とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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閑話 人を狂わし、心を乱し、恋に落とす

閑話 人を狂わし、心を乱し、恋に落とす

 

 

 

公園

 

 

 

「流石、Level5だね。この程度では勝てないか」

 

 

電撃で舞った粉塵が風で消え、その中から御坂美琴が無傷で現れた。

 

その姿を見て、木原名由他は少し残念そうに呟く。

 

 

「ねえ、どうして私に喧嘩を売るの? Level5だって知ってるんでしょう?」

 

 

その問いに対し、那由多はニタァ、と笑って独り言のように答える。

 

 

「私の実験の成果がLevel5に届くか証明したいんだ。でも、<風紀委員>だから正当な理由なしには闘えないから誰かが犯罪を起こすのをずっと待ってたんだ」

 

 

簡単に言えば、力試しだ、と。

 

その返答に美琴は不機嫌そうに酷評する。

 

 

「あんた、あの子達の犠牲を踏み台にした力を試したいだけで、こんなことするなんて頭おかしいんじゃ――――」

 

 

「違うッ!!」

 

 

美琴の言葉に那由多の感情が爆発した。

 

今までの人を馬鹿にした笑みは消え、左の瞳に涙が零れてくる。

 

それは幼い子供が大切なものを馬鹿にされたときと何ら違いはなかった。

 

 

「みんなは……犠牲者なんかじゃ…ない。……確かに<置き去り>は学園都市にとって『欠陥品』だと言われてるけど……でも――――『欠陥品』を蔑む事は許さない!」

 

 

小学生とは思えない怒りの表情に美琴は怯む。

 

<置き去り>と呼ばれ『欠陥品』扱いされていた彼女達は、同じく一族から『欠陥品』扱いされていた自分に存在意義を与えてくれた。

 

年相応の女の子としての存在意義を。

 

だから、彼女達を馬鹿にする事は許せない、と。

 

その隙をつき、名由他は再び能力を暴発させ、美琴へ迫る。

 

 

「甘い」

 

 

しかし、美琴は暴発した能力を強引に制御下に置き、電撃を名由他へ放つ。

 

 

(暴発を制御した!? でも、この程度なら)

 

 

名由他はAIM拡散力場の動きを予測し、親戚のおじさんから教わった体術で電撃を避け、美琴の背後へ回り込む。

 

 

「残念だけど、見えてるわよ」

 

 

だが、<超電磁砲>に死角はない。

 

美琴は、名由他の動きを電磁波で察知し、砂鉄で作られた霧で進行方向を塞ぐ。

 

さらに、数百の砂鉄の塊を名由他へ襲いかからせる。

 

 

「くッ!」

 

 

名由他は砂鉄の塊を避けるが、砂鉄の塊は分裂し、逃げ場のないようにドーム状に囲む。

 

 

「捕まえた」

 

 

そして、電撃を砂鉄へ流し、電撃の籠へと変化させ、名由他を逃がさないようにする。

 

 

「はい、これでおしまい。残念ね、まだまだ、Level5には届かなかったみたいね」

 

 

最後に、美琴は電撃の檻を収縮させていき、名由他の動きを封じに掛かる。

 

 

(暴発が効かない!? 何て制御力なの!? これがLevel5……でも、諦めきれるか!)

 

 

名由他は能力を暴発させ、突破を図ろうとするが、穴を開けてもすぐに再生され、収縮のスピードを遅くさせることしかできない。

 

だが、それでも“穴”は開けられる。

 

Level5へと届く“穴”が、

 

 

「ちょっと、大人げなかったかし――――ッ!」

 

 

電撃の檻に穴をあけ、そこへ名由他は突っ込み、強引に突破する。

 

美琴は咄嗟に電撃の壁を作るが、それさえも名由他は躊躇せず右腕を突っ込んだ。

 

捨て身の特攻である。

 

美琴は高圧電流の壁を突き破った手に吃驚されたものの、即座にその腕を押さえ、進行を止める。

 

しかし、

 

 

「え? なにこれ?」

 

 

掴んだ名由他の腕を見て、美琴は驚愕する。

 

その火傷でめくれた皮膚から血はまったく流れず、中は黒い人工筋肉だった。

 

 

「驚いた? 私の身体ってね7割が人工物で作られているんだ。色々と弄くられたけど、使い勝手はいいんだよ。この腕もアース構造がされているから、電撃も効かないんだよ。他にも、ほら」

 

 

名由他は左目に搭載されているフラッシュ機能で美琴の目を眩ませ、さらに掴まれた右腕の手のひらに現れた穴の中から弛緩剤の注射を取り出す。

 

木原名由他は、狂気の一族に自身の体を文字通り“改造”されている。

 

見かけは幼い少女だが、中身はギミックが満載の改造人間だ。

 

 

「私は自分の強さと正義を証明したいの。……絆理お姉ちゃん達が、笑って起きてこれるように……だから、ごめんね」

 

 

名由他は美琴へ注射器を突き刺す。

 

 

 

だが、

 

 

 

「えっ? 外した……? この距離で……ちゃんと隙をついたはずなのに……!?」

 

 

今度は名由他の顔が驚愕に染まる。

 

名由他は機械の体と能力で補ってだが、一族に伝わる『能力者の力の流れを勘と経験で読んで隙を突く』という戦い方を会得している。

 

そんな彼女が能力者の隙を見逃すなんて……!?

