気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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今回、有音に関する結構なネタバレ要素が出てきます。なんか寄り道のし過ぎるから長くなるんじゃないかと思っていますが、寄り道しないと明かせないこともあるのでお付き合いください。


第28話 魔の射す心 オメガモンの言葉

 

 エテモンから逃げる私たちは、砂漠の中を歩いていた。

 

「どこまで歩くの~!」

 

「エテモンが追ってこない所まで」

 

「そんなとこあるの~?」

 

 へたり込むミミちゃんに、丈君が答える。砂漠の中を宛もなく歩き続けで、ミミちゃんがもう限界そうである。ワガママなミミちゃんであるけど、意外とタフなみんなの中で、ミミちゃんの限界発言は結構休憩アラームみたいな感じで私は捉えている。

 

「ふぃ~~、あ、熱い……」

 

 太一君のアグモンもだり~んとしている。みんなそろそろ休憩しないとダメね。

 

「しっかりしろよみんな……。俺たちには紋章があるじゃないか」

 

「そうだけど……。紋章で本当に進化出来るのか?」

 

「出来るさ! なぁ、アグモン?」

 

「うーん……」

 

 息巻く太一君に、ヤマト君が疑問を投げ掛ける。ひとりだけ紋章を手に入れたからか、今の太一君は自信に溢れ返っているというか、突っ走り過ぎというか、そんな感じで皆の中から浮いていた。

 

「しっかりしろよアグモン! 有音が戦えない今、完全体に進化出来るお前だけが頼りなんだからさ」

 

「う、うん…」

 

 そこに風邪で戦えない有音君の存在が、太一君の勢いに拍車を掛けているらしい。でもそんな感じじゃアグモンはメタルグレイモンには進化出来ないよ。

 

 紋章の意味を正しく理解していないのもあるけど、なにも特別なことはしなくて良いのに。いつものみんなが少しだけ前に一歩を踏み出せば、それで良い。

 

 私はそれを知っているけど、紋章の概念はアドベンチャー次元特有の物。なぜ私がそれを知っているのかちゃんと説明するのは難しい。それに今それを伝えてもダメな気もする。そう言えばみんなどこで紋章の意味を知ることになるんだっけ?

 

「太一君、そろそろ休憩にしましょ。みんな疲れてきてる」

 

 取り敢えず考えるのは止めて、私は太一君に声を掛けた。

 

「あ、ああ。わかりました。みんな、休憩にしよう」

 

 私が休憩しようと提案すると、太一君は意外にもすんなり受け入れてくれた。やっぱり私が歳上だからかな?

 

「ケホッ、ケホッ…。芹香…」

 

「有音君、どうしたの?」

 

「近く…、オアシス……」

 

 喋るのも辛そうに、小さな声で私に囁く有音君。ああ、そう言えば確か、この砂漠のオアシスで休憩してたんだっけ。

 

「みんな、ちょっと待ってて。近くにオアシスがないか探してくるから」

 

 有音君に言われてその事を思い出した私は、グラニの背に乗って空に上がる事にした。

 

「熱っ!! グラニ、あなた物凄く熱くなっているのに平気なの?」

 

「キュアアア!」

 

 鉄で外装を被われているグラニの背中は目玉焼きが焼けそうな程熱かった。なのにグラニは平気そうに鳴く。

 

 取り敢えずグラニの背中に立って、私は空に上がっていく。流石にこんな夏場の炎天下に放置した鉄板みたいな上には座れません。

 

「ああ、あそこね。オアシスは」

 

 直線距離で10分程度辺りに砂漠の中に水溜まりと緑の木の葉が見える。

 

「みんなーっ! オアシスが見えるからそこで休憩にしましょー! 私たち、取り敢えず先に行って確認してくるからー!!」

 

 私は取り敢えず下の皆にそう叫ぶと、グラニにオアシスに向かうように頼む。グラニならすぐにオアシスに行けるだろうし、ピストン輸送でみんなをオアシスに運んで貰おう。

 

「やっぱりオアシス周りは涼しいのね」

 

 水辺が近くにあるから、砂漠のど真ん中よりは涼しい。

 

「グラニ、一回水で身体を冷やしてから、みんなをピストン輸送で連れてきて頂戴」

 

