気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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取り敢えず言いますと、私は太一の事は普通に好きです。なので別に嫌いだからとかでこういう追い詰めるみたいな事はしてませんので悪しからず。

まだ本調子でないので、個別での感想返信が出来ないのですみまえんですた。

※12/28前書きにを一部削除しました。



第31話 それぞれの定義と新たな苦悩

 

 私が目を覚ましたのは、もう夕陽が沈む頃だった。

 

「うっ、ぐ……」

 

 胸に感じる痛みに、Yシャツを握り締めて耐える。

 

 ブラックウォーグレイモンの攻撃を受けた時、懐にモロに喰らってしまった。デュークモンの鎧がクロンデジゾイド製でなければ、今頃私の胸には風穴が開いていたかもしれない。

 

 身体を起こすと、石造りの床の上に寝そべっていたらしい。隣には胸に包帯を巻いたギルモンが寝息を立てていた。

 

 ギルモンの頭を撫でていると、私が起きたのに気づいた空ちゃんが近寄ってくる。

 

「目が覚めたんですね。芹香さん」

 

「うん。取り敢えずなんとかね」

 

 私に話し掛けてくれた空ちゃんの顔は元気がないのを必死で隠している様だった。

 

「有音君は……?」

 

「取り敢えず、丈先輩とブイモンが治療をして命に別状はないみたいです」

 

「そっか……」

 

 その言葉を聞いて安堵する。ブラックウォーグレイモンに殴り飛ばされた有音君の様子をじっくりと把握出来なかったけど、究極体に殴られて観客席まで吹き飛んで行った彼の小さな身体が本当に無事でいる確証なんてなかったから。

 

「うぐっ」

 

「だ、ダメですよ! また寝てなくちゃ」

 

 立ち上がろうとして、胸の痛みが疼いて呻き声を出してしまった。

 

 空ちゃんが私の身体を支えて寝かそうとするけと、私はその手をやんわりと取り払った。

 

「大丈夫。それより有音君の所に案内して」

 

「芹香さん…。どうしてそんなに」

 

 無理をするのかと言いたげな空ちゃんに、私は視線を合わせた。まだ小学生の空ちゃんでも、精神年齢的に子供たちのお母さん的なポジションに居るこの子だったら、私の言う意味をわかるだろうと思って言葉を紡いだ。

 

「好きな人の近くに居たいと思うからよ」

 

「す、好きな人…、って?」

 

 空ちゃんは私の言葉を聞いてポカーンとした感じで言葉を返して来た。

 

「私、有音君の事が好きだから。なるべく一緒に居たいの」

 

 胸は居たいけど、大好きな有音君の所に向かうんだと自分に言い聞かせると、不思議なことに痛みが気にならなくなっていく。

 

 それでもゆっくりと立ち上がって、私は服の中がごわごわするのが気になって、Yシャツの首元を引っ張って中を覗くと、ブラが外されていて代わりにサラシの様に包帯がぐるぐる巻きにされていた。その包帯が外れかけて緩んでいるからごわごわしていたみたい。

 

「空ちゃん、包帯巻き直すの手伝ってくれる?」

 

「あ、えっ、は、はい」

 

 取り敢えず周りを見てからYシャツを脱ぐ。ここは個室の様な感じになっていて、今は私とギルモン、空ちゃんとピヨモンしか居ないから上が裸になっても、まぁ平気だよね。それに見られたって有音君以外は小学生だから別に恥ずかしくはないかな。とは言っても見せたいわけじゃないけど。露出癖のある痴女っていうわけでもないもの。

 

「うわぁ……これは痛くて当たり前だ」

 

 巻いてある包帯を取ると、右胸に結構な青痣が出来ていた。丁度イージスで受け流した攻撃が当たった場所だった。多分ギルモンも同じ場所に傷を負っているはず。

 

 薬を染み込ませたガーゼを傷痕に当てて、空ちゃんとピヨモンにもう一度包帯を巻いてもらう。

 

「セリカって、空と違ってなんでこんなに重たくて大きいものを着けてるの?」

 

