とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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大覇星祭編 都市伝説

大覇星祭編 都市伝説

 

 

 

競技場

 

 

 

これはとある都市伝説サイトから得た情報。

 

不在金属(シャドウメタル)>。

 

何十何百もの能力が衝突する事で生まれる自然界には存在しない新しい金属。

 

その製造方法から希少価値が高く、ダイヤモンド等の宝石の単価よりも断然高値で売れるのだとか。

 

そして、今日は学園都市中の能力者が一斉に競い合う年に一度の祭典<大覇星祭>。

 

 

「これはもう探すしかないっしょ」

 

 

別にお金が欲しいからではない。

 

実家は裕福でもなければ、貧しくもない平凡な一般家庭。

 

普段の生活に金銭的に困っている訳でもないし、むしろ、最近は能力に目覚め、Levelが上がり、奨学金が貰える額が増えて、ちょっとした贅沢ならできる。

 

本当ならそのお金で、『先生』に恩返しをしようかと思っていたが、

 

 

『ふふふ、それは皆さんの努力の成果です。私はそれに少し手を貸しただけ。だから、私よりも頑張った自分自身にご褒美、またはその報告を心待ちにし、皆さんの無事を案じている家族の方々に使ってあげてください。私は、皆さんのその笑顔だけで十分です』

 

 

と、断られてしまい、今日、ここに来ているだろう、背中を押してくれたパパ、お守りをくれた心配性なママ、それから、能力者に憧れるやんちゃな弟に使ってしまい、ほんの少ししか軍資金は残されてない。

 

でも、仲間達と残った軍資金を集めて何かプレゼントしようと考えている。

 

皆もあたしと同じ気持ちらしいし。

 

と、話を戻して、<不在金属>はお金の為じゃなくて、ロマンの為だ。

 

一般常識じゃ認知されなかったり、普通に生活してたら得られないものを手にするってのは、夢のような経験、例えるなら憧れのLevel5なれたのと一緒。

 

 

『はぁ……しょうがないですね。私も佐天さんにつきあいますよ。<不在金属>でしたっけ? それについての情報を色々洗ってみます』

 

 

『さっすが初春ぅーー!!!』

 

 

『わっ、いきなりスカートを捲らないでください!?』

 

 

それから親友のスカートの中身も同じくロマン……

 

 

『って、あれ? 何でしたに体操服着てるの?』

 

 

『すぐ競技に出られるように……引っ張らないでください』

 

 

……なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「よぉーし、到着…――オゥ……、まるで戦争でもあったかのヨウダネ」

 

 

とりあえず、少し消化不良だったけど、初春の協力を得て、強豪校が激突したグラウンドにやって来てみれば、そこは元のきちんと平らに整地された場所とは思えないほど荒れ果てていた。

 

これが地形が変わるほど壮絶な高位能力者達の残した深い爪の痕。

 

その時の光景を想像するだけでも肌寒いものを覚えるが、あの真夏の熱球勝負の時を思い出し、自分の手で勝負を決めた瞬間が甦り、やがてそれは武者震いに変わる。

 

その高波に呑み込まれるのを怖がるのではなく、その上に乗ってこれでもかと言うくらいに楽しむ。

 

幸か不幸か、あの時、チームメイトだった、そして、今もトップ争いをしている常盤台中学の面々は白組の自分とは敵の赤組。

 

もうこれ以上ないくらい、自分じゃまだそのてっぺんまで見えないような高い波だが、それに全力でぶつかってみたい。

 

そして、『先生』に卒業してからの成長の成果を見てもらう。

 

これがあたしの、佐天涙子の<大覇星祭>に掲げた目標だ。

 

ま、この先、自分達と当たるかは分からないけれど。

 

と、忘れちゃいけない今の目的は……

 

 

「このグラウンド、今日はもう使う予定はないし、存分に探検できるよ! 初春も情報よろしくっ!」

 

 

『はいはいもう始めてますよ』

 

 

<風紀委員>第177支部で情報収集している初春と繋がったままの携帯を片手に適当にグラウンドをうろつき始める佐天。

 

だが、問題なのは手がかりがない。

 

