あとタケルきゅんはヒカリちゃんと合わせてとってもかぁいいと思います。
デビドラモンの背に乗ってムゲンマウンテンに向かうおれとタケルくん。
こう個人で話せる機会は大所帯故にあまりないだろうと、今のうちに会話を楽しみたかったのだが。意外な事に、タケルくんから率先しておれに話し掛けてくれた。
「有音さんはどんなところに住んでたの?」
「おれは埼玉県の田舎に住んでたよ」
とか――。
「有音さんはどんな食べ物が好きなの?」
「うーん、色々と好きだけど、ラーメンとかスパゲッティとか蕎麦にうどん。麺類が結構好きかな」
とか――。
「ええっ!? 有音さん、ひとりでお洗濯もの出来るの!?」
「洗濯物を洗濯機に入れて、洗剤入れてあとは回して、干すだけだから。タケルくんにだって直ぐ出来るようになるよ」
とか。タケルくんは何でもおれのことを知ろうとするように様々なことをおれに聞いてくる。見合い相手のことを積極的に知ろうとするお相方さんですかってくらいに質問攻めにされた。
「有音さんは、戦うのが恐くないの?」
「……恐いさ」
タケルくんの質問に、おれは偽りもない自分の心境を語った。おれだって万能人間や、主人公でもなければ勇者でもない。ただの人間だ。
「でも、戦わなかったら、今のおれはここに居ない。アグモンもおれも、クワガーモンにやられていた」
おれのことを、勇気を振り絞って助けてくれたアグモン。そんなアグモンを助けるためにがむしゃらにクワガーモンを殴ったのが、すべての始まりだった。
デジソウルが使えることがわかった。デジソウルでアグモンと一緒に戦えることがわかった。
デジソウルがあるから、おれは戦うことが出来るんだ。
「戦う力があって、仲間が傷つけられたら、男は黙っちゃいられないんだ」
タンクモンにクロを傷つけられた時、もう恐いだとかそんな事は関係なかった。我慢の限界だった。
力があるのに、仲間が傷つけられても黙っているなんて、そんなの男じゃない。
「困っているやつがいたら、迷わず助ける。それが男ってものさ」
現実世界でもそうだ。困っている人が目についたなら、おれは迷わず助けに出だ。困っている人が居たときは、損得なしに助けるのが、カッコいい男だと、母さんに言われて育ったからだ。
だからグレイモンに追っかけ回されていた芹香とギルモンを助けたんだ。
「男は、背中に守るものがあるなら、一歩も退いちゃならないんだ。それが男の務めなんだ」
これは父さんの言葉だった。風邪を引いて、普通だったら休まなきゃならないのに仕事に出ていった父さんに、小さい頃言われた言葉だった。風邪拗らせて3日ぐらいグロッキーでカッコ悪かったけど、その言葉を言った時の父さんの背中はマジカッコ良かったのを、今でも覚えてる。
だからデビドラモンやメガドラモン、ギガドラモンとでも、対応をひとつでも間違えたら死んでしまう様な戦いでも、恐くても臆せず前に出て戦えたんだ。
「……ぼく、いつもお兄ちゃんやみんなに守って貰ってばっかりだった。パタモンが居なかったら、デビモンにやられちゃってた」
腰に回るタケルくんの腕に力が入る。背中に当たるタケルくんの身体が震えている。
無理もない。小学2年生の子供が、あわや死ぬ思いをしたのだから、それを思い出すだけで辛くなるのは当たり前だ。
「……だからぼくは、強くなりたい。ぼくも、有音さんみたいに強くなりたい」
強く、か。今でもタケルくんは十分強いと思う。身体は震えていても、泣くようなことはしないだけで、恐さに立ち向かっている立派な男の子だ。
「ぼく、なれるかな? 有音さんみたいに、強くなれるかな……」