「こ、こら、ピヨモン!」

 

 純粋的な疑問を口にするピヨモンを叱る空ちゃん。確かにデジモンで鳥型のピヨモンには、人間の胸のどうこうは純粋的な疑問なのかもしれないわね。

 

 デジモンには女性型とか男性型という区分はあるけど、人間のように性別はないと言われている。それに胸があるデジモンは女性型だけど、その女性型デジモンが身近には居ないから気になるのも無理はないのかな。

 

「うーとね。ピヨモンは進化すると身体が大きくなるでしょ? 人間も成長するにしたがって身体が大きくなるんだけど。人間の女の人は、赤ちゃんを産んで育てるための身体に成長していくの。空ちゃんだって、大人になれば私みたいになるのよ?」

 

「赤ちゃんを産んで育てるため? セリカと空はデジタマが産めるようになるの?」

 

「フフ、違うよ。人間の赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で育って産まれてくるの。私や空ちゃんのお腹の中が、デジタマと同じ役割を持ってるのよ」

 

「うーん、良くわからないわぁ…」

 

 私の説明に首を傾げて頭に?を幾つも浮かべているのがわかる。空ちゃんは気恥ずかしげに私に頭を下げるけど、仕方がないよ。人間とデジモンとじゃ、その生まれかたも身体の作りも違うんだから。

 

「じゃあ、この大きいのはなにに使うの?」

 

「も、もう! やめなさいってばピヨモン!」

 

「えー? なんで? 空は気にならないの?」

 

「私は知ってるからいいのよっ」

 

「えー! 空ばっかりズルい~! わたしも知りたいぃ!」

 

「もう勘弁して……」

 

 恥ずかしさで顔を真っ赤にして額に手を当てる空ちゃん。子供っぽい甘えん坊のピヨモンだからというか、女の子みたいな性格の空ちゃんのピヨモンだから恥ずかしくないけど、デジモンに人間の保険体育の授業することになるなんて思わなかったわ。

 

 取り敢えずはピヨモンの疑問に答える為に、私は人間女の人の胸は赤ちゃんを育てる為にあるのだと教えると、どうやって育てるのと切り返されたので、赤ちゃんにあげるミルクが出るようになるんだよっと教えると、ピヨモンは驚いた様にスゴいスゴいと跳び跳ねて、じゃあ、今のセリカはミルクが出せるのって言った瞬間に空ちゃんの鉄拳がピヨモンの頭に落ちた。

 

 そして空ちゃんが30分くらいピヨモンにお説教をして、ようやく私は有音君の所に向かえる事になったけど、終始空ちゃんが恥ずかしくて申し訳ないという顔で私に何度か謝って来た。

 

 まぁ、私も調子付いていたから気にしないでと返しておいた。

 

 そんなこんなでやっと有音君の様子を見にこられたのだけど。

 

 酷い有様だった。頭と顔の鼻の上辺りは包帯でぐるぐる巻き。腕も薬を染み込ませたガーゼがあちこちに貼られていた。

 

 横になっている枕元にはブイモンとコロモン、そして胡座で座っている太一君とその上に収まっているコロモンの姿があった。

 

「あ、セリカ」

 

 位置的に枕元に居るコロモンが有音君のコロモンだとして、有音君のコロモンが私に気づいて声を掛けてくれると、太一君の肩がビクッと跳び跳ねた。

 

「有音君の容態は?」

 

 私は有音君を丈君と治療したらしいブイモンに問い掛けた。

 

「命に問題はない。身体の中も薬を煎じて飲ませた、明日には動かせる」

 

「そっか……」

 

 なんというか、有音君が頑丈なのもあるけど、ナイトモンから貰った薬がなかったら、今頃どうなっていたんだろう。

 

「……せ、芹香…さん。俺…」

 

 どう切り出したら良いのかわからないといった様子で言葉を切り出す太一君を見て、私は声を掛けた。

 

「私よりも、有音君に話してあげて」

 

「え…?」

 