 

 

「ふー、危うく負けるところだったわ。まさか、コレまで使わせるなんて思いもしなかったわ」

 

 

名由他が後ろを振り向くと、そこに美琴がいた。

 

驚いて何も言えない名由他の顔に、ニヤリと笑みを浮かべながら美琴は説明する。

 

 

「これは、私の体内に流れる電流を操作して、思孝速度や運動能力を格段に向上させる技なの。やるには精密な制御力が必要だけどね。本当、詩歌さんに協力してもらわなかったら、私でもまだ完全に習得できなかったと思うわ。……でも、あなたの予測を上回る速さで動けたようね」

 

 

美琴も、河原で対峙した際、超電磁砲を2発、この肉体操作系能力の応用で編み出された神経強化の技を使った姉に翻弄された。

 

あの時の彼女は、疾風のようで美琴ですらもその動きを追えなかった。

 

そして、今も美琴の動きは機械で強化され、能力の流れが見える名由他でも追えなかった。

 

 

「馬鹿な、もし失敗したら、たとえ<超電磁砲>のお姉さんでもただでは済まないよ。下手したら神経を焼き切っちゃって廃人にもなってもおかしくないよ」

 

 

「そうね、あなたの言うとおりだと思うわ。実際、詩歌さんに監視してもらわなかったら、危ないのも何度かあったし……まあ、電撃が効かないあの馬鹿に勝つために張り切りすぎちゃったかな」

 

 

美琴は自分の行いを見つめ直し、少し反省する。

 

 

「それからごめんなさいね。さっきのは失言だったわ。私も“姉”がいるからね。アンタの気持ちはよく分かる……」

 

 

そう言って、美琴はあの幼馴染で“姉”の事を思う。

 

もし、美琴の誰よりも尊敬する“姉”が馬鹿にされれば、先ほどの名由他のように怒るだろう、と。

 

そして、

 

 

「意味はわからないけど、アンタの言葉に強い意志を感じたわ。そういうの嫌いじゃないし、悔いが残らないように、ちょっとだけ本気で相手してあげる」

 

 

名由他の姿がどことなく自分と重なった。

 

『能力開発』に付き合ってくれた“姉”のためにLevel5になろうとした幼かった頃の自分に。

 

そう、美琴は名由他の事を強敵として認めた。

 

名由他の心が震えあがる。

 

自身の力が憧れのLevel5に認められたことに歓喜で震えあがった。

 

 

「こっちも本気で行くよ、<超電磁砲>のお姉さん」

 

 

名由他は自身の全ての力を駆使して、美琴へ立ち向かう。

 

自身の存在意義を問うために。

 

 

 

 

 

街中

 

 

 

「一体、どこにいるのかしら? 木原名由他さんは……先生が言うにはそんな遠くに離れていないはずですけど」

 

 

上条詩歌は片手に名由他の写真を持ちながら街中を走りまわっていた。

 

詩歌は少年院を出たあと、病院へ向かった。

 

何でも恩師である<冥土帰し>が詩歌に頼みごとがあるらしい。

 

詩歌は彼に返しきれないほどの恩があるし、その頼みごとの内容もある少女達を助けたいというものなので二つ返事で引き受けた。

 

しかし、その患者の友達、名由他がいきなりいなくなったらしい。

 

何やらとんでもないことをしでかすかも知れないと冥土帰しが言うので心配した詩歌は捜しに出かけた。

 

 

「先生は、名由他さんは大抵な能力者なら負けないと仰っていましたけど……何やら嫌な予感がします」

 

 

詩歌は、性能(スペック)が優秀なだけでなく、勘とかそういうものにも優れている。

 

その手の勘を、どこぞのツンツン頭の愚兄が巻き込まれる“不幸”に鍛えあげられたからだ。

 

だから、詩歌の“嫌な予感”は大概当たる。

 

 

「……こんなかわいい子なんだから、誰かに襲われているかもしれません」

 

 

詩歌はそう呟くと、足に力を込め走るスピードを速め、疾走する。

 

その時、詩歌は、まさか件の名由他が妹分の美琴と戦闘しているなどとは思いもよらなかった……

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

2人の勝負は一瞬でついた。

 

 

「……本当、目で追えない速さなんて…流石、Level5だね……」

 

 

美琴は名由他の目で対応できない速度で動き、電撃ではなく……

 

 

