結局、パタモンとエレキモンはケンカになって、それで仲直りは出来たけど、その最中、ピリピリと殺気立っていたアグモンが、またいつぶちギレたりしないか不安だった。
もう夕方になる。昼間から寝ている有音君はまだ眠ったままだった。でも呼吸はちゃんとしているから、大丈夫だと思う。
それで、気づいたことがある。
有音君の持つ白い剣は、やっぱりオメガブレードその物で。鞘に刻まれている文字はオメガモンのグレイソードに刻まれている文字と全く同じだった。
カードと見比べたから間違いない。そして確か、オメガブレードの文字は、初期化って意味で、グレイソードの方には全削除っていう意味があったはず。
そしてデジタルワールドでは、こう言った文字がエネルギーを作っていると、アニメで光子郎君が言う場面があったはず。
この意味がわかっていれば、有音君は積極的に使うと思うけれど、パラディンソードは普通に剣としてでしか使っていない様に思える。どうして使わないのだろうか。
意味があるのか。理由があるのか。それとも何か別のものがあるのか。私にはそれはわからないけど、あとで教えてあげよ。
「ぎる……!」
「ギルモン?」
私の隣で遊び疲れて寝ていたはずのギルモンが起きて、周囲を見渡し始めた。
「ぐるるるる……ッゥエエエ!!」
ギルモンの眼が血走った目になる。
「っ、まさか!」
ギルモンが見ている方に顔を向けると、崖の上にレオモンが立っていた。
「選ばれし子どもたち……倒す!!」
レオモンが崖を降りてこっちに向かってくる!
「レオモンだ!!」
「パタモンはタケルくんを連れて逃げて!」
私はタケルくんとパタモンに逃げるよう叫びながら、有音君の頭をそっと降ろして立ち上がる。
「芹香さんたちは!?」
「私たちなら大丈夫だから」
今は私が戦わなくちゃ。今ここに居る最年長の私が!
「ギルモン!」
「ぎゅる。ギルモン、セリカまもる!」
私の声に応えて走り出すギルモン。
「カードスラッシュ――高速プラグインH!!」
「ぎるぅぅぅっ!!」
私がカードをスラッシュすると、デジヴァイスから光が放たれて、その光がギルモンを包み込むど、ロケットダッシュをしたかのように超高速でギルモンが走り出した。
「《ロックブレイカー》!!」
一瞬でレオモンの懐に入り込んだギルモンは、腕の爪をレオモンに降り下ろした。
「《獣王拳》!!」
「ぐうぅあああああああ!!」
「ギルモン!!」
だけど、ギルモンの攻撃にクロスカウンターでレオモンの攻撃が突き刺さって、ギルモンは吹き飛ばされた。
「ギルモン無茶しないで! 《ベビーフレイム》!!」
別の場所に居たアグモンが助けに来てくれた。でもアグモンの攻撃はレオモンの身体に当たっても無視されてる。
「ッ……、《ポーンバックラー》――!!」
ギルモンとは数段速い速さでレオモンの頭に盾の突撃攻撃を行うクロちゃん。
「《獅子王丸》!!」
「グッ、クゥゥゥゥッッ」
それでもレオモンはクロちゃんの速さにまで対応して、腰から抜いた剣で、クロちゃんを弾き飛ばした。
「《ファイヤーボール》!!」
「《ベビーフレイム》!!」
体勢を立て直したギルモンと、アグモンが同時攻撃を放った。
二人の攻撃は凄い爆発を起こした。
「やったか!?」
って、アグモンそれはフラグフラグ!!
