最後のあとがきの反響も多く嬉しかったです。やっぱりデジモンとなれば、ナレーション(多分大人のタケル)の簡潔な紹介は必要だと思って、そうなるようにイメージして書いています。
今回も反響が大きそうですが、御優しくお願いします。
カタンコトンと揺れる音を楽しみながら、おれたちはロコモンの客車で思い思いの時を過ごしていた。
「わぁあ、歩くよりも全然速いよねーアニキ」
「そうだな。ロコモンが居てくれて助かったよ」
流れる景色を見ながら言うアグモンに、おれは壁際に寄りかかりながら答えた。
「アニキ、大丈夫?」
「ああ。少し疲れてるだけだから大丈夫」
メガドラモンと戦った時にアルファブレイドにありったけのデジソウルを注ぎ込んだせいか、かなり身体が気怠かった。
「次の停車駅はミハラシ山前~! ミハラシ山前~! 停車時間は35分を予定しております」
「35分って、随分止まるんだな」
「ロコモンは走ると空間の歪みを生んでしまうデジモンだから。駅で停車して、空間の歪みを抑えているのかもしれないわね」
ロコモンのアナウンスに疑問を持つ太一に、芹香が答えていた。ロコモンはテイマーズの映画に出てるから、その辺も詳しいみたいだ。このままデジモン博士の称号もそちらに渡したいもんだ。
「どうかしたのか? クロ」
「ナンデモナイ……」
おれを見ながら何処か上の空のクロに話し掛けるが、はぐらかされてしまった。クロにしては珍しいことだったからどうしたのか聞きたかったが、本人がなんでもないと言うなら引き下がる他はないか。
ロコモンは各駅で30分程の休憩をファクトリアルタウンを過ぎて、おもちゃの街のあるミスティツリーズを抜けてフリーズランドに差し掛かった。
◇◇◇◇
「外は吹雪いているのに、客車の中は暖かくて良かったわ」
「まったくだな。あの寒い雪の中をまた歩くのは懲り懲りだ」
空ちゃんの何気無い一言に、ヤマト君が染々と言ったように同意した。確かデビモンにバラバラにされた時にヤマト君と太一君はフリーズランドに落ちたんだっけ。
「それにしても、僕たちだけ貸し切りなんて、なんか悪いですね」
「良いじゃない。私たち物凄く頑張ったんだから!」
申し訳なさそうに言う光子郎君に、ミミちゃんが気にした様子もなく言う。
このロコモンには多くのデジモンが乗ってきている。客車を駅で増設しても足りないくらいですし詰め状態なのに、私たちだけは最後尾の客車でのんびりと過ごしていた。確かにそれを見るとちょっと申し訳無くなるが、すし詰めだけは勘弁願いたいのでミミちゃんに賛成です。
ポーッ!! ポーッ!! ポーッ!!ポーーーッ!!
「な、なんやなんや!?」
「なにかあったのかな?」
いきなり汽笛が鳴り響いて、何事かと辺りを見回すテントモンと太一君のアグモン。
「乗客の皆様。前方線路上に雪が山となって線路を塞いでいます。雪山に強行致しますので、乗客の皆様は手摺又は座席にしっかりとお掴まりください!」
そんなロコモンのアナウンスを聞いて、みんなが慌て始めた。
「そこは普通止まるもんじゃないのか~!?」
「丈! 速く座れってば!」
あり得ないと頭を抱える丈君に、ゴマモンが声を上げる。
「タケル、しっかり掴まってろ!」
「うん、大丈夫だよ!」
ロコモンが加速し出した。座席に身体が押されるのを感じながら、窓から外の様子を窺う。
かなり大きい雪山だ。ロコモンと同じくらいの大きさはありそうだけど、大丈夫なのかな?
