とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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残骸編 疑惑

残骸編 疑惑

 

 

 

???

 

 

 

セリビアに動きあり。

 

シュレスウィヒも打ち上げ予定。

 

ノボシビルスクでは破片の一部を回収済み。だが、復元に必要な『核』がない。

 

そして、<科学結社(Asociacionde cienia)>の日本支部。

 

<科学結社>の本拠地はケープケネディに存在しており、ここは対学園都市のために作られた拠点。

 

そのため、内外の両方に守りは強固だ。

 

対テロ並のセキュリティ設備で外壁を固め、真に重要な情報はオフライン――ネットワークから隔絶して保存する事で学園都市からのサイバーテロにも備えている。

 

本社への情報の受け渡しはネットワークを介さず、直で、しかも極秘で行わなければならないので、未だに本拠地へ送られていない情報は多いが、そのおかげで学園都市から入手した情報等は今まで一度も漏れた事はない。

 

最近手に入れた学園都市で行っていたあの『実験』のデータも無論ここにある。

 

本拠地が心臓部だとするなら、この支部は頭脳部だと言っても良い。

 

それをさらに、計画、取引相手から学園都市にある『残骸』を受け取るため、非常に強化されている。

 

本拠地の警備が薄く、最小限にしてまでもその支部に外部組織の人員と武器を集中させる事で、学園都市への警戒を強める。

 

成人した屈強な男達が、その道のプロが数十人に軍用兵器、

 

また、その長も直々に来ている。

 

これらは全部、その支部にいるとある科学者の『学園都市とはやり合うな』という進言によって、ここまで発展した。

 

彼らもまた、学園都市の事を侮ってはいないが、組織が全力を挙げれば、もし<警備員>が邪魔してきても対抗、最低でも時間稼ぎくらいはできるだろうし、その間に『残骸』を取引相手から受け取り、それを携えて本拠地へ戻れば、日本とアメリカの国際問題で学園都市は手が出しにくくなるはずだ、と考えている。

 

それでも、その科学者は『こんな時代遅れな玩具では時間稼ぎも不可能だ』と断じた。

 

彼は元学園都市の科学者ではあるが、きっとトラウマのせいで過剰評価しているのだろう

 

それに、それほどのリスクを冒してまで、彼らは『残骸』、<樹形図の設計者>の『演算中枢』には莫大な利益がある、と信じている。

 

そう、もしかしたら………

 

しかし、<科学結社>が全兵力を集中させた日本支部は、<警備員>によって―――

 

 

「やはり『外』は古いですね。それに、近くに汚れの大部分が集中していますから、おかげで“掃除”し易いです。これは10分足らずで、目的を達成させて帰れそうですよ」

 

 

―――ではなく、

 

 

「ふふふ、大丈夫。半殺しは得意中の得意です」

 

 

たった1人の少女によって、その幻想は呆気なく霧散させられた。

 

 

 

 

 

第10学区

 

 

 

コンクリート造りの門をくぐるとそこに申し訳程度の小さなお堂がある。

 

管理人はいるが住職も神主も神父もいない。

 

だけど、一人定期的に来るボランティアもいる。

 

 

「………さて、これで終わりかな」

 

 

日本人にはないハーフ特有の顔立ち。

 

一仕事終えたと白金の髪をかきあげると宝石のような蒼氷眼――<魔眼殺し>と呼ばれる後輩と共同制作のコンタクトレンズで制御された――の輝きが垣間見える。

 

真浄アリサ。

 

某国の王族の娘をあっさり不合格にして国際問題に発展しそうになった逸話すら存在するほどその入学条件は極めて難しい、この街の5本の指に入ると言われる名門であり、同時に世界有数のお嬢様学校―――常盤台中学を卒業し、極めて特殊な能力が評価される霧ヶ丘女学院へと通う高校1年生の女子生徒。

 

 

「ふぅ……にしても、常盤台と比べると霧ヶ丘は、ここから遠いから、大変だ。だからと言って、活動を止める訳にもいかない。おかげで、祝日しか通えないな」

 

 

