とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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暗部抗争編 超常

暗部抗争編 超常

 

 

 

森林

 

 

 

森の奥に。

 

いくつもの人影が迫る。

 

びっしりと埋め尽くすように。

 

歴戦の白き騎士団が。

 

 

「まさか、これは『0930事件』で見たものと同じ……!」

 

 

見渡す限りに数え切れないほどの武器を抜いた西洋騎士が、詩歌を包囲する。

 

無数、というより、無限、といった方がしっくりと来るかもしれない。

 

だが、今まで潜り抜けてきた死線の集中力が、流し見た一見で、彼女にその正体を看破させ、編成も読み取らせた。

 

『0930事件』で、『最悪の殲滅兵器』である<聖騎士王>が、地獄の底から喚起した円卓の騎士団―――を<未元物質>により模した、質より量で相手を制す大戦力だ。

 

 

「でも、それだけじゃないんでしょう?」

 

 

「ああ、能力者は量より質だ。単に『0930事件』で見た化け物どもをモデルにして<未元物質>で作った人形を大量に配備した程度で、勝てるとは思わない。―――これは、単純に経験値と時間稼ぎだ」

 

 

上空、垣根帝督が、伝説の竜騎士よろしくその全長5mの白トンボの背部に直立し、緑の森を侵略する白の軍勢を見る。

 

まるでケルト軍を蹂躙したローマ軍の再演か。

 

白銀のような盾と鎧を纏ったような<未元物質>の軍団は、統率のとれた密集隊形(ファランクス)でずらりと盾を壁の如くに押し出し、嵐のように刺殺せんと槍を突き出す。

 

いっそ機械的なまでに狂いのない動きで、戦場を単なる殺戮の場に変える軍勢は、如何なる勇者でも覆しようがないだろう。

 

―――常識内では。

 

 

「はぁ、これはアニェーゼさんのシスター部隊を相手にした時以上ですね。―――不幸中の幸いなのは、加減しなくても良いという事ですか」

 

 

360度全て白騎士の軍勢に閉ざされ、狭まりゆく檻で上条詩歌は不敵に微笑み。

 

この多勢の状況など死地以外の何物でもないのに、上条詩歌は二本の脚でしっかりと立つ。

 

 

「では、もう一度見せてもらおうか、その力を」

 

 

―――白騎士たちが寸分の狂いもなく同時に足を踏み出した。

 

 

ゴウと、そのたった一歩で空間がどよめく。

 

軍勢の足音が耳元で響くような心地がした。

 

 

「「<調色板(パレット)>千入混成<暗緑>――<筆記具(マーカー)>強化『勇猛(ウルズ)』―――重合―――<調色板(パレット)>千入混成<生成>――<筆記具(マーカー)>強化『太陽(ソウエル)』―――パターン<太陽面爆発肢(フレアスカート)>!」

 

 

刹那、四肢に纏わせた籠手と具足が、まさに太陽を顕現させたかのように燦々と輝く。

 

円卓の騎士団のレプリカに対するのは、<聖者の数字>をその身に刻んだ『太陽の騎士(ガウェイン)』の必勝を宿した日輪の加護。

 

心技体、攻防速において、敵の凶刃に掠らせることもないほどに、圧倒する。

 

陽光に身体を包み、太陽の如き火球となって空高く舞い上がり、大空で弧を描き、白騎士の密集隊形に墜落。

 

彗星が落下したかのような大地震が軍を揺さぶる。

 

そして、太陽の化身が音速を超える速度で移動し、あっという間に地面に炎の絨毯を敷き、全身が<未元物質>で造られた頭を跳ね飛ばされようが動き続けるはずの白騎士を砕き、溶かし、滅却した。

 

これが進化し続ける常識外の怪物。

 

垣根はただ上空でその様子を、個が軍を蹂躙していきながら遥か彼方へと伸びていく炎の絨毯を凝視する。

 

 

「……すごいすごい。この調子だとまさか数分も立たずに俺が作った軍隊が殲滅するぞ。如何に不死でも全部滅却すれば関係ない、か」

 

 

けど、その勝手気ままに呟く彼の口調に、苦いものはない。

 

これはあくまで経験値と時間稼ぎ―――そして、実験だ。

 

その底知れぬ戦力分析し、その能力技術を学習吸収し、攻略法を見つければそれで大成功だ。

 

 

「攻撃パターン、異法のロジック、それらをありとあらゆる組み合わせで造り上げた不死の軍団は神経衰弱と同じだ。無駄に終わっても、カードの絵柄と数字を覚えておけば次に繋げられる」

 

 

「残念ですが、神経衰弱に異法(ジョーカー)は抜かれていますよ」

 

 

何? と下を見れば、上条詩歌の周囲に旋回していた7本の異法の木が垣根帝督に強襲を仕掛けてくる。

 

念のために、<未元物質>で造った全長15mもの巨大な白いカブトムシ。

 

生物学的な、緩やかなものもあれば急なものもある、曲線で構成されたフォルムで、その表面は新車のようなつるりとした光沢。

 

その瞳は不気味な緑光を湛え、その太い角の先端は芯が貫かれたように空洞――砲身となっている。

 

白いカブトムシの群れが、垣根の周囲でその巨大で薄い翅を高速振動させて護衛している―――が、その7本は陽光の光を引いて、行く先にある全てが異物で構成された白いカブトムシらを爆砕する。

 

 

「この状況で大将だけがのんびりとしていられると思ってましたか?」

 

 

森の中で、いつのまに木製の弓弦を手にしていた上条詩歌。

 

まさか、これにもその陽光を纏わせたのか。

 

白いトンボの背に立つ垣根の遥か上空まで飛んでいった衛星が、その弓弦を優雅な指揮者のように振るう詩歌の意に従い、今度は流星群となって降り注ぐ。

 

白いカブトムシによる一斉砲撃を放つも、巨人であろうと撃退する6つの陽光の輝きを引く流星は<未元物質>の異分子を悉く破壊していき、ほどなく垣根帝督を取り巻く陽光の渦を作り上げていた。

 

 

「はっ、第1位のようにはいかないか」

 

 

それでも垣根は余裕を崩さず―――けれど、逃走を開始する。

 

 

「何?」

 

 

「ああ、これが戦の檻だとするなら、アイツには心の檻だ。“これ”を送りこんでやった」

 

 

と、垣根は“これ”を一体造り上げた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

それは、一方通行の良く知る外見だった。

 

一人の少女を模した体細胞クローンを、更に模した何か。

 

 

―――そう、<妹達(シスターズ)

 

 

その身体が全て白く染まっていても分かる。

 

かつての『実験』で殺してしまった屍の山、己の罪。

 

足下が傾いているのかと疑うくらいに、視界がぐらつく。

 

 

(騙されるな……)

 

 

だが、一方通行は動けない。

 

ここで停滞し続けるのは、バッテリーを無駄に消費することだというのに。

 

頭が理性よりも感情で支配されていた。

 

 

(俺のトラウマを刺激するためだけに、こいつらを造りやがったのかよ、第2位。クソッたれが、こんなモンに俺が――――)

