気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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タイトル通りやり過ぎな回ですが、これがここにくるのも意味があります。でなきゃ単なるチートですもの。




第22話 瞬間、心、重ねて 降臨!聖騎士デュークモン

 

 デビモンの残滓、ネオデビモンを倒したおれたちは、漸くクロンデジゾイト鉱石の採掘を開始した。

 

 結構な量が取れるらしく、金銀財宝ガッポガポの様に山の様に次々と鉱石の塊がトロッコで運ばれていく。

 

 タケルくんは泣きつかれて眠ってしまっている。その横でパタモンも眠っている。

 

 今日はここで一夜を過ごす予定で、ガードロモンに伝言を頼んでいる。まぁ、明日帰ったらヤマトになにか言われそうだが、泣き腫らした顔なんて、タケルくんも見られたくないだろう。

 

「焼けたぞ」

 

 手が離せないおれに代わって、ブイモンが料理を担当してくれた。

 

「ありがとう」

 

 焼けたデジタケの串を受け取って、鞄から塩を取り出して、デジタケに振り掛けて食べる。うん、旨い。

 

「アニキ、肉採ってきた!」

 

 そういうアグモンの背中の篭には結構な量の肉が入っている。それ全部喰いきれるのか?

 

「余裕だってば。オイラお腹空いてるし」

 

 ライズグレイモンからアグモンに退化しても、アグモンは大きいままだ。てかコロモンにまで戻らないのは、この間みたいにエネルギーに余裕があったからか?

 

 今まで太一のアグモンとそんなに変わらなかったのに、デジソウルで進化したからか、セイバーズのアグモンに進化したらしい。といっても手にベルトは巻いちゃいないけど。

 

 身体も大きくなったから食べる量も増えたかな。

 

 早速肉を焼き始めるアグモン。肉がパチパチと焼ける音と、匂いが食欲を誘う。

 

 しかし、ブイモンを進化したい時に進化させてやれないのはテイマーとしては失格だな。

 

 デジメンタルのパワーが戻っていないのか、おれが原因なのか。まぁ、座して奇跡を待つよりも、行動しちゃう人間だから、奇跡の紋章とは相性が悪いのかねぇ。だとしたらマグナモンが甦ったのは相当な奇跡だったんじゃないかと思えてきた。

 

 まぁ、奇跡は起きるのを待つものじゃなくて、自らの手で起こすものだからって、某努力と根性のロボットアニメは言っていたからな。

 

 お腹も膨れた翌朝。日課になりつつある素振りをしているところに、タケルくんが起きてきた。

 

「おはよう、タケルくん」

 

「…お、おはよう、ございます」

 

 何処か気恥ずかしそうに指をもじもじするタケルくん。

 

「どうかしたの?」

 

「あっ、その、ごめんなさい。昨日はなにもできなくて」

 

 ネオデビモンを前にして立ち竦んで、なにも出来なかったことを言っているんだろう。

 

「別に気にしてないよ。恐いものは仕方がないんだから」

 

 おれにだって、幽霊やお化けは嫌いで、お化け屋敷なんか入れないんだから、それに比べたらタケルくんのトラウマは仕方がないことだ。それは時間が解決するか、タケルくんが乗り越えなければならないことだ。

 

「…ぼく、もうあんな風になって足手纏いになりたくない。だから有音さん、ぼくを鍛えて欲しいんだ!」

 

 そう言うタケルくんの目は、力強い覚悟を持った男の目をしていた。

 

「おれも修行中の身みたいなものだから、あまり多くのことは教えて上げられないし、タケルくんの身体は今無理に鍛えちゃうのはあまり良くないんだ」

 

 おれはタケルくんに言い聞かせる様に言うと、明らかに落ち込むタケルくん。でも男の覚悟を受け取った手前、なにもしないわけにはいかない。

 

「だから少しずつ、無理なく鍛えること。これを約束してくれるなら、タケルくんのお願いも聞いてあげる」

 

 そう言うと、タケルくんはパァっと、目をキラキラさせて顔を上げた。

 

「うん! 約束するよ!」

 

「よーし、良い返事だ。じゃあ、約束だからね」

 

 元気良く返事を返されたおれは、先ずはタケルくんに走り込みからやらせた。いきなり筋トレとかするより、持久力を鍛える方が良いと、小学校の頃の経験から、タケルくんに合いそうなメニューを選んだ。朝学校に行ったら、良く縄跳びとか校庭ランニングとか全校生徒でしてたからね。

