気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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とりあえずこの作品のヒーロー(笑)とヒロインの合流になります。

デジモン界のGガン枠のセイバーズ枠の主人公の所為で、今回軽く無双要素ありますので、苦手な方はそれとなく読み飛ばしてください。


第8話 出逢い 二人のテイマー

 

 アグモンとポーンチェスモンのクロを連れて、ナイトモンの守る騎士の館を後にしたおれたち。

 

 トロピカルジャングルを抜け、迷わずの森の手前で早めの昼食を取っていた。

 

「うわー! スゴいなぁ、アニキ。アニキは料理も出来るのかぁ」

 

「ウマイ……」

 

「口に合ってくれてなによりだ」

 

 アニメでは子供たちは食べ物に若干の不自由をしていたが、おれたちは騎士の館から分けてもらった調味料やら食材やらがあるため、それほど不自由はしていなかった。しかもトロピカルジャングルはクロの庭も同然で、デジリンゴやデジタケといった他の食べ物も拾いながらここに来た為、結構な贅沢な食事をしている。

 

 デジリンゴをすりおろして、醤油と塩、コショウで作ったソースと一緒に肉を焼いた、デジリンゴソースのステーキとか。贅沢な昼食だった。

 

 串に刺したデジタケを火で炙って、醤油を垂らしてパクリ。

 

「んーーっ、うましぃ~!」

 

 普通のキノコのはずだが、一手間するだけで口が蕩けそうになる。ヤバい。これでレモン汁とかあったらもっとヤバい。

 

「なにしてるの? アニキ」

 

「おっ、お前も食べるか?」

 

 次の串焼きキノコを作っていると、ステーキを食べ終えたらしいアグモンが近寄ってくる。

 

 火から離したデジタケに塩をふってアグモンに渡す。

 

「アツいから気を付けろな」

 

「あーい!」

 

 とか言いつつ一口でデジタケを食べるアグモン。こいつの一口はデカくて、ステーキすら一口で丸呑みだからな。もう少しクロみたいに味わって食ってほしいもんだ。

 

 なお当のクロはナイフとフォークで丁寧に肉を切り分けて少しずつ食べている。騎士団出身ともあって様になっているというか、絵になる。カメラでもあれば写真を撮りたかったね。

 

「んん~~?」

 

「どうしたアグモン?」

 

「アニキ、なんか聞こえてこない?」

 

「え?」

 

 アグモンが首を傾げて口にする。おれはデジタケを焼くのを止めて、耳を澄ました。

 

 近くを流れる川の音。焚き火の音。森の木々が風に揺れる音が聞こえてくる。

 

「なぁんも聞こえないぞ?」

 

「イヤ、チカズイテクル……」

 

 なにも聞こえなかったおれが言うと、皿を持ちながらフォークで肉の切り身を刺して口に運ぶクロが横に居た。

 

 おれには聞こえなくて、デジモンたちには聞こえるらしい。

 

「ん?」

 

 だが異変は直ぐにおれも感じた。腰を据える石を伝って、地面が微かに揺れている。しかもその揺れは段々と近づいている。

 

 何かが近づいているのは確かだ。飯の匂いに釣られたデジモンかもしれない。

 

 さっさとデジタケを腹に納めて、右手に手甲を通す。

 

 手甲の色は一点の穢れの無い純白。先が四角い金色の3本の爪は、おれが拳を打ち付けた時に同時に撲れる長さになっている。手甲でありながら、ナックルの役目も兼用している。

 

 細かな造形は違うが、全体像ではとあるデジモンのパーツを彷彿させるデザインと造りをしていた。

 

 これで爪が倍くらい長くて鋭くなると、丸っきりアレのパーツだよなぁ……。

 

 オマケに剣のデザインも何処かアレっぽい。

 

 おれには聖騎士(パラディン)なんて称号は重すぎるよ。

 

 とは言え、どちらもクロンデジゾイド製の武具。その耐久力はナイトモンの言う様にお墨付きだろう。

 

 デジ文字の書かれた鉄の鞘から剣――パラディンソードを抜く。

 

