とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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閑話 超絶機動少女カミミン 前編

閑話 超絶機動少女カミミン 前編

 

 

 

トラウィスカルパンクテウトリの加護を受けた最凶で最狂な完全無欠の最強戦士!

 

超絶機動少女カミミン!

 

蓮の杖(ロータスワンド)>で愛する『TOUMA』お兄ちゃんのTの字を斬って、<機動装甲(マジカルパワード)>をウェイクアップ!

 

夢、希望、愛、そして、『TOUMA』お兄ちゃんを奪おうとする奴らはマジカルCQC百八式でみーんな半殺し♪

 

あなたのハートに、イマジン☆トレース!

 

皆を幸せにしちゃうぞ(ハート)

 

 

 

 

 

 

 

*この話を読む時は部屋を明るくして三次元の事は忘れて読んでね☆

 

 

 

 

 

常盤台女子寮 詩歌の部屋

 

 

 

夏休みが終わり、まだ2学期が始まったばかりの夜だった。

 

 

「ふむふむ。この鬼塚家に伝わる『鬼の涙』は鬼の血を引く者以外が飲めば、理性が崩壊して、鬼の仲間へ引き摺りこまれてしまう―――っつうちょっち曰くつきの霊験あらたかな清水なんだYO→ヒャッハ→ッ!!」

 

 

と、誰もいないのに鬼塚陽菜は実家から届いた『鬼の涙』について、キメ顔で解説する。

 

この娘、ここ最近のバイトで疲れているのだろうか?

 

ちょっとハイな状態に心配気味である。

 

 

「コイツをマイベストフレンドの詩歌っちに飲ませんZE! 当麻っちへの逆襲だ!Huuuu→!」

 

 

どうやら、陽菜さんは夏休み最終日の事を根に持っているらしい。

 

それを晴らすために詩歌に実家からの『ウチの人以外に飲ませたら何が起きるか分からないから禁止。飲ませるなら絶対に100倍希釈』という禁則事項を破るそうだ。

 

……この娘は本当に詩歌の親友なのだろうか?

 

というか、こんなことして詩歌が怖くないのだろうか?

 

と、色々と思う所があるのだが、今の彼女はちょっとハイになっているのでご勘弁をお願いしたい。

 

 

「ふぅー、ただいまです、陽菜さん」

 

 

と、お嬢様にあるまじき……まあ、元がお嬢様とはかけ離れているのだがヒップホップ調でダンスしていると標的が―――ゴホン、ルームメイトで親友の上条詩歌が帰ってきた。

 

彼女は学園都市で5本の指に入る常盤台でも完璧と称される優等生、

 

ある一点を除き聖人のような人格者。

 

そして、その聖母のような微笑みで落とした者は数知れず、秘密結社(ファンクラブ)までできているという人気絶頂の学園都市で嫁にしたい女の子第1位である。

 

 

「お、詩歌っち。おかえりー、今日も遅かったね」

 

 

さっきまでハイになっていたのに、詩歌がドアに触れた寸前で平常運航に戻っている。

 

恐ろしいまでの早業である。

 

しかし、普段の詩歌なら、見れば大体分かるという名探偵並の洞察力があるので陽菜の偽装などすぐに見抜いてしまいそうなのだが……

 

 

「ええ、今日も色々とありましてね。これを造っていたら遅くなっちゃったんですよ」

 

 

気付いていない。

 

おそらく、ここ最近の出来事が原因なのだろう。

 

詩歌に疲労が溜まっている。

 

なので、第3の家(第2の家は実家、第1の家は当麻の部屋)に着いたら気が抜けてしまっているらしい。

 

何だか、くたくたと……いや、ふにゃふにゃという擬音が出ている。

 

いつもの詩歌センサーの働きも90%カットである。

 

まあ、それほどルームメイトの陽菜を信用している訳なのだが……

 

 

(しめしめ、これは1年に1度あるかないかの大チャンスですなぁ~)

 

 

と、ルームメイトはその信頼をぶっちする気満々である。

 

 

「へぇ~、それって何だい? 何だか衣装っぽいけど、また着ぐるみかい?」

 

 

「着ぐるみじゃありませんよ。でも、衣装です。昨日、打ち止めさんっていうとっても可愛らしい女の子に超機動少女に会いたいとせがまれましてね。インデックスさんが持っているアニメの資料から造ったんです」

 

 

詩歌は小さくて可愛いものに弱く。

 

特に妹分の幼馴染、御坂美琴の小学低学年時の姿をしている打ち止めには激アマである。

 

