とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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第8章
閑話 カエルとお姫様


閑話 カエルとお姫様

 

 

 

カエルの王子様(学園都市版)

 

 

 

ある日のこと。

 

お姫様が金のメダルを自販機に入れようとしたら、うっかりと手を滑らせて、メダルを自販機の下に落としてしまいました。

 

自販機の下はとても暗く、メダルの転がった奥は少しも見えません。

 

メダルを失くし、以前、この自販機に万札を呑み込まれた苦い思いのあるお姫様は、

 

 

「あー、もう、喉乾いたし。まだ1万円分には達してないわよね」

 

 

と、仕方ないので学校に伝わる物理的な解決法をしようと、お姫様は一歩足を引いた蹴りの構えで―――その時、背後から呼びかけられます。

 

 

「おい、そこのビリビリ――じゃなくて、お姫様ー。自販機に何しようとしてんだー」

 

 

見ると、一匹のツンツンしたウニ――ではなく、カエルが微妙な顔でこちらを見ていました。

 

 

「べ、別に、ゲコ太には関係ないし、どうだっていいでしょ。メダル落としちゃって持ち合わせがないから、自販機蹴ろうとしてんのよ自販機!!」

 

 

「いや、意味分かんねーし、どうだって良くねーよ」

 

 

浦島太郎が亀を助けたように、この自販機を哀れんだのか。

 

カエルは渋々財布の中からメダルを取り出すと、お姫様を促します。

 

 

「ほれ。奢ってやるから、好きなの選べよ」

 

 

「あ、ありがと。今度お礼に、ゲコ太の欲しいものは何だってあげるわ。わ、私の雷撃の槍だって、砂鉄の剣だって。私のとっておきの超電磁砲だってあげる」

 

 

「いらねーよ!? なんで助けたお礼に攻撃されなきゃいけねんだ!? おかしいだろ!!」

 

 

カエルはとても頭の痛そうな表情で、カンペ―――ではなく、ケラケラ笑っている暴君の指令を見て、

 

 

「えー、っと……それよりも私をお姫様のお友達にしてくだせう。お姫様の食卓で横に座らせて、お姫様の綺麗なお皿で食べ、お姫様の可愛い杯で飲ませて、そうして夜になったらお姫様の愛の鞭をこの賤しいカエル―――って、おい! いい加減にしろ!」

 

 

―――え、カエルっち、詩――っちに鞭に叩かれるのがマイブームじゃないの? ―――

 

 

と、カンペ。

 

 

「ねぇよ! 大体その、ご要望通りの台詞でしょ、みたいなそのドヤ顔はやめてくださいます!?」

 

 

―――あははー、人の性癖なんてすぐ変化するものだしね。間違えちゃったよ―――

 

 

「そのまとめ方はなんだか納得できねーな! 当――さん、何かお前に悪いことしたっけ!?」

 

 

それからしばらく、カエルは暴君な監督へゲコゲコ鳴いて、気を静めてから、

 

 

「あー、あなたの小さなベットで寝かせてくだせう―――……なあ、この台本って本当に詩―――」

 

 

関係ない発言のためカットします。

 

 

「え、ええいいわ! 奢ってくれたお礼に、そのお願いきいてあげる」

 

 

お姫様はそう言いましたが、心の中では

 

 

「『お馬鹿な愚兄さね。貴様の身分で学生寮に入ろうだなんて、とーんでもない。地獄の門番のリョウカーンの餌食になるといいわー、あーっひゃひゃひゃ!!』」

 

 

と、ひどい事を考えていました(ここで暴君に雷撃の槍が飛来)。

 

そんな事も知らず、カエルは約束通り、お姫様とそのままお城のような学生寮へ。

 

お姫様と腕を組んで―――

 

 

「待って、御――! いきなり走るんじゃねーよ!」

 

 

カエルが騒ぎましたが、台本の内容を忘れたしまったのか、お姫様は後ろを振り返りもせず走り去ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、お姫様に置いてけぼりにされたカエルは、ぺたりぺたりと重そうな足取りで自力で学生寮までやってきて、とんとんと戸を叩きながら言います(ほとんど棒読みで)。

 

 