「キュアアア!!」

 

 グラニの背から有音君や私の荷物を降ろすと、水の中に入ってからみんなの居る方に飛んでいくグラニ。

 

 私は有音君をヤシの木の影に降ろしながら、私も座って膝枕をする。

 

「…コホッ、…熱い……」

 

「え? あ、ごめん…」

 

 有音君に言われて少しだけ身体の位置を調整する。私の胸が有音君の顔の上にあったみたい。ワイシャツとブラだけだけど、熱も出てる有音君には熱かったみたい。うーん、お色気作戦はまた今度ね。

 

「…うつる、よ……グフッ、ケホッケホッ」

 

 陽射しを浴びて熱かった私の脚でもなお、有音君の頭は熱く感じる。汗で額に付く髪の毛を退かしてあげながら、鞄から取り出したハンカチで汗を拭いてあげる。 

 

「ずっとおんぶしてたんだもの。今更だよ。それに、そっちの方が早く治るでしょ?」

 

「…お前が風邪ひいたら、誰が看病するんだよ……ぅぅ…」

 

 顰めっ面で言葉を紡ぐ有音君は頭も痛いみたい。

 

「…少し、寝る……移、動……起こ…し、て……」

 

「うん。おやすみ、有音君」

 

 有音君の身体から、一気に力が抜ける。体重が掛かることで、有音君の身体が重くなる。それが今の有音君の辛さを物語っているようで、私は歯痒かった。

 

 有音君も、やっぱりまだまだ普通の人間なんだって、ちょっとだけ安心した。風邪をひいて、普通に寝込むくらいに無理をさせて来たのだと突き付けられている様だった。

 

 私が代われるなら代わってあげたい。

 

 私は有音君の鞄を開けて、中から錠剤の風邪薬を取り出す。

 

 水筒からお茶を口に含む。昨日の残りだけど、魔法瓶の水筒だから、氷も入れていたからかなり冷たいままで、渇いた喉に冷たい刺激を与えてくる。

 

 1度お茶を飲み込むと、錠剤を口の中に放り込んでお茶を口に含む。

 

 下を向いて垂れ下がる髪の毛を掻き上げて、顔を下げていく。視線の先には荒く吐息を溢す有音君の、渇いた唇。

 

 熱い吐息が私の唇を撫でる。渇いてざらつく唇と、しっとりと濡れた唇が合わさる。舌を使って少しずつ薬が溶け出しだお茶を、渇いた口の中に注ぎ込んでいく。有音君は動かない。起きているのかもわからない。有音君の顔は、鼻の上まで私の胸で隠れているから。

 

「…んっ……ふぁっ…ちゅる」

 

 有音君の鼻から漏れだす熱い空気が、ワイシャツの隙間から私の胸を擽っていく。その感覚に身動ぎして、口の端から溢れそうだったお茶を吸い上げる音が鳴る。

 

 私、なにやってるんだろう。有音君が寝ちゃったのを良いことに……。子供たちだっていつやって来るかわからないのに。

 

 キスだってしたことないのに。ううん。これは看病なんだから。看病なら仕方がないよね? 有音君、キスとかしたことあるのかな?

 

 あぁ…、有音君の唇、ぷにぷにしてかわいい。鼻息が私の胸に掛かってくすぐったい……。し、舌とか入れちゃったらどうなるのかな……?

 

「セリカ、なにしてるの?」

 

「ひやわやああ!?!? ギ、ギギ、ギルモン!?」

 

「ぎるぅ?」

 

 あ、あっぶな! 危うく欲望に任せてやっちゃいけないことまでやりそうだった……。見付かった相手がギルモンで良かったぁ…。 

 

「ほ、ほら、アレ! 汚れが付いてたから拭いてあげてたの!」

 

 ギルモンは前に居る。私は脇の髪の毛を掻き上げただけで、前髪で影になってたからギルモンからは私が有音君に何してたかわからないはず! うん、きっとそう。そう思わないと恥ずかしくて頭が噴火しちゃう!

