気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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今回はちと途中が生々しいのでスキップして頂いて構いません。Rー15表現ギリギリで、芹香がもう突き抜けるくらいぶっ壊れてしまいますから。




第33.5話 闇の誘い

 

 コカトリモンを倒して、無事に石化は消えた。

 

 ヌメモンたちも逃げてしまってすっからかんになった船の機能を掌握して、エテモンに気づかれるまでは遊覧気分で寛がせて貰うことにした。なにしろ数ヵ月は遊んでいても食糧に困りそうにない量が蓄えられているのだ。少しくらい休んでもバチは当たらんだろうさ。

 

「ぅぅ……」

 

 熱に魘されているタケルくんに向かって団扇を扇ぎ続ける。日干しにされていたみんなを救えはしたものの、みんな日焼けやら何やらで少なからず肌を火傷していた。特にひどいのは太一と丈君。プールに居たところを捕まって日干しにされていたから上半身が赤く焼けてしまっている。

 

「いちちちちち! もう少し優しくしてくれよ」

 

「我慢しなさい。男でしょ?」

 

 薬を染み込ませたガーゼを張り付けて包帯を空ちゃんによって巻かれていく太一。もうミイラみたいな感じだ。丈君も同じくミイラ。光子郎君とヤマトは肌を露出していた腕に包帯を巻いている。

 

 火傷という意味では一番軽傷なのはタケルくんだ。何せ長袖でダボダボのおれのコートを着ていたからだ。でも変わりに軽い脱水症状になっている上に、身体に熱が籠ってしまっている。

 

 だからタケルくんには適度に水分を摂らせて、水で濡らしたタオルを額と首回りに置いて団扇で扇いで体温を冷やしていた。

 

「タケルは大丈夫なのか?」

 

「ブイモンの見立てだと脱水症状と熱中症のダブルパンチで今は辛いかもしれないけど、どちらも軽めだから少し休めば元気になるそうだ」

 

「そうか。良かった」

 

 声を掛けてきたヤマトにタケルくんの状態を教えると、胸を撫で下ろしていた。

 

「それにしても、ブイモンは色々知っているんだな。見直したよ」

 

「そうだね。ロイヤルナイツとしての経験値はおれたちにはないものだからな」

 

 医者の父を持つ丈君も包帯を巻いたりは出来ても、まだまだ小学生だ。しかしブイモンは戦闘能力もさることながら、医療知識も持ち合わせていたらしい。今も秘伝の薬を擂り鉢で作っているところだしな。丈君と太一の治療でかなりの量を使った事だし。その補充分だろう。

 

「それよりも、起きてて大丈夫なのか? 風邪とかまだ治ってないんじゃ」

 

 おれの身体を気遣うヤマトの言葉にちょっとキョトンとする。タケルくんも調子が悪いからタケルくんに意識が向いているのかと思ったら、おれも気遣ってくれる余裕が今はあるのかな。

 

「大丈夫さ。取り敢えず治ったから」

 

 まだ少しだけ微熱気味でも、身体はかなり全快に近い。味がまだ感覚が鈍いけども、これも明日には治るだろう。

 

「さてと、お兄さんが来たことだし。あとは任せて良いか?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 そう言いながらおれはヤマトにタケルくんの看病を代わって、厨房の物色を始める。保存食はこれから使えるし、生鮮食品周りは早いうちに遠慮なしに使わせてもらおう。

 

 取り敢えず元気なおれと芹香、空ちゃんの3人で夕食を作る事になった。え? ミミちゃんは休んで貰いました。あの子の味覚に合わせたらみんなの味覚が大破しちゃうわ。

 

 そんな少し忙しい夕食を終えたおれは、見つけたバーカウンターに腰を落ち着けてちびちびと晩酌を楽しむことにした。

 

「こんなところに居ると、風邪が振り返すよ?」

 

「芹香か…」

 

 船の中にあるバーでちびちびと晩酌をしていたところに芹香から声を掛けられた。

 

