今回もちょろっとデジタルワールドに対する過去の捏造と言う名の妄想が入ります。こういう過去がこの世界のデジタルワールドにはあったんだろうなっていう感じて読んでいただければ幸いです。
「デュークモンが甦ったか」
私はグラニを駆り、工場へと舞い降りるその聖騎士の姿を見ながら呟いた。
戦闘の音が遠くに聞こえ目を覚まし、次いで懐かしい気配を察して工場の外に出てみれば、聖なる力をその槍と盾に宿した聖騎士が、その姿を顕していた。
デュークモンは工場に降り立つと、ギルモンと芹香に別れた。
「これもお前の差し金か…。デュークモン」
かつて共に戦場を駆けた戦友にして、ロイヤルナイツの裏切り者。
いや、我等ロイヤルナイツに、その様な価値観はなかったか。
創設期の我々には、インペリアルドラモンという絶対的な存在が居た。
彼の言うデジタルワールドの平和を守るという言葉の元に、我々ロイヤルナイツは集った。
だが、彼はデジタルクライシスを止めるために、その身を犠牲にしてデジタルワールドを守った。
彼亡きあと、我々は彼と共に我らロイヤルナイツを集めたイグドラシルのもとでデジタルワールドの平和を守ってきた。
だがデジタルクライシスの爪痕は深く、デジタルワールドの存在そのものが酷く不安定だった。
故にデジタルワールドを再度再構成する為に、イグドラシルは動いた。
だがそれはアルファモンとオメガモンによるイグドラシルの破壊と、不安定ながらも再構成されたデジタルワールドの創造という形に落ち着いた。
我々ロイヤルナイツは袂を別ち、それぞれの信ずる正義でデジタルワールドを守ることになった。
あの時の私は、どうしたら良いのかわからなかった。インペリアルドラモンに憧れ、私はマグナモンへと進化を果たし、ロイヤルナイツに加わった。
だが彼が居なくなったことで、私は自分の目指す指針を失ってしまい、イグドラシルに忠実になることで、その事を誤魔化していただけかもしれない。
そして幾ばくかの月日が経った頃。ついにヤツが現れた。
アポカリモン――。
命ある者すべての敵。ヤツは己を進化の過程で散った命の怨念だといった。
だがこの世は生者の世界。ヤツの言う言葉は検討違いの逆怨みだ。
故に我等ロイヤルナイツは再び集まった。
アポカリモンの持つ暗黒の力によって力を付けたデジモン達。その力でデジタルワールドを支配しようと目論む暗黒の勢力との戦い。
小さなものから、時にはひとつの大陸さえ滅ぼしてしまう大きな物まで。
果てのない戦いを、我等は続けた。すべてはデジタルワールドの平和のために。
だが度重なる戦いに、デジタルワールドは疲弊していった。共に戦う者達が討たれる度に、敵を討ち果たす度に、暗黒の力が――アポカリモンの力は高まり、遂には我々ではどうにもできないほどにヤツの力は高まってしまった。
虎の子のイグドラシルの防衛機構の化身すら、アポカリモンの前では最早無力だった。
絶望に打ち拉がれる我々の前に、選ばれし子供たちが現れたのはそんなときだった。
彼らは聖なる力を宿したデヴァイスで暗黒の力を祓い、デジモン達を進化させる力を持つ者や、自らが十闘士と一体化して進化する力を持つ者まで。多様な選ばれし子供たちが現れた。
彼らはその聖なる力でインペリアルドラモンを復活させ、更にはデジタルワールドの神格たるスサノオモンすらも呼び起こした。
我等は彼らをアポカリモンのもとへ導くためにこの身を費やす事に決めた。
私もその過程で、アポカリモンに挑んだが、結果は私の命と引き換えに、ロイヤルナイツの四騎士と選ばれし子供たちをアポカリモンのもとへと導くだけで精一杯だった。
そして私は奇跡のデジメンタルの中で仮死状態となって時を過ごした。
あとは今、我がテイマーたる有音と出逢うまでが私の過ごしてきた軌跡だ。
デュークモンを見た所為で余計なことまで思い出してしまった。
しかし、我がテイマーと芹香は変わったテイマーだ。
十闘士の力で進化するテイマーは知っているが、デジモンと融合を果たすテイマーなど見たことはない。あれがどれ程異常な事か、芹香とギルモンはわかってはいないだろう。ひとつの身体にふたつの心。それが異常で異質なのだ。ジョグレス進化とも違う進化。
進化という観点で一番飛び抜けているのは我がテイマーも同じか。
デジモンに立ち向かえる人間など見たこともない上に、デジモンに力を授けて進化させる。
子供たちにはデジモンを進化させる力はあるが、進化させる力を授ける能力はなかった。
あくまでも子供たちの進化の力は、各々が個の性質を持っていた。
それが有音の進化は、自身の力をデジモンに融合させている。