どんな見た目かも知らない。

 

砂金のように小さな粒なのか、それとも大きな石ころなのか。

 

色も形もサイトには載っていない、と言う訳ではなく、むしろ大量に溢れ返っているくらいだ。

 

つまり、情報が多過ぎて逆に絞り込めなくなっている。

 

しかも、検索数だけは異常に多いのに、全部あやふやなことしか書かれていない。

 

都市伝説なのだから、そうなのかもしれないが、もう少しちゃんとした情報が欲しいものだ。

 

 

「でもまあ、火の無い所に煙は立たないって言うし、そんなにいっぱい引っ掛かるなら何かしらあるってことだよね?」

 

 

『前向きですねぇ』

 

 

軍手を嵌め、勘でそれっぽい所を、膝をついて手探りで探す。

 

もし、これで<不在金属>を見つけたらどうしようか。

 

記念に取っておく? それとも売る? ――いや、それをプレゼントにすれば……は、ないか?

 

いや、でも意外にイケるかも? ……う~ん。

 

まあ、今はその使い道を考えるよりも……

 

 

「この焼けた石が<不在金属>ってことはないだろうし」

 

 

『こっちも相変わらずですねぇ』

 

 

見つからない。

 

と言うか、分からない。

 

思い立ったら吉日とは言うけど、流石に無計画過ぎたか。

 

 

『そもそも佐天さんが見たっていうサイトが見当たらないんですけど』

 

 

「あれ? そりゃおっかしーなあ……」

 

 

<不在金属>の情報が載っていた都市伝説サイトを見つけたのは、1週間くらい前。

 

初春は体力はあれだけど、ネットの世界では凄腕のハッカーだ。

 

素人の自分が見つけられた情報を掘り出せないなんて事は……

 

 

「―――! これはアレだよ、カザリ君!」

 

 

名|(ではなく、どちらかと言えば迷?)探偵佐天は閃く。

 

 

「陰謀だよ、陰謀」

 

 

『陰謀……?』

 

 

「不在金属を追うと謎の組織に狙われるって話もあるの。その話が本当なら<不在金属>に近づいてるのかも!」

 

 

こうしてはいられない。

 

うかうかしていれば、組織に全部持ってかれてしまう

 

と、そこで水を差すように助手(ワトソン)のカザリ君が、

 

 

『なるほど……。でも、そんな人達がいるなら、そんな所で<不在金属>を収集しようとしている佐天さんは相当危険じゃないですか? 情報操作をしてまで<不在金属>を独占しようとしている組織が佐天さんみたいな人を見つけたら………』

 

 

「ちょ、ちょっと初春……? あんま怖い事言わないでよっ」

 

 

やはり、うっかり迷探偵(ホームズ)

 

力に目覚めたとはいえ、競技でならとにかく、それで物騒な輩と実戦ができるなんてとんでもない。

 

 

『あはは冗談ですよ。じょーだん。いつもスカートを捲られてる仕返しです』

 

 

「もォーーー……」

 

 

と、通話口から笑い声にホッと一安心―――

 

 

「―――え!?」

 

 

その時、佐天の背後に不審な人影が―――

 

 

「誰……あッ!?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『やっ、ちょ、何す……』

 

 

後輩の白井黒子に付き添って、<風紀委員>第177支部へやって来た時、電話口から悲鳴。

 

 

『佐天さん? どうしたんですかッ!?』

 

 

初春のただならぬ様子にそれが空耳でない事を御坂美琴は悟る。

 

 

『何かあったの?』

 

 

『さっ、佐天さんがッ!? 通話先でトラブルに誰かに襲われてる感じで―――』

 

 

何ですって!? と友人の1人が危ないと知り、美琴、そして、黒子は初春に<警備員>等のバックアップを頼み――――佐天のいる第18学区霧ヶ丘グラウンドへ跳んだ。

 

 

 

そして、

 

 

 

辿り着いた直後、美琴の視界に入ったのは、

 

 

「イダダダダダダッ!!? わ……分かったから放して……」

 

 

組み敷かれている佐天の姿、……と、

 

 

