くように美琴へ訴えかける。

 

 

「だが、それはあくまで現状の話だ。君の力さえ使えれば、彼らを助けることができるかもしれない」

 

 

その希望の言葉に美琴は、少年から目を離し、研究者の方へ振り向く。

 

 

「脳の命令は電気信号によって筋肉に伝えられる。もし、仮に生体電気を操る方法があれば、通常の神経ルートを使わずに筋肉を動かせるはず……君の<電撃使い(エレクトロマスター)>としての力を解明し、植えつける事ができれば、筋ジストロフィーを克服できるかもしれないんだ」

 

 

研究者からもたらされる希望の言葉を美琴は一言一句聞き洩らさず、鵜呑みにしていく。

 

 

「君のDNAマップを提供してもらえないだろうか?」

 

 

自分の力で、彼らを地獄から救う事ができると信じてしまう。

 

 

「……うんっ」

 

 

だから、美琴は研究者の差し伸べられた手を握ってしまった。

 

ただ助けたい一心で自分のDNAマップを提供する。

 

 

「ありがとう」

 

 

そのとき、美琴は一人の少女が自分を見ている事に気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ばかね」

 

 

そして、その少女の呟きは、誰の耳にも聞こえる事がなかった。

 

 

 

 

 

道中

 

 

 

『………という訳で、この兄育成マスターとワンツーマン、精神的にも物理的にも身によく付く護身術教室終了です。基本的な型はその頭と身体にみっちりと叩き込み、妹色に染めましたので、後はこの努力値が2倍もらえる詩歌ちゃんの秘密道具を装着してください』

 

 

『あい……了解、であります』

 

 

『おや? 何のツッコミもありませんね? 詩歌さんがピンピンしているのに足腰が立たなくなって、返事をするのが精一杯、精も根も尽き果てているとは……仕方ありませんね。では、この当麻さんの大好きな愛の妹汁を―――』

 

 

『ちょっと待てマイシスターッ!!! 疲れてスルーしてたけど何か今とんでもない事言いませんでした!?』

 

 

『おお、遅ればせながらもツッコミの為に復活するとは流石、当麻さんです』

 

 

『いや、お兄ちゃんは妹のボケを拾う相方じゃないからな。今思い返せばそれ以外にもよそ様が聞けば変に誤解されるような危ないきわどいの連発だったけど、最後のはレッドカードだ!』

 

 

『? 何が一発退場される事言いましたか? 審判』

 

 

『そこでキョトンとするなよ……ほ、ほら、だから最後の、あ、愛の……』

 

 

『愛され続けて10年、疲労回復抜群、妹が作った特製果汁清涼飲料の略ですが何か?』

 

 

『―――ッ』

 

 

『ふんふむ。なるほどなるほどそういう事ですね。全く、そんなはしたない真似、仮にも常盤台中学に通う詩歌さんができるはずがないじゃありませんか?』

 

 

『結構アレな発言があったりするんですけど、詩歌お嬢様』

 

 

『まあまあ、この中にはぎゅぅぅっと果汁を搾った時にお嬢様のエッセンス―――』

 

 

『おい!』

 

 

『―――そう、優しさと愛情と、そして兄への思いやりがたくさん入ってます』

 

 

『……凄く綺麗な事を言っている筈なのに、不思議な事にお兄ちゃんは素直に喜べません』

 

 

『それは当麻さんにやましい気持ちがあるからそう聞こえるんじゃないんでしょうか?』

 

 

『あるのは、やましい気持ちというか悩ましい悩みだな。それでいつの間にお兄ちゃんの方が悪いって感じになってますけど、何だか反論し難いでせう』

 

 

『ご要望に応えられなくて残念ですけど……でも、微量の汗くらいは入っているかもしれません……それで我慢してください』

 

 

『一体お兄ちゃんをどう思ってんだよ!?』

 

 

『大丈夫。詩歌さんは理解力のある妹ですからどんなマニアックな趣味嗜好がある変態だろうと気にしません。ほら、愛の妹汁をぐいっと飲んじゃってください』

 

 

『こっちが気にするんだ! なあ、当麻さんって、どんだけ変態だったと認識されてんだよ!?』

 

 

『………』

 

 

『そこでノーコメント!? すっげー不安になるんだけど!?』

 

 

『ふふふ、冗談ですよ。当麻さんをからかうのは面白くて。妹のちょっとしたお茶目です♪』

 

 

『これがちょっとした、か。……前から、そのお茶目は、偏頭痛が起きそうなくらいに付き合っているような気がする。それより、本当に冗談なんだな!? 当麻さんは妹の汗を求める変態シスコン野郎じゃないんだなっ!?』

 

 

『さあ、それはどうでしょうか? ―――それより、明日は………』

 

 

 

 

 

 

 

