気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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切りどころが無くて、長々また書いてしまった。


第27話 小さな激闘 パグモンの村

 

 海を行くこと5日が過ぎた。

 

 ホエーモンが一緒だったからか、特に何もなく無事に辿り着けた。

 

 道案内をしてくれたホエーモンに別れと礼を告げて、私たちはサーバ大陸の土を踏んだ。

 

「上陸はしたけど、この子はどうするの?」

 

 私の視線の先には、海に浮かぶシャークリナーの姿がある。まさか置いていくわけはないだろうし、かと言って持ち運ぶわけじゃないだろうし。

 

「それについては問題ないさ」

 

 有音君が機械のゴーグルを手に、そこから赤いレーザーを当てると、シャークリナーがデジタルコードに分解されて、レーザーを伝ってゴーグルの中に吸い込まれていった。

 

「はい。行くぞ」

 

 随分あっさりと問題解決したけど、まぁ、良いのかな?

 

 取り敢えずホエーモンに教えられたコロモンの村に向かう事になった。

 

「にしても、あっついなぁ……」

 

「歩いても歩いても同じ景色。さすが大陸だ」

 

 半日近く歩くとコロモンの村に着くらしいけど、代わり映えのしない景色と、じりじりとする陽射しに、丈君と太一君も少し参っているみたい。みんなも声には出してないけど、少し疲れているみたい。

 

「うぅ…。わたし疲れたぁ、何時になったらコロモンの村に着くのぉ~!」

 

 ミミちゃんが座り込んでしまった。うん。そろそろ少し休憩しても良いかも。

 

「みんな、少し休も。慌てなくても敵は逃げないもの」

 

「お前、不安煽ってどうするんだよ。まぁ、その通りだけど」

 

 私の言葉に有音君がツッコミを入れる。急ぐ旅じゃないのをアピールする方便だよ。

 

「それって、どういう意味ですか?」

 

 空ちゃんの言葉と一緒に、みんなの視線が集まる。

 

 うっ、これはその理由を説明しなくちゃいけないパティーンですか?

 

「ハァ…。まぁ、アレだ。デビモンはおれたちから逃げなかったのと同じ理屈だ。どんな敵かはわからないけど、おれたちみたいな子供を相手に逃げるデジモンなんてそう居ない。寧ろふんぞり返って待っている可能性もある。つまり焦らずとも進んでいればその内敵にぶち当たるってことさ」

 

「うん。そう! そういうことが言いたかったのっ、あいたあっ!!」

 

「ちょーしぶっこき過ぎた結果だよ」

 

 私が助けを求める視線を向けると、溜め息を吐いて私の言葉の意味を具体的に説明してくれた有音君。敵がエテモンだから逃げるわけないってわかってて口を滑らせた私が悪いのだけど、だからってデジソウルデコピンはやめてぇ! それかなり痛いんだからっ。

 

「なるほど。確かに僕らの見た目だと、敵は油断するでしょうし。敵もどういうデジモンなのかもわからないなら、向こうから来るのを待つのもひとつの手ですね」

 

「でもそれは後手に回るってことだろ? まだ紋章を手に入れてないオレたちは襲われたらアウトじゃないか?」

 

 光子郎君の言葉に、ヤマト君が意見する。確かに後手に回るのは危ないけど、ここはエテモンのホームグラウンドだから仕方がないよ。

 

「でも疲れてたら、もし強い敵と戦うことになっても、逃げたりするにも戦えないよ。無理する前に休んだ方が良いと思う」

 

 タケルくんの言葉に、みんなの視線が集まる。有音君に師事しているからか、タケルくんも戦いのいろはが身に付いて来ているみたいだ。これ本格的に3年後のタケルくん結構化けそうじゃないかな? たぶん大輔君以上のリーダーシップでみんなをグイグイ引っ張って行きそうな気がする。

 

「確かにタケルくんの言葉にも一理ある。まだ紋章を手に入れてないから、僕たちの敵わない相手が出てきた時に全力で逃げる為の体力の回復と温存も必要だね」

 

 タケルくんの言葉に補足する丈君。もうみんな休憩ムードで地面に座ったりしてるから、休憩でも良いよね。

 

「まっ、いざって時は有音がなんとかしてくれるさ。な?」

 

「まぁ、いざという時はね」

 