 

 

カメラレンズのような無感情な瞳が、標的をロックする。

 

その身体が不自然に周囲のベクトルを捻じ曲げているのが分かる。

 

きっと、一方通行の『反射』を破る対策がしてあるのだろう。

 

だが、一方通行はまだ動けない。

 

 

「……ク、ソが……ッ!?」

 

 

そして、一方通行を囲む十数体の白い<妹達>が一斉に突撃を仕掛けてきた。

 

その速度は時速100kmにも届き、木々の幹を蹴って森の中を縦横無尽に進んでいく。

 

一方通行はその視線を固定されたかのようにそれら――彼女らの動きを目で追えず、容易く距離を詰められた。

 

だが、彼には『反射』がある。

 

 

 

―――のに、一方通行は『反射』できなかった。

 

 

 

白い細腕を、一方通行は転がるように避けた。

 

<未元物質>で造られたその拳は鉄槌の如き鈍器で、その爪はワイヤーカッターよりも鋭利な刃物で、その体は『反射』を破る。

 

第2位の<未元物質>はもう己の法則に組み込んである。

 

しかし、避けた。

 

もしかすると直前で己の演算に隙間があるのかと疑ったのか。

 

いや、第1位の<一方通行>にそれはない。

 

だとするなら―――これは、ただ単純に『反射』したくなかった。

 

『反射』をしても良いのかどうか迷ってしまった。

 

『反射』してこの顔の少女を壊していいか、躊躇ってしまった。

 

 

「―――がァァァああああああああああああああああッッッ!?」

 

 

一方通行は逃げた。

 

核兵器でさえも跳ね返すほどの力を持っていながら。

 

全力で、壊すのではなく、逃げるために。

 

一方通行の、誓い。

 

自分自身の為に『実験』で殺していってしまった<妹達>と<最終信号>を守るという。

 

その為に、この暗部にまで堕ちたんだ。

 

なのに、よりにもよって。

 

垣根帝督は、<ピンセット>で拾い上げた情報の中で、ピンポイントで『そこ』を狙ってきた。

 

そして、逃げる先に―――小さな―――<妹達>、

 

 

 

―――最後の絶望(ラストオーダー)が待ち構えていた。

 

 

 

闇は変えることも、帰ることもできない。

 

ここから先は、一方通行(いっぽうつうこう)だと。

 

10歳前後の少女の形をした、そして男物のぶかぶかワイシャツという服装まで、ついさっきのものと同じな、白い『絶望』が、一方通行にめがけて飛んできた。

 

その小さな身体に見合わずの質量が凝縮され、オートバイにも匹敵する加速速度。

 

当たれば間違いなく一方通行の体は交通事故のように飛ぶ。

 

 

―――ああ、俺は結局………

 

 

しかし、その攻撃は、止められた。

 

 

「―――言ったでしょう。私がいる限り、誰も死なせない、と」

 

 

天上から白い打ち止めを、陽光を纏う脚で打ち砕いた。

 

森全体をびりびりと震わせるほどの威力に不浄を焼き払う日輪。

 

上条詩歌は苦々しい顔をしながらも、打ち止めの形をした<未元物質>を浄化の炎で滅却する。

 

生命は、死ねば終わりだ。

 

戦いの最中でも、相手を想える彼女は、戦いの残酷さを知っている。

 

 

『では私はこれで行くとしよう。やり直しなんて贅沢をもらえたのに、これ以上留まって君の泣き顔を覚えてしまうと、また、戻ってきてしまいたくなる。生涯を主の教えを守る騎士として、悪霊となり死後も彷徨うわけにもいかない』

 

 

そして、それをあの騎士に教わった。

 

完全に失ってしまったモノは取り戻せないのだと。

 

だからこそ、上条詩歌はしなければならないことが分かっていた。

 

 

「―――あー君! あなたは<妹達>を馬鹿にしてるんですか! 打ち止めさんがこんな事をすると思っているんですか! ここで殺されたって何の贖罪にもならない! こんな形だけの偽物(ハリボテ)に騙されるくらいに、あなたは弱かったんですか!」

 

 

叱咤する―――だが、それは少年に聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 

そう。

 

一方通行は誰が潰したかなど認識しておらず、ただ打ち止めの顔をしたものが潰されたことに頭が占めていた。

 

 

バチッ!! と。

 

 

凄まじいスパークが、一方通行の頭の中心で弾けた。

 

視界の全てが真っ赤に染まり、空も、地面も、森も消え去った。

 

血の色を背景に、壊されたシルエットだけがくっきりと浮き上がっていた。

 

脳天から蹴り砕かれて、影も残さず消滅したのが頭に残る。

 

そして、それをした少女が、こちらに何かを叫んでいたが―――しかしそれが誰なのか、一方通行はもう認識する事は出来なかった。

 

再び、先に倍する規模のスパークが意識を真っ白に焼いた。

 

右脳と左脳が割れ、切り開かれたその隙間から、何か鋭く尖ったものが頭蓋骨の内側に突き出してくるような錯覚。

 

ぶじゅっ、と果物を潰すような音が耳に聞こえ、目からは涙のような液体が沁み出る。

 

もう僅かに残存していた判断力という理性は、完全に消え去り、自信を構成する柱も砕けた。

 

あとに残ったのは、中心から末端までがドロドロとした純粋な破壊衝動のみ。

 

つまり、暴走。

 

 

 

「ォ……ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 

眼球を赤く染め、天地を揺るがすような咆哮を轟かせると、背中から弾け飛ぶように噴射するドス黒い翼が出現。

 

自我を真っ黒に塗り潰す怒りを受けて爆発的に展開される一対の翼は、一瞬で数十mもの長さに爆発的に伸長。

 

理屈がなく理解できない。

 

暴走したAIM拡散力場による異様な干渉で生まれた相対性理論でも説明不能なブラックホールの如き真っ黒な歪み―――<黒翼>。

 

 

「―――yjrp悪qw」

 

 

そして、狙うは数m先に、凍り付いたように佇む陽光を―――そう、白だ。

 

守ると誓った少女を殺した敵、すなわち<未元物質>と同じ白を持つ敵だ。

 

猛然と―――破壊不能の<原典>クラスの防御機能を持つ―――世界樹を薙ぎ払いながら、<黒翼>を振り落とす。

 

ブォ!! と空気を切り裂き、黒い軌跡を引きながら放たれた一撃は、秘められた威力こそ途轍もないものだったが、タイミングさえ見切れば怪物クラスなら容易く避けられたはずだった。

 

しかし、白い敵は避けなかった。

 

代わりに、籠手に包まれた両腕をクロスさせ、そこに宿す温かな陽光の輝きを強くする。

 

 

 

――――これは勝利を約束された光、

 

――――これは死を拒絶する生命の根源、

 

――――されば、照らせ、太陽(ソウエル)!!