「あぢぃ……どうして、俺はこんな事を……」

 

 

茹だるような暑さの真夏の炎天下、ツンツン頭の少年が木陰で自分の現状について嘆いていた。

 

そこに、銀髪のシスターと黒髪の巫女さんがやってきた。

 

 

「とうま~、そこで休んでないでちゃんと探して欲しいかも」

 

 

「早く見つけないとなくなってしまう」

 

 

銀髪のシスター、インデックスと黒髪の巫女、姫神秋沙の2人は、ツンツン頭の少年、上条当麻のやる気のない態度に文句を言う。

 

 

「わかった、わかったよ、インデックス、ちゃんと探す。それと、姫神、そんなにすぐなくなりはしねーよ」

 

 

そう言うと、当麻は腰をあげ、自販機のすぐそばを這いつくばり、下を覗き込む。

 

 

「はぁ……ここにもねぇ。早朝から始めて、1時間、見つけたカードはインデックスと姫神が3枚ずつ、そして、俺はたった1枚……俺のノルマ達成まであと4枚……不幸だ……」

 

 

3人が何をやっているのかというと、最近、密かに学生達の間で流行っている宝探し、マネーカード探しをしている。

 

ここ数日、第7学区のあちこち、特に人通りの少ないところで1,000~50,000円程度のマネーカードが大量にばら撒かれている、という珍妙な事件が起きている。

 

カードには宛先も差出人も書かれていないため、大勢の学生達は見つけたら自分のお小遣いにしている。

 

そのうちの1枚を詩歌が朝食を作りに当麻の部屋に行く途中に見つけ、少しでも家計の足しにしようと総出でカードを捜索する事になってしまった。

 

一人、ノルマ5枚を課せられ、達成すれば豪華な夕飯が食べられるらしい。

 

なので、インデックスはかなり張り切り、積極的にカード探しに勤しんでいる。

 

今も犬でもいないのに子猫のスフィンクスと一緒に捜し回っている。

 

 

「あ、見つけた」

 

 

当麻が覗いた隣の自販機から、姫神がマネーカードを見つける。

 

姫神は、三沢塾の事件の後、<必要悪の教会>から贈られた銀の十字架の首飾り、<ケルト十字>という簡易結界で<吸血殺し>の力を抑えている。

 

しかし、<吸血殺し>を封印した姫神は在籍していた霧ヶ丘女学院を、基準を満たせなくなったという事から退校処分になり、今まで住んでいた部屋を追い出されてしまった。

 

その後、一体何の因果があったか知らないが今は当麻の担任、小萌先生の所に居候している。

 

そして、今は用事があるため宝探しに参加できない詩歌に頼まれ、当麻の監視役として宝探しに参加している。

 

ちなみに、それを聞いた詩歌は、姫神が追い出されてしまった事と当麻の高校の教師である小萌の懐の大きさを両親にアピールし、当麻の高校へ通えるよう日夜説得に励んでいる。

 

 

「やったー! 4枚目のカードを見つけたんだよ!」

 

 

向こうの路地裏からインデックスが歓声の声をあげる。

 

それを聞いた当麻は嘆くように溜息をつく。

 

 

「ほら。早く見つけないと。あなたの分が無くなる」

 

 

姫神の煽りに当麻はさらに深い溜息をつく。

 

 

「あのなー、そう思ってんなら、これを外してくれよ」

 

 

当麻は姫神の前に両手を差し出す。

 

ぎちぎちに強制ギブスをつけられた両手を……

 

 

「一応、まだ出会ってねーけど、<スキルアウト>に絡まれたらどうすんだ? いくら当麻さんでも、この状態で喧嘩するのは勘弁だぜ」

 

 

「大丈夫。それ。リモコン式だからすぐに取り外し可能」

 

 

そう言って、懐から、詩歌から渡されたリモコンを取り出す。

 

当麻は宝探しのノルマを達成するまで、詩歌から某野球少年並の強制ギブスをつけるよう厳命されている。

 

詩歌曰く、当麻は、体力はあるが、力の使い方に無駄が多いらしい。

 

なので、今後の為に、当麻は無駄な動きを修正するために詩歌もかつてお世話になったこの強制ギブスを装着することになった。

 

当麻は反対したが、兄弟喧嘩の時、詩歌の動きについていけてなかった事をあげられ、渋々つける事になってしまった。

 

最初は動きにくい程度であまり苦に感じていなかったが、ボディブローのように30分経つと徐々に動きに違和感が出始め、そして、1時間後の今、明らかに当麻の動きが遅くなってきている。

 

さらに、人目も引くことから当麻は肉体精神共にHP が削られ、茹だるような猛暑により少し熱中症になりかけていた。

 

 

「はぁー……不幸だ……」

 

 

