ロコモンに揺られながら、子供たちが色々と寛いでいるのを背中に。隅っこにあるバーカウンターでこっそりグラスにウィスキーを注いでちびちびと飲んでいた。
なんでそんなことをしているのかと言えば、おれの体格で酒飲むと色々と周りが煩いからな。
酒を買いにいけば一々身分証明書必要だし、タバコは喫煙所でも吸えないしわで、この身体は子供たちと仲良くなるには早いんだけど、大人の世界で生きるには少し不便だ。仕事でも少し高い場所にあるある物を取るのにだって一々脚立使わなきゃならなかったし。
だから馴染みの店じゃないと酒飲んだりタバコも吸えなかった。
まぁ、デジタルワールドに来てからこっち、ゆっくり酒飲む暇なんて無かったし、静かにちびちびとやりますかね。タバコは……我慢するか。臭いが誤魔化せないし。
「ひとりでどうしたの? 有音君」
「芹香か」
スッとウィスキーの瓶を隠す。コップは丁度空だ。
「あー、お酒飲んでる。ダメだよ~? 未成年者がお酒飲んじゃ」
スンスンと匂いを嗅ぐ様に目を閉じて鼻を澄ませる芹香にバレちまった。
「別に。お酒飲んじゃダメな年齢でもないし」
「そんなことないでしょ? 私より年下なんだし」
そういえば芹香に実年齢話してなかったな。まぁ、芹香から見たら年下に見えるんだろうな。
「おれは成人しているぞ。こんな成りだけど」
「またまたぁ。有音君どう頑張っても中学生でしょ?」
ふむ。信じては貰えないか。
おれはカウンターテーブルに置いてある鞄から財布を出すと、保健所と免許証をだした。
「え? これ、モノホン……?」
「本物に決まってるでしょ。なに言ってるんだか」
バレちまったものは仕方がない。普通にウィスキーを注いで、またちびちびと口を着けた。
「え? え? え? ええ? えええ――むぐっ」
「うるさくなる前に静かにしなさい」
おれは叫びそうな芹香の口、上唇に人差し指を当てて黙らせた。
「ぷはぁっ。ででで、でっ、でっ、でっ、でも…!」
なんかかなり面白い反応を見せてくれるな。みんな結構、ふーんとか、え? あ、そうなの、ってくらいにしか反応されたことないのに。
「あまりあの子たちに頼られても困るからな。今のままで丁度良い」
まぁ、年齢云々はおれは気にしてないし、下手に畏まれても調子狂うし、なんか嫌だし。
「だから芹香も、今まで通り接して欲しい」
「あ、え、あ、う、うん」
ちょっと呆け気味だったけど、多分大丈夫かな?
◇◇◇◇◇
拝啓。現実世界で元気にしていると思うお母様。今日はもう一年で最大のビックリなニュースです、
年下だと思っていた男の子が、実は年上の男の人でした。
な、何を言っているのか自分でもわからないけど、嘘とか詐欺だとかそんなチャチなことじゃない。もっと恐ろしい物の鱗片を垣間見たよ。
「な、なんで黙ってたの…です、か? アイタッ!!」
「いつも通りで良いって言ったでしょうが」
ちょっとお酒が入ってほんのりと頬を朱くして、視線だけを私に流す有音君は少し色っぽい。
うぅっ…、だからって 、デジソウルのデコぴんはすごく痛いです。
「まぁ、聞かれてないからね」
そう言えばそうだったかもしれないけどさ。
「折角太一たちと冒険出来るんだ。変な線引きされるより同い年の友達みたいに仲良くしたいじゃんかよ……」
うーん。そういう理由があるなら、有音君の事は太一君たちには内緒の方が良いのかな?
「そういえば、芹香はアーマー体のデジモンは知ってる?」
「02のデジモンなら…」
いきなり話を移されたけど、有音君の真面目な雰囲気に私も真面目に答える。
「んーっ、ティロモンって知ってるか? アーマー体でサメみたいなデジモンなんだけど」
アーマー体は私はそこまで詳しいわけじゃないから、私は首を横に振った。でもそのデジモンがどうかしたの?
