暗黒進化から翌日。私たちはコロシアムをあとにした。ネットワークがメチャクチャになったとはいえ、ここはエテモンの支配するエリアだし、有音君の身体を動かせるなら、また私が背負って歩けば良いだけだし。ていうか背負っていたいんです。だって背中に背負う有音君からお日様みたいな良い香りがするんだもん。出来ることならずっと傍に居たいんだもん。決して私が臭いフェチだとかそんな変態趣向の持ち主なわけじゃないから。
「ギルモン、大丈夫?」
「んぎゅ、ギルモンもうげんきいっぱい!」
両手を上げてアピールする親友の姿に、取り敢えずほっとする。まだ傷痕に包帯は巻いてるけど、私はもう余り痛みを感じていないから、ギルモンも大丈夫そうね。
互いにすべてを共有できるデジヴァイスのお陰で、パートナーの状態を知れるのは良い事だよね。互いに痛みも感情も共有できる。それは独りじゃないことを実感させてくれるんだもの。
「ぎる? セリカどうかしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
首を傾げるギルモンの頭を撫でて、私は歩く。
「アニキ大丈夫かな?」
「身体の傷はほぼ癒えているとはいえ、元々が病人だ。無理に起こすこともない」
コロモンを頭に乗せながら歩くブイモン。ふたりの会話の通り、有音君は眠ったまま私が背負っている。
「我が友、ロードナイトモンが居れば、病人に効果のある薬も出せるのだが」
「もしかしてこの傷薬ってそのロードナイトモンが?」
「ああ。ロイヤルナイツの軍師、ドゥフトモンが必要性を説き、我が友、ロードナイトモンが作り上げた薬だ。製法もヤツが信を置くデジモンにしか伝えられていない。そして、その材料の薬草はデジタルワールドの復興に合わせて各地に散らばったと聞いている」
成る程。だからどこにいても簡単に薬の材料が手に入るわけね。
「でもデジタルワールドの復興って……」
「お前たちよりも以前に、選ばれし子供たちがこのデジタルワールドにやって来たのだ。アポカリモンを倒すために。しかしヤツの力は余りにも強大過ぎた」
立ち止まって辛い過去を思い出すかのように絞り出すブイモンは固く拳を握り締めていた。
ロイヤルナイツのマグナモンとしてデジタルワールドを守ってきたブイモンがそこまでの顔をする戦い。多分私の想像の遥か上を行くものだったのかもしれない。
「我々ロイヤルナイツと、選ばれし子供たちの力を合わせて漸くヤツの力を削いで火の壁の向こう側に封じるので精一杯だったと聞いている」
選ばれし子供たちの実力はともかく、ロイヤルナイツが束になってもそれが精一杯って、この世界のアポカリモンって相当強いんじゃ。
「ヤツはすべての生命の敵だ。今度こそ、決着を着けなければならない」
そう呟くブイモン。私たちはみんなと離れていたから良いけど、とんでもないことを聞いてしまった気分だった。もしブイモンの言うことが本当のことだったら、太一君たちの旅はとてつもない過酷な終わりに向かっていることになる。
それとも復活したばかりのアポカリモンだったから太一君たちだけで倒せたのだろうか。
真相はわからないけど、スカルグレイモンがブラックウォーグレイモンに進化した事といい、この世界のデジタルワールドは何かがおかしくなっているのかもしれない。それも考えたくもない最悪の方向に向かって。
「みんなー! あの巨大なサボテンの日陰に入るんだ!」
そんな事を考えていると、みんなが大きなサボテンの影に入ろうとして走っていくけど、見るからにそれは蜃気楼だと思う。だって4階建てか多分それ以上に大きい巨大サボテンなら、ここからでも地面に影が射しているのは見えるだろうし。
こうも暑い陽射しに照らされて歩いてるから、みんな疲れていて冷静な判断力が欠け始めてるのね。
サボテンが蜃気楼だとわかってみんな落胆してしまう。無理もない。やっぱりこう暑いと日陰で休みたくなるもの。
『選ばれし子供たち……選ばれし子供たちよ』
と、みんなが座り込んでいるところにゲンナイさんの声が響くと、地面から立体映像通信装置が地面から姿を現して、ゲンナイさんとの通信が繋がった。
「なぁ爺さん。タグと紋章を手に入れたけど、どうやったら正しく進化できるようになるんだ? 俺の心の中にある正しい勇気って、どうすれば引き出せるんだよ?」
