とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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閑話 超絶機動少女カミミン 後編

閑話 超絶機動少女カミミン 後編

 

 

 

トラウィスカルパンクテウトリの加護を受けた最凶で最狂な完全無欠の最強戦士!

 

超絶機動少女カミミン!

 

只今、親友の罠のせいで暗黒面が開花しちゃってます!

 

こ、このままだと『TOUMA』お兄ちゃんに近づく女をブ、ブブブブブ………………………………………ブ・ッ・コ・ロ―――

 

あなたのハートに、イマジン☆トレース!

 

全ては愛ゆえに(ハート)

 

 

 

 

 

 

 

*今回も小説を読む時は部屋を明るくして三次元の事は忘れて読んでね☆

 

 

 

 

 

常盤台女子寮 詩歌の部屋

 

 

 

不覚だった。

 

油断させて詩歌っちに『鬼の涙』を飲ませたのは良かったけど、何も変化が起きず、すぐに寝てしまった。

 

どうやら、予想以上に疲れていたらしい。

 

あ~あ、作戦失敗………そう思ったのが間違いだった。

 

朝、目が覚めたらそこにいたのは超機動少女にコスプレしている親友の姿。

 

どうやら、この『鬼の涙』は不良品だったらしく、時間差で効果を発揮したらしい。

 

そして……そこで大爆笑したのがいけなかった。

 

いや、滅茶苦茶似合ってたんだけどね、それでも、朝目が覚めたらそこに超機動少女にコスプレしている知り合いがいたら笑うしかないっしょ!

 

まあ……そのせいで私は昼までおねんねしてたんだけどね。

 

あの時の手加減を忘れた詩歌っちは本気で怖かった……反省。

 

しかも、隠しておいた『鬼の涙』が空になっている。

 

これは不味いかもしれない……どうしよう……

 

 

 

 

 

コンビニ前

 

 

 

学園都市Level5序列第3位、御坂美琴。

 

Level1からLevel5まで上りつめた努力家として有名で、お嬢様学校、常盤台中学でエースとして崇められている。

 

勝ち気で、面倒見が良く、根がお人好し。

 

そして、可愛いものや子供っぽいものが大好き。

 

そして、スタイルもちょっと子供っぽい。

 

でも、母親の容姿から察すると将来有望。

 

そんな彼女の能力は<超電磁砲>。

 

学園都市最強の電撃系能力者で、10億Vもの出力を誇る電撃にを操るパワーもさることながら、複数の用途で多角的に敵を叩くという、『手数の多さ』こそがその真骨頂である。

 

一般生徒からは唯一まともなLevel5だと言われているが……

 

 

 

 

 

 

 

休日、今日もコンビニで立ち読みした美琴は満足満足と、

 

 

「今日の密室×密室探偵は面白かったわね。来週が楽しみ―――って、えええっ!!?」

 

 

コンビニを出た瞬間、魔法少女っぽい少女が待ち構えていた。

 

マジカルステッキのようなもので自分を指し示しながら……

 

 

「うーい……そこにいるのは美琴ちゃんじゃないですか~?」

 

 

この声はもしかすると……

 

だとすると、幼馴染がべろんべろんになって話しかけてくるのは幻想なのだろうか?

 

いや、人違いだ。

 

彼女があんなコスプレしながら街をふらつくのはありえない……はず?

 

でも、きっと、あのマスクの下には別の人が……

 

 

「ええっと……どちら様でしょうか?」

 

 

何故か丁寧口調になってしまった。

 

わからない。

 

 

「初対面ですよね?」

 

 

是非、そうあって欲しい。

 

そうでなければ、早くここから逃げ出したい。

 

でも、そうであった場合は、妹分として彼女を見捨てるわけにはいかない。

 

くっ……何というジレンマだ。

 

 

「ううぅううぅう! 美琴ちゃんがそんな事言うなんて! 人生って虚しい……昔はあんなに素直だった美琴ちゃんが、いつも詩歌お姉ちゃん詩歌お姉ちゃんって頼ってくれた、可愛い美琴ちゃんが、今はこんなにつれない態度……年月の流れって残酷ですね。ああ、もう……」

 

 

ハンカチで目を覆いながら、べそをかき、倒れ伏すカミミン。

 

周囲の目が非常に痛い。

 

彼女はマスクを被っているのでギリギリセーフなんだろうが、泣きつかれている自分は……

 

 

「うわ~、泣いてるよ。あの娘にコスプレさせられたからじゃねー」

 

「うん、きっとそうよ」

 

 

やっぱりNGなのか……

 

 

「何だろうこの感じ、ママがとてつもなく駄目になった時と通じるが、何1つその経験を応用できない……っ!!」

 

 

頭を抱える美琴だったがその間に、

 

 

「……もう、こうなったら、お仕置きしちゃいますね!」

 

 

と、立ち上がったカミミンはどこから取り出したのか、録音機をすちゃっと両手で持って構えた。

 

 

「まぁじかぁるぅCQC百八式……パート33」

 

 

意味不明な事を言う推定幼馴染に、『?』と怪訝そうな顔をする美琴。

 

自分をお仕置きする為に選んだ彼女の方法は……!?

