気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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この度、更新遅れてしまい申し訳ないです。祖父が倒れて病院に緊急搬送。生死の境を彷徨い余談を許さぬ状態という連絡が前回の更新した直後に突如舞い込み、今も意識不明のままICUで治療中です。回復も難しいと言われてかなりショッキングを受けて中々筆が進みませんでした。

取り敢えずなんとか書き上がりましたのでお楽しみください。


第30話 暗黒の脅威 究極進化、ウォーグレイモン!

 

 太一君のグレイモンが暗黒進化してしまったスカルグレイモン。

 

 今さっき見たはずなのに、紋章の力の所為か、その威圧感はエテモンのスカルグレイモンとは比べ物にならなかった。

 

 その威圧感に圧倒されてか、エテモンのグレイモンは怯える様に逃げ出す。でも、太一君のスカルグレイモンはそれを許さず、頭からエテモンのグレイモンを掴み上げると、エテモンの映るモニターに向かって投げ付けた。

 

『でえええええ!?!?』

 

 エテモンの驚愕の叫びが響き、エテモンのグレイモンがモニターにぶつかると激しく紫電を散らす。そこに向かって太一君のスカルグレイモンが背中のミサイルを放ち、モニターとエテモンのグレイモンは跡形もなく消え去った。

 

 一難は去った。でもここからがもう一難だ。

 

「スカルグレイモン。お前、本当にグレイモンから進化したやつだよな?」

 

 戸惑い勝ちにスカルグレイモンに話し掛ける太一君。それも仕方がない。

 

 有音君はジオグレイモンをライズグレイモンに進化させた。同じアグモンから進化する別々のグレイモンだとしても、太一君はグレイモンが進化すればライズグレイモンの様なデジモンに進化すると思っていたはず。

 

 でも結果は違った。見るからに悪そうな凶悪面。しかも今し方デュークモンと戦っていたスカルグレイモンに進化してしまったのだから、それが本当に自分のパートナーが進化した姿なのかと不安になるのも無理はないと思う。

 

「シュアアアアア!!」

 

「危ない太一!!」

 

 そして太一君の問い掛けに答える事もなく、スカルグレイモンは太一君を踏み潰そうとした。ヤマト君が太一君の危機に叫ぶ。

 

「ガブモン進化――ガルルモン!!」

 

 ヤマト君の太一君を心配する心に応える様に、ガブモンがガルルモンに進化して、太一君に向かって駆けつけると、服の首根っこを噛んで釣り上げながらスカルグレイモンの前から離れていく。

 

「大丈夫か? 太一」

 

「あ、あぁ、ありがとうガルルモン。…くそっ、なんでこうなったんだ……」

 

 助けてくれたガルルモンに礼を言いながらも、スカルグレイモンを見て呆然自失の様子で呟く太一君。それも仕方がない。まさかパートナーが進化したデジモンに踏み潰されそうになるなんて、普通は思いもしないもの。

 

「あのスカルグレイモン。かつてない暗黒の力を感じる」

 

『デビモンよりもヤバいってこと…?』

 

「所詮は成熟期のデジモン。だがスカルグレイモンは完全体、さらには紋章によって呼び寄せられた暗黒の力を使って進化してしまった。並大抵のことでは止まらんぞ、アレは」

 

 デュークモンに進化して饒舌というか博識になった親友には少し驚くけど、そんな驚きすらも今は気にならない事態が目の前で起こっている。

 

 デュークモンの言葉が正しいなら、時間経過で退化するという甘い夢は見ない方が良いかもしれない。

 

『私たちで止めるよ、ギルモン!』

 

「承知した。行くぞ、セリカ!」

 

 私の想いを受けて、デュークモンが駆け出す。

 

「グルルル…」

 

 それに気づいてか、スカルグレイモンが私たちの方を向く。

 

『でも、スカルグレイモンを元に戻すにはどうしたら良いの…?』

 

「やつを縛る暗黒の力を浄化出来れば良いのだが。我等の力では強すぎる」

 

 スカルグレイモンの懐に入ると、腕を振りかぶって私たちを潰そうとしてくる。

 