 私は太一君を糾弾する様な立場にない。確かに怪我はしたけど、戦いだもの。それは仕方がないことだと思う。

 

 私は太一君にかけてあげられる言葉は幾つかあるけど、それは慰めにしかならないと思う。歳上のお姉さんだから、私の言葉は甘やかしになってしまうかもしれない。

 

 それは今の太一君には宜しくないことだと思う。私たちが居なければ、みんなを引っ張っていく立場だった太一君が、私に甘えてしまう様な男の子になっちゃダメだと思う。

 

 それに、私なんかよりも、同じ男の子同士で、同じアグモンをパートナーに持つ有音君の言葉の方が、きっと太一君の胸に響くと思うから、私は太一君に何も言わない。言わなくても、有音君が全部言ってくれるだろうから。

 

「それじゃ、有音君をお願いね。行こう、空ちゃん、ピヨモン」

 

「あ、はい」

 

「わ、わかったわ」

 

 私は空ちゃんとピヨモンの手を引いて有音君から離れる。太一君は俯いてしまって引き止める様な言葉も出なかった。

 

 私が怒っていると思ったのだろうか。別にそんなことはないけど、成長出来るか出来ないかは、ここが正念場だよ、太一君……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 戦いが終わってから、俺は有音の傍に着いて居た。

 

 丈とブイモンが必死で有音を治療する時、俺は有音が無事に目を覚ますことを祈るしかなかった。

 

 頭に顔、そして身体にもミイラみたいに包帯をぐるぐる巻きにする様子を見て重症だと言うのは素人目にもわかる。

 

 血塗れになって眠る有音の姿が、何時か見た苦しそうにベッドで眠るヒカリの姿に重なった。

 

 その日、ヒカリは風で幼稚園を休んでいたんだ。でも学校から帰ってきて、普通にリビングに居たヒカリを見てすっかり元気になったと勘違いした俺は、ヒカリを家から連れ出してしまった。

 

 ヒカリは風を拗らせて救急車で病院に運ばれて、母さんに叩かれて初めて俺は自分のしてしまった過ちと、事の大きさを気づかされた。

 

 俺の所為で死にかけたヒカリ。もうそんな事をしないと誓っていたのに、今度は俺の所為で仲間が死にそうになった。

 

 どうしてなんだ。グレイモンに間違った進化をさせてしまった。スカルグレイモンは暴れて仲間を傷つけて、さらにはまた進化してブラックウォーグレイモンなんていうデジモンになって、そいつの所為で有音は死にかけた。

 

 どうして俺の所為なのに俺の周りが危ない目に遇わなくちゃならないんだ。 やるなら俺をやれよ!

 

 誰でも良いから教えてくれ。俺はどうするべきだったんだ!?どうすればグレイモンを有音みたいに正しく進化させられたんだ!?

 

 唯一俺の疑問に答えてくれる有音は眠っている。芹香さんは有音と話しをする様にと言って、行ってしまった。

 

 どんな顔で有音と向き合えば良いんだよ。謝って赦してもらえるようなことじゃないのに……。

 

 と、とにかく先ずはコロモンを助けてくれたお礼を言わなくちゃな。そ、それから謝って、えーっと、それから…それから……――。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「うっ……く…っ」

 

 意識が浮上してきて、頭や顔から感じる痛みに顰めっ面になりながら目を開ける。

 

 石造りの天井がまず目に入った。

 

「アニキ? アニキ起きたのか?」

 

「コロモン…?」

 

 声がする方に頭を向けると、そこにはドアップでコロモンの姿が映った。てか近いよ。

 

「目が覚めたか」

 

「ブイモン……」

 

 身体を起こそうとするも、胸やら背中が痛すぎてまともに身体が動かせそうにもない。

 

「無理をするな。今日1日安静にしていろ」

 

「…あれから、どれくらい経った?」

 

「まだ半日も過ぎてはいない。今日は皆もここから動く気はない。だから休め」

 

「そっか……」

 

 ブイモンの言葉を聞いて身体から力を抜く。まだ抜け切れない睡魔に身を任せたいが、太一と話しをしないとならない。スカルグレイモンに暗黒進化させただけならまだ良い。

 