 そう言いながら有音君の肩を叩く太一君に、有音君は仕方がないなぁと言うような顔で返した。どんな敵を相手にしても立ち向かってきた有音君が頼もしいのはわかるけど、それじゃあ世界は救えないよ、太一君。

 

 取り敢えず満場一致で休憩になったけど、有音君だけが少し離れた場所でゴーグルを掛けて何かをしていた。

 

「何してるんだ? 有音」

 

「ああ、太一。いや、何か見えないかなぁって」

 

「何かって、それ望遠鏡にもなるのか?」

 

「まぁね」

 

 そう答える有音君の隣に立って、太一君も単眼鏡で辺りを見渡し始めた。

 

「なにも見えないな」

 

「森の向こうが見えればね。そうだ太一、おれの肩に乗りや。そうすれば見える範囲も遠くなる」

 

「なるほど。グッドアイディアだぜ」

 

 そう言って有音君はしゃがむと、太一を肩に乗せて軽々しくまた立ち上がった。あまり体格変わらないのに、有音君結構力持ちね。てか、私に言えばグラニくらい出してあげるのに。

 

「どう? なんか見えるか?」

 

「うーん……、あ、なんか森の向こうにテントの屋根みたいなのが見えるぞ! あれがコロモンの村じゃないか?」

 

 ビンゴ! 見つけたみたいね。

 

「えーっ!? また森の中歩くのぉ!?」

 

 今はちょっとした荒野の所を歩いていたけど、ちょっとした高台の所だから、二人の肩車で見えたみたい。

 

 でもファイル島だと結構森の中歩いたから、ミミちゃんは少し参っているみたい。

 

「コロモンの村に行けばお風呂に浸かれるかもしんないよ?」

 

「わたし、頑張って森の中歩く!!」

 

 首だけ振り向きながら言う有音君の言葉に、ミミちゃんが復活する。ミミちゃんがわかりやすい子なのもあるけど、やっぱり子供たちの扱い方が上手いね、有音君。

 

「ミミったら、現金なんだから」

 

「でもお風呂にはわたしも入りたいわ」

 

 ミミちゃんの様子に手を頭に当てるパルモンと、言葉を挟むピヨモン。女の子だからやっぱりキレイにしたいものね。私も潮風に当たった髪の毛とか早く洗いたいし。

 

「ダメだ。他は何も見えないや」

 

「じゃあ、降ろすぞ」

 

「あいよ」

 

 太一君を肩から降ろして、首を回しながら此方に戻ってくる有音君にお茶の入ったコップを渡す。上陸する前に船の中で作った物で、コップはコンビニから持ってきた水筒の蓋でもある。

 

「サンキュ」

 

 私の隣に座る有音君の肩に、私は頭を乗せる。

 

「どうするの? コロモンの村って確か乗っ取られてた記憶があるけど」

 

「パグモンにな。まぁ、休憩はしたいから、物語り通りで良いんじゃないかな。おもてなししてくれるんだから、されてやろうじゃないか」

 

「良い性格してるね」

 

「貰えるものは何でも貰うさ」

 

 子供たちには聞こえない声の大きさで話す私たち。端からみたら私が有音君に甘えてる様に見えるかな? 一応話もすると思ってみんなと気持ち離れているから聞こえないと思う。

 

 エンジェモンがデジタマにならなかったから、ポヨモンがトコモンに進化するイベントはないし。

 

 やっぱり細かな所で違いが出てくるから、どんなバタフライエフェクトになるかわからないね。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 休憩を挟んで、おれたちはコロモンの村があるだろう森の中に足を踏み入れる。

 

「くんくん…。あっちからコロモンの匂いがするよアニキ」

 

「うん。ボクも感じるから間違いないよ」

 

 うちと太一のアグモンが空気の中に混じるコロモンの匂いを嗅ぎつけたらしい。

 

 まぁ、何かが変わってコロモンのままの可能性もあるし、幼年期Ⅱのパグモンや成長期のガジモン程度なら相手にならないから、気構えずに行きますかね。

 

 森を抜けるとテント造りの村が現れた。

 

「あれがコロモンの村ね! おっ風呂♪ おっ風呂♪」

 

「あ、ミミ! ちょっと待ってよ!」

 

 お風呂に入れるとはしゃぐミミちゃんが駆け出していき、そのあとをパルモンが追い掛けていく。

 

「待ってミミちゃん! ひとりで行っちゃダメよ!」

 