「なれるさ」
不安そうに、消え入りそうなタケルくんの声に、おれはタケルくんの小さな手にさ自分の手を重ねながら言い切った。
「タケルくんも男の子だ。男の子は何時か、戦わなくちゃならない時が絶対に来る。その時に立ち向かえる勇気を、タケルくんは持っている。だから焦らずに強くなっていけば良い」
焦って強くなっても意味がない。タケルくんはまだまだ子供だから。まだまだ経験すべき事が山程ある。それをひとつひとつ乗り越えていけば、タケルくんは間違いなく一人前の漢になっているはずだ。
「だから今は甘えたって良いんだ。守られても良いんだ。その分、いざって時に漢を見せれば良いんだ」
「有音さん……」
今は居ないけど、ヒカリちゃんが旅の仲間に加わった時は、同い年のタケルくんが、ヒカリちゃんを守ってあげることもある。だから今は焦る必要もない。
守られていた分、誰かを守れる男の子になれば良いのさ。
◇◇◇◇◇
タケルくんを連れてムゲンマウンテンに向かった有音君。
パソコンに向かっている光子郎君以外はみんな暇になってしまった。
「光子郎はん。そろそろ休憩してもええんちゃいますか?」
「いや、あともう少しだけ。そうすればここの工場の生産ラインが使える様になるはず」
有音君たちがムゲンマウンテンに向かって6時間。
もう夕方だった。はじまりの街でロコモンの客車で一夜ぐっすり眠ったとはいえ、6時間ぶっ続けでパソコンに向かっているのは目が悪くなっちゃう。
「光子郎君。テントモンの言う通り、ちょっと休もうよ」
「はい。でももう少し……」
返事は返してくれるけど、休んではくれない光子郎君。
「あっ、ちょっと、返してくださいよ…!」
「ダーメ。もう6時間もパソコンに向かってるんだよ? お姉さんの権限でパソコンはちょっと取り上げます」
私は光子郎君の手からパソコンを取り上げると、プログラミングの途中だったメモ帳を保存して、スタートからパソコンを終了させて電源を切る。
正しい終了操作をしているから、光子郎君は何も言ってこないけど、少し不満そうではある。
確かに光子郎君がやっている事の重要性。光子郎君にしか出来ないことだから、責任を感じて頑張るのもわかるけど。
「だからですよ。僕は有音さんに頼まれたんです。僕にしか出来ないから。戦う事が出来ないなら、せめて出来ることをしたい。それだけなんです」
タケルくんもそうだけど、光子郎君も、有音君と関わって、少しだけ変わってきている。
でも、有音君に頼まれたなら、なおさら無理しちゃいけないよ。それで光子郎君が体調を崩したりしたら、有音君は自分の事を責める。
「それは…、僕が勝手にそうなっているだけで」
「有音君は優しすぎるから」
自分は平気で無茶も無理もするのに、私たちには無理も無茶もするなって言うタイプだと思う。
タイプじゃないね。大人だから、子供たちに無理も無茶もなるべくして欲しくないんだろうなぁ。それは大人の役目だって、意識無意識関係なく思っていそう。
「だから、無理はしないで、適度に休んで。少しずつ有音君の頼まれた事をしよう?」
「…ですが、それでは時間が」
「長々やるよりも、短い時間で一極集中の方が、人間の集中力は凄いんだってさ。長々やってミスしても、そのミスを探すのも大変でしょ?」
私はそう言いながら、パソコンを光子郎君に返した。
「だから今は休んで、ご飯食べよ? それからまた少し休んだら、パソコン使っても良いよ」
「…わかりました。どうやら僕は少し舞い上がっていたみたいです。でも、それで自分の事を蔑ろにしては、有音さんに怒られてしまいますよね」