 

「ぎるるぅ。アルトねちゃった?」

 

「…うん。いっぱい負担掛けちゃってたからね。多分身体が疲れちゃったんだと思う」

 

 ギルモンのお陰で頭が冷えてきた。見れば次々とグラニに乗って、子供たちとデジモンたちがオアシスにやって来ている。ギルモン、サンクス。

 

「アルトのぶんまで、ギルモンがんばる!」

 

「そうだね。有音君の代わりに、今度は私たちが頑張らなくちゃね」

 

 多分今の私ならブルーカードを切れると思うし、いざとなった時は、ギルモンと心を合わせてデュークモンに進化も出来るはず。

 

 だからエテモンのグレイモンには負けないと思うけど、問題は暗黒進化してしまうだろうスカルグレイモンだ。

 

「ほら、どんどん喰え」

 

「ん~、も、もうむりぃ……」

 

 アグモンに限界以上に食事を与えちゃっている太一君を見て、止められなかったかと思いながらも、額に汗をかく有音君の髪の毛に指を通す。あとで出来ればお風呂にも入れてあげたい。このままだと汗に体温を奪われて余計に具合が悪くなっちゃう。

 

 やっぱり私は、有音君の方が大事。スカルグレイモンは放っておいても暗黒進化はエネルギー切れで事もなく終わる。もし危ないときは、私がみんなを守れば良い。

 

 ……あの時、闇に囚われた所為か、私の性格はかなり捻くれたものになってきている。まだ闇が心に残っているんじゃないかってくらいに、有音君の事しか考えていない。有音君第一主義。ギルモンも大事な友達だけど、大事に思うベクトルが違う。

 

 なんとかしないといけないのに、このままで居たい自分も居る。だってこの気持ちは、私の素直な気持ちなんだもの。現代社会で抑制されていたもの。でもデジタルワールドなら、そんな抑制もなにも制限されない。常識もなにもあったものじゃないもの。我慢しなくて良い、ありのままの自分で居られる。

 

 そしてそれを全て受け入れてくれて、私が危ないときは助けに来てくれて、守ってくれる人が居る。

 

 好きになっちゃわない方が無理があるよ。有音君が望むなら、私は有音君に全てを捧げられる。この身も、心も、命も、存在そのもの全て。

 

 でも、まだ正面切って告白してない。もっとスゴいこと口走っていたけど、あれはノーカン。ノーカウントだ、ノーカウント。

 

 有音君とはこれからもずっと一緒に居たいし、恋人みたいなのも良いけど、今の友達以上恋人未満な関係も楽しくて居心地が良いから、まだこのままで居たい私もいる。

 

 いっそのこと、既成事実とか作っちゃえば、私も一歩を踏み出せるのかな? って、それは男の人に迫るものであって、女の私が迫られるものじゃないってば! 

 

「有音君……」

 

 穏やか、とは言い切れないけど、それでもぐっすり眠っているその頬に手を添える。とても熱い頬は、生きている証し。だから守らなくちゃ。私が、みんなも、有音君も、全部守らなくちゃ!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ぅっ……ここは…」

 

 芹香にあとを任せて眠りについたはずのおれは、いつか来た小高い山の上に立っていた。

 

「また呼び出されでもしたか……?」

 

 ただ、あんだけ気怠かった身体が清々しくなって軽くなっているのは有り難かった。まぁ、夢だから起きたらまたあの地獄みたいな気怠るい状態に戻るんだろうけど。

 

「キレイだよなぁ……」

 

 この光景が再構築されたばかりのデジタルワールドの姿ならば、あらゆる罪も傷もなにもない原初の真っ白なデジタルワールドの姿なのだろう。

 

 ここでまた新たにデジモンたちは生きて、育ち、戦い、死に、そしてまた生まれ変わる。

 

 命の循環の極限であり理想が、デジタルワールドには完成している。

 

 しかしそれでも、余程の悪さをしたヤツはアヌビモンによる裁きでデジタマに還ることも、ダークエリアに送られる事もなく、正真正銘の地獄に落ちる。

 

 アヌビモンは自分の仕事をこなしている偉い裁判官に位置するデジモンだが、その査定に落ちたデジモンの怨念が、アポカリモンに力を与えているのを知っているのかねぇ。

 

「アヌビモンを責めないでやってくれ。アレはアレで、この混沌渦巻くデジタルワールドでは必要な役割なのだ」

 