「子どもたち、倒す!」
「っ、ギルモン、もう一回だ! 《ベビーフレイム》!!」
「わかった! 《ファイヤーボール》!!」
二人の攻撃は、確かにレオモンの歩みを少しだけ止められるけど、ホントに少しだけ。一歩一歩、確実に近づいてくる。
こんなに危機的な状況なのに、現れてくれないカードがある。使わせてくれないカードがある。
ギルモンが進化出来れば、レオモンにだって負けないのに。なのに超進化のカードが現れてくれない。ならブルーカードを使えば良いのに、手が動いてくれないっ。
「カードスラッシュ――キングデヴァイス!!」
他の新しいカードをスラッシュして、ギルモンの攻撃力を上げる。
「《ファイヤーボール》!!」
「《獣王拳》!!」
ギルモンとレオモンの技がぶつかり合って、大爆発を起こす。
「うわわわわわ!!」
「きゃあああ!!」
「ぎるぅぅぅっっ」
レオモンとの距離が近すぎて、爆風は私たちを吹き飛ばす。
「はっ!? 有音君!!」
爆風で吹き飛ばされたのは、私と、ギルモンと、アグモン。有音君はまだ眠ったままで、レオモンの前に。
「アニキ!! アニキ起きて!!」
アグモンが必死に有音君に呼び掛けても、反応がない。いったいどうしちゃったの!?
「選ばれし子ども…、倒す!」
レオモンの握る剣が、有音君に向かって降り下ろされた。
「やめてえええええええーーー!!!!」
◇◇◇◇◇
「ここは……」
気づいたら、おれはなにもない荒野に立って居た。
「あれは、アポカリモン!?」
暗黒の邪悪に染まる空。そこには遠くて本体は見えないが、その巨大すぎる身体は見間違えようがない。アポカリモンが浮いていた。
「それにあれは、イグドラシルか!」
デジタルワールドのすべてを司る謎のホストコンピュータ。それがデジタルワールドに干渉する為に生み出した化身が、アポカリモンによって破壊された。ってマジかよ……。
そして暗黒の力がすべてを覆っていく。
「今度はなんだ!?」
でも、闇を照らし出す様に現れた黄金の光が、暗黒の世界に一筋の光を齎した。
だが黄金の光はアポカリモンによって消滅させられてしまった。
一筋の光から現れたのは、四人の騎士。
インペリアルドラモン・パラディンモード、デュークモン・クリムゾンモード、アルファモン、オメガモンだった。
「聖なる光を……」
「っ、誰だ!?」
「集めろ……」
「聖なる光を、集める?」
聖なる光と言えば、子どもたちの持つデジヴァイスの光だけど。それを集めてなにをしろって言うんだ。
「その時、闇を照らし……光に――」
意識が遠退いていく。視界が真っ白に染まっていく。
◇◇◇◇◇
「《ファイヤーボール》!!」
「ぐぅっ」
ギルモンが放ったファイヤーボールが、レオモンの顔に直撃して後退る。
「ギルモン!」
「セリカ、かなしくさせるレオモン、ギルモンゆるさない! レオモンとめてみせる!!」
ギルモンの叫びに同調する様に、私のデジヴァイスが脈動する。
「ギルモン、お願い!!」
私は心の底から願った。有音君を守りたい。レオモンを止めたい。そして、守られてばかりじゃなくて、私も戦いたい。
でも、私は有音君みたいに自分で戦うことは出来ない。だから、私の代わりに戦ってくれるギルモンと、せめて心は一緒に戦いたい――!!
くるくると光輝きながら回るデジタルモンスターカードを右手の人差し指と中指で掴む。
「カードスラッシュ!!」
力強い波動を感じるカード。無限の可能性を感じるカード。私の待ち望んだカード。それを力強くスラッシュする!
「超進化プラグインS!!」
EVOLUTION_
デジヴァイスから放たれる強烈な光。それは私も何度か見た光とは違う。デジタルコードがギルモンを包み込んで、光のデジタマを作る。そう――今やっと私たちは。
「ギルモン進化――グラウモン!!」
デジタルコードのデジタマを爆発させて現れたのは、ギルモンが進化した成熟期デジモン――グラウモンだ!
「いっけぇ! グラウモーーン!!」
「グゥゥルアアアーーー!!」
雄叫びを上げながら、グラウモンはレオモンに体当たりをして、有音君からレオモンを遠ざける。
「アルト!」
グラウモンは有音君を掬い上げると、私のもとに戻って有音君を預けて、レオモンに向き直る。
「レオモン強い。だけどセリカとアルトを守るグラウモン、もっと強い!!」
グラウモンがレオモンに向かって走り出す。レオモンは拳を腰溜めに構えていた。そんな予備動作は見え見えなのよ!