ちょっと、『詩歌お姉ちゃん』とミルキーボイスで言われればすぐにデレデレしてしまう。

 

 

「はっはっはっ、相変わらず凝り性だねぇ~。それじゃあ、詩歌っち。サンタさんみたいに超機動少女に変身しちゃうってわけかい?」

 

 

「ええ、そうです。まあ、でも顔が分からないようにフルフェイス型のマスクはしていきますが……流石に、ちょっと恥ずかしいですし////」

 

 

そう言うと、詩歌は衣装を置き、シャワーを浴びに行く。

 

それをチャンス、と陽菜の鷹の目がぎらりと光る。

 

 

「詩歌っち~、風呂上りに美味しいお水があるんだけど、どうだい? 学園都市で研究されている超ミネラルウォータだよ」

 

 

この『鬼の涙』、無臭でほとんど味はミネラルウォータと変わらない。

 

 

「ありがとです。風呂上りに一杯もらいますね」

 

 

そして、流石の詩歌もルームメイトから変なものを飲まされるとは思っていないだろう。

 

だから、今の疲労困憊気味の詩歌が気が付かないのも無理はない。

 

 

(よっしゃーっ!)

 

 

陽菜は心の中でガッツポーズをとる。

 

今まで、色々と嵌められている詩歌を嵌める事ができて嬉しいのだろう。

 

しかし、詩歌はある人物への禁断の恋慕をほぼ10年間封じ込めていた驚異の理性の持ち主。

 

色々と常識外れな天才でもあるが、実はそれ以上に理性的な人物である。

 

でも……もし、その理性がなくなってしまったとしたら……

 

これが恐ろしい超絶機動少女伝説の幕開けになろうとは……この時の陽菜でさえも思いもしなかった。

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

学園都市Level5序列第7位、削板軍覇。

 

見た目は白い学ランに鉢巻、旭日旗Tシャツ着用と、いわゆる番長のようにも見える少年。

 

その性格は、一言でいえば熱血漢。

 

二言でいえば熱血バカ。

 

愛と正義と根性の戦隊ヒーロー的好青年で、『弱きを助け強きを挫く』を地で行く。

 

相手が自分より強いと解っていても立ち向かう、勇気とド根性の持ち主である。

 

そんな彼の朝は早い。

 

彼はある夏休みの一件以来、ある壁を超えられるほど己を高める為に“根性”をより熱くさせようと早朝ランニングに励んで……

 

 

「ん?」

 

 

その時、路地裏で何やら怪しい人だかりが……そう、あれはカツアゲだ。

 

 

「うっし。とっとと有り金全部よこしやがれ!」

 

「おら! さっきぶつかった慰謝料を払えよ!」

 

「ひっ!」

 

 

5,6人の兄ちゃん達に取り囲まれぶるぶると震える男子学生。

 

削板は考えるよりも早く、そいつらに“根性”というのが何なのかを―――

 

 

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、悪を倒せと私を呼ぶ、聞けっ悪人ども私は正義と愛の超絶機動少女カミミン!」

 

 

「「「「「「うわああああ!!?」」」」」」

 

 

―――教える前に全員宙に舞った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「すげぇな、こりゃ」

 

 

突如現れたマスクコスプレ少女。

 

彼女は名乗り上げると共に、不良達がその姿を認識する前に全員投げ飛ばした。

 

合気道のように人の動きを誘導した電光石火の神業。

 

さらに、根性溢れるその圧倒的なオーラ。

 

そして、極めつけは見ただけで何故か高鳴る胸の鼓動……

 

削板軍覇は背後に落雷が落ちたような衝撃を受けた。

 

削板はその少女から目が離せない。

 

 

「カツアゲするなんて、先生は悲しいです……」

 

 

その間にも少女は不良達に正座させながら(手に鞭を持ちながら)説教(調教?)している。

 

一瞬で倒されたからか不良達は(微妙にどこか嬉しそうに)素直に大人しく、しかし、時折、正座から彼女の絶妙に見えそうで見えないスカートの中を……

 

 

「「「「「「ぐはっ!!?」」」」」」

 

 

覗く前に瞬殺。

 

どこぞの獄長バリの鞭捌き。

 

どこか男らしい笑みを浮かべて彼らは逝った。

 

全員再び気絶させると少女はこの場を―――

 

 

「待ってくれ、そこの君!」

 

 

削板は大声で呼び止める。

 

少女だというのは分かっている。

 

だが、その根性オーラは本物だ。

 

