気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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原作沿いなのに色々と手を加える所為か先に進まない。あとなんでか着々とルートフラグを建設するタケルくん。勝手にキャラが動くとはこういうことなのか!?


サーバ大陸 エテモン篇
第25話 ホエーモン襲来


 

 ファイル島を出て数時間。陽は登り詰めて昼過ぎになろうとしていた。

 

 潮流も計算して進むシャークリナーはとても快適な旅をおれたちに提供していた。

 

 そんな中で、おれたちはシャークリナーの頭の上に設けた甲板スペースでみんなで食事を囲っていた。

 

「海に出たらどうなるかと思ったけど、案外快適ねー」

 

 あのワガママミミちゃんが快適と感じるなら、航行プログラムを組んだ側としては名利に尽きる。

 

 8割方光子郎君がやってくれたけどな。おれもそれなりにパソコンを弄るし、アルファモンの力でプログラム言語は理解出来るけど、光子郎君は素でプログラムを組む知識量を持っている。光子郎君が居なかったら子供たちの冒険は詰んでいた場面も多いだけに、さすがは縁の下の知恵袋である。てか光子郎君も小学生にしたら十分チート級だと思います。

 

 という事を思いつつも、昼飯のパンとコンソメスープ、目玉焼きを食べる。だいぶ質素な昼食だが、それは作った芹香に言ってくれ。おれはシャークリナーの調整で忙しかったんだ。

 

 まだ海に出たての子供に溺れないように動けと言うのは無理な話だ。だから数時間の間に泳ぎ方を教えたから、一応は操縦桿を握っていなくても進めるようになった。速度は半分に落ちるけど。

 

 まぁ、あと5日もあれば泳ぐのにも慣れてくれるだろう。

 

 このシャークリナーの仮想敵はメタルシードラモンの為、居住性はある程度犠牲にして性能を追求する他なかった。それでも最低限の居住性は確保したので勘弁して欲しい。まぁ、だから艦内は狭くて窮屈だから、こうして甲板でみんなが食事を囲うわけだが。

 

「っと、タケルくん、黄身が溢れてるよ」

 

「あ、ホントだ」

 

「拭いてあげるからちょっと待ってなさいな」

 

「うん。ありがとう、有音さん」

 

「どう致しまして」

 

 なんか最近修業をつけているからか、タケルくんに結構懐かれています。今もヤマトの隣じゃなくておれの隣に居るし。その所為か、ヤマトの視線がちょいイタいです。

 

「染みになる前に洗濯して来るから、上脱いで」

 

「はーい!」

 

 タケルくんに上着を脱がせると、おれは鞄の中からコートを取り出して、タケルくんに羽織らせる。サイズが合わなくてぶかぶかだけど、海の風は冷たいから無いよりマシだろう。

 

「うわっ!?」

 

「なっ、なに!?」

 

 タケルくんの服を洗濯しに艦内に戻ろうとしたら、大きく船体が揺れた。芹香が慌てて周囲を見渡すが、次々と波が襲って来てシャークリナーを揺らす。

 

「どうしたんだ急に!?」

 

「風がないのに波が!」

 

 海の異常に立ち上がるヤマトと、揺れに耐える光子郎君がみんなの思いを代弁する。

 

「近くを船でも通ったかな?」

 

「船なんか居ねぇよ」

 

 風がないのに波が立つならと、丈くんがひとつの可能性を口にするが、それを太一が否定する。でも丈くんの言葉は的を射ている。

 

「し、島だ!」

 

 すると海面を割って浮上して来る存在が居た。それを見て太一が島と間違えるが、コイツは島じゃない。

 

「ち、違うわ! コレは島なんかじゃない!!」

 

 空ちゃんがおれの思っている事を代弁してくれた。

 

 水の中から出てきた黒い小山は一鳴きすると、また海へと戻っていく。

 

 その波でまたシャークリナーの船体が大きく揺らされる。

 

「みんな! 落ち着いて船の中に戻って!!」

 

 芹香が機転を利かせてみんなに叫ぶ。

 

「女の子から順番によ!」

 

 レディファーストの精神か、みんなが我先に急がない様に芹香が叫ぶ。

 

「ミミちゃんから先に行って!」

 

「ごめんなさい!」

 

 空ちゃんがミミちゃんの手を引いて先に入り口に導く。次はパルモンとピヨモンが船に戻っていく。

 

「空ちゃんは先に行って! 次は光子郎君で!」

 

「わかりました!」

 