「でも、まさか自販機と同じように蹴りつけられるとは思わなかったよ。……私、半分以上が人工物だけど機械じゃないんだよ」

 

 

常盤台中学内伝、『おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機械再生法』によって決着をつけた。

 

つまり、『蹴り』、で勝負に蹴りを付けた。

 

名由他は頬を膨らませ、非難した目で美琴を睨みつける。

 

美琴は愛想笑いをしながら、その視線から逃げようとする。

 

美琴の使える手札は<超電磁砲>だけでなく、とある兄妹考案の護身術もある。

 

 

「ま、まあ、アンタ、AIM拡散力場の動きが読めるんでしょ」

 

 

と、美琴が何か言い訳じみた事を口にした、

 

 

「それに、もし――――」

 

 

そのとき、空から突然白ランの男が降ってきた。

 

着地の衝撃で、火山の噴火のように砂塵が巻き上がる。

 

どうやら、彼は相当高い所からここに落下してきたようだ。

 

だが、落下の衝撃など何事もなかったように2本の足で、ダンッと大地を踏みしめると、

 

 

「貴様! こんなに幼い子を蹴りつけるとは! 根性が足りてないようだな!」

 

 

根性男、削板軍覇が咆哮を上げた。

 

2人の勝負の幕引きは突然現れた空気を読まない男、軍覇によって台無しになり、混沌状態へ。

 

どうやら、彼は、最後の決着の部分、『美琴が名由他を蹴り飛ばす』とこだけ見ていたらしい。

 

 

「もう大丈夫だ! この俺がこいつに根性を入れてやるからな!」

 

 

軍覇は、力強く頷くと倒れている名由他を守るように美琴の前に立つ。

 

 

「「……」」

 

 

しかし、いや、当然、2人は突然現れたこの闖入者に言葉を失くす。

 

何だ、この馬鹿は、と。

 

 

「お姉さま! 無事でございますか!?」

 

 

そして、今度は美琴を心配する黒子と、

 

 

「うお!? 何で俺まで!?」

 

 

黒子に無理やり連れてこられた原谷が<空間移動>で現れる

 

黒子は美琴に抱きつき、原谷はこの現状を見て溜息をつく。

 

事態がますます混沌へなっていき、美琴はますます混乱する。

 

しかし、名由他に事態を分析していた。

 

 

(あれが<木原>一族でも解析不能な<第七位(ナンバーセブン)>……AIM拡散力場があの男の周囲だけ不安定だ)

 

 

第七位(ナンバーセブン)>。

 

学園都市で最高級の<原石>―――天然物の能力者。

 

その性能には謎の部分が多く、7人いるLevel5の中でも最下位の第7位となっているが、その実力は上位に入るものらしい。

 

そして、名由他は悪戯を思いついた。

 

標的は御坂美琴。

 

なぜなら、全身全霊をかけた勝負の決着があんな蹴りで終わるなんて消化不良もいいところで、不満が溜まっていたからだ。

 

なので……

 

 

「うぇ~ん、お兄さ~ん、あのお姉さんが私の事を苛めてきたよ~」

 

 

名由他は泣きながら、軍覇に抱きついた。

 

 

「は、はああぁっ!!?」

 

 

あまりの豹変ぶりに美琴は驚愕する。

 

終わりは呆気なかったが、自身と激しい戦いを繰り広げ、冷酷に追い詰められた相手だ。

 

いきなり、そんな相手がだれかに泣きつくなんて美琴は予想もつかなかった。

 

つーか、それ、お前のキャラじゃないだろ、とツッコミを入れる前にさらに場は混沌へ……

 

 

「う、うう……あのお姉ちゃんがね、自販機を蹴って中のジュースを盗ったから、器物破損と窃盗の容疑で……うぅ、捕まえるって言ったら、私の事蹴ってきたんだよ」

 

 

色々と説明が足りなかったが、残念な事にそれら全ては真実だった。

 

一応、こちらも能力を暴発されかけたり、危ない注射器を刺されそうになったのだが……

 

 

「そうか……それで、こんな酷い怪我を……―――許せんッ!」

 

 

熱血漢、削板軍覇は名由他を力強く抱きながら、ボルテージを高めていく。

 

原谷は『おいおい、こんなに小さな子を……』、と美琴の事を非難した目で見ている。

 

黒子も美琴から離れ、『私が見逃していなければこんなことには……』、と四つん這いで嘆きながら後悔している。

 

流石のお姉様命の黒子でも庇いきれない許容超え(キャパシティオーバー)がある。

 

この通り、最早、美琴が何を言っても状況をひっくり返すのはほぼ不可能である。

 

 

「ちょ、話が――――あ」

 

 

そのとき美琴は見た。

 

自分にしか見えない角度でにやりとあくどく笑う名由他の顔を。

 

 

(あ、あいつ、嵌めやがったわね~……)

 

 

自分の幼い容姿を使った策略。

 

しかし、もう気づくのが遅かった。

 