「カードスラッシュ――攻撃プラグインA!!」
私がスラッシュしたカードは、どんな状態でも決まった技を実行させるカード。
「《エキゾーストフレイム》!!」
グラウモンは立ち止まると同時に、口から爆音と一緒に強力な火炎を吐き出した。
「《獣王拳》!!」
グラウモンとレオモンの攻撃が衝突して、同じ成熟期同士だからか、さっきよりもすさまじい爆風が襲ってくる。
今度は飛ばされない様に、有音君を確りと抱き締めながら耐え抜く。
「《獅子王丸》!!」
「カードスラッシュ――高速プラグインB!!」
「《プラズマブレイド》!!」
レオモンの振るった剣と、グラウモンの腕の肘にあるブレイドがプラズマを帯びて切り結ぶ。
「そのままいっちゃえええ!!」
「グルアアアアア!!」
「ぐうぅ!」
私の声に応える様に、グラウモンがレオモンを圧し始める。
伝わってくる。グラウモンの気持ち。やっと進化出来た嬉しさ。私や有音君を守ろうと、必死で戦っている。
そう。これが、デジモンテイマーのあるべき姿。デジモンと心を通わせて、一緒に戦うのがテイマーなのだから。
「やあああああああ!!!!」
「ゥゥアアアアアッ!!!!」
私の雄叫びと、グラウモンの雄叫びが合わさって、レオモンの力を上回った。
レオモンの剣を弾き飛ばし、グラウモンのブレイドがレオモンを弾き飛ばしだ。
「ぐあああっ」
崖に激突して倒れ伏すレオモン。
「やった……やれた……出来たよ、有音君!」
レオモンを退けたことで嬉しさが込み上げてきて、思いっきり抱き締めてしまった。
「…………モーニングコールとしては嬉しさ半分、首が折れそうに痛いよ、芹香」
「……おはよう、有音君!」
有音君が眠っている間、私たちとても頑張ったから、ちょっとくらい甘えさせてください。
「アルト、大丈夫?」
私が有音君を抱き締めたままでいると、グラウモンも私たちの方にやって来る。グラウモンも、有音君が心配だったんだよね。
「グラウモン……。そっか、進化出来たんだ。いづっ!」
「あ、ごめん」
「いや、首じゃない」
有音君が痛がったから腕の力を抜くと、スルリと猫みたいに抜け出して、腕を捲った。エレキモンの電撃を受けただろう左腕の下腕が酷い火傷を負っていた。
「待って。私がやるから」
自分で薬を塗って治療しようとする有音君から薬を引ったくって、私が治療をする。
「アニキ大丈夫?」
「掠り傷さ。大丈夫だよ」
傷を心配するアグモンを、柔らかい声で安心させる様に言う有音君。
「メンモク、ナイ……」
「仕方がないさ。相手が相手だ。おれの代わりに戦ってくれて、ありがとう、クロ」
落ち込むクロちゃんを元気づける様に有音君は少し明るく礼を言った。
でも、まだ終わっていない。
「レオモンが…!」
グラウモンの声を受けて、私たちはレオモンを見る。傷ついて少しはダメージがあると思いたいけど、普通に立ち上がっていた。
「見かけ通りにタフだな」
「歩く死亡フラグの代名詞なのに。敵の時に強くて、味方になると弱くなるタイプってキライ!」
「言うなよ。聞いてて悲しくなるから」
でもやっぱりダメージはあるのか、レオモンは動かない。
「おーい! 芹香さーん!」
「タケルくん!?」
タケルくんの声が聞こえて慌ててそちらを向くと、ガルルモンの姿が見えてきた。
「応援を連れてきたよ!」
ガルルモンから降りてきたタケルくんが、私たちに駆け寄ってくる。
「ありがとう、タケルくん。助かるわ」
「エヘヘ。あ、おはよう、有音さん」
「ああ。おはよう、タケルくん」
私たちが軽めの再会をしていると、こちらに駆け寄る子どもが目に入る。
「あなたたちが、タケルとパタモンを助けてくれた人間たちか」
「一応はそうなるのかな? 小学2年生なのに礼儀正しくてビックリしちゃった」
「おれは有音。そっちは芹香。相棒のアグモン、芹香のはグラウモン。ポーンチェスモンは旅の仲間だ」
有音君がレオモンを睨み付けながら、言葉だけをタケルくんのお兄ちゃん、ヤマト君に手短に私たちを紹介した。