そうあの己の壁である男と同等か、それ以上だ。

 

駄目だ……彼女と勝負したいという気持ちが抑えられない。

 

 

「頼む! 俺と勝負してくれ!」

 

 

少女はこちらにゆっくりと振り返り、じ~~~っと、こちらの顔を見つめる。

 

マスク越しに見える瞳はどこかとろ~ん、としている。

 

数秒後、こっくりと首を上下に振る。

 

 

「マジカルCQC百八式、パート77」

 

 

少女、カミミンは何も構えずゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

構えはない。

 

だが、わかる。

 

今の彼女に隙はない。

 

そして、構えがないからこそ、その動きが読めない。

 

 

「変幻自在、マジカル木原酔拳」

 

 

マジカル木原酔拳。

 

中国武術の一種で、まるで酒に酔っ払ったかのような独特な動作が特徴的な酔拳と、ある一族に伝わる『能力者の力の流れを読んで、その隙を突く』という戦闘術を組み合わせた格闘術………のようなもの。

 

そうして、削板の眼前までゆらり、ゆらり、ゆらゆらりと接近してくる。

 

 

「ちっとだけ根性を出す。悪ぃが……怪我しないように気をつけてくれ」

 

 

瞬間、削板の姿は消えた。

 

少し加減しているようだがその速度は音速にも迫る。

 

行動はシンプルだが、それは常人では避けれるはずがない。

 

それに対して、カミミンは不規則なステップを踏む。

 

顔の向きは右、でも、目はその逆の左を見ている、しかし、体は真後ろに倒れそう、だが、足は斜め前に進む。

 

五体が其々意思をもったように機敏に動く。

 

動きも早いが、何より行動が複雑怪奇すぎる。

 

さらに、予めここに来ると分かっているように、削板の行動を先読みし、一度も掠らせない。

 

 

(やはり、見込んだ通り、だ)

 

 

削板は強者との出会いに笑みを浮かべる。

 

猪突猛進の自分に対して、彼女は真逆の戦法を取ってくる。

 

しかも、何となくだが自分の戦法に慣れているような気がする。

 

今のままだと彼女からペースを奪えない。

 

どこか優雅で洗練された仙人のような動きを見て、削板は本気を出す事にした。

 

 

「すごい―――」

 

 

だが、拳を突き出そうとした瞬間、カミミンの姿が消えた。

 

蜃気楼だ。

 

削板と対峙しながら、<発火能力>を使って、彼に幻を見せた。

 

そして、カミミンは前に踏み出した削板に合わせてカウンターで―――

 

 

「ほい!」

 

 

ズドンッ!!

 

 

―――股間を蹴った。

 

よほど的確な位置に蹴ったのか、それだけで削板の動きは止まった。

 

あの耐久力だけはLevel5の不幸なLevel0の男子高校生でさえも一撃で沈んだ、根性だけではどうにもならない、まさに男の急所。

 

しかも蹴り。

 

足は腕の3倍の力があるとするならば、一夫多妻去勢拳の3倍、しかも、音速の動きに合わせてカウンターを放ったから、どれほどの破壊力が……

 

Level5の削板でなければ、不能していたのかもしれない。

 

それでも、股間を両手で押さえながら削板は数歩進み―――が、途中で前のめりで倒れてしまう。

 

最初から最後まで惑わされた削板は口から泡を吹き、完全に失神、試合終了。

 

 

「ふぉふぉふぉ、まだまだじゃったのう」

 

 

そうして、カミミンは撃沈している削板を放置して、どこかへと去っていた。

 

 

 

 

 

学舎の園 カフェテリア

 

 

 

学園都市Level5序列第5位、食蜂操祈。

 

 

「女王、今日のご予定は如何なさいますか?」

 

 

「今日はどうしようかなぁー」

 

 

巨乳で長い金髪の美少女で、学園都市のお嬢様学校、常盤台中学での最大派閥の女王様。

 

今日も、お嬢様学校共有地帯、<学舎の園>にある行きつけのカフェで自分の派閥を引き連れて、食後のティータイムを楽しんでいる。

 

 

(最近、御坂さんや詩歌先輩と遊んでないしぃー。特にいつまでも詩歌先輩にやられっぱなしは気に喰わないっていうかぁー)

 

 

「ッて女王!? 先ほど一つお食べになったでしょう!」

 

 

「うん?」

 

 

新たに頼んだエクレアに手を伸ばそうとした時、派閥の子に取り上げられてしまう。

 

 

「ダメですよ。折角の素晴らしいプロポーションが……」

 