 私は親友に打開策はないかと質問してみるも、私たちの力ではスカルグレイモンを倒してしまう可能性を示唆された。

 

『「《スクリューセーバー》――!!」』

 

 上から迫るスカルグレイモンの手を、回転をつけた切り上げで弾き返す。

 

「ギュアアアアア!!」

 

 聖槍グラムが斬り付けた部分の骨が弾け飛び、スカルグレイモンは痛みに悶える様な叫びを上げる。

 

「止めてくれ! スカルグレイモンを傷つけないでくれ!!」

 

 傷付くスカルグレイモンに、そんな事を叫ぶ太一君だけど、だって仕方がないじゃない。こっちは究極体で、スカルグレイモンは完全体。世代がひとつ違うのだから手加減しても仕切れないんだから。

 

 それに私たちでなければ、スカルグレイモンは相手に出来ない。今の子供たちには完全体のスカルグレイモンを相手に出来る力はないのだから。

 

「どうする、セリカ?」

 

『どうするって、言われても…』

 

 傷つけないで止める方法があるなら是非とも教えて欲しいくらいよ。

 

「グアアアアアア!!」

 

『うっ、くぅぅっ!!』

 

「ぐうっ!」

 

 迷っている合間に、再びスカルグレイモンが腕を振り上げて、私たちを潰そうと上から押さえ付けてくる。反応が遅れた私たちは聖盾イージスを掲げながら防御するも、余りの勢いに膝を着いてしまう。

 

 テイマーの私がしっかりしないで、どうするのよ。でも、確かに太一君の言うこともわかる。

 

 もしギルモンがメギドラモンになってしまったとしたら、私は戦うことが出来るのだろうか。

 

「セ、セリカ…!」

 

 デュークモンの声が聞こえる。私を気遣ってくれている。でも、私にはどうすれば良いのかわからなくなってきた。

 

 スカルグレイモンを元に戻すにはどうしたら良いのか。このまま戦ってスカルグレイモンを倒してしまわないか。

 

『どうしたら良いのっ、有音君……』

 

 答えが見出だせずに、私はただ、スカルグレイモンの攻撃を受け止めるしか出来なかった。

 

「アグモン進化――グレイモン!!」

 

 そんな私の耳に、有音君のアグモン声が聞こえた。

 

「オイラが相手だ、スカルグレイモン!」

 

 有音君のグレイモンがスカルグレイモンに体当たりして、バランスを崩した所に蹴りを入れて、私たちはスカルグレイモンの攻撃から逃れる。

 

「グレイモン、何故」

 

「アニキだったら、どんなやつが相手でも戦うはずだ。それが仲間だったら、なおさら元に戻すために戦うはずだ!」

 

 どうして来たのか問うデュークモンに、有音君のグレイモンは宣言するかの様に言い放った。

 

「確かに、仲間を傷つけるのはイヤだよ。でも、スカルグレイモンだって、自分の攻撃で仲間を傷つけるくらいなら、例え自分の身が傷ついても止めてほしいはずだ。オイラはそう思う」

 

 同じ個体のデジモンだからか、有音君のグレイモンの言葉はとても納得の行くものだった。

 

『グレイモン……』

 

 有音君のグレイモンの言葉は、まるで有音君が言っている様に聞こえる。それはパートナーとテイマーだからなのだろうか。

 

 そんな有音君のグレイモンに嫉妬を感じてしまう辺り、不謹慎で末期だなぁ、っと、私は思う。

 

「…!? いかん、構えろセリカ!」

 

『え? ッ、きゃあああああ!!』

 

「うわああああああ!!」

 

 デュークモンの声で我に返る私。でも、気づいた時には目前にスカルグレイモンのミサイルが迫っていて、慌てて聖盾イージスで防御するも、防御姿勢もしていなかった私たちはミサイルの爆発によって盛大に吹き飛ばされてしまった。

 

『うぅっ、ご、ごめん、ギルモン…』

 

「うぐっ、大事はないか? セリカ」

 

『私は平気だよ』

 

 身体のあちこちが痛いけど、これはデュークモン――ギルモンが感じている痛みだもの。デュークモンがなんともないなら、私が弱音を吐くわけにはいかないもの。

 

 背中をコロシアムの観客席にめり込ませながら、視線だけでもスカルグレイモンに向けると、スカルグレイモンは有音君のグレイモンに向かってミサイルを放つ所だった。

 

 有音君のグレイモンをエテモンのグレイモンと勘違いして倒そうとでもいうの!?