デジモンと存在を融合させるテイマーと、デジモンに力を融合させるテイマー。
此度の選ばれし者は変わり者が多い。
そんな変わり者だからこそ、我等ロイヤルナイツのテイマーが務まるのだろうな。
我等ロイヤルナイツの強大な力を手にしても、その力に溺れぬテイマーだからこそ、私も彼をテイマーに選んだのだ。
デュークモンは芹香をテイマーに選んだ様だ。
そして我がテイマーは残りの四騎士の力を手にしても、その力に溺れずに自らの力で道を切り開くテイマー。
その背中は、私がかつて憧れた背中と同じであった。
あのアルファモンの力も持っているのは癪ではあるがな。
◇◇◇◇◇
「ようやく完成ですね」
「意外と早かったな」
おれと光子郎君の視線の先には、クロンデジゾイドで出来た船が水の上に浮かんでいた。
クロンデジゾイドを加工し、軽量さを求めたブルーデジゾイドで外装を覆われ、その先端の鋭利な刃物の角や背鰭は一部にゴールドデジゾイドを使っている。
内部はバイタルエリアはクロンデジゾイドを更に強化したレッドデジゾイドが使われており、その他の区画も大半がクロンデジゾイドを使われている。クロンデジゾイドを使われていないところを探す方が一苦労する程に純9割りをデジゾイドで構成されたこいつの名前は――。
「やっと海に出られるな、シャークリナー」
「シュアアアアア!!」
おれがその名を呼ぶと、ブルーデジゾイドに覆われた船体先端下部が開いて、雄叫びを上げた。
なにしろただ単に船を作るのは芸がないし、自動で動くものにしたかったから、コイツには電脳核が搭載されている。つまりグラニと同じくZEROーARMSにカテゴライズされる人工デジタル生命体と言うことだ。
全体像はティロモンを参考にしたが、メカメカしくバリっているので、ティロモンX抗体に近いデザインに仕上がっている。
大きさはホエーモンよりは小さいだろうけど、子供たち合わせて10人とデジモン+αは乗れるだろう大きさはある。全長約30m、幅約10m+5mヒレ×2で20m、全高15mちょいかな。内装は二階に別れ、各子供とパートナー兼用の二畳の個室10個に、機関室で1フロア。男女別の風呂とトイレ、共同キッチンと食堂、制御室、格納庫で1フロアを使っている造りになっている。
推進力は音も静かな水流噴進機関を搭載。前方指向限定だが、サブマリモンと同じく空気圧縮魚雷を搭載。またグラニからもユゴスシステムをコピーしてユゴスブラスターを撃てるようになっている。クロンデジゾイド製故に防御力は不足なし、しかもヒレなんか掠めた日には生身のデジモンは真っ二つだろう。
本当はもっと色々着けたかったが、ここまで完璧に仕事をこなしてくれた光子郎君マジスゲーよ。
ZEROーARMS――シャークリナー。
ここに完成だ。
「各種耐久テストをもう少しやっておきたかったのですが」
「耐圧、耐衝撃テストがクリアしてるなら大丈夫でしょ。なにも海底火山の近くを潜りますとかやるわけでもないし」
海の上を行ける性能と、海の中の水圧に耐えられる設計はされているから問題はないだろう。耐熱に関しても溶鉱炉とかに落ちない限りクロンデジゾイドは熔けないわけだし。
てかグラニはまだデジモンっぽいデザインだから良いけど、シャークリナーはデジモンよりも武装していて全身がメカだからゾイドっぽく見えるな。
「取り敢えず、あとは食糧なりなんだりを詰め込むだけか」
「サーバ大陸まで、シャークリナーのスピードでも3日。疲労を考えれば5日程度でしょうか」
シャークリナーもZEROーARMSとはいえ広義的にはデジモンに変わりはない。だから全力でスッ飛ばすならそれこそ2日もかからずにシャークリナーはサーバ大陸に渡れるが、ファイル島でこんなにもゆっくりしているのだから、今さら急ぐよりも無理のない速さで海を渡るのはおれと光子郎君の間て折り込み済みだ。
みんなも船を造っているのはおれたちだから、スケジュールに文句は言わないしな。
でも問題は、ホエーモンとタグの在処だな。
ホエーモンに出逢えれば良し。みんなのデジヴァイスが反応するなら良し、さもなくばソナーで探すのも良いが、都合良く見つかるのを祈るしかないか。
シャークリナーを建造ドッグから海に移し、おれは航行テストも兼ねて、一足先にトロピカルジャングルへ向かうことにした。みんなは陸路でトロピカルジャングルの騎士の館に向かう事になる。クロを拾って、いよいよファイル島ともおさらばだ。
「短いようで長い日々だったな」
10日と少し過ごしたファイル島。でも一日一日が濃すぎてもう何年もこの島で過ごしているような来さえする。
おれは海に出るシャークリナーを見送り、工場の外に出た。