「ロコモン進化――グランドロコモン!!」
するとロコモンが変形とにしか見えない様な進化を果たしてさらに加速した。
「《デストロイドクラッシュ》!!」
雪山に突っ込んだグランドロコモンは、その車体の前面にある巨大なスパイク車輪で雪山を粉砕して駆け抜けていく。
「ロコモンは確か、完全体でしたよね?」
「うん。今は進化して究極体のグランドロコモンになったけど」
「究極体……そんなに強いデジモンがファイル島に居たんですね」
私がロコモンのことを光子郎君に教えていたから、こっちに質問された。デジモンのレベルは有音君から聞いていたから、グランドロコモンがどれくらい強いか想像しているのかな。
「強いって、どれくらい強いんだ?」
「デビモンが成熟期のデジモンですから、究極体は成熟期よりも二段階上の進化。デビモンよりも強いと思います」
「ええ!? そんな強いデジモンが居るなら、僕たちが戦う理由なんてないじゃないか」
「逆にデビモンの黒い歯車に操られなくて良かったよ。さすがに究極体相手はおれにもどうにも出来そうにない」
確かに究極体デジモンならデビモンなんて相手じゃないかもしれないけど、あの完全体のアンドロモンやもんざえモンも黒い歯車に操られていたのだから、有音君の言うことも最もだと思う。
そしてフリーズランドで一時間休んで、グランドロコモンはロコモンに戻ると、グレートキャニオン、ダイノ古代境を抜けて、トロピカルジャングルに到着した。
◇◇◇◇◇
ここまで乗せてくれたロコモンに礼を言いながら、駅からクロに案内を頼んでおれたちはナイトモンの守る騎士の館に到着した。
まだこの館を出てから2日しか経っていないのに、もうそれが一昔前のことに感じる。
見張りをしていた白いポーンチェスモンたちがおれたちに気づいてナイトモンを呼び出してくれた。
「おお…。無事でなによりだ。デビモンを打ち倒した話は我々のもとにも届いている。よくぞこのファイル島に平和を取り戻してくれた。礼は尽くしても尽くしきれない。せめてもの礼に、今宵は館に泊まっていってくれ。豪華な夕食を用意させて貰おう」
「ありがとう、ナイトモン。実はこのブイモンから話があるんだ」
歓迎してくれるナイトモンに礼を言い、ブイモンに話を代わる。
「お初に御目にかかる、ナイトモン。私はロイヤルナイツ、マグナモン。今は退化してブイモンだが。我が友、ロードナイトモンが保管している物を取りに来た」
「……その話。信ずる証拠は?」
「宝物庫に入れて欲しい。我が友、ロードナイトモンならば、ロイヤルナイツでなければ開けられない仕掛け扉の向こうに、保管物を置いているはずだ」
「わかりました。ご案内致しましょう」
館を守るナイトモンとしては、見ず知らずのデジモンがロイヤルナイツの名前を出して来たのだから、警戒したのだろうが、ブイモンが微塵にも引腰でないのを見て本物のロイヤルナイツと認めたのか、緊張感のあった空気が軟化した。
「他の者は自由行動をしていてくれ、着いてくるのは我がテイマーだけお願いしたい」
「ちぇえ、宝物庫ってんだからなにかお宝でも見れるかなぁって思ったのに」
「止めなさいよ太一。私たちに見せたくないのなら、余程大切な物なのよきっと」
「でも俺たちは一緒に戦った仲間だろ? ちょっとくらい見せてくれてもバチは当たらないぜ?」
おれだけを連れていこうとするブイモンに、太一が不貞腐れると、空ちゃんがそれを咎める。
ブイモンはやれやれと言った風に溜め息を吐いた。
「私が認めたのは我がテイマー、桜木有音だけだ。君たち選ばれし子供たちを認めたわけではない。そこを履き違えないで貰おう」
「なんだと!?」
「これから私がテイマーに渡す物は、我が戦友の魂の宿る品。その様な邪な欲望まみれの視線で、我が戦友の魂を穢したくはないのでな」
心底嫌そうな視線を太一に向けるブイモン。なんかこの辺は騎士の高貴な価値観にも聞こえるけど、ブイモンの心の本心なんだろうな。
大切な仲間の大切な品物なんだろう。それをお宝を見るような欲の絡んだ目で見られたくないらしい。
「コイツ、言わせておけば…!」
「やめろよ太一。不純な理由で宝物庫に行こうとしたお前が悪い。でもブイモンも少し言い過ぎじゃないか? 確かにオレたちは未熟だけど、仲間じゃないか」
「仲間? フッ、デジモンたちだけを戦わせるしか出来ないお前たちが仲間? 笑わせる。私が仲間と思うのは、共に戦場を駆け馳せる戦友のみ! 共に戦い、血と涙を流し、苦楽を共に出来る者たちのみ! パートナーデジモンたちに言われるならばまだしも、見ているだけのテイマーに仲間とは言われたくはないな」
「なっ…」
ブイモンの言葉を受けて固まるヤマト。気持ちはわからなくもないけど、それは言い過ぎだ。
「自らの立場をわからせたまでだ。行こう、我がテイマー有音よ。ナイトモン、案内を」
「承知した」
先を歩くナイトモンの後ろにブイモンが続き、おれはブイモンの言葉を受けて固まるみんなに頭を下げてふたりの後を追った。
◇◇◇◇◇
「なんだよなんだよ!! 感じ悪いったらありゃしねぇ。ロイヤルナッツだかなんだか知らねぇが、あそこまで言うことないだろ!?」
食堂に案内された私たちだけど、太一君はかなり荒れていた。
「芹香さん、ロイヤルナイツってなんだかわかりますか?」
今は有音君が居ないから、有音君の次にデジモンに詳しい私に光子郎君が訊ねてきた。
私もロイヤルナイツに関しては表面的な事しか知らないんだけど、それだけで伝わるかな?