 

「や、やめろおおおおお!!」

 

『やめてえええええ!!!!』

 

 今から飛び出しても間に合わない。それでも身体を起こして地を蹴り、叫びながら私たちは有音君のグレイモンに向かう。

 

 でも、私たちを追い越して、有音君のグレイモンの背中を駆け上がっていくひとつの影がある。

 

『あれは!?』

 

 放たれたミサイルは真っ直ぐ有音君のグレイモンに向かっていったものの、有音君のグレイモンの頭から跳び上がった影が、あろうことかミサイルを殴り付けた。

 

『なっ!?』

 

 爆発すると思ったミサイルは、データの粒子となって砕け散った。

 

「ア…アニキぃーーっ!!」

 

 着地した影は、額にびっしょりと汗をかいて。頬も真っ赤なままでもしっかりと自分のパートナーに振り向く男の姿――私のヒーロー、有音君の姿だった。

 

「…お前の言葉、胸に響いたぜグレイモン。その覚悟があれば、スカルグレイモンも止められるはずだ」

 

 有音君の身体から、デジソウルが溢れだしていく。

 

「な、なんだコレ!?」

 

 すると太一君から慌てた様子な声が聞こえたので見てみると、漆黒の輝きを放っていた勇気の紋章が本来の色を取り戻して光輝いていた。

 

「これは……」

 

 そして異変は有音君の身体にも起きていた。有音君を包むデジソウルが、光の様な白から、勇気の紋章が放つ太陽の様な輝きのオレンジ色に変わっていくのだ。

 

 そしてそれはデジソウルだけに留まらず、有音君のグレイモンすらオレンジ色の光に包み込んでいく。

 

「聖なる光が、アルトとグレイモンを包み込んでいる」

 

 デュークモンの呟きが、その状況を説明してくれた。

 

 有音君は握り拳を作って、それを胸に当てる。

 

「わかるかグレイモン? 太一の、アグモンの声が聞こえるだろ?」

 

「うん。オイラにも聞こえる。アグモンは、暗黒の力に苦しんでる。自分じゃどうしようも出来ないって。だから――」

 

「おれたちが止めてやるんだ。そうだろ、グレイモン! 」

 

「そうだよアニキ。アニキが一緒だから、オイラはなんだって出来る気がする。スカルグレイモンは絶対にオイラが止めてみせる!!」

 

 ふたりが眩い光に包まれていく。その光はとても温かくて、清らかで、それでいて何者にも負けない心強さを感じさせるものだった。

 

「グレイモン超進化――!!」

 

 ふたりを包む眩い光に向かって、太一君の首から下げる勇気の紋章から光が一筋になって放たれ、ふたりを包む光をさらに強く太陽の様な輝きを放つオレンジ色に染め上げる。

 

「メタルグレイモン!!」

 

 ふたりを包み込んだ光が晴れると、そこには青紫の翼を生やして、頭はメタリックな兜に包まれて、左腕は三本の爪を生やした機械の腕に変わったグレイモンの姿があった。

 

 グレイモンが進化する完全体のサイボーグデジモン。

 

 太一君のグレイモンが正しい勇気の紋章の力で進化すると成ることが出来るデジモン――仁王立ちする有音君を頭に乗せたメタルグレイモンの姿がそこにあった。

 

「行くぞメタルグレイモン!!」

 

「おおーっ!!」

 

 デジソウルを拳に宿した有音君が、メタルグレイモンの頭から跳び上がると、メタルグレイモンもスカルグレイモンに向かって飛び出す。

 

「オイラの友達を――」

 

「おれのなかまを――」

 

 スカルグレイモンの頭上からはデジソウルを拳に宿した有音君が、そしてスカルグレイモンの真正面には生身の右腕に拳を作るメタルグレイモンが迫る。

 

「「離しやがれえええええええ!!!!」」

 

