とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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吸血殺し編 謎

吸血殺し編 謎

 

 

 

三沢塾

 

 

 

『一体どうしたらこうなるんだ? “身体には傷一つ見当たらないのに、精神が破壊されている”。まさか魂でも抜いたのか?』

 

 

後始末をする赤髪の神父は思わず声を漏らす。

 

倒れ伏す私の傍らまでやってくると、佇み、こちらを見下ろしているようだ。

 

して、その視線は炎のような髪に反して、氷のように冷たい。

 

 

 

ああ、この男は自分を殺しに来たのだ。

 

 

 

けれど、私は不思議と怖くはなかった。

 

例えそれが止めを刺しに来た死神だろうと、それ以上の恐怖を私は知っているのだから。

 

 

『何にしてもこれで『――――――=――――』の記憶は奪われたのだから事件は解決だ。砦に籠る魔術師との団体戦において犠牲者は、――が救えなかった既に死亡していた片手にも満たない十三騎士団だけ。あの最も酷かった右腕を失った者さえも生還している。こんなのは2000年を超す魔術史上でもこれが3回目だろうよ』

 

 

言って、神父はポケットから取り出した煙草を咥え、火を点ける。

 

 

『さて、ローマ正教を裏切り、<吸血殺し>を監禁し、『三沢塾』を要塞化した時点でこの学園都市を敵に回している。さらには十三騎士団を返り討ちにしてしまっているから十字教の諸勢力には賞金首扱いさ。―――そして、当然、魔女狩りを専門とする僕ら<必要悪の教会(ネセサリウス)>にも命令は下っている』

 

 

彼は宣告する。

 

私に残されているのは死か、それ以上の地獄のみ。

 

だが、怖くない。

 

私はそれ以上の恐怖を知っている。

 

でも、瞼が熱い。

 

良く理解できないがおそらく私は泣いている。

 

悲しいからではなく、何よりも美しいモノを知ったから、私の瞳は濡れている。

 

それは、私が見た幻想(ユメ)

 

 

 

自分を亡くした無くし者と他人に代われる変わり者。

 

彼らの亡くなっても無くならない、変われても代わりなどない絆。

 

 

 

ああ、私にも……あのような『代用品』のない絆を持っていたのだろうか。

 

 

 

――――忘れたくないよ――――

 

 

 

『――――、』

 

 

その時、自然と口からある一人の少女の名前が零れた。

 

 

『ちっ、“殺して”やるから、ほとぼりが冷めるまでどこかの病院にでも籠っていろ』

 

 

 

 

 

三沢塾 外

 

 

 

「ん……ここは?」

 

 

詩歌は目が覚めると、誰かに背負われていた。

 

周りを見ると、ここが三沢塾の外であることが分かった。

 

 

「お、ようやく目が覚めたみたいだな、詩歌」

 

 

まだ覚醒していない詩歌の耳に当麻の声が聞こえてきた。

 

 

「あ、当麻さん……あれ? 三沢塾に――――って、お兄ちゃん! 何で右腕くっついてるの!?」

 

 

詩歌は当麻の右肩に自身で切り落としたはずの右腕がくっついているのを見て、詩歌は一気に覚醒する。

 

 

「お兄―――いえ、当麻さん、5秒待って下さい。今落ち着きますから」

 

 

そういうと詩歌は瞑想して5秒程左手の脈を数え始める。

 

当麻は記憶を失って初めて見た詩歌の慌てふためく姿を面白そうに眺めている。

 

 

「はい、落ち着きました」

 

 

5秒後、詩歌はカッと目を開ける。

 

 

「当麻さん、一体どうして右腕があるんですか? もしかして、義手? っていうか、あれからどうなったんですか? 姫神さんは? ステイルさんは? そして、アウレオルスさんは? もしかして、食べちゃったんですか? 食べたんですね? 食べちゃったんでしょ!? お腹壊しましたか!? すぐに病院へ行きましょう」

 

 

しかし、詩歌はまだ落ち着いていなかった。

 

 

「あ、わかりました。さっきのは夢だったんですね。いやー、驚きました。まさか当麻さんの腕から竜が飛び出るなんて……全く私の深層心理は一体どうなっているんでしょうね? これは生まれた子供の名前を竜麻にしろという啓示なんですかね? あ、でも、女の子だったらどうしましょう。竜歌でしょうか? いやこれは流石に親として許せません。子供の名前は子供の一生を決めると言います。ちゃんと字画から考えませんと………」

