また、身の回りが少しバタバタしはじめてしまったので、更新が遅くなりますがご容赦ください。
「外が騒がしいから様子を見に来てみれば、古代魔法の使い手に出逢えるとはな。たまには外出もしてみるものだ」
視線の先には、マントを靡かせながら魔法を行使する人間の子供の姿があった。
「アレは私が貰うぞ。良いなピッコロモン」
「別に構わないッピよ。それにしても、危なっかしい子供たちだッピ」
隣に居るピッコロモンがやれやれといった風に息を吐く。確かにクワガーモン相手に2対1でも倒せないとなると、このサーバ大陸ではやっていけない。あれでも下から数えた方が早い弱さのデジモンだ。
「しかし、まさかデュークモンとも出逢えるとは。ククク、世の中はおもしろいな」
太古の昔。滅びに瀕した故郷を救った聖騎士。
その聖騎士とは別の個体だろうが、動きが重なって見えるのは目の錯覚とは少々違うだろう。
「娘が懸想している人間がどれ程のものか。試させて貰おうか」
強大な力を感じる大剣を魔法で召喚するその姿を見ながら口許に浮かべた笑みは釣り上がっているだろう。
普通の魔法を使うのならば、それほど難しい事でもない。理論を学べば誰しもが使えるのだ。しかし古代魔法ともなれば話が違う。
見たところ、まだまだ魔法は不馴れの様だ。つまりそれは魔法を使って日が浅いという意味だ。
古代魔法の理論は遺伝性が強いとも言われ、古代魔法を使えるデジモンも今では少なくなってきている。
そんな拙い古代魔法使いを目の当たりにすれば、喉から手が出る程欲しくなるのは、魔法に精通するものならば先ず思うことだ。
「悪いなリリスモン。あのボーヤはワタシが貰うよ」
◇◇◇◇◇
「大丈夫か? フレイドラモン」
「ああ、すまない」
砂の地面に埋まっているフレイドラモンに手を伸ばして引き上げる。
「うぐっ」
「アルト?」
「いや。平気だ。少し腕が引き攣っただけだから」
まだブラックウォーグレイモンと戦った傷が癒えきっていなかったんだろう。フレイドラモンを引き上げた時にビキッと腕や胸に痛みが走った。
「他のみんなも膠着状態か」
2対1で戦っていても、ファイル島のクワガーモンよりも強いサーバ大陸のクワガーモンを前にして戦いは拮抗していた。
空中戦を繰り広げるバードラモンとカブテリモンは優勢に戦いを運んでいる。トゲモンとイッカクモンもトゲとミサイルの弾幕で拮抗させている。一番危ないのはエンジェモンとガルルモンのところか。
「くそっ。速すぎて追い付けない」
「落ち着けガルルモン。相手を良く見るんだ!」
「硬い外殻さえなければ私の攻撃も通るのだが…」
「頑張って、エンジェモン!」
空を飛ぶクワガーモンに対して、ガルルモンのフィールドは地面だ。無理に攻撃しても、フレイドラモンの様にカウンターを喰らうだけだ。すべからく、地上の生き物は空中では無防備になってしまう。
エンジェモンは逆に敢えて待ち構えてカウンター戦法を取っているが、クワガーモンの硬い外殻に攻撃の尽くが弾かれている。
堕天使系や魔王系デジモン相手ならば完全体デジモンに匹敵する力を発揮できるエンジェモンだが、それ以外では普通の成熟期デジモンと変わらない力しか持たないエンジェモンでは、サーバ大陸の環境で育ったクワガーモンに、やられはしないが決定打に欠けているのは見てわかる。
「おれがエンジェモンと戦っているクワガーモンを撃ち落とす。トドメは任せる」
「承知した。一撃で決めよう」
フレイドラモンの返事を聞きながら、おれは剣指で虚空に魔方陣を描く。
魔方陣は翠色に輝いて、その奥に眠る力の波動を感じさせてくる。
魔方陣の中に腕を入れ、触れた柄を握り締めながら引き抜く。
「《究極戦刃王竜剣》――!!」
力を解放させながら引き抜いた王竜剣が手の中で暴れるのを、両手で柄を握り締めながら抑える。
そして柄を握り締めながら切っ先を空を飛びながらエンジェモンと戦うクワガーモンへと向ける。