「すみません、お先に失礼します!」

 

 次に空ちゃんと入り口に近かった光子郎君とテントモンが船の中へ。 

 

「タケル! こっちに来い!」

 

「お兄ちゃん…」

 

 次にタケルくんを避難させようと、入り口に近かったヤマトがタケルくんを呼ぶが、間の悪いことに、ホエーモンが特大ジャンプをしながらシャークリナーの上を飛び越えていく。

 

「みんな何かに掴まれ!!」

 

 咄嗟におれは叫び、同時にホエーモンが立てた津波がシャークリナーの船体を大きく揺らした。

 

「うわああっ」

 

 だが、ヤマトのもとに行こうとしたタケルくんは甲板のど真ん中で無防備な状態で甲板が斜めに傾いてしまった。

 

「タケルーーー!!」

 

「うわああああああっ!!」

 

 ヤマトの叫び声と、甲板から投げ出されるタケルくんの悲鳴が重なる。同時におれは駆け出し、芹香に鞄を投げつけて、海に落ちる前にタケルくんの身体を抱き止め、海に落ちる。

 

 海に落ちてすぐに身体をデジソウルで強化して海面を目指す。

 

「ブハッ、ゲホッゲホッ、タケル無事か?」

 

「エホッエホッ、う、うん。大丈夫」

 

「タケルー!!」

 

 パタモンが慌てておれたちの方に飛んでくる。

 

「パタモン!」

 

「タケル、大丈夫!?」

 

「うん。有音さんが助けてくれたから」

 

 だが安心はしていられない。

 

 海面に出たホエーモンがその大きな口を広げて、海水ごとおれたちを飲み込もうとしている。

 

「有音君!!」

 

「タケルーーー!!」

 

「丈! なんとか助けられないのか!?」

 

「そ、そんな…ゴマモンは!?」

 

「む、無理だよ、オイラも一緒に飲まれちゃうって!」

 

「アニキぃ!!」

 

 ホエーモンの飲み込む勢いには抗える訳がなく、おれとタケルくんはホエーモンの口の中に入っていく。

 

「キュアアアアア!!」

 

 だが口が閉じられる寸前に、グラニがホエーモンの口の中に飛んできてくれた。

 

「グラニ!」

 

 芹香がグラニをリアライズしたのだろう。お陰でホエーモンの胃で溶かされる心配はない。

 

「タケル、先にグラニに。パタモンも手伝ってくれ」

 

「う、うん」

 

「わかった!」

 

 水を吸ったコートが重いから一緒に着いてきたパタモンにも手伝わせてタケルくんを先にグラニに乗せると、おれもグラニの背に乗る。

 

「ふぅ。助かった」

 

「ありがとう、有音さん」

 

「なぁに。困った時はお互い様さ」

 

 なにしろあそこでタケルくんひとりだと溺れていた可能性もある。ああいうときは動ける人間が助けに飛び込んでやらないとな。

 

「これからどうしよう…」

 

「取り敢えず先に進もう。微かだけど暗黒の力を感じる」

 

 この先の胃にデビモンの黒い歯車があるだろうし、アルファモンの力のお陰か、野生のグレイモンやムゲンマウンテンで戦った時よりも暗黒の力を感じる感覚が敏感になっているらしい。その感覚も間違いなくこの先のから暗黒の力を感じている。

 

 食道での歓迎を受けつつ、胃に到着するおれたち。上を重点的に探すと、確かに黒い歯車があった。

 

「有音さん、あそこに黒い歯車が!」

 

「ああ。グラニ、黒い歯車の横に着けてくれ」

 

「キュアアア!」

 

 おれの言葉に従って、グラニが黒い歯車に横付けしてくれる。

 

「タケル」

 

「うん。ぼくのデジヴァイスで黒い歯車を取り除けば良いんだね!」

 

 おれの意図を理解してくれたタケルくんが、デジヴァイスを黒い歯車に向けると、そこから聖なる光が放たれて、黒い歯車を浄化して粉々に砕け散る。

 

「やったね、タケル!」

 

「うん!」

 

 黒い歯車を取り除いたことで喜び合うタケルとパタモンを横目に、どうホエーモンの中から出ようかと考えていると、胃の中が光に包まれてグラニが勝手に上昇していく。

 

「わっ、な、なに!?」

 

「ふたりともしっかり捕まってて!」

 

 おれの言葉に、タケルくんとパタモンがおれの胸と背中に抱きついてくる。

 