 

 タケルくんが走り込むのを横目に、おれも素振りを再開した。

 

 太陽が頭上に登り始めた頃。デジヴァイスだと9時位になって、おれはタケルくんを連れてファクトリアルタウンに戻った。

 

 ガードロモンたちがクロンデジゾイト鉱石の入ったコンテナを貨物車に乗せて、貨物車はガードロモンに押されて走り出す。ファクトリアルタウンからこの採掘場を繋ぐ線路が漸く修復出来て、飛ぶよりも大量のデジゾイト鉱石を一気に運べる様になったとか。

 

 ファイル島がデビモンによってバラバラにされた被害は、今なお各地で爪痕を残しているらしい。

 

 貨物車に揺られること昼過ぎになって、おれたちはファクトリアルタウンの工場に戻ってきた。

 

「タケルー!」

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「タケル無事か!? 怪我とかしなかったか?」

 

「大丈夫だよお兄ちゃん。ぼくはなんともないから」

 

 ガードロモンには伝言でネオデビモンにも襲われたことも伝えることもお願いしておいた。

 

 だから過保護的にヤマトがタケルくんを気にするのも仕方がないか。

 

「あれ、アグモンものすごく大きくなってない?」

 

「へへん! オイラはアニキのお陰で結構強くなったもんね!」

 

 ヤマトと一緒に来たガブモンが、うちのアグモンの大きさを見て驚いていた。ガブモンの1.5倍は確実に大きくなっている所為で、改めてアグモンの大きさが際立っている。

 

「お帰りなさい、有音君」

 

「ああ。ただいま」

 

 おれの方には芹香が声を掛けてくれた。

 

「デビモンとまた戦ったんだってね。大丈夫だった?」

 

「まぁ、なんとかね。ライズグレイモンに進化させられたから」

 

「そうなんだ。なんだか私たちおいてけぼりだよね」

 

「焦ることないだろ。焦ったって、良いことはないんだから」

 

 焦ってもデジモンを正しく進化させることはできない。それこそアニメの太一みたいにパートナーを暗黒進化させかねない。

 

「わかってるよ。わかってるけど、私だってみんなよりは進化条件は緩いはずなのに」

 

 そう言いながら、芹香はブルーカードを腰のカードケースから取り出した。いつの間に作ったのか、それなりにデジタルモンスターカードも入っている。

 

「一々イメージするよりもこっちの方が早いかなって」

 

 まぁ、なるほど。イメージしていられる時がない場合には結構使えると思う。 

 

「やっぱりクルモンが居ないと、完全体には進化出来ないのかな……」

 

 クルモンとはテイマーズ次元のデジタルワールドで進化の力の源と言われる『デジエンテレケイア』と呼ばれる存在がデジモンになった姿だ。

 

 Dアークを使う芹香は、グラウモンを完全体のメガログラウモンに進化させられない事になやんでいる様だ。

 

 でもな芹香。デジモンを進化させるのは口で言うほど簡単じゃないんだよ。

 

「どういうこと?」

 

「おれはアグモンを何度も進化させてきたからわかる。デジモンとテイマー、それぞれの心がひとつにならなきゃ、デジモンを進化させる事は出来ないんだよ」

 

 デジソウルを使ってアグモンを進化させているおれが言っても、見掛けは説得力ないだろうが。アグモンがおれと一緒に戦う事を選ばなきゃ、ジオグレイモンやライズグレイモンには進化しない確信がある。

 

 芹香もテイマーズを好きで見ていたなら、ギルモンと心を通わせないと、完全体や究極体には進化出来ないのはわかるはずだ。

 

「わかってるよ。でもそれは……」

 

 そう。芹香のギルモンは、芹香が現実世界でゲームの中で育てたデジモンだ。なら、その絆はこの場に居るどのパートナーよりも強いはず。

 

 なのにブルーカードで完全体のメガログラウモンに進化させる事が出来ない。芹香の悩みは答えの見えない袋小路状態だろう。

 

 でも、芹香とギルモンが仲が良いのは誰が見ても疑い様がない。だから、別の何かか、切っ掛けさえあれば進化出来るとおれは思う。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 中々帰って来なかった有音君とタケルくんに、みんなが心配そうになるが、日が沈む頃にガードロモンが1体帰ってきて、手紙を私たちに渡して、録音した音声データを聞かせてくれた。

 

 デビモンが甦ったことと、タケルくんが寝てしまったので、明日帰ると言うことだ。

 