切っ先に魔方陣が展開し、刀身、柄、腕に円環魔方陣が展開して行く。足下にも魔方陣が展開し、王竜剣に凄まじい力が高まりながら集まっていく。
「ガルルモン! 一瞬で構わない、クワガーモンの動きを止めてくれ!」
「わかった!」
王竜剣の切っ先に凄まじいエネルギーを溜め込んでいるおれを一瞥してから応えくれたガルルモンは、おれがしたいことを理解してくれたらしい。口の中に青い炎を溜めて、クワガーモンに狙いを定めて、その炎を解き放つ。
「《フォックスファイアー》!!」
その攻撃はクワガーモンの進路を邪魔する様に放たれ、一瞬動きを止めたところを狙い澄まして、おれも攻撃を放つ。
「《デジタライズ・オブ・ソウル》――!!」
本来ならば、オウリュウモンを召喚する技なのだが、アルファモンがオウリュウモンの力を魔方陣を通して矢継ぎ早に放っていたのと同じことを、おれは砲撃魔法として解き放った。
「シャギャアアアアアアア!!!!」
翠色に輝く砲撃魔法がクワガーモンへ直撃し、大爆発を起こして撃墜するも、表面の外殻を焦がすくらいのダメージしか出なかった。しかしそれだけでも充分だ。
「合わせろ、エンジェモン!」
「わかった。行くぞフレイドラモン!」
墜ちていくクワガーモンの先には、拳を腰溜めに待ち構えるフレイドラモンとエンジェモンが居る。
「《ナックルファイア》!!」
「《ヘブンズナックル》!!」
炎と聖なる力を宿した拳がクワガーモンの胴体を打ち抜いて、外殻を破り、突き抜けた拳はクワガーモンをデータの粒子へと帰した。
これで先ずは一安心出来る。
「《ロイヤルセーバー》!!」
「ギシャアアアアアアア!!!!」
上空でも断末魔を上げながらオオクワモンがデュークモンに刺し貫かれていた。
「グガガガガガガガ!!」
仲間をやられたからか、残った2体のクワガーモンがなりふり構わずにデジモンたちを無視して子供たちに突っ込んでくる。
「させるか! 《トライデントリボルバー》!!」
上空からクワガーモンを撃ち落とそうと弾丸を放つライズグレイモン。
「ギシャアアアアアアア!!!!」
「クカカカカカカカ!!」
だがクワガーモンの片方が仲間を盾にして攻撃をやり過ごして、目と鼻の先まで子供たちに迫ってきた。
「《ピットボム》――!!」
そんなクワガーモンにつり上がった目が書かれ、コウモリみたいな小さな羽根の生えた爆弾が直撃して、クワガーモンを消し飛ばした。
その攻撃を放てる主はただひとり。
「君たち、選ばれし子供なんでしょ? まったく、危なっかしくて見ていられないッピ!」
ピンク色の毛に被われた身体。丸い胴体から手足が生えていて背中に白い羽根を生やしたデジモンが、手に持つ槍を子供たちに向けて言い放った。
「大丈夫か? アルト」
「ああ。まぁね」
ズキリと痛む胸を擦っていると、ブイモンに声を掛けられて、気にかけないように返す。
とは言っても、暫くは戦わずに休みたいもんだ。取り敢えず骨折とかがキッチリ治るまでは。
「うぇっ!?」
「あっ、待て!」
そう考えていると、服の首根っこをぐいっと引っ張られて身体が空を飛んでいる感覚になっていき、ブイモンの姿が遠ざかっていく。
「悪いなボーヤ。アレの説教を聞く義理はワタシにはないからな」
「お、お前は……!?」
首だけ後ろに向けて、服を掴んでいる相手を視界に納めるけども。
「誰だ…?」
それは見たことのない姿をしているデジモンだった。
箒に座って飛んでいることから最初はウィッチモンかとも思ったけれども、そのデジモンは全身を黒装飾に身を包んでいた。黒いマントに黒い手袋、黒いブーツ、黒い帽子。長い金髪が風に揺らめいている。
「ワタシはウィッチモン。しがない魔法使いさ、ボーヤ」
ウィッチモンと名乗ったデジモン。確かに顔つきはウィッチモンと瓜二つだが、ウィッチモンは赤い服装で身を包み、髪も短くて、頭の帽子も赤いのを被っていたはずなのに、目の前のウィッチモンはそのどの特徴にも当て嵌まらない。服装の色が変わっていて、髪の毛が長くなっていて、それにはなにか意味があるのだろうか?