 

「ぇー、いーじゃん。もう一個くらい!」

 

 

「一日一個までです!」

 

 

(その油断が危険なのです、女王! 私など節制しているのに体重が何故か増える一方で……この事を上条様にご相談―――)

 

 

「もうっ、余計な事を考えちゃダメなんだゾ☆」

 

 

食蜂の能力は<心理掌握>。

 

そう彼女は、学園都市最高の精神系能力の使い手であり、記憶の読心・人格の洗脳・念話・想いの消去・意志の増幅・思考の再現・感情の移植など精神に関する事ならなんでもできる十徳ナイフのような能力の持ち主なのだ。

 

だから……

 

 

「「「………」」」

 

 

共にお茶していた派閥の子達の目から輝きが消える。

 

そう……洗脳。

 

今、食蜂が手に持っているそのテレビのリモコンのようなもののスイッチを押しただけで食蜂の支配下に堕ちた。

 

 

「この影響力……私の取り巻きを寝取ろうとするかもしれないなんて、詩歌先輩ってやっぱり怖いわねぇー……あ、アンタは私に口答えしたご褒美にエクレア20個の早食いにレッツ・チャレンジ☆」

 

 

「承りマシタ」

 

 

同級生に『とびっきり下衆い能力ね』と言われているだけある。

 

そして、食蜂の命に従って―――

 

 

「また調子に乗っているようですね、操祈ちゃん!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

―――な ん だ あ れ は ?

 

何という精神攻撃……

 

学園都市最高の精神系能力者でさえ、あまりの衝撃に開いた口が塞がらず、手に持っていたリモコンを地面に落してしまった。

 

 

「……悲しいです。いじめはダメ絶対って教えたのに……本当に悲しいです」

 

 

視線を突如現れた少女、詩――ゴホン、カミミンの頭からつま先まで二往復させる。

 

学校の先輩に良く似ている女性が、360度、どこから見ても空想の産物の超機動少女の格好をしている……

 

しかも……たった今まで、その影響力の凄さに、恐れていた先輩が、だ。

 

この人が行きかう街の中をその格好で一切の羞恥の色なしでいるなんて、精神がタフ過ぎる!

 

これは評価を訂正しなくては……斜め上の方向に。

 

 

「フフフ」

 

 

「―――って、え?」

 

 

食蜂が一瞬だけ思考が停止しただけなのに、目の前にカミミンがいた。

 

一足飛びと呼ぶのは容易い。

 

だがその速度たるや人の目が追いつけるものではなく、何をしたかは分からないが<空間移動>並の、しかも思考の空白を狙った急接近。

 

能力を使うには遅すぎるし、近すぎる。

 

しかし、近づいてくれたおかげて、マスクの奥にあるカミミンの目を直接見る事が出来た。

 

……焦点が合っていないどころか、ナルトのようにグルグルしている。

 

ただいま絶賛狂乱中だZE! と目が語っていた。

 

 

「操祈ちゃん。お仕置きです」

 

 

食蜂の自由意志は吹っ飛んだ。

 

……超絶機動少女からは逃げられない。

 

 

「マジカルCQC百八式、パート55」

 

 

第七位(ナンバーセブン)>で強化されたカミミンは地球の法則を軽く無視する人外の領域だった。

 

 

「あいたたた、痛い、痛いですよぉー」

 

 

食蜂はそのまま頭をクレーンゲームのように鷲掴みにされ持ち上げられる。

 

 

「疾風迅雷! マジカル御使落し(エンゼルフォール)! ―――ハッ!!」

 

 

マジカル御使落し。

 

それは、アルゼンチンバックブリーカーで持ち上げた後、そのまま、高く鷹の如くに舞い上がり、竜巻の如く超高速で何十回も回転しながら、稲光のように地面に落下する超人的プロレス技。

 

注:『御使“堕”し』ではなく、『御使“落”し』です。

 

 

「ちょ、ちょっと!? これヤバくないですかぁっ!? ほ―――」

 

 

食蜂の願いも空しく死の垂直落下が始まる。

 

 

「キャアアアアアアアァァァァアアァァッッ○△□×!!??!?」

 

 

お嬢様とは思えない絶叫。

 

確かにヤバい。

 

ヘタなジェットコースターよりスリル満点…いや、スリルと呼ぶにはあまりに暴力的すぎる落下と加速と回転の恐怖。

 

本気で殺しにきているとしか思えない濃密な地獄めぐり。

 

たった数秒が永遠にも近く感じられる。

 

