気がつけばデジタルワールド!?   作:望夢

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一応キリが良かったので、デビモンと戦い始めまで進んで切りました。


第13話 決戦のムゲンマウンテン

 

 レオモンをデビモンの支配から解放した私たちは、レオモンから選ばれし子供たちの噂を聞いていた。

 

 そして、デビモンを倒せば元の世界に帰れると信じて。なにより、生きるために、デビモンを倒す決意をした。

 

「さぁ、軽めだけど飯が出来たぞー」

 

 一人だけレオモンの話の場には居なかった有音君が鍋を持ってやって来る。

 

「デビモンがいつ襲って来るかわからないのに飯だなんて、能天気だよなぁ」

 

「腹が減っては戦は出来ぬ。食事はなにより身体の活力になる。それに、デビモンは決着をつける気でいるから、今は襲って来ないよ」

 

 食事を持ってきた有音君に突っ込む太一君。でも有音君はそれを涼しげにいなしながら鍋をみんなの前に置いて、食事の必要性を説いた。

 

「何でそんなことがわかるんだ?」

 

「戦いっていうのは、前以て準備が必要なんだよ。罠に嵌めたり、敵より有利な武器や兵力を揃えたりね。戦いますハイ始めましょう何てのは下策の能無しのやることなの」

 

「でも食事している間に、敵が強くなってたりしたらどうするの?」

 

「どのみち、おれたちはデビモンの城であるムゲンマウンテンに行かなきゃならない。敵の庭に入るんだから、敵が有利で当たり前。こっちは用意出来ることは限られてる。だったら用意出来ることはちゃんとして、何かがあった時に対処できる体力と英気を養うのが大事なんだ」

 

「成る程。確かに理に叶っています」

 

 質問するヤマト君やミミちゃんに答えながら鍋の中身のスープを配って行く有音君。良いトマトの香りが食欲を掻き立てる。

 

 ミネストローネなんて久し振りに食べるかも。てかデジタルワールドでミネストローネ食べれるなんて思わなかった。

 

 そして子供たちの頭脳的位置に居る光子郎君が納得してしまえば、もう反論の声は上がらなかった。

 

「でも本当は、自分がお腹が空いて仕方がなかったからでしょ?」

 

「どの口が言うんだか」

 

 食事に夢中な子供たちから少し離れて立ちながら食べてる有音君に近寄って耳打ちすると、言い返されてしまった。いや私もお腹空いていたから助かったけど。

 

「そういえば、ちゃんとした自己紹介してなかったね。おれは桜木有音。有音で良いよ。こっちは相棒のアグモンと、旅仲間のポーンチェスモン」

 

「むぐ、ももひぐ」

 

「アグモン、口の中身を食い終わってから話せ」

 

「ヨロシク……」

 

「んぐ。ふぅ、……よろしく!」

 

 そういえばバタバタしてて自己紹介仕切れてなかったね。

 

「私は枢木芹香。高校3年の現役女子高生です! 私のパートナーはこの子、ギルモン」

 

「みんな、ギルモンと友だちになれる?」

 

「なれると良いね、ギルモン」

 

「うん!」

 

 私たちの自己紹介が終わると、ここに居ない空ちゃんと丈君以外の子たちと、デジモンから名前を教えてもらった。

 

「それにしても、あなた方のデジヴァイスは変わった形をしていましたね」

 

 ふと光子郎君がそんなことを言う。知識の塊の知りたがり君は、私たちのデジヴァイスが気になって仕方がないらしい。

 

「おれのデジヴァイスは人間が造ったデジヴァイスなんだ。デジソウルっていう特殊な力で、パートナーを進化させる力があるんだ」

 

 成る程。誤魔化すよりも、そういうことを語れば良いのか。

 

「人間が造ったって。じゃあ僕たちのも」

 

「それはわからない。ただおれの世界はデジモンが現実世界に紛れ込んで、悪さをしたり暴れたりするから、パートナーと一緒に戦えるこのデジヴァイスを造ったと聞いた」

 

 なんかそれっぽいことを話してますけど、自分が異世界人であることもスラリと言い切りましたよこの子。

 

「待ってください。その言い方だと、有音さんは僕たちとは別の世界から来た様に聞こえるのですが」

 

「デジモンが暴れまわっているのは、うちの世界じゃインターネットを探せばいくらでも出てきたからね。パソコンを持っている光子郎君なら、おれの言う意味がわかるかな?」

 

「そうですね。僕もこの世界に来て初めてデジタルモンスターと言うものを知りましたから。並行世界やら異世界から有音さんが来たと言う話しも否定できません」

 

