とある愚兄賢妹の物語 作:夜草
閑話 合戦1
とある高校
念話系能力者達で学校全体に通信網を築いてはいるが、基本的に五人一組で行動する―――それが、生徒らが考えた全体方針だ。
個人戦で勝ち目がないが、あまり固まっているとまとめて点を獲ろうとする一騎当千級の輩から狙われやすくなり、逆に危険度が上がるのだ。
そして、何より
いくら暴走気味な男子でも、同じチームの女子を見捨ててまで特攻しようとは思わないはずだ。
そして、勝率の低い明らかに格上相手に人数は割かず、同格あたりの相手に集中させて確実に点数を稼ぐ。幸いにして、
一班は例外としてその方針から外れることになるが、こうでもしないと特攻野郎が独断行動を取りかねないので仕方がない。
では、ここで例の一班。無茶無謀と呼ばれる『五本の指』の最難関に挑まんとする勇者チームを紹介しよう!
「人生と書いていもうとと読む。と言えば、この土御門元春だぜい!」
通称シスコン軍曹!
この街の裏を知り尽くしてる! メイドからメイドまで何でも揃えてみせるにゃー!
「この青髪とピアスがチャームポイントな僕はこのクラスの真の委員長!」
通称BLAU!
ストライク? ボール? 関係ないカワい子ちゃんは全部守備範囲! でもデットボールだけは堪忍な!
「今日を五体満足で生き延びることが平凡な男子高校生上条当麻のささやかなお願いでせう」
通称怒髪天!
得意技は老若男女平等パンチ! 第一位だってブン殴って見せる!
「姫神秋沙。とにかく。パワーあふれるこの班に埋もれないくらいの
通称巫女(偽)!
今こそ秘められた個性で。私の時代を呼び込む! そして。彼とフォークダンスを……
「そしてこの私がリーダーの吹寄制理。運営委員として皆にはルールを守ってほしい。さもなくば―――」
通称鉄壁委員長!
彼女の
試合開始前から、乱闘が始めちゃったこの怒髪天の愚兄を女子一同総動員(男子相手だとそこらに転がっていた青髪のクラス委員長らの二の舞になりかねないため)して暴走を阻み、
騒ぎを聞きつけ駆けつけた我が校きっての武闘派教員、『落石ゾーンで襲いかかる岩盤出を両手で受け止めた』という伝説持ちな古武術の達人でもある生活指導災誤センセイとの“肉体言語”で語り合う“面談”の末に綱渡り用の太いロープで雁字搦めの蓑虫にして、一度絞め落とし、
最終的にノックダウン直後の前後記憶があやふやになってる間に担任月読小萌が涙の説得でどうにか学級崩壊は免れた。
そして、そこで催眠学習的なノリで意識の方向転換を図った。
「いい、よく聞きなさい。特に上条。これ以上、私たちに無駄な労力を使わせるようなら、このまま放置する。
この一か八かの賭けに人員を避けるのは一班だけよ」
白組全体を“漂白”していくよりも、そのたった一校の元凶を取り除く――常盤台中学の子たちから鉢巻きを奪っていったほうが手っ取り早いし、目標さえ失えば自称青組の馬鹿ども<大覇星祭>も正常に回帰するであろう、と。
はっきりいって、期待は全くしてない。
無謀度でいえばどっちもどっちだろうが、少なくとも向こうは高得点を狙える紅の一ケタ組(20点)であり、愚兄の能力は、対能力者で能力に頼りがちな高位能力者と相性もいい(この旗男をお嬢様にぶつけるのはいささかならぬ不安はあるが)し、ひとりでも取れたら十分採算は取れるはず。
失敗したとしても、三馬鹿と女子二人が消えるだけなので被害は軽微に抑えられ、どうにか皆殺しの事態を避けた吹寄運営委員の手腕は絶賛されるべきであった。
さて、試合は始まったが。
長丁場となるとみて、体力温存しながら今は情勢を見極めんと待機中。
吹寄は、愚兄を除く三馬鹿を連れて、情報収集に行っており、姫神秋沙はその愚兄の見張りを任じられて留守番二人。
その前に、
「とうま! あいさ! ちゃんと見ててよ!」
その衣装は、いつもの視覚的にも実質的な面でも防御力の高い修道服ではなく、一日目で見たあのチアガール。
機械系がまだまだ苦手なため、姫神に小萌先生から借りた携帯型デジタル音楽プレイヤーの操作をしてもらい―――流れ始めた音楽に合わせて、銀髪碧眼の少女は腕を勢いよく振り上げてスタートした。
どこかで聴いたことのあるメロディかと思えば、それは初めて会ったあの日にダウンロードした奇蹟の歌姫の調べだ。それを躍動感あるダンスに合わせてか、元々の曲調より少しアップテンポにしてある。