この東京の3分の1の広さを誇る土地は、この世界に神はいないとする超能力開発機関『学園都市』で、中学時代は、特に一切の宗教に関する教会や人間をモデルにした彫刻を排した、洋風なのだが洋式ではない場所で育ったのだけれど、三つ子の頃から祈りを捧し、その心は百まで変わらない。

 

魔術側の宗教的な象徴が、科学側の学園都市にあってはならない事情があったのだが、それを知らない彼女は、中学時代は隠れキリシタンの真似事のように『派閥』を開いてみてもあまり人が集まる事はなかった。

 

文化発展に深いかかわりを持つ宗教を軽視する点について、世界で活躍するための『派閥』の自由性に異議を唱えた事もあるのだが……

 

 

「さて、そろそろ……」

 

 

そうして、軽く制服を払うと、鞄を片手にすっと立ち上がる。

 

そして、出口へと向かうと、この時間帯にしては珍しく、彼女以外の人間、スーツ姿、痩せた長身のゴルフバックを肩に掛けた20代半ばの若者と擦れ違う。

 

髪は今風に長くしていて、僅かに褐色に染まっている。

 

細面で鼻が高く、下あごは女のように小さいが、れっきとした男だ。

 

今年から学校が変わったため、時間はずらしているが、彼は見慣れない。

 

だけど、その迷いなく慣れた足取りはここの常連であることがうかがえる。

 

軽く会釈をすれば、その男も返してくれて、そのまま入れ替わるようにその前に立つ。

 

いまひとつ似合わないそのスーツ姿と同様、どこかぼんやりとした涼しい目で、その何も文字が刻まれていない表面をしばらくなぞるように眺めた後……そっと花束を添える。

 

その姿に何か感じ入ったのか、真浄は足を止めて、一声かける。

 

 

「ここは身元不明の無縁仏だが、十三回忌までは他の骨壷と一緒にしないでくれるそうだ。もし個人的に関わりのあるのなら、その前に移すのをお勧めするが」

 

 

男はその言葉に、ゆるり、と首を横に振る。

 

この少女がそれを親切心から言っているのは分かる。

 

その親切が、彼は―――張本人だから、身体が心臓の打ち方を忘れるほどつらい。

 

 

「いいんだ。ここで。僕にはこれで十分だ」

 

 

最低限の事をしたと思うための欺瞞を満たすためには十分だ。

 

悲しむべき事を悲しみ、喜ぶべき事を喜ぶ事ができる。

 

それは今、ここに捧げた花のように咲くべき季節に咲き、枯れるべきに枯れる自然の営みのようで愛おしく、本来ならそこに潤す水を与え、外界から守る壁になりたい……けれど、それを摘み取ってしまう自分にはもうその資格はない。

 

心臓がおろし金で擦り下ろされるようなやるせなさを、奥歯を噛んで耐える。

 

 

「―――、」

 

 

最後に、何かを呟いた後、『MAR』と刺繍されたゴルフバックを持ち直し、男――鼓啓瑚孝は振り返ることなく建物を後にする。

 

 

 

 

 

第10学区には学園都市で唯一の―――墓地が存在する。

 

 

 

 

 

『ピュアブラック、仕事だ』

 

 

 

 

 

病院

 

 

 

学園都市の『外』のある組織を壊滅しようと出向したが、既にそこは潰れていた。

 

一体何者かがやったかは知らないが―――黄泉川愛穂は、見た。

 

暗い夜を照らす仄かな燐光。

 

勘のような何かがまだこの犯人が近くにいると告げており、現場の後始末をほっぽり出して、その光の元へ向かうと、ツンと突き刺さるような異臭がした。

 

黄泉川は、すぐにそれが何の臭いか察した。

 

血だ―――。

 

 

『これは……』

 

 

ぴたり、と足が止まり、思わず体を仰け反らせる。

 

そこには、一人の少女と、二人の男女が倒れていた。

 

彼女と男の身体には、複数の刺し傷があり、そこから流れ出した血が身体をかたどるように広がっているように見える。

 

その内の一人は見覚えがあり、芳川桔梗、黄泉川の知人だ。

 

何故彼女が(ここ)に、何故血塗れで倒れているのか。

 

そして、そこで微動だにせず、夜の暗闇の中で光を放つ少女は、まるで幽霊のようでいて、

 

