あとがきが寂しいので、簡単なデジモン紹介欄にしてみました。
グレイモンを黒い歯車から解放した有音君たちと、私とギルモンは一緒に歩き始めた。
「やっぱりお前は強いよなぁ、クロ」
「マダマダ、ワタシダケ……ムリ」
「成長期で成熟期と渡り合うだけでも相当だと思うんだけどなぁ」
「アニキアニキ、オイラは?」
「お前はもう少し腕を磨かないとな」
「えーっ! オイラだって進化すれば強いのにぃ~!」
「そりゃあ、進化して同じ土俵に立てばな。でもクロは自分よりも進化してる相手に戦って手玉に取ってただろ? それくらいやらないと強さ自慢にはならないだろ」
「アマリ、イワナイデ……ハズカシイ」
「うーん。わかってるけどさぁ」
途中から入ってきた私が言うのもなんだけど。ちょっと疎外感を感じてます。まぁ、まだ会って一時間くらいしか経ってないから、仕方がないのかな。
「有音君のアグモン、もう進化出来るんだ」
「あぁ。まぁね。死にそうな思いはしたけど」
私が呟いた言葉を拾ってくれた。ここから話を繋げていかないと。
「クワガーモンと、戦ったんだっけ?」
「ああ。アグモンが捕まって、それを助けるのにクワガーモンに殴りかかってさ。反撃されて、もうダメだって時に、デジソウルが使える様になったんだ」
このデジヴァイスも元々スマホだったと、デジヴァイスを見せてくれる有音君。
デジタルワールドは不公平です! 私だってグレイモンから必死に逃げたのに。
「あまり考えたくないけどさ。やっぱりデジモンを進化させる為には、ピンチに立ち向かう勇気とかそんな辺りが必要かもしんないな」
苦虫を噛んだ様な険しい顔をしながら口にする有音君。
言いたいことはわかる。でも、だからといって自分からわざと危険に飛び込んでもダメ。それは正しい勇気にならないから、進化したとしても、正しい進化にはならない。
私は嫌だなぁ。ギルモンが真っ黒なグラウモンとか、メギドラモンになっちゃうのはイヤ。
「まぁ、ギルモンは順当に進化すればメギドラモンになるんだけどな」
「ええ!? ど、どういうこと!?」
有音君の一言に私は慌てて食いついた。ギルモンはデュークモンになるはずじゃ。
「デュークモンはある意味での例外。ギルモンのウィルス種としての力を制御した個体がなる究極体。アニメだとパートナーが居たからギルモンはデュークモンに進化出来たみたいなもので。普通は高まったウィルス種としてのパワーを発揮出来るメギドラモンになる」
「そ、そんな……」
「まぁ、アニメのはスカルグレイモンの時と一緒だ。正しい育て方と心構えがあれば、メギドラモンに進化してもああはならないだろうし。Dアークがあるなら、マトリックス・エヴォリューションでデュークモンになれる可能性もある。焦らずにゆっくりやりゃあいいさ」
「でも……」
デビモンとの決戦だって控えているし。一週間しないでサーバ大陸に渡ってエテモンとだって戦うのに。
最年長の私が守られてばかりの立場になるなんて、格好つかないじゃない。
「テイマーズを見てたならわかるだろ? それにここはデジタルワールド。なんでもってわけでもないけど、心の想いを形にする世界でもある。02で紋章がなくても、子供たちのデジモンが完全体に進化出来るのは、子供たちの心が紋章の補助が要らないくらい強く働くからだ。まぁ、ホーリーストーンとかチンロンモンの力は例外として」
「私の心次第ってことね」
有音君の言う通りかもしれない。テイマーズの子供たちは、デジタルモンスターカードを自分の意志で違うカードに変える場面もある。
バックの中から、私は一枚のカードを取り出す。
「おっ、ブルーカードだ! 懐かしいなぁ」
「わかるの?」