 おれの背中から声が掛けられた。ヒーロー戦記もよろしく! と言いそうな壁際のいぶし銀の、ダンディと一緒に無双してくれるゲシュペンスト同好会のひとりと同じ声。

 

「オメガモン……」

 

「XーEVOLUTIONもよろしく!」

 

「茶目っ気あるのな、お前」

 

 振り向いた視線の先には、内側は赤く、外側は白のマントを風に靡かせて佇むデジモンが居た。

 

 ウォーグレイモンとメタルガルルモンが、平和を望む心によって合体した聖騎士デジモン。究極体を超える超究極体にカテゴライズされ、ロイヤルナイツの実質的なリーダーも勤める最強の一角。

 

 そのオメガモンが、X抗体で進化した存在。

 

 オメガモンX抗体が佇んでいた。

 

「お前がおれを呼んだのか?」

 

「うむ。この様な時でなければ、話は出来ないと思ったからだ」

 

 まぁ、確かにこの先は怒濤の展開のまっしぐらだ。

 

 スカルグレイモンに暗黒進化して、コカトリモンと戦って、ピッコロモンの修行を受けて、ナノモンに呼び出し食らって、エテモンと決着を着ける。

 

 この濃厚なラインナップのイベントが一週間の間に凝縮されてるのだから、かなりスゴい日程だよな。

 

「君は、デジタルワールドをどう思う」

 

「どうって……」

 

 オメガモンにそう問われたおれはその答えを考えた。

 

 デジタルワールドは、おれにとっては夢みたいな世界だ。

 

 たくさんのデジモンたちが住む世界。そこには種族として関係なく、ひとりひとりの個性のあるデジモンたちの営みがある。

 

 例えば分かりやすいのはブイモン。

 

 大輔とうちのブイモンはまるっきり違いがハッキリしている。

 

 大輔のブイモンは子供っぽいというか、ガキっぽい感じだけど、うちのブイモンは騎士の誇りを持った若き騎士という感じだ。

 

 同じ個体でも個性がある。それはデジモンたちもひとりひとりが生きている証しだ。

 

 小さい頃の夢が叶った。今はそんな気分だ。デジタルワールドを旅するのが夢だった。

 

 今は確かに太一たち選ばれし子供たちの使命の手伝いをしているけど、戦いが終わったらおれはデジタルワールドを旅して回ろうと思っている。

 

「夢を叶えながら生きる場所……かな?」

 

「夢…?」

 

「おれはデジタルワールドを旅するのが夢だった。今は選ばれし子供たちの使命の手伝いをしているけど。戦いが終わったら、おれはデジタルワールドを旅して回ろうと思っている」

 

「成る程…。だが、現実世界に未練はないのか?」

 

「ない。……とは言わないけどね」

 

 父さんも母さんも、血の繋がらないおれの事を本当の子供の様に愛してくれた。母さんは父さんと結婚する前に病気で子宮を摘出したから子供が産めない身体だった。それでも愛した女のハートを鷲掴みにした父さんスゲーと思う。母さんは父さんを想って何度も別れようとしたけど、父さんは母さんを離さなかった。

 

 男は、自分が愛した女をなにがなんでも手放しちゃならねぇのさ。

 

 おれが成人して、実は養子だった事をうち明かした時。子供が産めない身体だったと母さんから聞かされた時に、父さんが言った言葉だった。

 

 うん。父さんはマジ漢だ。たまーに恥ずかしい時もあるけど。

 

 今はおれも家を離れて、父さんと母さんも寂しがっているだろうけど。多分父さんならこう言う。

 

 男はな、夢を追い掛けずにはいられない生き物なのさ。夢が見付かったときは、迷わずに突っ走れ。それが男の生き様ってもんよ。

 

 だからおれは夢であるデジタルワールドに定住する事になっても構わない。だってデジタルワールドを冒険する事がおれの夢だったんだ。だから迷わずに突っ走る。それが男の生き様だ。

 

 つまりアレだ。

 

 まだまだやらなくちゃならないことが山ほどあるから、ホームシックになる暇もない。前に突き進むだけさ今は。

 

「今のところはデジタルワールドがおれの居場所だ。あとのことはその時に考えるさ」

 

「そうか…」

 

 おれがその事を口にすると、オメガモンは何故か一瞬だけ申し訳なさそうな目をした。

 