両手を腰に当てて、交互に足上げ、ワンツーワンツー! UP↑ UP↑
ぽんぽんをリズミカルに振って振って♪
くるっとまわってはいポーズ☆
振付を完全記憶するのと、その振付を身体で再現するとは困難のレベルが大きく違う。
少女の想定イメージと比較すればややぎこちなさがあるものの、それでも一週間分ほどの成果はあった。
「ね、ね! がんばろーって気持ちになった?」
「うん。がんばろーより。がんばれーって感じだけれど。うちのクラス。特に目立った応援もないし。地味だから。皆に見せれば盛り上がったのに」
「う~……まだ、人前に見せるには、ちょっと恥ずかしい、かも」
「ま、よくできたんじゃねぇか? 当麻さんはがんばろーって気になったぞ」
一日目に躓かせてしまったけれど、この修道女も<大覇星祭>を楽しんでいたようで、上条当麻はこれまでの労苦が報われた気がして、と。
ぱたぱたとしっぽを振る子犬のように、インデックスが期待した眼差しで当麻を見る。
「とうま、とうま、踊ったらお腹が空いてきたかも」
「応援してくれたことは感謝するけど、当麻さんはもう試合中だ。わがままは今日一日預かってくれる小萌先生に頼みなさい」
「とうまは気が利かないね。ここのところ私はずぅーっとそうめんそうめんそうめんなのに! 偶の外食では贅沢したいんだよ!」
「<大覇星祭>前に詩歌が作り置きしたものを兄に一口も入れずに全滅させた居候に気を利かせる理由を何一つ思いつかねーんだがな。
今の当麻さんがあげられるものと言えば、朝食に行き掛けのコンビニで買った焼きそばパンのパン屑くらいだ」
「パン屑! とうまは、私のことハト程度に扱ってるのかなぁ!」
「平和の象徴だし、シスターならピッタリじゃねぇか」
「しいかなら、焼きそばの麺と野菜と豚肉と鉄板と、パンを持ってきてくれるんだよ!」
「どうせなら、強力粉とイースト菌も持ってきてもらえ」
「うん! パン焼き釜も追加してほしいかも!」
「……インデックスの詩歌に対する期待度はどこから出てくるんだ? 一体どこまで一からこだわって手作りさせるつもりだ質より量の食いしん坊シスターめ! 珍しくボケたんだから、突っ込んでほしかったのにまさかそのまま滑り続けるとはま抜けのとうさんはちょっぴりさびしいぞ!」
閑話休題
小萌先生に連れられ、観客またはリタイアした選手に設けられた非戦闘の安全区画(にある屋台ゾーン)へインデックスが去った後、上条当麻の携帯電話が鳴った。
他の競技とは違い、昼休み休憩も含んで行われるこのサバイバルな競技は、貴重品等のある程度の所持品が認められており、観客も自己責任で選手の傍で応援も許可されている。
液晶画面を見るとそれは賢妹の―――後輩からだった。
「もしもし、当麻さんでせうよ」
『ハァイ♪ お兄さん。電話越しだけど、私の美声力に酔うかしらぁ』
この甘ったるい声は……
五日目に電話番号交換した知り合いの、学園都市第五位のお嬢様。
「おい……もう、競技始まってんだろ。そんな悠長に敵方に電話をかけてる余裕はあんのか?」
『あるわよ全然。ま、ちょ~っと学校の上級生が勝手なうわさを流しちゃったけどぉ、元々そんなのなくても魅力あふれる私が羨望の的であるに変わりないのだしねぇ。有象無象は御坂さんが相手してるし、今はゆっくりと快適力に過ごしてるわぁ』
確か、紅組の大将である第五位は、鉢巻きが学生一クラス分以上の高得点である。愚兄たちのような一発逆転のギャンブルを狙うものも少なくないはず。
ならば、勿論警戒して準備しているだろう。
「で、何の要件だ? 生憎こっちは雑談してる余裕はないんでせうが」
『せっかちねぇお兄さんは。こっちは退屈してるから暇つぶしに付き合ってほしいのに。……それで、えっ、と、……用は今日のこと、なんだけど……』
「今日のこと?」
『ほら。あれよ……せの、……決めてなかったじゃない』
「?」
『だから、ふぉ、フォーク!』
「ふぉーく? 試合中にケーキでも食ってんのかお前」
『今日のことよ! もう、昔からこう言うところは変わらないわねぇ―――場所を教えてあげるって言ってるのぉ! 先輩には絶対に内緒よぉ!』
今日のこと=この鉢巻き合戦のことだろうもちろん。
先輩=賢妹には内緒と……………それに場所を……………―――――そうか!!