「オレは石田ヤマトだ。相棒はガブモン。今は進化してガルルモンになってるけど。それにしても、太一と同じアグモンがパートナーだなんて。並んだらややこしくなりそうだな」
そう言えばそうだった。私たちにとってはアグモンは有音君のアグモンだけだったから良かったけど、太一君もパートナーはアグモンなんだよね。なにか見分けがつく様に考えないと。
シャリンと、鉄同士を擦る音が聞こえる。見れば有音君が剣を抜いていた。
「有音君、戦う気なの!?」
「痛みは引いてる。戦えるさ」
「ダメだって! 今は休んでいても――」
「それじゃあおれが自分を赦せない」
集中していく有音君は返事を手短に済ませながら、グラウモンの隣に立つ。
「アイツ、まさかデジモンと戦うつもりなのか!?」
有音君の行動を見て、驚きと戸惑いの声を出すヤマト君。うん。普通は誰だってそう思うよね。人間がデジモンと戦えるわけがない。デジモンはとてもではないが、私たち人間がどうこうしても勝てる相手じゃない。
でもね、有音君は特別なの。有音君だけは、デジモンとだって戦えるの。
「アルト、グラウモン戦うから休んで」
「ありがと、グラウモン。でももう大丈夫だよ」
グラウモンも有音君を心配して休むように言うけど、優しく返事を返して剣を構えていた。
「ッ、あれは…!」
「黒い歯車だ!」
ムゲンマウンテンから複数の黒い歯車が飛んできて、レオモンの身体に入っていく。レオモンの身体は暗黒の力で一回り大きくなって、肌も黒くなっていく。
「《獣王拳》!!」
「ぐぎゅるっ、うわあああああ!!」
「グラウモーーン!!」
暗黒の力でパワーアップしたレオモンの攻撃を受け止めようとしたグラウモンは、そのパワーに圧し負けて吹き飛ばされてしまった。
「《獣王拳》!!」
「《フォックスファイヤー》!!」
今度はガルルモンに攻撃するレオモン。ガルルモンは必殺技で迎え撃つも、暗黒の獣王拳はガルルモンの攻撃に意図も簡単に打ち勝って、ガルルモンも吹き飛ばされてしまう。
「ガルルモン!」
「レオモンって、こんなに強かったんだ……」
「それもあるけど、黒い歯車の力でパワーアップしているんだ…!」
圧倒的な力の前に傷ついたパートナーの名を叫ぶヤマト君と、その力に怯えるタケルくんに、パタモンがその力の出所を語る。
「ッ……ハッ!!」
レオモンに向かって駆け出す有音君。身体を低くして空気抵抗を減らして、クロちゃんみたいなスピードでレオモンとの距離を一気に詰めていく。
「速い……! まるでマラソン選手並みじゃないか」
レオモンの懐に入ると、有音君を殴ろうと拳を打ち付けるレオモン。でも有音君はそれをジャンプして避けると、地面に打ち付けられたレオモンの腕を伝って駆け上がって行く。
「せやあああああっ!!」
レオモンの肩で再度ジャンプして、剣を担ぎ上げて、重力の落下を味方に剣を降り下ろす。
「クッ、かったっっ」
でもレオモンは有音君の一撃を腕だけで防いでしまった。
攻撃が通用しないと見切りをつけて、有音君はレオモンの腕を蹴ってサマーソルトで宙返りして着地すると、バックステップを踏んでレオモンとの距離を開けた。
「本当にレオモンと戦い始めちまった……」
「有音さん、アニメに出てくる騎士さんみたい」
今までパートナーに戦っていて貰っていたヤマト君は信じられないと言った様に言葉を漏らした。タケルくんはどこか私に似た視線を有音君に向けていた。うん、有音君、カッコいいよね。無茶して心配になるけど。
「オイラが進化出来れば、アニキを助けられるのに…!」
そう言えば、ジオグレイモンに進化する時はデジソウルを使っていたけど、エレキモンの時は普通のグレイモンに進化していた。あれはいったいどうして。
「獣王――」
「くっ!」
レオモンが拳を腰溜めに構える。それを有音君は真正面から受け止めようとしている。 でもどうして――後ろには私たちは誰も居ないのに。
後ろ――はじまりの街…!