『お前さん、自分の紋章の意味を知っとるのか?』
「ああ。有音から聞いた。俺の紋章は勇気の紋章だって」
ああ。有音君、太一君に紋章の意味を教えたんだ。まぁ、あんな失敗をした後だから良かったのかな? でも今度は正しい勇気がなんだかわからなくて苦悩してる様に見えるけど。
「あたし、紋章なんて欲しくない!」
そう言うミミちゃんの素直な言葉なんだろう。紋章を手に入れても、どうやったら正しく進化できるようになるかみんなはまだわからないんだもの。かといって間違えたらスカルグレイモンの様に暗黒進化してしまう可能性もある。
そう思ってしまうのも仕方のないことだけど、でも紋章がないとこの先に控えている敵に勝つことは出来ない。
『落ち着け、選ばれし子供たち。望むと望まざるに関わらず、紋章はお前たちのものとなる。タグと紋章は互いに引かれ合う性質を持っているからのぉ』
「そんなぁ……」
紋章が心底欲しくないミミちゃんはゲンナイさんの声を聞いて肩を落とした。
『たとえタグと紋章を手に入れても、正しい育て方をしなければならんのじゃ』
「正しい育て方?」
ゲンナイさんの言葉に首を傾げる太一君。
いやなんか。うん。その通りなんだけど、正しい育て方って言うのはどっちかって言うとゲーム的な考えに近いと思うんですけど。ていうかもうちょっと紋章に関するヒントとか欲しいんですけど。でないと私たちが何処までの匙加減でヒントを出して良いのかわからないんですけど。
『選ばれし子供たちよ。正しい育て方を考えるのじゃ! それが――』
続きを話す前に映像が途切れてしまった。うん、あの通信装置を今すぐ斜め45度くらいで叩いたら直らないかしら?
「あぁ!? あの爺、いっつもわけのわからないことばかり言いやがって!」
映像が途切れてしまった事に憤慨する太一君。ゲンナイさん、もう少し子供たちのわかりやすい言葉を出してくださいませんかね?
そのまま子供たちとデジモンたちは正しい育て方をしているか、されているか談義に入ってしまった。
私は、ちょっぴりは自信あるかな?
「ぎる?」
「オイラは自信あるかな?」
私を見ながら首を傾げるギルモンの頭を撫でる。その私の横から有音君のコロモンの声が聞こえる。
私もギルモンをデュークモンにまで育て上げたからこその自信と、ギルモンと心を合わせてデュークモンに進化できる所からくる自信もあった。
そんな事を話していると、荒野を進む豪華客船に出くわして、ミミちゃんが乗組員のヌメモンをお色気(?)で悩殺して、私たちは取り敢えず休憩する場所を確保した。
「セリカ、ギルモンもごはんたべてきていい?」
「オ、オイラも腹へった……」
船に上がると、ガブモンが食べ物の匂いを嗅ぎ付けて、ヤマト君とタケルくん、光子郎君、パタモンとテントモンも匂いのする方に向かってしまう。
太一君と太一君のコロモン、丈君とゴマモンは甲板のプールで寛ぐと言って既に別れている。
「仕方がないなぁ。食べたらすぐ戻ってきてね」
「わーいわーい! いこうコロモン!」
「行ってきまーすっ」
有音君のコロモンを頭に乗せながら走っていくギルモン。デュークモンに進化すると正しく騎士って感じになるのに、ギルモンの時はスゴく子供っぽいギャップがかわいい親友である。もしかしてギャップ萌えを先取りする先人者だったりしないかな、ギルモンって。
「ブイモンは良いの?」
「私まで離れたら万が一に我がテイマーを守る者が居なくなるだろう。ギルモンが戻ってきてから食事を取らせてもらう」
そう言って私に着いてくるブイモン。取っ付き難いけど、テイマーである有音君を大事に思うパートナーデジモンなんだね、ブイモンも。
取り敢えず残った女子組は先に寛ぐ為にヌメモンに案内されて客室に入った。
「うわーっ! スゴーい、高級ホテルみたい!」
「バスルームも備え付けみたいね。汗も掻いてるし、シャワー浴びちゃおうかしら?」
「あ、わたしも入る! 芹香さんはどうします?」
「私はあとで良いよ。そこまで広くないだろうし、みんな先に入っちゃって」
誘ってくれたミミちゃんに断りを入れながら、私は有音君をベッドに横たわらせる。
「私は外に居よう。用があれば呼べ」
そう言って部屋を出ていくブイモン。男性的な性格をしているから、私たちに気を使ってくれたのかな?