 でもおれがこんな体たらくで、しかも太一の目の前でおれはメタルグレイモンとウォーグレイモンに、相棒を進化させた。

 

 相当落ち込んで自分を責めているはずだ。

 

 まだ小学5年生の小僧っ子が、そんなことでくよくよしてても仕方がないだろうに。

 

 確かに失敗はしたかもしれない。目の前でグレイモンをメタルグレイモンに進化させたから、スカルグレイモンが間違った進化だったとより印象付けてしまったかもしれない。

 

 だからどうした。大人だって失敗する時は失敗する。経験未熟な子供が失敗して目くじら立てるような大人でもないぞこちとらは。

 

「あ、有音……」

 

「……ひどい顔だな。今にも泣きそうじゃんか」

 

「俺…おれっ……」

 

 近くに居たのか。太一がおれの顔を覗き込んできた。罪悪感と後悔でぐしゃぐしゃの顔は情けないものだった。子供だてらに今回仕出かした事に責任を感じている様だ。

 

「コロモンは無事か……?」

 

「オイラは元気だよアニキ」

 

「お前じゃなくて太一のコロモンだ」

 

 同じデジモンがパートナーだと主語を言わんとややこしい時もあるな。これでマサルダイモンまで一緒に居たらややこしいなんて言葉じゃ片付かないか。

 

 いや、拳だけでそのややこしさやらなにやらすべて粉砕しそう。

 

 おれにもあれくらいの腕っ節の強さがあればなぁ。

 

「あ、ああ。お前が助けてくれたお陰だ。ありがとう、有音」

 

「そうか。なら良いさ…」

 

 なにしろデジモンをデータから再構成するなんて初めてのことだ。原理はおれにも良くわからない。ただ、アルファモンはデジモンを武器にして振るう力がある。今回はそのちょっとした応用ってやつだ。(冥王並感

 

「…なにが、良いんだよ……」

 

 歯を噛み締めながら肩を震わせる太一。

 

「お前、あんな死ぬかもしれない思いまでして、なんでそんな普通にしてられるんだよ!!」

 

 太一の叫び声が耳に響く。太一の目は後悔と罪悪感と己への怒りで染まっていた。

 

 確か太一は自分の過失で妹のヒカリちゃんを死なせかけたことがあったんだっけか。

 

 今回も、自分の過失でおれが死にかけたから、それもあってかなり自分を責めているんだろうな。

 

「…おれがお前を責めれば気が晴れるのか?」

 

「それは……っ」

 

「バカかお前? そんなことして喜ぶヤツがいるか。誰にも責めて貰えないからって、おれをダシにするのもいい加減にしろよ」

 

 おれは身を起こしながら太一の胸倉を掴み上げながら迫る。

 

「1度失敗した。それでくよくよするのも仕方がない。でもな、おれを使って自分を慰めようとするのもいい加減にしろ! そんなお前じゃ、何時まで経っても正しい進化をさせることなんて出来やしねぇ!」

 

「俺は、そんなつもりじゃ…っ」

 

「じゃあどういうつもりか言ってみろ! ふざけた事を抜かしたら迷わずぶん殴ってやる!」

 

 1度言葉を切って、太一の言葉を待つ。揺れ動く太一の眼差し。どうしたら良いのかわからずに彷徨っているのを物語っている。

 

 おれは太一が嫌いだからとかでこんな風に接しているわけじゃない。あのまま礼を言ったまでで終わっていれば、おれだってここまでは言わなかった。

 

 おれたちが居なければ、太一が皆を引っ張っていく立場だった。それをおれたちが居る所為で子供たちの成長を妨げてしまっている自覚もある。

 

 だから無理せずに子供たちには成長して欲しいと思っている。その無理はおれが引き受けるべきことだからだ。

 

「…わからないんだ。俺は、どうしたら良いんだよ……。俺しか紋章を持っていないから、俺がやらなくちゃって。有音と芹香さんだって出来るから俺にも出来るって思い込んでた」