「船のデザインに使おうと思ったんだけどさ。そうだ! イチバチだ。芹香のDアーク貸してくれないか?」
「う、うん。良いけど」
有音君は私のデジヴァイスを受け取ると、神経を集中する様に瞳を閉じて深呼吸する。そして両手にデジソウルが生まれる。
すると私がカードをスラッシュ時みたいに、有音君の目の前にくるくるとカードの形をした光が現れて回っている。
「良し、成功だな。サンキュ、芹香」
「あっ、うん」
デジタルモンスターカードを人差し指と中指で挟む有音君。絵柄はティロモン。テイルモンが誠実のデジメンタルで進化するデジモンらしい。
確かにサメっぽいデジモンだ。鋭角的で戦闘機みたいに見えるけど。
有音君からデジヴァイスを返して貰うと、有音君は光子郎君のもとに向かっていった。
「暖かいなぁ……」
まだ少しだけ有音君のデジソウルが残っていた私のデジヴァイス。それを手で握っているだけで、人肌に触れている様に暖かかった。
有音君があんなにしっかりものなのは、当たり前のことだった。私より年上なんだもの。
私より5つ年下ですと言われた方が見た目はしっくり来るけどね。私より5つ年上なんて詐欺だよ。
光子郎君とカードの絵柄を確認しながら楽しそうに、それでいて真剣に話す有音君の姿は、カードゲームの話で盛り上がる友達との会話に見えた。
身体は子供、頭脳は大人か。
戦っている有音君がカッコいい理由が、わかった気がした。
一番の歳上として、身体を張って戦って、私たちを守ってくれるんだもの。カッコよくて当たり前じゃんか。
◇◇◇◇◇
光子郎君と、造る予定の船についてのデザインや設計を煮詰めていく間に、ロコモンは迷わずの森と始まりの街を抜け、ミハラシ山の麓を抜け、ギアサバンナエリアの端、ファクトリアルタウンへと到着した。
ロコモンに別れを告げて、ファクトリアルタウンに入る。
工場の街とあって、様々なデジモンたちが露天や店を構えて機械関係の物を売り買いしていた。
「こんなにデジモンたちがいっぱい……」
「以前来た時はアンドロモンの居た工場にしか行きませんでしたからね」
デジモンたちの多さに、ミミちゃんが若干引き気味だった。そこに光子郎君が付け足す。街側は見ずにそのまま下水道を歩いていったんだっけか? アニメのまま進んだなら。
たくさんのデジモンたちで、街は賑わっているけれど、視線がめちゃくちゃ集まってくる。
デジタルワールドじゃ人間なんて先ず存在しないから珍しいんだろう。
ただ、デビドラモンが一緒に居る所為か、歩いていても話し掛けられることはないし、勝手に進みたい方向の道を開けてくれるから助かるけど。
「あ゛~~、ぎぼぢわるぃぃ……」
久しぶりに酒飲んだ所為か。それとも微妙に揺れるロコモンで酒飲んだ所為か、今のおれはグロッキー状態でデビドラモンの背中に仰向けで横になっていた。蒼い空に光る太陽が眩しいぜ。
「有音さん、大丈夫?」
「ああ。心配してくれてありがとう、タケルくん」
タケルくんの優しさに心を打たれながら、おれは返事を返した。
「アニキ、アニキ、でっかい建物が見えてきたよ!」
「んぁぁぁ……」
おれの頭の上で騒ぐコロモン。寝返りを打ってうつ伏せになると、前の方にガードロモンが立つ入り口が見えてきた。その向こうには巨大な工場が軒を連ねていた。
「あのデジモンは、以前は居なかったですね。しかも見たことがない」
「あれはガードロモンだ」
「ガードロモン?」
おれは光子郎君とタケルくんの疑問に答える為に口を開く。
「マシーン型ウィルス種の成熟期デジモンで、必殺技は腕からホイッスルを吹きながら飛んでくるミサイル、『ディストラクショングレネード』。ガードメカだからめちゃくちゃ硬くて、進化するとアンドロモンになる」
「なるほど。だとするとアンドロモンが用意した見張りでしょうか?」
「多分ね。取り敢えず話し掛けてみたら良いと思う。光子郎君たちの方がアンドロモンと面識があるなら取り合ってくれると思う」
「わかりました。ちょっと行ってきます」
メカに強い光子郎君がガードロモンに駆け寄っていくのを見送る。しかし気持ち悪いのが収まらないな。
「にしても良くそんなにデジモンの詳しい情報が出てくるな」
デビドラモンの背中から降りて胃の辺りを擦るおれに、ヤマトが声を掛けてきた。
「デジモンが好きで好きで仕方がなかったからね。勉強そっちのけで頭に叩き込みまくった結果さ」
「羨ましいな。僕は受験勉強の為に日々勉強漬けだから、有音さんみたいには他のことを勉強する余裕がないや」
「その分、丈君は勉強頑張ってるんだから、おれよりも頭良いよ絶対」
「でも、このデジモン世界じゃなんの役にも立たないよ」
深い溜め息を吐く丈君。確か親の方針で将来医者になるために、小学6年生だけど、受験してそういう中学校に通うんだっけか?