「なにか、あるのか。おれがこのデジタルワールドに居る意味が」

 

「……私の口からは、今は話せないことだ。それを話してしまえば、君の成長を妨げてしまう」

 

 オメガモンはそう言うと、左手からグレイソードを展開した。

 

「このデジタル文字が何を意味しているか知っているか?」

 

「オールデリートだろ…?」

 

「そうだ。触れたものを全て無に帰する刃。その刻印は君の剣の鞘にも印されている」

 

「これな。ただの装飾だろう?」

 

 おれはそう言いながら、パラディンソードを鞘ごと腰から引き抜く。

 

「このデジタルワールドに存在する文字は、それがひとつで事象の意味を持っている。正しい配列で組まれた文字は、その力を開放する事が出来るのだ」

 

 確か、光子郎君がその様な事をこれからみんなに説明する場面が来るはずだ。しかし何故オメガモンがその様な事を言う。まさかこの鞘にもグレイソードと同じ力があるとでも?

 

「我々ロイヤルナイツの力は強大だ。その力を振るうのにも、慎重を期する。そしてその力を授けられた君もまた同じ。王竜剣の一振りは、ひとつのエリアを軽々しく吹き飛ばせる力がある。そして我が力も、未来を予測し、全てを無に帰することが出来る」

 

「オメガインフォースと、オールデリートか」

 

「然り」

 

 オメガモンはX抗体に進化する事で、その秘められた力を最大限に発揮する事が出来るのだ。つまり未来予知の力を持つオメガインフォースにより、どんな攻撃すらも避けてみせる。そしてどんな相手ですらも、勝利することは理論上不可能なのだ。

 

 さらに全てを無に帰するオールデリートも持っているため、インペリアルドラモン・パラディンモードをも超える力を持ち、それを止められるのはアルファモンだけと言われている。

 

「その力は既に、君の手の中にある」

 

「おれの手の中……。まさか…?」

 

 おれはパラディンソードに埋め込まれた電脳核に目をやる。

 

「その電脳核には、私の力が封じ込まれている。今はまだ、その力を振るうには、君の力では不足している。だが、君が次なる成長――進化を遂げた時。その力も振るえる様になるだろう」

 

「進化って、おれは人間――」

 

 そこまで言いかけて、言葉に詰まる。人間なら、どうして芹香のカードの力がおれにも作用するんだ?

 

 デジタルワールドで生きている間は、デジモンと同じデジタル生命体の枠組みに入るからだと思っていたけど、なにか思い違いをしているのか?

 

「暗黒の力というものは、君が考えている以上に強大だ。今のままの君たちでは、敗北は必定。ただ成長するだけでは何れ限界を感じるだろう。故に進化をもって更なる高みを目指さなければならないだろう」

 

「進化……。人間のおれたちが……?」

 

 オメガモンの言葉に頭が着いていかなくなっている。

 

「アポカリモンを倒すためには、我が力も必要となる。我等ロイヤルナイツの力、そして選ばれし子供たちの力を合わせ、漸くヤツを火の壁の向こうへ封じるので精一杯であった。だがヤツは再び火の壁を越えようとしている」

 

 原作だと太一たちだけであっさりと倒していたアポカリモン。だがオメガモンの言葉からは、染々と漏れ出す絶望感が見え隠れしていた。

 

 子供たちだけじゃなく、ロイヤルナイツも加わって漸くイーブンのアポカリモンって、この世界はいったいどうなってるんだよ。

 

「時間だな。勇気の子供が、間違った進化をさせてしまったようだ」

 

「太一が!?」

 

 まだあまり時間は経っていなかったと思うのに、もうスカルグレイモンに暗黒進化してしまったらしい。

 

 なら早く起きて戦わないと。

 

「有音。間違った勇気によって生まれし暗黒の力を祓うには、正しき勇気によって生まれる聖なる力が必要だ」

 

「正しき勇気って。どういうことだ?」

 

「ここは物語りの世界ではない。自らの道は、自分で切り開かなければならない。その意味は、君には語る必要はないだろう」

 

 オメガモンはおれがどういう世界から来たのか知っているような言葉を発した。それは後回しにしても、正しき勇気によって生まれる聖なる力って。それは太一の勇気を正しく導けってことなのか?