「私も詳しい訳じゃないんだけど」
そう前置きしたけど、みんなの視線が私に集中していて痛いです。
「ロイヤルナイツはデジタルワールドの秩序を守るために、インペリアルドラモン・パラディンフォームが組織した聖騎士デジモンで構成される騎士団のことなの」
私はそう言いながらみんなにカードを見せる。スラッシュは出来ないけど、見せる為だけならカードは出せるらしい。これファイリングすればデジモン辞典作れるかな?
私はインペリアルドラモン・パラディンフォームと、デュークモン、マグナモン、オメガモン、アルファモン、あとロードナイトモンとクレニアムモンのカードを出してみんなに見せた。
「私が知っているのはこのデジモンたちだけど、ロイヤルナイツのモデルが円卓の騎士だったから、もう少し居ると思う。多分有音君なら知っていると思うから、あとで聞いてみて」
「わかりました。でもマグナモン以外はすべて究極体デジモンで構成されているんですね。でもマグナモンのアーマー体というのは初めて聞きますね」
そうパソコンをタイピングしながら言う光子郎君の疑問に答える為に、私はブイモンと奇跡のデジメンタルのカードを出して並べると、その横にマグナモンを追加する。
「アーマー体デジモンって言うのは、デジメンタルって言う特殊なアイテムを使って進化出来るデジモンのことを言うの。強さは成熟期から完全体に迫る物まで様々だけど、マグナモンは数少ない究極体に匹敵するアーマー体デジモンなの」
「だから究極体ばかりのロイヤルナイツでも所属する事が出来ると言うわけですね」
「多分。ごめん、そこも有音君ならより詳しいとおもう」
「いいえ。これだけでも貴重な情報です。僕たちだけでは、その存在すら知ることは出来ませんでした。ありがとうございます」
私は十分な説明が出来たわけじゃないのに、そう言ってもらえると、社交辞令でも嬉しいかな。
「やっぱりそんな強いデジモンばっかりなら、僕たちが戦う理由なんてないんじゃ……」
「でもデビモンは、ロイヤルナイツは滅んだって言っていたわ。だからデビモンを止める役目を私たちがやることになったんじゃないかしら?」
丈君の言葉に、空ちゃんがデビモンの言葉を思い出したと言うように、自分の考察も入れて言葉にした。
そう。だから多分なにか理由があってファイル島の戦いにはやってこれなかった可能性もある。
「ブイモンはプライドの高いデジモンの様ですから、こんな強者揃いのロイヤルナイツに所属していたのなら、僕たちのことを仲間なんて思わないと言うのも仕方のないことかもしれません」
「だからって、今までデビモンと戦ってきたのは俺たちの方なんだぜ? 最後に横からしゃしゃり出てきたヤツにああも言われる筋合いはないね」
「では、あのメガドラモンを太一さんはひとりで倒せますか?」
「そりゃあ……その、なんだ……。グレイモンと一緒なら……多分」
光子郎君に言われて、急に勢いの無くなる太一君。さらに光子郎君はその太一君にトドメをさす様な映像を見せた。
私が見たかったから、グラニの映像データを光子郎君がパソコンに引っ張ってくれた映像なんだけど。
超高速で飛行するグラニの背に捕まっている有音君の必死の形相。それが如何に有音君が苦しい戦いをしていたかを私たちに教えてくれた。
そして大きな大剣を手に、グラニに自分が囮になるからユゴスブラスターを放つ様に言って、空中に身投げしてミサイルを横一文字に真っ二つにして、メガドラモンの金属製の右腕を三分割に切り裂いて、頭に大剣を降り下ろして、それを引き抜きながらまた空中に身を投げてメガドラモンに振り向く有音君の姿は、言葉がないほどカッコ良かった。
そしてそのまま一直線に地上に向かってスカイダイビングをする有音君と、後を追うグラニ。
有音君が黄金に光るデジヴァイスをエンジェモンに向け、空中で頭から落ちていた姿勢を一回転して足から落ちる体勢にしながら、デジヴァイスを掲げると、強烈な黄金の光がデジヴァイスから溢れてマグナモンが現れた。
確かにここまで出来てしまう。いや、やれなければ、ブイモンに認めて貰うのは難しそうだ。
映像が凄すぎてしまって、みんなしばらく声が出なかった。
私たち、ブイモンと上手くやっていけるのだろうか?
to be continued…
グランドロコモン
究極体 データ種
ロコモンが変形に見える進化をした究極体デジモン。ロコモン以上に速さを求めるデジモンである。ロコモンは線路の上しか走れないが、グランドロコモンに進化すると自分で線路を作りながら進める為、陸地であれば何処へでも行ける様になる。どの様な相手でも粉砕する超強力なパワーで車体前面にあるスパイク車輪で激突する必殺技『デストロイドクラッシュ』は小山程度軽々しく木っ端微塵に破壊できてしまうぞ!
ファイル島は既に各エリアを行くのに最適な路線が引いてあるので、路線の障害を排除するためにロコモンはグランドロコモンに進化するぞ。