ついでにスカートでこの体勢は乙女としてヤバい。

 

それからカミミンも超機動少女の一員で、マジカルって技名に入れているんだからプロレス技はちょっとないだろう。

 

そして、無事着地したものも、マジカル御使落しによって、強いGにより脳の血液が下がり、ブラックアウト状態になった食蜂は意識を闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

ファミレス

 

 

 

昼時、第7学区のファミレス。

 

学園都市Level5序列第4位、麦野沈利。

 

モデルのような女性で、学園都市暗部<アイテム>のリーダー。

 

その戦闘力は一部では第3位を瞬殺できるとも言われている。

 

彼女の力は<原子崩し>。

 

『曖昧なまま固定された電子』を強制的に操る事が出来る能力。

 

この状態の電子が物質にぶつかると、『粒子』と『波形』どちらの性質も示さずに、『その場に『留まる』』という反応を示してしまう。

 

これにより質量をほとんど持たないはずの電子が擬似的な壁となり、発射された時の速度を維持したまま対象を叩き潰す事ができる。

 

防御にも攻撃にも使える上、高速移動にさえ利用できるという戦闘においては強力無比な力である。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのー?」

 

 

しかし、ファミレスだというのに、テーブル席を陣取っている麦野沈利という女は机の上にコンビニで買ってきたシャケ弁を広げ、

 

その隣にいるフレンダ=セイヴェルンという金髪碧眼の女子高生はサバの缶詰を開け、

 

その向かいにいる絹旗最愛という12歳ぐらいの大人しそうな少女は映画のパンフレットに夢中で、

 

絹旗の隣にいる滝壺理后というダウナー系の少女はだらっと手足を投げ出したまま、電波を拾っている。

 

彼女達はドリンクバーを注文してから、ずっとやりたい放題で、お店側としたら非常に迷惑な客である。

 

さらに、どこか暗い雰囲気を漂わせている。

 

彼女達は学園都市暗部組織の内の1つ、<アイテム>。

 

主な業務は統括理事を含む『上層部』暴走の防止……なのだが、ある侵入者から施設防衛という任務を失敗して以来、仕事が舞い込んでこなくなった。

 

それどころか、しばらくの間大人しくしていろ、と謹慎処分まで貰ってしまっている。

 

そうなった原因は任務の失敗だけではない。

 

 

「はぁ……」

 

 

<アイテム>のリーダー的存在、麦野の敗北である。

 

最初は侵入者を追い詰めたものの、最後は任務を無視して、ある侵入者と私欲で戦いを挑み、敗北、そして、施設は大破、2人いた侵入者は全員逃げられてしまった。

 

しかも、フレンダが、狂乱の魔女とか言う存在に麦野の<原子崩し>が奪われたと支離滅裂に騒ぎたてたせいで麦野の信用はガタ落ち。

 

あれから、毎日……今日もメディカルチェックを受け、<原子崩し>に異常なしと診断されているが、それでも麦野の戦闘力は疑問視されている。

 

 

「はぁ……」

 

 

麦野自身も、狂乱の魔女とか言うふざけた奴に負けただけでなく、止めを刺されずに見逃されたという事実にLevel5の尊厳が深く傷つけられ、ちょっとした鬱状態である。

 

最初は、すぐにでも狂乱の魔女を捜そうとしたが、尻尾も掴めず、しつこい通院と謹慎生活のせいで、火が消えたように今はその気力さえもなくなっている。

 

他の3人は、別に仕事熱心という訳でもないし、肝心の麦野の状態がこれでは仕事が来ない方が良いとさえ思っている。

 

それに……

 

 

(私があの時、狂乱の魔女とか騒ぎ立てたせいで、麦野が……こうなったのは結局私のせい)

 

(私がもう1人の侵入者を超確保していれば、少なくても任務は超失敗にならなかった……)

 

(私が<能力追跡>を最後まで、侵入者を最後まで追い詰めていれば……)

 

 

この飼い殺しの現状に少なからず責任を感じている。

 

なので、麦野を励まさそうと、

 

 

『結局大人しい麦野は私の麦野じゃないって訳よ。だからこれでも食べて元気になれー』

 

 

フレンダはお気に入りの缶詰を御馳走したり、

 

 

『こういう時は超B級映画と相場が決まってるんです。超元気がでますから行きましょう、麦野』

 

 

絹旗は半ば強引に引きずって寂れた映画館で連続B級映画試写会で気分転換させようとしたり、

 

 