 

 

「まぁじかぁるぅ……」

 

 

言わなくてもいいのに、いちいちマジカルと唱えて、

 

 

「第1回~美琴ちゃんの恥ずかしい思い出集~」

 

 

何度も思うが、それのどこにマジカルCQCの意味が。

 

色んな事を無視して、カミミンは超真剣な顔で、機械のボタンをぽちん、と押した。

 

瞬間。

 

 

『―――しいかおね…ねえ、しいかお姉ちゃんって、呼んでもいい?』

 

 

聞き覚えのある。

 

つーか、これって自分の……

 

 

『―――しいかお姉ちゃん! ゲコ太のお洋服造ってくれて、ありがとね!』

 

 

「ひぎゃああ」

 

 

と、この声の正体に気付いた瞬間、美琴は身悶えし、涙目でカミミンを見つめる。

 

そして、がくがくと震えながら、

 

 

「し、し、詩歌さん……こんなのいつの間に録音してたんですか……!? ていうか、何のために……!?」

 

 

「別に? 思い出として残したいなぁと思って……あと、美鈴さんに頼まれて」

 

 

(ウチのママは一体何を頼んでいるんだ!!)

 

 

即刻、この黒歴史暴露を止めようとするが、

 

 

「きっと、美鈴さんも娘の成長を知りたいんでしょうね。あ、これなんかお勧めですよ?」

 

 

ぽちん。

 

 

『―――やだやだやだやだ~っ!! しいかお姉ちゃんと一緒の学校じゃなきゃやだ~~っ!!!』

 

 

ぽちん。

 

 

『―――詩歌、お姉ちゃん。一緒に常盤台中学に通ってください! 私、詩歌お姉ちゃんと一緒が良いんです!』

 

 

ぽちん。

 

 

『―――きゃっほう!! あはは、やっぱこの水着、可愛い! らんららんらら、それっ!』

 

 

「―――――ッ!?!?」

 

 

もう声にならない悲鳴をあげる美琴。

 

そして、

 

ぽちん。

 

 

『―――はぁ……どうやったら、大きくなるんだろ……詩歌さんの胸はあんなに大きいのに…はぁ…アイツって、やっぱり―――』

 

 

「それ昨日の!? 録ったんですか!!? つーか、見てたんですかっ!?」

 

 

羞恥心と後悔が許容限界を軽く突破する。

 

 

「はい♪ あ、この記録を美琴ちゃんのお友達の黒子ちゃん、佐天ちゃん、初春ちゃんの皆にも聞いてもらいましょう♪ そうすれば、昔の美琴ちゃんがどんなに可愛かったか分かってくれるはずです♪ ツンツンデレデレツンデレデレ♪」

 

 

恐ろしい。

 

恐ろしすぎるぞ、カミミン!

 

そうなれば、美琴の精神は7回ほどオーバーキルしてしまう。

 

しばらく、彼女達には顔を合わせるどころか、会えなくなってしまう。

 

 

「もう……や・め・てーェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

と、思わず前髪から青白い火花を散らす美琴。

 

彼女は学園都市最強の電撃使い、<超電磁砲>の異名を実現する土台として、最大で10億Vもの高圧電流を操る事ができる。

 

なので、『思わず出ちゃった』雷撃の槍も相当な破壊力を生み出すはずなのだが、

 

 

「ふにゃり」

 

 

「な、何ぃ!?」

 

 

泥酔者特有の不自然な動きで回避され思わず顔を青くする。

 

そう言えば、美琴が良く知るあの幼馴染は能力の波長を感じ取る事ができる。

 

というか、何故か、雷撃の槍が干渉されたように詩歌から遠く、避けていく。

 

これは、以前、どこかで……絶対能力進化試験の時に……

 

そして、後もう1つ、あの幼馴染は確か―――

 

 

「大丈夫、私は今のツンデレ美琴ちゃんも大好きからね~~っ!!」

 

 

「……ぐぉ!?」

 

 

―――素手で簡単に能力者を捻り潰せる。

 

目にも止まらぬ早さで美琴をヘッドロックで捕らえる。

 

その華奢なイメージとはかけ離れた凄まじい圧力に思わず『ぐぉ!?』と肺から声を漏らす美琴。

 

鍛えあげた技と力だけでなく、顔を包み込むほどの巨乳。

 

ヘッドロックは本物の使い手がやれば、3時間で相手の頭を締め上げて、破壊してしまう恐ろしい技。

 

が、詩――ごほん、カミミンの場合だと、そのたわわに実ったもののおかげで30秒で堕とせる。

 

 

「大好き♪ 大好き♪ 大好きだよ~♪」

 

 

「うううぅうぅうぅ、ぅぅう……」

 

 

ゴキッ ギュ~ ゴキッ ギュ~ ゴキゴキッ ギュギュッギュ~

 

 

能力を使おうにも演算を干渉され、さらには脳に酸素がいかないのでできない。

 

必死に、超必死に、カミミンの腕にタップするが気付いてもらえない。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅ――――」

 

 

堕ちた。

 

Level5序列第3位、カミミンの超過剰な愛情表現により撃沈。

 

 

 

 

 

路地裏

 

 

 

学園都市序列Level5第2位、垣根帝督。

 

暗部組織<スクール>のリーダーを務めるホストのような長身イケメンで茶髪の少年。

 

彼は『神々が住む天界の力の片鱗』を振う者。

 