「わかりました。行きましょ、みんな」
「はぁい。それじゃ芹香さん、お先にー♪」
「「お先にー♪」」
部屋に備え付けてあるバスルームに入って行く空ちゃんとミミちゃん、ピヨモンとパルモンを見送って、私も有音君の眠るベッドに腰掛ける。
「…スゥ……スゥ……スゥ…ケホッ……スゥ…」
「……お疲れさま、有音君」
本当に。私は有音君にお疲れ様としか言えない。
結局、ブラックウォーグレイモンを倒したのも、有音君のアグモンが進化したウォーグレイモンだった。
やっぱり、私が一緒に居るからデュークモンも弱くなってしまうのだろうか。
そうは、思いたくないけど、デュークモンは私とギルモンがふたりでひとつになって漸く進化できる姿だ。
だとすれば、まだ私が未熟なだけだよね。だってギルモンは私が育てたデジモンなんだもの。弱いはずがない。ギルモンはどんなデジモンにだって負けない強い子だもの。だったら問題は私しかない。
私がもっと強くなって、ギルモンに相応しいテイマーにならなくちゃ。
「私も、有音君みたいにデジソウルが使えたら……」
そうすればデュークモンだって強くなるし、有音君に頼りっぱなしという今の状況も変えられる。
こんなにボロボロになってまで戦わせてしまう事もなくなる。
私は、有音君の役に立つと言って、一緒に着いてきているんだもの。もっと頑張らなくちゃ、有音君が安心して休んでいられるくらい強くならなくちゃ。
◇◇◇◇◇
丈と一緒に船の後ろにあるプールに来た俺は、プールサイドに座りながら紋章を眺めていた。
結局ゲンナイの爺さんに紋章の事は聞けなかったし。
「っとに、どうすりゃ良いんだ……」
正しい育て方だとか正しい勇気だとか、もっとこう、わかりやすい方法とかないのかよ。
「どうかしたのか? 太一」
「丈……。いや、なんでもない」
「……あまり、気負ってもしょうがないんじゃないか?」
「え?」
「確かに昨日の事は失敗かもしれない。有音さんや芹香さんに頼りっぱなしで焦る気持ちもわかる。でもしょうがないじゃないか。僕たちは有音さんや芹香さんみたいに戦うことは出来ない。だったら、僕たちは僕たちなりにしずつ強くなるしかないじゃないか」
「丈…」
丈の言うことはわかる。俺と同じで紋章を手に入れた丈も、ゴマモンを完全体に進化させる事が出来る立場になった。
ただ俺と違うのは、俺みたいに焦りを感じない事だ。
「丈もたまには良いこと言うじゃんかよ!」
「たまにはって、ひどいやつだなぁ。この!」
「わぷっ! やったなぁ。水の中でオイラと勝負する気かぁ! うりゃあっ」
「うわっ、ちょ、つめた!」
ゴマモンとじゃれ始めた丈から目を離して、もう一度紋章を見詰める。
俺の中にある正しい勇気――か、そんなものどうやって見つけりゃ良いんだ。
「ヌメェ~~!!」
「ヌメモン!?」
「うわあああ!!」
「丈!?」
俺たちの前に現れたヌメモンが投げ網を丈に向かって投げた。
「丈! うわっぷっ」
「ゴマモン!」
ゴマモンにも縄が投げられて捕まってしまう。立ち上がった俺はヌメモンたちと対峙する。
「何をするんだヌメモン!」
まさかこいつら、エテモンの仲間だったのか!?
「太一ぃぃ!」
「はっ、コロモン!」
離れたテーブルの上で寛いでいたコロモンにも、ヌメモンが向かっている。
「止めろ! コロモンに手を出すな!!」
「太一ぃぃ!!」
俺のデジヴァイスが光って、コロモンの身体も光を放つ。まさか、進化するのか?