 

 

 

呪を重ね、<黒翼>と同じように、その輝きを強くして一気に翼を広げるように伸長させるオーバエッジ。

 

大いなる暗黒を巻き込む<黒翼>と鳥の王――大鵬金翅鳥(ガルーダ)の如き日輪を放つ籠手が接触し、極小の一点へと圧縮された超エネルギーが、新星のように真っ白に輝いた。

 

直後、くわぁん! という甲高い共鳴音を伴い、威力が周囲の空間へと同心円状に解放された。

 

木々の根を持ち上げて傾けさせるほどの凄まじい衝突。

 

衝撃波が収まっても、両者はまだ翼を撃ち合わせたままだった。

 

交差点がぎり、ぎりと軋むたび、眩い閃光が散って双方の顔を照らす。

 

日輪の向こうで、苦しそうに眼を細める白い敵は、暴走した<黒翼>を受け止めながら必死に何かを叫んでいるようだったが、しかしその言葉は、もはや理性無き破壊衝動の塊と化した破壊神には届かない。

 

 

「―――hsgj白hsk敵」

 

 

これは人の領域を超えた絶望。

 

ただ存在するだけで動物の本能を刺激する絶滅。

 

日輪の陽光に触れた<黒翼>は勢いを弱めるどころか、より激しく噴出して陽光の翼と鬩ぎ合いを始める。

 

敵はまだ何かを叫びながら抵抗するも、<黒翼>はさらにその陽光を削り取るように中に取り込んでいき、一層力を増していき、やがて周囲の光を捻じ曲げるほどの渦が生まれる。

 

何もかもを塗り潰す黒き憎悪の、醜悪極まる蹂躙だった。

 

<黒翼>を叩きつける悪魔の脳裏に、その黒の奥を見た誰かの声が、弱々しく―――そして優しく響いた。

 

 

 

―――怖くて、いいんです。

 

―――誰だって、怖い。

 

―――壊れないものなんて、ないんです。

 

―――全てのものは、壊れやすくて。

 

―――人の身体も命も簡単に失われる。

 

―――でも、だからこそ、愛おしく思えて、大切にする。

 

 

 

その破壊を恐れているのは、誰よりも彼であった。

 

この手は壊すもので、だから、大切なものなんて持ってはいけない。

 

その肩に人の業を背負うが故に、認められない。

 

温かさも伝えられない冷たい手で、人に与えるものはなく、奪う事しかできないと。

 

悲劇を繰り返すのなら、希望など捨ててしまえ。

 

その絶望が結晶となったのはこの<黒翼>。

 

でも、破壊を恐れるのは誰しも抱く感情なのだと、その恐れにこそ意味があり、

 

今一方通行が見つめるべきは、その黒い翼ではなくて、自分の本当の願いだと少女は言う。

 

 

 

―――それが、あなたの降らす、雨なら。

 

―――その冷たさが、あなたの悲しみだというなら。

 

―――私が、それを受け止める。

 

―――あなたの手はきっと温かさを思い出す。

 

 

 

陽光の光は<黒翼>に熱を奪われるかのように―――熱を与えるかのように、その輝きを弱めていき―――ようやく、一方通行は、霞む視界に、上条詩歌を見た。

 

 

 

―――だから、本当に大切なものの存在を認めて。

 

―――今なら、まだ間に合う。

 

 

 

<黒翼>の前に陽光の翼は砕け散る。

 

余波の直撃を受けた上条詩歌は塵芥の如く、その身を宙に舞わせた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

その瞬間―――

 

一方通行の耳に、奇妙な音が響き渡る。

 

細かい爆発が連続しているような、空気を切り裂く衝撃音。

 

それは、一方通行の目の前で墜落したものだから音の正体はすぐに分かった。

 

彼が音の方向に目を向けると―――そこには、木々の合間と、その奥に覗く青空があり―――

 

 

 

空を飛ぶ真っ白な―――学園都市が誇る最新戦闘ヘリ―――<六枚羽>が、一方通行の前にその姿を現した。

 

 

 

「スゲェな……スゲェ悪だ。やりゃあできんじゃねぇか、悪党。確かにこれなら<未元物質>は『第二候補』だよ。ただし、そいつが勝敗まで決定するとは限らねぇんだよなあ!!」

 

 

 

そのさらに奥には、神秘的な光をたたえ、機械的に無機質な白い翼を爆発的に展開させた垣根帝督。

 

高エネルギーの激突による衝撃波が走り抜けて、その心中に、僅かな焦燥が走り抜けたが、まだ己の優位は揺るがない、と。

 

どうやら<未元物質>でさえもあの<黒翼>に通用しないようだが、上条詩歌は確かに鍔迫り合い―――触れたのだ。

 

攻略法は確かにあり、だから、自分がそこまでレベルアップすればいいと。

 

どんなものであろうと創生する垣根帝督の能力は、学園都市最新科学の結晶にまで通じており、その白い超常による構築された<六枚羽>は、さらに生物的に、異形の新種へと改造されている。

 

<未元物質>の力の一片か、それに搭載されている兵器は蜃気楼のように銃身を蠢かせ、魔物の牙のように獲物を捉えようとしている。

 

本物はレーダ波の照射によって誘導される電子兵器に過ぎなかったミサイルも、今は新たなる素粒子によりこの帝王の意のままに猟犬の如く追尾する超兵器だ。

 

そして、当たるだけで鏖殺の威力にして余りある。

 

<一方通行>と<未元物質>がそれぞれ抱えるのは、異世界の有機と無機。

 

神にも等しい力の片鱗を振るうものと、神が住む天界の片鱗を振るうもの。

 

条件は互角で、しかし、垣根帝督はその力を把握し、我を忘れることはない。

 

これが『0930事件』で分かれた決定的な差だと垣根は思っている。

 

無理な負け惜しみでも、感情による脚色でもなく、純粋な自己分析。

 

 

「無様に狂ったまま死にやがれ、第1位(ムシケラ)

 

 

噴煙も、反動もなく、ありとあらゆるベクトルを詰め込んだ<六枚羽>による掃射が始まる。

 

真っ白な嵐。

 

この<未元物質>が紡ぎ出した死の弾風だけでもまともにその身に受けたら悉くミンチと化し、塵に還っていただろう。

 

 

 

だが―――その場にいたのは、学園都市最強という、名状しがたき力を持った悪魔。

 

 

 

竜巻の如き激しい奔流の一部がひしゃげ、グゥ、と内側に引き込まれる。

 

次の瞬間、ひしゃげた部分の風が切り開かれると、中から強大な<黒翼>が現れ、竜巻を強制的に霧散させた。

 

<黒翼>はそのまま直進し、弾膜を張り続けていた白い<六枚羽>を豆腐のように両断する。

 

そして、悪魔は依然とこちらを見てさえいない。

 

致命傷どころか掠り傷さえも与えられていない。

 

僅かに目を細め、垣根は一方通行を観察する。

 

さっきまでの一方通行であるなら、確実に死んでいた。

 

だが、生きている。

 

もしやあの<黒翼>は<未元物質>以外の何かを取り込み発現し、さらに―――上条詩歌の陽光を削り取っていたが、その『反射』の無敵防御にも組み込んだのか。

 