「お姫様ー。約束をお忘れですかー? 早くここを開けてくださいー」

 

 

それを聞いたお姫様は真っ青になって、胸は不安でどきどきと早く鼓動が打ち始めます。

 

 

「どうしたんですか? 美――さん。外に誰かいるんですか?」

 

 

不安で不安でとってもどきどきします(本来ここには女王がいるはずだった)。

 

珍しくこの時間に寮に戻っていて、所用でいない寮監から一時的に仕事を任されている王様―――ではなく、聖母さんが笑って訊ねます。

 

本来ここで王様役を頼まれていた女王様は既に無断でバックれており、予想外の事態にお姫様は慌てて、カエルの―――暴君の自費演劇(罰ゲーム)―――を話しました。

 

 

「だから、私は最初やめようと言ったんですけど、陽――さんが今度の紅白戦にどうしてもこのプロモーションビデオが必要だって言われて……」

 

 

「はぁー……とにかく、早く戸を開けてあげなさい」

 

 

聖母さんに言われ、お姫様は学生寮の玄関戸を開けました。

 

すると、まだ寮内の状況を察していないカエルが飛び込んできて、お姫様の足元にぴったりと跪くと言いました。

 

 

「さあ約束ですお姫様。わたくしめをお部屋に上げてくだ、さ……い……………」

 

 

まず最初にカエルからの視線を向けられたお姫様は余所余所しく目をそらし、次に暴君のいる背後へ向きましたが、既に『ごめんね』とだけ書かれたカンペとカメラを置いて、どこかへと消え去ってしまいました。

 

これから先に思いを馳せ、可哀そうになったのか仕方なくお姫様はカエルに一言、

 

 

「何か、ごめん……」

 

 

「ごめんで済んだら、<警備員>はいらねーよ!!」

 

 

カエルは図々しく言いました。

 

お姫様とカエルは嫌で嫌で仕方ありませんでしたが、聖母さんと一緒に今までのビデオを視聴します。

 

下手なホラーを見るよりもずっとずっとドキドキしました(その間、ずっと聖母さんは微笑んでいたけど、目が笑っていません)。

 

そうして観るだけ観ると、カエルは、

 

 

「ああ、当――さんはお腹が空いたなー。さあ早くお家に帰って、晩御飯の支度をしよーっと」

 

 

と言うものですから、お姫様はがっちりと逃がさぬようその肩を鷲掴み。

 

 

「待ちなさい、アンタ。ここまで来て逃げるなんて、ふざけんじゃないわよ!」

 

 

「それはこっちの台詞だ! どうしてここに詩――がいるのを報せなかったんだよ!」

 

 

元凶となった暴君はもういませんので、2人はそのままどっちが悪いかの言い争いになり、そこで聖母さんが、

 

 

「正座」

 

 

「「はい」」

 

 

2人は仲良く正座します。

 

 

「全く、陽――さんには困りものです。後できっちりと言いつけておきますからご安心を。ただ、いくらロシアへ行っていた間で入手できなかった期間限定版のゲコ太を貰えるからって、こんなしょうもない遊びに付き合うのはいただけません。後になって知らん顔をするのもいけない事です。罰として、トイレ清掃です」

 

 

幼いころから親代わり姉代わりに面倒を見てもらっている聖母さんに叱られて、お姫様はがっくりと反省。

 

それから、カエルが恐る恐るご機嫌をうかがいながら言います。

 

 

「お兄ちゃんは詩――がどうしてもと言われたから付き合っただけで、騙されたんでございます」

 

 

往生際の悪い。

 

 

「ほう、当――さんは詩――さんがこういうのを頼むとでも思っているんですか?」

 

 

「え、っと、いやー、そのー……」

 

 

「本当は?」

 

 

「去年の夏祭りで、どっかの野郎せいで浴衣をボロボロにしたっつう話を詳しく―――」

 

 

それを聞くと聖母さん、カエルを乱暴に掴み上げるとありったけの力を込めて戸に投げつけました。

 

 

「本当にどうしようもないです、このカエルは。杞憂ばかりに気を取られて、こっちの……には、気づきもしないのに……」

 

 