 なんというか、煙に巻くのがうまいこと。

 

「有音さんについてはわかりましたが。芹香さんのデジヴァイスも、また別の形をしていますね」

 

 えーっと、これは私も一芝居打たないといけないパターンだよね。取り敢えずやってみよう。

 

「私はデジモンがカードゲームだとか、携帯ゲーム機のキャラクターとして子供たちの間に普及している世界から来てるんだけどね」

 

 取り敢えずテイマーズの設定から引用しよう。話を聞く限り、有音君はセイバーズ次元の人間で行く路線みたいだし。だったら私はテイマーズ次元の人間としての路線で行こう。

 

「私の世界でも、デジモンは人知れず現実世界にやって来て、それをパートナーデジモンと一緒に戦う人をテイマーって言って、パートナーデジモンが居る人はみんなこのデジヴァイスを持っているけど、何処からともなくこのデジヴァイスは出てくるから、誰が造ったのか私にもわからないの。ちなみに私のデジヴァイスは、デジタルモンスターカードを読み込むことで、そのテキストの効果を発揮する力があるんだ」

 

「わかりました。ありがとうございます。しかしそう話を聞くと、お二人は僕たちよりもデジモンとの戦闘に馴れている様に思えます。デビモンを倒す、なにか良い方法はありませんか?」

 

「良い方法って言われてもね……」

 

「おれたちのデジヴァイスには、暗黒の力をどうこう出来る力はない。どのみち、みんなが最後の希望になる」

 

 有音君の言葉に、子供たちはみんな少し重い顔になる。漸く頼れそうな相手が出来たのに、最後の希望は自分たちだと言われて、余計に自分たちの立場を意識させてしまったらしい。暗黒の力を祓うのは自分たちでなければ出来ないと。

 

「ちなみに有音君はデジモン博士だから、デジモンのことでわからないこととかあったら何でも聞いてね?」

 

「自分が答える訳じゃないのに勝手にハードル上げるなよ! 精々答えられるのはデジモンの名前と種族とレベルと簡単な生態と必殺技くらいだ」

 

「それは十分だと思うよ」

 

「ではテントモンについて教えてくれますか?」

 

「え? わてのことでっか?」

 

「デジモンも生き物だから個性もある。テントモンというデジモンの公儀的なことは話せるけど、それが君のテントモンのことでないことを頭に入れておいてね」

 

「はい。わかりました」

 

 どうやら有音君と光子郎君は波長が合うみたいね。

 

「なぁ、アグモンは有音のアグモンみたいにあの強いグレイモンには進化出来ないのか?」

 

「うーん、どうだろう?」

 

「多分無理だと思う。オイラもアニキが進化させてくれるからジオグレイモンになれるけど、オイラだけじゃグレイモンに進化するから」

 

「そういえば、はじまりの街でエレキモンと戦った時はグレイモンに進化したよね」

 

 同じアグモンだから、太一君も自分のアグモンがジオグレイモンになれるかと興味があるみたいだけど、有音君のアグモンが、太一君の疑問を否定して、それをパタモンが補足していた。

 

「成る程なぁ」

 

「太一は弱いグレイモンだと嫌だ?」

 

「そんなことをないさ。頼りにしてるぜ、アグモン」

 

「うん!」

 

 ちょっと不安そうに言う太一君のアグモンに、太一君はその不安を払う様に頭を叩いた。

 

「でも、同じデジモンが2匹はややこしいよな」

 

「オイラの方がたくましいかな?」

 

「ボクの方がスリムだもんね!」

 

 確かによく見るとわかる違いだけど、パッと見はわかり難い。

 

「ま、その変はまたあとでだ。そろそろ行かないか? デビモンだっていつまで俺たちを放っておくかわからないし」

 

「そうだな。腹も膨れたし」

 

「オイラあんなに美味しいもの食べたの初めてだよ!」

 

「私もこんな島でミネストローネが食べれるなんて思わなかったなー」

 

「ミミたちはいつもあんな美味しいものを毎日食べてるのねー」

 

 太一君が立ち上がると、ヤマト君も立ち上がる。やっぱりこの二人が子供たちのリーダーシップよね。あとガブモンとミミちゃん、パルモンが有音君の料理の感想を言っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 子供たちがレオモンの漕ぐ小舟に乗って、私と有音君のチームはグラニの背に乗ってムゲンマウンテンへの海を渡る。

 

 陸地に上がると、徒歩でムゲンマウンテンを登る。

 

「ちなみにカブテリモンは進化すると」

 

「あっ、それは聞くのを止めておきます。それは自分の目で見てからまたお話を伺います」

 

 最後尾を歩く有音君と光子郎君はムゲンマウンテンに行く海の上以外はずっと喋りっぱなしだった。

 

 お陰で光子郎君は幼年期から究極体までデジモンのランクがあることを知った。

 

 有音君が居るなら、光子郎君のパソコンにそのうち加わるデジモン図鑑みたいなやつ要らないんじゃないかな?