「信じられないといった顔だな。まぁ、今は構わないさ。ワタシはお前に興味があるんだよ、ボーヤ」
「ボーヤ、ボーヤって。おれには桜木有音っていう名前があるんだけど」
「ボーヤはボーヤさ。高が70年少ししか生きられない人間程度は、ワタシからすればすべからく坊やさ」
そういうウィッチモンの言葉にはバカにするというよりも、なにかを積み重ねてきた様な重みを感じさせられる。
「おれを拉致ってどうするつもりだ」
「どうするもこうするも、ボーヤの魔法を見せて貰いたいだけさ」
魔法と聞いて真っ先に思い当たるのは、自身のアルファモンの力だ。
ロイヤルナイツの抑止力であり、ロイヤルナイツが正しく存在する限り現れることのないロイヤルナイツの調停者。そのアルファモンの使う魔法の様な力に魔法使いのウィッチモンが興味を示している。
口振りからこちらを害する気はないらしいけれども、だからといって信用して良いかどうかに悩む。
「エテモンの手下とかじゃないだろうな」
「フッ、あんなお山の猿大将程度の下に付く程、ワタシは安い女ではないよ、ボーヤ」
何処か愉快そうに言い切るウィッチモンは成熟期デジモンのはずなのに、完全体のエテモンをお山の猿大将とバカにしているような感じだ。
ウィッチモンのプライドが高いのか、それともエテモンよりも強いと思っているのか。実際、エテモンよりも強いのか。受け取りに困る言葉だった。
「ボーヤは魔法をもっと使えるようになりたいとは思わないか?」
「え?」
「まだ魔法を使える様になって日が浅いだろう? ワタシなら、ボーヤを一流の魔法使いにしてやることも出来る。その対価に少しだけボーヤの魔法を見せて貰うだけだ。良い条件だろう?」
確かにおれはまだ感覚的に魔法を使っているだけで、本格的に魔法の修行をすれば今よりも強くなれるとは思う。デメリットも見当たらない。ただ懸念するなら、本当にこのウィッチモンが敵ではないかどうかだ。
「なんなら、契約書を書いても良いぞ? ボーヤには敵対しませんとかな」
「どうしてそこまで」
それほどにアルファモンの力は珍しいものなのか。いや珍しいものだろう。同じロイヤルナイツからも名前しか知られず神話の中に出てくるデジモンとまで言われていたのだから。
「魔法使いの探求心、とでも言っておこうか」
それは本心なのかもしれない。でもそれ以上は語る気はないとも言われたような気分だった。
デメリットは不透明。しかしメリットは多大にある。そしておれは強くなるために手段を選んではいられない立場だ。
「さぁ、着いたぞ。ワタシの工房だ」
辿り着いたのはジャングルの中にひっそりと佇むログハウスだった。大きさから二階建てくらいだろうか。それなりに立派である。
「お帰りなさいませ、マスター」
ウィッチモンが入り口を潜ると、黒いドレスというか、シスターの様な服装をした女の子が出迎えてくれた。
「シスタモン ノワールだ。ワタシの従者をしている」
「以後お見知り置きを」
「ご丁寧にどうも。桜木有音と言います。有音で構わない」
スカートの端を摘まんで会釈をするシスタモン ノワールにおれも頭を下げる。
いやしかし、確かシスタモンってロイヤルナイツのガンクゥモンの従者だったはずの様な。そしてロイヤルナイツの候補であるハックモンの世話役もしていたはず。
とはいえデジモンも同じ個体が他にも居る生き物だ。このシスタモン ノワールはまったく関係のない別個体なんだろう。
「ノワール。工房に入る、準備を」
「マスター、お客様の前ですけど」
「このボーヤも工房に連れていく。問題はない」
「かしこまりました」
シスタモン ノワールとウィッチモンが2、3やりとりをすると、シスタモン ノワールは部屋から出ていく。そのやり取りから察するに、客人であるおれを工房に入れるのを懸念していたみたいだけど、このログハウスのさらに何処か重要な所に案内されそうな感じだ。
「ついて来いボーヤ。ワタシの工房へ案内しよう」
既にウィッチモンの領域の中に居るなら、下手に逆らう真似はしない方が良いだろう。アグモンもブイモンも居ない今の自分では、五体無事に逃げ出せる保証もない。それにウィッチモンが此方を害する気はないのなら、大人しく従っていた方が良いだろう。
「素直な良い子だな。ボーヤの様な素直な子は、ワタシは好きだよ」
「それはどうも」
ウィッチモンの言葉に相槌を打ちながら、残してきてしまったみんなのことを心配する。たぶんあのピッコロモンのことだから大丈夫だとは思うけれど、今の太一がアグモンを進化させられる様にならなかったら、明日のティラノモンの襲撃を抑えられるのが芹香だけになってしまう。
デュークモンに進化できる芹香とギルモンなら心配はないとは思うけれど、今日の様に敵が増えていたり強くなっていないとも限らない。そんな不測の事態の為にみんなの傍に居たいとは普通に思うことだ。
でもそれも自分が強くなければ意味がないときもある。自分が強くなれるかもしれない可能性を目の前に提示されている現状。リスクとリターンを天秤に掛けて、リターンをとろうとしている自分は良い大人とは言えないんだろうな。
to be continued…
ピッコロモン
完全体 データ種
魔法を操る術を持つ妖精型デジモン。デジタルワールドでは高級プログラム言語と言われている魔法を操る為、その力は見掛けに依らずとでも強い。必殺技はコンピューターウィルスを凝縮させた超強力な爆弾を放つ『ピットボム』。種族的にイタズラ好きでコンピューターを暴走させて楽しんでいる。しかし太一たちと出逢うピッコロモンは仙人の様に子供たちに修行を授けて道を示すという良いデジモンとして登場する。