鈍感馬鹿はいっぺん死んでも治らないを地で行くカエルは壁にぶつかっても王子様になる事なく。

 

こうして、中途半端に話を聞かされ、激しく気になっているゲコゲコとカエルは鳴くも開けてもらえず、後に、帰ってきた暴君は部屋に入れてもらえず、寮の廊下で一夜を過ごしましたとさ。

 

 

 

 

 

学舎の園

 

 

 

『今年こそやるぞ!! <大覇星祭>制覇!!』

 

 

 

これまで二度も、優勝のチャンスを逃してしまった。

 

一昨年は『三羽烏』のいる白銀世代(シルバー)は能力関係なしに無茶苦茶だったが、2位。

 

去年も、Level5の『双璧』以外にも有望な人材が多くいた黄金世代(ゴールド)で盤石な態勢かと思われたが、惜しくも2位。

 

全学校から二番目とは流石、『五本の指』の1つと称賛されるべきだが、彼女はこれほどの戦力があり、長点、いや、頂点を取れなかったことをとても悔しくて悔しくて……思わず、優勝校に殴り込みをかけようとしたが、そこは監督役の寮の管理人に絞められた。

 

で。

 

今年は、希少な空間移動系能力者など新たに即戦力な新入生が入り、『能力開発』において学園都市でも最優である<微笑みの聖母>の指導を受けて、磨かれた現二年生はより一層その輝きを増し、最高学年はあらゆる意味でくせ者が揃っている、まさに白金世代(プラチナ)である。

 

さらに最終学年の、『祭』がつくものなら何でも大好きなお祭り女の番長は燃えに燃えており、総大将に志願した彼女は、この唯一の弱点である『実戦不足』の解消のために紅白戦を提案。

 

毎回彼女の暴走を止めている寮監と毎回彼女の暴走に手を焼かされている綿辺教員らだが『levelや家柄で慢心している輩に喝を入れる良い薬になるだろう』、と何と今回は教育の一環になりそうなのでその提案を了承。

 

ただ、『サバイバルな実戦形式のがちんこで直にやり合う』は却下した。

 

そのような戦国模擬合戦は、この常盤台中学の品格的に野蛮であり、常に優雅たれな精神に反し、大会前に怪我人が出れば、本末転倒であり、万が一にも顔に傷が出来れば、たとえ本人が納得していようとその親や周りが大騒ぎになるだろう。

 

お嬢様が嬉々として拳で殴り合う光景などイメージダウンになる。

 

 

 

『ではでは~……こういうのはどうですか~……』

 

 

 

そこで、当学の生徒会長が、『非接触型カード受信送信システム』を提案。

 

これは高速道路のETCシステムや電車の改札口に使われるカードを利用したもので、カード認証システムの受信機を軽量簡易化し、人でも携帯できるようなもの。

 

通信データの暗号鍵と、そのデータを管理するセキュリティシステムの構築と維持に膨大なコストがかかるが、非接触型ICカード自体は国際規格で量産されており、それほどコストは高くない。

 

部分を単純化し簡単なデータだけをやり取りするようにすれば、非接触型のICカードの受信システムを軽量簡易化、さらには対能力者プロテクトも万全にでき、胸と背中に受信センサーをつけたベストの形に収められる。

 

つまり、反応する範囲で、相手の目の前でカードをかざせば、センサーが感知して、判定してくれる。

 

相手を叩く必要もなく、審判も機械であるため厳正である。

 

でも、能力使用があろうと、単純な鬼ごっこでは刺激ではない=面白くないと総大将は勝負はスリリングであるほど経験値になる、といちゃもんをつけて……

 

 

 

『仕方ないですね、全く……』

 

 

 

と、相談役の生徒が考案したのが『カエルとお姫様ゲーム』。

 

これは鬼ごっこや陣取り、ドロケイなどの室外ゲームの類で、常盤台中学流にアレンジしたもの。

 

チームのリーダーを『お姫様』とし、それ以外のメンバーは『カエル』、『メイド』、『お嬢様』のどれかになって団体戦を行うシュミレーションゲーム。

 

童話『カエルの王子様』にあるように花よ蝶よと育てられ、多くのメイドを召し仕えるお嬢様は、カエルが苦手であり、けれど、父である王様から『たとえ誰のどんな約束でも、約束は守らないといけない』と言われている。