 ズドンッというか、ガシンッというか、ズバーンッと効果音が付きそうな衝撃を伴ってスカルグレイモンの頭と顔を殴り飛ばした有音君とメタルグレイモン。

 

 観客席まで吹き飛ばされていくスカルグレイモン。そして再びメタルグレイモンの頭に舞い戻った有音君の腕の中にはコロモンが抱かれていた。

 

「やったぜアニキ!」

 

「ああ。まどろっこしい事を考えても仕方がない。おれはコイツ()で自分の道を切り開くまでだ!」

 

 何が起きたかわからないけど、たぶん有音君の腕に抱かれているのは太一君のパートナーで間違いないのはわかる。

 

 非常識だとかご都合主義だとか、そんなちゃちなものじゃない。もっと恐ろしいものの鱗片を垣間見た様な気分よ……。

 

「ふふふ、まさか我等が手を拱く事態を拳ひとつで解決するとは。畏れ入るな」

 

『え、ええ……そうね…』

 

 愉快そうに笑う親友に、私は呆気に囚われながら同意するしかなかった。有音君、カッコいいけどムチャクチャ過ぎて着いていけませんわ……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「大丈夫か? コロモン」

 

「うん…。ありがとう、アルト。ボクの声を聞いてくれて」

 

「なーに言ってる。困った時はお互い様だろ?」

 

 おれは太一のコロモンの無事を確認しながら、一先ずメタルグレイモンの頭から跳び降りて、太一たちの元に向かう。

 

「有音、それにコロモン…?」

 

「ゴメン太一。太一の期待に応えられなくて……」

 

「良いんだコロモン。お前が気にすることじゃない」

 

 太一の期待に応えられない事を謝るコロモンに、太一は気にするなと声を掛け、おれはコロモンを太一に渡して声を掛ける。

 

「太一、みんなを連れて離れているんだ」

 

「え? ど、どうして?」

 

 戸惑う太一に、おれは後ろのスカルグレイモンの方に向き直りながら言う。

 

「今のお前たちじゃ、完全体のスカルグレイモンには勝てないからだ」

 

「っ、そ、それは……っ」

 

 コロモンを助け出しても消えないスカルグレイモン。戦闘は避けられないだろう。おれがやったのはスカルグレイモンの暗黒の力の中から、太一のパートナーの電脳核とそれに附随するデータを抜き取って、おれのデジソウルでその存在を再構成しただけだ。

 

 アルファモンの力がなければ出来ない強引な技だった。それに、電脳核を抜いてもまだ存在するスカルグレイモンは暗黒の力の塊で、しかも僅かな理性を持っていた中心核のコロモンを引き抜いたということは、もうあのスカルグレイモンは本能と闘争心だけで動く正真正銘のアンデッドデジモンと言うことだ。

 

「話しはまたあとでしよう。頼むから今は離れていろ」

 

 それは遠回しに足手纏いだと言われているようなものだ。でも仕方がない。今の子供たちには荷が重すぎる。だからそれはおれたちが抱え上げてやれば良い。

 

「焦る必要なんてないんだ。お前たちはきっと強くなれる。焦って力を手に入れたってなんにもならないんだから」

 

 おれはその言葉を残して、メタルグレイモンに駆け寄る。

 

「メタルグレイモン!」

 

「アニキ!」

 

 おれはメタルグレイモンの頭に跳び乗ると、体勢を立て直したスカルグレイモンと対峙する。

 

「シュギャアアアアアア!!」

 

「来るぞ!」

 

「わかってる! しっかり捕まっててアニキ!」

 

 雄叫びを上げながら突っ込んでくるスカルグレイモンに、真正面からぶつかるメタルグレイモンの頭の上で膝を着いて衝撃に耐える。

 

「グゥゥゥゥ……」

 

「くうっ、でやあああああ!!」

 

 頭をぶつけ合い、力比べを始める両者。圧しては退いての攻防を、間近でおれは見守る。

 

『有音君!』

 

「心配すんな! 男のタイマンなら、おれの相棒は負けやしない!!」

 

 いつの間に進化出来るようになったかわからないが、デュークモンから聞こえた芹香の声と、そして今頑張っているメタルグレイモンに向かって、おれは叫んだ。そうさ。おれの相棒はこの程度じゃビクともしないさ!

