「あなたのことが、好き……かもしれない」
ここ数日、ずっと私の心の中で渦巻いていた、制御できない感情。
それをついに、内から外へ吐き出した。
「………」
私の言葉を聞いた一夏は、目を丸くして固まった後。
「……マイケル?」
「冗談じゃないわ」
口を開いたと思ったら、意図不明のボケをかましてきた。瞬時に返しができるあたり、私も大分慣れてしまっているらしい。
「あー……じゃあ、マジなのか」
「戸惑うのも当然よね。私自身だって、よくわからないもの」
私が歩んできた道を、すべてではないにしろ彼は知っている。だからこそおかしいと思うに違いない。男性を避けてきた女が、たった2ヶ月ちょっとで男性を好きになってしまうなんて。
こういうの、日本語でなんというのだったかしら。
「ねえ、一夏」
ああ。そうそう、思い出した。
「私って、ちょろいのかしら」
「ちょろい?」
「そう、ちょろい」
言葉にしてみると、なかなか軽い響きだと思った。
一夏は、なんと答えるだろうか。
「あくまで俺の意見だが……確かに、ちょろいってカテゴリーに当てはまらないと言えなくもない」
「やっぱり、そうよね」
「でも、そんな深刻そうな顔する必要もないと思うけどな」
「え?」
私、そんな顔して……るわよね。自分の中で解決できないから、こうして彼に打ち明けているわけだし。
それより今は、続きの言葉が気になる。
「別にいいじゃねえか。人の感性とか考え方とか、10人いたら10人違うんだ。杓子定規に当てはめて、ちょろいのは駄目だとか決めつけるのも変な話だろ。少なくとも俺はそう思う。だからまあ……俺に惚れたってんなら、それはそれで。あ、まだ『かもしれない』って段階だったか」
「……そうね。まだ、好きかもしれないってだけ」
ふいっと視線をそらす一夏。ひょっとして照れているのだろうか。
でもすぐにこちらに向き直って、彼はにやりと笑ってこう言った。
「時々、理屈に合わないことをするのが人間なんだよ」
それはつまり、私の心変わりを受け入れてくれるということだろうか。
だとしたら。
「アニメのセリフをドヤ顔で語るの、かっこわるいわよ」
「うげ、知ってんのか」
しまった、と顔をしかめる一夏。私がイギリス出身だからと油断していたようね。
「源いちかちゃんのありがたいお言葉、しっかり頂戴したわ」
「やめろ引っ張るな。結構本気で恥ずかしい」
顔を赤くして怒ったような声を出すが、全然迫力足らずだった。今後も彼をからかうネタとして覚えておこうと思う。
「ふふっ……でも、ありがとう。あなたのおかげで、元気が出たわ」
「……本当か?」
「本当よ」
一夏が肯定してくれた。だから私も、自分の心の変化を拒絶しようとするのではなく、きちんと向き合ってみようと思えた。
たったひとりに受け入れてもらえただけで、ふっと心の重みが取れたような気がする。
……やっぱり私、ちょろいのかもしれない。
「一夏。もう一度あなたの部屋に行ってもいいかしら」
「ん? 別にいいけど、なんか用事か」
「ええ。少しね」
ボーデヴィッヒさんの積極性にやきもきするくらいなら、私もぐいぐい前に出てみればいい。
好きかもしれない、という曖昧な感情をはっきりさせるためにも、きっと必要なことだから。
……いや、必要だからとか、そんな理屈っぽいことでもないかしら。
ただ私が、そうしたいだけなのだろう。
*
「やっと帰ってきたわね、一夏」
「待っていたぞ」
部屋に戻ると、中で鈴さんと箒さんが仁王立ちしていた。
「ふたりとも、一夏が部屋を出てすぐに来たんだよ。それと、ボーデヴィッヒさんは自分の部屋に少し戻るって」
テーブルの前に座っているデュノアさんが事情を説明してくれた。少し戻るという言い方から察するに、ボーデヴィッヒさんはまたここを訪れるつもりらしい。
「で、箒と鈴は何しに来たんだ?」
一夏が尋ねると、ふたりは同時に1枚の紙を彼に突きつけた。
「トーナメントのペア、私と組んでほしい。この通り書類は用意している」
「右に同じ。あたしたちで言い争ってもらちが明かないから、一夏本人に決めてもらうことにしたの」
「ああ、その話か」
納得したようにうなずく一夏。先ほどボーデヴィッヒさんにペアを組めと言われていたけれど、結局どうなったのだろう。