その力は<未元物質(ダークマター)>。

 

『この世に存在しない素粒子を生み出し、または引出し、操作する』能力。

 

及びそれによって作られた『この世に存在しない素粒子(物質)』。

 

本来の定義である暗黒物質が『まだ見つかっていない理論上は存在するはず』のに対し、彼が操るのは『本当にこの世界には本来存在しない物質』である。

 

これは『この世の物質』ではない。

 

つまり、この世の物理法則に反するということで、相互作用した物質もこの世のものでない独自の物理法則に従って動き出す事もできるすごい力なのだ。

 

 

「チッ、馬鹿にしやがって」

 

 

が、そんな能力にも少なからず不満がある。

 

今、垣根が苛立っているのもそれが原因だ。

 

 

「何がメルヘン野郎だ」

 

 

そう、能力をフルで使用する際には、背後から現れたソレが天使のような白い6枚の翼の形になり、とてもメルヘンチックになってしまう所だ。

 

今回も、その仕事で敵を楽勝に葬ったは良いが、捨て台詞でその事を指摘された。

 

 

「クソが」

 

 

イライラが募って、掃除ロボットをボロ屑した瞬間、

 

 

ドォォォン!!!!!

 

 

「むむ、<0次元の極点>をやろうとしたんですが、失敗しちゃいました…<超電磁砲>ではちょっと無理があったようですね―――ん?」

 

 

超絶機動少女が雷光と共に出現した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

(何だ、コイツ? どこかで……いや、つーか、今のは一体何だったんだ?)

 

 

突然現れたコスプレ少女はしばらく考え事していたようだが、粉々にされた掃除ロボットと、その近くに呆然と見ていた自分と目を合わせるや否や、

 

 

「愛と正義の、超絶機動少女、カミミン! 参上! お兄ちゃんに代わって、半殺しよ!」

 

 

と、掛け声と共にポーズを決める。

 

格好もメルヘンだが、言動も行動もメルヘンだった。

 

どこか見覚えのあるような気がしないでもないが……とにかくメルヘンは、ムカつく。

 

 

「けっ、上等だ。このメルヘン野郎」

 

 

まさか自分が言うとは思わなかった、いつもは自分が言われている言葉を吐き捨て、敵意をむき出しにする。

 

今の垣根はメルヘンだと思うものは片っ端からぶっ壊したいほど苛ついていた。

 

 

「フフフ、良いのか? 今宵の<蓮の杖>改(コイツ)は血に飢えておるぞ」

 

 

そして、彼女、カミミンもどうやらヤる気満々のようだ。

 

というか、超機動少女というか辻斬りのような発言にアウトと申したい。

 

愛と正義は偽りなのか!?

 

 

「はっ、調子に乗ってるようだな!」

 

 

仕事ではないから後始末が面倒だ。

 

半殺し程度に手加減してやる、と垣根が<未元物質>を展開しようとした―――

 

 

「マジカルCQC百八式、パート22」

 

 

―――瞬間、カミミンは0からの残像が残るほどの急加速で飛び出す。

 

 

「一刀両断! マジカル―――」

 

 

そして、<蓮の杖>改を居合いで構え―――

 

 

「―――ギ○ス○ラッシュ!!」

 

 

―――気合一閃、渾身の一撃を繰り出した。

 

金色の閃光は鋭い金属と金属がぶつかり合ったような高音を立てて、空を裂き、垣根に横一文字で飛翔。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

咄嗟に危機を感じて、左右に狭い路地裏なのでバックステップで回避しようとした垣根に轟音と共に直撃する。

 

マジカルギガ○ト○ッシュ。

 

それは、天草式十字凄教の『女教皇(プリエステス)』で<聖人>、神裂火織の<唯閃>に学園都市最強の電撃姫、御坂美琴の<超電磁砲>、そして、実は仕込み警棒だったんです♪ <蓮の杖>改で完全再現した世界的に有名な某RPG、ド○○エでお馴染みの最強の剣技である。

 

 

「がはっ!?」

 

 

メルヘンな恰好に油断した垣根は空間すら断絶する超高威力の一撃をモロに食らい膝を突き、追い討ちをかけるように真上から落ちてきた掃除ロボットの破片が頭に直撃。

 

粉塵の向こうでカミミンはゆっくりと、<蓮の杖>改を納めていく。

 

 

「安心せい、峰打ちじゃ………なんちゃって」

 

 

そうですね。警棒に峰などありませんからね。

 

というか、これだけやって、その決め台詞は通じません。

 

一般人にやったら間違いなく冥土帰しの出番だろう。

 

まあ、相手の力量を見抜いてたのだろうけど……

 

 

(お、俺以上にメルヘンな奴がいるなんて……!!??)

 

 

一方、垣根はあまりの……あまりの衝撃に、感動していた!?