 柄と鍔と刀身が全て純白の剣。金色の刃に金色のデジ文字が刀身に彫られている。Y字に別れた鍔の部分には電脳核(デジコア)が埋め込まれている。

 

 生体金属にもなるクロンデジゾイド製の剣に、デジモンの心臓でもある電脳核を埋め込まれたこのパラディンソードのヤバさは口で説明するまでもないだろう。

 

 下手するとデジモンになるぞこの剣。

 

 という考えは頭の片隅に置きやり、パラディンソードを構えて異変を待つ。

 

 次第に大きくなる足音とデジモンの気配。そして地響きが目の前まで迫ってくる。

 

「きゃあっ!?」

 

「ふぎゅぅぅ…!」

 

 緊張感が最大限にまで高まったところで、茂みの中から女子高生くらいの女の子と、ギルモンが飛び出して転けた。女子高生の足が茂みに引っ掛かって、ギルモンを下敷きにして倒れている。

 

「あぁぁ、ギルモン、ごめんね! 大丈夫!?」

 

「ギルモンもうだめ、一歩も走れないぃぃ……」

 

 素人目で見てもギルモンはずいぶんと疲れているのがわかる。

 

「そこの女子高生とギルモン。一体何があった!?」

 

「え? 人? デジモン? どっち?」

 

 おれが問い掛けると、女子高生は混乱してますというように声を出した。

 

 いやそりゃ、今のおれの格好も少し悪いのか?

 

 黒のジーパンと、黒の半袖インナーの上からプレートと手甲、そしてパラディンソードで武装している。トドメに黒いプレートの肩からマントも掛けているのだ。

 

 基本的に人間は存在しないデジタルワールドでそんな戦士か剣士か騎士みたいなファンタジー全開の格好を見たらデジモンと思われても仕方がないか。

 

「アニキ、来るよ!」

 

 アグモンの声を耳に入れると、視線を女子高生とギルモンの二人組から、森の方に向ける。

 

「グオオオオオーーーッ!!」

 

「ぐ、グレイモンだあああ!!」

 

 森の中から出てきたのはグレイモンだった。

 

「お、追いつかれちゃった……。みんな逃げて!!」

 

 女子高生の彼女がそう叫んでいるが、先ずクロが飛び出して行った。

 

「アシヲ、トメル……!」

 

 地を黒い風となって駆けるクロは、グレイモンの前で大きく飛び上がると、盾を構えて突撃する。

 

「《ポーンバックラー》!!」

 

 クロの放った一撃は、ガインィィィッと、某ACのブーチャ並みに気持ちの良い音を立てて、グレイモンの頭部に直撃した。

 

「グアアアアアアーーッッ!!」

 

 思いっきり頭をぶん殴られたようなものだったのだろう。グレイモンは呻き声を上げながら尻餅を着いた。

 

 改めて見て思う。昨日の手合わせは思いっきり手加減されていたんじゃないかと。

 

「アグモン、あの二人を守ってやってくれ!」

 

 おれはアグモンにそう告げながら、クロに続く為に駆け出した。

 

 クロの一撃を受けて逃げるわけでもなく、まだ戦おうとするグレイモン。何かがあるような気がしてならない。

 

「クロ! 調べ事があるからグレイモンを倒しちゃだめだからな!」

 

「アシドメ、セイイッパイ……」

 

 良く言う。余裕でグレイモンの足元を駆け抜けながらまた跳んで、グレイモンの頭を盾で殴り付けた。鈍い金属音はとても痛そうである。あれでクロはまだ成長期だ。進化したらいったいどうなることやら。

 

「《メガフレイム》!!」

 

 だがやられっぱなしのグレイモンではなかった。

 

 グレイモンはメガフレイムを放っておれたちの行く手を阻んだ。

 

「っ、くそ!」

 

 メガフレイムで砕けた岩の礫を、パラディンソードで打ち払う。固いはずの岩は、しかしパラディンソードの斬れ味の前ではバターの様にスライスされていく。

 

「いい加減に――」

 

 パラディンソードを振るって岩の礫の雨を切り裂き、グレイモン迄の最短距離を駆け抜ける。

 