『大丈夫だよ、むぎの。私はむぎのを応援しているよ』

 

 

滝壺は励ます事で麦野を元気付けようとした。

 

彼女達の気持は届いているし、それらは麦野の力になっている。

 

麦野も感謝すべきと思っているし、自分の失態を振返れば、この待遇は破格と言える事も分かっている。

 

でも、それは重荷だ。

 

身体に糸が巻き付くみたいに、その優しさで身動きが取れなくなる。

 

ありがとう。

 

3人の思いやりは嬉しい。

 

だから、自分を放っておいて欲しい。

 

それに、麦野脳裏に浮かぶのは狂乱の魔女とかいう少女の面影。

 

気絶されたショックで記憶の中の彼女の顔はおぼろげな状態になっているが、一度も忘れた事がない。

 

唯一の手掛かりはLevel5序列第3位、<超電磁砲>の知り合いで、自分よりも年下の少女であるという事。

 

滝壺が気にしているようだが、能力はおそらく発電操作系のLevel4だろう。

 

だが、そんな少女は見つからなかった。

 

会いたい……でも、今の自分は彼女に会って何がしたいのだろうか?

 

今の憂さ晴らしをしようにも、たぶん負ける。

 

対峙したから分かるが彼女は強い。

 

甘さはあるようだが、戦闘中の彼女は冷厳で、怜悧で、冷徹、そして、油断は一切ない。

 

たぶん、<超電磁砲>よりも強いのではないだろうか。

 

そんな相手に、ガス欠気味の<超電磁砲>を3人がかりで仕留め切れなかった自分が勝てるのか。

 

なら、何故彼女に執着し続けるのだろうか。

 

今、自分がすべきことは彼女達を、地に堕ちたとされる<アイテム>の地位を引っ張り上げる事。

 

過去の挫折や屈辱に拘る事ではない。

 

 

「はぁ……」

 

 

と、麦野が計3度目の溜息をついた時、ウェイトレス……―――

 

 

「あなた達! ファミレスは公共の場です! 自分勝手な行動は控えなさい!」

 

 

―――ではなく、コスプレ? 少女が現れた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「全く、あなた達はマナーというものをですね……―――」

 

 

―――誰だよ、こいつ?

 

 

と、突如現れ、説教を始めたコスプレ?少女に困惑している間、コスプレ? 少女はマスク越しから鋭い眼光で4人の顔を1人1人注視し、

 

 

「ふむふむ。どうやら悩み事のようですね」

 

 

と、何を読み取ったかは知らないが頷く。

 

その時、麦野はどこか彼女に対して既視感を覚える。

 

それを確かめる前に、気付く。

 

 

(なっ……!?)

 

 

自分達を見ながらずっとおろおろしていた小柄なウェイトレスを含めて周囲の人間が全員、自分達とコスプレ? 少女……派手な装いに圧倒的な存在感を漂わせる少女をまるでそこに存在しないかのように無視している事に。

 

 

(((なっ、動けない!!?)))

 

 

フレンダ、絹旗、滝壺は机から立ち上がる事もできず、さらに、能力の発動さえもできない。

 

冷蔵庫の中で長時間冷やされたかのように、全身の関節がぎこちない震えを発するばかり。

 

おそらく彼女は精神系能力者、しかもこの圧倒的な支配力からLevel4以上。

 

迂闊だった。

 

自分達は暗部、学園都市の闇に生きる者。

 

アドレナリンが分泌により、交感神経が瞬間的に刺激され、麦野の頭と身体が戦闘モードになる。

 

 

「クソッ―――――かっ!!?」

 

 

が、抑えこまれてしまった。

 

とあるLevel0に負けたという噂のせいで、数多くの能力者に襲われる羽目になったLevel5序列第1位を見れば分かるように、この世界は弱肉強食。

 

弱っていると知られてしまえば、自分たちを倒したという称号を求めて喰い殺そうとしてくる。

 

感傷しているせいで敵の奇襲を成功させてしまうなんて、迂闊過ぎる…と思ったのだが、

 

 

「お日様は何でも知っている、雲は皆見ている。そして、カミミンには全て筒抜けです」

 

 

「はっ?」

 

 

「カミミンの臨時人生相談」

 

 

何だか変なのが始まった。

 

 

「マジカルCQC百八式、パート44」

 

 

そして、麦野は身動きが取れないまま―――

 

 

「固有結界! マジカルファンタズム!」

 

 

―――頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

???