私の持っているブルーカードは、アニメのブルーカードとは少し違う。正三角形がトライアングルを作って、その中心に逆三角形が収まっている絵柄だった。
「遊び方は今一わからなかったけど、友達とか集めてたのに便乗して一時期集めてた」
そう言いながら私の手にあるブルーカードを見つめる有音君の顔は、子供の様にキラキラしていた。いや子供か。まだ中学生くらいだもんね。
なんというか。私より年下なのに、有音君はスゴいのね。多分私以上にデジモンが好きで、たくさんデジモンについて調べたんだと思う。
私は、アニメだけ何回も見て満足できる子だったから。
「好きこそ物の上手なれ。まさか自分もデジモンの知識をフル回転して過ごす日が来るなんて思わなかったけどね」
私もこのデジタルワールドがテイマーズ次元だったら役に立てたのかもしれないけど。初代とか02は好きだったけど内容は大まかにしか覚えてない。フロンティアとかセイバーズは名前とか内容は少し知っているくらい。クロスウォーズはタイトルを知ってるくらい。
「まぁ、おれも詳しくわかるのは初代からテイマーズまでかな。ビデオテープに録画してあってさ。擦り切れるまで見返したけど、フロンティア辺りは朝起きれなくてあまり見れなかったから」
それでもデジモンのあれこれは勉強そっちのけで調べまくってたけどね。と、有音君は乾いた笑を浮かべる。
あるよね。勉強しなくちゃならないのに全力で他のことに熱中しちゃうこと。
「さっきからアニキたちは何を話してるんだろ?」
「うーーん。わかんない」
「ワタシモ、ワカラナイ……」
うん。まぁ、デジモンたちには野暮な話しかな。
「ねぇ、ちょっとだけで良いからブルーカードとデジヴァイス貸してくれる?」
「あ、うん。良いよ」
なんだかうずうずという感じて私からデジヴァイスとカードを受け取った有音君。いったいなにを始めるのだろうか。
「久し振りにやるから上手く出来ると良いんだけど」
すると有音君は真剣な表情を浮かべ、腕を曲げながら左手に持ったDアークを胸の前で構え、画面を私たちの方に向け、カードリーダーは上向きに来るように構える。
右手には私から受け取ったブルーカードが人差し指と中指でカードの下を挟んでいる。
「カードスラッシュ――!!」
Dアークのカードリーダーに、絵柄を私たちに見せるように構えたブルーカードの右下からスラッシュして行く。
「マトリックス――エボリューション!!」
Dアークは胸の前で構えられたまま動かず。スラッシュしたカードだけはそのまま右腕の伸びきる先まで持っていかれる。腕伸びきるまでにカードは地面と水平になって見えなくなってしまう。再び絵柄を見せる為に手首を回しつつ人差し指と中指で挟まれたカードに、スラッシュを始めた右下に添えられた親指の動きで一回転させると、再び絵柄が私たちに見せられる。
オリジナルのカードスラッシュスタイル。ちょっとカッコ良かったかも。
「っ、なに…!?」
「あれ? デジヴァイスとブルーカードが」
有音君が少し驚くような声を出すと、私のDアークとブルーカードに変化が生じる。
薄汚れていたDアークは真新しい新品同様の姿になって、ブルーカードも三角形のイラストが消えてアニメのブルーカードのそれに変わった。
「あー……、ゴメン。なんか余計なことしちゃったかも……」
なんというか。本当に有音君は物語りの主人公みたいに色々とスゴい。
「ううん。むしろ嬉しいかな。デジヴァイスが新品みたいになったから」
有音君から返して貰ったDアークの電源ボタンを入れると、画面からデジタルディスプレイが投影される。
これ、オモチャじゃなくて本物のデジヴァイスになっていませんかね?