 

「……そうか」

 

 おれたちの存在が、太一を追い詰める事になってしまった。

 

 でも、おれたちも必死だ。生きるために、全力で戦ってきた結果だ。

 

 そしておれは、ある意味で太一とは違ってカンニングペーパーを持ってアグモンを進化させているようなものだ。

 

 アグモンがどう進化していくのか知っているから、それをおれは強く思い描いてアグモンを進化させてきた。

 

 デジソウルを使えばジオグレイモン、ライズグレイモン。そしてグレイモンからメタルグレイモン、ウォーグレイモンといった様に。

 

 でも今回は奇跡の様なものだ。太一のコロモンが、おれたちに力を貸してくれたからウォーグレイモンに進化できた様なものだ。

 

「太一。その紋章の意味を教えてやる」

 

「俺の…、紋章の意味?」

 

 タグを手に持つ太一。逸る気持ちもわかる。その理由も聞いた。人間誰しも失敗することはあるんだ。寧ろ失敗を経験したことのない人間なんて危なっかしい。

 

 でも、太一は今回の事で学んだはずだ。だから1度失敗した経験を生かせれば、次は必ず正しく進化させることが出来るはずだ。

 

「その紋章の意味は、『勇気』――だ」

 

「勇…気……?」

 

「太一。今日のお前に勇気があったか?」

 

 おれは問い掛けた。『勇気』があったかどうかを。

 

 答えはわかっている。でも、紋章の意味を正しく理解していなければ紋章の力を引き出せない。

 

 ただ進化するだけなのは成熟期までだ。完全体、そして究極体に至るには、太一たちのパートナーは紋章の力を正しく引き出さなければならないのだ。

 

 そして子供たちが紋章の力を引き出した時、それは子供たちの持つ心本来の性質と向き合う時。

 

 暗黒の力に対抗するには、力だけでなく、心の力も必要なのだということだ。ブラックウォーグレイモンと戦って、改めてそれがわかった様な気がする。

 

 ブラックウォーグレイモンを倒せたのは、太一のコロモンがおれたちに託した『勇気』の力があったからだ。

 

 自分が例え倒されても、仲間を傷つけたくないという。仲間の為に自分の身を挺する勇気。

 

 そしておれの相棒が抱いていた、例え仲間を傷つけても止めてみせるという、必要なら自分の心の傷も厭わない勇気があったからかもしれない。

 

 仲間を傷つけてしまうかもしれないという一種の恐怖を乗り越えて行動できる勇気。

 

 それが正しい勇気かどうかはわからない。しかしそれも正しくひとつの勇気であるとおれは思う。

 

「俺は、グレイモンを進化させる事しか頭になかった。『勇気』なんて、ちっとも持ってなかった。でも、それじゃあどうしてダメなんだ? 俺と、有音や芹香さんは何が違うんだ?」

 

 何が違うか。ひとつはやっぱりデジモンがどう進化していくのか知っているのも一因だとして。

 

「おれも芹香も、自分のパートナーを信じて一緒に戦っているから、かな?」

 

「一緒に、戦うって。そんなの…」

 

「早とちりするなよ? 一緒に戦うなんて、やり方は人それぞれだ。おれみたいに身体を張ることもある。芹香みたいにカードを使うこともある。でも一番の根底にあるのはテイマーとデジモンの強い絆だ」

 

 おれが自分のコロモンを見て言葉を切る。おれとアグモンが出逢ったのは、太一たちと変わらない時期だ。

 

 でもアグモンが――おれの相棒が全幅の信頼をおれに寄せてくれるのなら、おれはその信頼に全力で応えて一緒に戦ってきただけだ。

 

 芹香もおそらく同じだ。ただあいつとギルモンの場合は、デジタルワールドに来る前からのテイマーとパートナーとしての絆があるから、こんなにも早くデュークモンに進化出来たというだけだろう。

 

「太一と太一のアグモンだって絆もあるし信頼もある。だからあとは紋章の力を正しく引き出せれば焦らずともメタルグレイモンに進化できるはずだ」

 