 

 

 

『まぁでも、やっぱり私達には麦野が超必要ですね』

 

『結局、リーダーは麦野で私達<アイテム>にとって欠かせない存在ってな訳よ』

 

『早く、いつものむぎのに戻って欲しい』

 

 

仲間達の声が聞こえる。

 

自分を奮い立たせようとする応援。

 

しかし、励ましなら毎日して貰っている。

 

だが、それでは駄目なんだ。

 

それだけでは……―――と、その時、

 

 

「『皆に守ってもらって、まったくなーにが、第4位だ』」

 

 

声がした。

 

周囲の人間の声でもない。

 

フレンダでも、絹旗でも、滝壺でもない。

 

そして、いきなり現れた少女………でもない。

 

この声の主は―――

 

 

「『呆気なくやられる雑魚の癖によぉ。能力の性能のおかげで、テメェがLevel5? ったく、笑わせんじゃねえぞクソババア!!』」

 

 

―――麦野沈利(わたし)だ。

 

ようやく周囲の状況に気付く。

 

瞬きしただけで無を象徴するように世界が真っ白に染まり、フレンダ、絹旗、滝壺を除いて周囲の人間は誰もいなくなっていた。

 

さらに無音、地球の自転すらも止まったのではないかと思うまでの静寂。

 

そう……ここはまるで色付けが終わっていない未完成の絵の中のようだ。

 

その絵の中、自分以外で色が染まっているのはフレンダ、絹旗、滝壺、そして……

 

 

「『たった1度の敗北でここまで萎えるとはよォ、第4位の名が泣くぞォッ!!』」

 

 

もう1人の自分、傲岸不遜で残虐に暴力を振りかざしていたあの時の『麦野沈利』。

 

舌舐めずりながらゆっくりと話す、尊厳を逆撫でするその悪趣味な口調も、

 

この相手を貶める侮蔑の目と嗤い続ける甲高い声も、『麦野』そのものだ。

 

自分の記憶を投影したように昔の自分、今まで幾多のターゲットを嗤いながら屠った『麦野』がそこにいる。

 

 

「『そういやァ、この前の粛清をし忘れていたわね』」

 

 

そして、『麦野』は腕をこちらに向けて水平に構える。

 

 

「『まずは、フレンダ』」

 

 

『麦野』の指先から破滅の光が灯り始める。

 

 

「『撃破ボーナスに目が眩んで、足止めを失敗したのと余計なデマを広めた罰』」

 

 

瞬間、フレンダが光に呑まれた。

 

 

「『次は絹旗。私の読みが当たったのに侵入者を逃がした罰』」

 

 

瞬間、絹旗が光に呑まれた。

 

 

「『最後は滝壺。戦闘中にガス欠起こして使い物にならなくなって足を引っ張った罰』」

 

 

瞬間、滝壺が光に呑まれた。

 

止める隙も、守る時間も、声をかける余裕も無かった。

 

3人の身体は閃光に貫かれ、跡形もなく消滅した。

 

 

(麦野……お願い……死なないで)

 

 

ドジのくせに。

 

弱虫のくせに。

 

自分に笑いかけながらフレンダは逝った。

 

 

(麦野……超早く……逃げて)

 

 

一番年下のくせに。

 

1人でもやっていけるくせに。

 

自分を心配しながら絹旗は逝った

 

 

(生きて……むぎの)

 

 

争い事が嫌いなくせに。

 

戦闘が苦手なくせに。

 

自分を庇いながら滝壺は逝った。

 

 

(何で? 一体、何で? 知ってるでしょ? 私があんたらをどう扱ってきたのか?)

 

 

理解できない。

 

吹き上がる自分のありとあらゆる感情が押し流され、合流して一点へと収束していき、混濁した渦を作り上げる。

 

あやふやだった自我がその渦に巻き込まれ、粒子レベルで分解されていく。

 

自分が分からない。

 

麦野沈利とは一体どのような人物なのか、自分で自分が分からなくなる。

 

麦野沈利とは……

 

 

「『おい! 自分(テメェ)を見失っているクソババア! 悔しかったら、最後に根性出してお得意の<原子崩し>とやらを撃ってみてくれねーかしらねぇ!!』」

 

 

いた。

 

鏡のように『麦野』が目の前にいる。

 

仲間を粛清した暴君の自分がそこにいる。

 

容姿も、声も、残虐性も、暴力も、仲間ですら利用し、不満があれば粛清するぶっ飛んだ思考も何もかも投影された自分がそこにいる。

 

あれを見本にすればいい。

 

あれを元にして<自分だけの現実>を再構築すれば………――――

 