 

「うぅぅ、おおおおお!!!!」

 

 おれの声援が届いたか、メタルグレイモンがスカルグレイモンを推し始めた。

 

「ギュアアアアア!!」

 

「ぐぅっ、があああああ!!!!」

 

 だが、負けじとスカルグレイモンはメタルグレイモンの生身の右肩に噛みついた。その痛みに喘ぐメタルグレイモン。

 

「負けるなメタルグレイモン!! お前にはおれのデジソウルと、太一のコロモンがくれた勇気の力が着いているんだ!!」

 

「ア、ニキっ、ううぇあああああああ!!!!」

 

「ギッ、グュアアアアア!!」

 

 メタルグレイモンは気合いの雄叫びを上げると、トライデントアームでスカルグレイモンの顔を殴り付けて噛みつきから離脱すると、右の拳でスカルグレイモンを殴り飛ばした。

 

「おっしゃあ!! 良いぞメタルグレイモン!」

 

「ぐっ、ぅぅっ、ぐぅ…っ」

 

 メタルグレイモンの健闘を讃えるおれだったが、どうにもメタルグレイモンの様子がおかしい。

 

「どうしたメタルグレイモン!?」

 

「か、からだ、が……っ」

 

 苦しそうに言うメタルグレイモンの様子に、身体を見てやると言葉が詰まりそうだった。

 

「こ、コイツは…!」

 

 メタルグレイモンは太一のメタルグレイモンやライズグレイモンと同じくオレンジ色の身体をしていたのに。今のメタルグレイモンはデジモンカイザーに暗黒進化させられたように身体が真っ青になっていた。

 

 メタルグレイモンには二種類の属性がある。

 

 オレンジ色の体躯を持つワクチン種と、真っ青な体躯を持つウィルス種だ。

 

 進化と強化に順応出来たワクチン種のメタルグレイモンと違い、ウィルス種のメタルグレイモンは身体が強化に耐えられずに肉体が腐り始めていて、スカルグレイモンの前身とまで言われるデジモンなのだ。

 

 まさか噛まれた時にウィルスでも流し込まれたのか!?

 

「うぐっ、ぐわあああああああ!!」

 

「うっ、メタル、グレイモン……っ」

 

 苦しみに喘ぐメタルグレイモン。そして何故だかおれにもメタルグレイモンの感じる苦しさが伝わってくる。

 

 いや、不思議なことじゃない。だっておれたちはデジソウルで繋がっているんだから。

 

「ギュルルル……、ギュアアアアア!!!!」

 

 メタルグレイモンに殴り飛ばされたスカルグレイモンが立ち上がって空に吼えた。

 

 するとゾクリッと厭な感じがして空を見上げると、暗闇に包まれている空からさらに暗黒の力がスカルグレイモンに降り注ぐ。

 

 暗黒の力に包まれ、紫色の光を全身から解き放つスカルグレイモンがその形を変えていく。

 

 厭な汗が止まらない。そしてオメガモンの言葉が頭を過る。

 

 暗黒の力は、おれたちの考えている以上に強大だと。

 

「グオオオオオオオーーーー!!!!」

 

 正しくオメガモンの言う通りだ。

 

 デジモンでいう心臓を失ったのに動くスカルグレイモン。それは暗黒の力の塊だからなのか。

 

 そして今、おれとメタルグレイモンの前に現れた漆黒の竜人に、おれはオメガモンの言葉から感じた暗黒の力に対する絶望感を体感することになった。

 

「…ブラック……ウォーグレイモン…」

 

 漆黒の鎧に身を包む暗黒の竜人型デジモン。だが記憶にあるブラックウォーグレイモンとは少し違う。髪とエネルギーパイプが赤いのだ。

 

 確かそれは、02より以前にデザインされたウィルス種としてのウォーグレイモンだったのを記憶している。

 

「ッ――!?!?」

 

 気づけば目の前にブラックウォーグレイモンのドラモンキラーが迫っていた。

 

「ぐっ、があああああああ!!!!」

 