「アレはたしか……」

 

 

彼女を押さえつけている頭まですっぽりと覆うように全身を作業服に身を包み、大きなゴーグルの怪しい輩、が複数人。

 

隣で黒子が何かに気付いているようだが、今の美琴の目はその男達へ狙いをつけており……

 

 

 

「何やってんのよ、アンタらぁーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「<不在金属>? この仕事を何年も担当しているけどそれらしいものは見た事もないねぇ」

 

 

と、競技場のグラウンド、準備室の警備、そして、徹底したクリーニングを任されている業者の方の弁。

 

 

「高レベル能力者のDNAを採取しようとする輩が現れるとも限らないからね。と言うか過去に何度も未遂事件は起きているんだ」

 

 

能力者の髪などの遺伝子サンプリング組織を採取し、そこからDNAマップを解析する。

 

そうする事で、学園都市の門外不出の『技術』を盗み取る人間がいる。

 

『技術』を盗み出すだけならまだいい。

 

それから、能力者の軍団を生み出す為のクローンに使ったとしたら……

 

常盤台中学でも、それ専門の、隠し事ができないように監視カメラを店内の至る所に設置した美容室を生徒達に指定している。

 

しかも、今日の学園都市は大勢の『外』の人間を受け入れる為に検問が緩くなっている。

 

なので、

 

 

「そんな中不審者を見つけたら御同行いただくのは当然だろう? 下手をすれば訴訟問題になってもおかしくなかったんだよ!」

 

 

「「申し訳ありませんでしたっっ!」」

 

 

DO・GE・ZA。

 

グラウンドで不審な行動をしていた佐天と、早とちりで作業員に電撃を放とうとした美琴は額を地面すれすれまで下げながら、深く深く作業員の方々にお詫びする。

 

もし、すぐに気付いた黒子が美琴を止めていなければ傷害沙汰になっていた所だった。

 

都市伝説、<不在金属>の真相。

 

それは、DNAマップ流出を防ぐために厳重に警備されたグラウンドの様子を不審に思った所から生まれた噂。

 

こうして、2人は説教を受けた後、黒子のお小言を貰いながら退散していくのであった。

 

 

 

 

 

風紀委員第177支部

 

 

 

「はぁーーー。ホント佐天さんは人騒がせなんだから……でも、無事で良かったぁ」

 

 

初春は張り詰めた緊張の糸を緩めるのと同時に強張った全身の筋肉も弛緩させ、深く椅子へ座りこむ。

 

佐天が根拠のない噂に首を突っ込むのは、今日に限ったことではなく、彼女はそのような本当かどうかも不明な謎に興味津々で、都市伝説のサイトを暇を見ては覗いている。

 

確かに、自分は全く引かれなかった、と言えば嘘になるが………、と。

 

 

「そういえばさっき調べた時……不自然な感じがしたんですよね」

 

 

騒ぎでそのままになっているパソコンの画面。

 

そこには、先程から調べている『件の都市伝説サイト』だけが見当たらない。

 

 

「まるで誰かが何かを隠す為にわざと大量のダミー情報をばら撒いているような……」

 

 

根拠はない。

 

ただの……勘だ。

 

でも、初春の指は自然にキーボードを叩き始め、その一時中断していた作業を再開する。

 

<不在金属>の情報はデマだったが、ちょっとくらいは調べておこう。

 

 

「やっぱり、作為的な攪乱の匂いがしますね」

 

 

初春は、学園都市でも十指に入るセキュリティを個人で組み上げた事から<守護神(ゴールキーパー)>とその手の界隈から称されているが、そこらのハッカー(ストライカー)よりも、ゴールを入れる(ハッキング)にも長けている。

 

謂わば、初春飾利は相手のシュートをキャッチした後、そのままドリブルで敵陣に切り込んで、自分で相手ゴールにシュートを決めてしまう恐ろしい超攻撃的な守護神だ。

 

今も、相手の隠蔽(ディフェンス)に手こずっているようだが、ダミーの自動生成パターンを解析(冷静に相手の動きを読み、10人抜きを)していき、

 

 