すでに少女の嘘泣きに止めを刺され、周囲の評価は覆せないものになり、目の前の削板軍覇も臨戦態勢になっていた。

 

 

「女子供に手を出さないと決めていたが、今回は特別に貴様に根性を入れてやる。――――いくぞ、すごいパーンチ!」

 

 

軍覇の<念動砲弾(サイコクラッシュ)>が美琴へ放たれた。

 

 

 

 

 

病院

 

 

 

病院のある一室。

 

そこで、カエル顔の医者、<冥土帰し>がクマの出来た女性に対して、事情の説明を、そして、

 

 

「………だからね? この子たちの意識を目覚めさせるのに協力してくれないかな?」

 

 

応援の要請を。

 

冥土返しは、昏睡状態の<置き去り>達を目覚めさせるため、様々なコネを使い、ある1人の女性を拘置所から釈放させた。

 

彼女は少し前に、学園都市中を騒がせたとある事件の首謀者だ。

 

 

「どうして、私を……? それにどうやってこの子たちを集めたんですか?」

 

 

女性の問いに、彼はいつものように飄々とした口調で答える。

 

 

「色々と顔が広くてね? <置き去り>達を集めるのにそうは時間はかからなかったよ? それと君より彼女達の事について詳しい人は他に誰かいるかい?」

 

 

彼にとって、この程度の事は難しい事ではない。

 

患者を救う為に、彼はそれなりの権限を得てきたからだ。

 

一部では彼はこの学園都市の最高権力者との太いパイプを持っていると噂されている。

 

だから、彼が患者に必要だと思ったものは拘置所の中にいたとしても手に入れられる。

 

そして、そうする理由は、

 

 

「僕は患者に必要なものは全て手に入れる主義でね? 彼女達には目覚めた時、先生が必要だろ?」

 

 

そう、その為なら彼はどんな苦労も厭わない。

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

次元が違う。

 

それが、Level5同士の戦闘を見ている木原名由他の感想だった。

 

御坂美琴は先ほど自分と戦った時よりも、AIM拡散力場は拡大し、放つ電撃と操る磁力が桁が違った。

 

それに対し、削板軍覇も御坂美琴の3割ほどの超電磁砲を歯で受け止め、電撃の槍も『すごいパンチガード』とかいう謎の蜃気楼の波動――<磁力戦線(オーロラガード)>で(念動力で地球の磁力線を掌握し、その誘電磁力(軍覇の造語)の反発で跳ね返す……らしい?)叩き落とし、落雷も『超すごいガード』という赤青黄色のカラフルな爆発を背負いながら迎え撃った。

 

そして、<超電磁砲>の電光の思考、<第七位>の無我の境地、2人の『速さ』についていくことができなかった。

 

 

(……もし、今の<超電磁砲>のお姉さんと戦っていたら一瞬で負けてたな。……手加減した電撃でも私の体の半分以上が耐えられなかったんだもん。……最初から届くとは思わなかったけど……遠いな……Level5は本当に遠いな)

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっときついわね。あの男一体何者?」

 

 

美琴は疲れていた。

 

名由他との戦闘での疲れもあるが、この軍覇本人にさえも仕組みが理解不能なシロモノ、そして何より、周囲から浴びせられる非難の目に精神的に疲れていた。

 

基本、善良な美琴は非難の目に弱く、弁明しようにも名由他を蹴り飛ばしたのも事実であり、美琴もそのことをやり過ぎたという罪悪感のため、精神的負荷が大きかった。

 

 

「やばっ―――!?」

 

 

そんな疲れがあったため、美琴は体勢を崩してしまった。

 

 

「今度こそ、根性を入れてやる!」

 

 

軍覇は腕に力を込め、掛け声と共に<念動砲弾>を放とうとする。

 

モツ鍋という屈強な軍隊上りのような<スキルアウト>を一発で吹っ飛ばした強力な一撃。

 

それを可憐な女の子である美琴が直で受ければ、大怪我は免れないだろう。

 

どうやら、削板軍覇は怒りっぽいせいでもあるが、この強敵との戦闘で、思わず加減を忘れるほど頭が燃えている。

 

しかし―――

 

 

「超すごい――――」

 

 

「うりゃあっ!」

 

 

その前に横合いから現れた影により真横に吹き飛ばされ、美琴の視界から消えた。

 

 

「え!?」 「アイツを!?」 「せ、先輩!?」

 

 

数秒ほど遅れて、観客と化していた名由他、原谷、黒子が新たな乱入者に対し驚きの声を上げる。

 

そして、乱入者である少女は闇打ちも同然のドロップキックをかまし、くるっと一回転と鮮やかな着地を決め、

 

 

「テメェ! 私の妹に何しやがったんだ!」

 

 

爛々と瞳を光らせ、獰猛な野獣のように口角を吊り上げ、毛を逆立せるほどの覇気を震わす……その様は子熊を守る母熊のようだ

 