 

まるで電流が打たれ、全身を貫かれたような感覚(実際問題、ような、ではなく、本当に打たれたわけなのだが、そういう意味ではなく)。

 

まさに、上には上がいると初めて知った子供のように目を輝かせる。

 

格好も、言動も、そして、必殺技も何もかもが自分よりもメルヘンチックで……格好良い。

 

さらに良く見てみると……綺麗……まだまだ成長の余地がありそうなのに、その黄金比とも言えるほど理想的に完璧で抜群なプロポーションは今までで見てきた誰よりも美しかった。

 

そうまるでアニメや漫画に出てくるような『戦乙女(ヴァルキリー)』のようだ。

 

頭を打ったせいかもしれないが、今の垣根は子供がヒーローに憧れるように、カミミンに夢中だった。

 

その間にもカミミンは、今だ動けぬ垣根の許に歩み寄り、

 

 

「ふふふ、イライラしたからって公共物に当たっては、めっ、ですよ」

 

 

やんちゃな子供を叱る母のように優しい声で頭を撫でてくるカミミンに、不覚にも胸が高鳴った。

 

なんだ、これは……まるで『聖母(マリア)』のようではないか。

 

 

「ん? これは面白い能力です」

 

 

「なっ!!?」

 

 

垣根は驚愕した。

 

何といきなり、彼女が自分と同じ純白の翼を生やした!?!?

 

これぞ、カミミン・エンゼルフォルム。

 

そして、カミミンは天使のように翼をはためかせ天高く舞い上がった。

 

何と……神々しいんだ……

 

超機動少女のように、メルヘンで、

 

戦乙女のように、凛々しく、

 

聖母のように、温かで、

 

天使のように、神々しい、

 

なんて……なんて常識外な奴なんだ。

 

そうして、颯爽と去っていくカミミンに垣根は最後まで胸が高鳴りっぱなしだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なわけねーだろうが! くそったれ!」

 

 

が、この後、やはり頭を打ったせいだったのか、しばらくして過去を思い返した垣根はその時の彼女に見惚れていた自分を殴り倒したいほど錯乱状態に陥る。

 

それでも……勘違いから始まったのかもしれないが……垣根はカミミンを、あのメルヘン格好良いカミミンの姿を思い出すたびに胸が高鳴るようになってしまった.。

 

 

 

 

 

病院 中庭

 

 

 

学園都市Level5序列第1位、一方通行。

 

学園都市最高の頭脳の持ち主で最強の能力者。

 

そして、<樹形図の設計者>から唯一Level6への高みに至れる存在であると予言されたLevel5でもある。

 

その力は凄まじく万能でありとあらゆるベクトルを操るというものだ。

 

そんな彼が、何をしているのかというと、

 

 

「どこに逃げやがったァ、クソガキイイイイィッ!!」

 

 

打ち止めという女の子を探していた。

 

彼は夏休み最終日、打ち止めを救うために多くのものを犠牲にしたせいで、今この病院に入院している。

 

彼は本当に色々なモノを失った。

 

その中の1つが、打ち止めの記憶……

 

一方通行は彼女を救うために、彼女の自分との出会いを含めた記憶を消さなければならなくなった。

 

しかも、自分の手で。

 

彼は思い出を消すのを迷ったものの、彼女の為に消す事を決意した……のだが、

 

 

『ミサカ単体の記憶がなくなってもバックアップがあるから問題ないかも、ってミサカはミサカは可愛らしくペロッと舌を出してみる。ミサカの記憶はないけどミサカ達からもう一度記憶を吸いだせば修復できるし、ってミサカはミサカは様々な仕草を駆使して少しでも怒りを和らげるべく孤軍奮闘してみたり』

 

 

と、実は問題なかった、と、ふとしたきっかけでその事に勘付いた自分に打ち止めはその時の自分の台詞も交えて教えてくれた。

 

それで彼が取った行動は、感動のあまり彼女を抱きしめるのではなく、

 

 

『こ、殺す! このガキぶっ殺す……ッ!!』

 

 

である。

 

そして、始まった一方通行と打ち止めの鬼ごっこ。

 

で、今、

 

 

「どォやら、逃げ場はねェよォだなァ」

 

 

ようやく、打ち止めを追い詰めた。

 

子供のように活発な打ち止めを、杖がなければ歩けない一方通行が捕まえるのは困難ではあったが、そこは学園都市最高の頭脳を無駄に活用する事で乗り越えた。

 

目を血走らせながら追い込んでいく少年に、逃げ場を失くし、がたがた、と身体を震わせる幼女。

 

傍から見たら、とても犯罪チックだ。

 

 

「助けて、詩歌お姉ちゃーん!!! って、ミサカはミサカは必死に助けを呼んでみたり」

 

 

<妹達>でも崇拝者が出てくるほど人気があり、自分も信用している頼りになる姉、上条詩歌へ助けを求める。

 

だが、しかし、誰も来ない。

 

それもそうだ、そうそう都合の良い事なんて―――

 

 

「ちょっと待ったーっ!!」

 

 

と思った瞬間、待ったをかける声が飛んできた。

 

声がする方、天上を見上げると、白い繭のようなものが落ちてくる。

 

 

「天知る! 神知る! 我知る! 子知る!」

 

 

いや、違う。

 

 

「か弱き乙女の悲鳴に駆けつけて」

 

 

1人でに広がっていくそれらは、翼だ。

 

 

「超絶機動少女カミミン、エンゼルモード」

 

 

天使の翼のような6枚の翼が、彼女の背でゆっくりと羽ばたき、そして、

 

 

「只今、推参!!」

 

 

着地。

 