デビドラモンにも別れを告げなくちゃならないからな。
「ぐるるるる……」
「ありがとな。短い間だけど、世話になったよ」
「ぐるるる…」
別れを悟って気を落とすデビドラモンだが、これから先の戦いは辛いものだし、シャークリナーにデビドラモンは乗せていけない。だからコイツにはファイル島に残ってもらわないとならない。
「そう寂しい声をだすなよ。生きてさえいれば、また何処かで会えるさ」
「クゥ~ン……」
生きていれば、か。ダークマスターズによって、デジタルワールドはめちゃめちゃにされてしまうのを知っている身としては、切実な言葉だった。
「お前はもう、デビモンとの契約も切れてるだろ? 仲間が居るダークエリアで、達者に暮らせ」
ジャレついてくるデビドラモンをあやしながら、身体を離す。
指先に剣指を作り、印を切ると、デビドラモンの足元に魔方陣が現れる。これもアルファモンから授かった力の応用だ。
「クゥ~ン…」
「じゃあな。ありがとう、デビドラモン」
魔方陣の中に吸い込まれていくデビドラモン。魔方陣は包んだ相手を故郷に送還する効果がある。これでアイツは自分の故郷のダークエリアに帰れたはずだ。
「律儀なものだな。放っておけば良いものを」
「ブイモン…」
いつの間かあ居たブイモンに声を掛けられた。
「これから熾烈な戦いが待っている。着いて来られて巻き込むのも、後味悪いからな」
エテモンはふざけた見かけによらず、完全体でも上位に食い込む実力を持っているはずだ。
そんな戦いに巻き込んで傷つけるくらいなら、故郷で平和に暮らしてもらう方が良い。アイツにはそこまでする義理もない。
「頼りにしてるよ、ブイモン」
「……ああ」
歯切れの悪そうに言うブイモン。ブイモンの強さは、ロイヤルナイツのマグナモンとしてその状態を維持していられるほどに強いのは確実だ。
だが、マグナモンに進化できなければ、ブイモンも成長期としては強いデジモンでしかない。
おれも、芹香の事を偉そうに言っていられないな。
◇◇◇◇◇
「アニキ! 早く早く!!」
「わかってるから少し待てよ!」
我がテイマーが光子郎と共に造ったという船――いや、デジモンの上で、私とアグモンは有音を待っていた。
皆にスケジュールを伝え、我々は海、皆は陸から再びナイトモンの館に向かうことになった。
ようやくファイル島から旅立つ時が近づいているという事だ。
工場の周りに適当な入り江はなかった故、断崖絶壁の上から船に乗り移るわけだが。確かにこの方法では他の子供たちは乗せることは出来ないな。
「よっと! 悪い。お待たせ」
「もう、遅いよアニキ。オイラ待ちくたびれたよ」
「仕方ないだろ。皆とスケジュールの再確認してたんだから」
目的地は同じだというのに。案外マメだな。
しかし我がテイマーはあの黒いポーンチェスモンを連れていく様だが、それこそデビドラモンの二の舞だとわからんわけがないだろう。
アレは今の私と同じ問題を抱えている。
確かに成長期としては、子供たちのデジモンとは一線を駕す力はあるだろう。
だがそれまでなのだ。進化できなければ、次の強さには至れない。
テイマーの居ないデジモンが進化するにはそれなりの修練を積まなければならない。
私とてそうだった。奇跡のデジメンタルで進化できるようになるまで。更には進化したあともマグナモンであることを維持するために、それこそ血反吐を吐くような鍛練を重ねてきた。
進化するということはそういうことなのだ。子供たちのデジモンはそういう事を知らぬ分、幸せ者だな。
「どうかしたのか? ブイモン」
「いや、気にするな。ただの考え事だ」
「そうか。まぁ、なにかあったら言えな? おれはお前のテイマーなんだからさ」
「そうさせてもらおう」
インペリアルドラモン。私はどうすれば再び進化出来るのだろうか?
私は、ロイヤルナイツとして、テイマーの役に立てるのだろうか。教えてくれ。私はどうすれば良いのか。
船に揺られる中。私はそんな思いを、我がテイマーの腰に刺さる白銀の剣に問うていた。
to be continued…
シャークリナー
ZEROーARMS 属性ナシ
海を渡るために、有音と光子郎によって生み出された人工デジタル生命体。その戦闘能力は完全体にも引けを取らない。本当は空海両用になるはずだったが、推進プログラムが組めなかった為に海洋限定性能に留まった。全身がクロンデジゾイドで構成されている為、その防御力は究極体に迫る。攻撃力もユゴスブラスターを搭載している為に申し分ない。その頑丈さから潜水行動も可能としている。カテゴライズ的には強襲揚陸艦に該当する性能を持っている。
一応本小説オリジナルのZEROーARMSです。