気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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タイトルのネタが思い付かない。


第35.5話 身嗜み

 

「アニキ、大丈夫かなぁ」

 

「心配いらないッピ。ウィッチモンは信用できるデジモンッピ」

 

「でもどうして有音君だけ連れていくの」

 

 有音君が拐われたと聞いて、助けにいきたかったけど、ピッコロモンに止められてしまった。

 

「それはウィッチモンしか知らないッピ。でもウィッチモンの領域に入るとこのわたしですら容赦がないッピ」

 

 ピッコロモンは完全体で、ウィッチモンは成熟期のデジモンのはず。なのにピッコロモンは少し嫌そうな声をしている。なにか前に同じことをしてひどい目にあったんだろう。でも私ならデュークモンのままで助けに行けたのに。

 

「ウィッチモンを舐めたらダメッピよ。アレは普通のデジモンとは違うッピ。なにしろあのウィッチモンはウィッチェルニー出身のデジモンだからッピ」

 

「ウィッチェルニー……?」

 

 聞いたことのない言葉だった。その場所がウィッチモンの生まれた場所なの?

 

「魔法使いの世界だッピ。こことは別次元のデジタルワールドだッピ。そこで暮らすデジモンたちは、この世界のデジタルワールドよりも強いッピ」

 

「別次元のデジタルワールド。そして魔法使いの世界。もしやあのウィッチモンの目的は有音さんの使う魔法の様な力ですか?」

 

 ピッコロモンの言葉を聞いて、光子郎君がひとつの答えに辿り着いたらしい。確かに有音君は魔法みたいな力も最近使っている。アレが目的なの?

 

「彼の使う魔法は普通じゃなかったッピ。効果はわかっても術式が不明瞭。あんな術式は見たことがないッピ」

 

 ピッコロモンが見たことない魔法を有音君が使っていたという事になる。本当に大丈夫だよね、有音君。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ウィッチモンに案内されたのは、ログハウスの地下だった。

 

「さぁ、ここからがワタシの工房だ」

 

「え?」

 

 足元に魔法陣が展開して、気付いたら青空が広がっていた。目の前には中世の城の様な建物が聳え立っている。

 

「設置式の空間転移か? でも此処はなんなんだ?」

 

 空気がまるで違う。まるで都会の空気から、田舎の山の中に来たかのように空気が美味いと感じる。

 

 そして一呼吸する度に身体に力が張ってくる。滾る。熱り立つ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……、な、なんだっ。く、苦しい…、熱い…っ」

 

「ウィッチェルニーの空気は、まだボーヤには早かったかな?」

 

「ウィ、ウィッチェルニー……だって」

 

 ウィッチェルニー。ウィッチモンや、ウィザーモンといった魔法を使うデジモンの出生地と言われている別次元のデジタルワールドの名だ。

 

「良く吸い込み、身に循環させ、骨に染み渡らせ、血に刻み込め。我々魔法使いの最上級の空気というものを」

 

 一息するだけで肺が焼けそうになる。肺が灰に、気管が燃え盛る。度数が高い酒を喉に流し込むよりも熱い。

 

「かっ、うぐっ、ハッ、ハッ、ハッ、っぅぅ……」

 

「そうだ。吸い込め。足りないものを取り込む様に」

 

 這いつくばりながら、もがく様に胸を掻き抱いて、苦しさを耐える。身が焦げる様な熱。身体の中から燃えてしまいそうな熱さだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……はぁぁっ、くっ」

 

 息苦しさはまだまだ残っているが、落ち着いてきた呼吸。言われたまま、身体に循環させて、染み込ませ、刻み込む。

 

「フッ、上出来だよボーヤ。ようこそ、魔法使いの工房へ」

 

「ハァ、ハァ、ハァ……身体が、燃えるかと思った……」

 

 痺れる身体を奮い立たせながら、立ち上がる。

 

「髪が……」

 

 フサリと肩から落ちる髪の毛。見れば前髪もかなり伸びていて視界を邪魔する程長くなっている。

 

「ノワール。ボーヤの髪を整えてやれ。それでは邪魔だろう」

 

「イエス、マスター。さぁ、どうぞこちらへ」

 

「あ、ああ」

 

 片手で髪の毛を掻き上げながら、歩き出すと気付いた。

 

「服が…」

 

 服も窮屈に感じる。と言うより、見慣れた目線の高さじゃなくなっている。

 

「なにを、したんだ……っ」

 

「なにもしちゃいないさ。ボーヤに足りないものが揃っただけさ」

 

「足りないもの……?」

 

 足りないものって、どういうことだ。なんのことなんだ?