 防御も回避も間に合わずに攻撃をモロに受けたおれは、背中をコロシアムの観客席にめり込ませて止まった。

 

「あっ、がっ、ぎぅぅ…っ」

 

 クワガーモンとか車に突っ込まれたとかそんな次元じゃない衝撃に、身体全身が悲鳴をあげている。

 

 幸いなのは背骨は折れていなさそうな事だ。まだ手足は動く。でも呼吸が苦しい。肺が衝撃で痙攣している。さらに胸が少しでも膨らむと感じる激痛は、肋骨が何本か逝っているのを想像させてくれる。

 

 極めつけに鼻辺りがメチャクチャ痛い。

 

「ガアアアアアアア!!!!」

 

 雄叫びを上げながら、ブラックウォーグレイモンがおれの方に突っ込んでくる。

 

 おれに殴り倒されたのを随分と根に持つ様だ。

 

「させるかあああ!!」

 

『お願いギルモン、有音君を助けて!!』

 

 突っ込んでくるブラックウォーグレイモンの前に躍り出るデュークモン。その槍と盾でブラックウォーグレイモンの突進を抑え込む。

 

「ぐっ、なんというパワーと暗黒の力だっ。あまり長くは抑えられない」

 

『有音君、今のうちに逃げて!!』

 

 おれを庇ってくれるデュークモンと芹香。

 

 確かに動きたいのは山々だけど、身体が動かないんだよ。

 

 手足は動くとはいえ、究極体の一撃を受けた身体のダメージは大きい。というより死ななかっただけでも奇跡だろう。

 

「アルト!」

 

「ブイ…モ、ン…、ゴホッ」

 

「しゃべるな。傷に響く」

 

 声を出すと、口から咳と共に血が溢れだした。折れた肋骨が肺でも傷つけたかな。

 

「おれ…、メタ、ルっ、グレイ、モン…」

 

「わかった。連れていこう。グラニ!」

 

「キュアアア!」

 

 ブイモンが慎重におれの身体を担ぎ上げると、グラニに乗せてメタルグレイモンの所に向かってくれた。

 

「グオオオオオオオーーーー!! 《ブラックトルネード》!!」

 

「しまっ、ぐああああああ!!」

 

『きゃああああああ!!』

 

 デュークモンの叫び声と芹香の悲鳴が耳に入る。そして岩を砕くような破砕音も聞こえてくる。

 

「メタ、ル…、グレ、イ…モン……」

 

 傷む胸を気合いで耐えながら相棒に声を掛ける。

 

「ア、ニキ…っ」

 

 おれはメタルグレイモンに手を当てると、デジソウルをメタルグレイモンに送って、その身体を蝕むウィルスを一手に引き受ける。

 

「ッ、ゴホッゴホッ、ゴポッ」

 

 ダメージを負った身体に、ウィルスを取り込めばどうなるかなんて予想の範囲だ。

 

 ズタズタだった身体の中をさらにウィルスがズタズタにしていき、口からは血反吐が勢い良く漏れ出していく。

 

 メタルグレイモンは肌の色が元に戻ると、アグモンに退化してしまった。

 

「アニキ! しっかりして、アニキ!!」

 

 うつ伏せに倒れるおれを抱き起こすアグモン。そのお陰で周りが良く見える。

 

 空の上で、ブイモンの乗るグラニがブラックウォーグレイモンを足止めしている。

 

 観客席の瓦礫の中に倒れている芹香とギルモンの姿。

 

 その様子を不安そうに見つめてくる子供たち。

 

「ぐっ、うあああああ!!」

 

「キュアアアア!!」

 

 ブラックウォーグレイモンはグラニすらも叩き落とすと、真っ直ぐこちらに向かってくる。

 

「ア、グモ…ン…」

 

「なんだ? アニキ」

 

 もう覚悟を決めているかのように穏やかな返事をするアグモン。

 

 もう諦めるには早すぎるぞ、相棒。

 

「まだ、戦える…な」

 

「アニキ!?」

 

 身体の中のウィルス構成を書き換えて無害にした力をデジソウルに換えてデジヴァイスに込める。

 