「いやぁ、結果オーライってことでおひとつ」
有音君、デジモンだけじゃなくてオモチャのデジヴァイスまで進化させちゃったみたいです。
◇◇◇◇◇
「さて。夜が来る前にこの迷わずの森を抜けられれば良いんだけど」
川沿いをムゲンマウンテンへ向かって、おれたちは歩いていく。
まぁ、アレだ。これで芹香もギルモンを進化させることが出来るだろう。
なぜこうなったのかはわからない。ただ、カードを切った瞬間に、デジソウルが勝手にDアークとブルーカードに流れていったのが原因だとは思う。
考えても仕方がない。今はとにかくファイル島がバラバラになる前に迷わずの森を抜けないとならない。
「トマッテ……」
「ん? どうしたクロ?」
「ナニカ、クル……」
立ち止まって耳を澄ませる。風の音、水の音、木々の音。だがそれ以外の音が聞こえる。大きな翼の羽撃く音。
「な、なに……っ、なんの!?」
夕焼けの空に浮かぶ黒い影。それは段々と近づいてきた。
「……とうとうデビモン配下のお出ましって事かな」
「え?」
おれの呟きに隣に居た芹香が反応する。だがそれに応える前に、空からの刺客は舞い降りてくる。
「デビドラモンだ!」
そのデジモンの名を口にすると、みんなの空気が張り詰める。
赤い四つ目と黒い身体の竜型のデジモンだった。
デビドラモンは成熟期デジモンだが、デビモンがダークエリアから召喚するデジモンだ。それに、グレイモンの時に感じた黒い歯車の気配は感じないが。濃密で肌がピリピリする重圧を感じる。おそらくこれが殺気ってやつなのだろう。
「ギシャアアアアアア!!」
デビドラモンは低空飛行でこちらに突っ込んでくる。
「避けろみんな!」
おれが叫ぶと、デビドラモンの進路上から身を投げ出して避ける。
「くそっ、速いなアイツ……」
擦れ違い様に1発殴ってやろうかと思っていたが、想像以上のスピードにクロスカウンター戦法は事故る危険性が高そうなので様子見だ。
「《ベビーフレイム》!!」
「《ファイヤーボール》!!」
通り過ぎて空に上がっていくデビドラモンを、アグモンとギルモンが攻撃するが、難無くと火球を避け、こちらに向かって降下してくる。
それに合わせてクロがジャンプして跳び上がる。
「《ポーンバックラー》――!!」
盾を構えてデビドラモンの突撃に合わせて攻撃するつもりなのだろう。
だがデビドラモンはその長い腕を振るうだけで、クロを弾き落としてしまった。
「クロ!!」
落ちてくるクロを受け止めながら、パラディンソードを抜いて、追撃をかけようと此方に向かってくるデビドラモンに対して一撃を降り下ろす。
「くっ、硬い…!」
デビドラモンの爪とカチ合ったパラディンソードは火花を散らしながら弾かれた。
岩を斬った時は水を斬るみたいに全く抵抗はなかったのに、今のデビドラモンの爪はまるで鉄骨を鉄パイプで殴ったかの様な手応えだった。
クロを降ろして、両手でパラディンソードの柄を握り締める。
旋回して再度攻撃してくるデビドラモンに、もう一度パラディンソードを降り下ろす。
「くぅっ、あああああ!!」
「ア、アニキ!! うぎゃっ!」
また爪と刃が激しく火花を散らしながら弾かれた。衝撃で吹き飛ばされた身体を、アグモンが受け止めてくれた。
「いたたた。大丈夫か、アグモン」
「お、オイラは大丈夫ぅ…」
しかし受け止め切れなかったアグモンを尻に敷いてしまったので、慌てて退きながらアグモンを気にかける。一応大丈夫らしい。
「くそっ、交通事故覚悟で直接ぶん殴るか!?」
とにかくどうにかしてデビドラモンを地上に引き下ろすか、デビドラモンを殴ってアグモンを進化させないと先ず戦いにならない。
おれがもっと上手くデジソウルを使えたらこんなことにならないのに――。
おれ自身、デジソウルがどんなものかハッキリとわかっていない上に。ただ単純に、おれだけの力じゃ、アグモンを進化させるだけのパワーがなかった。だからおれは、敵のデジモンを殴るのと同時に、殴ったデジモンからパワーを奪ってアグモンを進化させてきた。多分。
自信がないのは、戦っている時は興奮しすぎて細かいことを考えて動いてないからだ。
だが、デビドラモンの長い腕を掻い潜って直接殴りに行くのは危険だとカンが告げてる。だからパラディンソードでどうにかしてデビドラモンを引きずり降ろせないかと思ったが、パラディンソードの攻撃もまるで効いていない。