「あっ、まってよセリカぁ!」

 

 そのあとを芹香とギルモンが慌てて追い掛けていく。

 

 まぁ、ミミちゃんはパグモンに担ぎ込まれて風呂に入れられるんだけど、何かがあってからじゃ遅いから芹香が着いて行ったんだろう。まぁ、芹香が一緒なら大丈夫だろう。

 

「あれ?」

 

 村に入ろうとすると、太一のアグモンが立ち止まった。

 

「どうしたアグモン?」

 

「ここ、コロモンの村じゃない」

 

「なんだって?」

 

 自分のアグモン言葉を聞いた太一が、うちのアグモンを見てくる。

 

「どうだ? アグモン」

 

「うーん。確かにコロモンの匂いはするけど、別の匂いもする」

 

 まぁ、その匂いはパグモンだろうが。また別の可能性もある。

 

「怪しいな。みんな注意して行こう」

 

「そうだな。取り敢えずミミちゃんを追いかけるぞ」

 

 ヤマトがみんなに注意を促し、太一の言葉で、ミミちゃんのあとを追うために村に入る。

 

「ちょっと! なにするのよ!!」

 

「ちょ、離しなさい! きゃあああ!!」

 

 村ので入り口て二つの悲鳴を聞く。おれの耳が正しければ、芹香とミミちゃんの声だった。

 

「今の悲鳴!?」

 

「芹香さんとミミさんですよ!」

 

 駆け出す太一と、それに続く光子郎君。一拍遅れてみんなも続けど、それより前におれは駆け出して太一の横に並ぶ。

 

「どこだ? どこから……。ミミちゃーん!!」

 

「こっちだ太一!」

 

 おれは立ち止まる太一の横を抜けて、村の中央にある大きなテントの中に入る。

 

「あ、太一さん有音さん、アレ!」

 

 床に座っているギルモンに、芹香のメガネとミミちゃんの帽子が引っ掛かっていた。

 

「ギルモンどうした!?」

 

「ぎるぅ。セリカについてきちゃだめっていわれたぁ」

 

「ふたりはどこに連れていかれたんだ?」

 

「あっちのうえ」

 

 ギルモンに駆け寄って様子を訊くおれと、ふたりの行方を問う太一。するとギルモンは階段を上がった先を指差す。

 

「あのバッグ、ミミ君のものじゃないか?」

 

「間違いありません、ミミさんのバッグです!」

 

「芹香のカードケースもか」

 

 床に落ちているミミちゃんのバッグを指差す丈君と、そのバッグがミミちゃんの物だと確認する光子郎君。その近くにはカードが散らばるカードケースも落ちていた。どうやら芹香もミミちゃんと同じ場所に運ばれたらしい。

 

「よーし、ここだな!」

 

「あ、待て太一――」

 

「ダメ、太一!!」

 

 カードケースを拾い、散らばったカードを回収している間に先に進んでしまった太一に待ったを掛けるおれと、カゴにあるミミちゃんの服と、何故かある芹香の服も見て空ちゃんも叫びながら太一を引き止める。

 

「ミミ!」

 

 ガバッと躊躇なしに浴槽に続くカーテンを開けてしまった太一。

 

「あっ……」

 

「ミ、ミミさん……」

 

 ミミちゃんの入浴姿を見て固まっている太一の横から、どうしたのかと覗き見た光子郎君も固まるが、それだけじゃない。

 

「なんでお前も……っ」

 

「あ、あははははは、ゴミン!」

 

 呆れて顔に手を宛ながら下を向くおれに、芹香の声が耳に入る。ミミちゃんの他にタオル一枚の女子高生の裸体は、いくら小学生でも破壊力ありすぎだろう。後ろからチラ見しても太一と光子郎君の耳が赤くなってるぞ。

 

「きゃああああ!! レディが入浴中なのよ! 出てってよ!!」

 

「あ、いや、そんなつもりじゃ…、あだっ」

 

「あうっ」

 

 ミミちゃんが太一と光子郎君に気づいて悲鳴をあげたことでようやく時が動き出した。風呂桶とシャンプーボトルを顔面に受けて倒れる太一と光子郎君。

 

「空ちゃん、お願い」

 

「あ、はい」

 

 おれは空ちゃんに声を掛けると、意図を察して空ちゃんが浴槽前のカーテンを閉めてくれた。

 