 ここのバーカウンターはみんなの居る食堂やアミューズメントエリア、ベッドルームからは離れている言わば大人の憩いの空間(スペース)だ。

 

 みんなにはこの船の地図を渡してあるとはいえ、子供たちやデジモンたちはゲーセンとかで遊んでいるかもう疲れて寝ているかで、カジノやらバーカウンターのある此方には誰も来ないと思っていた。

 

「どうしてここに?」

 

 おれもそうだけど、ギルモンも連れずにやって来た芹香に無用心なんじゃないのかという視線も込めて振り返る。

 

「有音君だったら、ここに居るかなぁって思って」

 

 そういう芹香は、白いワンピースのドレスに身を包んでいた。元々着ていた制服周りに解れが目立ち始めた為、あとで直すからとは伝えたけど着替えて来るとは思わず見つめてしまった。

 

「どうかな? あまり飾りっ気は似合わないからシンプルにしたんだけど」

 

「良いんじゃないかな。うん、普通に似合ってる」

 

「ウフフ、ありがと」

 

 女性関係との付き合いなんてあまりなかった所為で言葉の引き出しが弱すぎるおれの言葉にも嬉しそうに笑う芹香が軽やかな足取りでおれの隣のイスに座った。

 

「ちょっと貰うね?」

 

「ああ。……ってバカ!」

 

「はふぅ……。美味しい。お腹が熱くなるね~」

 

 あろうことにコイツ、コーラ割りとはいえウィスキーを一気に煽りやがった。こういうのはちびちび飲むものなのに、そんな飲み方してあと知らんぞ。

 

 しかもまだ作って一口も着けてない並々のコーラ割り、さらにキツめの1:2で作ったから、ウイスキーのコーラ割りじゃなくてコーラのウイスキー割りの比率をグラス1杯を一気に煽って良く平気だな。おれだったら喉やけとか胃やけするぞ。

 

「…足は大丈夫なの?」

 

「あ、ああ。お陰さまでね。芹香が勇気のデジメンタルを出してくれて、本当に助かった」

 

 新しくグラスにウイスキーを注いでソーダ水と混ぜる……あっ。

 

「ふぃぃ……もっぱい!」

 

「アホッ、そんな一気に飲む酒じゃないっての!」

 

「アイタッ! ぶぅぅ、有音君がいじわりゅなにょ!!」

 

「なにょじゃねぇわ。呂律おかしくなってるぞボケ」

 

 デコピンしながら芹香の手からグラスを奪い返す。まだコイツ18だろ? 世間一般的には酒飲めないはずでしょ。あんな飲み方したらおれだってあっという間に沈むぞ。

 

「むぅぅ、良いじゃないか! 今日の私は酔いたい派なのぉ~!」

 

 なんか酔っ払いに絡まれるくらい面倒くさい。せっかく静かに飲みたかったのに。ってうお!?

 

「バカ! 落ちるっ、倒れる、つか引っ張るな!」

 

「むぅ、……ヤッ!」

 

 コイツふざけてるんだか酔ってるんだかわかんねーよ。

 

 イスは隙間を作られて設置されていて、芹香が首に腕を回してきて引っ張るから、座っているおれが隙間に落ちそうになる。しかも新しい酒を作ってるときにじゃれつくなっ。溢れるだろ!

 

「……なにかあった?」

 

「別に……」

 

 結局狭いイスをシェアする様にひとつのイスの上、芹香の足の間に挟まるように腰を落ち着けるハメになった。いやこれ、おれは小学生扱いかなにかですかねオイ。

 

 なにか様子の違う芹香に声を掛けるも喋ってはくれず、ただおれの腹に回された腕の力だけが強くなる。微妙に苦しいので中身が出る前にやめてくださるとありがたいのですが。

 

「有音君は、私のこと……どう、思ってる?」

 

「どうって……」

 

 消え入りそうな囁く声を耳元で零す芹香。グッと腕の抱く力が増すのに苦しくなるが、その肩が僅に震えているのが伝わる。

 

 こういう雰囲気でそういう質問が来るって、所謂そういうことなのか?