イメージカラーは白を基調とするトリコロールカラーで統一され、下品にならないレベルで露出が高めの少女趣味のフリルが付いた衣装。

 

しかも、ミニスカで、足のラインがはっきり出る白い薄めのストッキング。

 

くるり、と回転してポーズをとれば、スカートの裾が翻る。

 

しかし、その先は見えない。

 

まるで、魔法のように絶対領域はきわどい所で絶対死守だ。

 

 

「打ち止めちゃんから離れなさい!!」

 

 

片手に玩具のステッキのような物を持ちながら、ビシッとポーズを決めて自分を指差してくる彼女は一方通行の見間違いではなければ―――いや、あの髪飾りは見間違いではない。

 

ヘルメットを被っているので顔は分からないが、朱に彩られた唇から漏れた言葉は聞き間違いない。

 

だが、今の彼女の姿がどう見ても超絶機動少女のそれなのも夢ではない。

 

以前、彼女の事を本当に正義の味方だと思った事があったが、これでは本物の正義の味方ではないか。

 

 

「はァ……一体何がどうなっていやがんだァ……?」

 

 

一方通行が彼らしからぬ声を上げた。

 

だが、本心やその他諸々の思いを込めた声だった。

 

軽く腰も引けている。

 

羞恥という物も色々あるが、度を越すと本人より見ている人間の方が恥ずかしいという場合が存在する。

 

そして、性質が悪い事に、似合い過ぎていて今の彼女は本当に天使のようだ。

 

 

「キャー、キャー、超絶機動少女カミミンだ! って、ミサカはミサカは天の助けに感謝してみたり」

 

 

「ふふふ、可愛いは正義。可愛いものの為ならカミミンは地球の裏側からだって、一瞬で飛んできますよ」

 

 

見た感じ本人ノリノリだが、もし理性が残っていたならどういった反応していたのだろう。

 

 

(クソッ、どうやら幻想ではなさそうだなァ……だが、そうなるとコイツとやり合わなきゃいけねェようだなァ)

 

 

正直な所を言えば、一方通行は逃げ出したい。

 

戦いすらせずに逃げ出したいと思ったのは何時以来だろうか?

 

いや、勝てないかもしれないと弱音を吐いたのは多分これが初めてじゃないだろうか。

 

震える指でチョーカーのスイッチを押して、反射を展開する。

 

が、

 

 

「えい!」

 

 

「ぐぼォ!!」

 

 

杖先から予備動作もなく打ち出された何かがを、ボディブローのように腹に抉り込んだ。

 

色が真っ白で形が☆だったのはどういう理屈だ?

 

それよりも、反射を突き破ったなんて……

 

 

「マジカルCQCに不可能はありません」

 

 

不可能を“力”で“強引”に可能にするのがマジカルCQC。

 

 

(ふざけてンのか?)

 

 

しかし、

 

 

「フフ、フフフフ」

 

 

口角を吊り上げてにんまりと笑うカミミンだがマスク越しに見える目は笑っていない。

 

アレは獲物を注意深く観察する肉食獣の目だ。

 

隙を見せれば食われる。

 

学園都市最強の能力者でさえも喰わんとするのか、カミミン!?

 

 

「マジカルCQC百八式、パート11」

 

 

そして、毎度毎度、意味不明な決め台詞を吐き、

 

 

「天罰覿面! マジカルゥゥゥストライクーッ!!」

 

 

CQCの所はとにかくマジカルっぽい技が出てきた。

 

 

カミミンが<蓮の杖>改を振ると、☆だけでなく○、□、△、そして、ハート形の塊が連続で発射され、一方通行の反射を突き抜け、全身を打ち据えて行く。

 

うん、騙し打ちやプロレス技や催眠術や秘密暴露や抜刀術とかあったが、これは超機動少女っぽい。

 

 

「ごほっ がはっ ぶほっ……………」

 

 

全身を撃たれた一方通行は、スタンプのように体中に色んなマークをつけてどんどんファンシーになって行く。

 

悶絶している所を見ると、やはり物理的な威力があるらしい。

 

とはいえ、そんな致命的なものではなく、威力だけ見れば、一般的な女の子の拳程度のものだろう。

 

しかし、虚弱児、一方通行には結構効いているようだ。

 

それに、あんなにマークをつけてファンシーになってしまっては……

 

 

「フィニッシュ!」

 

 

マジカルストライクが止むと、後に残ったのは普段の一方通行からは考えられない姿だった。

 

体中に、特に右目の周りに付けたハートマークという致命的な姿は最強の能力者の威圧の欠片もない。

 

こんな姿を誰かに見られたら……

 

学園都市の8割は学生で、最新情報機器が発達している。

 

おそらく、噂の蔓延はインフルエンザより早い。

 

もしかすると、一方通行の入院生活が長びくのかもしれない。

 

そんな彼を他所に……

 

 

「カミミン、ありがとう、ってミサカはミサカはお礼を言ってみる」

 

 

「ふふふ、当然の事をしたまでです……」

 

 

そうして、カミミン・エンゼルフォルムは天高く舞い上がっていく。

 

 

「ねえ、カミミン! また、ミサカに会いに来てくれる? ミサカはミサカは質問してみる」

 

 

「残念ですが、それは約束できません。……ですが―――」

 

 

カミミンは打ち止めの手元にそっと、<蓮の杖改>を落とす。

 

 

「―――これを差し上げます。この<蓮の杖改>さえあれば、あなたもきっといつか私と同じ超機動少女に目覚める事ができます」

 

 

次代へ<蓮の杖改>を渡して、そして、カミミンは大空へ………

 

打ち止めは受け取った<蓮の杖改>を両手で振りながら、カミミンの姿が見えなくなるまで見送る。

 

こうして、カミミンから打ち止めへ、超機動少女の象徴が受け継がれた。

 

打ち止めも…いつか、カミミンのように………なれるかもしれない?