 

「駄目…あんなのじゃ、駄目……」

 

 

「『あん? どうした? とうとう気が狂ったかァ、クソババア!』」

 

 

俯き跪く自分に向かって、かつての、本来の自分と見紛う『麦野』が嗤う。

 

そこに立って喋っているのが自分でないことが、寧ろ不思議なくらいに似ている。

 

 

「テメェは私じゃねぇっつってんだよ!!」

 

 

しかし、自分ではない。

 

 

「なに1人、粛清し忘れてんだァ! ボケてんじゃねぇぞ偽物野郎!」

 

 

そして、ついに決壊する。

 

混沌も、後悔も、自己嫌悪も、破壊衝動も、不遜も、尊厳も、そして、『麦野沈利』でさえも、あらゆるものを押し流し、あらゆるものを踏み潰して、自分の、麦野沈利の<自分だけの現実>が再構築される。

 

その時、世界に色が甦る。

 

真っ白だったこの世界に再び、麦野を中心に色が付けられていく。

 

 

「『麦野沈利(わたし)』だよ。理由はクソムカついたからだ!」

 

 

傲岸不遜な笑みを浮かべて罪状を読み上げた瞬間、

 

 

ズバァ!!

 

 

麦野から放たれた真っ白で不健康な光の筋、電子線が、『麦野』を喰い殺す。

 

そして、完全に『麦野』を消し去った時、世界は完全に色を取り戻した。

 

 

 

 

 

ファミレス

 

 

 

頭の中のジーンとした痺れが取れ……ゆっくりと……全身に血の通いが戻ってくるのが分かる。

 

あれから……どのくらいの時間が経ったのだろうか?

 

何分? それとも何十分なのか……

 

見上げた時計の針は、まるで目を閉じていた間だけ、きっちりと止まっていたのではないかと思うくらい、進んでなかった。

 

……本当に?

 

今、この空間の空気は、さっきまでの狂気に満ちたものではなく……

 

灰色の静寂だけになっている。

 

消されたはずのフレンダ、絹旗、滝壺の3人もここにいる。

 

そして、あのふざけた格好のコスプレ少女はいない。

 

あれは白昼夢だったのだろうか?

 

 

「むぎの、泣いてるけど、どうしたの? 大丈夫?」

 

「麦野の泣き顔、超貴重です」

 

「結局、皆、麦野の泣き顔に夢中って訳ね」

 

 

3人に言われて気づく。

 

不覚にも……3人の姿を見て……涙を流していた事を。

 

 

「……ッ!」

 

 

そして、テーブルに視線を落として気づく。

 

あの世界は幻想だった、と。

 

あのふざけた機動少女とやらは本物だった、と。

 

 

『ドッキリ大成功~♪ 自分を客観的に見てどうでしたかぁ? 面白かったでしょ! とっても頑張ったんですよ~♪ だから、相談料のお代としてシャケ弁もらいますね♪   

by通りすがりの機動少女』

 

 

コンビニのシャケ弁当の代わりに置かれていた手紙を握り潰す。

 

許さない。

 

許さない。

 

許さない。

 

許さない。

 

許さない。

 

よくも……よくも……ふざけたものを見せやがったな!

 

私をこんなにも舐めやがって……

 

今度会ったら、絶対に――――

 

 

「ブ・チ・コ・ロ・ス!!」

 

 

 

 

 

 

 

「あのコスプレ女どこに行きやがった!!」

 

 

「麦野! 超落ち着いて!」

 

 

「結局、何言ってんの、麦野!?」

 

 

人目を憚らず急に大声を出し、暴れ出した麦野。

 

あまりの迫力に客と店員は怯え、絹旗とフレンダが止めてなければこの店は一瞬で廃墟と化していたのかもしれない。

 

この騒ぎのせいで、また『上』から何か言われるかもしれない。

 

でも……

 

 

「でも、むぎの。元に戻った気がする」

 

 

滝壺は小さく笑いながらポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

隠しても隠しきれない人格破綻者集団『レベル5』と激戦を繰り広げる超絶機動少女カミミン。

 

必殺マジカルCQCで3人対峙したカミミンの次の相手はスリーオブカード!

 

ツンデレ・メルヘン・セロリとズバ抜けてヤバい奴らにカミミン大ピンチ!!?

 

このままでは『TOUMA』お兄ちゃんが……

 

その時、カミミンに新たな力が!!

 

<機動装甲>! エンゼルモードにフォルムチェンジ☆

 

 

 

後編へつづく


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