 

 いやいやいや。吊り橋効果とか世に聞くけど、芹香のコレはそういう次元なのか? ある意味の依存症の方が強い気がするのだけど。

 

 選択肢ミスったら刺されたりしないよな?

 

 なんか某ヤンデレ育成型学園ギャルゲーの主人公の様に女の子をとっかえひっかえしたつもりはないよおれ? 確かにデジモンとは仲良くしたいから愛想全快で接してますけども、相手は女の子じゃないし。つかデジモンに基本的には性別ないし。これで女性型デジモンと仲良くしてたらまだわからなくもないけど。いや相手はデジモンだからそういう感情なんてわかないはず。つか他の女の子陣営に手を出したらお巡りさんに捕まるわ!

 

 って、ちがう。そうじゃない。冷静になれ、COOLになるのだサクラギ アルト! これは神が与えし試練だ。この答えひとつで人生が終わるわけじゃない。

 

 確かにラブリーエンジェル芹香たんはすこーしヤンが入ってしまった女の子だが、それまで普通に良い娘だったし、他にヤンを向ける対象が居ない分、デレの部分が重いだけだ。つまり愛が重いだけのふつーの女の子というだけざFA。つまりそれだけじゃないかHAHAHAHA!

 

 うん。いくら芹香でも選択肢を間違えたからって頭と身体が泣き別れする展開なんてないはずだ。ここは思うままを口にしよう。それが最善の選択肢と見たり!!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 みんながハメを外してどんちゃん騒ぎをしている食堂やアミューズメントエリアに姿が見えなかった有音君を探してやって来たのはバーカウンターのあるカジノエリアだった。

 

 確かにカラオケやらゲーセンの音で煩かった喧騒が嘘みたいに静かなこの場所は電気が消されていて、バーカウンターだけに淡く柔らかい灯りが点されていた。

 

 ロウソクの揺らめく灯りの中で座っている有音君の姿は場違い感など感じずにその風景に溶け込んでいた。

 

 そんな背中を私は抱きながら有音君の言葉を待っていた。痛いデコピンを貰っちゃったけど、適度にお酒の回っている頭はふわふわして、私のストッパーを緩くしている。

 

 こういう雰囲気のある場所て、ほろ酔いの女の子がドレス姿でこうして身体を抱きすくめているんだもの。ラノベの鈍感局地的難聴主人公でもなければ普通は意図に気づいてくれると思う。

 

 私は、今凄く怖い。有音君の言葉を聞きたいのに、聴きたくないと恐れている。

 

 私は有音君の望みをちゃんと果たせなかった。結局は有音君とブイモンが道を切り開いた。私はそのお手伝いをするだけしか出来なかった。

 

 守る対象であるピヨモンとパルモンにも助けられてしまった。

 

 私は有音君の為に存在しているのに、有音君の望みひとつもちゃんと叶えられなかった。

 

 怒ってないだろうか。落胆されてないだろうか。見放されていないだろうか。

 

 戦いが終わったときに感謝してくれた。でも落ち着いた今、有音君が私をどう思っているかわからない。食事をしている間は料理を作るので忙しかった有音君に声は掛けられなかった。そのあとはこんなところで一人で居るんだもの。有音君が私をどう思っているのかわからない。それが怖くて一度着替え直してきて出直して声を掛けた。

 

 白いドレスを着ているのだって、有音君はどういう意味かわかってくれるだろうか。

 

「……芹香」

 

「なっ、なに…かな……」

 

 有音君に声を掛けられて、私は声を上澄みさせてしまいながら答えてしまった。

 

「芹香はいつもおれを助けてくれる凄い娘だ。そのお陰で、今日まで五体満足に生きて来られた」

 