 それを聞いてみんな息を飲んだが、既にもう一度倒したと聞かされて安堵した。

 

 一番安堵したのはヤマト君だろう。中々帰って来ないから、明らかに情緒不安になっていたし。

 

 太一君と一緒にみんなを引っ張って行くヤマト君だけど、タケルくんが居ないとこんな風になるのが玉にキズなんだよね。

 

 そして有音君とタケルくんが帰ってくると、真っ先にタケルくんに向かっていくヤマト君を苦笑いで見ながら、私は有音君に事の詳細を訊いた。

 

 デビモンが進化したネオデビモンと戦ったこと。そのネオデビモンを、アグモンをライズグレイモンに進化させて倒したことも。

 

 デジソウルという武器でいて、足枷もあるけど、今の所自由にパートナーを進化させられる有音君に、私は羨望と一緒にちょっぴり嫉妬を感じてしまった。

 

 ブルーカードを切れない私。進化出来るアイテムはあるのに、ギルモンをメガログラウモンに進化させてあげられない焦り。

 

 それを見抜かれた有音君に論じられた。有音君の言うことはわかる。でも、もういよいよファイル島を旅立ってサーバ大陸に渡るんだ。

 

 子供たちの成長云々も大事だけど、私だけ戦力外になんてなりたくない。私だって、みんなより歳上で、みんなを守って行かなくちゃならない立場に居るのに、全部有音君に背負わせたくないよ。

 

「セリカぁ…」

 

「ギルモン…」

 

 夕食の後。私は工場の外に出て、星空の見える丘に居た。ファクトリアルタウンの周りは煙で星空が見えにくいから。

 

「セリカ、ギルモンのせいでなやんでる?」

 

「そんなことないよ。そんなことない。悪いのは多分私だから」

 

 ギルモンは私の一番の友達だもの。今もこうして私のことを心配してくれる。

 

 だから、ブルーカードを切れないのは、私が弱いからだ。ブルーカードを切る資格がないから、ブルーカードをスラッシュしようとしても、手が動かなくなるんだ。

 

「ぎるるる……ギルモン、あまりセリカのやくにたててない。だからセリカなやんでる」

 

「そんなことないよ。絶対、そんなことない! だってギルモンは私のパートナーなんだから」

 

 自分を責めようとするギルモンを抱き締めて、私はギルモンの言葉を否定する。

 

 こんなに良いパートナーが居るのに、進化出来ないことに悩むなんて、私はバカだ。

 

 ギルモンはこんなにも私のことを想ってくれているのに、私はギルモンをもっと強くする事しか考えてなくて、こんなのじゃデジモンテイマー失格だよね。

 

「んん…?」

 

「ギルモン、どうかしたの?」

 

「ゥゥゥゥゥ………」

 

 ギルモンが私の腕を離れて、何かを警戒し出した。

 

 私もデジヴァイスを構えて警戒する。

 

 脚を伝って来る地響き。丘の後ろに広がる森から聞こえる木を薙ぎ倒す音。

 

 それがどんどん大きくなっていく。

 

「グゥゥアアアアアアアアア!!!!」

 

 森を突き抜けて現れたのは、大きな巨大な恐竜だった。

 

 私はデジヴァイスの機能を使って、そのデジモンを調べる。

 

「ダークティラノモン。成熟期、ウィルス種、恐竜型デジモン。必殺技は『ファイヤーブラスト』」

 

 ダークティラノモンの基本的なデータしか出てこなかったけど、普通のティラノモンじゃないことはわかった。

 

 相手が成熟期なら進化しなくちゃ――。

 

「行くよ、ギルモン!」

 

「うん!」

 

 私はくるくると回るカードを右手の人差し指と中指で挟み、左腕を曲げながら手の中のデジヴァイスのカードスキャナー部分を上にして胸の前に構える。

 

「カードスラッシュ――超進化プラグインS!!」

 

 カードをスラッシュし、伸びきった腕の先で地面と水平になっているカードを親指の動きで回転させて、絵柄を外側に見せる。

 

 EVOLUTION_

「ギルモン進化――グラウモン!!」

 

 私のデジヴァイスから放たれるデジタルコードがギルモンの身体を包み込み、デジタルコードのデジタマを形作る。

 

 そしてデジタマを爆裂させながら現れたのは、赤い魔竜デジモン、グラウモンだ。

 

「お願いグラウモン!」

 

「わかった。セリカは下がってて!」

 

 工場から少し遠い丘の上。みんな夜も遅いから寝てるかもしれないし、進化の光に気づいても、ここに来るのは少し時間もかかるはず。つまりは私たちだけでダークティラノモンを倒さないとならない。

 

「《アイアンテイル》!!」

 

「《プラズマブレイド》!!」

 

 ダークティラノモンの尻尾と、グラウモンの腕のブレイドがぶつかり合うが、グラウモンの身体が押されている。あのダークティラノモン、相当強いみたいね。なら――!!