 取り敢えずなんともない様子だから良いか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 パグモンにお風呂場まで担ぎ込まれた私は、ミミちゃんに連れられてお風呂に入ることになってしまった。

 

 太一君と光子郎君に見られちゃったけど、相手は小学生だからあまり気にしてない。むしろその後ろで顔に手を宛がって俯く有音君に申し訳なく思いながら、やっぱりお風呂は堪能してます。

 

「芹香さんって、胸大きいですよねー」

 

「うん。まぁね、邪魔でしょうがないけど」

 

 現実世界だと、学校とかで男子にじろじろと見られていたし。電車とかでも視線は感じるし。体育の授業なんかもう視線集めまくって散々だし。

 

「そうなんですか? 大きいのって羨ましいって聞きますけど」

 

「手頃なので十分よ。肩が凝って仕方がないもの」

 

 ミミちゃんも光子郎君と同じ四年生と考えると、身長は高い方だけど、胸はまだまだ発展途上。私の胸をマジマジと気になってますって言う目で見てくる。

 

「やっぱり、有音さんも大きいのが好きなんですか?」

 

「え? なんで…?」

 

「だって、芹香さんと有音さんって、恋人みたいに仲が良いじゃないですか。だからどうなのかなぁって」

 

「そ、そうかな…っ」

 

 有音君とは結構仲良くさせてもらっているし、有音君も私を嫌がらないから一緒に居ることも多いし、内緒話しの為に肩に頭を乗せる事もあるけど。やっぱりそう見えてるんだ。嬉しいけど、改めて言われると恥ずかしいかな。

 

「有音君の好みはわからないけど、たぶんどんな私でもいつもみたいに受け入れて、仲良くしてくれて、ボケにはデコピンしてくれると思うなぁ」

 

 あくまで私の願望だし。本当に有音君がどんな私でも受け入れてくれるかは有音君次第だけど、たぶん優しい有音君は私を受け入れてくれると思う。

 

 だって、有音君は私を頼まれても見捨てないって言ってくれたもの。それって、私の事を何があっても受け入れてくれるってことだよね。

 

 お風呂から上がったあとは、パグモンの歓迎を受けて一晩を過ごすことになった。

 

「ケホッ、ケホッ……」

 

「有音君?」

 

 有音君がいつも起きる時間になっても起きていなくて、代わりに咳込んでいたから休ませてあげようとそのままにして、私は起き上がる。

 

「んぎるぅ……。セリカどこいくの~?」

 

「ちょっとそこまでね。ギルモンはどうする?」

 

「んぎゅぅぅ。いくぅ~」

 

 眠気眼を擦りながら、ギルモンも起きて着いてきてくれる。

 

 村とその周りの立地は昨日パグモンから聞いている。滝の場所にウソがなければそこにコロモンが捕まっているはず。あさも早いから幼年期のパグモンは寝ているはず。

 

「行くよギルモン」

 

「んぁぁあい……。んぎゅぅ」

 

 あくびをしながら着いてくるギルモンを連れて、私は滝のある北西へと向かう。

 

「んん? におうよ……」

 

「匂うって、なにが?」

 

「パグモンいがいのにおい。こっち、このさきから!」

 

 ギルモンが私が向かおうとした先を指差す。たぶんそれがコロモンの匂いかな?

 

「行こうギルモン」

 

「うん!」

 

 駆け出す私に、ギルモンが続く。私たちなら相手がエテモンじゃない限りなんとかなると思うから、コロモンを助けに来ちゃってるけど、大丈夫よね? ゆっくり休んだ分、早くコロモンを助けてあげなくちゃ。

 

「このさき、たきのほうからにおうよ!」

 

 やっぱり滝の裏にコロモンが居るので間違いないみたいね。

 

 滝の脇から裏に続く洞窟に入る。

 

「やっぱり、コロモンね。あなたたち」

 

「だ、誰!?」

 

「心配しないで。助けに来たのよ」

 

 檻に入れられているコロモンたちを見つけた。でも鍵が掛かっているから私じゃムリか。

 

「ギルモン!」

 

「わかった。セリカさがってて」

 

「おっと、そうはさせねぇぜ!」

 

 ギルモンに鍵を開けて貰おうとすると、後ろから声をかけられて振り向く。そこには灰色で耳の長い猫だかっぽいデジモンが2体居た。

 