 

そのため、部屋に寄せ付けぬようにメイドが掃除して、カエルを追い出す(このことについて一部の生徒から『ゲコ太はそんな気持ち悪いもんじゃないわよ!!』とクレームが来た)。

 

カエル(緑ランプ)』は、『お嬢様』を怖がらせるが、『メイド』の力技には逆らえない。

 

メイド(赤ランプ)』は、『カエル』を掃除できるが、『お嬢様』の命令には逆らえない。

 

お嬢様(青ランプ)』は、『メイド』を仕えさせるが、『カエル』の約束には逆らえない。

 

つまりは、『カエル』、『メイド』、『お嬢様』の3つは、いわばジャンケンの『グー・チョキ・パー』のように三竦みの関係にある。

 

それで、先のリーダーである『お姫様』の特性は『お嬢様』と同じで、基本的な勝利条件として『『お姫様』のもとに『カエル』を送ったものの勝ち』、ということである。

 

ゲームの進め方は、まず敵味方に分かれて、陣地を決めた後、メンバーを『カエル』、『メイド』、『お嬢様』の3つのどれかに割り振る。

 

この配分によって、戦略が決まり、

 

敵の『お姫様』に約束を守らせることを優先する攻撃タイプならば、『カエル』を多めにする。

 

逆に『お姫様』を『カエル』から守ることを優先する防御タイプならば、『メイド』を多めにする。

 

バランスタイプはそれぞれ均等に……とそんな風に。

 

それ以外にも拠点や、一度敗退しても復活できるポイントも用意し、本戦の雰囲気と言う事で試合会場は<学舎の園>の街中を貸し切って行われる。

 

どうやら、常盤台中学の活躍は<学舎の園>の店員も注目しており、宣伝にもなるだろうし、また本戦の<大覇星祭>には使われないから、その雰囲気を感じたいと無償で場所を貸してくれた。

 

で、まず第一戦の肝心のメンバーはというと………

 

 

 

 

 

紅組陣営

 

 

 

「ふっふっふー、よくぞ集まってくれた。我が常盤台の勇猛なる強者どもよ!!」

 

 

「陽菜ちゃ~ん、私達女の子だよ~……」

 

 

常盤台中学<大覇星祭>総大将の鬼塚陽菜が率いるチーム紅組の各学年10名ずつで計30名。

 

その主なメンバーには、

 

3年生。

 

 

「作戦は『ガンガンいこうぜ』、ダッ!」

 

 

Level4、<鬼火(ウィルオウィスプ)>の鬼塚陽菜――『お姫様』。

 

 

「え~……『命を大事に』しようよ~……」

 

 

Level4、<振動使い(サイコキネシス)>の音無結衣――『メイド』。

 

 

「お二人とも少し大雑把すぎるような……?」

 

 

Level3、<念話使い(テレパス)>の口囃子早鳥――『メイド』。

 

 

……………………

 

 

2年生。

 

 

「………」

 

 

Level5、<超電磁砲(レールガン)>の御坂美琴――『カエル(ゲコ太)』。

 

 

「何やら不機嫌なご様子ですが……どうしたんですの、御坂さん?」

 

 

Level4、<空力使い(エアロハンド)>の婚后光子――『お嬢様』。

 

 

「クイーンとマリアが敵だなんて……」

 

 

Level4、<念動使い(テレキネシス)>の切斑芽美――『カエル』。

 

 

……………………

 

 

1年生。

 

 

「くっ、お姉様と大お姉様が別々……この黒子の身体が2つあれば……こうなれば<空間移動>で分身を」

 

 

Level4、<空間移動(テレポート)>の白井黒子――『お嬢様』。

 

 

「これが団体戦……なんだかわくわくしますね、泡浮さん」

 

 

Level3、<水流操作(ハイドロアウト)>の湾内絹保――『カエル』。

 

 

「はい、わたくしも、模擬戦とはいえ、高揚してきます」

 

 

Level3、<流体反発(フロートダイヤル)>の泡浮万彬――『カエル』。

 

 

……………………

 

 