 

「カードスラッシュ――キングデヴァイス!」

 

 グラウモンの攻撃力を上乗せする。腕のブレイドが一層紫電を散らして、プラズマの刃が倍近く巨大化するけど、それでもダークティラノモンはビクともしない。

 

「くっ、ぅぅっ、こ、コイツ、強いっ」

 

「負けないでグラウモン!」

 

 パワーを上乗せしても推せないダークティラノモンを見て、私は新たなカードを切ろうとする。

 

「ッ――!? セリカ逃げて!!」

 

「え?」

 

 グラウモンの声を聞いて集中を解くと、ダークティラノモンの炎の漏れる口が私の方を向いていた。

 

「《ファイヤーブラスト》!!」

 

 ダークティラノモンから放たれた火炎の奔流が、私の足元を焼き尽くしつ爆発する。

 

「きゃあああああああーーーー!!!!」

 

「セリカアアアアアアア!!!!」

 

 爆風に吹き飛ばされた私は宙を舞って、丘の下に落ちていく。

 

 丘の下は普通に地面だ。落ちたら怪我じゃすまないのは見なくてもわかる。

 

「キュアアアアアア!!」

 

 でも、落ちていく私を、デジヴァイスからリアライズしたグラニが地面に叩きつけられるギリギリで助けてくれた。

 

「あ、ありがとうグラニ。助かったよ」

 

 もしグラニが居なかったら私は確実に死んでいた。そう思うと心臓が破裂しそうな程に早鐘を打って、吐きそうになる程に目の前がぐらぐら揺れる。あまりの恐怖に涙すら漏れ始める。

 

「うわああああああああ!!!!」

 

「グラウモン!! わっぷっ!」

 

 丘の上からグラウモンが落ちてきて、酷い土煙が舞い上がる。

 

 煙が晴れると、そこに居たのはグラウモンではなく、退化したギルモンだった。

 

「ギルモン!!」

 

 私はグラニの背から飛び降りてギルモンのもとに向かった。

 

「ギルモン、しっかりして! ギルモン!」

 

「ぎるぅぅ。セリカぁ、ぶじだった……」

 

「もう! 自分の心配をしてよ!」

 

 ボロボロになっても私を心配するギルモンに、私はしかりつける様に言った。私の心配は嬉しいけど、ギルモンだって傷ついてるんだから、少しは自分の心配をして欲しい。

 

「ギュアアアアアアアア!!」

 

 ダークティラノモンが叫びながら、丘の下に飛び降りて来た。

 

「ひっ!?」

 

 地響きを立てながら着地したダークティラノモンは目と鼻の先。尻尾を振るえば、私はぺちゃんこになるか吹き飛ばされるだろう距離だ。

 

「ぎるるるぅっ…。セリカは、ギルモンがまもる…!」

 

 起き上がってまだ戦おうとするギルモン。それを見て私は慌ててギルモンの身体を抱き締めて引き止めた。

 

「ダメェッ!! もう良いよ、もう良いから逃げよう!!」

 

 もうギルモンに傷ついて欲しくない。私の為に無理して戦って欲しくない。もうギルモンは十分に戦ってくれたもの。だから逃げてみんなに助けてもらおうよ。

 

「ギルモン、セリカまもりたい。セリカをまもるの、ギルモンのやること!」

 

「だからもう良いんだってば!! このままじゃギルモンが死んじゃうよ!!」

 

 どうしてわたしの身近の男の子は、私が良いって言ってるのに、退いてくれないの!

 

「ギルモン、たいせつにそだててくれたセリカだいすき! だからまもる!!」

 

「私だって……。私だってギルモンのこと大好きだよ! 大好きだから、傷ついて欲しくなんてないの!!」

 

 私を守ろうとするギルモンを私は必死で止める。でもダークティラノモンは待ってくれない。その口を広げて、漏れる火の粉が、私たちを焼き尽くすカウントダウンを刻む。

 

「キュアアアアア!!!!」

 

「グラニ!?」

 

 私たちを攻撃しようと口を広げるダークティラノモンに、グラニが体当たりをする。

 

 グラニの体当たりは受け止められてしまうけど、ダークティラノモンは攻撃を中断せざる得なくなった。

 

「グオオオオオーーーー!!」

 

 邪魔されたダークティラノモンが怒りの雄叫びを上げて、グラニを背後の聳える崖に叩きつけた。

 

「グラニ!!」

 

 崖に叩きつけたグラニは、その衝撃で崩れた岩に生き埋めにされてしまう。あれじゃあ動けない!