「うーん……正直、ちゃんと組んでみないことにはどっちと相性いいかもわからないしな」
顎に手を当てて考え込む彼の様子を見る限り、パートナーを誰にするかをはっきり決めているわけではないようだ。
「というわけでじゃんけんで決めてくれ」
「軽い!」
「テキトーすぎ!」
「そんな怒らんでもええやん……」
それなら私にも、まだチャンスはある。
「そのじゃんけん、わたくしも参加してよろしいでしょうか」
そう口にした瞬間、全員の視線が一斉にこちらに集まった。
「よろしいですわよね、一夏さん」
「まあ、俺はお前らの中なら誰でもいいけど」
一夏の了承も得られたので、改めて箒さんと鈴さんの方に向き直る。ふたりとも、私の飛び入り参加に驚くとともに警戒するような顔つきをしていた。
「セシリア、アンタもしかして」
「まだわかりません。ですが、気持ちが決まった時にはきちんと伝えますので」
「……まあいいわ。2人だろうが3人だろうが、じゃんけんで勝てばいいだけだし」
3人で円を作り、各々片手をゆっくりと掲げる。
「最初はグー!」
鈴さんの音頭に合わせて、私たちは同時に自分の信じる手をくり出した。
「じゃんけん、ポン!」
それぞれが出した手を確認するまでの一瞬の間、全員の動きが止まる。
そして、結果は。
「……と、いうわけですわ。一夏さん」
チョキの手をそのまま彼に向ける。そうすると、じゃんけんの手から勝利のVサインに意味が早変わりである。
にっこり笑うと、一夏はなんとも微妙な表情で『おう』と返事をした。
*
「あたしと箒のコンビで優勝してやるわ!」
「私たちと当たるまで負けないようにな」
じゃんけんの直後は落ち込んでいた鈴さんと箒さんだったが、すぐに切り替えてコンビを結成。部屋を出るころにはすっかり元気になっていた。……ライバル視、されてしまったかしら。
そしてふたりが去った後、ほぼ入れ違いになる形でボーデヴィッヒさんが戻ってきた。
「戻ってきていたか。さあ一夏、書類を持ってきたから記入しろ」
開口一番彼女が取り出したのは、先ほど目にしたばかりのトーナメントのペアの申請書だった。どうやらこれのために自室に戻っていたらしい。
「残念だったな。俺はセシリアと組むことに決まった」
「なに?」
「ボーデヴィッヒさんがいない間に、ちょっとした勝負があったんだよ」
一夏とデュノアさんの言葉を聞いて、彼女の視線が私に向けられる。ちょっとした勝負がじゃんけんだと言ったら怒られそうだ。
「本当か」
「ええ。わたくしも一夏さんと組みたいと思っていましたの。本人からの許可もいただけましたし」
鋭い目つきで射抜かれるが、こちらも引き下がるという選択肢はない。たとえ異議をとなえられても、納得してもらえるまで努力する覚悟はある。
「………」
腕を組んで私を見つめていたボーデヴィッヒさんは、やがて目を閉じて数秒考え込むような様子を見せ。
「まあ、お前ならいいだろう。私はデュノアと組むことにする」
目を開くと同時に、意外にもあっさりと首を縦に振った。
「え、僕?」
「ペアを組むとなれば一緒にいる時間も増える。お前としても、事情を知っている人間がパートナーの方が都合がいいだろう」
「うん。それはそうだけど……いいの?」
「構わん。実力はあるようだからな」
さらに、デュノアさんを誘ってすぐさまペアを作ってしまった。何か言われると思っていただけに、とんとん拍子で話が進んでいくことに違和感まで覚えてしまう。
「あの……いいんですの? 先ほどは一夏さんと組みたそうにしておいででしたが」
「それがベストではあるが、当の本人がこの調子ではな。今回は引き下がることにした。それに、オルコットなら相方としてありだと思えたからな」
「どういう意味ですの」
「ISに関して素人同然だったこの男を、最初に指導したのはお前だと聞いている。今の一夏の実力を見る限り、教官としてはなかなか有能なようだ」
不敵に笑うボーデヴィッヒさん。つまり、私の指導力を認めているからこそ相方の座を譲ったということだろうか。
それに今の言い方からすると、普段厳しいことばかり言っていても、ある程度は一夏のことを評価しているとも読み取れるような。
「ありがとうございます」
「その代わり、しっかりしごいてもらわないと困るがな」