この戦闘で成長しているのは、自分だけではないようだ。

 

だが、垣根はその過程に興味を持たない。

 

彼にとって重要なのは、今も成長していく<未元物質>と、現在目の前にある結果だけだ。

 

 

―――だが……この程度だ。

 

 

自分もまだこの異法を解析できていないが、垣根は一つの確信を以て、己の力を行使する。

 

 

―――まだ、俺の有利は動かない。

 

 

垣根はさらに、その白い力場を空に染みだすように展開し、再び白い<六枚羽>を今度は5機も、いや、止めどなく白い雲のような<未元物質>から具現化させ、地上からは白い円卓の騎士団も召喚する。

 

どんなに破壊しようが、白騎士は、無限に増殖し、無限に成長する。

 

今も上条詩歌の陽光に3合は撃ち合えるだけの性能になっているはずだ。

 

いずれは<黒翼>も克服するだろう。

 

そして、空を覆う<六枚羽>の機銃から連続して衝撃波を吐き出させた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

周囲を囲む兵団に、頭上を飛び回る兵器。

 

悪夢のような光景で―――酷く懐かしい。

 

幼かった自分が<一方通行>を発現し、こうやって包囲され生きる希望を失って投降し、やがて暗い研究所へと放り込まれた。

 

 

『私、上条詩歌と言います』

 

 

ただ―――研究所に行く前に、彼女と出会った。

 

 

『この力を恐れているあー君なら、平気で人を傷つけるようなんてしないはずです。だから、私はあー君を怖がったりしません』

 

 

初めて、自分の力が凄いと褒めて。

 

初めて、自分の力に怖がらずに触れて。

 

初めて、自分を、温めてくれた。

 

 

 

それを、また、壊してしまった。

 

 

 

「何でだよ!! 何で俺みてェなクソッたれな悪党を助けようなンてすンだよ!! もっと他の奴らを助けろよ!! 最初っから、俺をぶっ殺していりゃ、こンな間違いなンか起こンなかったンだ!! 俺なンかより、お前の方が――――」

 

 

もう止まれない。

 

この頭が焼き切れてしまおうとも、暴走は止めない。

 

止まらないのではなく、止める気がない。

 

<黒翼>が今まで以上に膨らみ、100以上に分断。

 

ありとあらゆる方向から、面で覆い尽くす黒の蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

遠く、雄叫びが響き、衝撃がここまで聞こえる。

 

 

「……全く、勝手に殺してんじゃないですよ。詩歌さんは約束は守ります」

 

 

ケホッと血を吐く。

 

満身創痍なのは言うまでもない。

 

むしろ傷がない場所を教えて欲しい。

 

痛覚も麻痺し、血もゆるやかに流れている。

 

籠手も弾け飛んでしまったいる。

 

でも、無事だ。

 

この幻典結界であるなら、世界樹のバックアップで死なない限り怪我は一瞬で完治する。

 

あの時、日輪の加護を<黒翼>に喰われていったが、完全になくなったわけではなく、そして、あの瞬間に、“これ”が割り込んできた。

 

 

「白い<妹達>……垣根さんですね」

 

 

あの時、閃光で真っ白に染まる中で、この<未元物質>で造られたはずの<妹達>が不意をついての攻撃ではなく、壁となるように飛び込んできた。

 

様々な理由はあるのだろうが、あのシェリー=クロムウェルと同じ。

 

彼には様々な意思がある。

 

その中には自分が気づいていないものもある。

 

何となく詩歌は頬を緩ませて、苦笑する。

 

たったひとつでも、それを見つけてしまったら、笑えてしまう自分に呆れてしまうように。

 

 

「ふふふ、ちょっぴり、今のはブチッときましたし、“罰”が欲しいならあげます」

 

 

黒い翼と白い翼をそれぞれ展開させて、激突する常識外の怪物。

 

しかし、勝つのは自分だ。

 

 

 

「―――融合混成、<一方通行・未元物質(アクセラレーター・ダークマター)>」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

どれだけ白の翼が力を創生しても、まだ潰れず、倒れず、こちらに黒の翼を向けてくる。

 

たった1人を相手にしているのに、まるでこちらが無限の軍隊が蠢く戦場を一騎駆けしているようなものだ。

 

蹂躙しても蹂躙してもやり過ぎると言う事がない。

 

だが、

 

 

「なっ、んだ……それは……」

 

 

それに先に気付いた垣根帝督は、一方通行の相手も忘れて息を呑む。

 

声も、心なしか震えている。

 

様々な種類の素粒子が、ベクトルが、入り乱れたその力に、垣根は戸惑いを覚えた。

 

同時に感じ取る。

 

その片側は、まぎれもなく自分のものだと。

 

1本の世界樹の頂で、垣根帝督と同じく宙に浮かぶ上条詩歌の背中から――――白と黒の二対の翼が展開されていた。

 

 

「この<幻典空間・世界樹林(せかい)>は私。だから、この中にいる幻想を上条詩歌は投影できる」

 

 

骨は、有機の弾力性と無機の頑健性が組み合わさったハイブリットだからこそ、丈夫だ。

 

有機だけでは変形しやすく、無機だけでは骨折しやすくなる。

 

そして、この翼は、異世界の有機と無機を司る。

 

白と黒は左右に分かれてそれぞれ近場の世界樹に巻き付き、天上の世界の有機と無機を織り合わせ、強靭に絡み合いながら、桁違いの生命が圧縮され―――その白と黒と緑が何十、何百、何千、何万、何億と一つと寄り集めるように紡ぎ合わせて――――両腕を引く。

 

まるでそれが合図たったように、巨大な神木は分解され、上条詩歌の両手に、二本の大剣が握られていた。

 

 

「無敵防御と無限増殖でくるならこちらは夢幻投影。―――これは、上条詩歌が記憶している最強の幻想」

 

 

世界樹の生命エネルギーを注入し、白い翼と黒い翼が骨子構造を形成。

 

太陽の輝きにも似た凄まじい光を放つそれは―――<絶対王剣(エクスカリバー)>。

 

上条詩歌が『0930事件』で見た、あらゆる聖剣の頂点で、『最強』という人の願いを糧に星が編んだともされる『最強の幻想(ラストファンタズム)

 

相応しい使い手が振るえば、星の生命を光に変換し、収束・加速させエネルギーを極限まで増大圧縮して放たれる究極の一閃――『劫罰』は、<黒小人>の『神の武器』にも匹敵する。

 

そして、<幻想投影>は、『神の武器』であろうと100%の性能を引き出せる万能の使い手。

 

最強の『矛』だろうと『盾』だろうと、それを使うのは『人』だ。

 

上条詩歌は一回きりしか再現できない一振りを二人に一本ずつ―――振るった。

 

 

 

「言ったでしょう? 2人がかりでも負けはしないと」

 

 

 

次の瞬間―――

 

困惑する垣根帝督と暴走する一方通行を巻き込み―――

 

白と黒に支配された空間を、一際強い輝きを放つ『幻罰』が、深く優しく包み込んだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「………」