「光子郎君の気持ちは、私もわかるよ。……私もそうだから」
デジヴァイスを出して見つめながら、私は呟いた。
カードの力を使って、有音君やギルモンと一緒に戦えるのは私だけだから。
カードを切る時に、このカードが少しでも有音君の役に立てると思うだけで、私も嬉しくなるから。
◇◇◇◇◇
ムゲンマウンテンの麓。場所はオーバーデル墓地が見える近く。
坑道の入り口にはメカノリモンが待っていた。
「オ待チシテオリマシタ」
メカノリモンはメカメカしい電子音声でおれたちを迎えてくれた。こいつは自律起動しているタイプらしい。
メカノリモンは中に他のデジモンが乗って動かす、その名の通りのデジモンだが、デジモンはデジモン。自分で動くタイプだって存在する。
「アンドロモンカラオ話ハ伺ッテイマス。シカシ今ハアマリクロンデジゾイト鉱石ガ手ニ入ラナイノデ、ゴ期待ニ添エルカワカリマセンガ」
「どういう事なんだ?」
「新シイ坑道ヲ掘ルノニ人手ヲ取ラレテイテ、シカシソノ坑道ヲ硬イ岩ニ阻マレテ先ニ進メナイノデス。ソノ先ニカナリノ鉱脈ガアルノデ、他ノ作業ヲ中断シテ掘リ進ンデイタ為ニ、鉱石ノ蓄エガナイノデス」
と言う説明をメカノリモンがしてくれた。
船は頑丈に造りたい為、クロンデジゾイドをケチる様な事はしたくない。
「どうするの? アニキ」
「う~む。メカノリモン、おれたちをその坑道に連れていってくれ」
「ワカリマシタ。コチラデス」
取り敢えずどんな風に岩が足止めしているのか見てみたくて、おれはメカノリモンに頼んで坑道の中に入る事にした。
坑道とあって、手動式のトロッコが設置されていた。
デビドラモンやガードロモンには入り口で待ってもらい、メカノリモンがキコキコと手動でトロッコを動かし、おれたちは荷台に乗って坑道を行く。
「コチラニナリマス」
「こらまた硬そうな岩だなオイ」
「おっきいねぇ……」
案内された坑道の先。色々と試行錯誤したのか、岩の表面は傷ついたり焦げたりはしていたが、まったくびくともしなかったのだろう。
「普段ナラ、ドリモゲモンニ頼ンデ迂回路ヲ掘ルナリ、コノ岩ヲ砕イテ貰ウ事モ出来ルノデスガ、今ハ行方不明デシテ」
「なるほどな」
そのドリモゲモンはデビモンによってコンビニを守っているのだろうか。まぁ、その辺りの詮索は後回しで。
「アンドロモンには頼まないのか?」
「アンドロモンハ、工場ノ管理ヤ守リガアリマスカラ」
「う~ん…」
結構硬そうなのは触ってわかるが、アンドロモンが居ればたぶん苦もなくぶち壊せそうな気がする。
「ちなみにこの奥とかどうなってるんだ? 叩いてる感じ、向こうに手応えが無いんだけど」
「コノ先ハ自然ノ空洞ニナッテイマス。コノ岩ヲ壊セレバ、先ニ進メマス」
つまりもう壊すだけで良いわけか。
「メカノリモン、この岩の重心は何処か教えてくれ」
「ピピッ、少シオ待チ下サイ。今調ベテイマス」
「どうするの?」
メカノリモンに岩の重心を訊くおれに、パタモンが声を掛けてきた。
「決まってるさ。この岩をブチ壊すんだよ」
「でもどうやって? まさか殴って壊すわけじゃないよね?」
「なーに言ってるんだよパタモン。おれがブチ壊す術なんてそれしかないだろ」
アルファブレイドでぶっ叩いても良いが、多分おれの拳で行けそうな気がする。
「そ、そんなの無茶だよ!」
おれの言葉を聞いたタケルくんがそう言うが。
「無茶なんて言って諦めるのは早いぜ、タケル。やってみなきゃわからないだろ? それに――」
「ピピッ、ココガ、コノ岩ノ重心デス」
メカノリモンがレンズからレーザーサイトで指定してくれた場所は、まったく傷も焦げもない部分だった。おれの頭の少し上。ジャンプして一応は届く場所で良かった。