 

『よし、これで―――ッ!』

 

 

余程何かに集中していて気づくのが遅れたのか、少女は黄泉川の気配を察し、顔だけが振り向く。

 

無表情の顔に安堵の笑みを浮かべていた。

 

涼やかで、とても落ち着いた、母性を思わせる微笑みで。

 

この惨状には不釣り合い過ぎて―――その後ろ姿はどこかで見た事がある。

 

どこで見たんだ……

 

けど、それ以上を確かめる前に彼女は闇の中へ消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「………複数の個所を刺されていたようだけど、幸い、致命傷はなかった。いや、すでに治療が済んでいたのかな? とにかく、2人とも命に別条はないよ」

 

 

その声に黄泉川愛穂は顔を上げる。

 

<警備員>の防護装備のままだが、そのチョッキを特に前面に盛り上げる膨らみからも分かる通り、美人でスタイルの良い(ただし、日常的にジャージを愛用しているため絶大な色気が活用される事はほとんどない)大人の女性だ。

 

ずっと考え事をしていたせいで、今が何時か分からない。

 

窓を見れば、もう朝だと言う事が分かる。

 

カエルによく似た顔には緑の帽子にマスクと、手術衣姿の中年の男は、この病院の医者

 

黄泉川が知る限り、最高の腕をもち、夜間、急いでこの2人を運んだ。

 

 

「本当、ですか? あれほど血を流してたじゃん」

 

 

「まぁ、電話で伝えられたように滅多刺しにされてたようなら、即死だったろうね? でも、不思議な事に血は失っていたようだけど、刺された傷は塞がってたね? 身体に散らばった血を見て、勘違いしたんじゃないかな? 彼らは後遺症も、痕に残るような傷もなく、退院できるよ?」

 

 

目覚めるまでは絶対安静だけどね、と医者からの言葉を呆然と聞き入る黄泉川。

 

では、あの時見た女の子は一体……

 

まさか、同僚の鉄装が言うように、幽霊じゃ……

 

 

(あー、桔梗の野郎め。また妙な問題を押し付けてきやがったらと思ったら、心配掛けやがって)

 

 

何にせよ昔馴染みで現在無職中の女性研究員が助かった事に、彼女は素直に溜息をつく。

 

世間話の最中、いきなり、ある特殊な子供たちの世話を依頼して、こちらの了承を得る前にとっととどこかへ行ってしまったため、黄泉川としては詳しい事情も聞けなかったし断る事もできなかった。

 

だけど、これで心置きなく、“本来の仕事へ戻れる”。

 

黄泉川はもう一度溜息をつくと、イスから立ち上がる。

 

その目に宿る眼光は鋭いものに変わる。

 

幽霊だろうと、何だろうと、犯人がいるなら捕まえる。

 

桔梗ともう1人の男性には後で事情聴取したいが、今は安静にしなければいけないので後回しだ。

 

 

「さて、と。第一発見者である君に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

 

 

と、そこで携帯が振動。

 

見れば、<警備員>からだ。

 

黄泉川は一端カエル顔の医者に断りを入れると、手術室から離れてから電話に出る。

 

 

 

「―――え、ウチらが捜査から外されて、他の部署に!? 一体どういう事じゃん!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『起きて起きて起きてーってミサカはミサカは叫んだり叩いたりバタ足してみる』

 

 

『グフッ、腹に……ッ! 何で朝っぱっから、クソガキに奇襲されなきゃなンねェンだよォォォ!!』

 

 

『おお、今は『反射』が使えないんだったね、ってミサカはミサカは一切合財反応ナシだった頃の屈辱が晴らせてちょっとすっきりしてみたり。それにしてもミサカが飛び付いただけで涙ぐむ最強の能力者ってどうなの、ってミサカはミサカは呆れてみる』

 

 

『別に『反射』がまったく使えねェ訳じゃねェよ。まァお前らのネットワークを利用して演算処理してっからでかい顔はできねェけどな。ただな、バッテリーを無駄遣いできねェから『反射』を張らねェだけで……あと涙ぐンでねェよクソガキが暴れたって痛くねェよこれはただの欠伸だよォ!』

 

 