いやおれからすれば、小学生で受験勉強している時点で凄いと思うよ。
「みなさーん! ガードロモンがアンドロモンのもとまで案内してくれるそうです!」
交渉がうまくいったのか、光子郎君がおれたちに向かって叫ぶ。
おれはまたデビドラモンの背中に乗って、工場の中に入った。
ガードロモンに案内され、工場の中をどんどんと進み、コンソールとモニターが大量にある制御室にてアンドロモンがおれたちを待っていた。
「なるほど。話は了解した。デビモンの黒い歯車から救ってくれた件や、ファイル島を平和にしてもらった礼もある。この工場施設は好きに使ってくれ」
「ありがとうございます、アンドロモン」
事情を説明し、船を造る為にこの工場の施設の使用を求めたところ、アンドロモンは快く了承してくれた。光子郎君がその事に礼を言うあとに続いて口を開く。
「アンドロモン。船の材料にクロンデジゾイドを使いたいんだけど、大丈夫か?」
「残念ながら、クロンデジゾイドを精製するクロンデジゾイト鉱石があまりないので、ムゲンマウンテンの麓にある坑道から持って来なければならない」
「クロンデジゾイト鉱石があれば行けるってことだな。それなら取りに行くか」
どちらにしろ2、3日の時間はあるのだから、鉱石堀りもまた一興だろう。
「えー! ムゲンマウンテンに戻るのぉ~!?」
「仕方がないわよ。丈夫な船を造るにはそのクロン……なんでしたっけ?」
ミミちゃんを説得しようとした空ちゃんだったが、クロンデジゾイト鉱石のフルネームが言えなくて、恥ずかしそうにおれの方を向いてくる。
「クロンデジゾイト鉱石。クロンデジゾイドを造るのに必要な鉱石だ。この剣と鞘と手甲、メガドラモンやギガドラモン、ライズグレイモン、グラニの鉄の部分は全部クロンデジゾイド製で出来ているんだ」
「私のボディも、クロンデジゾイド製です」
クロンデジゾイドが何なのか軽く説明するおれに、アンドロモンが補足してくれた。
「言い出しっぺのおれと、あと誰かひとり欲しいけど」
光子郎君はここで今あるクロンデジゾイドで先に船を造ってもらうとして、戦闘になった時に備えてあとひとり誰が欲しかった。
「なら、ぼくが行っても良い?」
するとタケルくんが名乗り出てくれた。
「待てタケル! オレも行く」
「あ、いや、ごめんヤマト。デビドラモン的にそんなに定員乗らないから」
ムゲンマウンテンまではデビドラモンに乗せて行って貰うとして、帰りはクロンデジゾイト鉱石も持って帰るから、おれとコロモンとブイモン、それに誰かとパートナーデジモンで手一杯だろう。
「大丈夫だよお兄ちゃん。もうデビモンは居ないし、パタモンだって進化出来るし」
「でもな、タケル」
「大丈夫だよヤマト。タケルはボクが守るから」
「すぐ戻ってくるから。それに万が一はおれが命を懸けてタケルを守るから 」
タケルくんが申し出てくれたのは意外だったが、良い機会かと思って、タケルくんだけを連れていく説得をする。
「不本意だが。その時は私もタケルを守ってやろう」
「……わかった。タケルを、よろしく頼む」
まさかのブイモンからの援護もあり、ヤマトは手を握りしめながら引き下がった。
「よし。取り敢えず出発前に光子郎君に頼みたいことがあるんだけど、良い」
「はい、なんでしょうか」
おれは光子郎君に頼んで、光子郎君のPCのコピーを造って貰った。これがあれば、デジタルワールド内なら、ちょっと離れていてもデータ交換が出来る。相互通信アイテムがあれば、いざという時に連絡も出来るし。
「それじゃあ、行ってくるね。お兄ちゃん」
「…ああ、気をつけてな」
「護衛と荷物運びにガードロモンを着けよう。安心してムゲンマウンテンに向かってくれ」
「恩に着るよ、アンドロモン。そいじゃ、タケルくん。しっかり掴まっててな」
「わかりました!」
バイクに乗る様に、タケルくんの腕が腰に回るのを確認する。ちなみにコロモンとパタモンはおれの足の間に座っていて、ブイモンはタケルくんの後ろに座っている。
「じゃ、頼むぞデビドラモン」
「グルゥアアア!!」
デビドラモンが一吠えすると、その翼を羽撃かせて空に飛び上がった。そのあとを、5体のガードロモンがブースターを吹かして着いてくる。
前に3、後ろに2のフォーメーションの中心にデビドラモンが位置して、ガードロモンの先導でおれたちはムゲンマウンテンへと向かった。
to be continued…
ガードロモン
成熟期 ウィルス種
様々なウィルスから防衛目標を守るマシーン型デジモン。ウィルス種なのにやってる事は尽くワクチン種みたいな所為か、テイマーズではワクチン種扱いにされた変わったデジモンである。進化するとアンドロモンとなる。必殺技は腕からホイッスルを吹きながら飛んでくるメカミサイルを放つ『ディストラクショングレネード』だ。