そう、彼女は上条詩歌。

 

妹のような幼馴染である美琴が傷つけられ怒り心頭な上条詩歌さんである。

 

 

「し、詩歌さん……ありがとう…ございます」

 

 

美琴は突然の詩歌の乱入に戸惑い半分、嬉しさ半分だが、とりあえず、助けてもらった礼を言う。

 

そして、これからさらに混沌になるんだろうな……、と一抹の不安を覚える。

 

で、一方、

 

 

「根性の入った一撃だな! 少し痛かったぞ」

 

 

こちらは何ともにようだ。

 

むしろ、喜びの表情さえも浮かべている。

 

高校男子を吹き飛ばす一撃を受けたのにもかかわらず、削板軍覇には少し痛かっただけで済んだらしい。

 

 

「根性だが何だが知りませんが、あなた、なかなかやりますね。それに面白い能力です。<幻想投影>でもうまく理解できないとは……」

 

 

詩歌もそれに対し好戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「――――ここは本気を出してやる」

 

 

瞬間、詩歌は風のように地面を蹴った。

 

<第七位>。

 

その能力は人を人外の領域へ加速させる。

 

詩歌は投影した<第七位>の力でいつもより速くで加速し、目にも止まらぬどころか、目に映らないくらいの速度で削板軍覇との間合いを詰め、

 

 

 

「その幻想をぶち殺す!」

 

 

 

そして、愚兄、上条当麻の掛け声と共に<念動砲弾>を放った。

 

 

 

「すごいパンチガード!」

 

 

 

軍覇は避けられないと判断し、防御に専念する。

 

しかし、詩歌の<念動砲弾>は削板のものと質が異なっていた。

 

その詩歌の研ぎ澄まされた高い技量から放たれたそれは、鉄鋼弾のように削板軍覇の鉄壁の防御をいとも容易く貫いた。

 

 

「なっ!!?」

 

 

かつてないほどの衝撃。

 

削板はこれほどまでの衝撃を受けた事がない。

 

自分のとは違い、心技体を兼ね備えた、破壊力を一点に集中させた技巧の超剛撃。

 

削板はガードしたはずなのに地面を焦がしながら物凄い勢いで吹っ飛んでいき、公園に植えられている樹木を巻き込み………

 

 

―――ドゴォンッ!!!

 

 

「――――」

 

 

気絶。

 

彼が通った、いや、吹っ飛ばされた軌道上に樹木が何本か倒れており、地面に焦げ跡が出来ている。

 

公園の景観を破壊するほどの一撃だった。

 

誰も、2人の刹那の攻防を確認できたものはいない。

 

しかし、

 

 

(し、信じられねぇ……。まさか、あいつが倒されるなんて……夢を見ているのか……!?)

 

 

その様子にLevel5序列第7位<第七位>、削板軍覇を知る原谷はしばらく開いた口が塞がらなかった。

 

 

((詩歌さん(先輩)には逆らわないようにしよう))

 

 

美琴と黒子は詩歌に絶対に逆らわないとまた心により深く刻み、美琴は自販機を蹴るのは控えよう、と。

 

 

(一体、何なの? あの人、<第七位>と“まったく同じAIM拡散力場”だ。他人と同じAIM拡散力場を持つ人はいないはずなのに……それにLevel5を一撃で倒すあの強さ……もうわけがわからない……)

 

 

木原名由他はあまりの理解不能な衝撃に気絶してしまった。

 

 

「それで、皆さん、これは一体どういう事ですか?」

 

 

削板軍覇を吹き飛ばした事で、溜飲が下がったのか猛獣のオーラは消え、詩歌はいつものような微笑みをたたえていた。

 

だが、そのあまりの変貌ぶりに、公園にいる者はしばらく呆然。

 

 

 

 

 

 

 

そして、詩歌は美琴達に事情を聞き(美琴が止めようとしたが、詩歌に絶対服従体制の黒子が包み隠さず話してしまった)、逃げようとした美琴をアイアンクローで気絶させた。

 

どうやら窃盗と器物破損の罪からは逃れなかったようだ。

 

気絶したLevel5の2人をそれぞれ、黒子と原谷に任せ、詩歌は名由他を預かった。

 

黒子と原谷は先ほどの衝撃で詩歌に従順になり、すぐに素直に頷いた。

 

 

「こ、こいつぁ、まさか<狂乱の魔女>!?」

 

 

そして、この様子をとあるラジオのパーソナリティが目撃していた。

 

 

 

 

 

道中

 

 

 

オレンジ色の夕日が空を染めるこの時間帯。

 

木原名由他が目を覚ますと、先ほどの乱入者、上条詩歌の背中にいた。

 

意識を失い眠っている自分に気を遣い、あまり上下に揺らさぬように心がけて彼女は前へと歩を進める。

 

 

「ふふふ、目が覚めたみたいですね」

 