 

 でもオメガモンは自らの道は自分で切り開くものだと言った。――いや、まさかそんなことは。

 

「おれの勇気で、スカルグレイモンを倒せってことなのか」

 

「いや。倒すのではない。討ち祓うのだ、暗黒の力を。聖なる力で」

 

 オメガモンの言う意味が今一わからない。どういうことなんだよ。聖なる力は太一たちのデジヴァイスから放たれる力なのに。

 

「仲間が君を待っている。君の旅路に幸あらんことを。健闘を祈る」

 

「あ、待て、ちょっと――!!」

 

 呼び止めるも、おれの意識は白い光に包まれていく。

 

 まだ答えが出ていないし、聞いてもないのに、話を途中で切り上げるな!

 

 それでもおれの抵抗は虚しく、意識は完全に白く染まっていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「どうだった。彼の様子は」

 

 私が彼を見送ると、この背中に問う声が掛かる。

 

「彼ならば心配ないだろう。最大限、伝えられることは伝えた。導いた答えも弧線には引っ掛かっている。あれであれば、勇気の聖なる力で、勇気の暗黒の力を祓えるだろう」

 

 後ろを振り向けば、そこには我が友の姿があった。

 

 ロイヤルナイツを作り、デジタルワールドの平和の為に互いに夢を語り明かした友が。

 

「あの様子ならば、自らの運命も受け入れられるだろう」

 

「……アポカリモンを倒すためとはいえ。我々はその存在を創造し、来るべき時の為に選定の剣を握らせて死地に追い込む。デジタルワールドの平和の為にとはいえ、儘ならないな」

 

「アポカリモンを倒した後、我等はその罪の清算を受けなければならないのだよ。インペリアルドラモン…」

 

「わかっている。その時はデリートされようとも受け入れるさ、だがな」

 

 我が友、インペリアルドラモン・パラディンモードの見下ろす視線の先には、下界に戻り、拳を握り締め、暗黒の魔竜と相対する彼の姿が見える。

 

「彼ならば、果たしてくれるだろう。そして、我々の予想以上の器量の広さに育った彼を見ているとな、彼も友と言える存在になるのではないかと、思ってしまうのさ」

 

 強大な魔竜の攻撃からパートナーを庇い助けるその姿は、正しく勇気に満ち溢れしもの。

 

 私が答えを言わずとも、彼の生き様は正しくその答えを導いている。

 

「それは無責任な楽観ではないかな?」

 

「いや。お前も彼の姿を見守っているならばわかるだろう。彼は、我等の罪すら受け入れるだろうさ。まぁ、拳の一撃は覚悟する必要があるとは思うが」

 

 三本の鋼の爪を持ち、鋼の兜を身に着けた機竜へと進化したパートナーと共に、魔竜を殴り倒す彼。

 

「そうとう、身に堪えそうな一撃ではありそうだな」

 

「違いないな」

 

 我が友と苦笑いを浮かべつつも、再び下界へと視線を落とす。

 

 我等は見守ろう。我等の身勝手で生まれたその生命が、我等の悲願を果たすその時まで。

 

 機竜の上に仁王立つその小さくも可能性と勇敢に溢れたその姿を。

 

 

 

 

to be continued…




オメガモンX抗体
究極体 ワクチン種

ウォーグレイモンとメタルガルルモンが善や平和を望む強い意志によって融合して誕生する聖騎士型デジモン。その能力は超究極体クラスであり、止められる存在は限られている。X抗体によりオメガモンが更に進化した存在であり、オメガモンX抗体を止められる存在はアルファモンだけと言われている。『オメガインフォース』という特殊能力を開花し、一瞬先の未来を予測し対応出来てしまうため、その対極である『アルファインフォース』を持つアルファモンでなければ、理論上オメガモンX抗体を止めることは出来ない。また、ネットワークセキュリティ――つまりはデジタルワールド崩壊の危機に際して負けられぬ戦いの時のみ発動の出来る必殺技『オールデリート』によって、グレイソードの刃に触れた存在は尽く消し去られていく。データを初期化するインペリアルドラモン・パラディンモードと並び、デジタルワールドの平和を守る最後の切り札とも言える存在だと言えるだろう。

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