「紋章の力を、正しく引き出すって。どうすれば良いんだ…?」

 

「そこはおれにもわからない。紋章の求める正しい『勇気』は、太一の心の中にある勇気だ。おれは太一じゃないからその勇気がなんなのかはわからない。それは自分自身で見つけなくちゃならないものだ」

 

「俺自身の、勇気……」

 

 勇気の紋章を見つめながら呟く太一。おれなりに出来るヒントは出し尽くした。あとはそれを太一がどう受け取るかだ。

 

「ッ、ゴホッゴホッ、わ、悪い。少し横になる」

 

「ああ。うん。こっちこそすまない。ひどい怪我なのに」

 

「気にするなよ。これくらい寝てりゃ治る」

 

 太一に断りを入れて横になる。胸の痛みが半端じゃないし、口の中が血の味でいっぱいだけど、立ち直りかけている太一の前で血反吐吐くわけにもいかない。口の中に漏れる血を気合いで飲み込む。

 

「俺に、出来るのか。紋章の力を正しく引き出すことなんて……」

 

 紋章を見つめたまま自信なさ気に呟く太一の額を小突いてやる。

 

「いてっ、なにするんだよ!?」

 

「成功するかどうかなんて誰にもわからないんだ。だったらやるだけやるんだ。それが男ってもんなんだよ」

 

「有音……」

 

 おれだって太一の事はあまり言えた義理じゃない。強さに貪欲なのは寧ろおれの方だ。でも強さばかりを求めちゃダメなのを知っている。テイマーのおれだけが逸ってもダメなのを知っている。パートナーと一緒に強くならないとダメなのを知っている。

 

 もしその事を知らなければ、おれもアグモンを暗黒進化させてしまっていたかもしれない。

 

 スカルグレイモンやウィルス種のメタルグレイモンならまだ止めようはある。でもシャイングレイモンのルインモードに暗黒進化させてしまったら、それこそ誰にも止められない。

 

 芹香も、一歩間違えればメギドラモンやカオスデュークモンに進化する可能性を抱えてるんだ。

 

 なにが正しいかなんてみんなわからない。おれだってそうだ。おれは感じるままに身を任せているだけだ。

 

 アグモンが望んで、おれが望む姿を体現しているだけだ。

 

 それが出来るようになれば、太一だってパートナーを正しく進化できるようになるさ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 有音に言われた紋章の意味。

 

 俺が持つ紋章は勇気の紋章というらしい。

 

 勇気……か。

 

 俺はあの時、グレイモンを進化させる事しか考えていなかった。グレイモンの事を何一つ考えていなかった。

 

 テイマーとパートナーの絆。今日まで一緒に戦ってきたグレイモンの事を蔑ろにしていたんじゃ、あんな姿に進化してしまったのも納得がいった。

 

「俺に出来ると思うか? なぁ、コロモン」

 

 俺は寝ているコロモンを撫でながら呟いた。

 

 紋章を手に入れて、俺が頑張らないといけないって思ってた。でも、ひとりで戦う気でいただけじゃダメなんだ。パートナーと一緒に戦わないとダメなんだ。

 

 俺には有音みたいにデジモンと戦うことは出来ないし、芹香さんみたいにカードを使うことも出来ない。

 

 それでも一緒に戦うなんて、どうすれば良いのか今の俺にはさっぱりだった。

 

 でもひとつだけはわかる。もうあんな事はしない。ひとりで突っ走った結果が、グレイモンをスカルグレイモンに進化させてしまったのなら、正しく進化できるようにコロモンともう一度頑張っていこう。

 

 同じ失敗だけは、もう繰り返さない!

 

 

 

 

to be continued… 




メタルグレイモン
完全体 ワクチン種

グレイモンが進化するサイボーグ型デジモン。ワクチン種とウィルス種の二種が確認されているデジモンであり、ワクチン種のメタルグレイモンは強化改造に成功し、より強力なパワーを得た姿である。必殺技の『ギガデストロイヤー』は、核ミサイル1発分の威力があると言われているぞ。

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