 するとグラニはホエーモンの潮吹きによって外に排出される。勢い余っておれたちはグラニの上から投げ出されるが、空中で体勢を整えながら、グラニの上に着地する。

 

 そのままグラニはホエーモンの傍に居るシャークリナーの甲板に向かって降りていく。

 

「タケル!!」

 

「お兄ちゃん」

 

「大丈夫だったか!? 怪我とかしてないか?」

 

「うん。有音さんと一緒だったから、なんともないよ」

 

 グラニから降りると、ヤマトが真っ先にタケルくんに駆け寄って安否を確かめる。それに対してどこにも怪我がないことをアピールするタケルくん。

 

「そうか。ありがとう、有音。タケルを助けてくれて」

 

「なぁに、軽いもんよ。それにお礼は芹香とグラニにも言ってくれ。ふたりが居なかったら、おれでも厳しかった」

 

「ああ。ありがとうございます、芹香さん」

 

「いいのよ。私も有音君を助けたい思いで一杯だったから」

 

 そんなこんなで話していると、ホエーモンがこちらに向き直ってきた。

 

「コイツまた…!」

 

 ホエーモンがまた襲って来るのかと、タケルくんを背に庇うヤマト。それに合わせて太一と丈君、太一とうちのアグモン、ゴマモンが身構えるが、大丈夫だとわかっているおれと、タケルくん、パタモン、芹香、あとブイモンとギルモンも特に身構えることはしなかった。

 

「すみませんみなさん。乱暴な事をして」

 

 テントモン曰く、獰猛なデジモンらしいホエーモンだが、先ず謝罪を言う紳士というか温厚なデジモンだった。他のホエーモンはわからないが、このホエーモンはそうらしい。

 

「気にしなくて良いよ。黒い歯車の所為だったんだから」

 

 ヤマトの後ろから出て、ホエーモンに状況を説明するタケルくんに、甲板の身構えていた面子の視線が集まる。

 

「そうだったのか? タケル」

 

「うん。ホエーモンの胃の中に黒い歯車が刺さっていたんだ」

 

「デビモンは倒したのに黒い歯車は残ってデジモンを操っているのか。こりゃ厄介だな」

 

 確かにイービルリングに比べて拘束力の高く、仕立て人が居なくなっても効果の続く黒い歯車は怖い物がある。あとは海底洞窟のドリモゲモンにも黒い歯車はあるのだが、他にもある可能性も捨てきれない。またそのデジモンが他のデジモンを襲っていないとも限らないわけだ。正直イービルリングよりも質が悪い

 

「なぁに、それが最後の可能性だってあるじゃないか。それよりホエーモン、俺たちサーバ大陸に行くんだけど、ここからどれくらいかかるんだ?」

 

「私でも5日は掛かります」

 

「そうか…。だいぶ掛かるのか」

 

「サーバ大陸に行かれるのでしたら、助けて頂いたお礼に、水先案内人として同行致しましょう」

 

「どうする? 有音」

 

 ホエーモンと会話をしていた太一が此方に話を振ってくる。確かにシャークリナーはまだ泳ぎに慣れていないから、ホエーモンが先導して潮の流れをフリーにしてくれるのは結構助かる。

 

「それじゃあ、お願いしようかな」

 

「わかった。そういうことだ、ホエーモン。道案内頼んだぜ!」

 

「承知しました。では私のあとに続いてください」

 

 ホエーモンのあとに続いて、インターフェースを通じてシャークリナーに指示を出す。簡単な動きや指示なら思考制御出来るようにもなっている為、シャークリナーはそれに従って動き出す。

 

「取り敢えずはひと安心かな?」

 

「まぁね。ッ、くしゅっ!」

 

 うぅ。海水に浸かった所為か寒くなってきた。

 

「大丈夫? こっちは平気だからお風呂入ってくれば?」

 

「ああ、そうさせてもらう。タケルくんも一緒に来て。このままじゃ風邪引いちゃう」

 

「うん。それじゃあお兄ちゃん、またあとでね」

 

「ああ。しっかり温まって来いよ」

 

 おれはびしょ濡れの身体を引き摺って、タケルくんと一緒に艦内に入ると、そのままお風呂に向かった。

 

「あ、有音さん」

 

「空ちゃんか。光子郎君とミミちゃんは?」

 

 その途中で空ちゃんと擦れ違ったので、ついでに先に艦内に避難したふたりの様子も訊いておく。

 

「光子郎君は制御室に向かうとか。ミミちゃんは部屋に閉じ籠って」

 