など、チームリーダーの気質からか、移動力があり、物理的干渉に優れた面々が揃っており、割り当てからすると攻撃タイプである。

 

 

「さあ、今日は模擬選だけど、あの白組をぶっ潰すつもりで、いや、ぶっ潰してやるよー! なんつったって、こっちには我が校の猛者揃いで、極めつけの『常盤台の姫様(エース)』がいるんだから、ネッ?」

 

 

「……」

 

 

無視。

 

この前の一件を恨んでいるのか、総大将から話を振られたのに、美琴は口を開こうとしない。

 

 

「あはは……、この前は悪かった。いや、まさか食蜂っちにも協力を頼んだんだけど、急用が入ったとかでさー」

 

 

「知・り・ま・せ・ん! 大体、何で食蜂にまで! 私はあいつが」

 

 

と、ここでストップ。

 

陽菜は慌てて、美琴を抱え込むと小声で。

 

 

「(美琴っち~、食蜂っちと気が合わない、ケンケンな仲なのは分かってるけどさ、あまり表に出すのは個人的にも学校的にもよろしくないよ?)」

 

 

「ぅ……」

 

 

恥じ入るように口を閉ざし、考えて、赤チームを見回す。

 

確かに色々と気に食わない相手だが、仮にも彼女と自分は常盤台中学二学年の二枚看板であり、『派閥』も作ってないが、2人の間に亀裂があると噂されると気まずい。

 

 

「(うんうん、詩歌っちもだけど、この鬼塚陽菜も先輩として2人の関係にはよ~っく頭を悩ませていてね)」

 

 

「別に……余計な気を回さなくても」

 

 

「(それで、何か2人で造ったものを形に残せるものを作ればってこの前のプロモーションビデオを企画したわけで)」

 

 

「それは嘘でしょ!」

 

 

彼女がお気楽に見えて実は裏で色々と気を回す性格なのは知っているが、本当にお気楽極楽思考な愉快犯である事も重々承知している。

 

陽菜は美琴からのジト目に耐えきれず、誤魔化し用の苦い笑いを浮かべながら、

 

 

「(とにかく、今回の勝負は全力で。……どうやら、問題があるのは、美琴っちだけじゃないようだしねぇ)」

 

 

そこでなにやら意味深に。

 

何だかんだで人の良い美琴は釣られて、

 

 

「(何かあったんですか……?)」

 

 

「(いや、なに、これは前々から思ってた事なんだけどさ……この前の上級生命令も無視したし、食蜂っち、って、私の事、先輩だって思ってないようじゃん。正直、詩歌っち以外の言う事聞きそうにない。というか、詩歌っちしか先輩だと思ってない。人を舐めに舐めまくっている。これって、大問題だよ)」

 

 

自分もあなたの事を先輩とは思えなくなってます、とは言わないでおこう……

 

 

「(そこで、色々と私は考えた。考えに考え、一晩じっくりことこと―――)」

 

 

「余計な前置きは良いんで、とっとと核心について話してください」

 

 

そろそろ敬語やめようかな、と美琴は思う。

 

嫌な先輩とは言わないし、気楽で付き合い易い先輩だが、ぶっちゃけ、向こうの白組が良かった。

 

 

「(あははー、せっかちだね、美琴っちは。まあ、私が気付いたのは―――胸、だよ)」

 

 

陽菜はそこで言葉を切ると悟り切ったように、自分の胸を指差し、美琴の胸を指差す。

 

 

「(食蜂操祈という少女は、人を胸で判断する奴なんだ!)」

 

 

「え?」

 

 

自分の胸に一度目を落した美琴は、顔をあげると、そこには絶えず苦悩に満ちた厳しい面差しをした陽菜がいた。

 

 

「頭、大丈夫ですか?」

 

 

美琴は割と本気で心配した。

 

だが、自分が見つけ出した真理に酔っている彼女の耳には届かず、

 

 

「この常盤台中学で、教員も含めて、食蜂っちよりも同等か、大きそうなのは悔しいけれど詩歌っちしかいない。このバストカースト制で、我々のような残念なLevel0には、救いが……ないんだッ!」

 

 