 

「ワタシは言ったぞ? ワタシならボーヤを一流の魔法使いにしてやることも出来ると。ボーヤの身体に枯渇していたものを与えただけだ。カラッカラのスポンジに水を与えたようなものだよ」

 

 カラッカラのスポンジに水を与えた? 干からびたスポンジに水を与えてどうなる? 水を吸収して柔らかくさせたとも?

 

「とりあえずはノワールに着いていけ。いつまでも亡霊みたいな毛むくじゃらな姿はイヤだろう?」

 

「亡霊? 毛むくじゃら?」

 

 そう言われて、それがなんなのか身体を見渡すと、地面に広がる黒い髪の毛が目に入った。

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

「ククク、言っただろう? スポンジに水を与えたとな。連れていけ、ノワール」

 

「イエス、マスター。さぁ、着いてきてください」

 

「あ、ああ…」

 

 何をされたわけでもないみたいだけれども、髪の毛を身体に巻き付けて、おれはシスタモン ノワールの後に続いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ククク、中々歯応えがありそうじゃないか」

 

 ボーヤの身体は、魔力が枯渇していた。その身体に栄養素たっぷりの空気を吸わせたら、あまりの反動に身体が1度死ぬのも予想していた。

 

 しかし中々頑丈らしい。ワタシの助言を受け、そして本来の水々した身体はワタシ好みの魔力を持っている。妖しい魅力すら感じるよ。

 

 リリスモンが執着しているのもわかるなぁ。だけれど、お前にはやらんよ小娘。

 

 眷族には出来ないが、虜にする位は出来るだろうさ。その為の算段もしてある。

 

「とはいえ、先ずはボーヤを鍛えてやるか」

 

 魔法使いの先達としては、あの拙い魔法行使をトップレベルにまで引き上げてやろう。

 

 それに、ボーヤがオトコだったのは僥倖だ。ボーヤがオンナでも構わなかったが、異性という方が魅了が通り易いし根付き易いものだからな。

 

「楽しみだよボーヤ」

 

 あの様子から根性もあるらしい。身体が引き裂かれる手前の痛みはあったはずだ。それを熱に変換してやったが、それでも沸騰した湯に身体を浸された熱さを感じていたはず。常人なら気を失って普通の苦痛を耐え、そして立ち上がった。

 

 少し激しくしても壊れない人形というのは魅力的だ。そう、とっても魅力的だ。

 

 あれでまだ人間なのだから、これから魔法使いともなればどこまで行くのやら。どういう攻め方をすればへし折れるか想像するだけでも楽しみだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 案内されたのは化粧台と椅子のある部屋だった。他には洗面台の着いた椅子もある。

 

「こちらへお掛けください」

 

 化粧台の椅子に座らされて、後ろ髪をバッサリと切られていく。かなり大雑把に切られたあと、1度頭を洗われて濡れた髪の毛が癖毛を伸ばしていく。

 

「熱ければ申してください」

 

 されるがままにヘアアイロンもかけられ、目の前が髪の毛で真っ黒になる。前髪だけでも腹位まで伸びていると毛むくじゃらと言われたのも理解できる気がする。

 

 そこから髪の毛を細かく切られていく。ハサミが髪を切る音だけが聞こえてくる。

 

「手慣れてるんだな。ウィッチモンの髪もお前が切ってるのか?」

 

「はい。マスターは御自身で髪の毛を切れませんから」

 

「確かに、長いもんな」

 

 背中くらいはあった金髪を思い出して、シスタモン ノワールが髪の毛を切ることを手慣れている雰囲気にも納得がいった。あんなに長い髪の毛なら、手入れも大変そうだなぁっと思いつつ身を任せる。

 

 前髪が切り終わって、ようやく目を開けられた。

 

「なぁ、シスタモン」

 

「ノワールとお呼びいただいて結構です」

 

「ならノワール。この髪型は誰のシュミだ?」

 

 前髪は綺麗に切り揃えられていた。そして他は長いままストレートロングで切り揃えられている。一瞬人形かとも思った。ここから後ろ髪なり切っていくのかと思えば、そういう雰囲気でもない。

 

「マスターのご指示ですが?」

 

 あの魔女め……っ。

 

「せめてもう少し髪を切り詰めてくれないか?」

 

 せめておかっぱ頭くらいにさせてくれ。でなけりゃ女にしか見えないじゃないかこんな髪型。

 

「まだボーヤは身体が出来上がっちゃいないからな。その髪の毛は魔力タンク代わりだ」

 