 

先ほどとは違い穏やかな雰囲気を纏う詩歌。

 

だが、名由他は警戒を解かない。

 

 

「あ、あなたは誰ですか!? もしかして、<猟犬部隊(ハウンドドック)>のものですか!?」

 

 

詩歌は聞きなれない単語に首をかしげる。

 

 

「はて、<猟犬部隊>とはなんだかわかりませんが、私は上条詩歌といます。先生――<冥土帰し>から聞いてなかったんですか?」

 

 

「え、<冥土帰し>が?」

 

 

「どうやら、話を聞いてなかったようですね。木原名由他さん。私はあなたのお姉さん、枝先絆理、<置き去り>達を昏睡から目覚めさせる協力者ですよ」

 

 

名由他は自身の名前とお姉ちゃん、絆理の名前を言われ、驚く。

 

 

「どこでそれを……」

 

 

「先生に言われる前から、木山春生が起こした事件に関わったので、あの後調べたんですよ。だから、絆理さん達の事は知っていましたし、木原幻生、あなたの一族の実験の事故で深い眠りについていることも知っていますよ」

 

 

木原幻生の名前に、名由他は『欠陥品』だと言われていたことを思い出す。

 

たとえどんなに犠牲を出そうとも、いや、犠牲を出して得た結果にこそ自分の一族は価値を見い出す。

 

その為なら<木原>は身内ですら平気で犠牲にする。

 

身内ではない使い捨ての<置き去り>を犠牲にする事など、躊躇う理由なんて皆無だ。

 

その点からすれば木原幻生は“物凄く真っ当な”<木原>なのだろう。

 

でも、『欠陥品』の自分からすればそれはどうしても納得のいかない事だった。

 

 

「それと先生から教えてもらいました。名由他さんは絆理さん達と同じような事態を防ぐため、<置き去り>がいる養護施設に多額の寄付をしていること。そして、彼女達のためにLevel5になろうとしていることを……名由他さんは本当に優しいですね」

 

 

名由他は思わず顔を赤くしてしまう。

 

一族の誰からも『欠陥品』と蔑まれてきた名由他にとって褒められるなんて事はほとんどなかった。

 

精々自ら進んで実験台になった時くらいだ。

 

だから、慣れない言葉の対処にどうして良いか分からない。

 

 

「ち、違う。私はただ一流の実験には一流の実験体が必要だから……そして、その成果は一流のものでなきゃいけないから……」

 

 

詩歌は名由他の反論を聞き流し、誤魔化していることに気付かないふりをする。

 

 

「その成果を確かめるために、美琴さんに喧嘩をふっかけたんですか?」

 

 

図星を突かれ、名由他は黙り込んでしまう。

 

 

「そして、自分には届かないものだと思ってしまった。でも、美琴さんの力は努力の結晶みたいなもの。諦めなければ、辿り着けると思いますよ」

 

 

「そんなことできるはずがない! 『欠陥品』にそんな努力は無駄だ!」

 

 

名由他は思い出した。

 

かつて、RFOで木山春生が<置き去り>に詩歌と同じように『頑張ればいつか能力者になれる』、と言っていたことを。

 

無駄な幻想(きぼう)を抱かせていた事を。

 

でも、上条詩歌の投影する希望は不可能を可能にしてしまう魔法のような幻想だった。

 

 

「そうでしょうか? 名由他さんの能力にはまだまだ成長の余地があると思いますよ。もう少し、効率のいい演算方法にすれば、他人の能力をより制御もできると思います」

 

 

やけに確信的な言葉。

 

そのとき名由他は詩歌から発せられるAIM拡散力場が<第七位>ではなく、自分と“まったく同じ”ことに気づいた。

 

すると詩歌は『内緒ですよ』と前置きしてから、ゆっくりと口を開く。

 

 

「ふふふ、どうやら気付いたみたいですね? 私の力は<幻想投影>といって、触れるだけで他人の能力を複製、解析、使用ができ、波長も感じ取れ、さらに道具を使えば、あなたと同じようにAIM拡散力場の色、大きさ、動きが見えるようになります。そして、相手との完全な同調も可能です」

 

 

幻想投影(イマジントレース)>。

 

名由他は驚いた。

 

多少の欠点はあるようだが、その能力は滝壺理后の<能力追跡(AIMストーカー)>や自身の能力より上位である。

 

木原名由他自身の目指すべき先だ。

 

 

「様々な能力者を見てきた私が言うには、あなたはまだまだ成長の余地があります。そして、誰でも高位能力者になれる可能性を秘めています」

 

 

「そんなはずがない! 『欠陥品』が…どんなに…頑張っても…なれるはずがない……」

 

 

名由他は<置き去り>達が、Level5になれなかったなれの果ての姿が脳裏に浮かぶ。

 

Level5になるために無茶な実験を行い、そして深い眠りについた彼女達の事を……

 

