ワールドトリガー-女神の名を持つ黒トリガー- 作:ぼいら~ちん
お待たせしました(誰も待ってないだろうけど)
7話スタートです
「良いのかよ湊先輩?
これであんたらはボーダーへの叛逆者だぜ?」
「恩人への恩を仇で返すことに比べたらそんなもの屁でもありません」
ぎりっと音が立つほど強く奥歯を噛み締める。
それにつられてレイガストを握る左手にも力が篭った。
「……ごめんなさいね、灯。
こんなことに巻き込んでしまって」
「大丈夫ですよ、死なば諸共、です」
「悠長に話をしている余裕があるだと……?!
巫山戯るのも大概にしろ!!」
堪忍袋の緒が切れたと言うべきか、咆哮を上げた秀次は弧月による斬撃を私に見舞う。大振りで攻撃するのがバレバレの一撃ではあるもののそれ故に力強く、片手で持っていたレイガストを両手に持ち替えて防いだ。
「両脇ががら空きですよっ……とっ!!」
秀次の背後から飛び出した陽介が片手に持った槍による突撃を見舞おうとするが、レイガストの刀身をシールドモードへと変形させ、攻撃から身を守った。
「スラスター!!」
「くっ……!!」
「うおっ?!」
そう叫ぶと体がレイガストに引っ張られるような感覚を覚える。それを制御してシールドで受けていた二振りの刃を押し返した。
「早く……鋭く!!」
背後から小さく声が聞こえてきたのも束の間、秀次と陽介の腹部で一瞬だけきらりと何かが光った。
プシュー
すると、二人の腹部が5cmほど裂け、そこから体内のトリオンが溢れ出した。
◇ ◇ ◇
「今のは……一体……?!」
一瞬だけ米屋先輩と三輪先輩の腹の辺りがきらりと光った瞬間、そこからトリオンが噴き出した。多分あれは吹上先輩の弧月による一撃だろう。ただ、今までに弧月を使う正隊員の模擬戦などは何度も見たが、あそこまで早い斬撃は初めて見た。残像すらも残らない素早い攻撃……想像するだけでも冷や汗が止まらなくなった。
「早いだろ、あれ。
トリガーの能力とかそういうのじゃないんだぜ?」
「ふ、吹上先輩?!」
「ははっ、雷斗でいいよ。
吹上は3人もいるからな」
背後から聞こえた声に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。振り向くとそこには目の前で戦っている灯先輩の双子の兄である雷斗先輩がそこに立っていた。
「……アンタはどちらさま?」
「ああ、俺は吹上雷斗。
そこで戦ってる灯の双子の兄貴だ」
「ふきあげ……ってことはクロナの家族か」
「ああ、吹上黎奈は俺の姉さんだ」
空閑の質問に対して雷斗さんはにこっと優しく微笑みながらそう答えた。
姉さん達が戦っている最中であるにも関わらず、2人は話を続けている。空閑に至っては命を狙われているはずなのに、僕でも分かるこの妙な安心感は何なんだろうと疑問符を浮かべながら再び姉さん達に視線を戻した。
◇ ◇ ◇
「挟まれます、ガードを!」
「はいっ!」
私の得物と秀次のが、そして背後では灯のと陽介の武器がぶつかり、ガキィッと大きな音を立てた。
「スラスター!!」
そう叫ぶと三度レイガストは前に向かって推進力を得る。
「そう何度も同じ手は食わん!!」
レイガストに引っ張られるような感覚を再び覚える。
しかし、その時私はそれを
それは秀次の剣さばきによって背後に弾き飛ばされた。
「隙だらけだ!」
「……
私がそう呟いた時には既に秀次が左手に持つ拳銃から放たれた黒い弾丸が着弾する直前だった。
◇ ◇ ◇
「なっ……?!」
目の前で姉さんのトリオン体に真っ黒な重石が現れる。しかし、その表情は笑みを浮かべており、トリオン体の重石はごとんと音を立てて床に落ち、本体は青白い粒子となって消えていった。
「これで終わりっ!!」
「後ろか!!」
そのとき、三輪先輩のいる方向から声が聞こえた。視線を向けると、先程受け流されて背後に飛ばされたレイガストを左手に持っている姉さんがそこに居た。
三輪先輩は間一髪でそれをガードするとスラスターの勢いに任せ線路側へと飛んでいき、ホームの黄色い点字ブロックの直前で止まった。
「……背後にはお気を付けて」
「なにっ?!」
姉さんの呟きに釣られて後ろを向く三輪先輩。姉さんが居た場所にはトリオンでできた小さな立方体が宙を漂っていた。
「発射!!」
「シールドっ!!」
ほぼゼロ距離からのアステロイドが三輪先輩に向かって降り注ぐ。何発かは攻撃を受けるものの寸でのところでシールドでの防御が間に合った。
「
「ぐっ……?!」
地面を蹴って三輪先輩を肉迫する姉さん。お互いの間合いに入ると互いに剣を振るう。姉さんのレイガストが弧月と交わると姉さんはその攻撃を巧みに受け流し、レイガストを捨て左手には黒い立方体、右手には青白い立方体を展開するとそれを一つに合わせて三輪先輩の右手と拳銃のホルスター、そして左足の3ヶ所にそれを撃ち込んだ。
着弾点からは撃ち出された弾と同じ色の錘が発生しその重さによって三輪先輩は膝を付いた。
「……雷斗先輩……今の瞬間移動するトリガー……何なんですか……?」
「ただのテレポーターじゃないか?