助走をするために少し下がり、デジソウルを右手に練り上げて拳を作る。多分結構な反発はあるだろうが、必ずぶち破ってみせる。だからおれは無茶だと言ったタケルくんにこの言葉を送ろう。
「そんな道理、男の無理で抉じ開けるッ!!」
十分な助走をつけて、デジソウルの纏った拳を岩に打ち込んだ。
デジソウルを纏った拳は、硬い岩に亀裂を入れ、それが岩全体に伝播して、そこに追い撃ちにもう一撃叩き込むと、岩は瓦礫が崩れる様にばらばらになって砕け散った。
「ふぅ…。ちょいと手強かったな」
衝撃で少し手首の痛い手をぷらぷら振りながら、おれはみんなに振り返った。
「ほら、みんな動け動け。早いとこクロンデジゾイト鉱石を持ち帰らないとならないんだからな」
「ア、アニキ、すげぇ…!」
「…か、カッコいい……」
「…むちゃくちゃだよ……」
「感謝シマス」
コロモンとタケルくんの讚美を受け、パタモンの飽きれ声とメカノリモンの礼を耳に、おれたちは前に進んだ。
岩の先は天然的な穴の道で、それをメカノリモンたちがレーザーなりその鉄の爪なりで掘り進んで行く。同時にトロッコ用の線路も設置されて、掘った泥等が外に運ばれていくのを横目に、昼飯のおにぎりを食べる。案内を担当してくれるメカノリモンが大きな手を組んで屋根代わりにしてくれているので、土が降ってくるとかと言うのは気にしなくて済んでいる。
昼飯を食った後、掘りきれた坑道を進むと、かなりデカイ空間に出た。
「広いな。上が見えない」
「うぅ……」
おれが天井の見えない上を見ていると、タケルくんの声が聞こえて振り向くと、タケルくんは肩を抱いて震えていた。
「どうしたのタケル?」
「ここ……いやだ、恐い……」
何やら普通でない様子のタケルくんを心配するパタモン。
「大丈夫か、タケル――ッ!?」
タケルくんに声を掛けようとして、凄まじい殺気を感じて、パラディンソードを抜きながら振り向きながら剣を振るうと、何かに受け止められた。
「くっ、なにもんだ!!」
「…選ば…れシ……子供、コロ…す……」
暗闇に不気味に揺らめく複眼。メカノリモンがライトでその姿を照らし出した時、おれは少なからず動揺した。
「ネ、ネオデビモンだと!?」
「デ、デビモンだって!?」
おれが見破った敵の名前に、パタモンがおどろきの声を上げた。
ネオデビモンは完全体の堕天使デジモンで、人工的に強化されたデビモンだ。その力を制御する為に仮面を着けており 感情も意思もコントロールされているという。
「…選ばれシ…子供…コロ…す……」
「コイツからデビモンの気配を感じる。亡霊となって復活したか。しぶといヤツめ」
ブイモンがネオデビモンがただのネオデビモンでないことを指摘する。
まさかエンジェモンとマグナモンの聖なる光でも浄化しきれなかったとでも言うのか!?いったいどんな執念だよ。
「ぐっ、あああっ!!」
「アニキ!」
パラディンソードを受け止められていたおれは、刃を掴まれて、剣ごと投げ飛ばされて壁に激突した。
「…選ばれ、シ…子供、コ、ロス……」
ネオデビモンの性質か、怨念か執念の所為か、同じことを繰り返しながら、ネオデビモンはタケルくんに手を伸ばす。
タケルくんは身体を震わせて、目を見開きながら動かないでその場に立ち竦む。
「タケル、逃げて!」
パタモンがネオデビモンとタケルくんの間に割って入る。
「《エアーショット》!!」
パタモンがタケルくんを守るためにネオデビモンを攻撃するが、ネオデビモンは気にした様子もなく、タケルくんに手を伸ばす。