 顔だけを振り向かせながら言葉を紡ぐ有音君の声は、とても柔らかくて安心する声だった。

 

「今日もそうだ。お陰でブイモンもフレイドラモンに進化できるようになった。改めて礼を言わせてほしい。――ありがとう」

 

 そう穏やかな声に私は安心する。有音君は怒ってるわけでも、失望していることも、落胆しているようなこともないってわかる。

 

「……違う」

 

「え…?」

 

 安心はした。でも私が聴きたい言葉はそうじゃない。

 

「芹香…?」

 

「いやっ、違う! そうじゃないのっ」

 

 私が聴きたい言葉は感謝の言葉じゃない。

 

「お前…、なにする……っ」

 

 私は有音君から身体を離してイスから立ち上がると、有音君をイスごと振り向かせてロウソクの火を消した。

 

 月明かりが天井から射し込んで、私を照らす。

 

「有音君、私が白いドレスを選んだ理由がわかる?」

 

「白いドレスの理由…?」

 

 どういう意味だと声に溢れているのを聞いて、私は有音君の身体を抱き締める。

 

「お、おい。芹香?」

 

「白は何物にも染まる色」

 

 身体を離して有音君と向き直る。お酒を飲んでいるから、それとも少し照れてくれると嬉しいけど。

 

 有音君の頬は少しだけ朱くなっていた。

 

「私、有音君になら全部をあげられる。有音君しか、私をあげたいと想う人はいないの。もう心まで捧げてしまっている私はアナタの言いなり。アナタの望みを叶える為に存在しているのに。今日の私はなにもアナタの望みを叶えられなかった」

 

 有音君の手を取って、燃え盛る様に熱い胸に添えさせる。

 

「んっ……ふああっ」

 

 た、ただ触られただけなのにどうして全身が痺れそうになるの!? 有音君が相手だから? それとも私が酔っているから?

 

「んっ……私は、有音君に頼まれたのに空ちゃんたちを船の甲板まで導けなかった……ひゃんっ」

 

 スッと胸を過ぎて、お腹に当てられる手の感触におかしな声を上げてしまう。

 

「け、結局は、有音君とブイモンに助けられてっ。ピヨモンとパルモンにだって、助けられちゃった……ふあぁぁぁっ」

 

 さらに下に手を下げて、ドレスのスカートの上から脚を撫でるだけで腰が砕けそうになる。

 

「ハァ…、ハァ…、だっ、だから、こんなダメな私にっ……オシオキして…っ、アっ、イッッッタアアアアイイ!!」

 

「っおぉぉ~、いてててっ」

 

 ゴツンというかゴッッという感じの音が耳に聞こえながら凄まじい衝撃と痛みが頭から全身に響き渡る。

 

 チカチカする視界には、額を擦る有音君の姿が見える。有音君の頭突きでした。

 

「あー、いてぇ……。あのねぇ、そういうことはちゃんとした相手としなさいよ。酒と雰囲気に呑み込まれ過ぎだ」

 

 まるで悪いことをした子供に説教するかの様な顔をする有音君に、私は手を伸ばして床に引き倒す。

 

「いっっ! ばっ、腰っいったっ! 芹香!」

 

 私は床に倒した有音君の上に座ると、有音君に迫った。

 

「どうして? 私じゃダメなの…? こんなにも好きなのに、有音君は私が嫌いなの?」

 

「いや、別に嫌いってわけじゃ。でもこういうのはちゃんとした相手とした方が良いし」

 

「ちゃんとした相手ってなに!? だれ!? どこに居るの!? 居るわけないじゃない! 私には本当にアナタしか居ないんだから!!」

 

 半分激情に近い勢いで私は有音君に押し迫る。有音君は少し奥手なだけだもん。有音君だって男の人なんだもん。こんなにも想ってくれる女の子が居るなら、放っておくはずがないもの。

 

「私が子供だからいけないの? 二十歳じゃないからダメなの? 私の身体はもう大人の女の人と変わりないんだよ!?」

 