「しやがれえええーーっ!!」

 

 グレイモンの前まで辿り着き、しゃがみ込むと、バネの様に一気に脚を伸ばした勢いで跳び上がる。デジソウルで強化した脚力は、おれの倍以上高いグレイモンの顔までを一気に打ち上げてくれる。

 

 グレイモンの顎を下から突き上げる様に右の拳で打ち上げる。

 

「グオオオオオッッ」

 

 仰け反ったグレイモンは頭をフラフラとさせると、そのまま前に倒れ伏した。

 

「やっぱり、黒い歯車があった!」

 

 下から突き上げた勢いでまだ宙に居たおれの視線の先には、グレイモンの背中に刺さる黒い歯車が見えていた。

 

「クロ、グレイモンの背中だ!」

 

「リョウカイ……!」

 

 グレイモンの頭に着地すると、そのまま背中に向かって駆け出す。クロも、グレイモンの尻尾の方から駆け上がってくる。

 

「スプレンダークラッシュ!!」

 

「《ポーンバックラー》!!」

 

 デジソウルを纏ったおれの右の拳と、クロの盾の突撃が、前後から黒い歯車に突き刺さる。技名はなんとなくだ。深く突っ込みは要らないぞ。だってただ殴るだけじゃ味気ないじゃないか。

 

 前後からの攻撃の負荷に耐えられなかった黒い歯車は粉々に砕け散った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「うまいうまい! セリカ、これぜーんぶうまいよ!」

 

「いっぱい走ったんだろうからな。お腹一杯までくえな」

 

「うん! ギルモン、お腹いっぱいまでたべる!」

 

 物凄い勢いでギルモンに食われていく食事。新しい食事を運びながら、労う様にギルモンの頭を軽く撫でてやると、犬みたいに手に軽くじゃれついてからまた食事を再開するギルモン。あのバテ様じゃ、多分走るためだけに相当なエネルギーを使っていたのだろう。ギルモンの食欲は多分その反動だろう。

 

「ほんとに、うちのギルモンが、ほんとにすみません」

 

 申し訳なさそうにしながら細々と食事をする女子高生の女の子。

 

 黒く背中まである髪は艶やかだったのだろうが、土埃の所為で今はくたびれて見える。比喩ではなく心身共に相当疲れているのが見てわかる。

 

 黒のブレザーも赤地に黒線のチェックのスカートも、解れたりしていて結構傷みが酷い。

 

 足なんてソックスとストッキングなんかビリビリで役目を果たしておらず、擦り傷だらけだったので、今は秘伝の薬を塗って包帯でぐるぐる巻きになっている。

 

 赤い下縁眼鏡で誤魔化されているが、隈もある。

 

 女子高生と言うよりは、落ち武者みたいにボロボロの彼女の名前は枢木芹香(くるるぎ せりか)と言うらしい。

 

 彼女も、おれとおなじく、車に撥ね飛ばされて、気づいたらこのファイル島に居たらしい。

 

 しかしギルモンなんてファイル島に居たんだな。知らなかった。

 

「あ、いや。この子は私が現実世界で育てたデジモンなの」

 

「育てた?」

 

 どういう意味なのかと首を傾げると、彼女はブレザーのポケットからデジヴァイスを取り出した。

 

「このデジヴァイスの中に居たギルモンが、私を助けてくれたの」

 

 古めかしく薄汚れたデジヴァイス。デジモンテイマーズで子供たちの持つデジヴァイス――Dアーク。

 

 しかもそれは画面の縁が金色のモデルだった。

 

 たまごっち的にデジモンを育てる携帯ゲーム機のデジヴァイスで育てていたデジモンが実体化してパートナーを救う。中々アツい展開を潜り抜けてきたらしい。

 

「ヌメモンに襲われて。ギルモンが助けてくれなかったら今頃……」

 

 何を想像したのか、余計に彼女は俯いて暗い雰囲気を出す。

 

「ヌメモンか。こっちはいきなりクワガーモンに出会して、アグモンが居なかったら今頃お陀仏だったかな」

 