「コロモン進化――アグモン!!」
「アグモン!?」
アグモンに進化できた…。良かった。
「《ベビーフレイム》!!」
「ヌメェ~~~!!」
アグモンの攻撃を受けてヌメモンが吹き飛んでいく。
「やったぜアグモン!」
「えへへへ」
さぁて、早く丈とゴマモンを助けなけりゃな。
「コカカカカ! 大人しく捕まってりゃあ良かったがやに」
「な、なんだお前!?」
なんというかでっかい鶏みたいなやつが現れた。こいつもデジモンなんだよな?
「お前は、コカトリモン!」
「コカーッカカ!! おみゃあに用はないがや。《ペトラファイアー》!!」
「うわあああっ」
「あ、アグモン!?」
コカトリモンというデジモンが目から放った光を浴びて石になっちまった。って、えええ!?!?
「アグモン!! アグモン!! うわっ、くそっ! 離せっ。アグモーーン!!」
俺にも網が掛けられて身動きが出来なくなる。ヌメモンたちに引っ張られて、石になっちまったアグモンからどんどん引き離されていく。
ちくしょう、有音だったらこんな縄網くらい振り解いてアグモンの所に駆けつけるのに、俺にはどうしようも出来ないのか!?
「アグモーーン!!」
◇◇◇◇◇
バスルームの方からはキャッキャウフフな感じで女の子組がはしゃいでいるのが聞こえる。
うーん、若いっていうのは良いね。
いや私だって18歳のぴちぴち女子高生だから若いもん!
「…スゥ……スゥ……スゥ……」
やっぱりベッドというのは人を安らかにさせる効果があるのか。まだ顔は朱くて汗も出てるけど、咳も少なくなって呼吸も安定してきている様子の有音君を見ながら、ハンカチで汗を拭く。
空ちゃんたちが出たら有音君の汗を流すついでに私もお風呂に浸かろうかな。
有音君の隣で布団の中に入りながらそんな事を考える。暑いだろうからズボンを脱がした有音君の生足に絡む私の足からも、有音君がまだまだ熱を発しているのはわかる。体温計でもあれば良かったけど、見当たらなかった。だからこれは私が体温計代わりになっているだけだもの。その証拠にスゴく有音君を抱き締めたくて仕方がないのを我慢してるもん。
やっぱりこういう事は普通はいけないし、おかしいかもしれないけど、全部を全部我慢してたら今ごろ人目がないのを良いことにベッドに眠っている有音君の上で淫らに腰を振る自分が楽に想像出来る辺り、私の歪みはもう修正出来ない程酷いものになっているのが容易に理解できる。
グラニに乗せて移動すれば良いのに、わざわざ背負ってまで移動していたのも、片時も有音君と離れたくない自分を少しでも抑えるため。
ナイショ話の為に有音君の肩に頭を乗せて腕を組むのだって、 有音君に甘えていたい自分を少しでも抑えるため。
今こうして横になって足を絡めているのも、汗を流す為と理由をつけて一緒にお風呂に入ろうと考えているのも、有音君と『そういうこと』をしたい自分を少しでも抑えるため。
ファイル島に居たときは頼りになる男の子として、同じ世界の出身者として唯一なんでも話せる相手というくらいの認識だったのに。
サーバ大陸に渡るために海に出た時、タグを手に入れるために海底に潜った時に、闇に取り憑かれてしまった時から感情のコントロールが不安定になりすぎてる。
有音君に対する感情の抑えが利かないというか、一緒に居たくて仕方がないというのを通り越した先。
身も心もすべて有音君とひとつになりたいという気持ちは、有音君を好きになってしまった自分としてはおかしく思う事はないのかもしれないけど、だったら普通に一緒に居て寄り添うだけでも良いはずなのに。
そういう思考を『色欲』に変換されているのではないのかというくらいの異常さが自分でもわかる。
多分一線を越えたとき、もう恥もなにもかもお構いなしに有音君の事を貪り尽くす自信がある。
有音君を徹底的に誘惑してぐちゃぐちゃにされたいという願望さえ浮かび、それを想像するだけで動悸が激しくなる。こんな変態さんじゃ、有音君だってドン引きしちゃうと思うけど。そうはならないんじゃないかって思ってしまっている自分が居る。
海底洞窟で言ってくれた有音君の言葉があるからだと思う。