 

 

一方通行が立ったまま目を醒ますと、そこは、まだ森の中だった。

 

目の前に立つのは、傷一つ負っていない上条詩歌。

 

 

「両成敗、です。当麻さんのように幻想だけを払おうとしましたが、垣根さんがまだ見つかりませんね」

 

 

何か言おうにも、電子チョーカーがすでに切れているらしく、一方通行は無言でいるしかないが、どうやら彼女がここにいるのは寝起きで頭の働かない一方通行にも一目で理解できた。

 

 

「どうやら落ち着いたようですね、あー君」

 

 

詩歌の言葉に、一方通行は答えられない。

 

けど、理解している。

 

自分は、彼女に負けたのだと。

 

学園都市最強の第1位でも手が付けられなかった暴走を、彼女は鎮めたのだ。

 

これは、負けだ。

 

悪とか善ばかり気にしていて、守りたいものを見ていなかったと思い知らされた。

 

だが、不思議と、思っていたほどの悔しさも後悔も感じられない。

 

そして、涙も止まっていた。

 

泣いたのは、そう。

 

ただ逃げ出したかったから、涙を流した。

 

あの白い<妹達>がきっかけだったが、それ以上に、甘ったれだったから。

 

でも、それもここまで。

 

いつまでも失ったモノが戻ってくるなど、夢を見てはいられない。

 

 

「……すみません。私はあー君の不幸を知っているのに、何の言葉も浮かびません」

 

 

詩歌は、つらそうに視線を伏せる。

 

 

「私は人を殺したことがないから、何も言えません」

 

 

ああ、そうだろう。

 

この痛みだけは、彼女は投影できない。

 

だったら、放っておけと言いたいが、彼女は生憎、不幸を見過ごせない性質で、言葉にしなければ分からないことは、ちゃんと正直に伝える。

 

 

「でも、言います。死んだものの想いが、結局は死んだものにしか分からないなら―――生きているものの気持ちは生きているものにしか分かりません。打ち止めさんがあなたにどれほど会いたがっていたか、分かってあげなくてはダメです。そして、死んだものを利用するなど簡単に許容してはいけない」

 

 

『パルツィバル』という一人の男の死に様が、そして、死んでも甦った愚兄の生き様が、詩歌の口を動かす。

 

 

「弱肉強食。それでも悔やむなら、彼女達の犠牲で成り立った自分を大切にするべきだと思います。―――それを蔑にするのは絶対に間違っている」

 

 

その眼は真っ直ぐで。

 

死んだものを尊ぶことも大切だけど、生きたものこそ――今を生きる<妹達>、打ち止め、そして、一方通行が大事。

 

自分から罰を求めるのは間違っていて、それで殺されてしまうのは甘えでしかなく、彼女達への侮蔑だ。

 

だから、上条詩歌は一方通行の友として怒り、そのことに『幻罰』を下した。

 

 

「それに私だって心配したんですから、もう帰って来なくなるのは勘弁してくださいよ。打ち止めさんにもちゃんと謝ってください」

 

 

そして、詩歌は手を差し出すと、くすくすと笑って、

 

 

「でも、言ったでしょう? 私はもう倒れないって。詩歌さんは約束を守ります。だから、あー君も約束を守ってくださいね」

 

 

ああ、クソッたれ。

 

やっぱり強ェなァ。

 

絶対的に強く。

 

圧倒的に凄く。

 

そして、馬鹿なくらいに優しい。

 

こっちの気も気にせず、俺に喧嘩を売りやがって……

 

本当に、鈍感だ……

 

昔も今もそんな彼女が大嫌いで、昔も今もその先もそんな彼女が―――

 

 

―――でも、言葉にできない。

 

 

今の自分は電子チョーカーが切れていて、考えることもできず、正直にならない。

 

一瞬よぎったものも、幻想のようなもので、復活すれば気の迷いだと思い込むだろう。

 

こんな鈍感な奴のわがままに振り回されるなんて、先を想うだけでコリゴリだ。

 

でも、ずっとずっとこの先も彼女を思えば荒んだ心が癒されるだろうとは認めよう。

 

 

「ふふふ。では、帰りましょう」

 

 

そして、一方通行は、その手を、握った。

 

 

 

『ォォォおおおおお!! 舐めるな!! まだ俺は負けを認めてねぇぞおおおおお!!!』

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『―――これは、単純に経験値と時間稼ぎだ』

 

 

垣根帝督が、上条詩歌と一方通行との戦闘による経験値稼ぎの裏で、世界樹に蔓延る砂粒のような白いもの―――<未元物質>で作られた白アリによる侵略が行われていた。

 

この<幻典結界・世界樹林>がその圧倒的な力の源なら奪えばいい。

 

万物は素粒子で構成され、それを統べるのが『神の住む天界の片鱗を振るうもの』――<未元物質>。

 

学園都市Level5序列第2位の垣根帝督に、常識は通じず、この全てを乗っ取って見せる。

 

同時多発的にネズミ算的に、この白アリ(ウィルス)は増殖し、やがてはこの異物が混じれば、異法のものだろうとこの最大の創帝に徴収される。

 

弱肉強食。

 

上条詩歌を喰らい、<未元物資>はさらに遠い場所へと進化する。

 

 

『甘くみたな。俺は、ただ<未元物質>って資源を無尽蔵に使えるだけじゃない。俺のインスピレーションには限りがないんだ。どんな手札もあるし、どんな手札も揃えて見せる。ハッ、これで俺は第1位とか第2位とか第3位とか第4位とか第5位とか第6位とか第7位とか……そんな数で数えられる小さい領域を出るんだ』

 

 

 

 

 

 

 

突然、大地が、揃って唸り始め、ざわめく森が白く染まる。

 

白に染まる巨木から、大量の枝槍が飛び出す。

 

それらは上条詩歌や一方通行を正確に狙う。

 

回避は不可能で、例え成功したとしても、その先に続くものがない。

 

0から1を生み出す究極の創造性と1から∞に進化させる夢幻の発展性を得た垣根帝督は、時間も資源も体力も、この世界の数えられるもののであるなら全てを味方につけている。

 

その力は人類滅亡レベルにまで達している。

 

 

「ダメです! これは人間に耐えれるモノじゃないです!」

 

 

『ふん。もう遅い。何を言っても無駄だ。<未元物質>に人間(じょうしき)は通じない。俺は、お前の全てを手に入れる』

 

 

巨木の葉が高速で振動し、『声』を生み出すまでに、制御機能が乗っ取られている。

 

抉って、奪って、塗り潰していく。

 

垣根帝督に支配された槍が、欲求に尖る先端が、無数に、埋め尽くさんばかりに、核である上条詩歌へと殺到し―――接続した。

 

瞬間、地鳴りはとうとう単なる自然現象である地震レベルを超えて―――

 

 

 

―――森の形が変わる。

 

 

 

その時、一方通行は見た。

 

壁の如く屹立した、その絶望的な異形が。

 

腕であった。

 