その心境を背中から伝わる声音から感じ取ったのか、ふと穏やかな口調で名由他に問い掛ける。

 

 

「名由他さんは初めてAIM拡散力場を見たときどんなふうに感じましたか?」

 

 

詩歌の質問に戸惑う。

 

なぜなら、名由他は力を求めただけで、視界に現れたAIM拡散力場について何も考えた事がなかったからだ。

 

答えの出せない名由他に詩歌は自身の答えを口にする。

 

 

「私はね、初めてAIM拡散力場の見た時、綺麗だなって感じました。情熱的な赤、陽気で快活な橙、期待と喜びの黄、穏やかで優しい緑、知的で冷静な青、静かで落ち着いた藍、感性あふれる紫………みんなが違う色を放っている。たぶん、それは其々の力の色」

 

 

詩歌はどこか嬉しそうに自身の考えを名由他へ話す。

 

 

「そして、私はいろんな人の色を見てみたい。いつか、その色で作った“虹”を見てみたいって思ったんです。だから、私はみんなの色を見出したい。きっかけは笑顔だったけど、力の色を見たら何が何でも“虹”を作ってみたいという欲求が出て、ますます先生になりたいと思いました」

 

 

詩歌は少しも恥じる事なく自身の夢を名由他へ話す。

 

 

「だから、何が何でもあの子達を助けて、彼女らの色も私の“虹色の幻想”に加えてみせますよ」

 

 

名由他は詩歌の誰もが見惚れる横顔にどこか羨ましそうな表情で呆けた。

 

そして、言いようのない信頼感を詩歌の背中から感じる。

 

この時、彼女は『居場所』ではなく、産まれて初めて『目標』というのを見た気がした。

 

そう初めて、ああなりたい、と思える人間に出会えた。

 

そうして、一族で『欠陥品』と呼ばれた木原名由他は詩歌の暖かさに包まれながら眠りへと落ちた。

 

Level5になって<置き去り>達と笑い合う夢を見ながら。

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

「はっ! 俺は一体何を……」

 

 

もうすぐ夜になりそうな夕方、削板軍覇が公園のベンチで目覚めた。

 

 

「お、ようやく目が覚めたようだな……腹大丈夫か?」

 

 

律義なのか今まで削板の事を見ていた原谷が声を掛ける

 

そして、削板が目覚めたのに気付いた原谷はまず、詩歌の超剛撃を受けた場所を見ながら、怪我の心配をする。

 

 

「おう! まだ少し痛むが根性で何とかなる!」

 

 

いつも通りの様子に杞憂だったかと原谷は安心する。

 

あれほどの一撃を受けたなら普通は病院へ運ぶのだが彼の場合にはそういった心配は必要ない。

 

何しろ背中に火をつけられても火傷一つ負う事なく熱いで済ませられる男なのだ。

 

 

「にしても、あの女の子すごかったな。まさか、お前を一撃で倒すなんてな」

 

 

詩歌の<念動砲弾>を思い出しながら原谷は息を吐く。

 

アレは凄かった。

 

心技体を完璧に兼ね備えた者だけが放てる一撃。

 

ただ、力任せに強引にやってきた削板軍覇のとは1、2段上だ。

 

 

(まあ、こいつの事だから、女の子にやられたからといって落ち込むことはないだろう。どうせ、根性とか言って、特訓に励むに決まっている)

 

 

「あんなすごい奴がいるとは、世の中はやはり広いな! 俺も天狗にならず、根性を叩き直さないとな!」

 

 

原谷は予想通りの答えに少し安堵する。

 

 

 

―――だが、この漢は予想の斜め上をいった。

 

 

 

「なんだか、あのお姉ちゃんの事を思い出すと、胸が熱くなってきた……」

 

 

打たれた腹ではなく、左胸をギュッとつかむ軍覇。

 

 

「は? 何言ってんだ? お前が一撃を貰った場所は腹だろ?」

 

 

そうだ。

 

原谷の言う通り、削板の腹にはまだ小さな拳の跡が残っている。

 

でも、胸には何の跡はない。

 

つまり、今、この漢が感じている胸の熱さとは――――

 

 

「もしや! これが恋なのか!!?」

 

 

どうやら、上条詩歌に恋をしてしまったようだ。

 

削板軍覇の予想外の反応に原谷はしばらく何も言えなくなった。

 

 

「はぁ!!? お、お前、まさか、本気で恋しちゃったのか?」

 

 

軍覇は少し恥ずかしながら、顔をそっぽに向ける。

 

ちょ、ちょっとまてよ、お前がそんな反応を見せるなんて!?

 

 

「なあ、あのお姉ちゃんの名前を知らないか? もし知ってるんだったら、教えてくれ!」

 

 

あいつが、あの根性男の削板軍覇が頭を下げながら自分に懇願してくる!?

 

このありえない光景は<幻想使い>なのか!?