「そこは心配なさらずとも結構ですわ。ふふ」
「ちょっと待て。なんかお前らのやりとり怖い」
一夏がぶーぶー不満を漏らしていたけれど、聞こえないふりをしておいた。
ともかく、これで彼と一緒にトーナメントに参加できる。そのことが、単純にうれしかった。
……ただ、ひとつだけ気になっていることがある。
それは数日前から抱いている小さな引っかかりで、小さいくせに妙に私の心をざわつかせるものだった。
*
私が感じていた不安は、翌日いきなり形になって現れた。
「悪い、ミスった」
トーナメントまで約半月なので、早速放課後にアリーナで訓練を行っている最中なのだが……正直、一夏の動きがおかしい。
「………」
「……そんなに睨むなよ。連携プレーなんて初めてなんだから」
確かに、ただミスをするだけなら、私も注文をつけることはすれ睨んだりはしない。
問題なのは、そのミスの内容。初歩的な失敗を繰り返したり、明らかに注意を欠いていたりと、連携がどうこう以前の話だ。
どれもこれも、ひと月前の彼なら難なく行えていたはず。
「一夏さん。集中していませんわね」
「ちゃんとしてるつもりなんだが」
「では無意識の部分で集中力を欠く要素があるのでしょう」
あえて厳しい口調で言ってみると、一夏はむっとすることもなく目を伏せた。反論しないということは、何か心当たりがあるということだ。
回線をプライベート・チャネルに切り替える。合っているかはわからないけれど、とりあえず私の気になっていることをぶつけてみよう。
「他人に胸を張って誇れる部分」
「……っ」
本屋でボーデヴィッヒさんがこの言葉を口にした時、一夏の反応は明らかに変だった。動揺していたようにも見えた。
そして今も、私の方を見て固まっている。
「やっぱり思うところがあるみたいね。ISの訓練に身が入らないことと、何か関係があるの? もちろん、無理に問い質すつもりはないけれど」
おそらく、これは彼の心の奥に踏み込む話になる。私は以前、自らの心を彼に曝け出したけど、だからといって同じことを強要する権利はないし、そのつもりもない。
「……呆れるような話だぞ? それこそ鼻で笑っちまうくらいの、つまらんやつ」
「別にかまわないわ。あなたのこと、もっと知りたいもの。笑ったりもしない……多分」
「そこははっきり断定してほしいところなんだが」
ため息をつきながらも、どうやら話してくれる気になったらしい。
「無力感」
はじめに一夏が口にしたのは、そんな単語だった。
「昔から、何をするにしてもそれがつきまとってた。俺みたいなちっぽけな人間が頑張って踏ん張って、それで何かが得られるんだろうかってな」
それは、今まで彼が私に見せなかった弱い部分。
「世界で初めてISを動かした男なんて肩書きをもらってから、ちょっとばかり本気で取り組めた時期もあった。ひょっとしたら、変われるんじゃないかって。でも……やっぱり見えないんだよ」
「見えない?」
「俺に何ができるのか。何をしたらいいのか。どっちを向いて頑張ればいいのか。何を目指すべきなのか。今やってること……トーナメントに向けて練習することに、意味はあるのか。……ははっ。言葉にすればするほど、ただの怠け者の言い訳だな、こりゃ」
自虐的な笑みを浮かべて、一夏はそれきり黙り込んでしまう。
「……そう」
どういう過程で、彼がその考えにいたったのか。それは私にはわからない。
わかっているのは、一夏にも弱いところがあるということと。
「一夏。一度だけ、私に騙されてみない?」
私が、それをなんとかしたいと思っていることだ。
「……騙される?」
「俺みたいな人間が頑張って何が得られるんだろうと、あなたは言ったわね。その答え、ISでなら見つけられると思う」
彼と出会って、一緒に訓練を重ねた最初の10日間。その過程で私は、彼には見込みがあると感じていた。飲み込みも早いし、ひとつのことに打ちこめる力もあると思えたからだ。
ただ、それを説明したところで、彼に自信を持たせることはできるだろうか。
「根拠は」
理屈めいたことを語っても、一夏の心を動かせる可能性は低い気がする。彼自身だって、今までいろいろ考えてきたはずなのだから。様々な理屈を使って答えを見つけようとして、それでも何もつかめなかったのだろうから。