途轍もなく―――いいや、そんな言葉でさえ愚かしくなるほどの、巨大な腕が天へと突き上がっていた。

 

それぞれが世界樹で造られた指で、もどかしく空へと伸ばして、その全容をまざまざと見せつける。

 

まだ、二の腕より先は晒していない。

 

それでも、それゆえにこそ、凄絶なほどの全体像を想起させる。

 

神秘を傾倒する古き人間が見れば、それだけで神だと崇めるだろう。

 

巨大というのはただそれだけで見るものの心をひしぐのだと、イヤというほどに分からせる光景であった。

 

この巨人はただ動くだけでも、そのあまりもの質量は天災というまでの壊滅的な破壊を引き起こす。

 

そして、この巨人を生み出したのが、尋常ならざる常識外の怪物の垣根帝督であることも合わせれば、これから勃発する事態に一切の楽観的な観測など許されぬ。

 

 

『これが<未元物質>の最大の可能性。何もかもがムシケラに見えて、学園都市ってのもちっぽけに思えちまう』

 

 

巨人の中心の卵のような種子の中で、垣根は歓喜する。

 

今まで感じたこともないほどの力が、<未元物質>を通して、身体の中で暴れ回っている。

 

今なら学園都市でさえも一瞬で踏み潰してしまえそうだ。

 

しかし、まだ完璧に掌握しているとは言い難い。

 

上条詩歌の能力、さらにその奥にいるモノを根こそぎ手に入れる。

 

能力を投影する能力。

 

成長にはこの上ないくらいの能力。

 

 

『いや、もっとだ。もっと世界で―――』

 

 

 

ドクンッ!! と。

 

垣根帝督という巨大なシステムが、唐突に破裂した。

 

 

 

『100、200、4000、1600%―――伝導、率が過負荷(オーバーロード)……? いや、<未元物質>は無限増殖する。すぐに―――何、だと……無限が、追いつかな――――ぐぁああああああああああっっ!?』

 

 

 

全身の血管が破裂し、骨肉が溶けてしまうような幻痛……?

 

いや、これは幻痛どころじゃあない!!

 

異常なんて言葉じゃとても収まらない。

 

逆に根こそぎ呑み込まれていくほど深い、取り返しのつかない。

 

<聖人>であろうと、耐えられない。

 

そして。

 

これは異法―――科学と魔術の禁忌。

 

どんな手札があろうと神経衰弱にジョーカーは入れない。

 

超能力者であろうと、神の住む天界の片鱗を振るうものであろうと、この非常識は覆せない。

 

上条詩歌は、こんな深奥を平然と、普通に、易々と扱っていたのか!?

 

 

『ダメです! これは人間に耐えれるモノじゃないです!』

 

 

あれはまさかまさかまさか―――そのまんまの意味だったのか!?

 

しかし、もう遅い。

 

無限に増殖しその全てにネットワークを繋げて広げていってしまった1つの体と心。

 

隔絶しようにも間に合わない。

 

<未元物質>は、明らかにLevel5の制御できる範囲を超えており、<幻想投影>に至っては、Level5でも禁忌―――その深奥に触れれば、逆に食われる。

 

己の存在が、夢幻と薄まっていく。

 

垣根帝督は喰らいついているつもりで、逆にその『  』の大口の中に自ら入っていったということ。

 

 

バギリ!! という甲高い音が響いた。

 

 

禁忌の一線を越えた。

 

世界樹に罅が入ったと思った途端に、<原典>の自律機能が働き、すぐに再生し―――しかし、また拒絶反応の破壊………それを延々と繰り返す。

 

破壊と再生を繰り返し、<未元物質>は創生を暴走させて、Level5でも制御不能なまでに進化進化進化進化進化進化進化進化進化進化進化進化………

 

 

『―――ギャzasakdjcガvsacwoi不可cnalkc無n理woicwca失kcb敗djakkdcsp負kけi』

 

 

途轍もない異常事態の中で、上条詩歌は少ない生命を振り絞って、天へと腕を上げる。

 

 

「くぅ、こうなったら―――来い!」

 

 

念の為の保険を発動させる。

 

世界樹のバックアップを乗っ取られて、森に仕掛けた細工は全部封じられている。

 

しかし、これは“すでに森には存在しない”。

 

天空へ。

 

幻典結界の天蓋へ、限りなく高く飛ばされている。

 

生命の欠片も練る必要はなく、どんな儀式も、どんな道具も必要なく―――存在さえあればいい。

 

太陽の騎士(ガウェイン)』が太陽神の天罰―――<天壌落陽>で見せた<禹歩>―――天子・禹王の神秘の歩みの応用。

 

封じこまれた時の策として、先程、垣根帝督との戦闘で空へと打ち上げた7本の天照の矢の内、6本は流星群となり、1本だけ地上1000kmに漂う衛星として取り残された。

 

そこから落とせば、単純な位置エネルギーだけでも音速を遥かに超えてその威力は核爆弾にも匹敵する。

 

無形で無人で―――陽光に染まったそれは太陽神の裁きの鉄槌。

 

落下の最中にも形無しで際限なく巨大化し、この<未元物質>に侵略された幻典結界を破壊させるまで至極に。

 

 

(無限を有限にまで削って、制御権を奪い返す!!)

 

 

もうすでに肩と首まで創生し始めている巨人の体に照準を定めて、幻の小太陽が墜落する。

 

 

 

「―――パターン<太陽爆発にも比類する鉄槌(フレアスカート・バンカーバスター)>」

 

 

 

激突は、どれほどのエネルギーを生んだか。

 

烈風が、森全体はおろか幻典結界全体を吹き切った。

 

コンマにも満たない時間の中で裁きの鉄槌と巨人の片腕は拮抗し―――互いに消滅した。

 

 

「ダメです。まだ―――!」

 

 

しかし、足りない。

 

そうだ。

 

垣根帝督は――<未元物質>は最初の戦いで得た経験値で陽光に対する耐性ができていた。

 

そして。

 

最後の一発を使った後、もう片方の巨人の腕が盛り上がる。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

最後の一手が無駄になり、崩れ落ちる。

 

クソッたれ……!