 

「グルルルル……」

 

「っ!!」

 

 これで漸く獲物を仕止められると言ったように、ダークティラノモンが私たちの方を向いて、その口を広げてくる。

 

「セリカ!」

 

「ギルモン!」

 

 私たちは互いを守るように、互いの名前を呼んで、互いの身体を抱き締めた。

 

 視界を焼き尽くしつて迫るダークティラノモンの火炎。私たちの身体がその火炎に呑まれそうになった時、デジヴァイスから強い光が放たれて、私たちの視界を覆った。

 

「ぅっ、いったいなにが……」

 

「ぎる?」

 

 光に包まれた私たちの身体は、白い空間の中で眠っていた。

 

「私たち、死んじゃったのかな?」

 

「ぎる? わからない」

 

 途方にくれそうな私たち。でももし死んでしまっていたら、今も胸に抱いているギルモンの温もりだって感じないはず。

 

「危うく死ぬ寸前であったが、我が力にて一時的に守らせて貰った」

 

「だっ、だれ!?」

 

 いきなり声が聞こえて、辺りを見渡すけどだれもいない。

 

「我が系譜に連なりし者よ。力を求めるか?」

 

 辺りを見渡す私たちの前に光が集まって、それは人の形となると、とあるデジモンが現れた。

 

 白と金と赤で彩られた鎧を身に纏い、赤いマントを身につけ、頭にはギルモンの顔の様な額当てをしたデジモン。

 

「デュークモン……」

 

「いかにも、我が名はデュークモン。ロイヤルナイツの末席に名を連ねし者」

 

 そう語るデュークモン。でもブイモンの様に一線を感じる様なものはなく、親しさに溢れる声だった。

 

「我が血を受け継ぎし者よ。そして我がテイマーよ。我が力にて悪を討つ気概はあるか?」

 

 悪って、なんのことなんだろう……。ダークティラノモンのこと?

 

「それも然り。テイマーがそう思うならば、それは悪だ」

 

 私が思うものが悪? どういう意味なの? どうして私の物差しで悪が決まるの? そしてデュークモンはどうして私のことを自分のテイマーって言うの?

 

「そのちからがあれば、セリカをまもれる?」

 

「ちょ、ギルモン待って!」

 

 いくらロイヤルナイツでも、いきなり現れて力が欲しいかなんて言うのは怪しすぎるよ。

 

「然り。お前が望むのならば、我が力は何者からも我がテイマーを守る剣となり、盾となろう」

 

 有音君ならまだしも、私はロイヤルナイツに知り合いは居ないし、それになんでデュークモンは私をテイマーって呼ぶんだろう? まさかギルモンみたいに、私が育てていたデュークモンでしたって落ちはないよね?

 

「我が力も無限ではない。この空間も維持するのはもう限界だ」

 

「もし、その力を要らないって言ったら?」

 

「それもまた由し。その時は我が身に残る力で、悪の邪竜を滅するまで」

 

 でも、その言い方だと、ダークティラノモンを倒したらデュークモンは消えてしまうように聞こえる。

 

「ギルモン、つよくなりたい! セリカをまもれるつよさほしい!!」

 

「ギルモン……」

 

 こんなにも私の為に強くなろうとしてくれるギルモン。なのに私はまだ戦いから逃げるの?

 

 ギルモンの覚悟を無駄にするのが、テイマーのやることじゃない。テイマーは、デジモンと心を通わせて戦う人間のパートナーのことを言う言葉。

 

 私はギルモンのテイマーなんだから、私も覚悟を決めなくちゃ。ギルモンが私を守るために強くなろうとするなら、私はギルモンの想いに応えられる強いテイマーにならなくちゃならない。

 

「私も、強くなりたい。ギルモンと一緒に」

 

「セリカ…!」

 

「一緒に強くなろう? 私たちは、パートナーなんだから」

 

「うん! ギルモン、セリカとつよくなる!」

 

 答えの決まった私たちは、一緒にデュークモンを見る。そんなデュークモンの視線は、成長を見守る親のように優しかった。

 