「ガ、ガジモンだ!」

 

「まさか選ばれし子供にここを嗅ぎ付けられるとはな」

 

「取っ捕まえてエテモン様に差し出してやる!」

 

「そうはいかないわよ! ギルモン!」

 

「うん!」

 

 ギルモンが私とガジモンたちの間に入って戦闘態勢に入る。

 

「カードスラッシュ!!」

 

「なにをするかわからないがさせねぇ! 《パラライズブレス》!!」

 

 カードを切ろうとした私に、ガジモンが攻撃を仕掛けてきた。

 

「っ、きゃああああああ!!!!」

 

 カードを切る体勢で無防備だった私に、ガジモンの攻撃が直撃して全身に痛みと痺れが走る。

 

「セリカ!」

 

「ぅっ、あっ、く…っ」

 

 い、痛い。有音君のデコピンの数倍痛い。でもそれ以上に身体が痺れて身動きが出来ないっ。

 

「余所見してるヒマはねぇぜ!」

 

「うわあああっ」

 

「ギ、ギル、モンっ」

 

 2体のガジモンに飛び掛かられてボコボコにされていくギルモン。カードを切りたいのに、指まで痺れているからなにも出来ない。

 

 助けてっ、有音君…!!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 身体の調子があまり宜しくなくて、いつもみたいに早起き出来なかったおれは、タケルくんに起こされたけど、また二度寝してしまった。

 

 みんなが起きる頃にまたタケルくんに起こされたけど、芹香とギルモンが居なくなったことでみんなが騒がしくなっている。

 

「ケホッ、ケホッ…。どこ行ったんだ…? ケホッ」

 

「有音さん、大丈夫?」

 

「ああ。ケホッ、ちょっとね。移しちゃ悪いから今日は離れていた方が良いよタケルくん」

 

「わかった。ムリしないでね、有音さん」

 

 タケルくんの気遣いを嬉しく思いながら、気怠い頭で状況を整理する。

 

 朝、タケルくんがおれと一緒に鍛練しようとした時には、もう芹香とギルモンの姿はなかったらしい。

 

 あまり起きる時間を決めちゃいないが、だいたい5時から6時頃には起きる様にしている。デジヴァイスは今は8時過ぎを表示している。

 

 つまり2時間は行方がわかっていないことになる。

 

 まさかアイツ、コロモンを助けようとして捕まったんじゃ。

 

「コホッ、ケホッケホッ。…ブイモン」

 

「なんだ? どうした有音」

 

 おれは近くに居るブイモンを呼んで手招きして、耳に顔を寄せる。

 

「うちのアグモンを連れて、コロモンの匂いを探ってくれ。パグモンに見つからずにだ。ギルモンは鼻が良いから、なにかを見つけたかもしれない」

 

「ああ。承知した。私もここの連中は胡散臭いと思っている。アグモンを連れて、秘密裏に動けば良いのだな?」

 

「頼む」

 

「任せておけ。お前は身体を休めておけよ」

 

「ああ」

 

 ブイモンに言伝てを託し、おれはベンチに横になる。これは本格的に風邪を引いたらしい。薬はシャークリナーを格納するゴーグルからリアライズさせて一応飲んだが、効く迄に身体が治ってくれるかどうか……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「おーい! セリカー! ギルモーン!」

 

 オイラは身体の具合が悪いアニキに代わって、セリカとギルモンを探していた。アニキが動けない分、オイラが頑張らなくちゃ!

 

「それにしても二人ともどこ行っちゃったんだろうね?」

 

「ギルモンと一緒だと思うから、あまり心配ないとは思うけど」

 

 オイラは途中で太一のアグモンと合流して、一緒にセリカとギルモンを探していた。

 

「そういえばさぁ」

 

「なぁに?」

 

「完全体に進化するって、どんな感じなの?」

 

 ふと太一のアグモンからそんなことを聞かれた。うーん、どんな感じかぁ。

 

「こう、アニキの力と想いが身体中にグワーッと広がる感じかなぁ。もう、無敵で負ける気がしないっていうか、アニキがオイラの中で一緒に戦ってくれているみたいな。そんな感じかな?」

 

「なるほどねぇ。ボクも進化したら同じ感じなのかなぁ?」

 

「うーん、アニキの進化のさせ方は独特だからわかんないなぁ」

 

 オイラひとりでグレイモンに進化する時は、身体の中の力を使って、ウオーッて感じでなるけど。アニキの力でジオグレイモンに進化する時は、身体の外から来る力と中にある力が合わさって、ヨッシャーッ!! って感じになるかなぁ。そしてさらにライズグレイモンになるときは、グワーッと力が広がって、ヨッシャーッ!! って感じかな?