『まあまあまあまあ、ってミサカはミサカは宥めてみたり。可愛い女の子に朝ダイブしてもらうのは男の子の夢だって、ミサカはミサカはちゃんと理解力あるんだから。あんまり意識すると逆にキツイぞ、ってミサカはミサカは人生の先輩としてアドバイスを贈ってみる』

 

 

『クソッたれが。まァた、アイツに妙な知恵を吹き込まれやがって。っつかお前は俺が怪我人だっての忘れてねェか!?』

 

 

『そういえばメチャクチャな速さで髪の毛伸びたからもう手術の跡とか分かんないね、ってミサカはミサカは感心してみる』

 

 

『まァ、アイツが色々とやってくれたみたいだしなァ……―――っつっても頭蓋骨の亀裂までは完全に修復で来てねンだっつの!!』

 

 

『ああ、そんなこと話してる場合じゃなかった! あのねあのね、詩歌お姉様が大変なのってミサカはミサカは身体全体を使って緊急事態を表わしてみたり』

 

 

『あァ? アイツがどォかしたのかよ?』

 

 

『んーとね、怪我が治りきってないからアナタには内緒だって、詩歌お姉様に―――』

 

 

 

 

 

常盤台女子寮

 

 

 

『お姉様……こんな朝早くにどちらへ?』

 

 

『あー、黒子? 起しちゃった? ごめんね』

 

 

『いえ、今日は<風紀委員>がありますので、そろそろ起きる予定でしたの』

 

 

『ん? そっかそっか。朝早くからお仕事、か。<風紀委員>も大変ね』

 

 

『いえいえ。お姉様も今日は、何か御用が? それより、昨日はいつ帰ってきたんですの? ……それほど、大お姉様のお話、長かったんでしたの?』

 

 

『はは、まあ、色々と大変だったわよ。あ、寮監の目、誤魔化してくれてありがとね、黒子』

 

 

『ええ、大変でしたのよ。ですから、お姉様、いい子いい子ぎゅーってしてあげましょうねのご褒美を黒子にくださいですわ!!」

 

 

『……そんなぶっ飛んだ褒め方をするのは詩歌さん以外にいないわよ』

 

 

『まずい、攻略を間違えましたの! デレゾン(怒ると怖いが普段は甘やかしてくれる)な大お姉様とは違い、ツンデレ(めったに素直になってくれない)なお姉様は、それこそ中々巣穴から出てこない野生の動物のように、一度引いてから甘えた方が有効―――』

 

 

『じゃあ、黒子あとはよろしくね。今日は夜半に雨が降るかもって話だし、遅くなる前に帰ってきなさいよ』

 

 

『あ、あれ? お姉様、いつもなら電撃が……』

 

 

 

 

 

道中

 

 

 

『………計画凍結の時点で全ての負債は“彼”に押し……もとい、警備強化専門の知的傭兵(アドバイザー)の私は“実験”から離れましタ』

 

 

『で、“彼女”達の行方は掴んでいるのかしら?』

 

 

『別の機関に引き取られたようで、我々とはまた別の組織も同様に彼女達の身柄についてはまだ詳細には分かってませんネ。ですが、どうやらあなたの“先輩”が深く関わっているようですヨ』

 

 

『ふぅん。当事者以上に面倒をみるなんて、本当にお人好しねぇ』

 

 

『そして、これとはまた別の気になる情報が――――』

 

 

 

 

 

風紀委員 第177支部

 

 

 

『こ、これは綿流の兄貴のモンでさ。美偉の姉御は預かってるだけなんでしょ? だったら、私にも乗る権利はあるかと。ま、まあ、ちょ~っと、審査の結果が悪くて、ストレス解消にハードな運転だったかもしれないけどさ。人間誰しも盗んだバイクで走りだしたい願望はあるんよ。そこを理解してほしい』

 

 

『へぇ……無断拝借して、傷をつけて、その傷を隠そうと勝手に真っ赤に染め直して返した言い分がそれ、ねぇ、陽菜』

 

 

『こ、怖いよ、美偉の姉御……』

 

 

『だったら、今すぐ先輩のバイクを元に戻して、私が納得できる反省文を書きなさい! じゃないと、あなたの学生寮の管理人さんに電話、するわよ』

 