強制ギブスを外してもらえない事を悟った当麻は思わず零れ出た涙と共にいつもの決まり文句を言うのであった。

 

 

 

 

 

体育実技室

 

 

 

詩歌は相手と礼を交わすと、足を開き、両の拳を構える。

 

瞬間、対峙した相手から他者を圧倒する闘気が発せられる。

 

そして、その冷たい眼光は詩歌の動きを観察する。

 

 

(……流石…隙が見当たりません……)

 

 

相手の隙のなさに、詩歌は冷汗を垂らす。

 

 

「……いきます」

 

 

詩歌がじりっとすり足で前に出る。

 

 

「……」

 

 

詩歌に対して、相手も構えをとるが、1歩も動こかない。

 

だが、脳内では互いの僅かな肘や膝、肩、視線の動きで、その技の軌道をシュミレートし、激しくせめぎ合っている。

 

 

(……牽制をいれても無駄…なら……)

 

 

先手は詩歌。

 

予備動作も何もなく、ただ構えたその位置から左拳を突き出す。

 

 

「ふっ―――」

 

 

僅かな隙を見出して攻に転じたが、それはわざとその防御を崩させる為に作った罠。

 

相手は右の手刀で詩歌の突きを下からすりあげるように捌く。

 

いや、捌いたのではなく、詩歌の拳を攻撃する。

 

 

「うっ!?」

 

 

突きを捌かれた詩歌は態勢を崩す前に後ろへ下がる。

 

そこに読んでいたかのように、相手の蹴りが襲いかかる。

 

 

(重いッ!)

 

 

咄嗟にガードするが、蹴りの威力を殺しきれずたたらを踏んで態勢を崩してしまう。

 

追い討ちをかけるように今度は右拳が襲いかかってくる。

 

詩歌は身を逸らしてかわすが、避けた先に次は左拳。

 

身を屈めて回避するが、今度は右足………

 

重く鋭くそして流れるような連撃は、まさに終わりを知らない暴風のような攻撃。

 

攻撃は最大の防御というべきか、相手は攻撃一辺倒だが、詩歌にロクな攻撃をさせない。

 

詩歌は真後ろだけには下がらないようにして退き、機を見て相手の制空圏から逃れる。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

まだ5分も経ってないが今の攻防で詩歌の呼吸は乱れている。

 

そして、深く深呼吸しながら、詩歌は改めて相手の強さに敬意を払う。

 

 

(……やはり、生半可な突きでは通用しませんね。―――ならば……)

 

 

脱力し落ち着くと、詩歌は捨て身の構えをとり、精神を集中させる。

 

 

「む」

 

 

詩歌の捨て身の気配に、相手に眉がぴくり、と動く。

 

 

「はああああぁぁぁっっ!!」

 

 

緩めた全身の筋肉を、爆発。

 

裂帛の気合をあげると、詩歌は全速力で相手の距離を詰める。

 

詩歌の捨て身の一撃を手で捌くのは無理だと判断するやいなや、相手も捨て身で迎え撃つ。

 

 

「―――その幻想をぶち殺すッ!!」

 

 

詩歌が必殺の掛け声とともに渾身の右拳による正拳突きを放つ。

 

今まで何人もの相手を葬り去った必殺の一撃。

 

しかし、それは間一髪のところで見切られ、相手の顔のすぐ横で空を切る。

 

 

「はあっ!!」

 

 

相手は詩歌の右腕を取り、後ろ向きになる。

 

そして、詩歌の力を利用するように、体を浮かせ、投げ飛ばす。

 

瞬間、詩歌の世界は反転し、そのまま物凄い勢いで地に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

詩歌はしばらく天井を見ながら気を落ち着けさせると体を起こし、相手に一礼する。

 

 

「……ふぅ……流石、お見事な一本背負いでした、師匠」

 

 

今まで詩歌が対峙していた相手は寮監だった。

 

 

「私の連打を掻い潜るだけでなく、一撃を入れるとは、詩歌も腕をあげたな」

 

 

寮監の右頬は最後の詩歌の一撃で切れていた。

 

 

「ただ、少し加減を忘れているようだな。最初の一撃もそうだが、最後の一撃には力を入れ過ぎている。もし喰らえば、ただでは済まないだろう。……何があった。以前のお前なら、相手を気絶させる程度の加減はできていたと思うが」

 

 

この前の『三沢塾』で死闘を繰り広げた詩歌は、最後、アウレオルスに捕まった時の自身の至らなさを痛感していた。

 

そんな自分を鍛え直す為、寮監に組み手を頼んだのだが、どうやら力をいれ込み過ぎていたようだ。

 

 

「……まあ、何があったかは聞かないでおこう。ただ、今のようでは相手を傷つけることなく無力化はできない。それを肝に銘じておけ」

 

 

「はい、師匠。ご忠告、ありがとうございます」

 

 