「《ブイモンヘッド》!!」
「ぐ……っ」
ブイモンの攻撃を腹に無防備に受けたネオデビモンが呻いて数歩後ずさるが、効いている様子は今一だ。
「「「「「《トゥインクルビーム》!!」」」」」
10体近く居るメカノリモンたちがネオデビモンに向けて、身体の動きを阻害するビームを放つが、僅かに動きが止まるだけで、タケルくんヘと向かっていく。
「タケル、逃げろ!!」
「…やだぁ、助けて……助けて、お兄ちゃん…っ」
デビモンに殺されかけたのが完全にトラウマになってしまっているらしい。
「くっ……!」
おれも直ぐに駆けつけたいが、背中を強打した痛みが立ち上がるのを邪魔する。
「タケル! しっかりしてタケル!」
相手がデビモンなら、自分の力が必要だと思うパタモンは、進化する為に必死にタケルくんに声をかけるが、戦意を喪失しているタケルのデジヴァイスはまったく光を見せない。
「《ブイモンヘッド》!!」
「「「「「《トゥインクルビーム》!!」」」」」
ブイモンがまたネオデビモンを僅かに押し返し、そこにメカノリモンたちがビームを撃ち込むが、明らかにジリ貧だ。
「《ギルティクロウ》!!」
だがやられっぱなしのネオデビモンではなかった。
その腕を振るうと、伸びる腕がメカノリモンたちを凪ぎ払っていく。
「アアアアアーーー!!」
「ピピピピガガガガガ」
「ギ…ギギ……」
完全体と成熟期ではパワーの差はどうしようもない。為す術なくメカノリモンたちが吹き飛ばされる。
「あっ……ああ……」
「どうしたんだよタケル!! みんながやられてるのに、どうして進化させてくれないんだよ!!」
今のタケルくんに何を言ってもダメだ。完全に怯えて、戦える状態じゃない。
「ぷぅ!!」
そんなタケルくんの前に出て、コロモンがネオデビモンに向けて泡を吹いた。
「選ばれシ…子供…コロ…す」
だが完全体に泡なんて効く筈がない。ネオデビモンは止まることなくタケルくんに向かっていく。
「なにやってるコロモン! お前じゃ無理だ!」
「くそっ、マグナモンに進化さえ出来ればこの様なデジモンごとき!」
またネオデビモンに頭突きでその歩みを遅らせるブイモン。おれも先程からブイモンをマグナモンにしたいと思っているのに、奇跡のデジメンタルはまったく反応を示さない。
「オイラは逃げない。オイラはタケルを守る!!」
コロモンの身体がデジソウルに包まれていく。
「コロモン進化――アグモン!!」
コロモンから進化したアグモンだったが、その姿は少し変わっていた。
身体が一回り以上に大きくなっているのだ。今までタケルくんと同じくらいの身長だったのに、今は多分おれよりも大きいんじゃないか。
「オイラも男だ! 男なら、背中に守るものがあるなら退いちゃいけないって言ったのはアニキだろ!!」
「アグモン……。ぐっ、っぇぇああああ!!」
アグモンの言葉を受けたおれは、寝ている場合じゃないと、パラディンソードを杖に立ち上がる。
「アニキぃー!」
「そうだな。男なら、これくらいでへばるわけにはいかないよな!!」
「その意気だぜアニキ!」
アグモンの姿に励まされたおれは、ネオデビモンを睨み付けながら駆け出した。
「亡霊は亡霊らしく、大人しく墓の中で眠っていやがれええええ!!!!」
おれの声にネオデビモンが此方を振り向くが、動きがトロ過ぎる!!
「おおうるああああああーーーーっ!!!!」
「グォ、ガアアアアア!!」
助走をつけて跳び上がり、そのへんちくりんな仮面を着けた顔面を、おれは拳を振り抜いて打ち抜く!
おれの拳を受けたネオデビモンは、呻き声を上げながら後ずさる。まだだ、もう一発!!