 

『こ、固法先輩! 大変です!!』

 

 

『どうしたの、初春さん、そんなに慌てて……』

 

 

『ちょっと気になった事があって調べものしてたんですけど……こ、これを見てください!』

 

 

 

 

 

とある学生寮 当麻の部屋

 

 

 

(ん~? どうしたんだろうな? 俺だって、飯の準備くらいはできるが、連絡が来ないなんて……まあ、今日は気持ちのいい祝日だし、たぶん寝坊でもしてしまったのかなー)

 

 

時計を見て、上条当麻は腰をあげる。

 

当麻の学生寮はもちろん男子寮なのだが、この一室だけは例外がまかり通っているらしく、長い銀髪に緑の瞳、真っ白な修道女を着た、妹と同年代の少女が居候としてゴロゴロしている。

 

そんなゴロゴロ少女インデックスは、現在テレビの前を独占していた。

 

さっきまでは米国のスペースシャトルの打ち上げ成功のニュースだったが、今、映っているのは天気予報。

 

巨大な日本地図をバックに、スーツを着たお姉さんがにこにこ笑顔で洗濯物乾き指数を告げている。

 

ちょっと前までは紫外線情報だったので、平凡たる高校生・上条当麻としては、この辺りに小さな季節の移り変わりを感じる今日この頃だ(それでもまだまだ残暑の真っ最中だが)。

 

 

「とうま、とうま。何でこれで明日の天気が分かるの? なんか日本地図の切り株の年輪みたいなのが描いてあるだけなのに」

 

 

シスター少女が振り返らずに聞くと、ワンルームのキッチンスペースに向かう途中だった当麻から呆れたような声が返ってくる。

 

彼はこれから、妹が作り置きしたおかずを見て献立を考えようと冷蔵庫の扉を開けつつ、

 

 

「インデックスー。テレビを観る時はちゃんと後ろに下がるように。あそこの年輪みたいのは等圧線って言うの。気圧の山とか谷とか見て雲ができるか大雑把に調べてるんだよ。ま、山に雲がぶつかって雨が降ったりもするから、単に気圧だけの問題じゃないんだろうけど」

 

 

「ふうん。って、あれ? 地形による天変の読み込み? ……、ハッ! 学園都市はもう人工的な手法で風水読みを実現してしまってるんだね!!」

 

 

とそこで、インデックスは、あれ? と首を傾げ、

 

 

「でも、とうま。天気予報のお姉さんって時々外れた事言ってたりするのよね。おっちょこちょいなのが売りなの?」

 

 

「お前に言われるようじゃ天気予報のお姉さんも終わりだな……って痛いぁ!?」

 

 

当麻の失礼な発言に、インデックスの牙ががぶりと脳天に噛み付く。

 

 

「あ、あれだよ。天気予報っつっても完璧じゃねーからな。最近までは完璧だったみたいだけど、今は演算装置が壊れちまってるみたいだし」

 

 

「???」

 

 

インデックスは頭の中にいっぱい疑問を抱えているようだが、当麻は深くは答えない。

 

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)>。

 

地球上の空気分子の動き1つ1つでも正確に演算できる究極のスーパーコンピューター。

 

学園都市が打ち上げた3基の人工衛星の内の1基は、もはやこの世に存在しない。

 

そこで、当麻は話題を変える。

 

 

「あ、そうそう、今日の朝食は俺が作るからよろしくなー」

 

 

当麻は冷蔵庫の中から冷凍された詩歌の作り置きのおかずを取り出し、自分も何か一品作ろうかと考える。

 

詩歌にまかせっきりにしているようだが、彼も家事はできるのだ。

 

が、それを聞いたインデックスは、ガバァ! と当麻を噛みつくのを止め、、

 

 

「えーっ! しいか、最近、朝しか来てくれなかったのに今日は朝も来てくれないの? もしかして……また、短髪に付き合ってアクセサリーを探してんの?」

 

 

人懐っこい彼女だが、どうも美琴とは犬猿の仲のようで、まさに混ぜるな危険。

 

これも魔術と科学の拒絶反応の1つなのか?

 

となると、もしかして喧嘩したら詩歌の迷惑になるのではなかろうか?