 

 口で説明するの難しい。

 

「でも急にどうしたのさ?」

 

「いやまぁ。ボクたちも、紋章が手に入れば、グレイモン以上に進化するじゃない? だからどんな感じなのか聞いておけば、完全体にも進化し易いかなぁって」

 

「なるほどねぇ」

 

 まぁ、だいたいわからなくもない。でも、オイラたちがどう頑張っても、最後は一緒に戦うパートナー次第だと思う。そう考えると、オイラはアニキのパートナーになれて良かったと思う。

 

「ん? ちょっと止まって!」

 

「どうしたのアグモン?」

 

「セリカとギルモンの匂いだ。あとコロモンの匂いもする」

 

 という太一のアグモンに、オイラも鼻を澄ませて匂いを嗅ぐ。

 

「あ、ホントだ。あっちからかな?」

 

「ボクもそっちから感じる。行ってみよう!」

 

 オイラたちは互いに匂いを感じる方向に走っていく。すると滝が見えてきた。

 

「あの滝の方からだ!」

 

 滝に走り寄ってみると、脇から裏に続く洞窟が見える。

 

「セリカ! ギルモン!」

 

「コロモンも居るよ!」

 

 洞窟には檻の中で倒れているセリカとギルモン、また纏めていくつかの檻に入れられたコロモンも見つけた。

 

「ギルモンがケガしてる。誰かにやられたんだ!」

 

「いったい誰が…。オイラの友達を傷つけて、赦さないっ」

 

「その仕立て人がオレたちってわけよ」

 

 オイラたちの後ろから声が聞こえて振り向くと、そこにはガジモンがふたり居た。

 

「今日は獲物が良く釣れる日だな」

 

「お前たちも捕まえて、エテモン様に差し出してやるぜ!」

 

「お前たちがふたりやコロモンたちを閉じ込めたんだな!」

 

「赦さない! セリカとギルモンの仇を取ってやる!!」

 

 ガジモンと相対するオイラたち。2対2、つまり1対1のタイマン勝負!

 

「《パラライズブレス》!!」

 

「《ベビーフレイム》!!」

 

 太一のアグモンと、ガジモンの技がぶつかり合って衝突する。威力は互角だった。

 

「《パラライズブレス》!!」

 

「オイラを甘く見るな! 《ベビーバーナー》!!」

 

 オイラがこの身体になってから使えるようになった新しい技。ベビーバーナーはメガバーストと同じ、口の中で一回ベビーフレイムを貯めてから吐き出す攻撃。溜めを作るから普通に吐き出すよりも威力は上だ。

 

「ぐわあっ」

 

 オイラの攻撃は、ガジモンの攻撃を破ってガジモンを吹き飛ばすと、そのまま滝に当たって煙を上げる。

 

「うひゃぁ、スゴいや」

 

「へへん! どんなもんだい!」

 

 同じアグモンよりも早くガジモンを倒したから、ちょっぴり嬉しくて胸を張る。

 

「ぐっ」

 

 でもオイラの攻撃は直撃してなかったらしく、やられたガジモンが立ち上がってくる。

 

「このままじゃ時間がかかっちゃう。早くみんなを助けたいのに!」

 

「アグモン、オイラが戦うから下がって。みんなを檻から出してあげて」

 

「で、でも」

 

「オイラなら大丈夫だから」

 

 そう言いながら、オイラはガジモンたちの前に出る。

 

「ヘン! 手負いとは言え2対1だ。オレたちを甘く見た事を後悔させてやるぜ」

 

「チッチッチッ。まだオイラと太一のアグモンとの1対1が良かったって後悔するのはそっちの方さ!」

 

 2対1で勢い付くガジモンたちに、オイラはその考えが甘い事を断言する。

 

 身体の中からウオーッて感じで力が沸き上がってくる!