腕の悪さは重々承知だが。ナイトモンが態々おれの為に用意してくれた剣がナマクラなはずがない。相手が成熟期デジモンでも掠り傷くらいは付けられるはずの切れ味はあるはずだ。なのに――。
なにか他に理由があるのか。
「有音君、前っ!!」
「やばっ!?」
戦いの最中に思考を没頭させ過ぎた。
芹香の声で現実に引き戻されると、目の前にはデビドラモンの赤い爪が迫っていた。
咄嗟に腰のベルトに差してあるパラディンソードの鞘を逆手で抜いて防御する。だが真正面から受けてしまう角度だった為、そのままずるずると引き摺られて、背中を思いっきり巨木に叩きつけられた。
「ガッ、かはっ!!」
デビドラモンはそのまま再び空に駆け上がっていく。
「有音君! 大丈夫? しっかりして!」
駆け寄って来た芹香が声を駆けてくる。デジモンたちは空のデビドラモンを睨み付けている。
「もう逃げよう! このままじゃケガじゃ済まさなくなっちゃう!」
「…逃げて、その後どうする……」
デビドラモンの殺気は消えていない。おそらく何処までも追い掛けてくる。終わらない鬼ごっこで体力を消耗するよりも、持久戦に持ち込んで好機を窺って、逆転の一撃を決めるしかない。
「ここはアニメの世界だけど、私たち生きてるんだよ! 一歩間違えたら死んじゃうかもしれないのに、カッコつけないで!!」
ああ。そうさ。ここはアニメの世界。いや、デジタルワールドというひとつの世界で、今はここに、おれたちは生きてる。背中の痛みが何よりの証拠だろう。だから――。
「だから……一歩も退けないな」
パラディンソードを杖がわりに立ち上がる。またデビドラモンがおれの方に向かってくる。デジモンたちが必死に止めようとしているが、デビドラモンの速さに対応出来ていない。
後ろは木。前には女の子。その後ろにデビドラモン。
……ハッ、余計に逃げられるかこんな状況じゃあなァ!!
芹香の前に躍り出ると、パラディンソードを構えて、足と腕に練れるだけのデジソウルを注ぐ。後には引けないんだ。ここでデビドラモンを受け止めてやるッ!!
「はあああああああっ!!!!」
「《クリムゾンネイル》!!」
パラディンソードど、文字通り深紅の爪が激突する。
刀身を伝って、全身が吹き飛びそうな衝撃が走る。
だが退けない。退かない。退いてやらない!!
「背中に女の子庇っているんじゃ、男が根性見せないとなァァァ!!!!」
エネルギーを貯める深紅の爪と、クロンデジゾイド製の剣が激しく火花を散らして鬩ぎ合う。
「うおおおおおおおーーー!!!!」
雄叫びを上げ、根性でデジソウルを練り上げる。一瞬でも競り負ければ、後ろの芹香が危ない。
大人として、なにより男として、ここは一歩も退いたら行けない場所だ。
◇◇◇◇◇
デビドラモン――。
そのデジモンを、私は知っている。テイマーズでギルモンがグラウモンに進化する時に戦ったデジモン。
「うぅぅぅあああああああーーー!!!!」
声を張り上げながら、目が眩しいくらいの光を身体に纏っている有音君は、必死になって、デビドラモンの攻撃を受け止めている。
「アニキぃーーー!!」
「セリカーーー!!」
ギルモンとアグモンが私たちの方に向かってくる。
でもデビドラモンがデジモンたちをひと睨みすると、顔の赤い四つ目が光って、デジモンたちの動きが止まった。
「デビドラモンには、その魔眼で相手の動きを封じる力がある。絶対に、眼を合わせるな、よ…っ」
苦しそうに声を絞り出す有音君。
私より小さな身体で、倍以上に大きいデビドラモンの攻撃を受け止めている。私が居るから、有音君は動きたくても動けない。
私の所為で、有音君はしなくて良い苦労をしてる。さっそく足手纏いになってしまった……。
「もう良いよ! 有音君逃げて!!」
「っ、バカいうな。そんなことしたら、おれは自分を赦せないっっ」
ずさ…っと、有音君の身体が後ろに下がる。光も少し弱くなった。
「ちくしょう……。おれにも、究極体を倒せるくらいのデジソウルがあればっ。こんな成熟期デジモンなんかに!」
少しずつ後ろに下がる有音君の身体が、もう限界なのを私に伝えてくる。
有音君がやられてしまったら、真後ろに居る私もデビドラモンにやられちゃうんだろう。
それでも良い。足手纏いの私なんて、居ない方が良い。いざとなったら、有音君だって、自分の命を大切にするはず。それで良いよ。
「言っとくけど。梃子でも動いてやらないからな!」
どうして。まだ会って半日も経たない私を、どうしてそんなに必死に守ってくれるの?