だからこそ、私が用意できる答えはひとつだけだった。
「私の直感よ」
「……へ?」
「心配はいらないわ。私の勘、よく当たるから」
自分でもびっくりするくらい、自信満々な響きの声が出た。一夏はポカンとしているけれど、私は本気だ。
「だから、一度私の言葉に騙されてほしい。私に委ねて、トーナメントまで必死に頑張ってほしい」
それでもうまくいかなければ、私ができることは何もない。素直に謝って、必要以上に彼の心に立ち入るようなことはもうしない。
「どうかしら」
言葉を結んで、一夏の反応を待つ。
「……どうかしらって、お前なあ」
1分ほど経っただろうか。彼がようやく口を開いた。呆れたような表情で、私の顔を見つめている。
「ただの直感って、もうちょっとなんかなかったのかよ」
「ただの直感じゃなくて、私の直感よ」
「……そうかよ」
いつの間にか、一夏の唇の端が吊り上がっている。目つきも好戦的なものに変わっていた。
「そこまで言うんなら、騙されることにするか」
どうやら、燃料の投下には成功したみたいだ。
「そうと決まれば特訓ね。ここからは本気でしごくから覚悟するように」
「めっちゃうれしそうだな」
「だってようやく手加減せずに鍛えられるし」
「お前、ひょっとして人をいじめるの好きなやつか? いじめっ子気質か?」
「SかMかで言えば、まあSでしょうね」
別に今笑っているのは、サディストな一面が出てきたからというわけではないのだけれど。
ボーデヴィッヒさんにも言われたことだし、しっかり指導していかないと。
「……ふふっ」
「うわ、サディスティックスマイルだ」
「違うわよ。ただ単に、あなたはそうやって無駄に口数多い方が似合うと思っただけ」
その日から、私と一夏の特訓が始まった。目標はもちろんトーナメント優勝。
毎日日が暮れるまでISを動かし、日が暮れてからは座学の勉強。
そうやって中身の濃い時間を過ごしているうちに、あっという間に日々は過ぎていき――
*
「トーナメント、お疲れ様」
「そっちも、お疲れ」
月明かりが照らす中、誰もいない中庭で、缶ジュースでの乾杯を行う。
わざわざ屋外の芝生の上に陣取っているのは、私が素のしゃべり方で話したいとわがままを言ったためだ。
もう一度あたりに人の気配がないことを確認してから、私は手に持つコーラに口をつけた。
「ごめん。俺がもう少しシャルルを抑えられてたら、結果は違ってたかもしれないのに」
「一夏は十分頑張ってくれたわ。慰めなんかじゃなく、本心からそう思ってる。だいたいそれを言うなら、私だって反省すべき点は多いんだから」
1回戦から勝利を積み重ね、迎えた今日の決勝戦。相手は準決勝で箒さんたちを破った、デュノアさんとボーデヴィッヒさんのペアだった。そして大勢の観客が注目する中、最後の最後で私たちは負けてしまった。
「でもなあ……もうちょっとなんとかできたはずなんだがなあ」
「切り替えましょう。今はとりあえず、準優勝のお祝いよ」
ぶつぶつとつぶやく一夏をなだめると、彼もようやく缶ジュースを飲み始めた。
その様子を見て、私は思わず笑みをこぼしてしまう。
「ん、どうした?」
「うれしくて、ね」
「何が」
「さっきまでのあなた、一生懸命今日の試合を振り返って反省していたでしょう。それって、ちゃんと次を見据えているってことよね?」
『何をしたらいいのかわからない』人間なら、そんなことはしないはず。
私の言わんとすることを理解したらしい一夏は、夜空を見上げて口を開く。
「今日の試合でわかった。当たり前だけど、まだまだお前やラウラ、シャルルには全然届かねえ」
そう言いながらも、彼の横顔からは穏やかな雰囲気が伝わってきた。
「でも、俺よりずっとでかいものを見ているお前らと最低限同じ土俵に立てたっていうのは、ちょっとは自信になるかもしれない。結果が出るってのはありがたいもんだな」
「あなたの目指すもの、見つかった?」
「さすがにそこまではな。けど、短期的な目標なら決まったぜ」
「それは?」
私が尋ねると、彼はこちらに振り向いてにやりと笑う。
「あのオカンよりも強くなって、鼻をあかしてやること」
「……ぷっ」
あんまりドヤ顔で言うものだから、思わず吹き出してしまった。
「なんというか、あなたらしいわね」
*
「なあ」