 

 

絶賛混乱中の詩歌さんだった。

 

 

「いや、一応あれは夢じゃないぞ、詩歌。っていうか、落ち着け、深呼吸しろ」

 

 

詩歌は当麻から降りるとすぐに深呼吸をする。

 

 

(何か、今の詩歌を見てると、血が繋がった兄妹だって思えてくる。……ようやく、兄だと自覚できた気がする)

 

 

頃合いを見て当麻が声をかける。

 

 

「落ち着いたか、詩歌」

 

 

「はい、あなた。落ち着きました。やはり、女の子の名前はずっと考え続けてきた詩織にしましょう。やはり、子供の名前に親の一文字を入れるのが上条家ですからね――――」

 

 

「――――その幻想をぶち殺す!!」

 

 

当麻は右手で詩歌の頭にツッコミをした。

 

なんか、このままいくと、とんでもない事が起きそうな気がした。

 

そして、今詩歌が言ったことは深く考えず、忘れることにした。

 

 

「今度こそ、落ち着いたか?」

 

 

「……はい、落ち着きました、当麻さん」

 

 

どうやら、今度こそ落ち着いたみたいだ。

 

ようやく自分が何を口走ったのかが分かったみたいだ。

 

あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になり、俯かせてしまう。

 

 

「全く、世話が掛かる妹だな」

 

 

当麻は俯いた詩歌の頭を両手でわしゃわしゃと撫でまくる。

 

詩歌はさらに真っ赤になってしまう。

 

とりあえず落ち着いたところで、当麻は事の顛末を話す。

 

 

「………とまあ、簡潔に言えば、アウレオルスは自分の妄想に自滅したってことだ。今、ステイルは事後処理をしている。んでもって、姫神は念の為病院に行った。そういえば、姫神はイギリス清教から<吸血殺し>を封じる簡易結界を貰えるらしいぞ。そして、自滅したアウレオルスは命に別条はない。そいつはステイルが処置するらしい。何か色々と工作するつもりだって。ああ、あと塾生たちは解放されたぞ」

 

 

「そうですか。……それで、当麻さんの右腕は一体……?」

 

 

「んー、いや、俺もよくわかんねーんだ。アウレオルスの妄想のが終わったら生えてきた。怪我もそのついでに治った。まあ、アウレオルスが何かやったんだろ。詩歌の傷もアイツが暴走してくれたおかげで治ったしな」

 

 

当麻は右腕の件は全て、当麻に恐怖を感じたアウレオルスが<黄金練成>を暴走させたせいだと話す。

 

 

「……まあ、とりあえず、当麻さんの右腕が無事でよかったです。……それで当麻さん。……お願いがあるんですがよろしいですか?」

 

 

詩歌は弱弱しい声で当麻にお願いをする。

 

 

「少しでいいですから、後ろを向いてもらえますか? 当麻さんが無事だと安心したいので……」

 

 

「ん、ああ。いいぞ、ほら」

 

 

当麻は素直に後ろを向いた。

 

 

(ああ、抱きつきたいけど。正面から抱きつくのは恥ずかしいってか。全く、本当に世話が掛かる妹だ)

 

 

当麻は俯いた詩歌の目が笑ってない事に気付かなかった。

 

 

「ありがとうございます、当麻さん」

 

 

詩歌は両腕に力を集中させ、気を練り込む。

 

 

「……安心してください。痛くはありませんから」

 

 

(え? 何――――)

 

 

「常盤台中学秘伝、『物理的衝撃による記憶消去法』!」

 

 

その後、当麻は詩歌が目覚めてから何が起きたかさっぱりおぼえてなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

詩歌はベンチの上で当麻を膝枕しながら考え事をしていた。

 

 

(一体、あの竜は本当に<黄金練成>が生み出したものなのでしょうか? ……竜が出てきた時私の中で何かが反応した気がします。……<幻想投影>が反応したんでしょうか? ……<幻想殺し>は唯一<幻想投影>が受け付けない未知の力……記憶を失う前の当麻さんはこの事について何か知っていたのでしょうか?)