 

 

(ま、本当は仲が良いんだと思うけどな)

 

 

やれやれ、と息を吐き、

 

 

「んなわけねーだろ。大体朝から店は開いてねーよ」

 

 

むぅ、と頬を膨らます。

 

インデックスも普段、詩歌が自分達のために僅かな時間を割いているのも分かっている。

 

寂しいけど、ここは我慢の時だと心得たのだろう。

 

とその時、

 

 

「―――うおッ!?」

 

 

床が蠢く。

 

カタカタと家具の揺れる音を感じ、当麻は冷蔵庫から顔を上げた。

 

幸い、身の危険を感じるほど大きな揺れではない。

 

 

「とうま、また地震?」

 

 

不安そうにインデックスが当麻にギュッとしがみつく。

 

日本では地震などさほど珍しい事ではないが、イギリスではマグニチュード2程で大地震だと見なしているくらい地震が滅多にない。

 

突如、地が揺れる体験がインデックスにはあまりないのだろう。

 

 

「大丈夫だ、大きな地震は滅多に起きねぇから……って、あれ? 今の揺れそんなに大きくなかったか?」

 

 

当麻はテレビ画面を見る。

 

 

『昨夜未明、学園都市郊外で2名の――――』

 

 

完全なる歯車を失った天気予報に、地震速報のテロップは流れて来なかった。

 

と、

 

 

ドンドンッ! とノックの音。

 

 

家主である当麻が声をかける前に、ドアノブを回る。

 

けれど、まだ陽が開けたばかりの早朝で、鍵はかかっている。

 

それでも相手はガチャガチャとドアノブを回し、

 

 

「はいはーい、今開けますよー」

 

 

何だか嫌な予感がするも、このままだと近所迷惑になりかねない。

 

 

「お願いがあります、とミサカはあなたの顔を真っ直ぐ見て心中を吐露します」

 

 

当麻は鍵を外すと、そこには、

 

 

 

 

 

「ミサカは、ミサカ達のせいで、<警備員(アンチスキル)>から追われてる詩歌お姉様の無罪を証明するために手を貸してください、とミサカはあなたに向かって頭を下げます」

 

 

 

 

 

早朝、いきなり駆けこんできた御坂妹の嘆願に、最速で頭のスイッチを切り替えた愚兄はただ、彼女に先を促した。

 

 

 

 

 

???

 

 

 

「ふあ……」

 

 

緊張が緩んだのか、欠伸が出た。

 

昨日から、眠っていないせいだろう。

 

血の付いた服は処分して、適当に店で服を、下着はちょうど昨日ランジェリーショップで購入してあるので助かった。

 

欲を言えば、シャワーを浴びたかったが、どうせこれからまた動くことになる。

 

 

「はぁ、愛着があったんですけどねぇ。仕方ないです」

 

 

近くに停車している軽トラックの荷台の中に携帯電話を放り込む。

 

中のデータを全て移したメモリーカードを大切そうにハンカチで包むとウエストポーチに収める。

 

携帯電話からは電波が発信されており、“あの組織”ならば位置を特定できるであろう。

 

だから、捨てるのではなく、この運転手には悪い事をしてしまったが、囮になってもらおう。

 

きっと気づくだろうが、しばらくは時間を稼げるはずだ。

 

だけど、これで皆に連絡する手段を失った訳で、少し心細くなる。

 

取り戻そうとしたところで、もう軽トラックは行ってしまったけど。

 

 

「追いかけるのは、車でも、携帯でもなく、彼女です」

 

 

 

―――赦さない。

 

 

 

脳裏に甦る声。

 

腹の底から絞り出したような、暗い響きをもった女の声

 

あの時見たその目は、何かに憑かれたように血走っていた。

 

憎しみ、恨み、嫉み―――様々な負の感情を凝縮したような眼差し。

 

彼女を放っておくのはマズい。

 

そのためにもここで捕まる訳にはいかない。

 

 

 

つづく




{IMG81}


下手な素人絵ですが、上条詩歌です。

上条当麻のツンツンな要素を考えたら、こんな感じに。

それと、申し訳ないですが、これからしばらく更新が遅くなります。

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