「おれはナイトモンから、戦うために稽古をつけて貰った。騎士になるとか、そんな気はないけどさっ。くぅぅぅっ、あああああああーーー!!!!」
声を絞り出す様に叫ぶ有音君。でももう光はどんどん弱くなっていくばかりだった。
「ぐぅっ、デジソウルが……、もうっ」
有音君の顔が険しくなる。それでも、有音君は私の前から退かない。
「くっ、だから、こんなおれでも、せめてっ。師匠に顔向け出来ないような男にはなりたくないっ!!」
身体全身に力を込めても、デビドラモンの勢いはもう有音君の力を上回っている。
私はどうすれば良いの。私に何ができるの。私は、こんなに頑張っている有音君の為に、何ができるの!?
「ここに居る意味があるかもしれないって言った自分の言葉にくらい、責任持てよなっっ」
ここに居る意味……。私に出来ること……。私は、ギルモンのテイマー。でも、私はなにも……。
テイマー……。
「そう、私はデジモンテイマーだもの……。出来ること、いくらでもあるじゃない!」
私はデジヴァイスを構える。有音君が見せてくれたみたいに。私が好きで、憧れた子供たちみたいに!
私の目の前に光が集まって、それはカードの形になって、くるくると回っている。
私はその光に手を伸ばして、人差し指と中指で挟む。
「カードスラッシュ!!」
カードをデジヴァイスに読み込む。光はデジタルモンスターカードになった。
有音君を助けたい。そんな私の想いが、カードを生み出したのかもしれない。
「充填プラグインQ!!」
デジヴァイスから光が放たれて、有音君を包み込む。
「!? 力が、戻ってくる…! そうかっ、芹香、攻撃強化系のプラグインをくれ!」
「うん!!」
有音君の言葉を聞いて、有音君を強くしてあげたいと、強く願う。
すると新しいカードが生まれた。
「カードスラッシュ――攻撃プラグインA!!」
新しいカードをデジヴァイスにスラッシュすると、また光が有音君を包み込む。
「きたっ! うおおおおおおお!!!!」
今まで抑えるのが精一杯だった有音君が、デビドラモンを押し返し始めた。
「負けないで、有音君!」
次のカードをスラッシュする。
「カードスラッシュ――キングデヴァイス!!」
さらに攻撃UP倍率ドン!!