 

 

「おや? そこで何をしているんだい?」

 

 

考え事をしている詩歌の前にステイルが現れた。

 

 

「もう事後処理とやらは終わったんですか?」

 

 

「まあ、僕がすることは終わったね。あとはローマ正教に任せるとするよ」

 

 

ステイルは一仕事を終えたと煙草に火をつける。

 

 

「それでそこにいる上条当麻は一体どうしたんだ?」

 

 

どことなく、羨ましそうに詩歌に膝枕されてる当麻を睨みつけている。

 

 

「疲れてしまったのでしょう。私に事の説明した後、すぐに眠ってしまいました。ふふふ、本当に世話が掛かる兄です」

 

 

詩歌は微笑みながら、当麻の頭を撫でる。

 

しかし、詩歌が触れた瞬間、当麻は魘され始めた。

 

 

「そういえば、これありがとうございます」

 

 

「ん? これは防護の加護をもたらすルーンのカード……どうやら、役に立ったようだね」

 

 

「はい、おかげで一命を取り留めました。本当にありがとうござます、ステイルさん」

 

 

詩歌は魔弾を受けた時、服に張り付けられたルーンのカードのおかげで即死するのを防げた。

 

ステイルは詩歌の命の恩人である。

 

だが……それでも急所に当たっていれば即死であったはず。

 

ルーンの加護があろうと、アレは魔弾だ。

 

普通の弾丸とは訳が違う。

 

だから、もしかしたら、アウレオルスは咄嗟に急所を外したのではないのか?

 

彼には迷いがあり、その迷いが最後の最後で無意識に照準を狂わせた。

 

最後、自分の妄想に自滅したのもその迷いを自覚してしまったから。

 

<黄金錬成>はアウレオルスの純正を基盤として成り立つ力。

 

絶対可能であると信じたものを現実に出来る力。

 

だから、その純正を乱す、迷いが自滅へ導いた。

 

そして、もしかしたら、その迷いが甘さを生んで……自分の傷を“治してしまった”のではなく、“治した” のだとしたら――――

 

確証はないし、ただの希望的観測染みた幻想だ。

 

でも、詩歌はどうしてもアウレオルスの事を憎めなかった。

 

彼の目的自体は奇麗だ。

 

だから、姫神秋沙もその目的に手を貸そうと思ったのだろう。

 

しかし、そのためにアウレオルスは何人も犠牲にした。

 

追ってきたローマ正教の人間も、そして、<黄金錬成>のために何回も塾生を殺しては甦らせてきた。

 

もし、少しでもインデックスのためを思えば、彼女が犠牲の果てにある救いなど望むはずがないと考えられたはず。

 

他人の事を考えなかった。

 

他の『正義』を見ようともしなかった。

 

己の『正義』に不器用なほど純粋過ぎた、それが彼の“不幸”だ。

 

だから、上条詩歌はその“不幸”だけを憎む。

 

あと少し、あと少し早く、己の『正義』に迷いを見せていれば、彼の凶行を止められたのではないのかと思う。

 

と言っても、これもまたあくまでただの希望的観測のような幻想なのだが。

 

でも、詩歌はアウレオルスの事を憎めないし、今でも救われてほしいと思っている。

 

そう、今度こそは。

 

 

「ふん。まあ、当然の事をしたまでだ。気にしなくてもいい」

 

 

「ふふふ、そうですか。ステイルさんって、優しいんですね」

 

 

詩歌から微笑みを向けられたステイルは顔を赤くしてそっぽを向く。

 

 

「あ、そうそう、ステイルさん。携帯のアドレス教えてください」

 

 

「な―――」

 

 

「もし、インデックスさんに何かあった時に知ってないと不便ですから」

 

 

ステイルは少し残念なような嬉しいようななんだか複雑な顔をして、強引に納得しようとする。

 

 

「そうだね。そうしてもらえると僕も助かるよ」

 

 

お互い、懐から携帯を取り出し、赤外線でアドレス交換をしようと携帯を合わせた。

 

 

「それじゃあ、いく――――」

 

 

突如、赤外線を遮るかのように右手が二人の間に現れた。

 

 

「待った。それなら、詩歌は必要ない。俺だけで充分だ。さっきも言ったが、詩歌は俺の大事な妹だ。もし、アドレスが知りたかったら俺の承諾もなければ駄目だ」

 

 