 そう言ったのは部屋の入り口に寄り掛かるウィッチモンだった。

 

「良い仕事だ、ノワール。ワタシ好みだよ」

 

「恐縮です。マスター」

 

 ウィッチモンの誉め言葉に会釈で応えるノワール。いやお前らが良くてもおれが良くないんだけど。

 

「ほら。さっさと髪のカスを落としたらこれを着ろ。前の服は採寸し直してやる」

 

 そういうウィッチモンの手にはゴシックドレスが吊るされている。いくらなんでもキレても良いよな、これは。

 

「注文の多いヤツだな。ならこれでガマンしろ」

 

 そう言いながらウィッチモンが指を鳴らすと、ゴシックドレスが一瞬で白いスーツとコートに変わった。

 

 着せ替え人形にさせられるのは免れないらしいが、ゴシックドレスよりかはマシだ。

 

 ノワールに洗われ、魔法で乾かされた髪の毛はムカつく程にサラサラだった。

 

 白いスーツにコート、マフラー、中は青いシャツに赤いネクタイ。どこのマフィアのボスだよと突っ込みたい格好だった。

 

「て言うか熱くないな。コレ」

 

「魔法で気温調節は完璧だからな。見掛けも意のままだ」

 

 パチンとウィッチモンが指を鳴らすと、服が一瞬で半スケの黒いネグリジェに変わった。

 

「ッ――!?」

 

 ばっと、反射的にしゃがんで胸元を腕で隠した。

 

「なっ、なにす――」

 

「ククク、なに、ちょっとした遊びだ」

 

 笑いながらまた指を鳴らすと、服はいつも着ていた黒のインナーとジーンズに姿を変えた。

 

「ククク、しかしまぁ、まるで生娘の様な反応だったな。実に面白かったぞ」

 

「うるさい、ほっとけ」

 

 いくら男だからって、会って1日も経たない女に裸を晒せるわけがないだろうが。

 

「ノワール。ボーヤを部屋に案内してやれ。それと、食事の用意だ。今夜は豪華にやるぞ」

 

「イエス、マスター」

 

 それを言い残して、ウィッチモンは去っていく。

 

 なんだか無事にやっていけるのか自信がなくなってきた。

 

「夕食の用意。手伝うよ、ノワール」

 

「いえ。お客さまの手を煩わせるわけには」

 

「髪の毛を切ってくれた代金ってことで、ひとつ作らせてくれ」

 

 そうでなければおれの気も済まない。髪型はどうであれ、かなり煩わしい量の髪を切ってくれたことは事実だ。なら、その礼くらいはしても良いだろうさ。

 

「わかりました。では先にお部屋の方にご案内します」

 

「ああ」

 

 揺れ動く髪の毛を靡かせながらおれは歩く。魔力タンク代わりと言ったって、限度があると思いながら。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボーヤにはああ言ったが。髪の毛というのは実に便利だ。魔法の媒介に出来るし、魔力を貯めておける外部タンクの役割も出来る。硬化すれば武器にもなる。そして何よりも美しさの探求も出来る。

 

 いくら顔が芸術的に整っていようとも、髪型ひとつですべて台無しになる。

 

 子供っぽいボーヤには、ああいった髪型でも様になる。黙っていれば一国の姫にもなれるだろう。中身は熱血漢ではあるが。

 

「ククク、今夜はボーヤの髪の毛に包まれて眠るのも悪くはないな。高純度の魔力を溜め込んだ髪の毛の毛布か。久方振りに良い夢が見られそうだよ」

 

 それを想像するだけでニヤケてしまう。

 

 今夜の一番手はノワールにくれてやろう。その方がボーヤも喜ぶだろう。ノワールの方がワタシよりも人間に近いことだし、リリスモンの残り香をノワールに清めて貰おう。

 

 そしてボーヤが最高に熟した時に頂くのが至高この上ないだろうさ。

 

「今夜は互いに良い夢を見ようじゃないか、ボーヤ」

 

 

 

 

to be continued…




ウィッチモン
成熟期 データ種

魔女の姿をした魔人型デジモン。風と水の魔術を得意とし、箒に乗って空を飛ぶことも出来る。プライドが高く、少々残酷な一面も持っている。別次元のデジタルワールド、ウィッチェルニーからやって来たデジモンとも言われている。必殺技は魔力を帯びた鋭利な風を放つ『バルルーナゲイル』と鋼鉄すら貫く超高水圧の水を放つ『アクエリープレッシャー』。

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