「ちょっと待ってください! 私、そこまで残念じゃないですよ!? ごく普通の日本人のサイズです!」

 

 

ガシッ、と両肩を掴まれ、陽菜の怒りに燃える革命者の目と真正面から相対。

 

 

「ああ! このサイズが十分普通の範囲なんだ! 奴らのようなはしたないサイズと比べるべきではないんだ! なのに、一体何なんだ、あの、黒船のような、巨乳艦隊は! まるで乳牛のように育ちやがって! ホルスタインか! アイツらのような人間を鬼畜、いや、家畜米英と言うんだ!」

 

 

何か変なスイッチがはいちゃった陽菜の猛禽類のような凶眼にさらされて、段々美琴の頭もふらふら~っと、

 

 

「だから、美琴っち。お主こそ我々の救世主であり、最後の希望、戦艦大和。この公式にやりあえる絶好の機会に、その学園都市最高の発電系能力者の電気マッサージで、奴らの希望、否、脂肪を燃やし尽くしてしまうんだ!」

 

 

「お、お~……!」

 

 

 

 

 

白組陣営

 

 

 

「……何かぁ~、私の受信力にビビッと、すっごく理不尽な理由で狙われてる気がしますぅー」

 

 

「奇遇ですね。詩歌さんももの凄く頭の痛い理由で、標的にされている気がします。ええ、この感じは陽菜さんですね」

 

 

揃って、怨念電波を察知した常盤台中学である意味でLevel5な先輩後輩が、中心となる白組もまた各学年から10名ずつで計30名。

 

その主要メンバーは、

 

3年生。

 

 

「試合に勝つのではなく慣れるのが目的。作戦で言うなら『いろいろやりましょう』です」

 

 

Level3(?)、<発火操作(パイロキネシス)>(<幻想投影(イマジントレース)>)の上条詩歌――『メイド』。

 

 

……………………

 

 

2年生。

 

 

「はーい、詩歌先輩と一緒だしぃ、今日の食蜂操祈はやる気力アップでーす♪」

 

 

Level5、<心理掌握(メンタルアウト)>の食蜂操祈――『お姫様』。

 

 

「イロイロと陣形成を頑張りますです、女王、詩歌お姉ーさん」

 

 

Level4、<植物操作(グリーンプラント)>の緑花四葉――『お嬢様』。

 

 

「しぃねぇ、私達は女王を守る役で良いの?」

 

 

Level4、<擬態光景(トリックフィールド)>の出雲朝賀――『メイド』。

 

 

「しぃ姉さん、私達は女王を守る役で良いんですね」

 

 

Level4、<影絵人形(トリッキードールズ)>の出雲伽夜――『メイド』。

 

 

「クイーン、マリア……zzz」

 

 

Level4、<運命予知(ラプラスフォーミュラ)>のデスティニー=セブンス――『メイド』。

 

 

「女王と詩歌お姉様と一緒のチーム……は、はうぅ、見守る会会長として死力を尽くしますぅ……」

 

 

Level4、<感覚遮断(センスパラライズ)>の里見八重――『カエル』。

 

 

「いやぁ……鬼塚先輩とやり合うのはガチで避けたいですね、詩師父(しぃしぃふ)

 

 

Level4、<基礎強化(フィジカルブースト)>の九条葵――『カエル』。

 

 

……………………

 

 

「フン、あのような鬼。姫には指一本も触れさせぬ」

 

 

Level4、<水蛇(ヒュドラ)>の近江苦無――『メイド』。

 

 

……………………

 

 

と、正統で攻撃的な紅組とは対照的な、特殊でバランス的な布陣の白組。

 

ぶつかるのが物理的に怖いのは向こうの方だが、戦いを避けたいと思わせるような精神的に不気味なのはこちらである

 

 

「うふっ、今日は道具力を取られて残念ですけどぉー、詩歌先輩と一緒に、御坂さんをプチッ、とできるので楽しみですよぉ~☆ 今日は私が詩歌先輩を独り占め♪」

 

 

「全く、調子が良いんですから……まあ、詩歌さんもちょうどあの2人には色々とお灸を据えたいと思っていましたし」

 

 