湊先輩のトリオン量なら使えないことはないと思うだろ?」
「でも、テレポーターにあんなデコイを出すような機能はないですし……なんだか
僕がそう言うと雷斗先輩は少し驚いたような表情をした後ににやりと笑みを浮かべた。
「……よく見てるな修。
答え合わせは全部終わってからだ」
そう言われて僕はまだ灯先輩が戦っているのを思い出しそちらに視線を戻した。
◇ ◇ ◇
ガチンガキン
刃と刃が幾度となく交わり幾度目かわからない鍔迫り合いになる。
そんな最中、湊先輩が三輪くんを倒したのに気付いたのと同時にふと米屋くんと目が合った。
「どうしますか、三輪くん倒されてしまいましたが」
「ここでやめろってか?
何言ってんだ、せめて最後までやらせてくれよっ!」
私の問いかけに視線を逸らすことなく真っ直ぐこちらを見つめながら彼はそう答えた。
今風に言うとこういう人のことをバトルジャンキーとか戦闘バカとか言うんでしょうね。ただ、この真っ直ぐな目を見ていると不思議と頬の筋肉が緩んでしまうのがよく分かった。
「分かりました……ですが私も長引かせるわけにもいかないので……!!」
弧月を操り槍を弾くとそのまま体当たりをする。
「ぐっ……?!」
いきなりの事で驚いたたのか米屋くんは後ろによろめいた。
すかさずそこに向かって弧月の刃を振るう。
「甘い!」
しかし、寸でのところで体勢を立て直した米屋くんによって刃が弾かれる。それによって弧月を握っていた右手は外側に大きく投げ出され、私の胴体はガラ空きになる。米屋くんの槍が私に迫ってくる、弧月を手放し、空いている左手を米屋くんに向けて伸ばした。これは負けたくないという渇望から伸びた手ではない。
……勝利への布石だ。
◇ ◇ ◇
「なっ……?!」
いきなり右肩から先の感覚が消え去った。槍を握る感覚も、その腕が加速する感覚も、何もかもだ。
何が起こったか確認しようとそこに視線を向けようとしたが、その必要はなかった。
何故なら、視界の端に俺の槍と
灯の方へと視線を向けると両手には短剣型のトリガー「スコーピオン」が握られていた。
「
バランスを崩した俺は勢いを右に向けて逸らし、ごろごろと地面を転がるようにして倒れ込んだ。
◇ ◇ ◇
「だぁー!負けた!
さあ好きにしろ!殺そうとしたんだ、殺されても文句は言えねー!」
「殺したりしないですよ。
支部や考え方は違えど同じボーダーの隊員なのですから」
自棄気味に叫んだ陽介はトリガーを解除してその場で大の字に寝転がった。そんな陽介を見下ろしながら灯は半ば呆れながら答えた。そしてふっと微笑んだ後に陽介に手を差し伸べるとそれを手に取り立ち上がった。
「……一件落着、ですかね。
帰りましょうか」
「まだだ……まだ終わってない……!!」
トリガーを解除しようとした直前に背後から聞こえてきた呟きに背筋が震えた。
振り向くと鉛玉で拘束されていない左手で拳銃を握り締め、拳銃の照準器越しにこちらを睨みつけていた。
「ゲームオーバーだよ、秀次」
「あんたは……!!」
声がした方向へと視線を向ける。するとそこには悠一と三輪隊の古寺章平くんと奈良坂透くん、そしてその後ろには声の主であろう彰が居た。
「味方は全員買収済み、それに敵は俺と迅を含めて7人、これでもまだやるつもりか?」
「ぐっ……
彰の言葉に苦虫を噛み潰したような表情をすると秀次はやっと諦めたのかその場で弧月を手放し、怒りに体を震わせながら叫んだ。
掛け声とともに爆散する秀次のトリオン体、それと同時に一条の光が本部の方向へと飛んでいった。
「……賢明な判断だ。
もし湊達が居なくてもやめておいた方がいいっては言ったのを撤回するつもりはないけどね。
何せ、遊真のトリガーは
「黒トリガー……?!」
◇ ◇ ◇
ガシャン
「黒トリガー……やはり……有吾さん……!!」
迅さんの台詞を聞いたその直後、無機質な落下音と共に小さくはあるが姉さんの声が聞こえてきた。姉さんを見ると、持っていたレイガストは無意識のうちに手放しており、その両手は鼻を覆い隠しており表情は見えなかった。しかし、手の震えや涙が溜まった瞳を見ればどんな感情を抱いているのかは一目瞭然だった。
「姉さん……大丈夫?」
「……大丈夫。
ええ……大丈夫です……」
僕が声をかけるとハッとしたように体をピクっと震わせ、震えた声でそう言った。
ごしごしと目元を擦るような仕草を見せると、何事も無かったかのようにいつも通りの表情に戻った。
「さあ、悠一、修。この後は本部に戻った秀次がこのことを偉い人たちに言うでしょうから私達が証言を偏らせないようにしに行きましょう」
「お、おう……じゃあ、またな」
「千佳、空閑!
お前達はなるべく安全なところに居るんだぞ!!」
「その辺は大丈夫です修くん。
あなた達が戻るまでは私たちが彼らを警護していますから」
平常運転に戻った姉さんに迅さんと共に手を引かれる。空閑達のことが心配だったから声をかけると、大丈夫だと灯先輩が答えてくれた。雷斗先輩と松風先輩もにこやかに手を振っているから任せても大丈夫だろうと判断した僕は軽くお辞儀をして姉さんのあとを追った。
次回をお楽しみに