 そう叫ぶように言いながら私は有音君の手を取って私の胸に押し当てた。

 

「私、もう自分を抑えられない…っ。有音君が欲しい。有音君に捨てられたくない。有音君に全部をあげる。だから有音君の全部を頂戴。私のこれからの人生を全部あげるから、少しでも良いから有音君の人生を頂戴。私を孕ませて赤ちゃんを作って良いんだよ? 子育ては私だけでもやるよ? だから有音君の愛を私に頂戴。私が死んで次の人生を迎えてもアナタにすべてを捧げるの。他に好きな人が居ても構わないの。傍に置いてくれるだけでも良いの。鬱憤を晴らす為に殴られても、犯されても良いの。だって私のすべてがアナタのモノだから。だからお願いします」

 

 馬乗りになる形で見下ろしている有音君に顔を近づける。もう頭の中がぐちゃぐちゃで何をしているのか自分でもわかっていない。でも言葉だけは紡がれていく。私の意思で。私が伝えたいことを伝えている。それだけはわかる。

 

 唇を重ねた。薄暗い闇の中で、私は愛おしい人の唇を奪った。固く閉ざされた唇の隙間に舌を這わせて、僅に開いた亀裂から強引に舌を差し込む。

 

「ん……ふぅんんっ……ちゅ…」

 

 舌を伝って流れ落ちる唾液を空っぽの肉のフラスコに注ぐ。

 

「んっ、くっ……せりっ…ふぐっ」

 

 私の唾液で満たされて言葉を発せない彼は、私の唾液を飲み込んで口を開いた。

 

 でもそれは私の計算の内。私は差し込んだ舌で彼の舌を絡め取り、嬲り、啜り、貪る。

 

「…うぅん……んんん……っ」

 

 舌を伝って頭が痺れるような酩酊感に苛まれる。その感覚に更に身を溺れさせていく。

 

「ん……く……ぷはぁ……」

 

 満たした唾液を掬い上げて飲み込む。アルコールと混じり合い、芳醇な甘さとほろ苦さを感じる味が堪らなく私の神経を犯していく。

 

 唇を離す。最後まで絡み合っていた舌が、名残惜しんで離れていく。舌先で繋がる銀の橋が、滴と共に彼の舌を濡らす。

 

「く……ぅぅ」

 

「ふふ……」

 

 いつもの有音君だったら、私なんて押し退けられるけど、今の私はいつもとは違う。今も必死で身を捩る彼の身体を完璧に押さえつけている。

 

 脚を使って彼の脚の身動きを封じ、体重を掛けて挟み込む彼の身体の身動きは封じ、腕も胸に添えた手は離さず、もう片方の腕は、手を絡めて二の腕ごと掴んでいるから上半身の動きも制限される。

 

 あれだけデジモンと戦っている有音君が私に力負けしているのもゾクゾクするくらい気分が高揚してくる。

 

 そのまま舌先で私は彼の身体を頬を撫でる。唇を、首筋を、鎖骨を、そして顔に刻まれた傷跡を。

 

「……有音君」

 

 私は訴える。アナタに私の想いの深さと重さ、そしてその丈を。

 

 熱に浮かされながら陶然とした声で。

 

「触れて欲しい。撫でて欲しい。抱き締めて欲しい。強く。強く……」

 

 今までこんなにも人を好きになる事はなかった私の想い。どう愛したら良いのかわからない。どう愛を求めたら良いのかわからないから。

 

「口づけて、舐って、味わって、嗅ぎ取って、掴んで、転がして、掻き回して、掻き乱して、嬲って、傷つけて、突き立て、刺し貫いて――」

 

 ポタポタと、私の瞳から零れ落ちる滴。

 

 どこまで求めても感情に果てがない。だってどこまでも求めてしまうのだから。

 

 求めて止まず果てはなく、それほどにまで私を狂わせるのはたったひとつの気持ち――『(よく)』だ。

 