 

 

 

 

 

空中

 

 

 

まるで夢の中にいるようにいるみたいだ。

 

いつも抑えられたナニカが外れたのか、体が嘘のように軽い。

 

今なら何だってできそうだ。

 

そう、何だって……

 

そうだ…もう一度目が覚める前に…自分の想いを………

 

普段の自分なら絶対に伝える事のできないこの狂おしい想いを……

 

 

『母さんの事も大好きです。上条詩歌は上条詩菜の自慢の娘として認められたい。だって、こんな親泣かせな私でも心配して、愛してくれる母さんなんですから! だから絶対に約束は破りません!』

 

 

 

 

 

とある学生寮 当麻の部屋 ベランダ

 

 

 

学園都市Level0 上条当麻

 

ツンツンとしたヘアースタイルが特徴の男子高校生。

 

無能力者で、学校の成績は毎回赤点のギリギリ上を低空飛行、いわゆる落ちこぼれの部類に入る生徒であり、『あの人の兄だとは思えない』、というのが専らの噂である。

 

そして、その類稀なる不幸体質のおかげで、他の人ではなかなか味わえないような毎日を送っている。

 

だが、どんな逆境にも負けない不屈の精神で、数々の困難を乗り越えてきており、多くの人を不幸から救ってきた(あとフラグも建ててきた)。

 

そんな彼の能力は<幻想殺し>。

 

能力判定Level0……と言われているがその実は計測不可能が原因であるとも噂され、その右手に触れたモノは異能であれば例外なく無効にする驚異の力。

 

 

 

 

 

 

 

夕方、門限近いこの時間、

 

 

「さーて、そろそろ布団を取り込みましょうかねー」

 

 

と、そんな事を呟きながら、当麻はベランダに繋がる網戸を開ける。

 

妹に家事全般を任せっぱなしではあるが、当麻も家事スキルはそこそこ高い。

 

朝から干した布団はふかふかになっているだろう。

 

 

「……そういや、今日、詩歌の奴来なかったな」

 

 

通い妻ならぬ通い妹が今日、来なかった事に気付く。

 

夏休みの間はほぼ毎日、自分の部屋に来ていたのだが、ここ最近は2日に1日のペースに落ちている。

 

おそらく、2学期が始まって忙しいのだろう……

 

うん、きっとそうだ。

 

まさか……………彼氏、ができたって訳じゃないよな。

 

でも、御坂から聞いた話だと、詩歌は週一のペースで告られているらしいし……もしかすると、

 

 

『当麻さん、今までありがとうございます。私、この人と幸せになります!』

 

 

って事に―――いやいやいや、それはまだ早い!

 

ええい、お兄ちゃんは認められません事よ!

 

 

「とうまー、何やってるの? 早く窓閉めて欲しいかも」

 

 

「……ブツブツ…青髪ピアス…はないな……この前告った削板っつう奴か……もしかして、どこぞのホスト野郎にひっかけられたり……いや、それとも最近世話しているお友達か……まさか、ステイルの嘘が真に……」

 

 

「とうま……どーしたの? 何だかすっごく怖い顔してるけど」

 

 

マジ顔でブツブツ、何かを呟いている当麻に同居人は若干引き気味である。

 

どうやら、妹の恋愛問題は、当麻にとっては想像するだけで狂戦士(バーサク)してしまうような大問題らしい。

 

 

「土御門に相談してみるか……それとも詩歌に直接……いや、しかし、もしウザいとか言われたら―――ん?」

 

 

何か気配を感じた。

 

近い、これは近い。

 

何かが当麻の許に近づいて来ている。

 

と、そこで前方を見てみると、こちらに向かって真っ白な何かがものすごいスピードで飛来してくる。

 

さらにもう一度良く確認してみると、それは天使のように羽が生えていて……確か、インデックスが良く見ているアニメに出てくる女の子と同じような恰好をしている。

 

さらにさらに、近付いてきた瞬間、天使の翼がいきなり霧散し、

 

 

「詩歌っ!!???」

 

 

天使の羽が邪魔で分からなかったが、あれは妹だ。

 

そう飛来してきたのは詩歌だった。

 

当麻は、そのいきなりの事態に慌てふためくが、

 

 

「くそっ、何が何だかわかんねぇが受け止めるしかないだろ!!」

 

 

咄嗟に、布団をクッションにして詩歌のフライングボディアタックを受け止める。

 

 

「ぐおおぉおおぉおおお―――!!?」

 

 

まさに人間隕石(メテオ)

 

しかし、当麻は防御力と耐久力だけはピカイチで、妹に関する事になると火事場のくそ力を発揮する。

 