歩行者天国になっている、街路樹に囲まれた中央通りには、車の姿はなく、人払いも済ませてある。

 

少し先に復活ポイントがあり、そのさらに向こう、この通りの中央、ちょうど相手本陣との中間から下に外れた所に、噴水の広場があり、そこが中央ポイント。

 

そして、彼女達の近くには、タッチセンサーと電光掲示板を組み合わせたコーナーが設けられており、その電光掲示板には白を基調とした常盤台中学のエンブレムが表示されている。

 

向こうにも、これとは色違いの赤いのがあるだろう。

 

ここが本陣であり、相手に撃退された『カエル』と『メイド』はここと登録した復活ポイントでリセットして、5分間のペナルティを受けた後で戦線に復帰できる。

 

 

「このゲームは単独行動は命取りです。常に別の役の人と複数を心掛けてください。第一目標は、ここからおよそ1km先にある復活ポイントです。そこを拠点に、おそらく中央ポイントは占領されているでしょうが、班ごとにまとまって、臨機応変に。撃退されたら拠点に戻って、ペナルティの同時期の人を捜してください。良いですか? 常に複数。いつものように個人個人の力量を測るテストとは訳が違います」

 

 

そして詩歌はニヤッと笑って、同じように食蜂もクスリと、

 

 

「逆にいえば、向こうには、血気盛んな行動力のある人間が揃っているようですが、行き過ぎて単独行動になるような相手はカモです。どんどん撃退してください。ただし、深追いは禁物。袋叩きにされぬように。まあ、皆さんには言うまでもない事かと思いますが」

 

 

「はぁーい、詩歌セ・ン・パ・イ♪」

 

 

暴君(キング)』と『姫様(エース)』はメラメラビリビリと燃えて、

 

女王(クイーン)』と『聖母(ジョーカー)』はクスクスフフフと微笑む。

 

武将派VS軍師派。

 

孤高派VS組織派。

 

貧乳派VS巨乳派。

 

『五本の指』でもただ一人で一校を相手取れる最たる実力者、常盤台中学四天王が今、激突する。

 

 

 

 

 

『カエルとお姫様』のルール。

 

 

 

勝利条件、

 

・制限時間内に自軍の『カエル』が相手の『お姫様』を撃沈し、呪いを解く。

 

・制限時間内に相手の陣地――『姫のお部屋』を自軍の『お姫様』が登録を上書きする。

 

・制限時間終了時に、『お嬢様』の嘆願、つまり、中央ポイント――『王様のお城』を登録し支配下に置いておく。

 

の3点である(<空間移動>による移動は本人のみで、また『お姫様』は禁止)。

 

・ゲームに参加する選手数は、双方共に、各学年から10名ずつで計30名で、Levelは関係なし。

 

・『王様のお城』、復活ポイント――『女王の広場』の拠点の登録は、『お嬢様』及び『お姫様』のみ可能であり、『姫のお部屋』は『お姫様』のみ。

 

・いずれの拠点にあっても登録の上書きは可能である。

 

・『カエル』、『メイド』は、撃退された後、『女王の広場』、もしくは、『姫のお部屋』に戻り、そこでリセットすることによって戦線復帰が可能である。しかし、復帰するまでは能力使用は禁止なので、自分の足で戻り、また復活の際に、5分間のペナルティが科せられる。

 

・『王様のお城』は単に登録のみを受け付け、復活はできない。

 

・『お嬢様』は嘆願――拠点の登録は可能だが、新たに『メイド』のように雇う事も、『カエル』のように卵を産む事もできない、つまり、撃沈したら戦線復帰は不可能である。

 

・双方共に常盤台中学の運動着を着用とし、チームの紅白ハチマキ、ジャージ、または、手袋やソックス、リボン、ミラーグラスなどの装飾品に関しては認める。それ以外は競技に関係ないものとして持ち込みは禁止である(例としてリモコンや携帯電話など)。

 

・戦場エリア内における公共機関、及び自転車、バイク等の乗り物の使用は禁止である。建物も原則として立ち入り禁止であり、破損した者は、役に関係なくレッドカードの退場

 

・能力による妨害・攻撃は容認するが、危険だと判断されたものはレッドカード。

 

 

 

つづく


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