 

「アグモン進化――グレイモン!!」

 

 天井を押し上げながら、オイラはグレイモンに進化した。

 

「そうだ。アルトのアグモンはひとりで進化出来るんだった」

 

「テメェ卑怯だぞ!!」

 

「アニキが言ってた。仲間を守る為なら多少の卑怯も方便だって。オイラはみんなを助けるんだ! 《メガフレイム》!!」

 

「うぎゃあああ!!」

 

「あちゃちゃちゃちゃ!!」

 

 オイラの放ったメガフレイムはガジモンたちを吹き飛ばして、滝から続く川に当たって盛大な煙を上げた。

 

 ガジモンたちは川に落ちて流されていった。

 

「私が手を下さずとも解決してしまったか。中々やるな」

 

「ブイモン」

 

「しばらくそのまま見張っていろ。敵がまた来ないとも限らない。今の水蒸気で我がテイマーたちも直ぐに来ることだろう」

 

 オイラはブイモンに言われた通り、そのまま滝の前でアニキたちを待った。煙を目立たせる為に木を1本引き抜いて火を着けた。灰色の煙が空に上がっていく。たぶんアニキたちも気付くよね?

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「おい! あっちから煙が上がってるぞ!」

 

「たぶんっ、ケホッ、アグモンとブイモンだ。ケホッケホッ! なにか見つけたのかもっ」

 

 方向的にはやっぱり滝の方だ。

 

「ええ!? そんなはずないよ!! あっちはさっき探したから」

 

「「「「「探した探した!」」」」」

 

「子供の屁理屈だな。また探して何かがあったら合図をあげろって言ってあったんだよ。ッ、ケホッ」

 

 パグモンが悪者なのは始めから知っているから取り繕うのも止めてベンチから立ち上がる。

 

「うわあああっ!? ナニよコレ!?」

 

 他のベンチに座っていたミミちゃんの膝の上にもボタモンが現れた。

 

「ボタモン、幼年期Ⅰ、スライム型、黒い産毛がびっしり生えてるデジモンの赤ちゃん。ケホッケホッ、進化するとコロモンになる。パグモンには進化しない」

 

 気怠い頭からボタモンの情報を引き出して口にする。するとみんな一気にパグモンに疑いの目を向ける。

 

「ならなんでここに居るんだ?」

 

「そ、それは、きっと迷い込んだんだよ!」

 

 ヤマトの疑問にパグモンは言い返すが、もうめんどくさい。

 

「ケホッ、おれは先に行くぞ。さっきからデジヴァイスに呼び出し掛かってるんだよ」

 

 画面が点滅してデジ文字で『きてくれ』と表示されているのをみんなに見せて、鞘ごと腰から引き抜いたパラディンソードを杖代わりにして立ち上がる。フラフラするなぁ。こりゃ本格的に風邪引いたわ。

 

「つ、辛そうだからボクらが見てくるよ! ぴぃぃぃ!?!?」

 

 おれは足元に寄ってきて煩く引き止めようとするパグモンに、アルファブレイドを向けて黙らせる。

 

「るせぇよ。男ってのはな、ダチ公の呼び出しを無下にしちゃいけねぇんだよ…!」

 

 左手で印を切ると、魔方陣が足元に展開して、身体を浮かせる。

 

「そういうことだ。ケホッ、さき、行くぜ」

 

「俺も行くぜ!」

 

「いや、みんなで行こう! こんな胡散臭い連中相手にしてられない!」

 

 フラフラと飛ぶおれに続いて着いてくる太一。そのあとにヤマトがみんなを連れてきてくれる。

 

 まだ空を飛ぶのは練習中で、走る方が速いんだが、走るのも辛いこの身体。鎧も身に付けているから誰かに背負ってもらうわけにも行かないから、不馴れな方法を取るしかない。まぁ、振動もなにもないから身体に負担は掛からないが。

 

 そして森を抜けて滝が眼に入ると、グレイモンが滝の脇で木を使って焚き火をしていた。

 

「グレイモン、ケホッケホッ」

 

「あ、アニキ!」

 

 フラフラ飛ぶおれを、グレイモンが受け止めてくれた。うちのグレイモンなのは見てわかってたさ。

 

「有音君…!」

 

「芹香も無事か。良かった」

 

 服がまた少し解れているが、芹香も無事そうで何よりだ。

 

「ごめん有音君。心配かけて」

 

「不意打ちでも食らったか?」

 

「うん。カードを切る時に攻撃されて。やっぱり私ひとりじゃダメだった」

 