 

 

「か、上条詩歌って名前らしいけど……」

 

 

原谷はすでに処理速度が追いつかなくなり、あまり考えずに軍覇の問いに答えた。

 

 

「上条、詩歌か……。詩を歌うで詩歌か……いい名前だ! おお! 詩歌と言うだけで胸がどんどん熱くなっていき、根性が溢れてく……! これが恋! もうじっとなんかしてられねぇ! 詩歌に見合う漢にならねば! 今から、特訓だ!」

 

 

削板軍覇は周囲にピンク色な爆発を起こしながら、物凄い速さで沈みゆく夕陽へ駆けて行った。

 

今の彼なら本気で太陽まで走って行ってしまいそうだ。

 

そして、原谷はあまりの出来事に日が沈みきるまで公園で呆然としていた。

 

どうやら、上条詩歌は愚兄と同じく『カミやん病』の保持者でだったらしい。

 

 

 

 

 

とあるスキルアウトの溜まり場

 

 

 

『君はLevel5を知っているか! …ってな出だしは先月もうやったよな。まあいいさ。世界は砂粒やピラミッドや鳥やお星さまだけで成り立っているわけではない、能力を打ち消すブラックホールみたいな砂粒、世界の法則を覆す魔法使い、安全ピンで止めた修道服の<妖怪くっちゃ寝ー>、耳をでっかくしたり鞄に入ったりする奇術サイド等が学園都市に蠢いていたらどうする? さて、今日のニュースは、最近話題沸騰中の<狂乱の魔女>の話題だ。この前、武装した<スキルアウト>達を素手で半殺しにしたのもすごいが、なんと今日は、学園都市に7人しかいないLevel5同士の喧嘩に割って入り、両者ともたった一撃で鎮めたそうだ! まさかLevel5ですら相手にならないのか!? 今日まさに<狂乱の魔女>伝説にまた1ページ刻まれた! ――――』

 

 

ネットラジオ、海賊ラジオを聞いていた<スキルアウト>浜面仕上は<狂乱の魔女>の話題に背筋が震えあがった。

 

先日の伝説の<スキルアウト>黒妻綿流の話題が取り上げられた時よりも若干声が震えている。

 

そう何故なら彼はその<狂乱の魔女>に会った事があるからだ。

 

 

「おいおい、まさかLevel5二人を素手で倒すなんて化け物か!? …見た目は華奢な女の子だというのにどこにそんな力があるって言うんだ? ……」

 

 

浜面は去年のバレンタインデーを思い出す。

 

あの<狂乱の魔女>と<赤鬼>が暴れ回った血の惨劇……

 

でも、

 

 

「そういや、<狂乱の魔女>からチョコもらったけなぁ。もし、あの時みたいに、またやられたらどうしようか? ……いや、手を出さなきゃいいだけだし、もしなったとしても駒場さんなら何とかしてくれるはずだ! 駒場さんなら……でも、駒場さん、こんなにうまいチョコ食べた事がないって喜んでたしなぁ。それに彼女はあまり敵に回したくないんだよな……。―――いや、弱気になっちゃいけねぇ」

 

 

浜面は気合を入れると仲間の<スキルアウト>達に発破をかけに行った。

 

……しかし、浜面はあの時の事を貰った義理チョコと同じ味のちょっとした苦い思い出に入れているようだが、叩きのめされた他の<スキルアウト>達は密かに戦乙女として崇めているのを彼は知らない。

 

そう<狂乱の魔女>に殴られたものはその強さに恐怖を抱くものもいるが、憧れを抱くものも少なくはない。

 

人を狂わし、心を乱し、恋に落とす。

 

まさに異名に相応しい狂乱の一撃。

 

ちなみに、海賊ラジオの<狂乱の魔女>の話題は今回が最期となった。

 

なんでも、とある女子小学生と女子中学生に“とても真摯な”お願いをされたらしい。

 

 

 

 

 

とある研究所

 

 

 

暗い部屋の中、一人の研究者がスピーカーに耳を当てていた。

 

 

「くっくっく、まさか名由他のチビの反乱を阻止するために義体に付けていた盗聴器からこんな情報が得られるとはねぇ……。<幻想投影>……こいつは他の親族に知られる前に私のモルモットにしないとなぁ」

 

 

元々、あんな『欠陥品』を警戒する必要はないかもしれないが彼女も自分と同じ<木原>だ。

 

……まあ、念のため、と言っても、おそらく今回の第3位との戦闘のおかげで盗聴器を取り付けた義体は交換されるだろう、その程度の警戒だ。

 

だが、そこから思わぬ情報を手に入れる事が出来た。

 

研究者はマーブルチョコを口に入れると、これからの実験の計画を立て始めた。

 

 

「この私がLevel6を作りだす……ふふ、ふふふ、ふ、ひゃははははは」

 

 

しばらく、研究者の狂った笑い声が研究所の中を響き渡った。

 

 

 

つづく


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