詩歌の礼を見ながら、寮監は遠い目で詩歌を見つめる。

 

 

「普通私の制裁を見たら恐れて近づかない。……なのに、詩歌は新入生であるにもかかわらず、すぐに弟子入りを志願した。最初は物好きな奴だと思い、断ったが、お前は何度も弟子入りを志願してきたな。そして、あの辛い修行も最後まで諦めず全てこなした。そして今日、とうとう、本気の私に一撃をいれられるまで強くなった。……今まで詩歌以外の弟子を育てたことがない私が言うのは何だが、お前は私の一番弟子だ」

 

 

弟子の成長に、寮監の目からひっそりと涙が零れ落ちる。

 

 

「私も……私も最高の師匠に良かったです」

 

 

そして、詩歌の目からも涙が出ていた。

 

周囲の目には2人は理想な師弟として映った。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「さて、詩歌。頼みがあるんだがいいか?」

 

 

あれから、すぐに着替えると2人は実技室を出た。

 

 

「はい、何でしょう、師匠」

 

 

寮監は少し申し訳なさそうに言う。

 

 

「今日、あすなろ園に行くと約束していたのだが……」

 

 

寮監の様子に詩歌はすぐに気付いた。

 

先日、寮監と同じようにあすなろ園でボランティアしていた寮監の意中の相手、大圄先生があすなろ園の園長に結婚を申し込んだのだ。

 

それを寮監と、詩歌を筆頭に寮監の恋を応援していた美琴、黒子、佐天、初春は目撃してしまった。

 

 

(くっ、私の力が至らなかったばかりに……)

 

 

詩歌は当麻という彼氏? がいる成功者? として、ありとあらゆる意中の男性を落とす方法を伝授したが、寮監の恋を実らせることができなかった。

 

そのことを詩歌は寮監の弟子、いや恋の師匠として後悔していた。

 

 

(約束しましたとはいえ、失恋の傷も癒えていないのに、意中の相手が他の相手との仲睦まじい姿が嫌でも視界に入ってしまう所へなんて……しかし、約束を破るのもできない……)

 

 

寮監の言いたい事を察した詩歌はすぐに了承する。

 

 

「はい、わかりました。私、丁度、あの子達と遊びたかったんですよ。だから、私が師匠の代わりに行ってきますよ」

 

 

「悪いな。……今日は急用ができてな……。では頼んだぞ」

 

 

弟子に厄介事を押しつけて申し訳なさそうな顔をしながら、ふらふらとした足取りで去って行った。

 

 

「くっ……師匠……ッ!」

 

 

詩歌は先ほど対峙したときとはまるで違う寮監の様子に涙を禁じえなかった。

 

ただ、そのとき、詩歌の兄の当麻も膨大な汗と共に涙を流していたが、こちらは熱中症になりかけていた。

 

 

 

 

 

廃ビル

 

 

 

明りのない真っ暗な廃ビルの中、一人の男が追い詰められていた。

 

この部屋の中にいるであろう一人の少女に。

 

 

「後はこの手を振りおろすだけ……」

 

 

真っ暗だった男の視界に自身を追い詰めている少女の姿が浮かび上がる。

 

 

「や…やめろ……ッ!!」

 

 

男の目には少女が右手で死神の鎌を振り上げているように見える。

 

 

「やめてくれぇぇぇッ!!」

 

 

男は、少女が振り下ろした時に聞こえた破裂音に頭が真っ白になってしまった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「まあ、ただの紙鉄砲なんだけどね」

 

 

少女、布束砥信は男を気絶させた後、部屋の照明をつける。

 

すると、部屋の中に先ほどの男以外にも気絶している男が3人いるのが確認できる。

 

宝探しの仕掛け人、それはこの布束だった。

 

そして、この部屋で気絶している男たちは、布束が宝探しの仕掛け人だと気付き、無理矢理マネーカードを奪おうとした<スキルアウト>である。

 

 

「ん?」

 

 

その時、乾いた拍手の音が聞こえてきた。

 

布束が音がする方を振り向くと、そこに美琴の姿があった。

 

 

「いやー、面白いもの見せてもらったわ。ヤバくなったら割り込もうって、思ってたんだけど……話術と演出だけで心を折って、不良達を鎮圧させちゃうなんてねー」

 

 

美琴は布束を<スキルアウト>から助け出そうとし、後をつけたが、美琴が目撃したのは、布束がたった一人で、しかも能力すら使わずに、話術と演出だけで<スキルアウト>を気絶させるところだった。

 

 

(詩歌さんとは少し違うけど、能力も使わずに倒すなんて……)

 

 

その時、美琴は布束が何か見極めようと自分の顔を注視しているのに気づいた。

 

 

「ん? 何?」

 

 

「あなたオリジナルね」

 

 

 

つづく


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