頼まれても絶対に見捨てないって言葉に、私の心はもう有音君にすべてを捧げてしまったの。
だって、その言葉はどんな私でも受け入れてくれるという言葉だもの。
「…ぺろ……ちゅる……んふ……」
「…うっ、うぅ……っ」
有音君の顔。鼻の上に巻かれている包帯を退けて、真新しい皮膚に舌を這わせる。
ブラックウォーグレイモンに付けられた傷跡。多分傷跡は残るとブイモンは言っていた。
真新しい皮膚だから舌の触る感触が痛いのか、それともくすぐったいのか。有音君は逃げる様に顔を動かす。その顔を導く様に私の胸に当てる。
ああ、なんてかわいくて愛おしくなるんだろう。眠っている時は本当に可愛らしい男の子なのに、起きているときはとても頼りになる男の子になる。戦いの時はもう負ける気がしなくなるほどに逞しい存在になる。
その力と背中に助けられっぱなしの私に出来ることは少ない。カードの力でお手伝いをしたり、今みたいに体調の悪い彼の看病をするくらいしか出来ない。
眠っている時にしか手を出せない私は臆病者だ。
もっとこう、マンガとかアニメのヒロインみたいに好きな人にアタックをかけられる勇気とかあれば良いのに。
子供たちやデジモンたちが傍に居るからなりふり構わないという事は難しくても、せめてもう少し距離感を縮めるイベントが欲しいです。切実に。
「…ほっ。危ない危ない……」
今のは危なかった。途中から思考誘導していなかったら有音君を食べてしまうところだった。
…食べてしまうなら、有音君の意識があるときの方が良いもの。それとも寝ている間に食べちゃって、起きた有音君に押し倒されて無理矢理貪り尽くされるのも悪くないかな? ああ、ダメダメダメ! 気を抜くとすぐこんな感じになってしまう。
「…く、くるひぃ……な、なに……?」
「あ、おはよう、有音君」
気づいた時には有音君の頭を胸に沈むくらい抱き締めていたらしい。小学生の頃から大きすぎて忌々しいこの脂肪の塊も、今はちょっぴり好きかな? 好きな人を胸に埋める心地好さと快感があるし、それに有音君も男の人だもの、大きな胸とか好きそうじゃない?
「…ここは……?」
まだぼーっとした視線で周りを把握しようとする有音君の耳元に口を寄せる。
「ここは豪華客船の寝室だよ」
「……豪華客船…?」
そのフレーズを聞いて有音君の顔が顰めっ面になる。アレ? 私変なこと言ったかな?
「……ギルモンかコロモン、ブイモンでも良い。近くに居るか?」
「ブイモンなら、部屋の外に」
起き上がった有音君は多少ふらつくも、床に立って周囲を警戒している。それは幾度となく見てきた有音君の戦いの時の顔だった。
「バスルームには誰か居るか?」
「空ちゃんとミミちゃんがピヨモンとパルモンと一緒にお風呂に入っているけど」
「すぐ出させろ。ここはエテモン配下のデジモン、コカトリモンの船の可能性が高い。おれたちを捕まえに来るぞ」
「え? じゃあ、まさか……」
私が『デジモンアドベンチャー』の内容を事細かに覚えていないツケが出てきた。まさか敵の船のど真ん中でギルモンと有音君のコロモンを引き離してしまうなんて。
いや、少し考えればわかることじゃない。エテモンの支配するエリアでこんな大きな船が普通に運行されている事がないことくらい。
そう思っていると、部屋の入り口が盛大な音を建てて開かれた。
「アルト!」
「わかってる。ベッドをバリケードにして時間を稼ぐ! 芹香!!」
「は、はい!」
私は有音君に呼ばれてベッドの中から飛び出すと、バスルームに向かって走り出しだ。ああ、私ってホントにバカ…。
to be continued…
コカトリモン
成熟期 データ種
2本の脚が発達した鶏みたいな巨鳥型デジモン。ダチョウの様に地上で活動するに適した進化をしてしまったデジモンで、元々は空も飛べたらしいが、長い地上生活を続けていた為に飛ぶことが出来なくなっている。しかもその巨体を維持する為にエネルギー消費も激しく戦うことも苦手としているが、気性が荒く獰猛なデジモンと、性質と身体が合致していない踏んだり蹴ったりな一面もある。決して強いデジモンというわけではないが、必殺技の『ペトラファイアー』を受けると石化してしまう為、侮っては痛い目を見るぞ!