「教えてくれ!!」
『っ!? いきなり大声で』
「すまん。ああ、でも知りたいんだ……っ! もう、今日はそのことだけしか考えられない!」
『そ、そんなに……今日のこと……しみに……』
「ああ、教えてくれれば今すぐにいく」
『今すぐ!? い、いくら、……しに会いたいからって、ちょっと予定力が急ぎ過ぎるんじゃないかしらぁ?』
「一分一秒でも惜しいんだ! 他の奴らに捕まる前に、俺が捕まえておかないと安心できない!」
『でも、流石に今隠れてる情報力を流しちゃうのは……』
「頼む。何があったら、俺も責任取る。誰にも、渡したくないんだ」
電話越しであるとわかっているが、愚兄はそこで頭を下げた。そしてその気迫のようなものは相手にも伝わった。
『……うふふぅ♡ そうね。先輩への義理力があるから、表立ってお兄さんの味方はできないけど、そこまで言われたらしょうがないわぁ♪ 古典的だけど、ロミオとジュリエットの想定力だと思えば、ロマンチックだしねぇ☆』
閑話休題
「姫神! 詩歌の潜伏地がわかったぞ!」
電話を切り、ガッツポーズを獲る上条当麻の言葉に、見張り役の姫神秋沙は無表情――その内心は訝しげに、小首を傾げる。
何せ、それは今、学園都市中で欲せられる金貨に勝る情報であって、そうそう簡単に調べられるはずがない。
ではあるものの、兄バカを超えたバカ兄の域に達しているクラスメイトのことはもう承知しており、限定的な条件下での彼の行動力は馬鹿にならないこともまた承知している。
「それ。本当?」
「ああ、詩歌の後輩から教えてもらった」
情報の信用性はさておき。問題はその情報源。
妹の後輩――詩歌の学校は女子校であり、必然としてその子も女子となり、このクラスメイトの知り合いにまた女子が一人いると姫神の中の注意事項を増やした。
(でも。頑張らないと……)
この状況が友人か、それとも担任がお節介に気を回してくれた意図的なものかはわからないけれど、今は彼と二人きりだ。
一日目。色々とあったけれど、ナイトパレードを一緒に見ることができた。
二日目にも何かに巻き込まれたようだけど、三日目以降は今日まで楽しく“クラスメイトとしての”思い出は築けたと思う。
だから、この最終日―――最後のプログラム、フォークダンスを一緒したい。
……が、そこはどうもこうも、先から話題に出せない、また目も合わせられないことから察せられるだろうが、そうそう簡単に言えないのが日本伝統芸的な大和撫子の奥ゆかしさである。
故に、姫神秋沙はひとつの願掛けをした。
それは、この海賊ラジオから拡散されたラジオの――今や伝説の樹の下で告白すると成就する並に魔力がある――噂にちなんで、
鉢巻きを――彼は同じ陣営だから、相手陣営に属する彼の妹――上条詩歌のを獲ることができたら、誘う。
この(ある意味)勇者な
「じゃあ。それをみんなに連絡して―――あれ?」
確認にと姫神が――今日初めて――当麻と対面し、それに気づく。
「上条君。鉢巻きがひとつ多い気がするんだけど」
「ああ、これか?」
外に出さず体操服の内に仕舞っていたようなので気付かなかったが、ちょいっと摘んで引っ張りだせば、彼の首に巻いてあるのは包帯ではなくて、そのツンツン頭に巻いているのと同じ、白の鉢巻きである。
試合前から一緒にいたけど、これまで別の陣営と遭遇してないし、先の乱闘騒ぎでも彼は一本も奪ってはおらず、鉢巻き自体には興味なかったようなのに……
「先輩から押し付けられたんだよ。『俺が獲った事にすれば問題ない』って。あ、吹寄には内緒にしてくれよ?」
「…………………ふぅん」
当麻は顔を上げた。姫神の声が冷えた気がしたからだ。そしてそれは、気のせいではなかった、
「ひ、姫神サン……?」
「それって。―――つまり……」
「うおっ―――!?」
姫神の直感的なものが囁く、この女の匂いのするネクタイ――鉢巻きの首をきゅっと絞める。
「あの、絞まってる、首が締まってるから、あの……」
「だから。なに」
「なんでもありませんでせう、はい」
息詰まるも、抵抗しようとした愚兄が覗くは、ピンで留めたように揺るぎない姫神の眼。そこには一切の激しさがない。ただ、触れるものを引き裂く真空があるだけである。ピリリと、不機嫌である。
そして、その手に弱い上条当麻は条件反射で両手を上げて降参するしかなくて、姫神秋沙は見事に愚兄の見張り役を果たしおおせたのであった。
とある自然公園広場
『おおぉーっと!! 常盤台のエースことレールガン! 圧・倒・的! ここは個人奪取数でトップに躍り出るかーっ!!