「課題が見つかって良かったじゃないか。今度はそれに気をつければ良い」

 

「うん。わかった。頑張って克服して、強くなるよ」

 

 芹香が無事だとわかって気抜けした所為か、起きているのも結構辛い。

 

「やっぱりあそこはコロモンの村だったんだな」

 

「ちょっと前にいきなりパグモンがやって来て、ボクたちをここに閉じ込めたんだ!」

 

 たくさんいるコロモンを見て、確信を持った声で言う太一に、コロモンが経緯を説明してくれた。

 

「あーっ! もしもしー?」

 

「な、なんだこの声は!?」

 

 拡声器でバカデカくされた声が響く。その声に丈君が辺りを見回す。

 

「選ばれし子供たち、聞こえてる~?」

 

「な、なんだあれ!!」

 

「「「「「え、エテモンだぁ!!」」」」」

 

 丈君とコロモンたちの声を聞いて怠い頭を向けて空を見ると、立体映像のエテモンが写し出されていた。

 

「よくもあちきをコケにしてくれたわね。腹が立っちゃったから、あなたたちごと、この村を消滅させてあげちゃうわん」

 

「村ごとだって?」

 

「そんなこと、出来るわけが――」

 

「ダークネットワーク!」

 

 エテモンの大見得に、太一と光子郎は信じられないだろうが、エテモンの支配領域ならば、あいつの強さは半端なく上がるのだ。

 

 地面の中から黒い枝の様な物が現れて、根っ子が覆うように村の空を包む。

 

 そこから暗黒の力が稲妻となって村に降り注ぐ。

 

「みんな、進化よ!」

 

 空ちゃんが檄を飛ばして、子供たちがデジモンを進化させようとする。

 

「そうはさせないわよ? 《ラヴセレナーデ》!! イェェェェェイ!!」

 

 ギターを掻き鳴らしながら歌い出すエテモン。

 

「うっ、ぅぅっ、ア、アニキ……っ」

 

「ぅっ、ぐっあが、ぅっ!!」

 

 エテモンの歌でめちゃくちゃ頭がカチ割れそうになる。さらにグレイモンも退化してアグモンに戻ってしまう。

 

「有音君!」

 

 グレイモンに抱かれていたから、退化されたらそのまま落ちるしかない。

 

「うっ、ぐぅっ! きゃあああっ」

 

「ば、バカ……。無理するな、ケホッケホッ」

 

 それを芹香が受け止めてくれたけど、女の子の腕で受け止められるはずもなく、芹香は尻餅を着いて、おれはその上にうつ伏せで横になるように落ちてしまった。

 

 アルファブレイドを杖代わりに立ち上がると、芹香の手を引いて起こす。

 

「ご、ごめん。ホントに役立たずで」

 

「役得だったから構わないさ。っ、ケホッコホッ。そ、それより逃げるぞっ」

 

「う、うん……」

 

 役得と言ったらちょっと頬を朱くする芹香。まぁ、あれだ。片手のボリュームじゃなかったぜ。加えて月並みだがマシュマロみたいに独特の柔らかさと弾力だったよ。

 

 そのあとは特に代わり映えもなしに、洞窟の中を奥に進むと、勇気の紋章を太一が手に入れて少し調子に乗り、おれたちはコロモンの村から遠く離れた山の中に出る。

 

 一応ネットワーク回線をアルファブレイドで叩き斬ってやったから嫌がらせが出来ていると願いたい。

 

「これからだね……大変なのは」

 

「……ああ。っ、ケホッケホッ」

 

 芹香に背負われながら、おれは芹香の言葉に返事を返した。わざわざグラニを出しておれからひっぺがえした鎧を乗せるのに、おれを背負う必要ないだろう。

 

「良いの。こんなことしか出来ないけど、少しは役に立ちたいの」

 

 そう言う芹香の背中は、とっても甘い香りがして抱かれ心地は最高だった。

 

 

 

 

to be continued…




ガジモン
成長期 ウィルス種

パグモンから進化する哺乳類型デジモン。鋭く大きな爪が武器である。気性も荒く、その為ワル系デジモンの下っ端になることも多い。前足の爪は攻撃以外にも穴堀に活用され、掘った穴に他のデジモンが落ちるのを見るのを楽しむワルな性格というチンピラみたいなデジモンである。必殺技は身体が痺れる毒ガスを吐き出す『パラライズブレス』だ。

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