「有音君!!」
本当に有音君って、バカ真正面過ぎるよ!
「拳――!!」
「アニキぃーーー!!」
「カード――」
「《メガフレイム》!!」
レオモンが獣王拳を放とうとしたところで、横槍が入る。メガフレイムの直撃を受けたレオモンは後退る。
「グレイモン。太一か!?」
「待たせたな、ヤマト!」
はじまりの街の方からグレイモンと、太一君がやって来た。
「オーガモンの方は良いのか!?」
「そっちは光子郎とミミちゃんに代わって貰った。レオモンは俺たちに任せろ! グレイモン行け!」
「《メガフレイム》!!」
「《獣王拳》!!」
「マズい、避けろグレイモン!!」
グレイモンのメガフレイムと、レオモンの獣王拳がぶつかるのを見たヤマト君が、グレイモンに向かって叫んだ。自分のガルルモンも、同じ様に迎え撃ってやられたからだ。
「ぐあああっ」
「グレイモン!」
ガルルモンよりも攻撃が弱くなっていたのか、メガフレイムとの競り合いに勝った獣王拳がグレイモンに突き刺さるも、グレイモンは膝を着く程度で済んでいた。それでも直ぐに立ち上がれないくらいにダメージは重い様だ。
『選ばれし子供たちならば、いつでも始末出来る。今は最も小さき子どもを』
「デビモンの声!?」
「最も小さき子ども……。はっ、タケル逃げろ!!」
虚空から聞こえたデビモンの声に、太一君は辺りを見回してデビモンを探し、ヤマト君はデビモンの狙いがわかるとタケルくんに向かって叫ぶ。
「お兄ちゃん!!」
「《エアーショット》!!」
恐さで足が動かないタケルくんを守る為に、パタモンがレオモンを攻撃するけど、全く意に介さずタケルくんに近づいていく。
「やらせるかっ!!」
タケルくんに向かって走り出す有音君。でも有音君の足でも間に合うか。
「グルゥゥアアアアア!!」
そんな有音君の横を駆け抜けていく赤い影――グラウモンがレオモンの前に躍り出て組ついた。
「タケル、グラウモンの友だち! だからっ、守る!」
「グラウモン……」
自分を守ってくれるグラウモンを見て、声を出すしか出来ないタケルくんの目には涙が浮かんでいた。
「《獣王拳》!!」
「ぐああああああーーーっ!!」
グラウモンの無防備な懐に、アッパーカットの獣王拳が突き刺さり、グラウモンの巨体が宙を舞う。
「セリ、カ、タ、ケル……ごめん」
グラウモンから退化して落ちてくるギルモンは意識をなくしていた。あのままじゃ大ケガをしちゃう!