どうやら、当麻は今日で一気にLevel3のシスコンになったらしい。

 

 

「だから、さっきも言ったがそれは君の勘違いだと――――」

 

 

「ならなんで、顔が赤くなっていやがんだ。俺の目は節穴じゃねぇぞ」

 

 

「くっ…だから、それは……」

 

 

その後、詩歌が当麻を説得し、無事にアドレス交換は終了した。

 

詩歌のアドレスを手に入れたステイルはどこか嬉しそうにその場を去っていった。

 

 

 

 

 

とある学生寮

 

 

 

「全く、今日は大変だったというのに、インデックスとの約束の為にわざわざ家で夕飯を作ろうとするなんて、どんだけ体力が有り余ってんだ」

 

 

当麻は買い物袋を片手に持ちながら自分の部屋へ急いでいた。

 

ステイルと別れた後、詩歌は当麻におつかいを頼み、自身は部屋に戻って夕飯の準備をしている。

 

 

「……そういえば、あれは一体何だったんだろうな?」

 

 

当麻はふと呟く。

 

 

「俺の体から現れた“ナニカ”もそうだが、詩歌の体から現れた“アレ”は一体何だったんだ?」

 

 

アウレオルスとの戦闘後、眠っている詩歌の体から当麻の<竜王の顎>と同じように透明なナニカが現れ、ボロボロだった当麻の体に纏わりついた。

 

そして触れたところから傷を癒し、最後に右肩の切断面に集合し、少しずつ右手を生やしていった。

 

 

(アレがなんだかわからねぇけど、気持ちわりぃとは思えなかったんだよな。……たぶん、あれはアウレオルスの暴走のせいではないかもしれない。……記憶を失う前の俺ならアレが何かわかるかもしれないが、今の俺が考えても仕方ない。……とっとと家に帰るか、インデックスと詩歌が待っているだろうしな)

 

 

<幻想殺し>と<幻想投影>の謎の反応について当麻は頭の中に留めておくことにした。

 

 

 

 

 

とある学生寮 当麻の部屋

 

 

 

「あら、お帰りなさい、当麻さん、ご苦労様です」

 

 

部屋に入ると詩歌は台所で楽しそうに鼻歌交じりで調理中だった。

 

 

(そういや、詩歌はアレが何か知ってるかな)

 

 

ふと当麻は<幻想殺し>と<幻想投影>について詩歌に聞いてみようと思ったが、詩歌の顔を見て止めることにした。

 

 

(本当かどうかも分からない事を言って、詩歌を心配させたくないしな。……詩歌の事だから、病院に連れて行かれるならまだしも、また、ベットに拘束されかねんからな)

 

 

詩歌に買い物袋を渡すと、ベットに座り、テレビの電源を点ける。

 

 

「そういえば、インデックスは?」

 

 

そこでふとインデックスがいない事に気づいた。

 

 

「お隣の土御門さんの所にいると思います。……そういえば、先ほど声をかけに行ったら、なんだか慌ててましたね。当麻さん、何があったか知ってますか?」

 

 

「ん、そういえば、何かあったような気がするな……」

 

 

当麻が顎に手を置いたとき、バン、とドアが開く音と共にインデックスが現れた。

 

 

「お、インデックス、おかえり」

 

 

「ふん」

 

 

インデックスは当麻の挨拶も無視して、詩歌のいる台所に駆け込む。

 

 

「おかえりなさい、インデックスさん。夕飯はもうしばらく待って下さいね――――え?」

 

 

インデックスの方に振り向くと、詩歌はインデックスのお腹が膨らんでいることに気づいた。

 

 

(ま…まあ、お腹に何か隠しているんですかね。……まさか、妊娠したわけじゃ…―――え、涙……)

 

 

詩歌はインデックスの目から涙が零れているのに気づいた。

 

 

「ねえ、しいか…とうまは駄目だ、捨てて来いって言ったけど、私がこの子の世話頑張るからここに居させて欲しいの。お願い、しいか」

 

 

タイミングが悪いようにテレビのニュースに14歳の母親特集が流れる。

 

 

(え、どういうこと、まさか当麻さんとインデックスさんが……当麻さんに舌先三寸で騙されて玩具にされるインデックスさん……当麻さんの迸る青い欲情がインデックスさんの純白の雪原を自分色に染め……やがて、インデックスさんは当麻さんとの子を身籠る……けれど、当麻さんは認知せず、インデックスさんに……)