それからしばらく他愛のない話を楽しんでいると、急に一夏の声のトーンが下がった。
「どうしたの?」
「あー、その、だな……この前、俺のこと好きかもしれないって言ってただろ」
「っ!? けほっ、けほっ」
おずおずと彼が口にした言葉は、私にとってまさに不意打ちと呼べるものだった。コーラを飲んでいる最中だったので、驚いた拍子にむせてしまう。
「大丈夫か?」
「え、ええ。大丈夫よ。それで?」
「いや、結局どうなったのかなーって」
つまり、私の気持ちが決まったのかどうかを尋ねているのだろう。
「そうね……いい機会だし、伝えておこうかしら」
この2週間で気持ちをしっかり整理して、答えはとっくに出ていた。
「一夏。私、やっぱりあなたのことが好きみたい。友人としてではなく、異性として」
その答えは予想していたのだろう。一夏はあまり驚いた様子は見せなかった。
「でも、お前今まで俺以外の男とまともに接してこなかったんだろ? 初めて男とある程度関わりあったせいで、勘違いしているのかもしれないぞ」
「そんなわけない……とは、言いきれないわね」
「なら」
「でも」
彼の言葉を遮るように、私は声を強める。
「私はあなたのそばにいたいと思った。あなたと離れたくないと思った。あなたのぬくもりを感じたいと思った。その気持ちを、恋だと言ってはいけないの?」
「なっ……」
顔を赤くしてそっぽを向いてしまう一夏。
「お前、相当恥ずかしいこと言ってるぞ」
「いいじゃない。ひょっとして照れちゃった? 顔真っ赤よ」
「それはお前もだろ」
彼の指摘した通り、言った本人である私も恥ずかしくなってしまっていた。
「ねえ一夏。あなたは、どうなの」
「え?」
「その……私のこと、どう思ってるのかしら」
恥ずかしいついでに、腹をくくって聞いてしまおう。そう思い立った私は、ずっと気になっていたことを口にした。
「……嫌いじゃない」
「それだけ?」
「待て、今言葉を探してるところだ」
急かすなと怒られてしまったので、何も言わずに答えを待つことにする。
「まあ、あれだ。目標に向かって頑張ってるお前の姿は、好きだな。きれいだと思う。……恋かどうかは知らないけどな。かもしれないって域には達してる可能性もある」
「そう……きれい、ね」
思ったよりもずっとうれしい言葉をもらえたので、口元が緩んでしまった。
「なら、その『かもしれない』を確信に変えればいいのね」
彼の気持ちがどんなものなのか。私の気持ちがどんなものなのか。すべてを理解しつくすのは、きっと難しいことだ。
けれど、ゆっくりでいい。少なくとも、この学園を卒業するまでは一緒にいられるのだから。
その後、私たちがどうなるのかはわからない。今の時点では想像すらできない場所に行くことになるのかもしれない。
願わくば、私と彼の歩む道が重なるものでありますように。
「今後ともよろしくね」
熱を感じたのは、夏に入った気候のせいか。それとも照れのせいか。
これもやっぱり、わからない。
色々と詰め込みましたが、これにて第二部完結です。で、おそらく続きはありません。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。途中でエタり気味になりながらも終わらせることができたのは、ひとえに皆様のおかげです。
この第二部で言いたかったこと。それは、「ちょろくてもいいじゃん」です。ちょろインの代表格みたいな扱いをされることもあるセシリアさんですが、そのちょろさも魅力のうちだよねってことです。それが言いたかっただけです。
番外編から描写が続いていた一夏の心の問題について。中学のころにあった出来事というのは、原作でおなじみのアレです。あの出来事によって若干心が折れてしまった一夏が、今作の性格改変一夏です。ギャグセンスは原作一夏と違ったベクトルでやっぱりひどい。
シャルが今後どうするのかについてですが、一応形にはしているのですが本筋からずれるし描写を入れる隙間もないという理由で省きました。他のキャラに関しても影が薄くなってしまったのは反省点です。あくまでメインは一夏とセシリアの2名であるとはいえ、もうちょっとなんとかできた気もします。
後書き(反省)は以上です。
最後にもう一度、読んでくださってありがとうございました。