 

“直接核を狙わなかった”をアイツに文句の一つでも言ってやりたい。

 

だが、そのまだ白く染まっていない世界樹に手を添え、瞼を閉じる。

 

 

ビキリ、と体の内側で悲鳴を上げる。

 

 

その根源を引き上げる。

 

『普通の物理法則』と『不可思議な法則』の境に、自分はいる。

 

あの『サービス』、そして、この巨木の内の流れ。

 

底知れぬ崖を前にしたかのように心臓が昂る。

 

それでも、自分でも正体のわからないものに押されて、深奥に落ちる。

 

変化は劇的だった。

 

 

ビキビキ、と皮膚が内側から破られ、赤黒い液体が噴出する。

 

 

Level5の垣根帝督でも喰われた深奥。

 

禁忌に手を出そうとする行為を批難するように、あらゆる不条理が、ベクトル解析を止めにかかる。

 

 

「っ、」

 

 

罪には罰。

 

この身に宿した超能力をもその行為を許さない。

 

その異法は全てを壊し、一方通行には毒だと。

 

自らの保身のため、<一方通行>という超能力自体が彼の破滅に動き出す。

 

 

「っ、!」

 

 

全身の細胞を焼く痛みに、意識が飛ぶ。

 

だが怯まない。

 

この痛みもこの苦しみも、全ては禁忌の果ての力を得るため。

 

 

「―――」

 

 

声なき声を上げて、不可思議の法則と拮抗する。

 

過負荷はついに血脈だけでなく、網膜も神経も焼き捨てる。

 

 

 

その果てに―――光を掴んだ。

 

 

 

あとは、その、ベクトルを、引き、上げる。

 

何のためにこんな大馬鹿な真似をしたのか。

 

 

止めろ、と冷静に正す自分の声が脳裏に聞こえる。

 

 

禁忌の果てに異法の断片を手に入れる。

 

 

それはお前には使えない、とそれを今すぐ離せと手が震える。

 

 

多くの迷いと怒り。

 

けれど、そんなものは俺には関係ない。

 

禁忌など知ったことか。

 

それはここで動けないでいる自分への怒りでも、

 

詩歌の力を略奪しようとした第2位への憎しみでもなく、

 

それはただただ単純で、でも一方通行でも分かる禁忌の領域に踏み切らせるほどの大きな決意。

 

つまり……絶対に口になんてしたくはないが、

 

 

 

俺はこんなにもこいつを助けたがっている―――!!

 

 

 

 

 

 

 

―――果たして、それは、何なのか。

 

 

あまりにも純白な翼だった。

 

突然、一方通行の背中に<黒翼>が噴出し―――頭上に小さな輪が浮かんだ瞬間に、バキバキバキ!! と亀裂が走り、変わった。

 

黒く、黒く、黒く、全ての色を塗り潰す破壊の塊だったものが反転し―――逸脱した。

 

そして、二つある白き翼は、DNAの二重螺旋を思わせる軌跡を描きながら伸長し、一つの螺旋状に捻くれて回転を続ける強大な白になる。

 

そう、それはもはや『神にも等しい力の片鱗』である<黒翼>ではなく、その先にあるもの。

 

学園都市最強がこの幻典結界から―――上条詩歌から、何かを獲得して、その結果として昇華させた最大の力。

 

こことは違う世界の有機を振るう超常の具現であった。

 

その螺旋は、一方通行の頭上に浮かぶ輪に呼応して、地殻変動に等しい重量と出力を軋ませながら廻っている。

 

<黒翼>でもこの幻典結界を破壊する威力なのに、昇華され一つの竜巻に収束され滾り溢れる膨大なベクトルは測定の埒外だ。

 

おもむろに翼の竜巻は旋転の速度を上昇させていき、一転ごとに疾く、大きく、なお疾く、大きく………

 

 

「え、あー君……そ、れ―――!」

 

 

その脅威を直感だけで詩歌は悟った。

 

<一方通行>の、Level5を逸脱している。

 

まさか、彼も!

 

魔力の流れを探知できることは知っていたが、使うだなんて!

 

しかし、詩歌が止めに入る前に。

 

 

轟、と颶風の唸りを上げて、一方通行の<白翼>から膨大なベクトルが迸り、詩歌を近づけさせない。

 

 

破壊神シヴァは新たな世界を創造するために、古き世界を無と帰す。

 

今、傲然と烈風を巻き上げ旋転する白翼の竜巻が、その神の奇蹟(みわざ)を演ずる。

 

天が絶叫し、地が震撼する。

 

あらゆる法則を軋ませて解き放たれた膨大なるベクトルの束。

 

一方通行が振り下ろした白い翼は、上条詩歌を、そして、垣根帝督すらも狙ったものではない。

 

もはや誰を狙うまでもない。

 

このさらに一段と覚醒した<一方通行>が破り壊すのは、たかが敵如きでは収まらない。

 

巨人の手が盾になったが、それさえも一瞬だけしか止めることしかできない

 

<未元物質>の種子に囚われた垣根帝督の眼前で、巨木が切り開かれ、大地が断裂し、奈落が開く。

 

地割れは更に幅を広げ、周囲の<原典>クラスの自律防護のある世界樹を呑み込んでいく。

 

否―――大地だけでなく、亀裂は森林から何もない虚空にまで延び拡がり、空間を歪ませて大気を吸い上げ、逆巻く風と共に、この<幻典結界・世界樹林>の全てを虚無の果てへと吹き飛ばしていく。

 

 

「これは、凄まじい……まさか、当麻さん以外にコレを壊せるモノがあったなんて」

 

 

流石の詩歌ですら、それは言葉を失くす光景だった。

 

一方通行の背中に生える白い翼。

 

その一撃が穿ったのは森林のみならず、天地全て世界そのもの。

 

もはや命中の是非、威力の多寡を論ずるものではなく、大樹が―――上条詩歌が全身全霊で編んだ幻想具現化が渦巻く虚無へと呑み込まれて消えていく。

 

巨人ごと<幻典結界・世界樹林>は、罅割れ、砕かれ、まるで砂時計の終わりのように虚無の奈落へと崩壊していく。

 

破壊神の一撃の前には、有象無象、何ら意味をなさぬ混沌にすぎず―――揮われた後に、新しい法則が世界を支配する。

 

解き放たれた神の力は、もはやLevel5の域にすらない。

 

形あるモノにみならず、森羅万象全てを破滅させる規格外。

 

それこそが学園都市で最強の超能力者の<一方通行>の渾身の一撃。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

空が堕ち、巨木が裂かれ、大地が砕け、全てが無に帰していく中―――視界に巨木に背を預ける形で崩れ落ちる垣根の姿を見つけた。

 

気を失い、内部出血、さらには骨肉も砕けている。

 

それだけの満身創痍ぶりで、こんな状態まで生きているのが本当に不思議なくらいだ。

 

 

―――コイツはここで殺す。

 

 

体はボロボロだが、頭だけはやけにはっきりとしている。

 

やるべきことをやるまでは止まらない。

 

 

「……」

 

 

一方通行は垣根に近寄らず、そのまま右手を差し出した。

 

罪人に死刑で引導を渡す、執行人のように。

 

 

「言ったよなァ。―――テメェはぶっ殺すって」

 

 

そして、最後に残った力で、断頭台のように、一方通行は白い翼を振り落とした。

 

……いや、落そうとした。

 

けれど翼は一方通行の意に反して止まり、どんなに力を入れても下げられない。

 

 

「何のつもりだァ」

 

 

一方通行は不愉快そうに吐き捨てる。

 

空間の制御を取り戻し、背後で<白翼>に世界樹の枝で縛り御している上条詩歌に向けて。

 

 

「こいつを離せ」

 

 

詩歌に振り返る事もせず、前だけを見つめて一方通行は言う。

 

……やっぱり、コイツはわがままだな、などと思いつつ、

 

 

「聞こえねェのかァ? 二度は言わせねェぞ」

 

 

一方通行の言葉に嘘はない。

 