全身を使って受け止めた当麻は、そのまま水平に吹っ飛び、開けた窓から部屋の中へ、部屋の中央に置かれた机を巻き込み、玄関に直撃。

 

思い切り後頭部をぶつけたせいか、瞼の裏で派手に火花が飛び散る。

 

 

「痛ったたたた……詩歌、無事か?」

 

 

どうやら、あれほどの突撃を喰らったのに『痛い』程度で済んだらしい。

 

詩歌を無事に受け止めた事を確認すると、何か一言文句でも言ってやろうかと……

 

 

「当麻さん、私は、私は!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

何だか詩歌の様子がおかしい。

 

怪我はないようだが、自分にしがみついて、何かを必死に伝えようとしている。

 

いや……違う。

 

逆だ。

 

必死に抑えこもうとしている。

 

喉元まで出かかっているその言葉を必死に呑み込もうとしている。

 

 

「あなたの事が、誰、よりも」

 

 

当麻にしか聞こえないような弱弱しくて、か細い声。

 

だが、一度タカが外れてしまったその昂る感情はそう簡単に止められない。

 

 

 

――――マズイ、と直感的に思った。

 

 

 

今の詩歌は、本当に素の詩歌そのもので、感情のリミッターが外れている……だから、

 

 

(―――いや、何故俺はそう思うんだ。何が不味いと)

 

 

わからない。

 

でも、この先を聞いてしまったら、後戻りできないような気がする。

 

妹が、いや、詩歌が決して言ってはならない言葉を吐き出してしまう気がする。

 

わからない。

 

でも、止められない。

 

当麻は心を殺す事で、精一杯だった。

 

 

 

そうしなければ――――

 

 

 

「――――ごめんなさい」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「………何を言いたかったんだ、詩歌は?」

 

 

最後の最後で言葉を呑み込み、謝った後、詩歌はそのまますぐに寝てしまった。

 

一体何があったんだろう?

 

何か知らないが妙なコスプレしているし、窓からいきなり飛び込んできたし、それに……当麻には何が何だか分からない。

 

 

「とりあえず、無事で良かったよ」

 

 

しかし、こうして安らかに寝息を立てている所を見ると問題はないようだ。

 

当麻はほっと一息つきながら、そっと仮面を外し、優しく頭を撫でる。

 

上条詩歌。

 

誰よりも自分の側にいてくれ、誰よりも自分の事を想ってくれ、そして、自分が誰よりも大切に思っている……妹。

 

恋人ではない。

 

でも、一緒にいたい。

 

いつか誰かが、彼女を本気で愛してくれる誰かが、彼女を幸せにしてくれる誰かが現れるまでは、自分が上条詩歌を大切に守り、精一杯、愛して、全力で幸せにする。

 

それが、兄としての役目だと思う。

 

しかし、

 

 

 

……もしも、本当にその誰かが現れたらどうするんだ?

 

 

 

具体的に想像して、胸が軋む。

 

心臓に罅が入ったんじゃないかと、本気で思うほどの痛みに襲われた。

 

そして、

 

 

 

……なら逆に、その誰かが現れなかったら、

 

 

 

心の奥底のどこかでそんな声。

 

 

 

……もしも、彼女を幸せにする男が現れなかったら、どうするんだ?

 

 

 

そんな事、考えた事がなかった。

 

いつか、詩歌を任せられると自分が認められる男が出てくるのだろうか……違う、本当に自分“は”認められるだろうか?

 

当麻は考える。

 

真面目に、その答えを考える。

 

それは、そのときは……

 

 

「……やらしいんだよ」

 

 

インデックスの声がした。

 

当麻は慌てて体を起こし、声のした方角に目を向ける。

 

詩歌襲来から避難し、ベットの上にいる居候は、かつてないほど険しい顔でこちらを睨んでいた。

 

 

「しいかは妹なのにイヤらしい手つきで触って……とうまは、何しようとしたの?」

 

 

現状確認。

 

今、当麻と詩歌は縺れ合い完全密着しており、服装も若干乱れております。

 

 

「あ、あのな、インデックス。これは――――」

 

 

ダメだ。

 

詩歌が覆い被さっている。

 

ちょっとでも動いたら起きてしまうかもしれない。

 

どうする……どうする?

 

…………よし。

 

少しの逡巡の後、答えを出す。

 

今は、何も考えず詩歌を守ろう。

 

だから、早速、妹の安眠を守ろう。

 

 

「インデックスさん……なるべく静かにお願いできますか?」

 

 

「それは、とうま次第かも」

 

 

その後、少年は唇から血が出るほど噛み締めた事で悲鳴を抑えこむのに成功した。

 

 

 

 

 

当麻の部屋

 

 

 

『おーっす、当麻っち!』

 

 

『お、悪ぃな。いきなり、詩歌が飛んできたかと思うとそのまますぐに寝ちまってな』

 

 

『ふ~ん、寝ているのをいい事に詩歌っちに何か変な事してません?』

 

 

『ばっ!? おま、俺は妹に手を出すような変態じゃねえええ!』

 

 

『にゃはは、冗談だよ、冗談。で、そろそろ門限に近いからそこの眠り姫を回収したいんだけど。あ、起こさなくて良いよ。背負っていくから』

 

 

『おお、そうか………なら、よろしく頼んだ。詩歌にはくれぐれの体調に気をつけろって言っといてくれ』

 