「くぅぅぅおりゃああああ!!!!」
とうとう有音君の力がデビドラモンを上回った。
白銀の剣でデビドラモンの腕を打ち上げる。
「コイツはお釣りだ。とっときな!!」
腕を打ち上げられて無防備になったデビドラモンの顔面に、吸い込まれる様に有音君の拳が打ち付けられた。
「うわぁ! すっごーい!」
殴られたデビドラモンが、弾丸みたいな速さで吹き飛んでいく。
「待たせたなアグモン! 進化だ!!」
「待ちくたびれたよアニキ!」
光が有音君の右手に集まっていく。左手にはデジヴァイスが握られている。
「デジソウル――チャージ!!」
光に包まれた右手を、デジヴァイスを握って突き出されている左手に添えると、光はデジヴァイスに移って、デジヴァイスから強い光がアグモンに向かって放たれる。
「アグモン進化――ジオグレイモン!!」
光に包まれたアグモンが、ジオグレイモンに進化して光の中から現れた。
アグモンを進化させちゃった。本当に、有音君はデジモンの物語りの主人公みたい……。私も、あんな風になりたい。
「やられっぱなしはカッコ悪いからな。たっぷり礼はさせてもらうぞ!」
「ギシャアアアアアーーー!!」
デビドラモンは体勢を建て直すと、一直線に有音君に向かっていく。
「有音君!!」
新しくカードをスラッシュしようとする前に、ジオグレイモンが有音君とメガドラモンの間に割って入る。
「捕まえたあああ!!」
突進するデビドラモンを、ジオグレイモンは真正面から受け止めてその動きを封じた。
「でかしたジオグレイモン! クロ、合わせろ!!」
「ワカッタ…!!」
ジオグレイモンに捕まって身動きが出来ないデビドラモンに有音君とクロちゃんが向かっていく。
「スプレンダークラッシュ!!」
「《ポーンスピアー》――!!」
有音君の光の纏った拳と、クロちゃんの槍が、デビドラモンの翼の付け根に突き刺さる。
「グルアアアアアアアアーーー!!!!」
左の翼を攻撃されたデビドラモンは地に落ちる。これで空を飛べないなら勝ち目もある。
「もう向こうの翼も貰うぜ! 芹香!!」
「わかった!」
追撃して完全にデビドラモンを飛べない様にする為に、有音君の意図を理解した私はカードをスラッシュする。
「カードスラッシュ――クィーン・デヴァイス!!」
私のデジヴァイスから放たれた光が、有音君の持つ白銀の剣の鍔に埋め込まれた水晶に吸い込まれ、刀身に刻まれた金色のデジ文字が力強く光を放つ。
「くらえええええ!!!!」
体勢を建て直そうとするデビドラモンの右の翼を、有音君の一太刀が両断する。
「グシャアアアアアアア!!!!」
痛みに叫ぶデビドラモン。可哀想だけど、これは命を懸けた戦いだから、情けはかけられない。
「トドメだ、ジオグレイモン!!」
「わかったよアニキ! 《メガバースト》!!」
ジオグレイモンの口から放たれた大きな火の玉がデビドラモンに直撃すると、デビドラモンは爆発の中に消えていった。
爆発の中からデータが有音君の持つ白銀の剣の水晶に吸い込まれていく。
「終わったな」
有音君のその声を聞いて、私は膝を崩してヘタってしまった。
「ありがとう。助かったよ、芹香」
「ううん。有音君が居てくれたから、私も自分の出来ることを見つけられたの」
「よしんさい。照れるでしょーが」
そっぽを向きながら、有音君は手を差し出してくれる。私がその手を取ると、力強く引っ張り上げてくれた。
「ありがとう。有音君」
「どう致しまして。お互い様さ」
「そうだね……」
そうは言ったけど、私だけじゃダメだった。恐くて、逃げてばかりだったと思う。だからありがとうって、心の中でいっぱい感謝した。
「アニキぃー!!」
「セリカぁー!!」
ギルモンと、ジオグレイモンから戻ったアグモンが走ってくる。
「最後カッコ良かったよ! やっぱりアニキ、すげー!!」
「芹香が居てくれたからさ。アグモンも、クロも、お疲れさん」
「ぎるぅ……ギルモン、なにもしてない…」
「ごめんね、ギルモン。ちょっとずつ私たちも強くなろうね」
「うん。ギルモン、もっともっと強くなるよ!」
夕陽は暮れ、夜がやって来る。日の入りの夕焼けに照らされながら、また私たちは歩き出す。目指すのは始まりの街。
「おのれ……。新たに現れた選ばれし子供たちとそのデジモンたちめ。あの力は危険だ。しかし、暗黒の力の前にはその力も無力であることを今に思い知らせてくれよう」
闇夜に紛れ、堕天使の悪魔が見ていたことも知らずに。
to be continued…
デビドラモン
成熟期 ウィルス種
赤い四つ目を持つ邪竜型デジモン。ダークエリアよりデビモンに召喚されて有音たちを襲った。異常に発達した四肢を持ち、長い腕はそれだけでも脅威である。必殺技は両手の深紅の爪で相手を切り刻む『クリムゾンネイル』。さらに相手の動きを封じる魔眼『レッドアイ』も持つ。