シュート(どぉーーん)!!」

 

 

ネットで深く沈んでいたデータをサルベージし、そこから全体像を予測し復元に成功。

 

画面に佐天が教えてくれたサイトが広がる。

 

でも、特にこれと言った不審な点は見つけられず、<不在金属>も佐天が話していたのとほとんど同じだし、『とても価値のあるオレンジ』や『制裁指導』なども………

 

 

「? 『能力を生み出すDNAコンピューター』……?」

 

 

 

 

 

 

 

『『能力を発生する機械』としての側面を期待されるDNAコンピューター。

 

それが既に完成していると言う噂を聞きつけた我々は早速調査を開始した―――

 

渦中の人物を追跡調査する事に―――

 

数多の隠蔽工作を突破し、ついに辿り着いた建物で見たもの、それは―――

 

研究者風の男達を従える―――                      』

 

 

 

 

 

 

 

「たしか、この人って……―――」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ただいまぁ……」

 

 

「あ、おかえりなさい」

 

 

帰還した佐天と、黒子。

 

散々怒られたせいか、佐天はぐったりと落ち込んでおり、どうやら反省している。

 

次の競技の時間が迫っていると言う事もあり、美琴とは途中で別れた。

 

 

「うー、ごめん。初春も付き合わせてごめんよ~―――と、それはさて置き、何か新しい情報見つかった?」

 

 

「コラ! 本当に反省してますの?」

 

 

根拠のない噂に踊らされないように、と何度も釘を刺したのにポンポンと抜け落ちていく佐天に黒子は目を怒らせる。

 

初春も親友に呆れの溜息をつく。

 

 

「もぉ……一応あの後も私なりに調べてみましたけど、“特にこれと言って何もありませんでしたよ”」

 

 

パソコンの画面には、『ファイルは消去されました』とだけ表示されていた……

 

 

 

 

 

ホテル

 

 

 

ここは常盤台中学が<大覇星祭>期間中に借りているホテルの一室。

 

 

―――ッ!?

 

 

眠気を覚ますような凍りつくような感覚。

 

金縛りのように身体が動かない。

 

実際に凍らされている訳ではないが、精神が固められていく。

 

 

―――これを上条詩歌は知っている。

 

 

投影してすぐにわかった。

 

己を氷結された世界へと誘われたら、そこから脱出するのは困難だ。

 

何せ抵抗しようとしても、その意識さえも封じられてしまう。

 

だから、すぐにこの瞳から――――がもう対応が遅かった。

 

能力開発に付き合ったから良く知っている。

 

例え、初撃で決められなければ、二撃目からは対応できる天才であっても、これは投影しても、一発受ける、ほんの少しの時間を与えてしまえば氷結される。

 

まさに一視封殺。

 

上条詩歌とは最悪の相性だ。

 

 

 

(一体、何故……まさか―――いや、それよりも)

 

 

 

その刹那にも満たない間を何とか抵抗して少しでも伸ばし、残された力を振り絞り、詩歌の右手はベットの脇へ伸び、そこに置かれた―――

 

 

 

 

 

???

 

 

 

―――第9982次実験。

 

―――座標、――河川敷、時間、現在よりも36日前。8月15日深夜――

 

 

 

『はああああぁぁっ!!』

 

 

 

映像に映し出されるのは1人の少女。

 

両腕が潰れ、両足が潰れ、強大な敵を前にしても、少女は立ち向かう。

 

その背後にいる彼女達を守るために。

 

そして―――

 

 

 

『―――その幻想をぶち殺すッ!!』

 

 

 

その拳は確かに学園都市最強の心に響いた。

 

 

 

―――弟9984次実験。

 

―――座標、――操車場、時間、現在よりも34日前。8月17日深夜――

 

 

 

『歯を食いしばれよ、最強―――』

 

 

 

映像に映し出されるのは1人の少年。

 

少女達の願いを聞き、実験を打ち砕く為に立ち向かう。

 

己の残る全ての力をその右手に注ぎ込む。

 

そして―――

 

 

 

『―――俺の最強は、ちっとばっか響くぞ』

 

 

 