 そう考えると、おれも中々スリリングな旅の始まり方だな。

 

「そっちも大変だったんだね」

 

「お互いにね」

 

 とはいえ慰めあっても仕方がない。おれは先の話題を切り出した。

 

「それで、二人はこれからどうする? おれたちはこの先のはじまりの街に向かう予定だけど」

 

「はじまりの街? それって確かムゲンマウンテンの麓にあるデジモンたちの生まれる街だったっけ?」

 

「yes、そのはじまりの街だ」

 

「でもいったいどうして」

 

 まぁ、はじまりの街に行く理由を話しても別に問題ないか。

 

「今夜辺りに、デビモンによってファイル島と選ばれし子供たちはバラバラにされる」

 

「……きみ、『デジモンアドベンチャー』を知ってるの?」

 

「まぁ、ね。おれもそっちと同じようなもんさ」

 

 そう言いながら、おれもデジヴァイスを彼女に見せる。

 

「そのデジヴァイス。確かセイバーズの」

 

「デジヴァイスic。そっちのはDアーク。一応それなりにデジモンには詳しいかな」

 

 ここがファイル島で、選ばれし子供たちがデビモンと戦っている時期なのは、食事を作りながら軽く説明しておいた。彼女がどの程度デジモンについて知っているのかわからなかったからだ。ただ、彼女の反応を見るに、ファイル島篇の結末までは知っていそうだ。

 

「これからデビモンに操られたレオモンや、デビモン本人とも戦う危険が付き纏う。おれたちと来るならそうなる。そうでないなら、デビモンとの決着が着くまで匿っていて貰える場所を教えることも出来る」

 

 グレイモンから逃げ回っていたとなると、ギルモンはまだグラウモンに進化出来ないということになる。

 

 このファイル島の天王山になる戦いの場に、パートナーが進化出来ない彼女を無理矢理連れていくような事をしても仕方がない。本人の意志が先ずは大事なのだ。

 

「私、何が出来るってわけじゃないけど。私も連れていって欲しい」

 

「これからどうなるかわかっていて。だな?」

 

 おれは彼女を試すような視線を向ける。少しまだ揺れ動いている感じだが、それでも彼女は頷いた。

 

「私がここに居るのも、何か意味があるかもしれないから」

 

 ここに居る意味か。そんなの考えたこともなかったな。と言うより、考える暇も無かった。

 

 大人として、子供たちを助けられるくらい少しでも強くなることしか考えて無かった。

 

「それに、もう心細いのはイヤだから……」

 

 パートナーデジモンが居ても、やっぱり同じ人間同士のコミュニケーションは恋しくなる。おれも、久し振りに人間の彼女と話していてそう思う。

 

「だからお願い、連れていって。頑張って役に立つから」

 

 両手を握られてそう懇願されてしまった。それを目の前にしてダメとは言えなくなってしまった。

 

「ちゃんと守れる保証はないけど。それでも良いなら構わないよ」

 

「あ、ありがとう!!」

 

「ふぎゅっ!!」

 

 役に立てないから了承を得られるとはあまり思っていなかったのか。おれが同行を了承すると、感極まった様に喜びの声を口にしながら力一杯抱き締められた。

 

 女子高生にしては大きめの胸に急に抱き締められた所為で、柔らかいとかそんなのを感じる前にただ苦しかった。

 

「く、くるしっ、はなし、て」

 

「あ、ご、ごめんね…! つい嬉しくて」

 

 なんというか、一見文学インテリ少女に見えて、結構パワフルというか感情が身体を動かすタイプなのだろうか。甘く侮らない方が良い気がしてきた。

 

「枢木芹香です! 不束者ですが、よろしくお願いいたします!」

 

 そう言いながら三つ指を着いて頭を下げる彼女。しかも天然成分も入っている可能性もあるだとか、益々注意していこう。でないと此方が引っ掻き回されかねない。

 

「桜木有音。まぁ、よろしく」

 

 とりあえず彼女を立たせてから面と向かって名を名乗る。女子高生に頭一個くらい負けてるこの未成熟な身体が忌々しい。

 

 

 

 

to be continued…


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