「ギルモーーン!!」
私が動いても間に合わない。身体がギルモンを助けに動くけど、私の足じゃどう頑張っても間に合わないッ。
「ギルモーーンッ!!」
レオモンの背中を蹴って、空高く舞い上がったギルモンを受け止めたのはアグモンだった。
アグモンはそのままタケルくんの前に着地すると、ギルモンを降ろして、レオモンに向き直る。
「オイラ、弱虫で、勇気もないけど。タケルもギルモンも、オイラの友だちだから」
アグモンの言葉に合わせて、その身体が光に包まれていく。
「こんなオイラだって、友だちを助ける為に、戦いたいんだーーっ!!」
光が最高に高まって化するのかと思えば、その光は収まって行き、アグモンの身体から収束した光が有音君に向かって打ち出される。
「アニキぃーーー!! オイラを進化させてくれえええ!!」
アグモンの叫びと一緒に、有音君の身体に光が当たった。
「ああ!! お前の気持ち、確かに受け取った!!」
有音君の身体を包む光が、右手の一極に集中する。
有音君はデジヴァイスを左手に持ち、光の宿る右手をデジヴァイスに添えた。
「デジソウル――チャージ!!」
デジソウルが込められたデジヴァイスをアグモンに向かって突き出す有音君。
「アグモン進化――ジオグレイモン!!」
デジヴァイスから放たれた光に身を包まれてアグモンがジオグレイモンに進化した。
「アグモンが、別のグレイモンに進化した!?」
太一君がジオグレイモンを見て驚いている。
子供たちのデジモンは決められた進化するから、進化の先が固定概念になるのかもしれない。アグモンはグレイモンに進化するって。
でもデジモンも生き物だから、ひとつだけの進化じゃない。生き物と同じ様に、多種多岐に進化する。
「行けぇぇぇっ、ジオグレイモーーン!!」
「うおおおおおおお!!!!」
雄叫びを上げながら、ジオグレイモンはレオモンに組み付いて押し出していく。
「レオモンは操られてるだけだ! どうにかして動きを封じろ!」
「やってみる!」
レオモンから離れて睨み合う両者。先に動いたのはレオモンだった。
「《獣王拳》!!」
「《メガバースト》!!」
レオモンの攻撃と真正面から撃ち合うジオグレイモン。
誰もが同じ光景を3度見ることになるのかと思っている。でも有音君の顔は笑っている。ジオグレイモンが負けるなんて全く考えていない顔だ。
大爆発を起こして、ジオグレイモンはレオモンの攻撃と互角に渡り合っている。
「突っ込め、ジオグレイモン!!」
「《ホーンインパルス》!!」
爆煙を抜けてレオモンの懐に飛び込むジオグレイモン。
「ぐおおおおお!!」
ジオグレイモンの頭突きがレオモンを崖に打ち付ける。
倒れるレオモンを、ジオグレイモンが後ろから羽交い締めにする。
「オレじゃあレオモンの中の暗黒の力はどうにも出来ない。どうするアニキ?」
「それは――」
「太一さーん!!」
多分有音君がデジヴァイスでレオモンを操る邪悪な力を祓う様に言う気配だったけど、カブテリモンに乗ってやって来た光子郎君が、太一君にデジヴァイスのことを伝えていた。
「そうか! こういうことか!!」
太一君がレオモンにデジヴァイスを掲げると、デジヴァイスの光に、レオモンが苦しみ出す。
「ヤマト、手伝ってくれ!!」
「そうか!コイツの力でレオモンをもとに戻せるのか!」
デジヴァイスを手にヤマト君も駆け寄って、レオモンに聖なる光を当てる。
レオモンの身体からいくつもの黒い歯車が抜けて行く。
黒い歯車が消滅し、暗黒の力は浄化された。
「やった……」
レオモンを元に戻せた安堵に息を漏らしながら、私はギルモンのもとに駆け寄った。
「ギルモン!」
「ぅぅ…、セリカごめん。ギルモン、セリカもタケルもまもれなかった」
「良いんだよギルモン。頑張ってくれたんだから」
「ありがとうギルモン」
「エヘ、へへへへ」
頑張ってくれたギルモンに、私は労いの言葉を掛けて、タケルくんがお礼を言うと、ギルモンはうれしそうに笑った。
to be continued…
グラウモン
成熟期 ウィルス種
ギルモンが進化した恐竜型に見えるが、デジモン界の四大竜に進化する可能性を秘めている魔竜型のデジモンである。本来ならば凶暴で野性的なデジモンで従わせるのは難しいのだが、強いギルモンの想いがその野性性と凶暴性をコントロールしている。必殺技は爆音と共に強力な火炎を吐き出す『エキゾーストフレイム』。