「今のはメカノリモンたちの分。そしてこれが――」
仰け反っていたネオデビモンの顔が元に戻るのに合わせてもう一度拳を振るう。
「お前にトラウマ植えつけられた、タケルの分だああああああ!!!!」
「グゥ、オオオオアアア……!」
渾身の力で振り抜いた拳は、ネオデビモンの身体を宙に浮かせて、壁際まで吹き飛ばした。
「アニキカッコいい!!」
そんなアグモンの讚美を受けながら、おれは振り向く。
「待たせたな、アグモン! 今度はお前の番だ!!」
「おーっ! オイラもアニキみたいにやってみせる!!」
力強く、この空間の暗闇を照らすデジソウルを、おれは全身から練り上げて右手に集める。
「デジソウル――フル、チャージ!!」
「アグモン進化――ライズグレイモン!!」
おれのデジヴァイスから放たれた光に包まれて、アグモンは一気にライズグレイモンへと進化した。
「遠慮は要らねぇ、思いっきりブチかませ!!」
「おう! アニキとオレの力、存分に味わえデビモン!!」
ライズグレイモンの胸と、翼の二つのリニアレンズに光が集中し、暗闇を更に照らし出して行く。
「ウオォォォォ……!」
ネオデビモンが起き上がりながら、ライズグレイモンに向かっていくが、やはりその動きは俊敏とは言えない。
光が収束し、ライズグレイモンが小さな太陽となって、完全に暗闇を照らし出しだ。
「《ライジングデストロイヤー》!!」
ライズグレイモンが溜め込んだ光が、ネオデビモンに向かって解き放たれた。
「ウォォォォォアアアアアア――――!!!!」
すべての闇を焼き尽くす様な光の奔流が、ネオデビモンの身体を削り飛ばしていく。
光はネオデビモンを呑み込み、その勢いは止まらずに壁を貫いて行った。
光が止むと、地上まで撃ち抜いたのか、眩しい太陽の光が射し込んでくる。
その光が、神々しくライズグレイモンを照らし出した。
「やったぜ、アニキ!!」
「おう! やったな、ライズグレイモン!!」
生身の右手を握って突き出すライズグレイモンに、おれも右手でまだデジソウルが光っている拳を打ち付け合う。
「フッ、ハハハハ、アハハハハハハ!!」
「グフッ、ガハハハハハハハ!!」
互いの勝利と健闘を讃えて、おれたちは笑い合った。なんか良いよな、こういうの。
「有音さん……ぼく、……ぼく」
笑い合うおれたちに、タケルくんが俯いて震えながら声をかけてきた。
「タケル……」
「ッ、ぼく…っ!!」
悲痛に叫ぶタケルくんの小さな身体を、おれは強く抱き締めた。
「恐くたって良いんだ。泣きたいときは泣けば良いんだ。心に溜めるくらいなら、そんな思い吐き出してスッキリすれば良いんだ。それは決して、恥ずかしい事じゃないんだから」
「うっ、ぅぅっ……、うわああああああああーーーーんっっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃっ」
おれは大声で泣き出したタケルくんをあやしたりすることなく、その涙を受け止めた。今はあやしたり安心させる時じゃない。
目一杯泣いて、泣き尽くして、心に溜めたものを吐き出すときだ。
そんなおれたちの様子を、太陽に照らし出されたライズグレイモンが見守ってくれた。
to be continued…
ネオデビモン
完全体 ウィルス種
デビモンが人工的に強化された完全体デジモン。個体の意思までも完全に制御されている為、感情もなくただ命令のままに動く。必殺技はデスクロウの強化版『ギルティクロウ』。
デビモンの怨念が形となって有音たちの前に現れたが、不完全な力しか甦らなかった為、完全体としてはパワーもスピードも平均以下である。それでも完全体としてメカノリモンの攻撃でも止めることは出来なかったが、アグモンから進化したライズグレイモンによって今度こそ消滅した。