その拳は確かに地獄の呪縛の連鎖を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

今はもう実験の記録からは消去され、封印されたはずの記録。

 

その過去を参照する少女と、あの兄妹は知人でもあり、先輩でもあり、そして―――

 

 

「くすっ、そろそろ始まっている頃かしらぁ」

 

 

その思惑が読めない存在よりも。

 

操れば後が恐ろしい存在よりも。

 

覗いても計り知れず、操っても御し切れない……最も畏怖し、そして、――している存在。

 

だから――――

 

 

 

「―――ゆっくりとおやすみなさい、詩歌せ・ん・ぱ・い☆」

 

 

 

 

 

ホテル

 

 

 

美琴は慌てて、下っていた階段を途中で引き返し、上を、最上級生が泊まっている階を目指す。

 

きっかけは後輩、湾内絹保の一言。

 

 

『あの……さしでがましいかもしれませんが、わたくしの体操着はいつごろ……』

 

 

昨日の、<大覇星祭>の1日目に行われた『バルーンファイト』。

 

湾内はそこで、自分の代わりに出場していた<妹達>、ミサカ10032号――御坂妹に、体操服を貸していた。

 

それが、

 

 

(一晩経っても服を返してない? 遊び足りなくて私になりすまそうってんならいいけど……いや、ホントはよくないけど)

 

 

とりあえず、湾内にはコーヒーで汚してしまったと謝って、今クリーニングに出してもシミが残るだろうから業者に頼んで新品を届けるように手配した、と。

 

でも、

 

 

(なにか……胸騒ぎがする)

 

 

辿り着いた部屋。

 

そこには、あの『実験』の後、とあるカエル顔の医者と共に<妹達>の世話をしている頼もしい姉がいる。

 

だから、もしかすると御坂妹の動向が、いや、知らなくても何らかのヒントが得られるはず――――と、

 

 

「あれ? まだ寝てる……?」

 

 

扉を開けると、ひんやりとした、自分のと全く同じ構造の部屋が広がっており、そのベットの上で人影が、この部屋の仮初の主、上条詩歌が横たわっている。

 

珍しい……

 

この時間になっても彼女がまだ眠っているなんて……

 

詩歌の体内時計は規則正しく、いつも自分よりも早く起きていた。

 

 

(……昨日の一件が響いているのかしら)

 

 

見ていないし、聞いていない、結局、はぐらかされて教えてもらっていない。

 

でも、昨日、詩歌とあの愚兄が学生達が競技している裏で、何かの事件に巻き込まれていたのは分かっている。

 

もしかすると、その疲れを癒そうと未だ眠りについているのかもしれない。

 

 

(確か、詩歌さんは今日の第一種目は空いてたはずだし、今、起こさなくても……。でも、心配し過ぎかもしれないけど、あの子達、定期的にメンテを受けなきゃいけない身体なのよね……万が一の事があったら……うん。詩歌さんはまた後で。それと、今日は第二種目の後、スケジュールに空きがあったはず。その間にちょっと調べてみるか……)

 

 

音を立てないようそっと扉を閉じようとした時、美琴の視界にふと、

 

 

(ん? どうして、寝てるのに髪飾りを――――)

 

 

「―――御坂」

 

 

冷厳な声。

 

そちらを向くと常盤台女子寮の管理者である寮監がいた。

 

 

「こんな所まで来てどうした? 確か、今日は第一種目から出番がなかったか」

 

 

「いえ、ちょっと詩歌さんに聞いてもらいたい話があって。あ、それで――「詩歌は体調不良で寝込んでいる。そっとしておいてやれ」――あ、はい……」

 

 

……どこか、突き放した印象。

 

まるで、ここから早く追い出したがっているような。

 

 

「分かりました。それじゃ、失礼します」

 

 

何か引っ掛かるものを覚え、後ろ髪を引かれつつも美琴はその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

美琴の姿が見えなくなった後、不意に寮監は眼鏡を外す。

 

すると、その瞳に十字の光が浮かび上がり――――

 

 

 

「すまないな、御坂。―――食蜂様の『最適化』は絶対だ」

 

 

 

つづく


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