 

「ッ――!?」

 

「どうかしましたか? 有音さん」

 

「ぎるるる!」

 

 有音君が立ち止まって、腰の剣をいつでも抜ける様に柄に手を沿え、ギルモンがなにかを警戒しだした。

 

 ムゲンマウンテンが揺れ、その頂上が暗くなっていく。

 

 そして暗黒の力を吸収して巨大化したデビモンが現れた。

 

「な、なんだ!?」

 

「きゃああああ!! な、なにあれ!?」

 

「なんであんなに大きくなっているのよ!?」

 

「幻覚とかじゃないですか? 前みたいに」

 

「いや、あれは暗黒の力で巨大化しているのだ……!」

 

 あまりに巨大過ぎるデビモンは、もう笑うしかないくらい大きい。

 

「降りてくる……!」

 

 デビモンは山頂から私たちの居る麓の方まで降りてきた。近くになる分。その巨大さの重圧は計り知れない。

 

「アグモン、進化だ!」

 

「うん!」

 

 だがデビモンが振り向くだけで、その巨大な翼によって生まれた風圧だけでみんな山肌に押されてしまう。さらに暗黒の波動を手から放ち、みんなが進化出来ない。

 

「デビモンっ、うわあああ!!」

 

 レオモンがデビモンを攻撃しようとするが、レオモンもまた暗黒の波動を受けてしまい動けない。

 

「くぅぅぅっ、こんの程度の波動でっ!!」

 

 身体にデジソウルを纏った有音君が、暗黒の波動を抜け出して、こちらに突き出しているデビモンの腕を駆け上がって行く。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 腰から剣を抜いて、有音君はデビモンの顔に斬りかかる。

 

「また貴様か! カァッ!!」

 

「なっ!? っああああああああ!!」

 

 あろう事か。デビモンは口からも暗黒の波動を放って来た。それを直撃した有音君は真っ逆さまに落ちていく。いくら有音君でもあんな高さから落ちちゃったら――っ。

 

「有音君ーーーっ!!」

 

 私のデジヴァイスから赤い輝きが溢れて、その中から白い光が一直線に有音君のもとに向かう。

 

「っ、グラニ!?」

 

 リアライズしたグラニが有音君を背中に乗せて飛び上がる。

 

「死に損ないの煩いハエが。貴様には我が僕と遊んでいるが良い」

 

 ムゲンマウンテンの山肌が砕け、そこから両腕が機械の竜型のデジモンが飛び立つ。

 

「メ、メガドラモン!?」

 

「ギュアアアアアアアアア!!!!」

 

 メガドラモンが雄叫びを上げながら、有音君を乗せたグラニに向かう。

 

「グラニ! 上に逃げろ!!」

 

 有音君の言葉を聞いて、グラニは急上昇していく。

 

「あ、あいつ、自分だけっ」

 

「そんなこと、っ、ない!」

 

 有音君の行動に、太一君が批難するけど、私はそれを否定する。

 

 メガドラモンは完全体デジモン。今の子供たちのデジモンだと敵わない。有音君は自分をエサにメガドラモンを引き付けることにしたんだ。

 

「目障りなやつが居なくなったな。残るは貴様らだ!」

 

「《ハープンバルカン》!!」

 

「《メテオウィング》!!」

 

 イッカクモンとバードラモンの攻撃がデビモンを襲い、私たちへの攻撃が止む。

 

「みんなーーっ!! 今のうちに進化よ!!」

 

 駆け寄って来る女の子。空ちゃんの声に我を取り戻すみんなが次々に進化していく。

 

「有音君……」

 

 私はギルモンをグラウモンに進化させながら、ファイル島の暗黒の空に消えた有音君の身を心配した。

 

 

 

 

to be continued… 




デビモン
成熟期 ウィルス種

元々はエンジェモン系のデジモンが何等かの理由で堕天するとデビモンになると言われている。暗黒の力を取り込むことで強大な力を手に入れるが、同時に聖なる光の使者であるエンジェモンを恐れている節がある。伸縮自在の腕の鋭い爪で相手の身体を貫く『デスクロウ』が必殺技だ。

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