―――いや、開始早々に爆裂疾走ナンバーセブンが………』
そこは、戦場。
勇猛果敢に迫る幾多の戦士たちを、迎え撃つは雷神。
「もう、ダメ……お姉ちゃんのことはいいから、美琴さん……先に行って……あと、お姉ちゃんのこと忘れないでね……今度、また会えることができたら、その時に、10年前に言えなかった言葉を伝え……―――ぱたり」
しかし、そのあまりの激しさに一人の少女は儚く散って………
「一体いくつフラグを立てる気なのよ!?」
発声と同時に轟く雷鳴。
それに怯み、下がる学生らを他所に、けろりと。
「そりゃあ、立てられる限りですよ。なにごとも、無駄なものはないと言うのが詩歌さんの信条なのです」
「いや、思いっきり無駄だから!」
と。
多勢無勢に囲まれている状況ながら、わざわざそのハリウッド名女優並みの演技力を発揮して美琴の後方でコケて、うつ伏せになりながらこちらを仰ぎ見るは、幼馴染の上条詩歌。
ぷるぷると産まれたばかりの小鹿のようにこちらに手を伸ばしてくる。
「………………………………………………、」
「あっ、美琴さんの顔に面倒だからこのまま放置しようって書いてある……いけませんね。ここは詩歌さん、地面に座り込んだまま美琴さんに手を伸ばしてみましょう」
「何かそのポーズは私が捨てたみたいになってるんですけど……」
「今まさに見捨てられようとしてるじゃないですか?」
「どうしてこんな状況なのに、詩歌さんのボケの対応にまで頭回さないといけないのかしらーん」
「そうですね、片手間だなんて不満です! 美琴さんの全力で詩歌さんを守ってもらわないと!」
「ボケは適用外にしてほしいんだけど。詩歌さんって、良くお姉さんぶるけど、甘えるときは全力なのよね……」
「そうですよー。実はここだけの話。詩歌さん、正真正銘、妹キャラなのでっ」
「いや、まあ、うん。一応、あの愚兄が兄なのはわかってるんだけど……もう、どうでもいいから立ちなさい!」
「む。お姉さんに命令口調はいけませんよ美琴さん」
「無理だよー。私にこの幼馴染は扱いきれないよーう!!」
常盤台のエースは両手で頭をかきむしり、絶叫しながらしゃがみこんだ。ついに泣きが入った。
どうやら真面目な常盤台中学のエース様は、トラブル体質の人間にはどうあっても振り回されてしまう性質らしい。
その間にも状況は変わらず、むしろ、周囲の学生らは『よし! 何だかわからないけど第三位が止まったぞ!』と再開し、士気を上げる。もともと、
「―――複数の能力者を掛け合わせての避雷針の形成、ですか」
ひょいっ、と身軽にうつ伏せから腕立て、二本の腕で倒立してから、側転と後転。しゃがみこむ妹分の方へと、新体操選手のように鮮やかに、そして、宙返りで身体の向きを捻り反転させながら、告げた。
「美琴さん、プロブレムD6系統・連携方式A3、C2。照準は3時の方向へ!」
無意味とも思える、棋譜に記されるようなアルファベットと数字に美琴が従う。
『いくぞっ! 電撃封じが完成した! 如何に第三位でもこれは容易に崩せまい!』
相手方は、集団の利を生かして、複数の能力を合わせて、<
忍者が壁越えする際の二人組の連携する際のよう、バレーのレシーブの形に合わせた御坂美琴の両手の上に、ふわりと着地した上条詩歌。
同時、美琴の両手と詩歌の足裏に、発電系統能力による同極の磁場が形成し―――反発。
迫る男子学生らを大きく飛び越えて、真っ直ぐ、避雷針力場を形成する後方の援護集団の元へ―――
「キャー、レールガンに捨てられたー、助けてー」
「な、なんて非道なんだレールガン!? やっぱり、超能力者は例外なく人格破綻者なのかーっ!?!?」