 

『了解、了解』

 

 

 

 

 

道中

 

 

 

全く、世の中は思い通りにはいかないねぇ。

 

折角、詩歌っちを素直にさせて当麻っちを困らせようとしたのに……

 

 

 

 

 

 

 

それだけじゃないよ。

 

……先に言っとくが義峡を貫く『鬼塚陽菜』としては兄妹の倫理を背く事は見過ごせない。

 

が、『上条詩歌』の親友として、少しくらいは応援したいとも思っている。

 

何せ詩歌っちには昔から色々とお世話になっているし、親から当麻っちとの学園生活を許してもらえただけでなく、初めて応援してもらえたって、詩歌っちが教えてもらったからね、まあ、今回の件はそのちょっとした借りを返そうと思ったわけ。

 

親が背中を押したというなら、親友として少しくらいは背中を押さないと。

 

それに、あの兄妹は2人とも鈍感だ。

 

詩歌っちは私でも把握しきれない程大人気の女の子で名探偵並に鋭いけど、恋愛の一点に関しては当麻っちしか見てないから残念なくらい鈍感だ。

 

そして、何となくだけど当麻っちは自分の恋愛感情を押し殺しているから鈍感じゃないのかねぇ。

 

“わからない”ではなく“わからない事にしている”。

 

自覚しているのか、と言えばおそらく天然なんだろうけど、いざという時、特に詩歌っちに関しては鋭い当麻っちが、恋愛感情だけは鈍感になるというのは、やはり不自然だ。

 

それに、ちょっとからかっただけで、『俺は妹に手を出すような変態じゃねえええ!』と叫んで否定しているのは普段、フラグは徹底的に受け流す当麻っちにしては過剰反応。

 

たぶん、その理由というのは詩歌っちなんじゃないかと思うんさね。

 

普通の兄妹で人生を送っていたならともかく、昔から、そう『疫病神』と言われ、迫害されてきた時もずっと、唯一、一緒にいた同年代の女の子に、たとえ妹でも何も思わないはずがない、何も言わずとも詩歌っちの想いに気付かないはずがない。

 

だから、当麻っちは詩歌っちの自分への想いを『恋人』ではなく『家族』として処理する為に女性からの好意を『Love』ではなく「Like』としてみるような鈍感となった。

 

本当に、本気で、真剣な告白しなくては気付くことすらできない鈍感にね。

 

詩歌っちに関しては、特に……

 

 

―――っつてもあくまで勘なんだけどね。

 

 

当麻っちは鈍感シスコン野郎という可能性もある。

 

まあ……何にせよ、どんな結果になろうと、当麻っちは詩歌っちの想いを自覚的に知るべきだと思ったわけさね。

 

かと言って、私が教える訳にはいかないから、詩歌っちに『鬼の涙』で素直になってもらおうとしたんだ。

 

あれって、鬼塚組(ウチ)に新たな人が入る際に、本音で語り合って、間者か確かめる為の自白剤みたいな働きがあるんだよねぇ。

 

あれを皆の前で飲むのが嘘が嫌いな鬼塚家特有の杯を交わす為の儀式みたいな。

 

まっ、詩歌っちのセキュリティは鬼が泣くより固かったけどね。

 

理性を失っても口に出さないなんて、本当にありゃあ、『呪い』の類いだよ。

 

とにかく、塩を送るのも癪だし、私はもうこれ以上は関与しないというか、手に負えない。

 

詩歌っちの意思を尊重しよう。

 

それにあの2人に好意を寄せる大勢の人達に悪いしね。

 

さて、王子様の鉄壁の城が崩れ落ちるのが先か、それとも、人魚姫が泡となって消えるのが先か……

 

 

「くくく、こりゃあ、私も2人と同じ高校に行かないとね」

 

 

そうして、鬼は笑いながらは帰り道を急ぐ。

 

頑固な眠り姫を背負いながら。

 

けれど鬼は、記憶破壊の事を知らない。

 

だから、この考察は、記憶を失う以前の上条当麻。

 

もし、実は記憶を失う前、上条当麻も深層では上条詩歌に対して、禁断の恋慕の情を抱いており、うっすらと彼女の想いにも気付いた、としても、

 

その想いは『疫病神』の迫害時の唯一無二の存在への依存心から発展したもの……今の上条当麻は、その大元である記憶を失っている。

 

それ以前に積み上げてきた塔が土台を失くして崩れ落ちたのと同様に、その想いは消え、その欠片として兄としての想いと鈍感な部分のみが残されている。

 

そう、人魚姫の物語通りに、王子様は……

 

 

「うふふ、当麻さん////」

 

 

それでも、彼女の想いは消える事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

この日、学園都市に新たな都市伝説が生まれた。

 

それは、超絶機動少女カミミン。

 

7人いるLevel5の第7位、第5位、第4位、第3位、第2位、第1位と片っ端から倒していった仮面の怪人。

 

その正体を知るものは誰もおらず、ただ愛と正義の為に戦う美少女であるとしか分かっていない。

 

また一説には、狂乱の魔女と同一人物だという噂もあったが真偽は定かではない。

 

彼女は一体何者なのか?

 

その謎の答えは、学園都市の闇の中に眠っている……と言われている。

 

 

 

つづく


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