「お前たちの前には、これからも多くの困難が待ち受けるだろう。だが、その心の絆を忘れぬ限り、それはどんな困難だろうと乗り越えられる力となるはずだ」

 

 デュークモンが光に解けながら、そのデジタルコードが私たちを包み込んでいく。

 

「これが、セリカをまもるちから…」

 

「私とギルモンが、一緒に戦うための力……」

 

 感じる。ギルモンの心が。私のことを大切な友達と想ってくれる気持ちが私に伝わってくる。

 

「ギルモンもかんじるよ。セリカがギルモンのことをたいせつなともだちっておもうきもち!」

 

 デジタルコードに包まれる私たちの心がひとつになっていく、私がギルモンに、ギルモンが私になっていく。

 

  MATRIX

 EVOLUTION_

 

「マトリックス――エヴォリューション!!」

 

 私はデジヴァイスを掲げて叫ぶ。

 

 デジヴァイスから溢れる太陽の様に温かい光を、胸に抱き締める。身体の中から力が沸き上がってくる!!

 

「ギルモン進化――!」

 

 ギルモンと私の身体が、心が、ひとつになる!

 

 完全体をスッ飛ばして、私たちはひとりの聖騎士に進化する! その名は――!!

 

「デュークモン!!」

 

 光が晴れ、目前に迫る火炎を左腕の聖盾――『イージス』で受け止める。

 

「我がテイマーを傷つけるに飽きたらず、我が友、グラニをも傷つけた罪。その身をもって贖え、ダークティラノモン!」

 

『ギルモンを、グラニを傷つけたあなたを、私は赦さない。恨むなら、私たちを襲った自分自身を恨みなさい!!』

 

 右手に聖槍――『グラム』を展開して、私たちはダークティラノモンに突っ込む!

 

「《ファイヤーブラスト》!!」

 

 ダークティラノモンが、口から強烈な火炎を吐き出してくるけど、そんな攻撃は私たちには通用しない!!

 

『うぅぅ、あああああああ!!!!』

 

「《ロイヤルセーバー》!!」

 

 グラムに聖なる光が宿って、光の槍となって私たちを焼き尽くさんとする火炎を真っ二つに切り裂く!

 

『行くよギルモン!!』

 

「その身を冒されし、漆黒の邪竜よ。我が聖なる光にて浄化してくれよう!」

 

 左腕の聖盾に聖なる力が宿り、高まっていく。

 

『「《ファイナル・エリシオン》!!」』

 

 私とギルモンの心がひとつになって、デュークモンの盾からすべての邪悪を浄化する聖なる光の奔流が放たれる。

 

「ギュアアアアアアアア――!!!!」

 

 ウィルス種であり、更にいくら強かろうが成熟期と究極体。

 

 ダークティラノモンは聖なる光の前に無抵抗で呑まれていった。

 

 光が消えたあとにはダークティラノモンの姿はなくなっていた。

 

「グラニ!」

 

『大丈夫!? グラニ』

 

 私たちはグラニに駆け寄ると、岩をどかしてグラニを救い出す。

 

「キュアアア!!」

 

 グラニは元気そうに一鳴きすると、それをアピールするように空中を飛び回ると、私たちに背中を差し出す様に止まった。

 

「グラニ…」

 

『行こうギルモン。少し疲れちゃった』

 

「ああ。行くぞグラニ!」

 

 デュークモンが跳び上がってグラニの背に乗ると、グラニは空高くへと飛び上がって、工場の方へ飛んでいく。

 

 温かい光の中で、私はギルモンの存在を感じながら、いつの間にか眠りについてしまった。

 

 

 

 

to be continued…




デュークモン
究極体 ウィルス種

 数少ないウィルス種の聖騎士型デジモン。ウィルス種としての力を制御したギルモンの究極体の姿。ロイヤルナイツに名を連ねるデジモンであり、その力の強さから四騎士の1体に数えられている。究極体デジモンとして様々な姿を持つ珍しいデジモンであり、闇の力に目覚めた『カオスデュークモン』、魔法の力を使う『メディーバルデュークモン』、X抗体によって進化する『デュークモンX抗体』、すべての力を解放する『デュークモン・クリムゾンモード』といった複数の姿が存在する。必殺技は聖盾からすべてを浄化する聖なる光を放つ『ファイナル・エリシオン』と聖槍から聖なる力を纏って突きを放つ『ロイヤルセーバー』である。

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