 彼が欲しくて堪らない。身体が欲しくて堪らない。心が欲しくて堪らない。感情が欲しくて堪らない。魂が欲しくて堪らない。存在が欲しくて堪らない。

 

「優しくして。激しくして。苦痛を刻んで。愉悦で引き裂いて……有音君。有音君。アルト…君」  

 

 歪んでいる。狂っている。それを頭でわかっていながら私は止まる果てをしらない。だってそういう事になるだろう力を使っているから。

 

「アナタの愛で私を包んで欲しい。私はアナタの命を果たせなかった。アナタの信を背いた。でもアナタは私を愛してくれる。私がアナタを愛するから」

 

 支離滅裂な愛の言葉。心に浮かぶ不安と恐怖を綯い交ぜに、でも想わずにはいられないの。

 

「私にはアナタだけ、アナタには私だけ。だれも私たちの間には入れない。だって住む世界が違うのだもの。だれにも私の心はわからない。だれにもアナタの心はわからない。明かせない。明かせるのは私だけだもの」

 

 この世界が作られたものであり、物語りの世界だなんてだれにも明かせないし、明かしたところで信じてもらえないもの。

 

 そんな相手なんてどうしてどうやって愛せるの? 私のすべてを愛せるのはアナタだけ。アナタすべてを愛せるのは私だけ。

 

「だから――私とひとつになろ? 有音君」

 

 私の足元の影から飛び出した黒い影が私たちを呑み込もうとする。

 

 私のドレスの中から一枚のカードが落ちてくる。その絵柄はデジモンなのに人間の女性が描かれたものだった。

 

 究極体にして、デジタルワールドの七大魔王の一人とも言われ、人間の持つ罪の『色欲』を司るデジモン。

 

 リリスモンのカード――。

 

「…バカだよ。お前は」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 芹香は、おれの思っていた以上に繊細というか、色々抱え込んでいたらしい。

 

 好き嫌い以前に、心細かっただけなのかもしれない。

 

 ずっと、捨てられるのを怖がる子供の様な顔をしていた。

 

 そしてそれは暗黒の力の一端にまで手を触れてしまう程に膨れていたのを気づいてやれなかった。

 

 芹香の身体を抱き寄せながら、身体全身を使って横に転がる。

 

「きゃっ!」

 

 芹香の腕を払い退けて高速で印を切り、白い魔法陣から聖剣が放たれる。

 

「―――――!!!!」

 

 撃ち出しだ聖剣は床に落ちているカードを貫き、そこから溢れ出る闇との繋がりを絶つ。

 

「《究極戦刃王竜剣》――!!」

 

 新たに印を切り、首から下げているインターフェースから身体を伝ってデジタルコードが右手に集まっていく。

 

「はああああっ!!」

 

 実体化し、凄まじいエネルギーを蓄える王竜剣で、残った黒い霧を討ち祓う一撃を振るう。

 

「―――――――!!!!」

 

 声として認識出来ない断末魔を耳にしながら、おれは暗黒の力の気配が去ったのを感じて王竜剣を納める。

 

 真っ二つになったデジタルモンスターカードが残され、それすらも聖剣を撃ち込んで灰に還す。

 

「……重いな…、お前」

 

 気を失っている芹香へ向けておれは呟く。

 

 あんなものに頼ってまで想われる事の重さ。

 

 そんな資格があるのかどうかわからない。ただ、その想いの重さは聞かせてもらった。本人がそれを覚えているかどうかわからないけども、いつかは答えなければならないことだろう。

 

 

 

 

to be continued…




感想欄とは別に質問できる質問版を設けようかと思います。現在私生活が大混乱中のため、個別での感想返信等が出来ずにいますので、質問に関しても個別返信が出来ないとは思いますが、感想もキチンと読んでいますので、「感想版に書くのはどうかなぁ」っていう質問等を受け付けたいと思います。

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