「成る程。一応危険は去ったから、ふたりに伝えておいてくれる? おれたちこれから風呂で身体温めてくるから」

 

「わかりました。伝えておきます」

 

 おれたちがびしょ濡れなのに気を使って、空ちゃんはあまり詮索せずに返事を返すと、下に降りる階段の方に向かっていく。

 

「ううっ、寒っ。タケルくんは大丈夫か?」

 

「うん。ちょっと寒いけど」

 

 やっぱり子供は風の子か。おれも身体は若いけど、寒いのは堪える大人なのですよ。

 

 そのままお風呂に辿り着くと、先にタケルくんを入れて、おれも服を脱いで、備え付けの洗濯機に服を纏めてブチ込む。これ一個で洗濯から乾燥までやってくれる造りにしたから、風呂から上がる頃には乾いた服が着れるだろう。

 

「有音さん、その傷……」

 

「ああ、これか。ファイル島に来たばかりの頃に、ちょっちね」

 

 タケルくんに言われて、肩の傷痕を説明する。あまり肌を日光に晒さないから、白い素肌に真新しい皮膚の色は結構目立つ。だいぶ盛大に切れたらしく、くっきり目立つ傷痕が肩に残っていた。

 

「やっぱり、痛いんだよね。怪我すると」

 

「まぁね。殴られれば痛いし、殴った時も痛い。おれたちは生きてここに居るんだ」

 

 タケルくんの頭を洗ってあげながら、おれはそんなことを呟いていた。二次創作の転生主人公宜しく、車に撥ね飛ばされて気づいたらデジタルワールドに居た。

 

 夢だと思えれば良かったが、これが夢なハズがない。

 

「有音さん?」

 

「いや、なんでもないよ。なんでも…」

 

 タケルくんの小さな背中だって、ちゃんと温かい。

 

 これが夢なわけがない。身体に無数にある傷痕が、夢のハズがない。

 

「はい。身体洗い終わったから、先にお風呂にどうぞ」

 

 まだお湯を入れ始めたばかりだが、その内溜まるだろう。

 

「今度はぼくが有音さんの背中を流してあげるよ」

 

「お、んじゃあ、お願いしちゃおうかなぁ」

 

 タケルくんに背中を向けながら、頭からシャワーを被る。頭を洗う間に、タケルくんが背中を洗ってくれる。

 

 ああ、なんて良い子なんだろう。こういう弟が居るヤマトが羨ましいんだぜ。

 

 身体を流し終わって、お湯の溜まった湯船にゆったりと浸かって温まったおれとタケルくんだが、タケルくんの上着を紛失してるのがわかった。

 

「ごめん、おれがしっかり管理してなかったから」

 

「気にしないでよ。有音さんはぼくを身体を張って助けてくれたんだから」

 

 そう言いながら、おれのコートに袖を通すタケルくん。いや、それサイズ合わなくてぶかぶかの上に丈も合わないから地面に引き摺るんだけど。

 

 おれはたぶんもう着ないから良いけど、動き難いでしょ?

 

「だめ……?」

 

 上目遣いでおれに是非を問うタケルくん。その瞳を向けられて何故か罪悪感が込み上げて来る。

 

「別に構わないけど。下は邪魔でしょ? 丈合わせしてあげるから、部屋まで着いてきて」

 

「うん。ありがとう、有音さん!」

 

 元気よく返事をするタケルくんを連れて、おれは部屋に向かうと、数年連れ添ったコートに鋏を入れて、切り口を解れないように裁縫する。でも合わせたのは丈だけで、あとはタケルくんが切るのを嫌がったから触らなかったけど、なんかユキワラシみたいに見えてしまうのは仕方がない。なにしろ腕の裁断もしようとしたら泣かれかけた。

 

 タケルくんが良いなら良いけど、良いのかなぁ。なんかてるてる坊主にも見えてくるし。コートじゃなくて合羽を着ている様にも見えるし。

 

 リアルワールドに着いたら新宿か渋谷で服でも買ってあげよう。

 

 

 

 

to be continued…




ホエーモン
成熟期 ワクチン種

デジタルワールドの深海に棲む大型水棲哺乳類型デジモン。つまるところデカいクジラデジモン。しかし成熟期でも十分にその巨体から発生する波は脅威的であり、同名のまま完全体に進化する為、見分けがつけ難い。ダークマスターズ篇の頃のホエーモンは完全体に進化していたと見られている。

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