「まだ、終わってない、ぞっ」

 

「アニキ……でも…」

 

 目前にまでブラックウォーグレイモンは迫っている。誰の助けも間に合わない。間に合ったとしても諸共にやられるだけだろう。

 

 究極体を相手に出来るのは究極体だけだ。

 

 デジソウルを込めたデジヴァイスをアグモンに翳す。

 

「お前には、おれのデジソウル…がっ、着いて、る!」

 

「……そうだよね。オイラには、アニキのデジソウルが――アニキの魂が着いているんだ!!」

 

 ドラモンキラーを突き出すブラックウォーグレイモンに顔を向けるアグモンの目は、闘争心に満ち溢れている。

 

「アグモン、ワープ進化――!!」

 

 デジヴァイスから放たれた光に包まれたアグモンが、グレイモン、メタルグレイモンへと進化し、さらにその上の向こう側の更なる進化に至る。

 

 人の形をした竜人。鋼と黄金の鎧に身を包み、背中に勇気の紋章を背負う戦士に。

 

 子供の頃、その完璧なまでのフォルムに見惚れたデジモンに進化した。

 

「ウォーグレイモン!!」

 

 光の中から飛び出したウォーグレイモンが、ドラモンキラーを突き出すブラックウォーグレイモンと取っ組み合う。

 

「アニキも、みんなも、お前なんかにやらせたりしないっ」

 

「グオオオオオオオーー!!」

 

「うおおおおおああああ!!」

 

 雄叫びを上げるブラックウォーグレイモンに、ウォーグレイモンも雄叫びを上げながら押し返す。

 

「《ブラックトルネード》!!」

 

「《ブレイブトルネード》!!」

 

 間合いを離して互いに回転する2体のウォーグレイモン。その激突の衝撃を血に染まる顔で受け止めながら、おれは相棒の勝利を確信していた。

 

 暗黒の力しか持たないヤツに、おれのデジソウルと勇気の力を持つウォーグレイモンが負けるはずがない。

 

「《ガイアフォース》!!」

 

 互いの技で弾かれ合い、先に体勢を立て直したブラックウォーグレイモンが暗黒のガイアフォースを、ウォーグレイモンに向かって放つ。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 それをウォーグレイモンは、技がぶつかった時にドラモンキラーが弾け飛んでしまった拳を握り締めて迎え撃った。

 

「うおおおおりゃああああーーーー!!!!」

 

 ブラックウォーグレイモンの暗黒のガイアフォースを突き抜けたウォーグレイモンは、その拳をブラックウォーグレイモンに叩き付けた。

 

「グアアアアアアア!!」

 

「今のはアニキの分!!」

 

「グガアアアアアア!!」

 

「今のはセリカとギルモンの分!! そして――」

 

 一撃目は殴り付け、二撃目はアッパーでブラックウォーグレイモンの顎を打ち上げたウォーグレイモンは、その両手に絶大なパワーを集めていく。

 

「これはさっきの噛みつきの礼参りだ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンの放った暗黒のガイアフォースの倍以上に膨らむエネルギーを貯めたウォーグレイモンは、それをブラックウォーグレイモンに向けて解き放つ。

 

「《ガイアフォース》――!!」

 

 太陽の様な輝きを放つガイアフォースの中に呑み込まれていくブラックウォーグレイモン。

 

 そのままガイアフォースは空の悪雲すらも吹き飛ばして、暗闇の空を青空に変えてしまった。

 

 戦いは終わって、こちらに振り向くウォーグレイモンの姿を目に焼き付ける。

 

 ああ、やっぱりカッコいいな……。

 

 そんな事を思いながら、おれは身体を襲う睡魔に身を任せて瞳を閉じて意識を落とした。

 

 

 

 

to be continued…




ウォーグレイモン
究極体 ワクチン種

アグモンが進化する究極体のひとつの到達点である竜人型デジモン。その鎧はクロンデジゾイド製であるため、高い防御力を持ちながら、パワーとスピードも高いレベルにあるため、そのポテンシャルはかなり高い。必殺技は大気中に存在するエネルギーを一点に集中して放つ超高密度高熱エネルギー弾『ガイアフォース』である。

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