「待ってあの性悪女王と違って私はまともよォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
かの<禁書目録>が数多の本を読破した―――上条詩歌は数多の人と接した経験値がある。
思わず、空から落下する少女に両手を広げて受け止めようとし――直後に、それに狙いを定めていた賢妹は、反発磁場による疑似的な<
「常盤台中学にも雷撃の槍をも弾く電気遮断をも可能とする念動力の変種――<
あら、と反対向きの変則的な肩車の体制。ジタバタもがくもバランスは崩さずに男子生徒の頭部を両手で捕まえて、
よっと、と詩歌は腰を捻り、頭部を挟んだ両膝太股を使った、師匠直伝の首狩り術とは変式の、男子生徒を絞め落とし。ついでに鉢巻きを奪取した。(後に目が覚めたその男子生徒は『あの幸せ絞めの瞬間が記憶に残らなかったのが、非常に残念でならないが、俺はあのとき俺の貴き青春《ブルーコスモス》を見たよ』と満足そうに悟り切った面持ちで語った)
「羨ま―――ハッ! 囲め囲め! 能力を使わせる隙を与えるな!」
能力を使わせない?
いいえ、残念ね。あの人、能力を使うつもりは端からないし、使わなくても高位能力者を倒せるくらいの実力はあるのよ。
対能力者用制圧術は第十学区の『少年院』の職員にも参考にされていると言うあの常盤台最恐の寮監に弟子入りした幼馴染は、その状況を1分で片を付けてるでしょうね。
頼りにしていた避雷針力場がその効力を発揮する前に霧散してしまったことに混乱する前衛を料理しながら、美琴は詩歌の姿を追う。
「力ずくでも攻略できないわけではないでしょうが、それだと怪我人が出かねませんから、詩歌さんがお相手します」
能力発動前の狙いを定める演算で攻撃の軌道を見切り、逆に懐に飛び込んでくる。単純に動きが早いのではなく、動作に無駄がなさ過ぎて、駒落としの動画を見ているような魔法じみた挙動だ。
そうして、パタパタと絞め落とされていく男子生徒らを後に――ふらふらと必死に逃げかえるように――御坂美琴の元へと上条詩歌は帰還。
「ここでの役目は十分に果たしました。そろそろお役目御免です」
「え、別にまだやれますし、折角今のでこっちが押してるんだから、あとちょっとくらい点数を稼いでも問題ない―――」
つい先の放送で、こことは別の学区であるが、あの白組総大将な第七位が先陣を切って、一騎当千を成し遂げたと速報が流れてきたのだ。
序列の上下に拘りはないとは言え、このまま個人記録のリードを開けられると美琴の負けず嫌いエンジンの内熱が高まり……
「いいえ、欲は出さずに安全第一。私たちは釣り餌なんですから、適当に敗走を装いつつお暇しましょう」
反論しようとしたところで、がくっと詩歌が膝をよろめかして、美琴に縋りつく。
「ちょ、詩歌さんいきなり何を―――」
「ぐぅぅ~っ、足をくじいてしまいました。これでは動けません。というわけで、背負ってください美琴さん」
よじよじと背におぶさる幼馴染。
「いや、さっきあんなに無双しておいていくらなんでもそれは無理が……」
「ああぁぁ~っ! お腹が痛い! 誰かに刺された古傷も疼いてきました~っ!」
「はいはいそうねわかったわよ! やればいいんでしょーっ!」
久方ぶりにふつふつと湧き上がってきた好戦的な感情も、鎮火させられる。
先に御坂美琴が思ったことだが、特殊部隊も素手で壊滅させた達人の一番弟子的な幼馴染に捕まってしまえば、その時点で能力必要なしに封じられてしまうのであった。
「ふふふ、美琴さんは先走り過ぎるんですから、足を引っ張られるくらいがちょうどいいです。それにこうして、庇うことで先の人格破綻疑惑を払拭するポイントも稼げますよ」
「その疑惑は誰の一言が原因なのかしらーんっ!!」
つづく