邪魔をするのなら、詩歌だろうと容赦はしない。

 

コイツを殺したくない。

 

その想いとは矛盾しているが、そこまで言わないと詩歌には伝わらないと理解している。

 

けれど、一方通行のそんな鉄の意志を聞いても、詩歌は拘束を解かない。

 

 

「いい加減に……」

 

 

離しやがれッ……! と振り向き―――けれど、言葉の続きは喉で止まってしまう。

 

……その表情を、見るべきではなかったと後悔する。

 

輪を掴んでいる少女の瞳はまるで鏡のよう。

 

悼むような哀しみに糾すような怒り。

 

静かに、声もなく、意志もなく、その罪の重さを問う、深く澄んだ瞳。

 

 

「あー君。二度も言わせないでください」

 

 

態度を崩さない一方通行から、詩歌は一歩だけ引く形でそっと呪縛を解いた。

 

2人は仇敵であり味方であるように見つめ合い、苦い沈黙の中で、少女は口火を切る。

 

 

「私は、誰も殺すつもりはないし、殺させない」

 

 

告げられたのは聞き慣れた言葉。

 

それは信念を形にしただけの、つまらない言葉だ。

 

けど、今の一方通行には、その命という重さが嫌というほど分かってしまうし。

 

そのために今日、彼女がどれだけ奔走してたかも分かった。

 

この幻典結界を断片的に理解してしまった彼には、本当に痛いほど理解できた。

 

けれど頷けない。

 

この第2位は危険だ。

 

この無限増殖を今逃したら次は殺せない。

 

だいたい、この男は一方通行の触れてはならない――<妹達>のトラウマを弄んだ。

 

この借りを帳消しにするほど一方通行は優しくはなく、何よりこのままでは、悪、じゃない。

 

なのに、彼女は言う。

 

 

「そして、私はあなたに手を汚してほしくない」

 

 

子供のように率直に語る夢想家。

 

その願いが彼女にとってどれほど叶えたいものなのか、もはや呆れるほど感じ取れる。

 

それを振り払うため、一方通行は詩歌を睨みつけた。

 

 

「だからどォした? 最後に乗っ取られたクセに、その相手まで庇うっつうのかテメェは? 元気になりゃ懲りずに狙ってくる第2位が相手でも見逃してやれっつうのかァ?」

 

 

「まさか、私は聖人じゃないですし、正義の味方でもないです」

 

 

だが、詩歌は見逃すだろう。

 

この悪人の改心を期待するのではなく、この悪人の先を想ってのものでもなく。

 

ただ、生きている事に、感謝する。

 

人を殺せないのではなく、死なせない少女。

 

 

(……十分にヒーローなんだよ、テメェは……!)

 

 

だから、それが頭にくる。

 

腹黒いほど賢いくせにこっちが苛立つくらいに根が善良過ぎて、これでは『0930事件』で庇った『野良犬』に噛まれたのを忘れたのか。

 

いや、忘れてない。

 

忘れてないのに、この誰にでも買われ、何にでも代われる変わり者は自分を変えないのだ。

 

 

「でも、馬鹿なんです。自分でもそう思うくらいに。それに、もう仕返しは済んでるでしょう。あー君も分かっているでしょうけど、これを取り込もうなんて、罰でしかありません。―――あと、あー君もそうでしたが、垣根さんも私を殺す気はなかったですしね」

 

 

……その言葉に敗北を感じたのは、果たして誰だったのか。

 

己の中で、悪という言葉がちっぽけに見えてくる。

 

結局、そのスケールの大きさに自分と、この男は負けた。

 

 

「<調色板(パレット)>千入混成<梔子>――<筆記具(マーカー)>強化『生命(ソウエル)』」

 

 

その傷を癒す。

 

心身ともに、生命でさえも回復させる。

 

 

「……負、け……だ……」

 

 

一方通行との会話が聞こえていたのかいないのか。

 

そんなのはいい。

 

彼は彼の言うべきこととして垣根帝督は言う。

 

 

「『学生代表』、も認める。……お前の力にも、手を出さない」

 

 

思えば、乗っ取ろうと思った時点で、自分の限界に気づくべきだった。

 

何でも造れる自分が、どうしても欲しい『上条詩歌』を造れなかったのか。

 

 

「許してくれ、とは言わねぇ。だが、<妹達>を使って、悪かった」

 

 

きっと、それは欲しい―――以上に、守りたいと思ったから。

 

何でも造れるなら、どんなものであろうと壊れてもまた造ればいいのだから―――けど、それだとその唯一無二の価値がなくなるから。

 

 

「もう、『第二候補』とか、馬鹿な事はこだわらない」

 

 

垣根帝督は、上条詩歌に上条詩歌でいて欲しいから。

 

上条詩歌は、造れない。

 

それでも欲しくて、焦がれて―――暴想した。

 

 

「俺は、上条詩歌に、負けた」

 

 

大切に、思っているから。

 

そう――――

 

 

「―――うん。詩歌さんとしたら、反省してくれればいいんですが、悪いと思ったら、『ごめんなさい』でしょ? そんなに数多い言葉は求めません」

 

 

その時は、詩歌の微笑みは、やはり能力なんかじゃ再現できないほど『本物』で。

 

 

「―――それから、千や万の言葉(かざり)よりもたった一言の『ありがとう』。詩歌さんが欲しいのはその言葉ですね」

 

 

勝因は単純なものだった。

 

 

「―――最後に、私はただ垣根さんと手を繋ぎたいだけです」

 

 

惚れたら負け、ただそれだけのこと。

 

 

「……ありがとう」

 

 

垣根帝督は、詩歌の手を、取った。

 

 

 

 

 

 

 

「本っ当に、テメェは筋金入りのわがままだなァ。ムカつくくれェに……お前のわがままには勝てねェよ」

 

 

白い翼は霧散した。

 

チッ、と舌打ちし怒っている一方通行は、そのままくるりと詩歌に背を向ける。

 

これ以上その顔を見ていたら、本気で殺しかねないと拗ねるように。

 

 

「あー君、ありがとう」

 

 

振り向かない。

 

もうそこまでの力はないし、限界だ。

 

そして、何より、今の顔を見せたくない。

 

何となく、だが。

 

 

「じゃあ、終わりは本当にとっておきで、上条詩歌が見せたいものを見せて見せます」

 

 

書き換えられる森の風景。

 

見れば、それは多彩で絢爛な翼だった。

 

木が翼となり、葉が羽となり、その輝きは満天の星空のように世界を覆う。

 

 

 

「<禁色>―――<極光>パターン」

 

 

 

それは止まり木から飛び立つ鳥の羽ばたき。

 

神秘を内包した森の空間は、瞬きの間に変貌し、学園都市の街並みに。

 

しかし、空には虹のようなオーロラに、手を伸ばせば届きそうなほど近い星の明かり。

 

同化した空間の生命を一気に花開かせて、上条詩歌の幻想を投影する。

 

 

 

この日、学園都市は満天の夜空に虹のような極光――優しい幻想で包まれた。

 

 

 

つづく


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