 

 

しばらく詩歌の脳裏に壮絶な昼ドラのような映像が流れております。

 

 

(なんだか、物凄く嫌な予感がする……)

 

 

当麻の不幸センサーが今日一番の大きい警報を鳴らす。

 

今すぐここを離れろと、ここにいたら死ぬぞと警告する。

 

 

「ちょ、ちょっと、コンビニに行ってくるなー」

 

 

不幸センサーに従い、即座に怪しまれないようにここから避難を決行する。

 

 

「私、一生懸命頑張るから、しいかお願い、スフィンクスをここに居させて!」

 

 

瞬間、こっそり抜け出そうとしている当麻の足元に包丁が突き刺さる。

 

 

「ひぃっ!!?」

 

 

「……当麻さん…少しだけ待ってて下さいね……」

 

 

詩歌のメデューサのような微笑みに当麻は動かなくなる。

 

 

(か、体が動けねぇ)

 

 

当麻の動きを封じた後、詩歌はインデックスに深々と頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい。インデックスさんの負った傷は一生癒えないものかもしれませんけど、当麻さんにはその命をもって償いをさせますから許してあげてください」

 

 

「う、うん、許してあげるんだよ」

 

 

インデックスは何が起きてるか分からないが詩歌が本気だと分かった。

 

 

「ありがとうございます。それでは、最後にお節介かもしれませんが、子供の名前、もう一度考えてあげてください。その子の一生に関わるものですから」

 

 

最後にインデックスにそう言い残した後、詩歌はゆっくりと当麻の元へ向かう。

 

 

(動け動け動け動け動け動け動け動け。頼むから動いてくれえええぇぇっ!!)

 

 

当麻は後ろからゆっくりと濃密な死の気配が漂ってきていることを感じ、必死に右手を体に近づけさせる。

 

 

バキン

 

 

全身の骨を砕くような音共に体の自由が戻った。

 

 

「よし、後は外――――がッ!!?」

 

 

遅かった……当麻の後頭部に詩歌のアイアンクローが万力のように食い込んだ。

 

 

「し、しししし、詩歌さん…と、とと当麻さんは、コ、コンビニへ出掛けたいのですが」

 

 

当麻はアウレオルス戦以上の危機を迎えていた。

 

 

「はっ!」

 

 

詩歌はそのまま当麻を持ち上げ、そのままアルゼンチン・バックブリーカーを極める。

 

そして、徐々に背骨を人体の限界に挑むかのように曲げていく。

 

 

「し、しししい…こ、これ以…は…や…ばい……」

 

 

インデックスの服の隙間から現れたスフィンクスはその光景を目に焼き付けていた。

 

そして、ここの主は詩歌であり、彼女には絶対服従であると野生の本能が教えてくれた。

 

 

「……ぁ…ぁぁあ…ぁぁっぁああぁっぁ……」

 

 

当麻の口からは呻き声が漏れでていく。

 

 

「……大丈夫です。どんなに鬼畜な人だったとしても当麻さんを一人で逝かせはしません。寂しくないように、すぐに私も後を追いますから……だから、安心して逝ってください」

 

 

当麻はここで2度目の死を迎えてしまうのか。

 

 

「や、やめて、しいか。これ以上やったらとうまが……」

 

 

流石に見てられなくなったのか、インデックスが止めに入る。

 

 

「止めないでください。インデックスさんのことを責任を持ってお預かりした身でありながら、こんなことになってしまった以上、その責任は私が取る必要があります。……私が当麻さんの性欲を抑えていればこんなことには……―――くッ!」

 

 

狂戦士と化した詩歌はさらに当麻を締め上げた。

 

 

「ぅ…ぉ……ぁ……――――」

 

 

最早、満足に辞世の句を告げる事も出来なかった。

 

その後、インデックスが隣の土御門に助けを連れて来るまで、当麻は生死の境をさまよう事になり、今日の戦闘よりも深いダメージを負う事になった。

 

当麻はその後詩歌、そして、インデックスに態と誤解するようなお願いの仕方を指示した舞夏から謝罪を受けた。

 

ちなみに、詩歌からの快諾も得られスフィンクスは当麻の部屋で住むになった。

 

 

 

つづく


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